説明

ビフェニル類の連続製造方法

【課題】 パラジウムを含んだ触媒を用い、分子状酸素の存在下高温で、芳香族化合物を酸化二量化反応させてビフェニル類を連続して効率よく製造する改良された連続製造方法を提案すること。
【解決手段】 2つ以上の反応区域を有する反応装置を用い、第1の反応区域へ、芳香族化合物と、触媒成分とを連続的または断続的に供給し、第1の反応区域の反応混合液の一部を連続的または断続的に取出して第2の反応区域へ供給し、さらに第3の反応区域以降の反応区域がある場合は、前の反応区域から反応混合液の一部を取出して次の反応区域へ供給し、最後の反応区域から反応混合液の一部を連続的または断続的に取出しながら、各反応区域で分子状酸素の存在下に前記芳香族化合物の酸化二量化反応を行ってビフェニル類を連続して製造する製造方法において、第2の反応区域以降の反応区域に、塩基性二座配位子化合物を含む触媒成分を連続的または断続的に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属であるパラジウムを含んだ触媒を用い、分子状酸素の存在下高温で、芳香族化合物を酸化二量化反応させてビフェニル類を連続して効率よく製造する改良された製造方法に関する。特に、フタル酸ジエステルを酸化二量化反応させて3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステル(以下、s−BPTTと略記することもある)のような対称置換ビフェニル類を選択的に且つ効率よく製造する改良された製造方法に関する。3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルは芳香族ポリイミドのモノマー成分の前駆体として好適に利用される。
【背景技術】
【0002】
例えばフタル酸ジエステルを、貴金属であるパラジウムを含んだ触媒を用い、分子状酸素の存在下高温で酸化二量化反応させてビフェニルテトラカルボン酸テトラエステル類を製造する方法については既にいくつかの例が知られている。
【0003】
特に、特許文献1には、フタル酸ジエステルからビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを連続操作により製造する製造方法、すなわち、反応装置へフタル酸ジエステルとパラジウム化合物を含む触媒とを均一に攪拌した混合物として連続的または断続的に供給する工程と、前記反応装置に分子状酸素を供給しながらフタル酸ジエステルの酸化二量化反応を140℃以上且つ250℃未満の温度範囲でおこなう工程と、前記反応装置から反応混合液の一部を連続的または断続的に取出す工程とを、同時並行でおこなうことを特徴とするビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法が開示されている。ここでs−BPTTの生成に関し[生成物(モル数)/触媒パラジウム(モル数)]で表される、触媒回転数(以下、TONと略記することもある)に着目すると、この方法におけるパラジウムのTONは、見かけの反応時間である滞留時間20時間の反応においてTONが158であり、パラジウムの利用効率は十分とは云えず、高価な貴金属であるパラジウムの利用効率について改良の余地があった。
【0004】
なお、特許文献1では、触媒成分(特に塩基性二座配位子化合物)は第1の反応器(反応区域)のみに導入されており、第2の反応器(反応区域)以降に対して触媒成分を補充することに関して記載はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−131470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、貴金属であるパラジウムを含んだ触媒を用い、分子状酸素の存在下高温で、芳香族化合物を酸化二量化(カップリング)反応させてビフェニル類を連続して効率よく製造する改良された製造方法、特にフタル酸ジエステルを酸化二量化反応させて3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルのような対称置換ビフェニル類を選択的に且つ連続的に製造する改良された方法であって、簡便な装置、簡単な操作、及び高い生産性をもって実施することができ、特に触媒効率(触媒回転数)が改良された極めて経済的な連続製造方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、次の各項の発明に関する。
〔1〕 2つ以上の反応区域を有する反応装置を用い、第1の反応区域へ、下記化学式(1)で示される芳香族化合物と、少なくともパラジウム化合物、銅塩、及び塩基性二座配位子化合物からなる触媒成分とを連続的または断続的に供給し、第1の反応区域の反応混合液の一部を連続的または断続的に取出して第2の反応区域へ供給し、さらに第3の反応区域以降の反応区域がある場合は、前の反応区域から反応混合液の一部を取出して次の反応区域へ供給し、最後の反応区域から反応混合液の一部を連続的または断続的に取出しながら、各反応区域で分子状酸素の存在下に前記芳香族化合物の酸化二量化反応を行ってビフェニル類を連続して製造する製造方法において、
第2の反応区域以降の少なくとも1つの反応区域に、塩基性二座配位子化合物を含む触媒成分を連続的または断続的に供給することを特徴とするビフェニル類の連続製造方法。
【0008】
【化1】

(ここで、Rは置換基であり、mは0〜4の整数である。)
【0009】
〔2〕 第2の反応区域以降の反応区域において、塩基性二座配位子化合物を、単位時間当たり当該反応区域へ供給されるパラジウム化合物に対して、単位時間当たり[当該反応区域の反応混合液の滞留時間]×[0.01〜1.0]倍モルの範囲内の割合で供給することを特徴とする前項1に記載のビフェニル類の連続製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、貴金属であるパラジウムを含んだ触媒を用い、分子状酸素の存在下高温で、芳香族化合物を酸化二量化反応させてビフェニル類を連続して効率よく製造する改良された製造方法、特にフタル酸ジエステルを酸化二量化反応させて3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルのような対称置換ビフェニル類を選択的に且つ連続的に製造する改良された方法であって、簡便な装置、簡単な操作、及び高い生産性をもって実施することができ、特に触媒効率(触媒回転数)が改良された極めて経済的な連続製造方法を提案することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明で使用する反応装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明で使用する反応装置の他の一例を示す概略図である。
【図3】本発明で使用する反応装置の他の一例を示す概略図である。
【図4】本発明で使用する反応装置の他の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の製造方法は、2つ以上の反応区域を有する反応装置を用い、第1の反応区域へ、前記化学式(1)で示される芳香族化合物と、少なくともパラジウム化合物、銅塩、及び塩基性二座配位子化合物からなる触媒成分とを連続的または断続的に供給し、第1の反応区域の反応混合液の一部を連続的または断続的に取出して第2の反応区域へ供給し、さらに第3の反応区域以降の反応区域がある場合は、前の反応区域から反応混合液の一部を取出して次の反応区域へ供給し、最後の反応区域(すなわち、例えば反応区域が2つの場合は第2の反応区域であり、反応区域が3つの場合は第3の反応区域である。)から反応混合液の一部を連続的または断続的に取り出しながら、各反応区域で分子状酸素の存在下に前記芳香族化合物の酸化二量化反応を行ってビフェニル類を連続して製造する製造方法において、第2の反応区域以降の少なくとも1つの反応区域に、塩基性二座配位子化合物を含む触媒成分を連続的または断続的に供給することを特徴とするビフェニル類の連続製造方法である。
【0013】
本発明の製造方法に使用される反応原料は、前記化学式(1)で示される芳香族化合物であり、具体的にはベンゼン又はベンゼン誘導体である。
化学式(1)のRで示された置換基としては、アルキル基(特に炭素数1〜5のアルキル基)、アルコキシ基(特に炭素数1〜5のアルコキシ基)、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基(特に炭素数1〜5のアルコキシカルボニル基)、アリールオキシカルボニル基、アルカノイルオキシ基(特に炭素数1〜5のアルカノイルオキシ基)などを好適に挙げることができる。これらの置換基は置換基が有する水素がアセチル基又はハロゲン基などで置換されていても構わない。更に、化学式(1)のRで示された置換基としては、ニトロ基、ハロゲン基などを挙げることができる。
【0014】
化学式(1)で示される芳香族化合物の具体例としては、例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、オルトキシレン、メタキシレン、パラキシレン、アニソール、安息香酸メチル、安息香酸ブチル、トルイル酸メチル、アセチルベンゼン、2,6−ジメチルベンジルアセテート、キシリレンジアセテート、ニトロベンゼン、オルトクロルメチルベンゼン、クロルベンゼン、フッ化ベンゼン、オルトクロルトルエン、トリフルオロメチルベンゼン、フタル酸ジエステル、イソフタル酸ジエステル、テレフタル酸ジエステルなどを挙げることができる。
【0015】
本発明において、化学式(1)で示される芳香族化合物が、下記化学式(2)で示されるフタル酸ジエステルであることが好適である。
【0016】
【化2】

(ここで、Rは、それぞれ独立に、アルキル基好ましくは炭素数が1〜5のアルキル基、又はアリール基であり、それらは置換基を持っていてもよい。)
フタル酸ジエステルの具体例としては、フタル酸ジメチルエステル、フタル酸ジエチルエステル、フタル酸ジプロピルエステル、フタル酸ジブチルエステル、フタル酸ジオクチルエステル、フタル酸ジフェニルエステルなどを好適に挙げることができる。これらのフタル酸ジエステルは、フタル酸、フタル酸無水物、フタル酸ハロゲン化物などと、水酸基を有する化合物、例えば低級脂肪族アルコール、芳香族アルコール、フェノール類などとを反応して容易に得ることができる。
【0017】
本発明で使用するパラジウム化合物としては、例えば塩化パラジウム、臭化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、水酸化パラジウム、酢酸パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジウム、プロピオン酸パラジウム、ピバル酸パラジウム、トリフルオロメタンスルホン酸パラジウム、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム、及びビス(1,1,1−5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトナト)パラジウムなどを具体例として挙げることができる。特に、酢酸パラジウム、プロピオン酸パラジウム、ピバル酸パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジウム、水酸化パラジウム、及び硝酸パラジウムは、高い触媒活性を示すので好適である。
【0018】
第1の反応区域へ供給するパラジウム化合物の使用量は、限定するものではないが、反応原料の芳香族化合物に対して、1×10−5〜1×10−2倍モル、好ましくは5×10−5〜5×10−4倍モル、より好ましくは8×10−5〜3×10−4倍モル、更に好ましくは1×10−4〜2×10−4倍モルである。本規定の範囲より多くパラジウムを使用すると、TON向上効果が十分でなくなることがある。一方、本規定の範囲より少ないパラジウムを使用すると、収率が低くなり、実用的でなくなることがある。
【0019】
本発明で使用する銅塩としては、例えば酢酸銅、プロピオン酸銅、ノルマルブチル酸銅、2−メチルプロピオン酸銅、ピバル酸銅、乳酸銅、酪酸銅、安息香酸銅、トリフルオロ酢酸銅、ビス(アセチルアセトナト)銅、ビス(1,1,1−5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトナト)銅、塩化銅、臭化銅、沃化銅、硝酸銅、亜硝酸銅、硫酸銅、リン酸銅、酸化銅、水酸化銅、トリフルオロメタンスルホン酸銅、パラトルエンスルホン酸銅、及びシアン化銅等を好適に挙げることができる。特に、酢酸銅、プロピオン酸銅、ノルマルブチル酸銅、ピバル酸銅、及びビス(アセチルアセトナト)銅は、酸化二量化反応を促進する効果が高いので好適である。これらの銅塩は、無水物でも水和物でも、好適に用いることができる。
【0020】
第1の反応区域へ供給する銅塩の使用量は、限定するものではないが、前記パラジウム化合物に対して0.01〜10倍モルを用いることが好ましく、特にパラジウム塩に対して0.1〜2.0倍モルを用いることが好適である。銅塩の使用量がパラジウム塩に対して0.01倍モル未満では酸化カップリング反応を常圧雰囲気下又は常圧に近い低圧雰囲気下でおこなうことができなくなり、パラジウム塩に対して10倍モルを超えると経済的に不利になる。
【0021】
本発明で使用する塩基性二座配位子化合物としては、パラジウムと二座で配位することができる二座配位子化合物が好ましく、2個の窒素原子によりパラジウム塩と錯体形成することができる二座配位子化合物がより好ましい。
【0022】
2個の窒素原子によりパラジウム化合物と錯体形成することができる塩基性二座配位子化合物としては、例えば、下記化学式(3)で示される二座配位子化合物を好適に用いることができる。
【0023】
【化3】

(ここで、Rは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、アミノ基、アルキル基、アルコキシ基、又はアリール基である。アルキル基、アルコキシ基、及びアリール基は置換基を有することもできる。)
【0024】
化学式(3)で示される塩基性二座配位子化合物の具体例としては、1,10−フェナントロリンを好適に挙げることができる。1,10−フェナントロリンは酸化カップリング反応を促進する効果が高く、且つパラジウム塩に配位したときのフタル酸ジエステルなどの芳香族化合物への溶解性が高いので特に好適である。
【0025】
これらの塩基性二座配位子化合物を用いると、置換基が対称に配置した対称性カップリング生成物を選択的に得ることが可能になる。具体的には、反応原料がフタル酸ジエステルの場合には、非対称カップリング生成物である2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの生成を抑制し、対称カップリング生成物である3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを選択的に主たる生成物として生成することができる。
【0026】
第1の反応区域へ供給する塩基性二座配位子化合物の量は、第1の反応区域での反応混合液の滞留時間などによって影響を受けるので、特に限定するものではないが、概ね第1の反応区域へ供給するパラジウム化合物に対して等モル量程度或いは等モル量以上使用するのが好適である。なお、塩基性二座配位子化合物の使用量が多すぎると、酸化二量化反応を阻害する場合がある。通常は、前記パラジウム化合物に対して0.9〜10.0倍モル、好ましくは1.0〜5倍モル、より好ましくは1.1〜3倍モル程度が好適である。
【0027】
本発明の製造方法においては、反応原料の芳香族化合物と、パラジウム化合物、銅塩、塩基性二座配位子化合物とからなる触媒成分とを、第1の反応区域へ連続的または断続的に供給し、第1の反応区域の反応混合液の一部を連続的または断続的に取出して第2の反応区域へ供給し、さらに第3の反応区域以降の反応区域がある場合は、前の反応区域から反応混合液の一部を取出して次の反応区域へ供給し、最後の反応区域から反応混合液の一部を連続的または断続的に取出す。
ここで「連続的または断続的に供給する」とは、連続供給または所定間隔の供給停止期間を挟んだ断続供給を意味する。そして、本発明においては、連続供給(供給停止期間が0分)から供給停止期間が2時間未満好ましくは1時間未満より好ましくは30分間未満の断続供給であることが好ましい。
【0028】
本発明においては、第2の反応区域以降の少なくとも1つの反応区域、好ましくは第2の反応区域以降のすべての各反応区域に、少なくとも塩基性二座配位子化合物を含む触媒成分を連続的または断続的に供給することを特徴とする。
特に、第2の反応区域以降のすべての各反応区域に塩基性二座配位子化合物を含む触媒成分を連続的または断続的に供給することで、全ての各反応区域において個別にパラジウム化合物に対する塩基性二座配位子化合物の割合を好ましい範囲内に調整することができ、その結果、触媒効率(触媒回転数)や選択性を高く保持することができるので好適である。
すなわち、第2の反応区域以降の反応区域に供給する塩基性二座配位子の供給量は、前の反応区域から供給される反応混合液中のパラジウム化合物の量や、ここでパラジウム化合物が追加される場合は追加されるパラジウム化合物の量や、この反応区域における反応混合液の平均滞留時間などによって影響を受けるので、その状況に対応して、各反応区域で、単位時間当たり当該反応区域へ供給される全パラジウム化合物に対して、単位時間当たり[当該反応区域の反応混合液の滞留時間]×[0.01〜1.0]倍モルの範囲内、好ましくは[当該反応区域の反応混合液の滞留時間]×[0.02〜0.5]倍モルの範囲内、より好ましくは[当該反応区域の反応混合液の滞留時間]×[0.04〜0.2]倍モルの範囲内の割合とするのが特に好適である。
なお、第2の反応区域以降の反応区域に供給する触媒成分は、少なくとも塩基性二座配位子化合物を含むものであり、塩基性二座配位子化合物単独であってもよいし、パラジウム化合物や銅塩などの他の触媒成分とともに供給しても構わない。さらに、反応原料の芳香族化合物とともに供給しても構わない。
【0029】
第2の反応区域以降の反応区域に供給する塩基性二座配位子化合物が上記範囲より少ない場合、或いは全く追加供給しない場合、当該反応区域の塩基性二座配位子の濃度が十分でなくなり、触媒が失活したり、パラジウム化合物が析出して反応槽へ堆積したりする場合がある。この状態で長時間反応を行うと、おそらく反応槽内部の堆積物などが反応を阻害するため徐々に反応効率が低下し、最終的に当該反応区域で殆ど反応が進行しなくなる場合がある。第2の反応区域以降のすべての各反応区域に塩基性二座配位子化合物を含む触媒成分を連続的または断続的に供給することで、触媒が失活したり、パラジウム化合物が析出して反応槽へ堆積したりするのを好適に抑制することができ、高い反応収率で長時間連続して製造することが可能になる。
【0030】
ここで、滞留時間とは、反応混合液が反応区域に滞留する平均的な時間を表す。具体的には、本発明の酸化二量化反応による連続的な製造方法において、各反応区域に滞留する反応混合液の平均的な容積を、単位時間当たりに該反応区域を流通する反応混合液の容積の平均的な値で除することによって算出できる。反応区域が複数あって、それぞれで酸化二量化反応がなされる場合には、反応区域ごとに決定される。
【0031】
本発明の製造方法では、反応溶媒を用いても構わないが、反応原料が反応条件下で液体のときは用いなくても構わない。工業的には実質的に反応溶媒を用いないで反応することが好ましい。反応溶媒を用いる場合は、限定されるものではないが、例えばエチレングリコールジアセテート、アジピン酸ジメチルなどの有機エステル化合物、n-ブチルメチルケトン、メチルエチルケトン、イソプロピルエチルケトンなどのケトン化合物などを好適に挙げることができる。
【0032】
本発明の製造方法では、各反応区域に、分子状酸素が供給され酸化二量化反応が行われる。分子状酸素は、純酸素ガスでもよいが、爆発の危険性を考慮すると、窒素ガスや炭酸ガスなどの不活性ガスで酸素含有量が約5体積%〜50体積%程度まで希釈された酸素含有混合ガス、或いは空気を用いることが好ましい。また、例えば空気を用いる場合には、反応液1000ミリリットル当たり約1〜20000ミリリットル/分、特に10〜10000ミリリットル/分の供給速度で、反応混合液中に均一に行き渡るように供給することが好ましい。具体的な供給方法としては、例えば、反応混合液の液面に沿って分子状酸素含有ガスを流通させて気液接触させる方法、反応混合液の上部に設けられたノズルから前記ガスを噴出させて吹き込む方法、反応混合液の底部に設けられたノズルから前記ガスを気泡状で供給しその気泡を反応混合液中に流動させて気液接触させる方法、反応混合液の底部に設けられた多孔板から前記ガスを気泡状で供給する方法、或は導管内に反応混合液を流動させその反応混合液に導管の側部から前記ガスを気泡状に噴出させる方法などを好適に挙げることができる。
【0033】
本発明の製造方法の反応圧力は特に制限はなく、触媒や分子状酸素、塩基性二座配位子化合物が規定の濃度範囲で反応系内に滞留できれば、減圧、常圧、加圧のいずれの条件でも差し支えない。通常は、設備や操作が簡便になるため常圧が好ましい。
【0034】
本発明の製造方法における酸化二量化反応の反応温度は140〜250℃で行うことができるが、特に経済的な反応を行うためには、好ましくは200〜250℃、より好ましくは220℃を越え250℃未満の温度で行うことが好適である。また、反応時間、即ち原料混合液の反応区域全体への滞留時間(各反応区域の滞留時間の合計値)は、限定はなく適宜決定されれば良いが、通常は1〜50時間、好ましくは2〜30時間、より好ましくは5〜20時間程度である。
【0035】
本発明において、各反応区域における反応温度は、同一であっても良く、また異なってもかまわない。特に、各反応区域の反応温度が140℃以上且つ250℃ 未満の温度範囲であって、(n+1)番目の反応区域の反応温度がn番目の反応区域の反応温度よりも高いことが好適である。(ここで、nは1以上の整数である。)
【0036】
本発明において、連続操作によって酸化二量化反応を行わせることができれば、反応原料の芳香族化合物や触媒成分を、各反応区域へ連続的または断続的に供給する方法は特に限定されない。具体的には、触媒成分であるパラジウム化合物、銅塩をフタル酸ジエステルで均一なスラリー状にして供給してもよく、あるいは反応原料の芳香族化合物をポンプなどで供給し、触媒成分は別途粉体として反応区域へ供給してもよい。特に、触媒成分を完全に溶解し均一溶液とするか、固体成分が十分に微細なスラリー状とすれば、煩雑な操作や複雑な設備などを必要とせず簡便な送液ポンプで供給が可能となるため好適である。また、これらの反応原料や触媒成分は必要に応じて溶媒と共に供給しても構わない。
【0037】
本発明において、連続操作によって酸化二量化反応を行わせることができれば、各反応区域から反応液を取出す(抜き出す)方法は、特に限定されない。具体的には、反応区域内の反応液が所定の液面に達したら抜き出しを開始し、所定の液面まで下がれば抜き出しを停止する、といった間欠抜き出しでもよく、供給される液量とほぼ等量の反応液をポンプで連続的に抜き出しても良い。特に、反応区域の所定の高さに横管あるいは連通孔を設置し、オーバーフローにより抜き出す方法が、複雑な設備を必要とせず簡便に所定の液量に保つことが出来るため好ましい。
【0038】
本発明で用いる反応装置は、加熱機能、攪拌機能、ガスなどの供給や排出機能を備え、連続的に反応を行えるものであれば、特に限定されるものではない。
本発明では、液相部が複数の反応区域を有する反応装置が使用される。本発明の反応装置において、反応区域の数は2つ以上であれば特に制限されるものではないが、2〜30、特に2〜10、更には2〜5であることが好ましい。このような反応装置としては、例えば、図1、2に示されるような、原料供給ライン1、反応区域2(2−1、2−2、2−3など)、攪拌装置3、気相部抜き出しライン4、液相部抜き出しライン5、空気供給用ライン6、追加添加溶液供給ライン7などを備えた、液相部が少なくとも2つの反応区域を構成する複数の反応器からなる反応装置(各反応区域が独立した構造を有する多槽式の反応装置)が挙げられる。また、図3、4に示されるような、原料供給ライン1、反応区域2(2−1、2−2、2−3など)、気相部抜き出しライン4、液相部抜き出しライン5、空気供給用ライン6、追加添加溶液供給ライン7、反応区域仕切り板8、連通孔9などを備えた、液相部が複数の反応区域を構成し、かつ気相部が連通している反応器からなる反応装置も挙げられる。さらに、図3、4のような反応装置を、図2のように複数連結した反応装置も挙げられる。このように、本発明で使用される反応装置としては、複数の反応区域が独立した構造をもつものか、あるいは内部が反応区域仕切り板で複数の反応区域(液相部)に区切られていて、各反応区域の気相部が連通している構造をもつものなどが好適に使用される。なお、気相部抜き出しライン4には凝縮器(図示せず)が設置される。
【0039】
図3、4に示される反応装置では、反応区域仕切り板は、図3のように高さが順次低くなっていてもよく、図4のように高さが同一であってもよい。このような反応装置では、仕切り板は任意の位置に1個以上の連通孔をそれぞれ有しているが、前者の場合は仕切り板は連通孔を有していなくてもよい。また、反応液は、連通孔を通して連続する反応区域に順次導かれるが、連通孔のない前者の場合は各反応区域を順次オーバーフローして最終反応区域に導かれる。なお、各反応区域の液相部は、攪拌機、ポンプ循環、ガス吹き込みなどによって強制的に攪拌・混合されてもよく、液相部の流れや対流などによって攪拌・混合される程度でもよい。また、反応装置は、例えば、外部ジャケット等に熱媒を通して加熱される。
【実施例1】
【0040】
次に、本発明の製造方法について、実施例を用いてさらに詳しく説明する。尚、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
以下の実施例では、反応原料としてフタル酸ジメチルエステル(以下、DMPと略すこともある)を用いて、酸化二量化反応の生成物であるビフェニルテトラカルボン酸テトラメチルエステル(以下、BPTTと略記することもある)を製造している。ここで、酸化二量化反応生成物中の異性体である3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸テトラメチルエステル(以下、s−BPTTと略記することもある)と2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸テトラメチルエステル(以下、a−BPTTと略記することもある)の生成量の比(以下、S/Aと略記することもある)、生成物であるs−BPTTに対する触媒回転率(以下、TONと略記することもある)は、次の計算式に従って
算出した。
【0042】
【数1】

【0043】
〔実施例1〕
図2に示す、原料供給ラインと気相部抜き出しラインと空気供給用ラインと追加添加溶液供給用ラインとを備え、さらに反応区域の液量が一定量に達すると、オーバーフローにより反応液が抜き出されるように、反応器内部の所定の位置に液相部抜き出しラインを設置したステンレス製反応器を2つ連結した反応装置を用い、以下の要領で酸化二量化反応を行なった。尚、各反応器の内容積は400ミリリットルであり、第1の反応器から取出された(抜き出された)反応混合液は第2の反応器に導入される。
フタル酸ジメチルエステル(以下、DMPと略すこともある)1リットルに対して、0.9ミリモルの酢酸パラジウム、0.45ミリモルのアセチルアセトン銅、及び1.35ミリモルの1,10−フェナントロリン(以下o−PhenまたはPhenと略すこともある)を、室温で1時間以上攪拌して均一に溶解し、原料混合液とした。この原料混合液を第1、及び第2の反応区域に仕込み、400rpmの回転速度で攪拌を開始し、360ミリリットル/分の供給速度で空気の流通を開始した後、220℃に昇温した。反応器内部が220℃に達した時点で、原料混合液を1.0ミリリットル/分で連続供給を開始した。一方、DMP200ミリリットルに対しo−Phen 3.6ミリモルからなるo−Phen混合液を第2の反応器に0.04ミリリットル/分で連続供給を開始した。反応混合液の連続供給とともに、液相部抜き出しラインより反応混合液がオーバーフローにより抜き出され、第1、および第2の反応区域の反応混合液量は、常に400ミリリットルに保たれた。以降、各反応器内部の温度を220℃に保ちながら、原料混合液とo−Phen混合液の連続供給を継続し、酸化二量化反応を行った。反応混合液の各反応区域への滞留時間は5時間となり、反応装置全体での滞留時間は10時間となった。
反応は2085時間継続して行った。反応の途中及び終了時に各反応区域より反応混合液の一部をサンプルとしてシリンジで抜き出し、10ミリモルりん酸Na緩衝溶液とアセトニトリルで希釈し、高速液体クロマトグラフィー(以下HPLCと略すこともある)にて反応混合液の各成分の濃度を定量した。その結果に基づいて、生成物のs−BPTTの反応混合液中の濃度、およびTONなどを算出した。
反応の途中及び終了時における定量結果を表1に示した。反応終了時まで、第2の反応区域でも高い反応効率が維持された。
【0044】
〔比較例1〕
第2の反応区域に対してo−Phen混合液を供給しなかったこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。
反応は約1100時間継続して行った。
反応の途中及び終了時における定量結果を表1に示した。反応を約1100時間継続すると、第2の反応区域では高い反応効率を維持することができなかった。
【0045】
〔実施例2〕
図2に示す、原料供給ラインと気相部抜き出しラインと空気供給用ラインと追加添加溶液供給用ラインとを備え、さらに反応区域の液量が一定量に達すると、オーバーフローにより反応液が抜き出されるように、反応器内部の所定の位置に液相部抜き出しラインを設置したステンレス製反応器を3つ連結した反応装置を用い、以下の要領で酸化二量化反応を行なった。尚、各反応器の内容積は400ミリリットルであり、第1の反応器から取出された(抜き出された)反応混合液は第2の反応器に導入され、第2の反応器から取出された(抜き出された)反応混合液は第3の反応器に導入される。
フタル酸ジメチルエステル 1リットルに対して、0.9ミリモルの酢酸パラジウム、0.45ミリモルのアセチルアセトン銅、及び1.35ミリモルの1,10−フェナントロリンを、室温で1時間以上攪拌して均一に溶解し、原料混合液とした。この原料混合液を第1、第2、及び第3の反応器に仕込み、400rpmの回転速度で攪拌を開始し、360ミリリットル/分の供給速度で空気の流通を開始した後、225℃に昇温した。反応器内部が225℃に達した時点で、原料混合液を1.0ミリリットル/分で供給を開始した。一方、DMP200ミリリットルに対しo−Phen 3.6ミリモルからなるo−Phen混合液を、第2の反応器に0.03ミリリットル/分、第3の反応器に0.01ミリリットル/分で連続供給を開始した。反応混合液の連続供給とともに、液相部抜き出しラインより反応混合液がオーバーフローにより抜き出され、各反応区域の反応混合液量は、常に400ミリリットルに保たれた。以降、各反応器内部の温度を225℃に保ちながら、原料混合液とo−Phen混合液の連続供給を継続し、酸化二量化反応を行った。反応混合液の各反応区域への滞留時間は5時間となり、反応装置全体での滞留時間は15時間となった。
反応は2033時間継続して行った。反応の途中及び終了時に各反応器より反応混合液の一部をサンプルとしてシリンジで抜き出し、10ミリモルりん酸Na緩衝溶液とアセトニトリルで希釈し、高速液体クロマトグラフィー(以下HPLCと略すこともある)にて反応混合液の各成分の濃度を定量した。その結果に基づいて生成物のs−BPTTの反応混合液中の濃度、およびTONなどを算出した。
反応の途中及び終了時における定量結果を表1に示した。反応終了時まで、第2の反応区域や第3の反応区域でも高い反応効率が維持された。
【0046】
〔実施例3〕
図2に示す、原料供給ラインと気相部抜き出しラインと空気供給用ラインと追加添加溶液供給用ラインとを備え、さらに反応区域の液量が一定量に達すると、オーバーフローにより反応液が抜き出されるように、反応器内部の所定の位置に液相部抜き出しラインを設置したステンレス製反応器を3つ連結した反応装置を用い、以下の要領で酸化二量化反応を行なった。尚、各反応器の内容積は400ミリリットルであり、第1の反応器から取出された(抜き出された)反応混合液は第2の反応器に導入され、第2の反応器から取出された(抜き出された)反応混合液は第3の反応器に導入される。
フタル酸ジメチルエステル(以下、DMPと略すこともある)1リットルに対して、0.9ミリモルの酢酸パラジウム、0.60ミリモルのアセチルアセトン銅、及び1.50ミリモルの1,10−フェナントロリンを、室温で1時間以上攪拌して均一に溶解し、原料混合液とした。この原料混合液を第1、第2、及び第3の反応器に仕込み、400rpmの回転速度で攪拌を開始し、360ミリリットル/分の供給速度で空気の流通を開始した後、225℃に昇温した。反応器内部が225℃に達した時点で、原料混合液を1.0ミリリットル/分で供給を開始した。一方、DMP200ミリリットルに対しo−Phen 7.2ミリモルからなるo−Phen混合液を第2の反応器に0.01ミリリットル/分、第3の反応器に0.01ミリリットル/分で連続供給を開始した。反応混合液の連続供給とともに、液相部抜き出しラインより反応混合液がオーバーフローにより抜き出され、各反応区域の反応混合液量は、常に400ミリリットルに保たれた。以降、各反応器内部の温度を225℃に保ちながら、原料混合液とo−Phen混合液の連続供給を継続し、酸化二量化反応を行った。反応混合液の各反応区域への滞留時間は5時間となり、反応装置全体での滞留時間は15時間となった。
反応は355時間継続して行った。反応の途中及び終了時に各反応器より反応混合液の一部をサンプルとしてシリンジで抜き出し、10ミリモルりん酸Na緩衝溶液とアセトニトリルで希釈し、高速液体クロマトグラフィー(以下HPLCと略すこともある)にて反応混合液の各成分の濃度を定量した。その結果に基づいて生成物のs−BPTTの反応混合液中の濃度、およびTONなどを算出した。
反応の途中及び終了時における定量結果を表1に示した。反応終了時まで、第2の反応区域や第3の反応区域でも高い反応効率が維持された。
【0047】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によって、貴金属であるパラジウムを含んだ触媒を用い、分子状酸素の存在下高温で、芳香族化合物を酸化二量化反応させてビフェニル類を連続して効率よく製造する改良された製造方法、特にフタル酸ジエステルを酸化二量化反応させて3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルのような対称置換ビフェニル類を選択的に且つ連続的に製造する改良された方法であって、簡便な装置、簡単な操作、及び高い生産性をもって実施することができ、特に触媒効率(触媒回転数)が改良された極めて経済的な連続製造方法を提案することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 :原料供給ライン
2(2−1、2−2、2−3など):反応区域
3: 攪拌装置
4:気相部抜き出しライン
5:液相部抜き出しライン
6:空気供給用ライン
7:追加添加溶液供給ライン
8:反応区域仕切り板
9:連通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つ以上の反応区域を有する反応装置を用い、第1の反応区域へ、下記化学式(1)で示される芳香族化合物と、少なくともパラジウム化合物、銅塩、及び塩基性二座配位子化合物からなる触媒成分とを連続的または断続的に供給し、第1の反応区域の反応混合液の一部を連続的または断続的に取出して第2の反応区域へ供給し、さらに第3の反応区域以降の反応区域がある場合は、前の反応区域から反応混合液の一部を取出して次の反応区域へ供給し、最後の反応区域から反応混合液の一部を連続的または断続的に取出しながら、各反応区域で分子状酸素の存在下に前記芳香族化合物の酸化二量化反応を行ってビフェニル類を連続して製造する製造方法において、
第2の反応区域以降の少なくとも1つの反応区域に、塩基性二座配位子化合物を含む触媒成分を連続的または断続的に供給することを特徴とするビフェニル類の連続製造方法。
【化1】

(ここで、Rは置換基であり、mは0〜4の整数である。)
【請求項2】
第2の反応区域以降の反応区域において、塩基性二座配位子化合物を、単位時間当たり当該反応区域へ供給されるパラジウム化合物に対して、単位時間当たり[当該反応区域の反応混合液の滞留時間]×[0.01〜1.0]倍モルの範囲内の割合で供給することを特徴とする請求項1に記載のビフェニル類の連続製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−219447(P2011−219447A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93476(P2010−93476)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】