説明

ビームスケジューラ及びビームスケジューラのビーム割り当て方法

【課題】本発明は、粒子線照射施設の効率的な利用を図ることを目的とする。
【解決手段】 本発明に係るビームスケジューラ1は、複数の照射室A〜Dのうち1つの照射室から照射リクエストを受けたとき、照射リクエストに対してビームが割り振られるまでの最大許容待ち時間を付加し、照射リクエストを待機リストの順番の末尾に追加し、1つの照射室へビームが割り当てられるまでの予測待ち時間が最大許容待ち時間を越えるか否かを判定し、予測待ち時間が最大許容待ち時間を越えると判定した場合、当該照射リクエストの待機リストにおける順番を繰上げ、待機リストの順番の最上位の照射リクエストに対応する照射室にビームを割り当てる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子線照射施設において複数の照射室に対するビームの割り当てを管理するビームスケジューラ及びビームスケジューラのビーム割り当て方法に関する。
【背景技術】
【0002】
このような分野における技術文献として、特表2007−501084号公報がある。この公報には、複数の照射室のうち1つに対して粒子ビームを自動的に割り当てるシステムであって、ビームがいずれの照射室にも割り当てられていない状態で照射室から照射要求を受けた場合、照射要求を出した当該照射室にビームを割り当てるものが記載されている。
【0003】
また、このシステムでは、ビームが既に他の照射室に割り当てられている状態で照射要求を受けた場合、予め設定された優先順位レベルに応じて照射要求が待機リスト上に並べられ、この待機リストの順番に沿ってビームが割り当てられる。このとき、既にビームが割り当てられた照射要求の優先順位レベルより高い優先順位レベルの照射要求を受けた場合には、ビーム使用前であることを条件として強制的に高い優先順位レベルの照射要求に対するビームの割り当てが行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007−501084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたシステムでは、優先順位レベルの高い照射要求が出される度に優先順位レベルの低い照射要求への割り当てが後回しにされるため、優先順位レベルの低い照射要求が長時間待たされる場合がある。このように患者が長時間待たされると、照射室を占有しながらも治療が行われず、しかも患者の容態の変動等により治療を見合わせる事態となる可能性が高まるため、粒子線照射施設の効率的な利用が妨げられるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、粒子線照射施設の効率的な利用を図ることができるビームスケジューラ及びビームスケジューラのビーム割り当て方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、複数の照射室のうち1つの照射室に対してビームを供給する粒子線照射施設において複数の照射室に対するビームの割り当てを管理するビームスケジューラであって、複数の照射室のうち1つの照射室からビームの照射リクエストを受けた場合に、1つの照射室へビームが割り当てられるまでの最大許容待ち時間を照射リクエストに付加する最大許容待ち時間付加手段と、照射リクエストを待機リストの順番の末尾に追加する照射リクエスト管理手段と、1つの照射室へビームが割り当てられるまでの予測待ち時間が最大許容待ち時間を越えるか否かを判定する判定手段と、判定手段により予測待ち時間が最大許容待ち時間を越えると判定した場合、当該照射リクエストの待機リストにおける順番を繰上げる順番変更手段と、を備え、待機リストの順番の最上位の照射リクエストに対応する照射室にビームを割り当てることを特徴とする。
【0008】
本発明に係るビームスケジューラによれば、ビームが割り当て中である場合に照射室から照射リクエストを受けたとき、受けた順番に照射リクエストが待機リストに並べられ、この待機リストの順番の最上位の照射リクエストに対応する照射室にビームが割り当てられる。また、待機リスト上で照射リクエストの待ち時間が最大許容待ち時間を越えると判定された場合には、当該照射リクエストの順番を繰上げることにより、医師等の治療者や患者が最大許容待ち時間を超えて長時間待たされることを避けることができる。これにより、長時間の待機中に患者の容態の変動等により治療を見合せる事態となることを避けることができ、粒子線照射施設の効率的な利用を図ることができる。しかも、治療者は、最大許容待ち時間内にビームが割り当てられるという予測を立てて適切に治療の準備を行うことが可能となる。このことは、粒子線照射施設の利用の効率化に寄与する。
【0009】
本発明においては、待機リストに並んだ照射リクエストに対応する照射室からキャンセル要求を受けた場合に、当該照射リクエストを待機リストから削除するリクエスト削除手段を更に備えることが好ましい。
このような構成を採用すると、治療者が照射室に対するビームの割り当ては不要であると判断した場合に、キャンセル要求を送ることで当該照射室の照射リクエストが削除されるので、不要なビームの割り当てを避けることができる。
【0010】
また、本発明に係る順番変更手段においては、順番変更手段は、照射リクエストの順番の繰上げを行うことで他の照射リクエストの予測待ち時間が当該他の照射リクエストの最大許容待ち時間を越える場合、繰上げを行わずに照射リクエストの最大許容待ち時間を延長することが好ましい。
この場合、繰上げにより他の照射リクエストの予測待ち時間が最大許容待ち時間を越えてしまう事態を避けることができる。また、先の順番を有する照射リクエストの予測待ち時間以上の長さとなるように最大許容待ち時間を延長することで、治療者は延長後の最大許容待ち時間に基づいてビームが割り当てられる時間に関する予測を立てることが可能となる。
【0011】
さらに、本発明に係る順番変更手段においては、ビームを割り当てられた照射室から照射リクエストの順番を繰下げる繰下げ要求を受けた場合、待機リストの順番の最上位に位置する照射リクエストと次に位置する照射リクエストとの順番を入れ替えることが好ましい。
この場合、ビームを割り当てられた後に繰下げ要求を出すことで、次の順番の照射室にビームの割り当てを譲って入れ替わることができ、これによって治療に必要な時間を調整することが可能となる。その結果、患者の容態の安定化等を待つ等の理由によりビームの割り当て時間が延びる事態を避けることができ、粒子線照射施設の効率的な利用を図ることができる。
【0012】
本発明は、複数の照射室のうち1つの照射室に対してビームを供給する粒子線照射施設において複数の照射室に対するビームの割り当てを管理するビームスケジューラのビーム割り当て方法であって、複数の照射室のうち1つの照射室からビームの照射リクエストを受けた場合に、1つの照射室へビームが割り当てられるまでの最大許容待ち時間を照射リクエストに付加する最大許容待ち時間付加工程と、照射リクエストを待機リストの順番の末尾に追加する照射リクエスト管理工程と、1つの照射室へビームが割り当てられるまでの予測待ち時間が最大許容待ち時間を越えるか否かを判定する判定工程と、判定工程で予測待ち時間が最大許容待ち時間を越えると判定した場合、当該照射リクエストの待機リストにおける順番を繰上げる順番変更工程と、待機リストの順番の最上位の照射リクエストに対応する照射室にビームを割り当てる割り当て工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明に係るビームスケジューラのビーム割り当て方法によれば、ビームが割り当て中である場合に照射室から照射リクエストを受けたとき、受けた順番に照射リクエストが待機リストに並べられ、この待機リストの順番の最上位の照射リクエストに対応する照射室にビームが割り当てられる。また、待機リスト上で照射リクエストの予測待ち時間が最大許容待ち時間を越えると判定された場合には、当該照射リクエストの順番を繰上げることにより、医師等の治療者や患者が最大許容待ち時間を超えて長時間待たされることを避けることができる。これにより、長時間の待機中に患者の容態の変動等により治療を見合せる事態となることを避けることができ、粒子線照射施設の効率的な利用を図ることができる。しかも、治療者は、最大許容待ち時間内にビームが割り当てられるという予測を立てて適切に治療の準備を行うことが可能となる。このことは、粒子線照射施設の利用の効率化に寄与する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、粒子線照射施設の効率的な利用を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るビームスケジューラを備える粒子線照射施設を示す概略構成図である。
【図2】本発明に係るビームスケジューラの一実施形態を示すブロック図である。
【図3】照射リクエストを受信した場合のビームスケジューラの処理を示すフローチャートである。
【図4】待機リストを示す図である。
【図5】予測される照射リクエストの予測待ち時間と最大許容待ち時間との関係を説明するための図である。
【図6】照射リクエストが待機リストの順番の最上位にある場合のビームスケジューラの処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るビームスケジューラ及びビームの割り当て方法の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係るビームスケジューラ1は、患者の体内の腫瘍に対して粒子のビームを照射することでガン等の治療を行う粒子線照射施設10内で用いられるものである。粒子線照射施設10は、陽子線、中性子線、炭素イオン線等のビームを発生させる供給源11と、供給源11を制御する主制御部2が配置された主制御室12と、供給源11から供給されたビームを用いて照射治療が行われる4つの照射室A〜Dと、を有している。なお、粒子線照射施設10は、照射室の数が4つのものに限られず、2つ以上の照射室を有していれば良い。
【0018】
粒子線照射施設10の供給源11は、サイクロトロンやシンクロトロン等の荷電粒子を加速する粒子加速器である。供給源11は、照射室A〜Dのうちいずれか一つの照射室にのみビームを供給する。供給源11で発生したビームは、ビームの供給先を照射室A〜Dのいずれかに切り換える切換用電磁石(図示せず)によって供給対象の照射室に誘導される。供給源11及び切換用電磁石は、通信ネットワークを介して主制御部2に接続されており、主制御部2から送られる信号によって制御される。
【0019】
ビームスケジューラ1は、1台又は複数のコンピュータから構成された主制御部2の一部であり、主制御部2内のCPU[Central Processing Unit]、メモリ等のハードウェアやソフトウェアを利用して構成されている。ビームスケジューラ1は、供給源11から発生するビームの照射室A〜Dに対する割り当てを管理する。ここで、照射室に対するビームの割り当てとは、供給源11で発生するビームを供給対象となる一つの照射室が占有する状態にすることであり、具体的には、供給対象以外の照射室に対するビームの供給を遮断すると共にビームが供給対象の照射室にのみ誘導されるように電磁石等の設備を制御することである。
【0020】
ビームスケジューラ1は、照射室A〜Dにそれぞれ備えられた端末3〜6と通信ネットワークを介して接続されている。各照射室A〜Dでは、それぞれの端末3〜6にビームの割り当てを要求する照射リクエストRA〜RDを入力することで、ビームスケジューラ1に照射リクエストRA〜RDが送信される。ビームスケジューラ1では、受信した照射リクエストRA〜RDに対応する照射室A〜Dに対してビームの割り当てを行う。ビームが割り当てられた照射室では、供給源11から供給されるビームを利用して患者の治療が行われる。また、ビームスケジューラ1では、ビームが割り当てられた照射室からビーム照射の終了信号が送信された場合、当該照射室の照射リクエストを削除し、次の照射リクエストに対応する照射室に対してビームを割り当てる。なお、ビームスケジューラ1は、特許請求の範囲に記載された最大許容待ち時間付加手段、照射リクエスト管理手段、判定手段、順番変更手段、及びリクエスト削除手段の機能を有する。
【0021】
次に、ビームスケジューラ1のビームの割り当て方法について図面を参照して詳細に説明する。まず、照射室Aの端末3から照射リクエストRAが送信された場合を例として、照射リクエストを受信した場合のビームスケジューラ1の処理について説明を行う。
【0022】
図3に示すように、ビームスケジューラ1は、まず照射室Aから送信された照射リクエストを受信する(ステップS1)。このとき、ビームスケジューラ1は、照射リクエストRAと共に照射室Aの端末3に入力された最大許容待ち時間及び予測所要時間に関する情報を受信する。ここで、最大許容待ち時間とは、医師等の治療者が照射リクエストを出してから照射室にビームが割り当てられるまでに許容できる待ち時間である。また、予測所要時間とは、照射室にビームが割り当てられてからビームの使用が終了して次の照射室にビーム割り当て可能となるまでの予測時間である。予測所要時間は、治療が長引いた場合であっても途中で治療が中断されることがないように十分な余裕を持って設定されている。
【0023】
最大許容待ち時間及び予測所要時間は、手動で任意の値を設定することができる。例えば患者の容態等により早期の治療が必要な場合には、照射リクエストに付与する最大許容待ち時間を短めに設定することができる。なお、手動で設定を行わなかった場合には、最大許容待ち時間及び予測所要時間は、照射リクエストに含まれるビームのエネルギー及び強度に関する情報に応じて端末3により自動で設定される。
【0024】
ビームスケジューラ1は、受信した照射リクエストに対して最大許容待ち時間及び予測所要時間を付加(関連付け)する(ステップS2)。このステップS2は特許請求の範囲における最大許容待ち時間付加工程に相当し、このステップにより照射リクエストとこの照射リクエストに対応する最大許容待ち時間及び予測所要時間とが関連付けられる。
【0025】
ステップS3において、ビームスケジューラ1は、ビームが既に他の照射室B〜Dに割り当て中であるか否か(すなわち他の照射室B〜Dからの照射リクエストが待機リストに存在するか否か)を判定する。以下、待機リストについて説明する。待機リストとは、ビームを割り当てる順番に照射室に対応する照射リクエストを並べたリストである。ビームスケジューラ1が照射室D、照射室C、照射室B、照射室Aの順に照射リクエストRA〜RDを受信した場合の待機リストを図4に示す。図4に示す待機リストでは、特に他の指令がない限りリストの順番の最上位に位置する照射リクエストRDの照射室Dにビームが割り当てられる。その後、照射室Dにおけるビーム照射が終了すると、照射リクエストRDが削除されて照射リクエストRCが待機リストの最上位となり、照射室Cに対するビームの割り当てが行われる。このようにして、待機リストの順番の最上位に位置する照射リクエストに対応する照射室へのビームの割り当てが順次行われる。
【0026】
ステップS3において、ビームスケジューラ1がビームはいずれの照射室にも割り当て中ではない(すなわち待機リストに1つも照射リクエストが存在しない)と判定した場合、照射リクエストRAは待機リストの順番の最上位に追加されることになる(ステップS4)。その後、ビームスケジューラ1は照射リクエストRAに関する処理を一度終了する。
【0027】
一方、ステップS3において、ビームスケジューラ1がビームは割り当て中である(すなわち照射リクエストRB〜RDのうち少なくとも一つが存在する)と判定した場合、照射リクエストRAは待機リストの順番の末尾に追加される(ステップS5)。このステップS5は特許請求の範囲における照射リクエスト管理工程に相当する。
【0028】
なお、前述した予測所要時間については、待機リストに追加されるステップS4又はステップS5においてビームスケジューラ1により照射リクエストに付加される態様であっても良い。同様に、最大許容待ち時間についても、ステップS5においてビームスケジューラ1により照射リクエストに付加される態様であっても良い。この場合、最大許容待ち時間については、待機リストにおいて照射リクエストRAより先の順番を有する照射リクエストRB〜RDの予測所要時間の合計を算出し、この合計時間以上の長さの最大許容待ち時間を自動で設定することができる。このように、最大許容待ち時間を予測される照射リクエストRAの待ち時間以上の長さに自動で設定することで、治療者や患者が最大許容待ち時間を超えて長時間待たされる事態を避けることが可能になる。
【0029】
その後、ビームスケジューラ1は、照射室Aからキャンセル要求を受信したか否かを判定する(ステップS6)。キャンセル要求は、何らかの事情により照射リクエストRAをキャンセルしたい場合、例えば患者の容態が急変した場合や誤って照射リクエストRAを送信してしまった場合に用いられる。ビームスケジューラ1は、キャンセル要求を受信したと判定した場合、照射リクエストRAを待機リストから削除する(ステップS7)。不要な照射リクエストRAを待機リストから削除することにより、ビームの割り当てを効率的に行うことができる。ステップS7の後、ビームスケジューラ1は照射リクエストRAに関する処理を終了する。
【0030】
ステップS6においてキャンセル要求を受信していないと判定した場合、ビームスケジューラ1は、待機リストにおいて先の順番を有する照射リクエストRB〜RDの予測所要時間の合計を利用して、照射リクエストRAの予測待ち時間を予測すると共に、予測される照射リクエストRAの予測待ち時間が最大許容待ち時間を越えるか否かを判定する(ステップS8)。このステップS8は特許請求の範囲における判定工程に相当する。図5は、予測される照射リクエストの予測待ち時間と最大許容待ち時間との関係を説明するための図である。図5において、TA〜TDは、照射リクエストRA〜RDに付加された最大許容待ち時間をそれぞれ示しており、SA〜SDは、照射リクエストRA〜RDに付加された予測所要時間をそれぞれ示している。また、StA〜StDは、各照射室A〜Dにビームが割り当てられると予測される時刻をそれぞれ示しており、TmA〜TmDは、最大許容待ち時間TA〜TDが終了する時刻をそれぞれ示している。
【0031】
図4及び図5に示すように、待機リストにおいて受信した順に照射リクエストRA〜RDが並べられている場合、ビームスケジューラ1は、照射室D、照射室C、照射室B、照射室Aの順にビームの割り当てを行う(図5の[繰上げ前]を参照)。この場合において、照射リクエストRAでは、照射室Aに対してビームが割り当てられると予測される時刻StAが最大許容待ち時間TAの終了する時刻TmAを超えるので、ビームスケジューラ1は予測待ち時間が最大許容待ち時間TAを越えると判定する。一方、照射リクエストRCでは、照射室Cに対してビームが割り当てられると予測される時刻StCが最大許容待ち時間TCの終了する時刻TmCを超えないので、ビームスケジューラ1は予測待ち時間が最大許容待ち時間TCを越えないと判定する。
【0032】
図3のステップS8において、予測される照射リクエストRAの予測待ち時間が最大許容待ち時間を越えないと判定した場合、ビームスケジューラ1は、照射リクエストRAに関する処理を一度終了する。
【0033】
一方、予測される照射リクエストRAの予測待ち時間が最大許容待ち時間を越えると判定した場合、ビームスケジューラ1は、予測待ち時間が最大許容待ち時間を越えると判定された照射リクエストRAの順番の繰上げが可能であるか否かを判定する(ステップS9)。具体的には、図5に示すように、予測される照射リクエストRAの予測待ち時間が最大許容待ち時間を越えると判定した場合、ビームスケジューラ1は、照射リクエストRAの順番を照射リクエストRBの前に繰上げたときに、照射リクエストRBの予測待ち時間が最大許容待ち時間TBを越えなければ繰上げが可能であると判定し、照射リクエストRBの予測待ち時間が最大許容待ち時間TBを越えれば繰上げは不能であると判定する。
【0034】
ここで、図5に示す場合では、照射リクエストRAの繰上げを行っても、照射リクエストRBにおいて時刻TmBより時刻StBが前の状態が維持され、照射リクエストRBの予測待ち時間が最大許容待ち時間TBを越えることはないので、ビームスケジューラ1は照射リクエストRAの順番の繰上げは可能であると判定する。この繰上げの結果、照射リクエストRAにおいても時刻StAが時刻TmAを越えない状態となり、予測待ち時間が最大許容待ち時間TAを越えなくなる。このようにして、最大許容待ち時間TAが比較的短い照射リクエストRAと最大許容待ち時間TBに余裕のある照射リクエストRBとの間でビームを割り当てる順番の適切な調整が実現される。その結果、図5に示す場合では、全ての照射リクエストRA〜RDが最大許容待ち時間内にビーム割り当て可能となり、最大許容待ち時間を超えて治療者や患者が長時間待たされる事態を避けることができる。
【0035】
図3のステップS9において、照射リクエストRAの順番の繰上げが可能であると判定した場合、ビームスケジューラ1は、照射リクエストRAの順番を繰上げる繰上げ処理を行う(ステップS10)。このステップS10は特許請求の範囲における順番変更工程に相当する。その後、ビームスケジューラ1は照射リクエストRAに関する処理を一度終了する。
【0036】
一方、予測待ち時間が最大許容待ち時間を越えると判定した照射リクエストの順番の繰上げが不能であると判定した場合、ビームスケジューラ1は、照射リクエストRAの最大許容待ち時間を延長する(ステップS11)。具体的には、繰上げが不能であると判定された場合、待機リストにおいて照射リクエストRAより先の順番を有する照射リクエストの予測所要時間の合計、すなわち予測される照射リクエストRAの予測待ち時間より長くなるように最大許容待ち時間を延長する。最大許容待ち時間を延長した場合、照射リクエストRAを出した照射室Aに延長後の最大許容待ち時間を通知する。その後、ビームスケジューラ1は照射リクエストRAに関する処理を一度終了する。
【0037】
続いて、照射リクエストRAが待機リストの順番の最上位にある場合のビームスケジューラの処理について説明する。
【0038】
図6に示すように、ビームスケジューラ1は、まず照射リクエストRAが待機リストの順番の最上位に位置していることを認識する(ステップS20)。その後、ビームスケジューラ1は、照射リクエストRAを出した照射室Aに対するビームの割り当てを行う(ステップS21)。このステップS21は特許請求の範囲における割り当て工程に相当する。
【0039】
ビームの割り当て後、ビームスケジューラ1は、照射リクエストRAの順番を繰下げる繰下げ要求を受信したか否かを判定する(ステップS22)。このような繰下げ要求は、一時的にビームの使用を中断したい場合等に利用され、治療者が端末3を操作することによってビームスケジューラ1へと送信される。
【0040】
ビームスケジューラ1は、繰下げ要求を受信したと判定した場合、待機リストの順番の最上位に位置する照射リクエストRAと待機リストで照射リクエストRAの次の順番に位置する照射リクエストとの順番を入れ替える(ステップS23)。その後、ビームスケジューラ1は、再び照射リクエストRAが待機リストの順番の最上位に位置していることを認識するまで照射リクエストRAに関する処理を中断する。このように、ビームを割り当てられた照射室Aが繰下げ要求を出すことで、次の順番の照射室Aにビームの割り当てを譲って入れ替わることができ、これによって治療時間を調整することが可能となる。その結果、患者の容態の安定化等を待つ等の理由によりビームの割り当て時間が伸びる事態を避けることができ、粒子線照射施設10の効率的な利用を図ることができる。
【0041】
一方、ステップS22において繰下げ要求を受信していないと判定した場合、照射室A内の患者へのビーム照射が開始され、ビームスケジューラ1はビームの照射を検出する(ステップS24)。ビームスケジューラ1は、ビームの照射を検出した後、ビームを割り当てた照射室Aからビームの使用終了に関する終了信号を受信したか否かを判定する(ステップS25)。終了信号は、予め設定されたエネルギー量の照射が終了すると自動でビームスケジューラ1に送信される。また、終了信号は、治療者の操作によっても送信可能である。ビームスケジューラ1は、終了信号を受信していないと判定した場合、ステップS24に戻って再び処理を繰り返す。ここで、終了信号が入力されないまま予測所要時間の終了時刻に近づいた場合、ビームスケジューラ1は、照射室Aへ端末3を通じた警告処理を実行してもよい。治療者は、治療時間が予測所要時間を超えそうな場合、例えば主制御室12のオペレータに連絡することにより、他の照射室との時間調整等を行ってもらうことができる。
【0042】
ステップS24において終了信号を受信したと判定した場合、ビームスケジューラ1は当該照射室におけるビームの使用が終了したと判断し、照射リクエストRAを待機リストから削除する(ステップS26)。その後、ビームスケジューラ1は照射リクエストRAに関する処理を終了する。
【0043】
以上説明した本実施形態に係るビームスケジューラ1によれば、照射リクエストの予測待ち時間が最大許容待ち時間を越えると判定された場合に、当該照射リクエストの待機リストにおける順番を繰上げることにより、医師等の治療者や患者が最大許容待ち時間を超えて長時間待たされることを避けることができる。これにより、長時間の待機中に患者の容態の変動等により治療を見合せる事態となることを避けることができ、粒子線照射施設10の効率的な利用を図ることができる。しかも、治療者は、最大許容待ち時間内にビームが割り当てられるという予測を立てて適切に治療の準備を行うことが可能となる。このことは、粒子線照射施設10の利用の効率化に寄与する。
【0044】
また、このビームスケジューラ1によれば、繰上げにより他の照射リクエストの予測待ち時間が最大許容待ち時間を越えてしまう場合に繰上げが不能であると判定して、予測される照射リクエストの予測待ち時間より長くなるように最大許容待ち時間を延長する。これによって、繰上げにより他の照射リクエストの予測待ち時間が最大許容待ち時間を越えてしまう事態を避けることができると共に、治療者は延長後の最大許容待ち時間に基づいてビームが割り当てられる時間に関する予測を立てることが可能となる。
【0045】
また、このビームスケジューラ1によれば、一度ビームが割り当てられた後は、照射室側から繰下げ要求等を行わない限り割り込みされることがないので、治療者は割り込みについて気にすることなく治療に専念することができる。
【0046】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。
【0047】
例えば、ステップS9においてビームスケジューラ1が繰上げ不能と判定した場合に、ビームスケジューラ1は自動で最大許容待ち時間を延長するのではなく、他の照射室の照射リクエストの繰上げにより繰り下げられて最大許容待ち時間を越えることになる照射室及び繰上げを行う照射リクエストの照射室に急ぎの照射リクエストの存在について連絡を行い、これらの照射室間で順番や最大許容待ち時間を調整してもらう態様であっても良い。或いは、ビームスケジューラ1は、自動で最大許容待ち時間が設定された照射リクエスト、すなわち急ぎではない照射リクエストの最大許容待ち時間を延長して、治療者が照射室の端末により手動で入力した照射リクエストの繰上げを優先して行う態様であっても良い。
【0048】
また、ビームスケジューラ1に照射リクエスト等を入力する端末3〜6は、照射室A〜Dの外に設けられていても良く、粒子線照射施設10と通信ネットワークで接続された別の施設に設けられていても良い。同様に、ビームスケジューラ1は、主制御室12に配置された主制御部2内で実現されるものに限られず、別の場所に配置されたコンピュータと協働でその機能を発揮する態様としても良い。また、ビームスケジューラ1は、繰下げ要求により順番を入れ替える機能を必ず有している必要はない。
【符号の説明】
【0049】
1…ビームスケジューラ(照射リクエスト管理手段、最大許容待ち時間付加手段、予測所要時間付加手段、判定手段、順番変更手段)、2…主制御部、3〜6…端末、10…粒子線照射施設、11…供給源、12…主制御室、A〜D…照射室。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の照射室のうち1つの照射室に対してビームを供給する粒子線照射施設において前記複数の照射室に対する前記ビームの割り当てを管理するビームスケジューラであって、
前記複数の照射室のうち1つの照射室から前記ビームの照射リクエストを受けた場合に、前記1つの照射室へ前記ビームが割り当てられるまでの最大許容待ち時間を前記照射リクエストに付加する最大許容待ち時間付加手段と、
前記照射リクエストを待機リストの順番の末尾に追加する照射リクエスト管理手段と、
前記1つの照射室へ前記ビームが割り当てられるまでの予測待ち時間が前記最大許容待ち時間を越えるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段により前記予測待ち時間が前記最大許容待ち時間を越えると判定した場合、当該照射リクエストの前記待機リストにおける順番を繰上げる順番変更手段と、を備え、
前記待機リストの順番の最上位の前記照射リクエストに対応する前記照射室に前記ビームを割り当てることを特徴とするビームスケジューラ。
【請求項2】
前記待機リストに並んだ前記照射リクエストに対応する前記照射室からキャンセル要求を受けた場合に、当該照射リクエストを前記待機リストから削除するリクエスト削除手段を更に備えることを特徴とする請求項1に記載のビームスケジューラ。
【請求項3】
前記順番変更手段は、前記照射リクエストの順番の繰上げを行うことで他の照射リクエストの前記予測待ち時間が当該他の照射リクエストの前記最大許容待ち時間を越える場合、前記繰上げを行わずに前記照射リクエストの前記最大許容待ち時間を延長することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のビームスケジューラ。
【請求項4】
前記順番変更手段は、前記ビームを割り当てられた前記照射室から前記照射リクエストの順番を繰下げる繰下げ要求を受けた場合、前記待機リストの順番の最上位に位置する前記照射リクエストと次に位置する前記照射リクエストとの順番を入れ替えることを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか一項に記載のビームスケジューラ。
【請求項5】
複数の照射室のうち1つの照射室に対してビームを供給する粒子線照射施設において前記複数の照射室に対する前記ビームの割り当てを管理するビームスケジューラのビーム割り当て方法であって、
前記複数の照射室のうち1つの照射室から前記ビームの照射リクエストを受けた場合に、前記1つの照射室へ前記ビームが割り当てられるまでの最大許容待ち時間を前記照射リクエストに付加する最大許容待ち時間付加工程と、
前記照射リクエストを待機リストの順番の末尾に追加する照射リクエスト管理工程と、
前記1つの照射室へ前記ビームが割り当てられるまでの予測待ち時間が前記最大許容待ち時間を越えるか否かを判定する判定工程と、
前記判定工程で前記予測待ち時間が前記最大許容待ち時間を越えると判定した場合、当該照射リクエストの前記待機リストにおける順番を繰上げる順番変更工程と、
前記待機リストの順番の最上位の前記照射リクエストに対応する前記照射室に前記ビームを割り当てる割り当て工程と、
を含むことを特徴とするビーム割り当て方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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