説明

ピリドキシン生合成関連機能を有するポリペプチド、それを暗号化するポリヌクレオチド、及びそれらの用途

本発明は、ピリドキシン生合成関連機能を有するポリペプチド、これを暗号化するポリヌクレオチド、及び、その用途を開示する。特に、本発明は、ピリドキシン生合成関連機能を有するポリペプチド、それを暗号化するポリヌクレオチド、植物の生長を抑制する方法、植物の生長を抑制する物質のスクリーニング方法、スクリーニング方法により得られた物質を含む植物の生長抑制用組成物を開示する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピリドキシン生合成関連機能を有するポリペプチド、それを暗号化するポリヌクレオチド、及び、それらの用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化合物名が2−メチル−3−ヒドロキシ−4,5−ジ(ヒドロキシメチル)ピリジンであるピリドキシンは、ビタミンB6群に属する化合物であり、動物と植物の生長において必須の化合物である(Gregory JF,Ann Rev Nutr 18:277−296,1998)。ピリドキシンの以外に、ピリドキシンの誘導体であるピリドキサミン、ピリドキサルなどもビタミンB6群に属する化合物であるが、このような化合物は、生体内においてピリドキサル−5−リン酸に転換される。このピリドキサル−5−リン酸は、全ての生物体において、窒素代謝作用に関与するのみならず、アミノ酸代謝等の生体内の様々な代謝作用に関与する補酵素であると知られている。
【0003】
植物には、ピリドキシン生合成経路が存在するのに対して、ヒトを含めた動物においては、ピリドキシン生合成経路が欠如している(Dolphin et al., in Vitamin B6 Pyridoxal Phosphate,1986)。したがって、ヒトを含めた動物には、ピリドキシンが必ず外部から摂取されなければならない。
【0004】
一方、動物と植物の生長に必須のピリドキシンが、植物には、その生合成経路が存在するが、ヒトを含めた動物には、その生合成経路が欠如しているというのは、重要な意味を有する。これは、ピリドキシンの生合成を阻害することができれば、ヒトを含めた動物には無害でありながら、植物の生長を効果的に抑制することが可能となる可能性を示唆しているからである。
【0005】
このような理由で、植物分野生命工学従事者等は、植物においてピリドキシン生合成に関与するポリペプチド(酵素)やポリヌクレオチド(遺伝子)を見出そうと努力している。
【0006】
本発明は、このような背景のもとで完成したものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、ピリドキシン生合成関連機能を有するポリペプチドを提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、前記ポリペプチドを暗号化するポリヌクレオチドを提供することにある。
【0009】
本発明のまた他の目的は、植物の生長を抑制する方法を提供することにある。
【0010】
本発明のまた他の目的は、植物の生長を抑制する物質のスクリーニング方法を提供することにある。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、前記スクリーニング方法により得られた物質を含む植物の生長抑制用組成物を提供することにある。
【0012】
本発明のその他の目的や具体的な態様は、以下において提示される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、一側面において、ピリドキシン生合成関連機能を有するポリペプチドを提供する。
【0014】
本発明者らは、下記の実施例から明らかなように、シロイヌナズナのピリドキシン生合成と関連すると推定される蛋白質(GeneBank accession number NP 195761)のアミノ酸配列を基礎として作製されたプライマーを用いて、シロイヌナズナから全長cDNAを得て、その塩基配列、すなわち、配列番号1の塩基配列と、転写読み取り枠(Open Reading Frame)に基づいたアミノ酸配列、すなわち、配列番号2のアミノ酸配列を分析し、それがコードするポリペプチドの分子量を推定した後、そのcDNAを含む組み換え発現ベクターを大腸菌に形質転換させて発現させ、それから得られたポリペプチドの分子量を分析した結果、前記推定された分子量と同じであることを確認し、さらには、前記cDNAの塩基配列、すなわち、配列番号1に基づいて作製されたアンチセンスヌクレオチドをシロイヌナズナに形質転換させてみた結果、ピリドキシン栄養素要求性突然変異体である形質転換されたシロイヌナズナが得られることが確認された。特に、ピリドキシン栄養素要求性突然変異体は、ピリドキシン、ピリドキサル、ピリドキサル−5−リン酸のような様々なビタミンB6群のうち、ただピリドキシンの処理によってのみ、その表現型が回復するという事実、及び、この事実から、前記ポリペプチドは、B6群に属するビタミンのうちピリドキシンの生合成に直接関与することが確認された。
【0015】
したがって、上記、また請求の範囲を含めた以下において、「ピリドキシン生合成関連機能」とは、ピリドキシン生合成に必須の機能を意味する。
【0016】
具体的に、本発明のピリドキシン生合成関連機能を有するポリペプチドは、下記(a)、(b)及び(c)のポリペプチドのいずれか一つである。
(a)配列番号2に記載されたアミノ酸配列の全体を含むポリペプチド;
(b)配列番号2に記載されたアミノ酸配列の実質的な部分を含むポリペプチド;
(c)前記(a)または(b)のポリペプチドと実質的に類似したポリペプチド。
【0017】
上記、また請求の範囲を含めた以下において、「配列番号2に記載されたアミノ酸配列の実質的な部分を含むポリペプチド」は、配列番号2に記載されたアミノ酸配列からなるポリペプチドと比較すると、未だにピリドキシン生合成関連機能を保有するとみなすのに充分な程度の配列番号2のアミノ酸配列の一部分を含むポリペプチドと定義される。未だにピリドキシン生合成関連機能を保有すればよいので、前記ポリペプチドの長さ、またそのポリペプチドが有する活性の程度は問題とならない。すなわち、配列番号2に記載されたアミノ酸配列を含むポリペプチドに比べて活性が低くても、未だにピリドキシン生合成関連機能を保有するポリペプチドであれば、その長さに拘わらず、前記「配列番号2に記載されたアミノ酸配列の実質的な部分を含むポリペプチド」に含まれるものである。当業者であれば、すなわち、本出願当時を基準として公知された関連先行技術を熟知している者であれば、配列番号2に記載されたアミノ酸配列を含むポリペプチドにおいて一部分が欠失または付加されても、これらのポリペプチドは、未だにピリドキシン生合成関連機能を有しているものと期待することである。このようなポリペプチドとして。配列番号2に記載されたアミノ酸配列を含むポリペプチドにおいて、N−末端部分またはC−末端部分が欠失したポリペプチドが挙げられる。これは、一般に、N−末端部分またはC−末端部分が欠失しても、そのポリペプチドは、本来のポリペプチドが有する機能を保有すると当業界に公知されているからである。もちろん、場合によっては、N−末端部分またはC−末端部分が、酵素の機能に必須なモチーフに関与することにより、N−末端部分またはC−末端部分が欠失したポリペプチドが、前記酵素の機能を示さないこともあり得るが、それにもかかわらず、そのような不活性のポリペプチドを活性のポリペプチドと区分して検出することは、当業者の通常の能力範囲内に属する。さらには、N−末端部分またはC−末端部分のみならず、その他の部分が欠失しても、本来のポリペプチドが有する機能を未だに有していることもある。ここでも、当業者であれば、その通常の能力範囲内において、このような欠失したポリペプチドが、未だに本来のポリペプチドが有する機能を有しているかを充分に確認することができる。特に、本明細書が、配列番号1の塩基配列及び配列番号2のアミノ酸配列を開示しており、さらには、配列番号1の塩基配列により暗号化され、配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチドが、ピリドキシン生合成関連機能を有するかを明らかに確認した実施例を開示していることから、配列番号2のアミノ酸配列において一部の配列が欠失したポリペプチドが、配列番号2のアミノ酸配列を含むポリペプチドが有する機能を未だに保有するかを、当業者は、彼の通常の能力範囲内で充分に確認することができたことが極めて自明となる。したがって、本発明における「配列番号2に記載されたアミノ酸配列の実質的な部分を含むポリペプチド」については、上記定義の通り、本明細書の開示内容に基づいて、当業者が、彼の通常の能力範囲内で製造可能なピリドキシン生合成関連機能を有する欠失した形態の全てのポリペプチドを含む意味として理解されるべきである。
【0018】
また、上記、また請求の範囲を含めた以下において、「前記(a)及び(b)のポリペプチドと実質的に類似したポリペプチド」とは、一つ以上の置換されたアミノ酸を含むが、配列番号2のアミノ酸配列を含むポリペプチドが有する機能、すなわち、ピリドキシン生合成関連機能を未だに保有するポリペプチドのことをいう。ここでも、一つ以上の置換されたアミノ酸を含むポリペプチドがピリドキシン生合成関連機能を未だに保有しているならば、このようなポリペプチドが有する活性の程度やアミノ酸が置換された程度は、問題とならない。換言すると、一つ以上の置換されたアミノ酸を含むポリペプチドが配列番号2のアミノ酸配列を含むポリペプチドに比べて、その活性がいくら低くても、また多数の置換されたアミノ酸を含んでいるとしても、そのポリペプチドがピリドキシン生合成機能を保有しておりさえすれば、本発明に含まれるものである。一つ以上のアミノ酸が置換されても、置換される前のアミノ酸が置換されたアミノ酸と化学的に等価であれば、その置換されたアミノ酸を含むポリペプチドは、未だに本来のポリペプチドの機能を保有しているものである。例えば、疎水性アミノ酸であるアラニンが、他の疎水性のアミノ酸、例えば、グリシン、または、より疎水性であるアミノ酸、例えば、バリン、ロイシンまたはイソロイシンに置換されても、その置換されたアミノ酸(等)を有するポリペプチドは、活性は低くても、本来のポリペプチドが有する機能を未だに保有するものである。同様に、負に荷電されたアミノ酸、例えば、グルタミン酸が、他の負に荷電されたアミノ酸、例えば、アスパラギン酸に置換されても、その置換されたアミノ酸(等)を有するポリペプチドも、活性は低くても、本来のポリペプチドが有する機能を未だに保有するものであり、また、正に荷電されたアミノ酸、例えば、アルギニンが他の正に荷電されたアミノ酸、例えば、リシンに置換されても、その置換されたアミノ酸(等)を有するポリペプチドもまた、活性は低くても、本来のポリペプチドが有する機能を未だに保有するものである。また、ポリペプチドのN−末端部分またはC−末端部分において置換されたアミノ酸(等)を含むポリペプチドも、本来のポリペプチドが有する機能を未だに保有するものである。当業者であれば、前述したような一つ以上の置換されたアミノ酸を含みながらも、配列番号2のアミノ酸配列を含むポリペプチドが有するピリドキシン生合成関連機能を未だに保有するポリペプチドを製造することができる。また、当業者であれば、一つ以上の置換されたアミノ酸を含むポリペプチドが、未だに上記した機能を有するかを確認することができる。さらに、本明細書が、配列番号1の塩基配列及び配列番号2のアミノ酸配列を開示しており、また、配列番号2のアミノ酸配列を含むポリペプチドが、ピリドキシン生合成関連機能を有することを確認した実施例を開示しているので、本発明の「前記(a)または(b)のポリペプチドと実質的に類似したポリペプチド」は、当業者にとって容易に実施可能なものであることが明らかである。したがって、「前記(a)または(b)のポリペプチドと実質的に類似したポリペプチド」は、一つ以上の置換されたアミノ酸を含みながらも、未だにピリドキシン生合成関連機能を有する全てのポリペプチドを含む意味として理解されるべきである。
【0019】
このように「前記(a)または(b)のポリペプチドと実質的に類似したポリペプチド」は、一つ以上の置換されたアミノ酸を含みながらも、未だにピリドキシン生合成関連機能を有する全てのポリペプチドを含む意味であるが、それにもかかわらず、活性の程度という観点からみると、前記ポリペプチドは、配列番号2のアミノ酸配列との配列相同性が高いほど好ましい。前記ポリペプチドは、配列相同性の下限において、60%以上の配列相同性を有することが好ましいのに対して、配列相同性の上限においては、当然、100%の配列相同性を有することが好ましい。
【0020】
より具体的に、前記配列相同性は、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の順に高くなるほど好ましい。
【0021】
また、本発明の「前記(a)及び(b)のポリペプチドと実質的に類似したポリペプチド」は、「配列番号2のアミノ酸配列の全体を含むポリペプチドと実質的に類似したポリペプチド」のみならず、「配列番号2のアミノ酸配列の実質的な部分を含むポリペプチドと実質的に類似したポリペプチド」を含むので、前述した全ての説明は、「配列番号2のアミノ酸配列の全体を含むポリペプチドと実質的に類似したポリペプチド」についてのみならず、「配列番号2のアミノ酸配列の実質的な部分を含むポリペプチドと実質的に類似したポリペプチド」についても適用される。
【0022】
本発明は、他の側面において、前述したポリペプチドを暗号化する単離されたポリヌクレオチドに関するものである。ここで、「前述したポリペプチド」とは、ピリドキシン生合成関連機能を有すると共に、配列番号2に記載されたアミノ酸配列の全体を含むポリペプチド、配列番号2に記載されたアミノ酸配列の実質的な部分を含むポリペプチド、及び、前記ポリペプチドと実質的に類似したポリペプチドを含むのみならず、前述した好適な態様の全てのポリペプチドを含む意味である。したがって、本発明のポリヌクレオチドは、ピリドキシン生合成関連機能を有すると共に、配列番号2に記載されたアミノ酸配列の全体またはその実質的な部分を含むポリペプチドを暗号化する単離されたポリヌクレオチド、及びこのポリペプチドと実質的に類似したポリペプチドを暗号化する単離されたポリヌクレオチドを含み、さらには、好適な態様として、ピリドキシン生合成関連機能を有すると共に、前述した配列相同性の順に、その配列相同性を有する全てのポリペプチドを暗号化する単離されたポリヌクレオチドを含む。アミノ酸配列が明らかになったとき、そのアミノ酸配列に基づき、そのアミノ酸配列を暗号化するポリヌクレオチドを、当業者であれば、容易に製造することができる。
【0023】
一方、前記「単離されたポリヌクレオチド」は、請求の範囲を含む以下において、化学的に合成されたポリヌクレオチド、生物体、特に、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)から分離されたポリヌクレオチド、及び変形されたヌクレオチドを含有したポリヌクレオチドを全て含み、一本鎖または二本鎖のRNAまたはDNAの重合体を全て含むものと定義する。したがって、前記「単離されたポリヌクレオチド」とは、cDNAを含めてヌクレオチドを化学的に重合させたポリヌクレオチドのみならず、さらには、生物体、特に、シロイヌナズナから分離されるgDNAを含む。ここで、本明細書が開示している配列番号2のアミノ酸配列、これを暗号化する配列番号1の塩基配列、及び当業界に公知された技術に基づく限り、cDNAを含めて前記化学的に合成されるポリヌクレオチドの製造及び前記gDNAの分離は、当業者の通常の能力範囲内に属するものである。
【0024】
本発明は、また他の側面において、配列番号1の塩基配列の一部分を含むポリヌクレオチドまたは前記一部分と実質的に類似したポリヌクレオチドに関するものである。ここで、前記「配列番号1の塩基配列の一部分を含むポリヌクレオチド」とは、シロイヌナズナを含めた植物の生物体において、ピリドキシン生合成関連機能を有する遺伝子を同定および/または単離するのに充分な長さの配列を含むポリヌクレオチドをいい、また、前記「配列番号1の塩基配列の一部分と実質的に類似したポリヌクレオチド」とは、配列番号1の塩基配列の一部分と比較して、一つ以上の置換されたヌクレオチドを含むと共に、シロイヌナズナを含めた植物の生物体において、ピリドキシン生合成機能を有する遺伝子を同定および/または単離するのに充分な程度の配列依存性結合力を有するポリヌクレオチドをいう。
【0025】
当業者は、シロイヌナズナや他の生物体において、本明細書が開示している配列番号1の塩基配列に基づいてこれを用いる限り、彼の通常の能力範囲内において、シロイヌナズナや他の生物体からピリドキシン生合成関連機能を有する遺伝子を同定および/または単離することができる。
【0026】
したがって、本発明の前記ポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドの長さに拘わらず、または、そのポリヌクレオチドの配列番号1の塩基配列との配列相同性の程度に拘わらず、シロイヌナズナを含めた植物の生物体からピリドキシン生合成関連機能を有する遺伝子を同定および/または単離するのに充分な配列長および/または配列依存性結合力を有する全てのポリヌクレオチドを含む。
【0027】
一般に、機能が公知された遺伝子の塩基配列を未知の遺伝子の塩基配列と比較して、その未知の遺伝子が対比された公知の遺伝子と同一の機能を有するものと推定するためには、また、未知の遺伝子を単離するためのプローブとして用いられるためには、30個以上の連続するヌクレオチド配列が必要であると知られている。したがって、本発明の前記ポリヌクレオチドは、配列番号1に開示された塩基配列において、30個以上のヌクレオチドを含むことが好ましい。それにもかかわらず、未だに本発明のポリヌクレオチドは、30個以下のヌクレオチドからなるポリ(またはオリゴ)ヌクレオチドを含む。これは、配列番号1に開示された塩基配列と100%の配列相同性を有し、または、同定および/または単離条件(バッファのpHや濃度等)が厳格であれば、シロイヌナズナや他の生物体からピリドキシン生合成関連機能を有する遺伝子を同定および/または単離するのに充分であるからである。ここで、シロイヌナズナや他の生物体からピリドキシン生合成関連機能を有する遺伝子を同定および/または単離するのに充分な30個以下のヌクレオチドからなるポリヌクレオチドを作製・検出すること、そのポリヌクレオチドを用いて、シロイヌナズナや他の生物体からピリドキシン生合成関連機能を有する遺伝子を同定および/または単離することは、通常の当業者の能力範囲内に属する。
【0028】
本発明は、また他の側面において、前述したポリヌクレオチドに相補的に結合可能なアンチセンスヌクレオチドに関するものである。
前記アンチセンスヌクレオチドは、前述したポリヌクレオチドに相補的に結合し、転写(ポリヌクレオチドがDNAである場合)または翻訳(ポリヌクレオチドがRNAである場合)を阻害可能な全てのポリ(またはオリゴ)ヌクレオチドを含む。このようなアンチセンスヌクレオチドは、前述したピリドキシン生合成関連可能を有するポリペプチドを暗号化するポリヌクレオチドに相補的に結合し、転写(ポリヌクレオチドがDNAである場合)または翻訳(ポリヌクレオチドがRNAである場合)を阻害可能であれば、その長さやその相補的な配列相同性は、問題とならない。短い長さ、例えば、30個ヌクレオチド程度のポリヌクレオチドとしても、その当該遺伝子(DNA及びRNAを含む)に対して100%の相補的な配列相同性を有し、その他の条件、例えば、濃度やpH等が適宜調節されれば、アンチセンスヌクレオチドとして作用することができる。また、配列においても、その当該遺伝子と100%の相補的な配列相同性を有していなくても、適当な大きさの長さを有すれば、同様に、アンチセンスヌクレオチドとして作用することができる。したがって、アンチセンスヌクレオチドの長さ、相補的な配列相同性の程度に拘わらず、アンチセンスヌクレオチドとして作用することができれば、すなわち、当該遺伝子の転写または翻訳を阻害可能な能力があれば、いずれも、本発明のアンチセンスヌクレオチドに含まれるものとみなされるべきである。ここで、アンチセンスヌクレオチドとして必要な長さの決定、当該遺伝子と相補的な配列相同性の程度、また、そのアンチセンスヌクレオチドの製造方法については、本明細書が開示している配列番号1の塩基配列、配列番号2のアミノ酸配列、及び当業界に公知された技術に基づく限り、いずれも、当業者の通常の能力範囲内に属するものである。
【0029】
一方、前記アンチセンスヌクレオチドは、配列番号1の塩基配列の一部分に相補的な部分を含むアンチセンスヌクレオチドが好ましい。ここで、「配列番号1の塩基配列の一部分に相補的な部分」とは、前述した内容を考えると、配列番号1の塩基配列からなるDNAまたはそれから転写されたRNAと相補的に結合し、その転写または翻訳を妨害するのに充分な長さを含むものと理解され得る。
【0030】
本発明は、また他の側面において、前述したポリヌクレオチドを含む組み換えベクター、及びその組み換えベクターで形質転換された形質転換体に関するものである。
【0031】
後述する本発明の実施例では、配列番号1に記載された塩基配列からなるピリドキシン生合成関連機能を有するポリペプチドを暗号化するポリヌクレオチドをpCAL−n(Stratagene,USA)に挿入して作製された組み換えベクターpCAtPDX5を作製し、そのpCAtPDX5組み換えベクターを大腸菌に形質転換させた後、前記ポリヌクレオチドから発現されたポリペプチドを分離し、その分子量を確認した結果、配列番号1の塩基配列の転写読み取り枠(ORF)から推定された分子量と同一であることを確認することができた。
【0032】
このような本発明の好適な実施の態様を考えると、前記組み換えベクターは、pCAtPDX5であることが好ましく、また、本発明の形質転換体は、前記組み換えベクターで形質転換された大腸菌であることが好ましい。
【0033】
本発明は、また他の側面において、植物の生長を抑制する方法を提供する。具代的に、本発明の植物の生長を抑制する方法は、配列番号2のアミノ酸配列、またはそれに類似した配列からなるピリドキシン生合成関連機能を有するポリペプチドの発現または機能を抑制する段階を含むことを特徴とする。
【0034】
前述したが、ピリドキシンは、植物及び動物の生長に必須なビタミンでありながらも、植物にはその生合成経路が存在するのに対して、動物には、その生合成経路が存在しない。したがって、ピリドキシン生合成関連機能を有するポリペプチドが発現されず、または、その機能が抑制されると、結局として、植物の生長の抑制となるものである。本発明の実施例に示すように、実際、配列番号1の塩基配列に相補的なアンチセンスヌクレオチドをシロイヌナズナに形質転換させたとき、形質転換されたシロイヌナズナにおいて生長が遅滞する現象が発見された。したがって、本発明の植物の生長を抑制する方法は、ピリドキシン生合成関連機能を有するポリペプチドの発現を抑制し、または、その機能を抑制することにより、可能となるものである。
【0035】
一方、上記、また請求の範囲を含めた以下において、「配列番号2のアミノ酸配列と類似した配列からなるポリペプチド」とは、配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチドの同族体として、ピリドキシン生合成関連機能を有すると共に、植物体の種類による進化的経路の相違により、配列番号2のアミノ酸配列と異なる配列からなる全てのポリペプチドを含む意味である。したがって、前記本発明の植物の生長を抑制する方法において、配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチドが、たとえシロイヌナズナから分離されたものであっても、前記植物の範囲には、シロイヌナズナのみならず、その他の全ての植物が含まれるものと理解されるべきである。ただし、ここで、配列番号2のアミノ酸配列と類似した配列からなるポリペプチドは、配列番号2のアミノ酸配列と配列相同性が高いほど好ましく、最も好ましくは、当然、100%の配列相同性を有するときである。一方、配列相同性の下限においては、前記ポリペプチドが配列番号2のアミノ酸配列と60%以上の配列相同性を有する場合が好ましい。より具体的には、前記配列相同性が、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の順に高くなるほど好ましい。
【0036】
一方、上記において、ポリペプチドの発現抑制は、当業界に公知の方法で充分可能である。すなわち、アンチセンスヌクレオチド導入、遺伝子除去、遺伝子挿入、T−DNA導入、相同的組み換え、または、トランスポゾン標識、siRNA(small interfering RNA)等の方法が用いられる。
【0037】
後述する本発明の実施例では、アンチセンスヌクレオチドを植物体内に導入する方法を用いているが、具体的には、先ず、配列番号1の塩基配列を有するポリヌクレオチドに対するアンチセンスヌクレオチドを製造した後、それを含む組み換えベクター(pSEN−antiAtPDX5ベクター)を作製し、その組み換えベクターをアグロバクテリウム・トゥメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)に形質転換させた後、この形質転換体をシロイヌナズナに形質転換させる過程を経た。この形質転換されたシロイヌナズナに種子を育種した結果、いずれも、生長が顕著に低化する現象が確認された(下記実施例3参照)。
【0038】
したがって、本発明の植物の生長を抑制する方法において、前記段階は、配列番号1の塩基配列の一部分に相補的な部分を含むアンチセンスヌクレオチドを、当該植物体内に導入する段階を含むことが好ましく、前記アンチセンスヌクレオチドを含む組み換えベクターで形質転換された形質転換体を植物体内に導入する段階を含むことがより好ましく、特に、前記形質転換体は、前記組み換えベクターで形質転換されたアグロバクテリウム・トゥメファシエンスであることがさらに好ましい。ここで、「配列番号1の塩基配列の一部分に相補的な部分」とは、前記本発明のアンチセンスヌクレオチドと関連して説明したものと同様である。
【0039】
一般に、アンチセンスヌクレオチドは、核酸(RNAまたはDNA)内の標的ヌクレオチド配列と結合し、前記核酸の機能または合成を抑制する役割をすると知られている。すなわち、ある特定の遺伝子に相応するアンチセンスヌクレオチドは、RNAまたはDNAの両者にハイブリダイズする能力を有することにより、転写または翻訳過程において特定の遺伝子の発現を阻害するものである。
【0040】
したがって、配列番号2のアミノ酸配列またはそれに類似したアミノ酸配列からなるポリペプチドの発現抑制やその機能抑制を通じて、ピリドキシン生合成関連機能を有するポリペプチドが自分の機能を発揮できなれば、結果的に、植物の生長が抑制され得る。
【0041】
本発明の植物の生長を抑制する方法は、植物にのみその生合成経路が存在するピリドキシンの生成を阻害させる機序を用いるということから、ピリドキシン生合成経路が存在しないヒトや動物には、特に害を与えない方法となり得る。
本発明は、また他の側面において、植物の生長を抑制する物質のスクリーニング方法に関するものである。前記方法は、配列番号2のアミノ酸配列及びそれに類似した配列からなるピリドキシン生合成関連機能を有するポリペプチドの発現またはその機能を抑制する物質を検出する段階を含むことを特徴とする。
【0042】
上記、また請求の範囲を含めた以下において、配列番号2のアミノ酸配列と類似した配列からなるポリペプチドとは、前記本発明の植物の生長を抑制する方法において説明したことがそのまま適用される。
【0043】
一方、前記ポリペプチドの発現を抑制する物質は、本発明の植物の生長を抑制する方法と関連して前述した理由から、配列番号1の塩基配列の一部分に相補的な部分を含むアンチセンスヌクレオチドであることが好ましく、前記アンチセンスヌクレオチドを含む組み換えベクターで形質転換された形質転換体であることがより好ましく、特に、前記組み換えベクターで形質転換されたアグロバクテリウム・トゥメファシエンスであることがさらに好ましい。ここでも、「配列番号1の塩基配列の一部分に相補的な部分」とは、前記本発明のアンチセンスヌクレオチドと関連して説明したものと同様である。
【0044】
本発明のまた他の目的は、前記スクリーニング方法により得られた植物の生長を抑制する物質を含む植物の生長抑制用組成物に関するものである。
【0045】
このような物質として、前述したような配列番号1の塩基配列に相補的な部分を含むアンチセンスヌクレオチド、前記アンチセンスヌクレオチドを含む組み換えベクター、その組み換えベクターで形質転換されたアグロバクテリウム・トゥメファシエンス等が例示され得る。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、ピリドキシン生合成関連ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドによりコードされるピリドキシン生合成関連機能を有するポリペプチド、前記ポリヌクレオチドに対するアンチセンスヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含む組み換えベクター、このような組み換えベクターで形質転換された形質転換体、植物の生長を抑制する方法、植物の生長を抑制する物質のスクリーニング方法、及び前記スクリーニング方法により得られた物質を含む植物の生長抑制用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下、本発明を実施例を参照して説明する。しかしながら、これらの実施例が本発明の範囲を制限するものではない。
【0048】
<実施例1>シロイヌナズナからピリドキシン生合成関連機能を有するポリペプチドをコードする遺伝子の分離
ピリドキシン生合成関連機能を有するポリペプチドをコードする遺伝子をシロイヌナズナから分離するためのスクリーニングを行った。
【0049】
<1−1>シロイヌナズナの栽培及び培養
シロイヌナズナは、土壌を入れた植木鉢で栽培し、または、2%スクロース(pH5.7)と0.8%寒天が含まれたMS(Murashige and Skoog salts,Sigma,USA)培地を入れたペトリ皿で栽培した。本研究において用いた全てのMS培地は、ビタミン混合物のうちB6群(ピリドキシン等)が排除された状態である。植木鉢で栽培するときは、22℃の温度で16/8時間の明暗周期で調節される栽培箱中で栽培した。
【0050】
<1−2>RNA抽出とcDNAライブラリーの製造
シロイヌナズナcDNAライブラリーを作るために、数個の分化段階のシロイヌナズナの葉からTRI試薬(Sigma,USA)を用いてRNAを抽出し、抽出された全RNAから、mRNA分離キット(Pharmcia,USA)のプロトコールに従って、poly(A)+RNAを分離した。プライマーとしてNotI−(dT)18を用いて、poly(A)+RNAとcDNA合成キット(Timer Saver cDNA synthesis kit,Pharamcia,USA)で二本鎖のcDNAを製造した。
【0051】
<1−3>ピリドキシン生合成関連機能を有するポリペプチドをコードする遺伝子の分離
シロイヌナズナのピリドキシン生合成と関連すると推定される蛋白質(GeneBank accession number NP 195761)のアミノ酸配列に基づいて、配列番号3と表示され、制限酵素BglIIの配列が含まれた正方向プライマーと、配列番号4と表示され、制限酵素HindIIIの配列が含まれた逆方向プライマーを合成した。前記両プライマーを用いて、前記実施例1−2において製造されたシロイヌナズナcDNAライブラリーからPCR(polymerase chain reaction)を用いて、全長cDNAを増幅し分離した。
【0052】
前記分離されたcDNAの分析の結果、約33.2kDaの分子量を有する309個のアミノ酸をコードする930bpサイズの転写読み取り枠(ORF)を有しており、一つのエクソンで構成されていることが確認され、これをAtPDX4(Arabidopsis thaliana pyridoxine biosynthesis protein 4)と命名した。
【0053】
一方、前記AtPDX4から推定されるアミノ酸配列中の18番〜226番アミノ酸配列の部位に、SOR/SNZファミリードメインを含んでおり、本発明のポリヌクレオチドがピリドキシン生合成経路に関与するばかりでなく、活性酸素に対する防御機序を調節する機能を含むことができることが推定された。このような事実は、本遺伝子の過発現が植物体の様々なストレス、特に、活性酸素に対する防御機序を提供することができると推測され、このような提案についての研究は、追って進行される予定である。また、モチーフについての最近の研究によれば、本遺伝子のアミノ酸配列の大部分は、SOR/SNZファミリーを含有した静止期誘導蛋白質であるKOG1606ファミリーを含有している。このようなファミリーに属する蛋白質のアミノ酸配列を前記AtPDX4から推定されるアミノ酸配列と多重配列整列方式により比較した結果を図1に示した。図1において、At5g10410は、シロイヌナズナAtPDX4蛋白質を、At3g16050は、シロイヌナズナのエチレン誘導蛋白質関連蛋白質(GeneBank accession number NP 188226)を、At2g28230は、シロイヌナズナのCercospora nicotianeのSOR1関連蛋白質(GeneBank accession number NP 181358)を、SNZ1、SNZ2、SNZ3蛋白質は、サッカロマイセス・セレヴィシエ(Saccharomyses cerevisiae)のSNZ1、SNZ2及びSNZ3蛋白質(それぞれGeneBank accession number Q03148,P53824,P43545)を指す。また、図1において、アミノ酸配列が同じ部分は「*」と、保存置換部分は「:」と、半保存置換部分は「.」と表示した。一方、前記蛋白質のアミノ酸配列の相同性を比較した結果、AtPDX4アミノ酸配列は、シロイヌナズナのエチレン誘導蛋白質関連蛋白質、シロイヌナズナのCercospora nicotianeのSOR1関連蛋白質と、それぞれ62%、89%の相同性を有しており、また、サッカロマイセス・セレヴィシエのSNZ1、SNZ2、SNZ3蛋白質とは、それぞれ58%、61%、61%の同一性を有することが確認された。モチーフ分析の結果、AtPDX4遺伝子は、真核生物のPdx1とPdx2、両方との相同性が共に高いことを示しており、これらのうち、どの遺伝子と類似した機能を有するかについての結果は、遺伝子の機能についてのより多くの研究を通じて明らかになるだろう。
【0054】
<実施例2>大腸菌においてAtPDX4遺伝子から発現される蛋白質の精製
前記実施例1−3において分離したAtPDX4 cDNA全長部位を含む増幅されたDNA断片をBglII制限酵素とHindIII制限酵素で切断し、pCAL−nベクター(Stratagene,USA)のBamHI制限酵素部位(BglII compatible end ligation部位)と、HindIII制限酵素部位にクローニングし、pCAtPDX4組み換えベクターを作製した。ここで、前記pCAL−nベクターは、カルモデュリン結合ペプチド標識配列を含んでいるので、前記ベクターから発現される蛋白質は、カルモデュリンレジンにより容易に分離されるという利点がある。
【0055】
前記pCAtPDX4組み換えベクターを大腸菌BL21−Gold(DE3)(Stratagene,USA)に形質変換させた後、100μg/mlのアンピシリンが含まれたLB(Luria−Bertani broth,USB,USA)培地において、O.D.600値が0.7となるまで、37℃で150rpmで撹拌培養した。目標蛋白質の大腸菌細胞内発現を誘導するために、前記懸濁液にIPTG(isopropyl−D−thiogalactoside)を最終濃度1mMとなるように加えた後、2時間さらに栽培した。栽培された細胞を50mM MgSO4と0.4M NaClが溶存された50mM−リン酸カリウム緩衝剤(pH7.0)で洗浄した後、さらに、4,000xgで15分間遠心分離し、沈殿物を集めて−20℃で保管した。
【0056】
前記蛋白質の発現を確認するために、pCAtPDX4組み換えベクターで形質転換された大腸菌から分離した溶出液を対象としてSDS−PAGEを行った。その結果、図2に示すように、pCAtPDX4組み換えベクターで形質転換された大腸菌から分離した溶出液が、約37kDaサイズの融合蛋白質(AtPDX4遺伝子から発現される蛋白質の分子量33.2kDa+カルモデュリン結合ペプチドの分子量4kDa)を含んでいることが確認された。これに対して、対照群大腸菌の溶出液では、前記サイズの蛋白質を含んでいないことが確認された。
【0057】
図2において矢印(←)は、37kDaサイズの融合蛋白質(AtPDX4遺伝子から発現される蛋白質の分子量33.2kDa+カルモデュリン結合ペプチドの分子量4kDa)を示す。また、レーン1及び3は、対照群の大腸菌溶出液に対するものであり、レーン2は、AtPDX4遺伝子が含まれた組み換えベクターで形質変換された大腸菌コロニー−1の溶出液に対するものであり、レーン4は、AtPDX4遺伝子が含まれた組み換えベクターで形質転換された大腸菌コロニー−2の溶出液に対するものである。
【0058】
<実施例3>AtPDX4遺伝子に対するアンチセンス構成体が導入された形質転換シロイヌナズナの製造及び特性分析
【0059】
<3−1>AtPDX4遺伝子に対するアンチセンス構成体が導入された形質転換シロイヌナズナの製造
前記実施例2−1において分離した蛋白質の生理学的特性を確認するために、AtPDX4遺伝子がアンチセンス方向に導入された形質転換シロイヌナズナを製造し、AtPDX4転写体の発現を抑制した。
【0060】
配列番号5と表示され、制限酵素BglIIの配列が含まれた正方向プライマー、及び配列番号6と表示され、制限酵素XbaIの配列が含まれた逆方向プライマーを用いて、シロイヌナズナのcDNAからPCRを用いて、AtPDX4 cDNAをアンチセンス方向に増幅した。前記DNAを制限酵素BglIIとXbaIで切断し、発芽時期に植物体の致死を避けるために、ストレスまたは老化関連遺伝子であるsen1プロモータの調節を受けるように作製したpSENベクターにクローニングし、AtPDX4遺伝子に対するアンチセンス構成体であるpSEN−AtPDX4組み換えベクターを作製した。上記において、sen1プロモータは、植物の生長段階により発現される遺伝子に対して特異性を有する。一方、図3にpSENベクターとpSEN−AtPDX4組み換えベクターの構成が示されている。図3(a)に示すものはpSENベクターの構成であり、図3(b)に示すものはpSEN−AtPDX4組み換えベクターの構成である。図3におけるBARは、バスタ除草剤に対する抵抗性を与えるbar遺伝子(phosphinothricin acetyltransferase gene)を指し、RBは右縁、LBは左縁、P35SはCaMV 35S RNAのプロモータ、35S poly AはCaMV 35S RNA poly A,PSENはsen1プロモータ、Nos poly Aはノパリンシンターゼ遺伝子のpoly Aを指す。
【0061】
前記pSEN−AtPDX4組み換えベクターをアグロバクテリウム・トゥメファシエンスにエレクトロポレーション法を用いて導入させた。形質転換されたアグロバクテリウム培養液を28℃でO.D.600値が1.0となるまで培養し、25℃で5,000rpmで10分間遠心分離し、細胞を得た。得られた細胞を最終のO.D.600値が2.0となるまで、Infiltration Medium(IM;1X MS SALTS,1X B5 vitamin,5%sucrose,0.005%Silwet L−77,Lehle Seed,USA)培地に懸濁した。4週令シロイヌナズナを真空室にあるアグロバクテリウム懸濁液に浸漬させ、10分間104Paの真空下に放置した。浸漬後、シロイヌナズナを24時間の間ポリエチレン袋に入れた。以降、形質転換されたシロイヌナズナを続けて生長させて種子(T1)を収穫した。対照群としては、形質転換されなかった野生のシロイヌナズナ、及びアンチセンスAtPDX4遺伝子が含まれていないベクター(pSEN)のみで形質転換されたシロイヌナズナを用いた。
【0062】
<3−2>T1及びT2形質転換シロイヌナズナの特性分析
前記実施例3−1におけるように、形質転換したシロイヌナズナから収穫した種子は、0.1%バスタ(Basta)除草剤(耕農、韓国)溶液に30分間浸漬させて培養することにより、選別した。以降、形質転換したシロイヌナズナの生育の間、前記植木鉢にバスタ除草剤を5回処理した後、各植木鉢でのシロイヌナズナの生長状態を調べた。形質転換されたシロイヌナズナは、対照群(アンチセンスAtPDX4遺伝子が含まれていないベクター(pSENベクター)のみで形質転換されたシロイヌナズナ)と比較すると、生長が酷く抑制され、葉の主脈から端に向かって丸く葉の黄化現象が引き起こされることがみられた(図4参照)。また、本遺伝子に対する強力なアンチセンス効果は、形質転換体の深刻な生長抑制及び黄化現象のみならず、形質転換体の致死までも誘導した。
【0063】
一方、AtPDX4遺伝子に対するアンチセンス構成体で形質転換された形質転換植物が、ピリドキシン栄養素要求性突然変異体であるかを確認するために、T1形質転換シロイヌナズナからT2形質転換種子を得て、これらの生育がピリドキシンの添加により、どのように反応するかを調べた。先ず、T2形質転換シロイヌナズナを選別するために、12.5mg/L PPT(phosphinothricin,Duchefa,Netherlands)をMS培地に入れ、3日間低温処理(4℃)した120個のT2形質転換種子を2.5mg/Lピリドキシン−HCl(Sigma,USA)が添加され、または添加されていないMS培地を含む、それぞれ2個(計4個)のペトリ皿(30種子/ペトリ皿)で栽培した。
【0064】
その結果、7日間、ピリドキシンが添加されたペトリ皿で栽培した場合、22個の固体が生長し、野生のシロイヌナズナと比較すると、大きな表現型の変化が観察されなかった。これに対して、ピリドキシンが添加されていないペトリ皿で栽培した場合、17個の固体のみが成長し、これらの大部分は、深刻な生長遅滞現象、葉の全体にわたって生じた黄化現象が発生した。また、ピリドキシンが加えられた場合よりも、致死現象が5固体もより多いことがみられた(図5A及び図5B参照)。一方、19日間、ピリドキシンが加えられたペトリ皿で栽培した場合、24個の固体が生長し、野生のシロイヌナズナと比較すると、若干の黄化現象を引き起こしたが、生長遅延等、大きな表現型の変化は観察されなかった。形質転換植物体において部分的な黄化現象が引き起こされることは、培地に加えられたピリドキシンの含量が不足するからであると推測される。これに対して、ピリドキシンが加えられなかったペトリ皿で栽培した場合、19個の固体のみが成長し、これらの大部分は、深刻な生長遅滞現象、葉の全体にわたって生じた黄化現象が発生した。また、ピリドキシンが加えられた場合よりも、致死現象が5固体もより多いことがみられた(図5C及び図5D参照)。前記結果から、ピリドキシンが加えられた培地で起こった致死表現型の固体数は、1copyに対するアンチセンスラインの正常の分離比(突然変異体:野生のもの=3:1)による。
【0065】
このような結果からみて、T2形質転換シロイヌナズナの表現型の特徴は、深刻な生長抑制、葉の全体にわたって生じた黄化現象、また、形質転換シロイヌナズナの致死誘導が挙げられ、形質転換シロイヌナズナは、ピリドキシン処理により、表現型が回復されることがわかる。したがって、前記AtPDX4遺伝子に対するアンチセンス構成体で形質転換された植物体が、ピリドキシン栄養素要求性突然変異体であることが確認された。
【0066】
また、AtPDX4遺伝子に対するアンチセンス構成体で形質転換された形質転換植物が、ピリドキシン以外に他のビタミンB6群により表現型の回復が誘導されるかを確認するために、T2形質転換シロイヌナズナの生育が、ピリドキサミン、ピリドキサル、ピリドキサル−5−リン酸の添加により、どのように反応するかを調べた。先ず、T2形質転換シロイヌナズナを選別するために、12.5mg/L PPT(phosphinothricin,Duchefa,Netherlands)をMS培地に入れ、3日間低温処理(4℃)した30個のT2形質転換種子を0.5mg/L濃度のピリドキシン−HCl(Sigma,USA)、ピリドキサミン−2HCl(Sigma,USA)、ピリドキサル−HCl(Sigma,USA)、または、ピリドキサル−5−リン酸(Sigma,USA)がそれぞれ添加され、または添加されていないMS培地を含むペトリ皿で栽培した。
【0067】
その結果、7日間、ピリドキシンが添加されたペトリ皿で栽培した場合、26個の固体が生長し、野生のシロイヌナズナと比較すると、大きな表現型の変化が観察されなかった。これに対して、ピリドキシンが添加されていないペトリ皿で栽培した場合、21個の固体のみが成長し、これらの大部分は、生長遅滞現象及び葉の全体にわたって生じた黄化現象が発生した。また、他のビタミンB6群が添加されたペトリ皿で栽培した場合、たとえ、致死形質に対しては、ある程度表現型回復が起こったが、全体からみて、ピリドキシンが添加されていない培地で生長した形質転換シロイヌナズナと類似した表現型を示した(図6A、図6B、図6C、図6D、図6E参照)。したがって、前記AtPDX4遺伝子は、数個のビタミンB6群のうち、ピリドキシンの生合成経路を直接的に調節するものと推測され、本遺伝子のポリヌクレオチドが新規な除草剤の開発のための良好な標的となり得ることを示唆する。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明のピリドキシン生合成関連機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列、特に、配列番号2のアミノ酸配列をSOR/SNZファミリーが含まれた静止期誘導蛋白質であるKOG1606ファミリーを含有した蛋白質のアミノ酸配列とClustal Wを用いて比較したものである。
【図2】本発明のピリドキシン生合成関連機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、特に、配列番号1のアミノ酸配列からなるポリヌクレオチドが含まれた組み換えベクターで形質転換された大腸菌及び対照群の大腸菌溶出液に対するSDS−PAGEの分析結果を示すものである。
【図3A】本発明のピリドキシン生合成関連機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、特に、配列番号1のアミノ酸配列からなるポリヌクレオチドがアンチセンス方向に導入されたベクターの構造(模式図)を示すものである。
【図3B】本発明のピリドキシン生合成関連機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、特に、配列番号1のアミノ酸配列からなるポリヌクレオチドがアンチセンス方向に導入されるベクターの構造(模式図)を示すものである。
【図4】本発明のピリドキシン生合成関連機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、特に、配列番号1の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対するアンチセンスヌクレオチドが導入されたT1形質転換シロイヌナズナの種子から育った幼苗(バスタ除草剤を処理して生長、分化した幼苗)の写真である。
【図5A】本発明のピリドキシン生合成関連機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、特に、配列番号1の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対するアンチセンスヌクレオチドが導入されたT2形質転換シロイヌナズナの種子から7日間育った幼苗(ピリドキシンを添加したペトリ皿で生長、分化した幼苗)の写真である。
【図5B】本発明のピリドキシン生合成関連機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、特に、配列番号1の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対するアンチセンスヌクレオチドが導入されたT2形質転換シロイヌナズナの種子から7日間育った幼苗(ピリドキシンを添加しなかったペトリ皿で生長、分化した幼苗)の写真である。
【図5C】本発明のピリドキシン生合成関連機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、特に、配列番号1の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対するアンチセンスヌクレオチドが導入されたT2形質転換シロイヌナズナの種子から19日間育った幼苗(ピリドキシンを添加したペトリ皿で生長、分化した幼苗)の写真である。
【図5D】本発明のピリドキシン生合成関連機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、特に、配列番号1の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対するアンチセンスヌクレオチドが導入されたT2形質転換シロイヌナズナの種子から19日間育った幼苗(ピリドキシンを添加しなかったペトリ皿で生長、分化した幼苗)の写真である。
【図6A】本発明のピリドキシン生合成関連機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、特に、配列番号1の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対するアンチセンスヌクレオチドが導入されたT2形質転換シロイヌナズナの種子から7日間育った幼苗(いずれのビタミンB6群も添加しなかったペトリ皿で生長、分化した幼苗)の写真である。
【図6B】本発明のピリドキシン生合成関連機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、特に、配列番号1の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対するアンチセンスヌクレオチドが導入されたT2形質転換シロイヌナズナの種子から7日間育った幼苗(ピリドキシンを添加したペトリ皿で生長、分化した幼苗)の写真である。
【図6C】本発明のピリドキシン生合成関連機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、特に、配列番号1の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対するアンチセンスヌクレオチドが導入されたT2形質転換シロイヌナズナの種子から7日間育った幼苗(ピリドキサミンを添加したペトリ皿で生長、分化した幼苗)の写真である。
【図6D】本発明のピリドキシン生合成関連機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、特に、配列番号1の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対するアンチセンスヌクレオチドが導入されたT2形質転換シロイヌナズナの種子から7日間育った幼苗(ピリドキサルを添加したペトリ皿で生長、分化した幼苗)の写真である。
【図6E】本発明のピリドキシン生合成関連機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、特に、配列番号1の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対するアンチセンスヌクレオチドが導入されたT2形質転換シロイヌナズナの種子から7日間育った幼苗(ピリドキサル−5−リン酸を添加したペトリ皿で生長、分化した幼苗)の写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)、(b)及び(c)のポリペプチドからなる群から選ばれる、ピリドキシン生合成関連機能を有するポリペプチド。
(a)配列番号2に記載されたアミノ酸配列の全体を含むポリペプチド;
(b)配列番号2に記載されたアミノ酸配列の実質的な部分を含むポリペプチド;
(c)前記(a)または(b)のポリペプチドと実質的に類似したポリペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載のポリペプチドを暗号化するポリヌクレオチド。
【請求項3】
配列番号2に記載されたアミノ酸配列またはそれに類似した配列からなるピリドキシン生合成関連機能を有するポリペプチドの発現またはその機能を抑制する段階を含む、植物の生長を抑制する方法。
【請求項4】
前記段階が、請求項2に記載のポリヌクレオチドに対するアンチセンスヌクレオチドを植物体内に導入する段階を含むことを特徴とする、請求項3に記載の植物の生長を抑制する方法。
【請求項5】
前記段階が、請求項2に記載のポリヌクレオチドに対するアンチセンスヌクレオチドを含む組み換えベクターを植物体内に導入する段階を含むことを特徴とする、請求項3に記載の植物の生長を抑制する方法。
【請求項6】
前記段階が、請求項2に記載のポリヌクレオチドに対するアンチセンスヌクレオチドを含む組み換えベクターで形質転換されたアグロバクテリウム・トゥメファシエンスを植物体内に導入する段階を含むことを特徴とする、請求項3に記載の植物の生長を抑制する方法。
【請求項7】
前記段階が、遺伝子除去、遺伝子挿入、T−DNA導入、相同的組み換え、トランスポゾン標識、及びsiRNAからなる群より選ばれたいずれか一つの方式により行われることを特徴とする、請求項3に記載の植物の生長を抑制する方法。
【請求項8】
配列番号2に記載されたアミノ酸配列またはそれに類似した配列からなるピリドキシン生合成関連機能を有するポリペプチドの発現またはその機能を抑制する物質を検出する段階を含む、植物の生長を抑制する物質のスクリーニング方法。
【請求項9】
請求項8に記載のスクリーニング方法により得られた植物の生長を抑制する物質を含む植物の生長抑制用組成物。
【請求項10】
前記物質が、請求項2に記載のポリヌクレオチドに対するアンチセンスヌクレオチド、請求項2に記載のポリヌクレオチドに対するアンチセンスヌクレオチドを含む組み換えベクター、及び請求項2に記載のポリヌクレオチドに対するアンチセンスヌクレオチドを含む組み換えベクターで形質転換されたアグロバクテリウム・トゥメファシエンスからなる群より選ばれたことを特徴とする、請求項9に記載の植物の生長抑制用組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【公表番号】特表2007−521838(P2007−521838A)
【公表日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−554027(P2006−554027)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【国際出願番号】PCT/KR2005/000453
【国際公開番号】WO2005/079170
【国際公開日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(506279595)
【出願人】(506280041)コリア リサーチ インスティチュート オブ ケミカル テクノロジー (3)
【Fターム(参考)】