説明

ピーク検出回路、マルチチャネルアナライザおよび放射線測定システム

【課題】パルス信号のピーク到達時刻を正確に計測することができるピーク検出回路、マルチチャネルアナライザおよび放射線測定システムを実現することにある。
【解決手段】被測定信号のピーク値を検出するピーク検出回路に改良を加えたものである。本回路は、被測定信号をサンプリングするAD変換器と、被測定信号の振幅がしきい値を超えたことを検出するしきい値検出部と、このしきい値検出部がしきい値を超えたことを検出してから所定の時間の間にAD変換器から入力されたデジタルデータのなかからピーク値となる最大値を検出するピーク検出部と、このピーク検出部が最大値を検出したときの時刻を出力するタイマ部とを設けたことを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定信号をAD変換器でサンプリングし、ピーク値を検出するピーク検出回路、マルチチャネルアナライザおよび放射線測定システムに関し、詳しくは、パルス信号のピーク到達時刻を正確に計測することができるピーク検出回路、このピーク検出回路を用いたマルチチャネルアナライザおよびこのマルチチャネルアナライザを用いた放射線測定システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ピーク検出回路は、パルス信号などの波形解析を行なう測定装置などの入力部に用いられる。例えば、放射線の研究分野等において用いられる計測器のマルチチャネルアナライザ(以下、MCA(Multichannel Analyzer)と略す)の入力部に用いられたりする。
【0003】
また、MCAは、試料から出力される放射線それぞれの発生回数を計数して、放射線源の種類等の同定や放射線源の強度の時間変動、半減期等を解析するためのヒストグラム(エネルギースペクトル)等を作成する。
【0004】
図4は、測定すべき試料からの放射線のエネルギーを測定し、放射線源の種類等を同定する従来の放射線測定システムの構成を示した図である(例えば、特許文献1、2参照)。図4において、試料10から出力される放射線が検出器11に入力される。そして、検出器11が、放射線のエネルギーに対応した電荷量を出力するが、放射線のエネルギーは放射線源によって固有であるため、検出器11が出力する電荷量も放射線源によって固有となる。さらに、前置増幅器(例えば、チャージアンプ)12が、検出器11からの電荷量を、この電荷量に比例した電圧値に変換する。さらに、波形整形増幅器13が、前置増幅器12からの信号を、幅の狭いパルス信号(一般的には、信号幅FWHM(full width half maximum)=〜1[μs]のガウス形状)に変換する。従って、波形整形増幅器13からのパルス信号のピーク値(波高値)と検出器11からの電荷量は比例している。
【0005】
そして、MCA14が、波形整形増幅器13から入力されるパルス信号を測定することにより、試料の放射線源(核種)の種類等を同定する。すなわち、パルス信号のピーク値(電圧値)には、試料からの放射線のエネルギー等の情報が含まれるので、ピーク値を求めることにより、どの種類の放射線源からの出力であるかを判断する。さらに、ピーク値それぞれの発生回数をカウントし、横軸をチャネル番号、縦軸を度数(頻度)のヒストグラム(エネルギースペクトル)を作成する。ここで、チャネル番号とはピーク値と一対一に対応する番号である。また、MCA14が、パルス信号のピークを検出した時刻を求め、ピーク値とともにピーク時刻を組にしたリストを作成する。
【0006】
図5は、MCA14等の測定装置の入力部に用いられるピーク検出回路の従来の構成を示した図である(例えば、特許文献3、4参照)。図5において、入力端子21に入力される入力信号Viは、ピークホールド回路22でそのピーク値がホールドされる。そして、ピークホールド回路22からのピークホールド信号Voが、AD変換器23に加えられてデジタルデータに変換される。さらに、AD変換器23の出力データはメモリ24に書き込まれる。そして、ピーク検出回路の後段の解析部(図示せず)が、メモリ24から出力データを読み出し、上述の解析(放射線源の種類等を同定、リスト作成等)を行なう。
【0007】
次に、ピークホールド回路の詳細を説明をする。演算増幅器IC1の非反転入力端子は、入力端子21に接続されて入力信号Viが加えられ、その出力端子にはダイオードD1のアノードが接続されている。また、算増幅器IC1の反転入力端子には、ダイオードD1のカソードが接続されるとともにコンデンサCを介してアースに接続されている。そして、これら演算増幅器IC1の反転入力端子とダイオードD1のカソード及びコンデンサCの接続点には演算増幅器IC2の非反転入力端子が接続されている。なお、演算増幅器IC2の反転入力端子はその出力端子に接続され、出力端子からピークホールド信号Voが出力される。スイッチSWは、コンデンサCと並列に設けられ、コンデンサCを放電させる。
【0008】
このような装置の動作を説明する。
ここで、図6は、入力信号Viとピークホールド信号Voの関係を図示した図であり、横軸は時間であり、縦軸は振幅である。パルス信号が2個入力される例で説明する。
【0009】
入力信号Viによって、コンデンサCに充電が行なわれるが、入力信号Viの電圧が充電電圧より下がったとしても、ダイオードD1が、放電を阻止するので、結果的に入力信号Viの最大値に比例した充電電圧がコンデンサCにホールドされる。そして、図示しないしきい値検出部が、入力信号Viの電圧を監視し、しきい値を超えると、所定時間Δτ時間経過後にAD変換器23にタイミング信号を出力する。
【0010】
さらに、AD変換器23が、タイミング信号のタイミングに基づき、ピークホールド信号VoをAD変換した出力データをメモリ24に格納する。なお、しきい値検出部が、所定時間Δτが経過し、さらにAD変換器23のAD変換が終了した時間経過した後、放電用のスイッチSWの接続をONしてコンデンサを放電し、放電後、スイッチSWをオフする。
【0011】
一方、しきい値検出部(図示せず)が、タイマ(図示せず)にもタイミング信号を出力し、タイマが、メモリ24内の対応するデジタルデータに時刻を付加する。
【0012】
【特許文献1】特許第2577386号
【特許文献2】特許第2645196号
【特許文献3】特開平5−264610号公報
【特許文献4】特開平5−291833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このように、ピークホールド回路22がパルス信号のピークとなる電圧をホールドする。そして、このホールドされている電圧を、タイミング信号に基づいてAD変換器23がAD変換すると共に、同じタイミング信号に基づいてタイマが時刻を出力し、デジタルデータに関連付けする。
【0014】
放射線測定システムでは、検出器11を複数個用いる場合、それぞれのエネルギー測定データ間の時間的な関係を確保せねばならず、ピーク到達時刻を正確に計測する(パルス幅FWHT=〜1[μs]なので数[ns]〜数百[ns]の精度)ことが必要である。
【0015】
また、放射線源からの放射線出力時に、その放射線のエネルギー測定データと、放射線出力に付随して起こる他の現象に関係した物理量の測定データとの、時間的な関係を確保する必要もある。
【0016】
しかしながら、しきい値を超えてから時間Δτ後にタイミング信号が出力されるため、AD変換器23が、パルス信号のピークが到達した時刻と同時にAD変換しておらず、パルス信号のピーク到達時刻を正確に計測することが困難であるという問題があった。
【0017】
また、増幅器に入力する信号の波高値によってパルス信号のパルス幅、ピーク値も異なるため、しきい値を超えた点とピーク値との関係も異なり、ピーク到達時刻を正確に計測することが困難であるという問題があった。
【0018】
そこで本発明の目的は、パルス信号のピーク到達時刻を正確に計測することができるピーク検出回路、このピーク検出回路を用いたマルチチャネルアナライザおよびこのマルチチャネルアナライザを用いた放射線測定システムを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
請求項1記載の発明は、
被測定信号のピーク値を検出するピーク検出回路において、
前記被測定信号をサンプリングするAD変換器と、
前記被測定信号の振幅がしきい値を超えたことを検出するしきい値検出部と、
このしきい値検出部がしきい値を超えたことを検出してから所定の時間の間に前記AD変換器から入力されたデジタルデータのなかから前記ピーク値となる最大値を検出するピーク検出部と、
このピーク検出部が最大値を検出したときの時刻を出力するタイマ部と
を設けたことを特徴とするものである。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、
ピーク検出部は、
前記AD変換器からのデジタルデータと他方のデジタルデータとを比較するデジタル比較回路と、
前記デジタル比較回路の比較結果によって、保持するデジタルデータを前記AD変換器からのデジタルデータに更新し、更新したデジタルデータを前記他方のデジタルデータとして前記デジタル比較回路に出力するデータ保持回路と、
を有し、タイマ部は、
所定の周期でカウントし、カウント値を出力するカウンタと、
前記デジタル比較回路の比較結果によって、保持するカウント値を前記カウンタからのカウント値に更新するカウント値保持回路と
を有することを特徴とするものである。
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、
ピーク検出部のデータ保持回路とタイマ部のカウント値保持回路のそれぞれは、前記所定の時間の経過時に保持しているデジタルデータ、カウント値を前記最大値、前記時刻として出力することを特徴とするものである。
請求項4記載の発明は、
放射線のエネルギーに対応したピーク値をもつパルス信号に基づいて放射線源の解析を行なうマルチチャネルアナライザにおいて、
請求項1〜3のいずれかに記載のピーク検出回路と、
このピーク検出回路からの最大値と時刻とからヒストグラムやリストを作成する解析部と
を有することを特徴とするものである。
請求項5記載の発明は、
試料から出力される放射線の測定を行なう放射線測定システムにおいて、
前記試料からの放射線を検出する検出器と、
この検出器からの信号を、検出された物理量の大きさに対応するピーク値を持つパルス形状の被測定信号に変換する信号変換手段と、
この信号変換手段からの被測定信号が入力される請求項4記載のマルチチャネルアナライザと
を設けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、以下のような効果がある。
請求項1〜3によれば、AD変換器が、被測定信号をAD変換し、ピーク検出部が、所定の時間の間にAD変換器から入力されたデジタルデータのなかからピーク値となる最大値を検出し、タイマ部が、ピーク検出部によって最大値が検出されたときの時刻を出力するので、パルス信号のピーク到着時刻を正確に計測することができる。
請求項4によれば、請求項1〜3のいずれかに記載のピーク検出回路からの時刻を用いるので、解析部が、正確な到着時刻でリストを作成することができ、測定精度が向上する。
請求項5によれば、請求項4記載のマルチチャネルアナライザを用いることにより、他の物理量や他の検出器の検出結果との時間的な関係を確保することができ、放射線測定システムとしての測定精度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の第1の実施例を示したMCAの構成図である。MCAは、ピーク検出回路100、解析部40、メモリ50を有し、波形整形増幅器13から入力されるパルス信号のピーク値等を測定することにより、試料の放射線源(核種)の種類等を同定する。さらに、エネルギースペクトルやピーク値と時刻とを組にしたリスト等を作成する。
【0022】
解析部40は、ピーク検出回路100からのピーク値、時刻等に基づいて、エネルギースペクトル、リスト等を作成し、メモリ50に格納する。
【0023】
ピーク検出回路100は、MCAの入力部であり、入力端子21、バッファ30、しきい値検出部31、スタート信号出力部32、クロック部33、AD変換器34、制御信号出力部35、タイマ部36、ピーク検出部37を有し、波形増幅器13からのパルス信号が入力され、パルス信号それぞれのピーク値、ピーク検出した時刻、ピーク検出終了の信号を解析部40に出力する。
【0024】
入力端子21は、波形増幅器13から入力信号Viが入力される。なお、入力信号Viは、ピーク値を持ったパルス信号を含む被測定信号である。
【0025】
バッファ30は、入力端子21から入力信号Viが入力され、入力信号Viの雑音除去、波形整形等を行なって、しきい値検出部31、AD変換器34に出力する。
【0026】
しきい値検出部31は、入力信号Viの振幅を監視し、所定のレベル(しきい値)を超えた場合、検出信号(トリガ信号)を制御信号出力部35に出力する。一般的にMCAでは、興味のあるスペクトル部分のみを選択したり、ノイズ領域を除去するために、所望のスペクトル幅(下限値をLLD(Lower Level Discrimination)、上限値をULD(Upper Level Discrimination))となるROI(Region Of Interest)を設定することが多い。従って、しきい値は、LLDに設定するとよい。
【0027】
スタート信号出力部32は、クロック信号Clkを基準にし、測定をスタートさせるためのスタート信号Stを制御信号出力部35、タイマ部36に出力する。
【0028】
クロック部33は、クロック信号Clkをスタート信号出力部32、AD変換器34、制御信号出力部35、タイマ部36、ピーク検出部37に出力し、各部32、34〜37間の同期を図る。
【0029】
AD変換器34は、クロック信号Clkを基準にし、入力信号Viをサンプリング(例えば、サンプリング速度100[MS/s]、分解能14[bit]等)して、デジタルデータに変換してピーク検出部37に出力する。
【0030】
制御信号出力部35は、しきい値検出部31からトリガ信号が入力される。また、制御信号出力部35は、クロック信号Clkを基準にし、ピーク検出部37にリセット信号Rs、トリガ信号が入力してから所定の時間Δt(この場合、所定のクロック数)内であることを示す信号(ここでは、ホールド信号Hdと呼ぶ)、トリガ信号が入力してから所定の時間Δtが経過したことを示す信号(ここでは、検出終了信号Endと呼ぶ)をピーク検出部37に出力する。また、制御信号出力部35は、検出終了信号Endを、タイマ部36、解析部40に出力する。
【0031】
タイマ部36は、クロック信号Clkを基準にし、スタート信号Stが入力されると共にカウントを開始し、ピーク検出部37からの信号Comp、制御信号出力部35からの検出終了信号Endに基づいてカウント値を解析部40に出力する。この場合、スタート信号Stが入力された時が、カウント値の基準時刻となる。
【0032】
ピーク検出部37は、AD変換器34からデジタルデータが入力される。また、ピーク検出部37は、クロック信号Clkを基準にし、制御信号出力部35からの信号Rs、End、Hdに基づいて、所定の時間内に入力されたデジタルデータのなかから最大値を検出して解析部40に出力し、最大値を検出したタイミングで信号Compをタイマ部36に出力する。
【0033】
このような装置の動作を説明する。
なお、測定時間ΔTとは、エネルギースペクトルおよびリストを作成するために検出回路100で複数のパルス信号を検出するための時間のことであり、スタート信号Stを基準とする。一方、所定の時間Δtとは、ピーク検出部37がデジタルデータの最大値を検出するための時間のことであり、しきい値検出部31からのトリガ信号を基準とする。従って、(ΔT>>Δt)である。
【0034】
クロック部33が、入力端子21に入力されるパルス信号の有無、スタート信号出力部32からのスタート信号Stの有無に関わらず、クロック信号Clkを、各部32、34〜37に出力する。また、AD変換器34が、パルス信号、スタート信号Stの有無に関わらず、クロック信号Clkのクロック周波数で常時AD変換を行ない、ピーク検出部37にデジタルデータを出力する。
【0035】
そして、スタート信号出力部32が、制御信号出力部35とタイマ部36にスタート信号Stを出力する。このスタート信号Stによって、タイマ部36がカウント値をゼロにリセットしてクロック周波数でカウントを開始し、制御信号出力部35がリセット信号Rsを出力してピーク検出部37の保持するデータをリセット(データ値をゼロ)する。
【0036】
さらに、スタート信号が入力され、測定時間ΔTが経過するまでの間、パルス信号が入力されるごとに下記の動作を行なう。
【0037】
入力端子21、バッファ30を介してパルス信号がしきい値検出部31、AD変換器34に入力される。そして、しきい値検出部31が、パルス信号の振幅(電圧レベル)が、LLDに相当する電圧レベルを超えると、トリガ信号を制御信号出力部35に出力する。さらに、制御信号出力部35が、トリガ信号が入力されるとリセット信号Rsをピーク検出部37に出力し、ピーク検出部37の保持するデータをリセット(データ値をゼロ)する。また、制御信号出力部35が、トリガ信号を基準とした所定の時間Δtの間、ホールド信号Hdをピーク検出部37に出力し、最大値を検出させる。さらに、所定の時間Δt経過後に検出終了信号Endをピーク検出部37、タイマ部36に出力する。この検出終了信号Endが入力されると、タイマ部36、ピーク検出部37のそれぞれが、保持しているデータ(カウント値、最大値)を解析部40に出力する。
【0038】
具体的には、ピーク検出部37が、所定の時間Δtの間、現在保持しているデータのデジタル値よりも大きな値を持つデータがAD変換器34から入力されるごとに、保持するデータを新たなデータに更新すると共に、データを更新した旨の信号Compをタイマ部36に出力する。この結果信号Compに基づいてタイマ部36が、保持しているカウント値を現在のカウント値に更新する。
【0039】
そして、所定の時間Δtが経過すると、タイマ部36が、保持しているカウント値を解析部40に出力し、ピーク検出部37が、保持している最大値(つまり、ピーク信号のピーク値)を解析部40に出力する。
【0040】
さらに、解析部40が、ピーク値とカウント値とを組にして、メモリ50に格納しリストを作成する。また、解析部40が、ピーク値から、割り振る先のチャネルを判別し、各チャネルあたりのパルス信号の発生頻度のヒストグラムをメモリ50に記憶する。
【0041】
また、表示処理部(図示せず)が、メモリ50のヒストグラムをエネルギースペクトルとして、表示部(図示せず)に表示したり、スタート信号の出力された時刻を基準とし、カウント値およびクロック信号の周波数から時刻を求め、表示部にリストを表示する。
【0042】
次に、図2は、図1に示す装置のピーク検出回路100の詳細を示した図であり、図3は、図2に示すピーク検出回路100の動作を説明したタイミングチャートである。ここで、図1と同一のものには同一符号を付し、説明を省略する。
【0043】
図2において、スタート信号出力部32は、信号生成回路32a、変換回路32bを有する。信号生成回路32aは、クロック信号Clkに同期して動作し、測定時間ΔTの間、Highレベル(以下、Hレベル)の信号を出力し、それ以外の間はLowレベル(以下、Lレベル)の信号を出力する。変換回路32bは、信号生成回路32aから信号が入力され、L→Hレベルの信号を検出すると、クロック部33のクロック信号Clkの2クロック幅未満のHレベルの信号を出力する。
【0044】
制御信号出力部35は、Δt計測回路35a、オア回路35b、ラッチ回路35cを有する。Δt計測回路35aは、しきい値検出部31からトリガ信号Trigが入力され、ホールド信号Hdをアンド回路(後述)37d、検出終了信号Endを出力する。
【0045】
オア回路35bは、Δt計測回路35aからトリガ信号に同期した信号が入力され、変換回路32bから信号が入力され、それぞれのOR(論理和)結果の信号(リセット信号Rs)を出力する。
【0046】
ラッチ回路35cは、データ入力端子にΔt計測回路35aから信号Endが入力され、クロック信号Clkに同期して入力された信号Endを解析部40に出力する。
【0047】
タイマ部36は、カウンタ36a、ラッチ回路36b、36cを有する。カウンタ36aは、イネーブル端子に生成回路32aからスタート信号が入力され、リセット端子に変換回路32bからの信号が入力され、カウント値Tcountを出力する。なお、イネーブル端子がHレベルになるとカウントを開始し、リセット信号にHレベルの信号が入力されるとカウント値をゼロにリセットする。
【0048】
ラッチ回路36bは、カウント値保持回路であり、データ入力端子にカウンタ36aからカウント値Tcountが入力され、イネーブル端子にデジタル比較回路37a(後述)から比較結果の信号Compが入力され、保持しているカウント値T_Hdを出力する
【0049】
ラッチ回路36cは、データ入力端子にラッチ回路36bからカウント値T_Hdが入力され、イネーブル端子にΔt計測回路35aから検出終了信号Endが入力され、保持しているデータTpeakを解析部40に出力する。
【0050】
ピーク検出部37は、デジタル比較回路37a、ラッチ回路37b、37c、アンド回路37dを有する。デジタル比較回路37aは、一方のデータ入力端子にAD変換器32からのデジタルデータDataが入力され、他方の入力端子にラッチ回路37dからデータV_Hdが入力され、入力されたデータの値を比較し比較結果の信号Comp(ただし、(Data)≧(V_Hd)の場合Hレベル、(Data)<(V_Hd)の場合Lレベル)をアンド回路37d、ラッチ回路36bに出力する。
【0051】
ラッチ回路37bは、データ入力端子にAD変換器32からのデータDataが入力され、イネーブル端子にアンド回路37dからの信号が入力され、リセット端子にオア回路35bからの信号Rsが入力され、保持しているデータV_Hdをラッチ回路37c、デジタル比較回路37aの他方の入力端子に出力する。
【0052】
ラッチ回路37cは、データ入力端子にラッチ回路37bからのデータV_Hdが入力され、イネーブル端子にΔt計測回路35aからの信号Endが入力され、保持しているデータVpeakを解析部40に出力する。
【0053】
なお、回路35a、35c、36a〜36c、37b、37cのそれぞれは、クロック信号Clkに同期している。また、ラッチ回路36b、36c、37b、37cは、イネーブル端子にHレベルの信号が入力されると、保持するデータを、データ入力端子に入力されたデータに更新する。そして、ラッチ回路37bは、Hレベルの信号が入力されると、保持するデータをゼロにリセットする。
【0054】
このような回路100の動作を説明する。
クロック信号Clkが各回路32、35a、35c、36a〜36c、37b、37cに供給され(図3(a))、AD変換器32からのデータDataがデジタル比較回路37a、37bに入力される(図3(b))。
【0055】
そして、時刻t0にて生成回路32aから、L→Hレベルへのスタート信号Stが変換回路32b、カウンタ36aに出力される(図3(c))。さらに、変換回路32bが、スタート信号StをHレベルの幅が狭い信号に変換し、オア回路35b、カウンタ36aに出力する。これによって、カウンタ36aが、カウント値”0”からカウントを開始し、カウント値Tcountをラッチ回路36bに出力する(図3(i))。また、オア回路35bが、リセット信号Rs(図3では図示せず)をラッチ回路37bに出力する。
【0056】
しきい値検出部31が、パルス信号のレベルがしきい値を超えたことを検出すると、トリガ信号(Hレベルの幅は、1クロック以上Δt未満)をΔt計測回路35aに出力する(図3(d))。これによって時刻t1において、Δt計測回路35aが、オア回路35bを介してリセット信号Rsをラッチ回路37bに出力する。また、Δt計測回路35aが、内部のカウンタ回路(図示せず)にてカウント値”0”からカウントを開始し(図3(f))、所定の時間Δtが経過するまでホールド信号Hdをアンド回路37dに出力する(図3(e))。
【0057】
そして、デジタル比較回路37aが、入力されるデータData、V_Hdを比較し、データDataが大きい場合、Hレベルの信号Compをラッチ回路36b、アンド回路37dを介してラッチ回路37bに出力する(図3(h))。
【0058】
これによって比較結果の信号CompがHレベルの場合、ラッチ回路37bが、保持するデータを、AD変換器32からの新たなデータDataに更新し、保持しているデータをラッチ回路37cに出力する(図3(g))。もちろん、ラッチ回路37bは、アンド回路37dを介して比較信号Compが入力されるので、保持するデータを更新するのは、所定の時間Δtの間のみである。
【0059】
また、比較信号CompがHレベルの場合、ラッチ回路36bが、タイマ用のカウンタ36aからのカウント値T_countで保持するカウント値を更新し、保持している値T_Hdをラッチ回路36cに出力する(図3(j))
【0060】
すなわち、比較回路37aが、AD変換器32からのデータDataとラッチ回路37bの保持するデータV_Hdとを比較し、データDataの方が大きい場合、Hレベルの信号Compを出力し、ラッチ回路37bが新たなデータDataに更新し、ラッチ回路36bが新たなカウント値Tcountに更新する。これにより、所定の時間Δtにおける最大値、この最大値がサンプリングされたときのカウント値をラッチ回路37b、36bが保持する(図3(g)、(j))。
【0061】
そして、Δt計測回路35aが、所定の時間Δt経過を示すため、検出終了信号Endをラッチ回路35c、36c、37cを出力する(図3(k)、図3の時刻t2)。これによってラッチ回路37cが、最大値Vpeakを解析部40に出力する(図3(m))。また、ラッチ回路36cが、この最大値VpeakをAD変換した時刻のカウント値Tpeakを解析部40に出力する(図3(l))。また、ラッチ回路35cが、ラッチ回路36c、37cに同期して、ピーク検出が終了した旨の信号(Hレベル)を解析部40に出力する。
【0062】
さらに、スタート信号StがLレベルになるまで、次のパルス信号のレベルがしきい値を超えるごと(図3の時刻t3)に、ピーク値の検出、ピーク検出時のカウント値を解析部40に出力する。
【0063】
このように、図5に示すようなピークホールド回路22を用いずに、AD変換器32が、パルス信号をクロック周波数で直接AD変換して比較回路37a、ラッチ回路37bに出力する。そして、比較回路37aが、比較結果(Data≧V_Hd)をラッチ回路37b、36bに出力し、回路36b、37bそれぞれが比較結果に基づいてデータの更新を行なう。すなわち、ラッチ回路37bが、保持するデータを新たなデータDataに更新し、ラッチ回路36bが、ラッチ回路37bに同期して保持するカウント値を更新する。これにより、パルス信号の波形情報をクロック周波数ごとに取得できるので、パルス信号のピーク到着時刻も正確に計測することができる。従って、解析部40も正確な到着時刻を用いてリストを作成することができ、MCAとしての測定精度が向上される。
【0064】
さらに、ピーク検出回路100を用いた図1に示すMCAを、図4に示すような放射線測定システムに用いることにより、他の物理量や他の検出器11の検出結果との時間的な関係を確保することができ、放射線測定システムとしての測定精度も向上する。
【0065】
なお、本発明はこれに限定されるものではなく、以下に示すようなものでもよい。
トリガ信号Trigが入力されると、Δt計測回路35a、オア回路35bによってリセット信号Rsを出力してラッチ回路37bをリセットする構成を示したが、オア回路35bに検出終了信号Endを入力し、所定の時間Δt経過後にラッチ回路37bの値をリセットしてもよい。
【0066】
図1に示す装置のおいて、ピーク検出回路100を、MCAのデータ入力部に用いる例を示したが、被測定信号のピーク値を測定する装置、例えば、波形測定装置の測定装置に用いてもよい。また、放射線スペクトラム測定のほかにも、精密時間間隔測定、各種エネルギー測定等において、波高ピーク値を測定する測定装置に用いてよい。例えば、精密時間間隔測定では、時間間隔情報を、検出器11で電荷へ変換し、信号変換手段で電荷量に比例した振幅をもつ電圧に変換し、ピーク検出回路でピーク値を検出するとよい。
【0067】
図2に示す装置において、データ保持回路やカウント値保持回路の一例として、ラッチ回路35c、36b、36c、37b、37cを用いる構成を示したが、デジタルデータを保持できるものならばどのようなものでもよく、例えば、D−FF(Delay flip-flop)等でもよい
【0068】
図2に示す装置において、保持するデータVpeak、Tpeakの同期の確保を容易にするためラッチ回路35c、36c、37cを設ける構成を示したが、これらのラッチ回路35c、36c、37cは、設けなくともよい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の一実施例を示した構成図である。
【図2】図1に示すピーク検出回路の詳細を示した図である。
【図3】図2に示す回路のタイミング図である。
【図4】従来の放射線測定システムの構成を示した図である。
【図5】従来のピーク検出回路の構成を示した図である。
【図6】図5に示す装置のタイミング図である。
【符号の説明】
【0070】
31 しきい値検出部
34 AD変換器
35c、36b、36c、37b、37c ラッチ回路
36 タイマ部
36a カウンタ
37 ピーク検出部
37a デジタル比較回路
40 解析部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定信号のピーク値を検出するピーク検出回路において、
前記被測定信号をサンプリングするAD変換器と、
前記被測定信号の振幅がしきい値を超えたことを検出するしきい値検出部と、
このしきい値検出部がしきい値を超えたことを検出してから所定の時間の間に前記AD変換器から入力されたデジタルデータのなかから前記ピーク値となる最大値を検出するピーク検出部と、
このピーク検出部が最大値を検出したときの時刻を出力するタイマ部と
を設けたことを特徴とするピーク検出回路。
【請求項2】
ピーク検出部は、
前記AD変換器からのデジタルデータと他方のデジタルデータとを比較するデジタル比較回路と、
前記デジタル比較回路の比較結果によって、保持するデジタルデータを前記AD変換器からのデジタルデータに更新し、更新したデジタルデータを前記他方のデジタルデータとして前記デジタル比較回路に出力するデータ保持回路と、
を有し、タイマ部は、
所定の周期でカウントし、カウント値を出力するカウンタと、
前記デジタル比較回路の比較結果によって、保持するカウント値を前記カウンタからのカウント値に更新するカウント値保持回路と
を有することを特徴とする請求項1記載のピーク検出回路。
【請求項3】
ピーク検出部のデータ保持回路とタイマ部のカウント値保持回路のそれぞれは、前記所定の時間の経過時に保持しているデジタルデータ、カウント値を前記最大値、前記時刻として出力することを特徴とする請求項2記載のピーク検出回路。
【請求項4】
放射線のエネルギーに対応したピーク値をもつパルス信号に基づいて放射線源の解析を行なうマルチチャネルアナライザにおいて、
請求項1〜3のいずれかに記載のピーク検出回路と、
このピーク検出回路からの最大値と時刻とからヒストグラムやリストを作成する解析部と
を有することを特徴とするマルチチャネルアナライザ。
【請求項5】
試料から出力される放射線の測定を行なう放射線測定システムにおいて、
前記試料からの放射線を検出する検出器と、
この検出器からの信号を、検出された物理量の大きさに対応するピーク値を持つパルス形状の被測定信号に変換する信号変換手段と、
この信号変換手段からの被測定信号が入力される請求項4記載のマルチチャネルアナライザと
を設けたことを特徴とする放射線測定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−122167(P2008−122167A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−304639(P2006−304639)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】