説明

ピリジンアセトニトリルの製造方法

【課題】 医薬品等の合成用中間体として用いられるピリジンアセトニトリルをより安全に製造する方法を提供すること。
【解決手段】
ピリジン酢酸とアルコールとを反応させて、ピリジン酢酸エステルとなし、次いで、これとアンモニアとを反応させて、ピリジン酢酸アミドとなし、さらに、これとビルスマイヤー試薬とを反応させることを特徴とするピリジンアセトニトリルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品等の合成用中間体として有用であるピリジンアセトニトリルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ピリジンアセトニトリルの製造方法としては、例えば、ブロモピリジンとアセトニトリルとを反応させる方法(非特許文献1)が知られている。
【0003】
【非特許文献1】Izvestiya Akademii Nauk SSSR,(12),2812-15;1981
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に記載の製造方法によると、毒性が高い有機ハロゲン化物であるブロモピリジンを使用する必要がある。
【0005】
本発明は、ピリジンアセトニトリルをより安全に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下に示すとおりのピリジンアセトニトリルの製造方法に関する。
項1.式(1);
【0007】
【化1】

で表されるピリジン酢酸と式(2);
【0008】
【化2】

(式中、R1はアルキル基を示す。)で表されるアルコールとを反応させて、式(3);
【0009】
【化3】

(式中、R1は式(1)におけるRと同じ基を示す。)で表されるピリジン酢酸エステルとなし、次いで、これとアンモニアとを反応させて、式(4);
【0010】
【化4】

で表されるピリジン酢酸アミドとなし、さらに、これとビルスマイヤー試薬とを反応させることを特徴とする式(5);
【0011】
【化5】

で表されるピリジンアセトニトリルの製造方法。
【0012】
項2.項1に記載のピリジン酢酸が3-ピリジン酢酸であり、ピリジン酢酸エステルが3−ピリジン酢酸エステルであり、ピリジン酢酸アミドが3−ピリジン酢酸アミドであり、ピリジンアセトニトリルが3−ピリジンアセトニトリルである項1に記載のピリジンアセトニトリルの製造方法。
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明に用いられるピリジン酢酸は、下記式(1)で表される化合物である。
【0015】
【化6】

【0016】
式(1)で表されるピリジン酢酸の具体例としては、2-ピリジン酢酸、3-ピリジン酢酸、および4−ピリジン酢酸等が挙げられる。中でも、入手の容易さの観点から3−ピリジン酢酸が好適に用いられる。
【0017】
本発明に用いられるアルコールは、下記式(2)で表される化合物である。
【0018】
【化7】

式(2)において、Rは、アルキル基を示す。
【0019】
アルキル基の炭素数は、例えば炭素数1〜4であることが好ましい。
【0020】
炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基等が挙げられる。
【0021】
式(2)で表されるアルコールの具体例としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコールおよびイソプロピルアルコール等を挙げることができる。中でも、メチルアルコールが経済性の観点から好適に用いられる。
【0022】
アルコールの使用割合は、特に限定されるものではなく、ピリジン酢酸1モルに対して、1〜20モルであることが好ましく、2〜15モルであることがさらに好ましい。アルコールの使用割合が1モル未満の場合、得られるピリジン酢酸エステルの収率が低下するおそれがある。また、アルコールの使用割合が20モルを超える場合、使用量に見合う効果がなく経済的ではない。
【0023】
式(1)で表されるピリジン酢酸と式(2)で表されるアルコールとを反応させる方法は特に限定されず、例えば、所定量のピリジン酢酸、アルコール、エステル化剤、および必要に応じて反応溶媒を混合し、所定の温度に維持して攪拌する方法を挙げることができる。
【0024】
エステル化剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、塩化チオニル、無水トリフルオロ酢酸、硫酸、クロロ炭酸エステル類、カルボン酸無水物等を挙げることができる。中でも、エステル化反応の促進、後処理の簡便性の観点から、塩化チオニルが好ましく用いられる。
【0025】
エステル化剤の使用割合は、特に限定されるものではないが、例えば、ピリジン酢酸1モルに対して、1〜20モルである。
【0026】
反応溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、モノクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、クロロホルム、二塩化エチレン、ジエチルエーテル、ニトロメタン、ニトロエタン等の非水溶性有機溶媒、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の水溶性有機溶媒等が挙げられる。
【0027】
反応溶媒の使用量は、ピリジン酢酸類100重量部に対して、0〜2000重量部であることが好ましい。反応溶媒の使用量が2000重量部を超える場合、容積効率が悪化するおそれがある。
【0028】
反応温度は0〜100℃が好ましく、20〜70℃がさらに好ましい。反応温度が0℃未満の場合、反応速度が、実用上遅くなりすぎるので好ましくない。また、反応温度が100℃を超える場合、副生成物が増加するおそれがある。
【0029】
反応時間は、反応温度、反応溶媒の使用量等により異なるが、例えば、1〜20時間である。
【0030】
反応終了後、当該反応液にアルカリ化合物を添加してアルカリ性とした後、蒸留を行うことによりピリジン酢酸エステルを容易に単離できる。
【0031】
アルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウム等を挙げることができる。中でも、経済性の観点から炭酸ナトリウムが好ましく用いられる。
【0032】
かくして得られるピリジン酢酸エステルは下記式(3)で表される化合物である。
【0033】
【化8】

式(3)において、R1は、式(1)におけるRと同じ基を示す。
【0034】
式(3)で表されるピリジン酢酸エステルの具体例としては、例えば、2−ピリジン酢酸メチルエステル、3−ピリジン酢酸メチルエステル、4−ピリジン酢酸メチルエステル等が挙げられる。
【0035】
本発明において、下記式(4)で表されるピリジン酢酸アミドは、前記ピリジン酢酸エステルをアンモニアと反応させることにより得ることができる。
【0036】
【化9】

【0037】
式(4)で表されるピリジン酢酸アミドの具体例としては、2-ピリジン酢酸メチルアミド、3-ピリジン酢酸メチルアミド、4−ピリジン酢酸メチルアミド
等が挙げられる。
【0038】
前記ピリジン酢酸エステルと反応させるアンモニアの使用割合は、ピリジン酢酸エステル1モルに対して、1〜20モルであることが好ましく、2〜15モルであることがさらに好ましい。アンモニアの使用割合が1モル未満の場合、収率が低下するおそれがある。また、アンモニアの使用割合が20モルを超える場合、使用割合に見合う効果がなく経済的ではない。
【0039】
式(3)で表されるピリジン酢酸エステルとアンモニアを反応させる方法は特に限定されず、例えば、ピリジン酢酸エステルと反応溶媒を反応容器に仕込み、所定温度に維持して、アンモニアガスを吹き込む方法を挙げることができる。
【0040】
ピリジン酢酸エステルとアンモニアとの反応に用いられる反応溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、モノクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、クロロホルム、二塩化エチレン、ジエチルエーテル、ニトロメタン、ニトロエタン等の非水溶性有機溶媒、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、およびメチルアルコール、エチルアルコール等のアルコール類等の水溶性有機溶媒等が挙げられる。中でも、反応後のピリジン酢酸アミドの単離の容易性、廃水による環境負荷の軽減および経済性の観点から、アルコール類が好適に用いられる。
【0041】
前記反応溶媒の使用量は、ピリジン酢酸エステル100重量部に対して、200〜2000重量部であることが好ましい。反応溶媒の使用量が200重量部未満の場合、反応が円滑に進行しにくくなるおそれがある。また、反応溶媒の使用量が2000重量部を超える場合、容積効率が悪化するおそれがあるため好ましくない。
【0042】
反応温度は0〜100℃が好ましく、20〜70℃がさらに好ましい。反応温度が0℃未満の場合、反応速度が遅く実用的でない。また、反応温度が100℃を超える場合、副生成物が増加するおそれがある。反応時間は、反応温度、反応溶媒の使用量等により異なるが、通常、5〜30時間である。
【0043】
かくして得られるピリジン酢酸アミドは、当該反応液を加熱して反応溶媒を留去することにより容易に単離できる。
【0044】
本発明において下記式(5)で表されるピリジンアセトニトリルは、前記ピリジン酢酸アミドをビルスマイヤー試薬と反応させることにより得ることができる。
【0045】
【化10】

【0046】
式(5)で表されるピリジンアセトニトリルの具体例としては、3-ピリジンアセトニトリル、2-ピリジンアセトニトリル、4−ピリジンアセトニトリル
等が挙げられる。
【0047】
ビルスマイヤー試薬としては、例えば、N,Nジメチルホルムアミドと塩化チオニルにより調製したもの、およびN,Nジメチルホルムアミドとオキシ塩化リンにより調製したもの等が用いられる。中でも、経済性の観点から、N,Nジメチルホルムアミドと塩化チオニルにより調製したものが好適に用いられる。
【0048】
ビルスマイヤー試薬の使用割合は、ピリジン酢酸アミド1モルに対して、1〜10モルであることが好ましく、1.3〜5モルであることがさらに好ましい。ビルスマイヤー試薬の使用割合が1モル未満の場合、収率が低下するおそれがある。また、ビルスマイヤー試薬の使用割合が10モルを超える場合、使用割合に見合う効果がなく経済的ではない。
【0049】
前記ピリジン酢酸アミドとビルスマイヤー試薬との反応に用いられる反応溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、モノクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、クロロホルム、二塩化エチレン、ジエチルエーテル、ニトロメタン、ニトロエタン等の非水溶性有機溶媒、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトン、N,Nジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルアルコール、エチルアルコール等の水溶性有機溶媒等が挙げられる。中でも、反応操作性や反応後のピリジンアセトニトリルの単離の容易性、廃水による環境負荷の軽減および経済性の観点から、ビルスマイヤー試薬の原料としても用いられるN,Nジメチルホルムアミドが好適に用いられる。
【0050】
前記反応溶媒の使用量は、ピリジン酢酸アミド100重量部に対して、200〜2000重量部であることが好ましい。反応溶媒の使用量が200重量部未満の場合、反応が円滑に進行しにくくなるおそれがある。また、反応溶媒の使用量が2000重量部を超える場合、容積効率が悪化するおそれがあり好ましくない。
【0051】
反応温度は0〜100℃が好ましく、0〜50℃であることがさらに好ましい。反応温度が0℃未満の場合、反応速度が遅くなるおそれがある。また、反応温度が100℃を超える場合、副生成物が増加するおそれがある。
【0052】
反応時間は、反応温度、溶媒の使用量等により異なるが、例えば、0.1〜30時間である。
【0053】
かくして得られるピリジンアセトニトリルは、当該反応液にアルカリ化合物を添加してアルカリ性とした後、蒸留を行うことにより容易に単離できる。
【0054】
アルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウム等を挙げることができる。中でも、経済性の観点から炭酸ナトリウムが好ましく用いられる。
【発明の効果】
【0055】
本発明によると、ピリジンアセトニトリルをより安全に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
以下に実施例を掲げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0057】
実施例1
撹拌機、温度計、滴下ロート、冷却管を備えた200ml容の反応容器に3−ピリジン酢酸13.7g(0.1モル)、およびメタノール31.0gを仕込み、40℃に維持しながら塩化チオニル23.8g(0.2モル)を滴下し続けた後、5時間、攪拌して反応させた。反応終了後に炭酸ナトリウム44.0g(0.42モル)を添加し、次いで減圧下で蒸留を行うことにより、3−ピリジン酢酸メチルエステル12.8g(0.085モル)を得た。3−ピリジン酢酸に対する収率は85%であった。
【0058】
次いで、得られた3−ピリジン酢酸メチルエステルの全量12.8g(0.085モル)とメタノール128gを撹拌機、温度計、滴下ロート、冷却管を備えた200ml容の反応容器に仕込み、40℃でアンモニア18.0g(1.06モル)を吹き込み続けて、24時間反応させた。反応終了後、溶媒を留去し、3-ピリジン酢酸アミド10.0g(0.073モル)を取得した。3−ピリジン酢酸メチルエステルに対する収率は86.7%であった。
【0059】
これとは別に、撹拌機、温度計、滴下ロート、冷却管を備えた200ml容の反応容器にN,Nジメチルホルムアミド31gを仕込み、0℃で塩化チオニル12.2g(0.10モル)を滴下し、1時間反応させてビルスマイヤー試薬を調製した。これに前記3−ピリジン酢酸アミドの全量10.0g(0.073モル)を0℃に維持して添加した後、10℃で1時間反応させた。反応終了後に炭酸ナトリウム21.2g(0.20モル)を添加し、次いで減圧下で蒸留を行うことにより、3−ピリジンアセトニトリル7.0g(0.059モル)を得た。3−ピリジン酢酸アミドに対する収率は80.3%であった。
【0060】
実施例2
実施例1において、3−ピリジン酢酸13.7g(0.1モル)に代えて4−ピリジン酢酸13.7g(0.1モル)を用いた以外は実施例1と同様にして、4−ピリジンアセトニトリル8.0g(0.068モル)を得た。4−ピリジン酢酸に対する収率は68%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1);
【化1】

で表されるピリジン酢酸と式(2);
【化2】

(式中、R1はアルキル基を示す。)で表されるアルコールとを反応させて、式(3);
【化3】

(式中、R1は式(1)におけるRと同じ基を示す。)で表されるピリジン酢酸エステルとなし、次いで、これとアンモニアとを反応させて、式(4);
【化4】

で表されるピリジン酢酸アミドとなし、さらに、これとビルスマイヤー試薬とを反応させることを特徴とする式(5);
【化5】

で表されるピリジンアセトニトリルの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のピリジン酢酸が3-ピリジン酢酸であり、ピリジン酢酸エステルが3−ピリジン酢酸エステルであり、ピリジン酢酸アミドが3−ピリジン酢酸アミドであり、ピリジンアセトニトリルが3−ピリジンアセトニトリルである請求項1に記載のピリジンアセトニトリルの製造方法。

【公開番号】特開2009−280545(P2009−280545A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−136578(P2008−136578)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】