説明

ピグメントスプレー紙

【課題】 紙を層間で剥がして使う用途、層間に骨を刺す用途などの要求に応じた層間剥離強度の低い紙の提供。
【解決手段】 この課題は、二層以上で抄紙する紙において、該層間にピグメントをピグメント分散液としてスプレーして抄紙することによって層間剥離強度を弱めたことを特徴とするピグメントスプレー紙によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二層抄き以上で層間剥離強度が弱くなるように抄紙した紙に関するものであり、詳しくは掛け軸用紙、写経用紙、表具用紙のような印刷後に紙の層間で剥がす用途、又は扇子用紙のように、紙の層間に骨を刺すような用途に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紙の層間剥離強度に関する技術としては、強度向上を目的として、生澱粉、燐酸エステル澱粉、カチオン澱粉、アニオン澱粉、両性澱粉、馬鈴薯澱粉、アクリルアミドなどを、紙の層間にスプレーするなどの技術が一般的であり、そのための多種多様の方法が提案されてきたが、反対に層間剥離強度を弱めて、工業的材料として使用するという技術の提案は皆無であった。
【0003】
しかし、印刷などを行った後に紙の層間で剥いで使用する、掛け軸用紙、写経用紙、表具用紙など、又は紙の層間に骨を刺す扇子用紙など、比較的、層間剥離強度の弱い紙を望む用途も多岐に渡り存在し、層間剥離強度向上だけでなく、作業性を向上させるために、層間剥離強度を弱く抄紙した方が都合の良い用途もある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、紙を層間で剥がして使う用途、層間に骨を刺す用途など、作業性向上のために、比較的層間剥離強度が弱めであることを要求される分野に、その要求に応じた紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前記課題に着目し、鋭意研究を重ねた結果、二層抄き以上の紙の層間に、ピグメント分散液をスプレーすることによって、層間剥離強度を弱めることができ、かつ、ピグメントの種類、ピグメント分散液の濃度およびピグメント付与量を変えることによって、それぞれの要求に応じた弱い層間剥離強度の紙を提供できることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、二層以上の抄き合わせの紙の層間剥離強度を弱めるために、ピグメントを水に分散調整しそして該層間の湿潤紙層の表面にピグメント分散液をスプレー塗布してピグメントを層間に適用した、弱い層間剥離強度の紙を提供する。
【0007】
また、本発明は、層間剥離強度を弱めた、二層以上で抄紙する紙の製造方法において、該層間にピグメントをピグメント濃度0.5%〜30%の分散液としてスプレーし、スプレーされた湿紙を重ねて吸引および/またはプレス脱水し、その後で乾燥工程をへて抄き合わせ抄造することを特徴とする、ピグメントスプレー紙の抄紙方法を提供する。
【0008】
本発明の層間にスプレーされたピグメントが層間剥離強度を弱める理由は、ピグメントがパルプ繊維間に介在して、パルプ繊維間の結合を阻害することによって、層間剥離強度が低下するためと思われる。 従って層間に適用されるピグメントの量は層間剥離強度を適当な程度に弱めるために重要な要素である。層間のピグメント適用量は経済性および製造能率から少ないスプレー回数、即ち1度または2度、特に好ましくは1度のスプレー回数による場合には、スプレーされるピグメント濃度によって調整できる。しかしスプレー回数を複数回にすれば、1回毎のピグメント濃度でなく合計のピグメント適用量が最も重要となることは言うまでもない。
【0009】
ピグメント分散液の濃度が低くピグメント適用量が少ないと、ピグメント分散液をスプレーしない紙に近い層間剥離強度となり、ピグメント分散液の濃度が高くピグメント適用量が多いと、抄紙時に剥離してしまう程、層間剥離強度が限りなく0 N/mに近くなる。したがって、ピグメント分散液の濃度を変えてピグメント適用量を変えることによって、層間剥離強度を任意に選択することができる。
【0010】
鋭意研究の結果、ピグメント分散液の濃度が低過ぎ0.1g/m以下のピグメント適用量だと、層間剥離強度が40 N/m以上となり、剥がすときの抵抗が強すぎて、剥がしにくく作業性が悪くなる。 また、骨を刺すときの抵抗が強すぎて、骨が刺しにくく作業性が悪くなる。
【0011】
また、ピグメント分散液の濃度が高過ぎて6g/m以上のピグメント適用量だと、層間剥離強度が1 N/m以下になり、常態でも剥がれ易くなり、抄紙時又は印刷時に剥がれたり、骨を刺したときに、そこからはらはらと全体に剥がれてしまったりする。
【0012】
よって、ピグメント分散液を紙の層間にスプレーすることによって、層間剥離強度の弱い紙を得ることができるようになるが、掛け軸用紙、写経用紙、表具用紙、扇子用紙などの用途としては、抄紙した紙の層間剥離強度を1 N/m〜40 N/mとすることが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
前述したように、本発明によって、紙の層間剥離強度を任意に弱めることができ、剥がして使う用途、層間に骨を刺す用途などに提供でき、それらの用途での作業性を画期的に向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定して解釈されない。
【0015】
本発明は、木材パルプを用いて抄紙し、その抄紙の途中で層間剥離強度を弱めるために、ピグメント分散液を層間にスプレーして抄造したピグメントスプレー紙である。
【0016】
本発明の紙を構成する材料、構成要素及びその製法について項分けして説明する。
【0017】
本発明で使用する木材パルプとしては、主にN−BKP(針葉樹晒しクラフトパルプ)及びL−BKP(広葉樹晒しクラフトパルプ)に代表される木材漂白化学パルプが使用される。必要に応じて、GP(砕木パルプ)、TMP(サーモメカニカルパルプ)、BCTMP(晒ケミサーモメカニカルパルプ)などの機械パルプ、古紙パルプを適宜配合することもできる。
【0018】
二層以上の各層の坪量は、特に限定されるものではないが、要望によって任意に設定できる。また、層の数も、設定坪量に合わせて、任意に設定できる。また、スプレーをする層間の数は、剥がす箇所の数又は骨を差し込む箇所の数によって任意に選択できる。
(スプレー用ピグメント)
スプレー用ピグメントとしては、カオリンクレー、タルク、炭酸カルシウム、酸化チタン、シリカ、水酸化アルミニウムなどが適宜用いられる。
(添加薬品)
スプレー用ピグメント以外に、他の要求特性に応じて、紙料中には、サイズ剤、紙力剤、填料、バンド、歩留まり向上剤、染料、蛍光染料などが適宜用いられる。
【0019】
サイズ剤としては、中性ロジンサイズ剤、酸性ロジンサイズ剤、アルキルケテンダイマーなどが適宜用いられる。
【0020】
紙力剤としては、各種澱粉、ポリアクリルアミド(PAM)などが適宜用いられる。
【0021】
歩留まり向上剤としては、コロイダルシリカ、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミンなどが適宜用いられる。
【0022】
紙の製法は、複数のシリンダーバットをもつ丸網抄紙機で抄紙し、プレス工程、乾燥工程などを経て紙を抄造する。また、乾燥工程の中間に設置されるオンマシンサイズプレス装置で、表面サイズ処理を行える。通常の2本ロールサイズプレスの他、ゲートロールサイズプレス、メタリングサイズプレスなども使用できる。
【0023】
表面サイズ液としては、各種澱粉、ポリビニルアルコール(PVA)、PAM、水分散エマルジョンバインダーなどが適宜用いられる。
【0024】
填料としては、カオリンクレー、タルク、炭酸カルシウム、酸化チタン、シリカ、水酸化アルミニウムなどが適宜用いられる。
【0025】
本発明によって、スプレーを施す方法としては、抄紙機上で通常通り、ワイヤーに走行方向に対して直角にスプレーノズルを設置し、要求される層間剥離強度に応じて、濃度0.5%〜30%程度のピグメント分散液を0.1〜6g/mの適用量でスプレーする。
【0026】
次にスプレーされた湿紙を複数枚重ねて吸引脱水、プレス脱水した後、乾燥工程を経て抄造し、ピグメントスプレー紙を得る。
【0027】
以上の製法による効果によって、紙の層間剥離強度を任意に弱めることができ、剥がして使う用途、層間に骨を刺す用途などに提供でき、それらの用途での作業性を画期的に向上できる。
【0028】
また、抄造後には、スーパーキャレンダー、マシンキャレンダー、ソフトキャレンダーなどのキャレンダー装置を用いて平滑化処理も行うことができる。
【0029】
[実施例]
以下、実施例を挙げて本発明を、より具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、例中の「%」は特に断らない限り「固形質量%」を、「部」は「質量部」を示す。
【実施例1】
【0030】
≪ピグメントスプレー紙の作成≫
<原料配合>
N−BKP50%とL−BKP50%からなるカナディアンスタンダードフリーネス(CSF)470mlのパルプスラリーに、パルプ100質量部(固形分)に対してサイズ剤0.3質量部、バンド0.2質量部を添加し、原料とした。
【0031】
前記原料を用いて、丸網抄紙機によって四層抄きを行い、表層を坪量40g/m、中層を坪量50g/mと50g/mの二層、及び裏層を坪量40g/mとして抄紙し、湿紙を抄き合わせる前に、次に示す配合のピグメント分散液を、前記中層の二層の中間にスプレーノズルを使って1回でスプレーし、本発明のピグメントスプレー紙を抄造した。
【0032】
<ピグメント分散液配合>
タルク(Tライト83、製造元:太平タルク社)を、水で分散して固形分で3%濃度とした。タルク適用量は0.6g/mである。
【実施例2】
【0033】
実施例1において、ピグメント分散液配合で、タルクの固形分濃度を7%とし、他は実施例1と同様にして本発明のピグメントスプレー紙を抄造した。タルク適用量は1.4g/mである。
【実施例3】
【0034】
実施例1において、ピグメント分散液配合で、タルクの固形分濃度を1%とし、他は実施例1と同様にして本発明のピグメントスプレー紙を抄造した。タルク適用量は0.2g/mである。
【実施例4】
【0035】
実施例1において、ピグメント分散液配合で、タルクの代わりに、カオリンクレーを使用して、他は実施例1と同様にして本発明のピグメントスプレー紙を抄造した。カオリンクレー適用量は0.6g/mである。
(比較例1)
実施例1において、ピグメント分散液を中間層にノズルでスプレーしない以外は、実施例1と同様にしてピグメントをスプレーしない紙を抄造した。
(比較例2)
実施例1において、ピグメント分散液の代わりに馬鈴薯湖化澱粉の0.2%分散液を用いる以外は、実施例1と同様にして澱粉スプレー紙を抄造した。澱粉適用量は0.02g/mである。
【0036】
【表1】

【0037】
(1)層間剥離強度の測定方法
JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法 No.19−1「板紙−すき合わせ層のはく離強さ試験方法−第1部:最大荷重測定方法」による
(2)手による剥がし易さの試験方法
50mm幅でカットして、手の指を用いて紙の層間から剥がし、次のように判定する。
○−簡単に、軽く層間で剥がすことができる。
△−層間で剥がすことができるが、重い感じがして、ゆっくり剥がさないと、他の層 に移動し、剥がす用途の紙としては、作業性が悪い。
×−なかなか剥がし難く、きれいに層間で剥ぐことができず、すぐに他の層に移動し てしまい、剥がす用途の紙としては、全く商品価値が無い。
(3)紙層間への骨の刺し易さの試験方法
紙の層間に扇子の骨を刺し、次のように判定する。
○−簡単に、軽く層間に骨を刺すことができる。
△−層間に骨を刺すことができるが、重い感じがして、ゆっくり刺さないと、他の層 に骨が移動してしまい、骨を刺す用途の紙としては、作業性が悪い。
×−なかなか骨を刺すことができず、きれいに層間に刺せず、すぐに他の層に骨が移 動してしまい、骨を刺す用途の紙としては、全く商品価値が無い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二層以上で抄紙する紙において、該層間にピグメントをピグメント分散液としてスプレーして抄紙することによって層間剥離強度を弱めたことを特徴とするピグメントスプレー紙。
【請求項2】
二層以上で抄紙する紙において、該層間にピグメントをピグメント分散液としてスプレーすることによって、ピグメント適用量を0.1〜6g/mとしたことを特徴とする請求項1記載のピグメントスプレー紙。
【請求項3】
二層以上で抄紙する紙において、該層間にピグメントをピグメント分散液としてスプレーすることによって、層間剥離強度を1 N/m〜40 N/mになるように抄紙したことを特徴とする請求項1または2に記載のピグメントスプレー紙。
【請求項4】
層間剥離強度を弱めた、二層以上で抄紙する紙の製造方法において、該層間にピグメントをピグメント濃度0.5%〜30%の分散液としてスプレーし、スプレーされた湿紙を重ねて吸引および/またはプレス脱水し、その後で乾燥工程をへて抄き合わせ抄造することを特徴とする、上記方法。