説明

ビルの汚水貯留槽内の汚水表面に生成したスカム凝集体の分解除去方法

【課題】ビルの汚水貯留槽内の汚水表面に生成しているスカム凝集体をその汚水貯留槽内で分解除去できる方法を提供する。
【解決手段】汚水の中に水酸化マグネシウム粉末を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビルピットなどのビルの汚水貯留槽内の汚水表面に生成したスカム凝集体を分解除去する方法に関する。本発明はまた、ビルの汚水貯留槽内の汚水表面に生成したスカム凝集体を分解除去するのに有用なスカム凝集体の分解除去剤にも関する。
【背景技術】
【0002】
ビルと呼ばれる高層建築物の地下には、一般に、ビルピットと呼ばれる汚水貯留槽が設けられている。汚水貯留槽はビルの排水管に接続していて、ビル内の厨房から排出される油脂を含む雑排水やトイレから排出される屎尿などの汚水を一旦貯留し、その汚水の貯留量が一定量を超えると、槽内の汚水を汲み上げて下水管に排出させる。
【0003】
汚水貯留槽内に貯留されている汚水にはスカムが生成し易い。スカムとは、汚水に浮かんでいる汚泥分解物である。汚水貯留槽内のスカムは、汚水貯留槽の底部に堆積した汚泥が嫌気性細菌によって分解して硫化水素と汚泥分解物とが生成し、その汚泥分解物が硫化水素と共に汚水の表面にまで浮上することによって生成する。スカムが多量に生成すると、スカムが凝集固化したスカム凝集体を形成する。汚水貯留槽内にスカム凝集体が生成すると、蠅などの害虫を大量に発生させる要因となる。また、スカム凝集体が汚水の表面全体を覆って汚水が外気と遮断されると、汚水中の溶存酸素量が少なくなって嫌気性細菌が活性化するため、汚泥の分解によって発生する硫化水素の量が増えて、汚水貯留槽周囲での異臭の原因となる。
【0004】
特許文献1には、ビルピット内でのスカムの生成を抑制する方法として、ビルピット内に貯留される汚水中の汚泥を生物分解するために、ビルピット内の汚水中に微生物製剤を定期的に投与すると共に、ビルピット内の汚水中に空気供給装置により連続的に空気を供給して、前記汚水中の微生物製剤の微生物を活性化する方法が記載されている。
【0005】
特許文献2には、下水管内での硫化水素の発生を抑制する方法として、下水管内の排水に酸化マグネシウムや水酸化マグネシウムを添加する方法が記載されている。
【0006】
特許文献3には、河川でのスカムの生成を抑制する方法として、酸化マグネシウム粉末を河川に散布する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−113476号公報
【特許文献2】米国特許第5833864号明細書
【特許文献3】特開2005−211766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献1乃至3に記載されているのは、ビルピットや下水管などの排水施設あるいは河川でのスカムの生成や硫化水素の発生を抑える方法である。一方、ビルピットなどのビルの汚水貯留槽内の汚水表面に既に生成しているスカム凝集体は、定期的な清掃によって外部に取り出すのが一般的である。しかしながら、この定期的な清掃では、取り出したスカム凝集体を処理する作業が必要となる。従って、汚水貯留槽内の汚水表面に生成したスカム凝集体は、その汚水貯留槽内で分解除去することができれば望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、スカムの生成や硫化水素の発生の抑制に対して有効であるとされている、水酸化マグネシウム粉末や酸化マグネシウム粉末の供給によるスカム凝集体の分解除去効果を検討した。その結果、スカム凝集体が生成している汚水中に水酸化マグネシウム粉末を供給した場合にはスカム凝集体を効果的に分解除去することができるのに対して、酸化マグネシウム粉末を供給した場合には実用上満足できるレベルではスカム凝集体を分解除去することができないことを新たに見出し、本発明に到達した。
水酸化マグネシウム粉末の供給によってスカム凝集体を分解除去できる理由としては、汚水中に溶解した水酸化マグネシウムがスカム凝集体に含まれる油脂を加水分解することによって、油脂をバインダーとして凝集固化したスカム凝集体が分解し、その分解物が汚水中に沈降するためであると考えられる。一方、酸化マグネシウム粉末は水への溶解度が水酸化マグネシウム粉末と比較して低く、スカム凝集体に含まれる油脂を加水分解する能力が低いため、実用上満足できるレベルではスカム凝集体を分解除去することができないと考えられる。
【0010】
従って、本発明は、ビルの排水管に接続する汚水貯留槽内に貯留されていて、表面にスカムの凝集体が生成している汚水の中に水酸化マグネシウム粉末を供給することを特徴とする、ビルの汚水貯留槽内の汚水表面に生成したスカム凝集体の分解除去方法にある。
【0011】
上記本発明の方法の好ましい態様は、次の通りである。
(1)水酸化マグネシウム粉末を、汚水表面の面積1m2当たり10〜1000gの範囲の量にて汚水中に供給する。
(2)水酸化マグネシウム粉末を、水性分散液として汚水中に供給する。
(3)水酸化マグネシウム粉末を、ビルの排水管を介して汚水中に供給する。
【0012】
本発明はまた、水酸化マグネシウム粉末を有効成分として含有することを特徴とする、ビルの汚水貯留槽内の汚水表面に生成したスカム凝集体の分解除去剤にもある。
【発明の効果】
【0013】
本発明のスカム凝集体の分解除去方法を利用することによって、ビルピットなどのビルの汚水貯留槽内の汚水表面に生成したスカム凝集体を、その汚水貯留槽内で効果的に分解除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施を想定したビルの汚水貯留槽の一例の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のビルの汚水貯留槽内の汚水表面に生成したスカム凝集体の分解除去方法及びスカム凝集体の分解除去剤を、添付図面の図1を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施を想定したビルの汚水貯留槽の一例の模式的断面図である。図1において、汚水貯留槽1は、ビル内にて発生した汚水を汚水貯留槽1に送るための排水管2と、排水ポンプ3とを備えている。排水ポンプ3は、汚水貯留槽1内に貯留されている汚水4の貯留量が一定量を超えると汚水4を汲み上げて下水管に排出する。汚水貯留槽1の底部には汚泥5が堆積しており、汚水4の表面には、多数のスカム6が凝集固化して生成したスカム凝集体7が存在している。
【0016】
本発明において、ビルの汚水貯留槽1の例としては、ビルピット及び浄化槽を挙げることができる。ビルピットは、汚水を貯留する機能のみを有する汚水貯留槽を、浄化槽は、汚水を貯留する機能と、槽内に貯留している汚水を活性汚泥法や生物膜法などの生物学的処理法により浄化する機能とを有する汚水貯留槽を意味する。なお、浄化槽は、ビルピットと比較してスカムは生成しにくいが、一度生成したスカムは生物学的処理法によっては除去することは難しいため、浄化槽においてもスカム凝集体の分解除去が必要となる場合がある。
【0017】
本発明では、表面にスカム凝集体7が生成して汚水4の中に、スカム凝集体の分解除去剤として水酸化マグネシウム粉末を供給する。分解除去剤は、水酸化ナトリウム粉末や水酸化カリウム粉末などのアルカリ金属の水酸化物を含んでいてもよい。但し、分解除去剤中の水酸化マグネシウム粉末の含有量は、好ましくは60質量%以上、特に好ましくは80質量%以上である。
【0018】
本発明で使用する水酸化マグネシウム粉末は、微細な水酸化マグネシウム粒子を造粒機により造粒もしくは自然造粒したものであって、標準篩を使用した篩い分け法による平均粒子径が好ましくは0.01〜10mmの範囲、より好ましくは0.02〜5mmの範囲、特に好ましくは0.05〜1mmの範囲にある。水酸化マグネシウム粒子のレーザー回折法による平均粒子径は、好ましくは1〜10μmの範囲、より好ましくは1〜5μmの範囲にある。また、水酸化マグネシウム粉末の供給量はスカム凝集体7の生成状況によっても異なるが、汚水表面の面積1m2当たりの量として、好ましくは10〜1000gの範囲の量、特に好ましくは10〜500gの範囲の量である。
【0019】
水酸化マグネシウム粉末は水性媒体に分散させた水性分散液の状態で、すなわち水酸化マグネシウムスラリーとして汚水4の中に供給することが好ましい。水酸化マグネシウムスラリーは水酸化マグネシウム粉末と水とを混合する方法、あるいは酸化マグネシウム粉末と水とを混合して、酸化マグネシウムを水和させる方法により調製することができる。水酸化マグネシウムスラリーは排水管2に接続しているビル内の排水口に投入して、排水管2を介して汚水4の中に供給することができる。
【0020】
水酸化マグネシウム粉末を汚水4の中に供給にすると、汚水表面のスカム凝集体7は分解し、その分解物が汚水4の中に沈降することによって、スカム凝集体が消失する。スカム凝集体の分解物は、排水ポンプ3によって、汚水と共に下水管に排出させることができる。
【0021】
本発明の方法によってスカム凝集体を分解除去した後には、スカム凝集体の生成を防止するため、汚水貯留槽内の汚水中に水酸化マグネシウム粉末を定期的に供給することが好ましい。スカム凝集体の生成を防止するための水酸化マグネシウム粉末の供給量は、汚水貯留槽の容量や汚水の貯留量などの条件によっても異なるが、汚水表面の面積1m2での一週間当たりの量として、一般に10〜5000gの範囲の量、好ましくは50〜3000gの範囲の量である。水酸化マグネシウム粉末の供給頻度は、一週間に1回乃至2回とすることが好ましい。
【実施例】
【0022】
[実施例1]
汚水表面の面積が約20m2で、汚水表面の全体がスカム凝集体(厚さ:約10cm)で覆われているビルピットを処理対象とした。このビルピット内の汚水中に、水酸化マグネシウム粉末(水酸化マグネシウム粉末の篩い分け法による平均粒子径:0.5mm、水酸化マグネシウム粒子のレーザー回折法による平均粒子径:4μm)が分散している濃度10質量%の水酸化マグネシウムスラリー10kgを注入した。なお、水酸化マグネシウムスラリーは、ビルピットに接続している排水口に投入した。水酸化マグネシウムスラリーを注入してから約5分後、ビルピット内の状態を目視観察したところ、スカム凝集体が部分的に分解除去されていて、汚水の水面が部分的に見えるようになっていた。また、残存しているスカム凝集体の厚さはほぼ1cm以下であり、水酸化マグネシウムスラリー注入前よりもスカム凝集体の厚さは大幅に薄くなっていた。
【0023】
[比較例1]
汚水表面の面積が約20m2で、汚水表面の全体がスカム凝集体(厚さ:約10cm)で覆われているビルピットを処理対象とした。このビルピット内の汚水中に、酸化マグネシウム粉末2kgを直接投入した。酸化マグネシウム粉末を投入してから5分後、ビルピット内の状態を目視観察したところ、汚水の表面全体がスカム凝集体で覆われたままであり、汚水の水面は全く見えなかった。また、スカム凝集体の厚さは、酸化マグネシウム粉末投入前とほぼ変わらなかった。
【符号の説明】
【0024】
1 汚水貯留槽
2 排水管
3 排水ポンプ
4 汚水
5 汚泥
6 スカム
7 スカム凝集体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビルの排水管に接続する汚水貯留槽内に貯留されていて、表面にスカムの凝集体が生成している汚水の中に水酸化マグネシウム粉末を供給することを特徴とする、ビルの汚水貯留槽内の汚水表面に生成したスカム凝集体の分解除去方法。
【請求項2】
水酸化マグネシウム粉末を、汚水表面の面積1m2当たり10〜1000gの範囲の量にて汚水中に供給する請求項1に記載のスカム凝集体の分解除去方法。
【請求項3】
水酸化マグネシウム粉末を、水性分散液として汚水中に供給する請求項1に記載のスカム凝集体の分解除去方法。
【請求項4】
水酸化マグネシウム粉末を、ビルの排水管を介して汚水中に供給する請求項1に記載のスカム凝集体の分解除去方法。
【請求項5】
水酸化マグネシウム粉末を有効成分として含有することを特徴とする、ビルの汚水貯留槽内の汚水表面に生成したスカム凝集体の分解除去剤。

【図1】
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