説明

ピストンポンプ及びそれを備えた動力伝達装置、並びにピストンモータ

【課題】シリンダが形成された回転部材の回転している方向に拘わらずシリンダへのオイルの吸入抵抗及びシリンダからのオイルの吐出抵抗をそれぞれ低減することが可能なピストンポンプを提供する。
【解決手段】アウターレース13には、正回転時にはオイル供給通路として、逆回転時にはオイル排出通路として機能する第1通路36と正回転時にはオイル排出通路として、逆回転時にはオイル供給通路として機能する第2通路37とが開口し、回転軸線Ax1と交差するバルブ面38aが設けられ、インナーレース15は接触面15aとシリンダ16とを連通する第1案内通路41及び第2案内通路42とを備えたピストンポンプ7Aにおいて、第1案内通路41がシリンダ16から接触面15aに向かうに従って正転方向Aに傾斜するように設けられ、第2案内通路42がシリンダ16から接触面15aに向かうに従って逆転方向Bに傾斜するように設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに相対回転可能に設けられた第1回転部材及び第2回転部材を備えたピストンポンプ、及びそれを備えた動力伝達装置、並びにピストンモータに関する。
【背景技術】
【0002】
アキシャルピストンポンプにおいて、流体吸入用の低圧口及び流体吐出用の高圧口に連通し、シリンダブロックのピストン室(シリンダ)に流体を案内する切欠溝及び導油孔をピストン室の内部に向かって斜めに画成し、これにより吸入時の噴流の向きをピストン室内部に向けて壁面のキャビテーションエロージョンを防止するものが知られている(特許文献1参照)。その他、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2が存在する。
【0003】
【特許文献1】特開2000−345955号公報
【特許文献2】特開2005−256960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のポンプでは、一方向に傾いた切欠溝しか設けられていない。そのため、そのシリンダブロックの回転方向が切欠溝の傾きと同じ方向の場合はシリンダ内に流体がスムーズに流入するが、シリンダブロックが切欠溝の傾きと反対の方向に回転した場合には切欠溝を介して流体がシリンダ内に流入し難くなり、流体の吸入抵抗が増加するおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、シリンダが形成された回転部材の回転している方向に拘わらずシリンダへのオイルの吸入抵抗及びシリンダからのオイルの吐出抵抗をそれぞれ低減することが可能なピストンポンプ及びそれを用いた動力伝達装置、並びにピストンモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のピストンポンプは、互いに相対回転可能に設けられる第1回転部材及び第2回転部材を備え、前記第1回転部材には、前記第2回転部材が前記第1回転部材に対して所定回転方向に回転した場合に外部からオイルが導かれるオイル供給通路として機能し、前記第2回転部材が前記第1回転部材に対して前記所定回転方向と逆の逆方向に回転した場合に外部にオイルを排出するオイル排出通路として機能する第1通路と、前記第2回転部材が前記第1回転部材に対して前記所定回転方向に回転した場合に前記オイル排出通路として機能し、前記第2回転部材が前記第1回転部材に対して前記逆方向に回転した場合に前記オイル供給通路として機能する第2通路と、が開口し、回転軸線と交差する方向に延びるバルブ面が設けられ、前記第2回転部材は、前記バルブ面に開口している前記第1通路の開口部及び前記第2通路の開口部を覆い、かつ前記バルブ面と接触するように設けられる接触面と、ピストンが往復動可能に挿入されるシリンダと、前記接触面に開口して前記第1通路と前記シリンダとを連通するための第1案内通路と、前記接触面に開口して前記第2通路と前記シリンダとを連通するための第2案内通路と、を備えるピストンポンプにおいて、前記第1案内通路が前記シリンダから前記接触面に向かうに従って前記所定回転方向に傾斜するように設けられるとともに、前記第2案内通路が前記シリンダから前記接触面に向かうに従って前記逆方向に傾斜するように設けられていることにより、上述した課題を解決する(請求項1)。
【0007】
本発明のピストンポンプによれば、第2回転部材が所定回転方向に回転するときはこの所定回転方向に傾斜している第1案内通路を介してシリンダにオイルが導入され、所定回転方向と逆方向に傾斜している第2案内通路を介してシリンダからオイルが排出される。一方、第2回転部材が逆方向に回転するときは第2案内通路を介してシリンダにオイルが導入され、第1案内通路を介してシリンダからオイルが排出される。すなわち、本発明のピストンポンプでは、シリンダへのオイルの導入は第2回転部材が回転している方向と同じ方向に傾斜している案内通路を介して行われ、シリンダからのオイルの排出は第2回転部材が回転している方向と反対の方向に傾斜している案内通路を介して行われるので、第2回転部材の回転方向に拘わらずシリンダへのオイルの導入及びシリンダからのオイルの排出をそれぞれスムーズに行うことができる。そのため、第2回転部材の回転方向に拘わらずシリンダにオイルが吸入される際のオイルの吸入抵抗及びシリンダからオイルが吐出される際のオイルの吐出抵抗をそれぞれ低減することができる。
【0008】
本発明のピストンポンプの一形態において、前記シリンダは、前記ピストンが前記回転軸線に沿って往復動するように前記第2回転部材に設けられていてもよいし(請求項2)、前記シリンダは、前記ピストンが前記回転軸線と直交する方向に往復動するように前記第2回転部材に設けられていてもよい(請求項3)。すなわち、本発明のピストンポンプは、アキシャルピストンポンプでもよいし、ラジアルピストンポンプでもよい。
【0009】
本発明の動力伝達装置は、車両の走行用動力源から駆動輪までの動力伝達経路内に設けられる動力伝達装置において、上述したピストンポンプを備え、前記動力伝達経路の出力側又は入力側のいずれか一方が前記第1回転部材に接続され、前記動力伝達経路の出力側又は入力側のいずれか他方が前記第2回転部材に接続されることにより、上述した課題を解決する(請求項4)。
【0010】
本発明の動力伝達装置によれば、動力伝達経路の出力側と入力側との間に上述したピストンポンプが介在するので、入力側と出力側との回転差によってポンプが駆動され、これによりオイルの吸入及び吐出が行われる。そのため、この動力伝達装置では、ポンプによって汲み出されるオイルの流量を調整することにより、入力側と出力側との回転数差を調整することができる。また、本発明の動力伝達装置は、上述したピストンポンプを備えるので、第2回転部材の回転方向に拘わらずシリンダへのオイルの吸入抵抗及びシリンダからのオイルの吐出抵抗をそれぞれ低減することができる。この場合、シリンダへのオイルの導入及びシリンダからのオイルの吐出を速やかに行うことができるので、入出力軸間の回転数差を増大させることができる。
【0011】
本発明のピストンモータは、互いに相対回転可能に設けられる第1回転部材及び第2回転部材を備え、前記第1回転部材には、前記第2回転部材を前記第1回転部材に対して所定回転方向に回転させる場合に外部からオイルが導かれるオイル供給通路として機能し、前記第2回転部材を前記第1回転部材に対して前記所定回転方向と逆の逆方向に回転させる場合に外部にオイルを排出するオイル排出通路として機能する第1通路と、前記第2回転部材を前記第1回転部材に対して前記所定回転方向に回転させる場合に前記オイル排出通路として機能し、前記第2回転部材を前記第1回転部材に対して前記逆方向に回転させる場合に前記オイル供給通路として機能する第2通路と、が開口し、回転軸線と交差する方向に延びるバルブ面が設けられ、前記第2回転部材は、前記バルブ面に開口している前記第1通路の開口部及び前記第2通路の開口部を覆い、かつ前記バルブ面と接触するように設けられる接触面と、ピストンが往復動可能に挿入されるシリンダと、前記接触面に開口して前記第1通路と前記シリンダとを連通するための第1案内通路と、前記接触面に開口して前記第2通路と前記シリンダとを連通するための第2案内通路と、を備えるピストンモータにおいて、前記第1案内通路が前記シリンダから前記接触面に向かうに従って前記所定回転方向に傾斜するように設けられるとともに、前記第2案内通路が前記シリンダから前記接触面に向かうに従って前記逆方向に傾斜するように設けられていることにより、上述した課題を解決する(請求項5)。
【0012】
本発明のピストンモータによれば、第2回転部材を所定回転方向に回転させる場合は第1案内通路を介してシリンダにオイルを導入するとともに第2案内通路を介してシリンダからオイルを排出させる。一方、第2回転部材を逆方向に回転させる場合は第2案内通路を介してシリンダにオイルを導入するとともに第1案内通路を介してシリンダからオイルを排出させる。そのため、上述したピストンポンプと同様に第2回転部材を回転させる方向に拘わらずシリンダへのオイルの導入及びシリンダからのオイルの排出をそれぞれスムーズに行うことができる。そのため、第2回転部材の回転方向に拘わらずシリンダへのオイルの吸入抵抗及びシリンダからのオイルの吐出抵抗をそれぞれ低減することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上に説明したように、本発明によれば、第1案内通路が所定回転方向に傾斜するように設けられるとともに第2案内通路が逆方向に傾斜するように設けられるので、第2回転部材の回転方向に拘わらずこれらの案内通路を介してシリンダへのオイルの導入及びシリンダからのオイルの排出をそれぞれスムーズに行うことができる。そのため、第2回転部材の回転している方向に拘わらずシリンダへのオイルの吸入抵抗及びシリンダからのオイルの吐出抵抗をそれぞれ低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(第1の形態)
図1は、本発明の第1の形態に係るピストンポンプを備えた動力伝達装置が設けられた車両の動力伝達経路や各要素などを簡略化して示したスケルトン図である。車両1はその走行用動力源として内燃機関2が設けられている。内燃機関2の出力トルクはケーシング3内に収められた動力伝達装置4に入力され、変速などの各種操作が行われてから駆動輪12に伝達される。動力伝達装置4は、ダンパ機構5を介して入力軸6に伝達されたトルクがピストンポンプ(以下、ポンプと略称することがある。)7A、前後進切替装置8、無段変速部9、伝動装置10、及び最終減速機11を経由して駆動輪12に伝達されるように構成されている。また、車両1には、車両1の全体を制御するために設けられたコンピュータである電子コントロールユニット(ECU)100と、ECU100からの出力信号に基づいて動力伝達装置4の各部の油圧を制御する油圧制御装置110とが設けられている。ECU100は、例えば車両1の走行状態に応じて内燃機関2の運転状態を制御する。
【0015】
ポンプ7Aは油圧源としてのオイルポンプ機能と車両1の発進装置としての動力伝達機能とを兼備している。ポンプ7Aは入力軸6と一体回転可能に設けられる第1回転部材としてのアウターレース13のカム面14によって第2回転部材としてのインナーレース15のシリンダ16に挿入されたピストン17を入力軸6の軸線Ax1の方向に関して往復運動させることができるアキシャルピストンポンプとして構成されている。インナーレース15側の回転は入力軸6の外側に同軸に設けられた中空状のコネクティングドラム18に伝達される。
【0016】
前後進切替装置8は、コネクティングドラム18と無段変速部9のプライマリ軸19との間に介在し、プライマリ軸19の回転方向を正転方向と逆転方向とに切り替える。前後進切替装置8は遊星歯車機構20を備えており、その遊星歯車機構20はプライマリ軸19と一体回転するサンギア20aと、サンギア20aと同軸に設けられたリングギア20bとこれらのギア20a、20bのそれぞれと噛み合うピニオンギア20cをサンギア20aの周りに公転可能かつ自転可能な状態で保持するキャリア20dとを備える。また、前後進切替装置8はサンギア20aとリングギア20bとの結合及びその結合の解除を行うクラッチ21と、キャリア20dの回転の阻止及びその阻止の解除を行う制動装置22とを備えている。前後進切替装置8は、キャリア20dの回転を制動装置22にて許容した状態でサンギア20aとリングギア20bとをクラッチ21にて結合することによりプライマリ軸19の回転方向を正転方向に切り替えるとともに、キャリア20dの回転を制動装置22にて阻止した状態でサンギア20aとリングギア20bとの結合をクラッチ21にて解除することによりプライマリ軸19の回転方向を逆転方向に切り替える。
【0017】
無段変速部9はベルトを利用した周知の無段変速機構により構成されている。無段変速部9は、プライマリ軸19と一体回転するプライマリプーリ23及び伝動装置10に接続されるセカンダリ軸24と一体回転するセカンダリプーリ25及びベルト26により構成される。そして、ポンプ7の発生する油圧を用いて各プーリ23、25の溝幅を変化させることにより、各プーリ23、25に巻き掛けられるベルト26の巻き掛け径を変化させてプライマリ軸19とセカンダリ軸24との回転速度比を無段階に変更することができる。無段変速部9から出力された回転は、伝動装置10にて減速されてから最終減速機11でさらに減速されて駆動輪12に連結された駆動軸27に出力される。
【0018】
次に図2〜図6を参照して図1に示したポンプ7Aの詳細について説明する。なお、図2は、ポンプ7Aの要部を示した縦断面図である。また、図3は図2のIII−III線におけるアウターレース13の断面図であり、図4は図2のIV−IV線におけるインナーレース15の断面図である。図5は、アウターレース13がインナーレース15に対して図5の右側(図2の紙面手前側)に回転するように、言い換えるとインナーレース15がアウターレース13に対して図5の左側に回転するようにアウターレース13とインナーレース15とが相対回転したときのピストン17の動作を示している。以降、図5に矢印Aで示したようにアウターレース13に対してインナーレース15が左側に回転することを正回転と称し、この回転方向を正転方向と称することがある。そして、この正転方向が本発明の所定回転方向に相当する。一方、図6は、アウターレース13がインナーレース15に対して図5の左側(図2の紙面奥側)に回転するように、言い換えるとインナーレース15がアウターレース13に対して図5の右側に回転するようにアウターレース13とインナーレース15とが相対回転したときのピストン17の動作を示している。以降、図6に矢印Bで示したようにアウターレース13に対してインナーレース15が右側に回転することを逆回転と称し、この回転方向を逆転方向と称することがある。この逆転方向が本発明の逆方向に相当する。
【0019】
図2に示したようにポンプ7Aは、車両1の車体に固定されるポンプハウジング30と、アウターレース13と、インナーレース15とを備えている。アウターレース13は、ポンプハウジング30に軸受31を介して軸線Ax1回りに回転自在に支持される。また、図2に示したようにアウターレース13とポンプハウジング30との間には、ポンプ7Aからオイルが漏れないようにオイルシール32が設けられている。インナーレース15は、アウターレース13と同軸、かつアウターレース13と相対回転可能なようにベアリング33を介してアウターレース13に支持される。図2に示したようにポンプハウジング30には、油圧制御装置110と接続され、内面30aに開口する第1オイル通路34及び第2オイル通路35が設けられている。第1オイル通路34の開口部34aと第2オイル通路35の開口部35aとは、軸線Ax1を中心に同心円状に全周に亘って内面30aに開口するように設けられる。
【0020】
アウターレース13は、第1通路36及び第2通路37が設けられる切替バルブ部38と、スプリング40にて付勢されたピストン17の頂部に設けられたローラ17aが当接して転動するカム面14を有するカム部39とを備えている。第1通路36及び第2通路37は、図2の左右方向に切替バルブ部38を貫通するように形成され、インナーレース15の接触面15aと接触するように軸線Ax1と交差する方向に延びるバルブ面38aに開口する。図3に示したように、第1通路36と第2通路37とはそれぞれ周方向に等間隔で複数(図3では6つ)ずつ設けられる。また、図3に示したように第1通路36と第2通路37とは、第1通路36が配置される仮想円C1と第2通路37が配置される仮想円C2とが同心円を描くように設けられる。第1通路36は、図2に示したようにアウターレース13がポンプハウジング30に組み付けられた際にポンプハウジング30の内面30aに開口する第1オイル通路34の開口部34aと連通するように設けられる。一方、第2通路37は、図2に示した状態においてポンプハウジング30の内面30aに開口する第2オイル通路35の開口部35aと連通するように設けられる。カム面14は、軸線Ax1方向に複数の凹凸が所定間隔で交互に配置され、これら凹凸が互いに滑らかに接続されるように形成される。なお、カム面14の凹凸は、バルブ面38aに開口している第1通路36の開口部である第1ポート36a及び第2通路37の開口部である第2ポート37aと対応付けて形成される。例えば、図5に示したようにピストン17のローラ17aがカム面14の凹部14aに沿って転動しているときにシリンダ16の底部と第1通路36の第1ポート36aとが対向し、ピストン17のローラ17aがカム面14の凸部14bに沿って転動しているときにシリンダ16の底部と第2通路37の第2ポート37aとが対向するようにカム面14の凹凸が形成される。
【0021】
図4に示したようにインナーレース15には、軸線Ax1に沿って形成されるシリンダ16が8個形成される。これら8個のシリンダ16は、周方向に等間隔で形成される。各シリンダ16には、それぞれピストン17が往復動自在に挿入される。また、各シリンダ16には、ピストン17を図2の右方向に付勢するスプリング40が設けられる。各シリンダ16には、その底面からアウターレース13の切替バルブ部38と接触する接触面15aに向かって延びてその接触面15aに開口する第1案内通路41及び第2案内通路42がそれぞれ設けられる。図4に示したように第1案内通路41は、接触面15aに開口する開口部が第1通路36の仮想円C1と同じ直径の仮想円C3上に配置されるように設けられる。このように第1案内通路41を設けることにより、第1案内通路41と第1通路36とを連通させることができるので、第1オイル通路34とシリンダ16とを第1案内通路41及び第1通路36を介して連通させることができる。一方、第2案内通路42は、接触面15aに開口する開口部が第2通路37の仮想円C2と同じ直径の仮想円C4上に配置されるように設けられる。このように第2案内通路42を設けることにより、第2案内通路42と第2通路37とを連通させることができるので、第2オイル通路35とシリンダ16とを第2案内通路42及び第2通路37を介して連通させることができる。
【0022】
そして、図5に示したように第1案内通路41は、シリンダ16の底面から接触面15aに向かうに従って図5の右側に傾斜するように設けられる。一方、第2案内通路42は、シリンダ16の底面から接触面15aに向かうに従って図5の左側、すなわち第1案内通路42とは逆の方向に傾斜するように設けられる。
【0023】
図1、図2、図5及び図6を参照してポンプ7Aにおけるオイルの流れについて説明する。まず、図5に示したようにインナーレース15が正回転するようにアウターレース13とインナーレース15とが相対回転したときのオイルの流れを説明する。この際、ECU100は、オイルパン111(図1参照)のオイルが第1オイル通路34を介してポンプ7Aに汲み上げられるように油圧制御装置110の制御弁112を制御する。そのため、図5に示したようにスプリング40によってピストン17が図5の上側に駆動されると図2に矢印Fで示したように第1オイル通路34、第1通路36、及び第1案内通路41を介してシリンダ16内にオイルが吸入される。一方、ピストン17がカム面14の凸部14bにて図5の下側に駆動されると第2案内通路42、第2通路37、及び第2オイル通路35を介してシリンダ16からオイルがオイルパン111に排出される。この場合、第1通路36が本発明のオイル供給通路として機能し、第2通路37が本発明のオイル排出通路として機能する。
【0024】
次に、図6を参照してインナーレース15が逆回転するようにアウターレース13とインナーレース15とが相対回転したときのオイルの流れを説明する。この際、ECU100は、オイルパン111のオイルが第2オイル通路35を介してポンプ7Aに汲み上げられるように油圧制御装置110の制御弁112を制御する。この場合、図2に矢印Fで示した方向とは逆の方向にオイルが流れる。そのため、図6に示したようにスプリング40によってピストン17が図6の上側に駆動されると第2オイル通路35、第2通路37、及び第2案内通路42を介してシリンダ16内にオイルが吸入される。一方、ピストン17がカム面14の凸部14bにて図6の下側に駆動されると第1案内通路41、第1通路36、及び第1通路34を介してシリンダ16からオイルがオイルパン111に排出される。この場合は、第2通路37が本発明のオイル供給通路として機能し、第1通路36が本発明のオイル排出通路として機能する。
【0025】
シリンダ16から排出されたオイルは油圧制御装置110を介してオイルパン111に送られる。図1に示すように油圧制御装置110には、ポンプ7Aから吐出されるオイルの流量を調整する流量調整弁113が設けられている。車両1の発進時においては、この流量調整弁113を操作してポンプ7Aの吐出流量を調整することにより、ポンプ7Aの出力側、即ちコネクティングドラム18の回転速度を制御することができる。これにより、ポンプ7Aを発進装置として機能させることができる。
【0026】
以上に説明したように、第1の形態のポンプ7Aによれば、インナーレース15の回転方向に拘わらず第1案内通路41及び第2案内通路42のうちインナーレース15が回転する方向に傾斜するように設けられた一方の案内通路を介してシリンダ16内にオイルが導入され、インナーレース15が回転する方向とは逆の方向に傾斜するように設けられた他方の案内通路を介してシリンダ16内からオイルが排出されるので、シリンダ16内へのオイルの導入及びシリンダ16からのオイルの排出をそれぞれスムーズに行うことができる。そのため、インナーレース15の回転方向に拘わらずシリンダ16にオイルが吸入される際のオイルの吸入抵抗及びシリンダ16からオイルが吐出される際のオイルの吐出抵抗をそれぞれ低減することができる
【0027】
また、本発明の動力伝達装置4は、ポンプ7Aを備えるので、シリンダ16へのオイルの導入及びシリンダ16からのオイルの吐出を速やかに行うことができる。そのため、入出力軸間の回転数差を増大させることができる。
【0028】
(第2の形態)
図7〜図10を参照して本発明の第2の形態に係るピストンポンプが組み込まれた動力伝達装置について説明する。なお、図7〜図10において図1〜図6と共通の部分には同一の参照符号を付して説明を省略する。図7は第1の形態の図1に、図8は第1の形態の図2にそれぞれ対応する図である。また、図8は図9のVIII−VIII線におけるピストンポンプの断面図であり、図9は図8のIX−IX線におけるピストンポンプの断面図である。図10は図9のX−X線におけるインナーレース15の断面図である。
【0029】
図8及び図9に示したように、第2の形態のピストンポンプ7Bでは、ピストン17が軸線Ax1と交差する方向に往復動するようにインナーレース15にシリンダ16が形成され、そのピストン17がスプリング40で付勢される方向にアウターレース13のカム面14が設けられる。すなわち、ポンプ7Bは、ピストン17がインナーレース15の半径方向に往復動されるラジアルピストンポンプである。このポンプ7Bにおいては、アウターレース13がインナーレース15に対して図8の右回り、言い換えるとインナーレース15がアウターレース13に対して図8の左回りに回転することを正回転と称し、この回転方向を正転方向と称する。一方、アウターレース13がインナーレース15に対して図8の左回り、言い換えるとインナーレース15がアウターレース13に対して図8の右回りに回転することを逆回転と称し、この回転方向を逆転方向と称する。
【0030】
図8及び図9に示したように第1案内通路41及び第2案内通路42は、シリンダ16の側面から接触面15aに向かって延びている。なお、この形態においても第1案内通路41は、接触面15aに開口する開口部が第1通路36の仮想円C1と同じ直径の仮想円上に配置されるように設けられる。また、第2案内通路42も接触面15aに開口する開口部が第2通路37の仮想円C2と同じ直径の仮想円上に配置されるように設けられる。
【0031】
そして、図10に示したように第1案内通路41は、シリンダ16の側面から接触面15aに向かうに従って図10の右側、すなわち正転方向に傾斜するように設けられている。一方、第2案内通路42は、シリンダ16の側面から接触面15aに向かうに従って図10の左側、すなわち逆転方向に傾斜するように設けられている。
【0032】
この形態においてもECU100は、インナーレース15が正回転するようにアウターレース13とインナーレース15とが相対回転する場合、オイルパン111のオイルが第1オイル通路34を介してポンプ7Bに汲み上げられるように油圧制御装置110の制御弁112を制御する。そのため、インナーレース15が正回転する場合は、図8に矢印Fで示したように第1オイル通路34、第1通路36、及び第1案内通路41を介してシリンダ16内にオイルが吸入され、第2案内通路42、第2通路37、及び第2オイル通路35を介してシリンダ16からオイルがオイルパン111に排出される。
【0033】
一方、インナーレース15が逆回転するようにアウターレース13とインナーレース15とが相対回転する場合はオイルパン111のオイルが第2オイル通路35を介してポンプ7Bに汲み上げられるように油圧制御装置110の制御弁112を制御する。そのため、この場合は第2オイル通路35、第2通路37、及び第2案内通路42を介してシリンダ16内にオイルが吸入され、第1案内通路41、第1通路36、及び第1通路34を介してシリンダ16からオイルがオイルパン111に排出される。
【0034】
以上に説明したように、第2の形態のポンプ7Bにおいてもインナーレース15の回転方向に拘わらず第1案内通路41及び第2案内通路42のうちインナーレース15の回転方向に傾斜する一方の案内通路を介してシリンダ16内にオイルが導入され、インナーレース15の回転方向とは逆の方向に傾斜する他方の案内通路を介してシリンダ16内からオイルが排出されるので、シリンダ16内へのオイルの導入及びシリンダ16からのオイルの排出をそれぞれスムーズに行うことができる。そのため、インナーレース15の回転方向に拘わらずシリンダ16にオイルが吸入される際のオイルの吸入抵抗及びシリンダ16からオイルが吐出される際のオイルの吐出抵抗をそれぞれ低減することができる
【0035】
本発明は、上述した各形態に限定されることなく、種々の形態にて実施することができる。例えば、上述した各形態において示したピストンポンプは、オイルなどを送るための単体のピストンポンプとして使用してもよい。また、周知のようにピストンポンプは、インナーレース又はアウターレースの一方を固定し、各シリンダへのオイルの導入及び排出を順次行うことによりピストンモータとして機能させることができる。そのため、上述した各形態の動力伝達装置のピストンポンプの部分は、単体のピストンモータとして使用することができる。このピストンモータにおいてもアウターレースに対するインナーレースの相対回転方向に拘わらず、シリンダへのオイルの導入及びシリンダからのオイルの排出をスムーズに行うことができる。そのため、シリンダへのオイルの吸入抵抗及びシリンダからのオイルの吐出抵抗をそれぞれ低減することができる。インナーレースに形成されるシリンダの数は8つに限定されない。本発明は、インナーレースに1つ以上のシリンダが形成されたピストンポンプに適用してよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1の形態に係るピストンポンプを備えた動力伝達装置が設けられた車両の動力伝達経路や各要素などを簡略化して示したスケルトン図。
【図2】図1のピストンポンプの要部を示した縦断面図。
【図3】図2のIII−III線におけるアウターレースの断面を示す図。
【図4】図2のIV-IV線におけるインナーレースの断面を示す図。
【図5】アウターレースがインナーレースに対して右側に回転するようにアウターレースとインナーレースとが相対回転したときのピストンの動作を示す図。
【図6】アウターレースがインナーレースに対して左側に回転するようにアウターレースとインナーレースとが相対回転したときのピストンの動作を示す図。
【図7】本発明の第2の形態に係るピストンポンプを備えた動力伝達装置が設けられた車両の動力伝達経路や各要素などを簡略化して示したスケルトン図。
【図8】図7のピストンポンプの要部を示した縦断面図。
【図9】図8のIX−IX線におけるピストンポンプの断面を示す図。
【図10】図9のX−X線におけるインナーレースの断面を示す図。
【符号の説明】
【0037】
1 車両
2 内燃機関(走行用動力源)
7A、7B ピストンポンプ
12 駆動輪
13 アウターレース
15 インナーレース
15a 接触面
16 シリンダ
17 ピストン
36 第1通路
36a 第1ポート(開口部)
37 第2通路
37a 第2ポート(開口部)
38a バルブ面
41 第1案内通路
42 第2案内通路
A 正転方向(所定回転方向)
B 逆転方向(逆方向)
Ax1 軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに相対回転可能に設けられる第1回転部材及び第2回転部材を備え、
前記第1回転部材には、前記第2回転部材が前記第1回転部材に対して所定回転方向に回転した場合に外部からオイルが導かれるオイル供給通路として機能し、前記第2回転部材が前記第1回転部材に対して前記所定回転方向と逆の逆方向に回転した場合に外部にオイルを排出するオイル排出通路として機能する第1通路と、前記第2回転部材が前記第1回転部材に対して前記所定回転方向に回転した場合に前記オイル排出通路として機能し、前記第2回転部材が前記第1回転部材に対して前記逆方向に回転した場合に前記オイル供給通路として機能する第2通路と、が開口し、回転軸線と交差する方向に延びるバルブ面が設けられ、
前記第2回転部材は、前記バルブ面に開口している前記第1通路の開口部及び前記第2通路の開口部を覆い、かつ前記バルブ面と接触するように設けられる接触面と、ピストンが往復動可能に挿入されるシリンダと、前記接触面に開口して前記第1通路と前記シリンダとを連通するための第1案内通路と、前記接触面に開口して前記第2通路と前記シリンダとを連通するための第2案内通路と、を備えるピストンポンプにおいて、
前記第1案内通路が前記シリンダから前記接触面に向かうに従って前記所定回転方向に傾斜するように設けられるとともに、前記第2案内通路が前記シリンダから前記接触面に向かうに従って前記逆方向に傾斜するように設けられていることを特徴とするピストンポンプ。
【請求項2】
前記シリンダは、前記ピストンが前記回転軸線に沿って往復動するように前記第2回転部材に設けられている請求項1に記載のピストンポンプ。
【請求項3】
前記シリンダは、前記ピストンが前記回転軸線と直交する方向に往復動するように前記第2回転部材に設けられている請求項1に記載のピストンポンプ。
【請求項4】
車両の走行用動力源から駆動輪までの動力伝達経路内に設けられる動力伝達装置において、
請求項1〜3のいずれか一項に記載のピストンポンプを備え、
前記動力伝達経路の出力側又は入力側のいずれか一方が前記第1回転部材に接続され、前記動力伝達経路の出力側又は入力側のいずれか他方が前記第2回転部材に接続されることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項5】
互いに相対回転可能に設けられる第1回転部材及び第2回転部材を備え、
前記第1回転部材には、前記第2回転部材を前記第1回転部材に対して所定回転方向に回転させる場合に外部からオイルが導かれるオイル供給通路として機能し、前記第2回転部材を前記第1回転部材に対して前記所定回転方向と逆の逆方向に回転させる場合に外部にオイルを排出するオイル排出通路として機能する第1通路と、前記第2回転部材を前記第1回転部材に対して前記所定回転方向に回転させる場合に前記オイル排出通路として機能し、前記第2回転部材を前記第1回転部材に対して前記逆方向に回転させる場合に前記オイル供給通路として機能する第2通路と、が開口し、回転軸線と交差する方向に延びるバルブ面が設けられ、
前記第2回転部材は、前記バルブ面に開口している前記第1通路の開口部及び前記第2通路の開口部を覆い、かつ前記バルブ面と接触するように設けられる接触面と、ピストンが往復動可能に挿入されるシリンダと、前記接触面に開口して前記第1通路と前記シリンダとを連通するための第1案内通路と、前記接触面に開口して前記第2通路と前記シリンダとを連通するための第2案内通路と、を備えるピストンモータにおいて、
前記第1案内通路が前記シリンダから前記接触面に向かうに従って前記所定回転方向に傾斜するように設けられるとともに、前記第2案内通路が前記シリンダから前記接触面に向かうに従って前記逆方向に傾斜するように設けられていることを特徴とするピストンモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−127490(P2009−127490A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−302074(P2007−302074)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】