説明

ファイバ型分散補償器

【目的】 伝搬用光ファイバの波長分散補償と損失補償の両方を行え、かつ、装置構成が簡略でコストの安いファイバ型分散補償器を提供する。
【構成】 送信器3からの光を零分散光ファイバ13に伝搬させて受信器18に受信させる光通信システムにファイバ型分散補償器20を介設する。この分散補償器20は、光ファイバ10からの光をサーキュレータ6を介してサーキュレータ6と反射板14との間で往復させて光ファイバ11に導く往復光路21を設けて構成し、往復光路21には分散補償光ファイバ(DCF)8とエルビウムドープファイバ(EDF)5を直列に設ける。光ファイバ10からの光をサーキュレータ6を介して、EDF5→DCF8→DCF8→EDF5の順に往復伝搬させることにより、DCFによる分散補償とEDF5による光増幅とを効率的に行う。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、光ファイバや半導体レーザの波長分散を補償するファイバ型分散補償器に関するものである。
【0002】
【従来の技術】半導体レーザ等の送信器からの光をパルス信号で変調し、零分散光ファイバに入射させ、その光ファイバを伝送路として用いて、例えば波長1550nmでの長距離高速通信を行う検討が行われている。
【0003】ところで、光ファイバは、通常、石英系ガラスにより形成されており、この石英系ガラスの屈折率は、光の波長が長いほど小さくなる。そのため、光ファイバは、周知の光の材料分散に起因して、光ファイバを伝搬する光波の波長が長いほど、その光の伝搬速度が速くなり、光波の波長が短いほど、その光の伝搬速度が遅くなる、いわゆる正の分散特性(波長分散)を有することが知られている。例えば、現在広く敷設されている1300nm零分散光ファイバは1550nm付近の波長での単位長さあたりの波長分散が+17psec/nm/km程度であり、長さ120 kmの零分散補償光ファイバにおいては、上記波長分散は2040psec/nmにも達することになる。
【0004】したがって、このような分散特性を有する光ファイバに、一般に、中心波長に対してある程度広がりを有する半導体レーザの光を入射させた場合は、その入射光のパルス幅に比べて、光ファイバを伝搬した後の出射光のパルス幅が広くなってしまう。
【0005】このため、前記出射光を光受信側で受信したときに、その出射光の独立したパルスを識別できるようにするためには、光ファイバに入射させる入射光のパルス間隔を充分に広く取る必要が生じ、そのように入射光のパルス間隔を広くすると、高速通信を行うことが困難となり、そのままでは、半導体レーザと光ファイバを用いた高速、大容量の通信システムの構築が妨げられてしまうことになる。
【0006】そこで、零分散光ファイバの分散特性を補償(分散補償)するために、例えば、半導体レーザ等の送信器と零分散光ファイバとの間に分散補償器を介設した光通信方式(光通信システム)が提案されており、図4R>4には、分散補償器の一例としてのファイバ型分散補償器20を、送信器3と零分散光ファイバ13との間に介設したシステム例が示されている。
【0007】同図に示すファイバ型分散補償器20は、特開平6−276160号公報に記載されているものであり、ファイバ型分散補償器20は、光ファイバ10、サーキュレータ6、分散補償光ファイバ8、全反射終端24、光ファイバ11を有して構成されており、送信器3から光ファイバ10を通った光をサーキュレータ6を介して分散補償光ファイバ6に伝搬させ、全反射終端24で反射させている。そして、その反射戻り光を分散補償光ファイバ8側からサーキュレータ6側に伝搬させてサーキュレータ6により分岐して光ファイバ11に導き、光ファイバ11から零分散光ファイバ13に入射させるようになっている。
【0008】分散補償光ファイバ8は、光ファイバの光を伝搬する部分であるコアの屈折率分布を特殊な分布構造として形成されており、この構造分散により、光波の伝搬速度を、波長が長いほど遅く、短いほど速くした、いわゆる負の分散特性を有する光ファイバであり、この分散補償光ファイバ8を備えたファイバ型分散補償器20を光通信システムに介設すれば、分散補償光ファイバ8の負の分散特性により零分散光ファイバ13の正の波長分散を補償することができるために、零分散光ファイバ13から出射される出射光のパルス幅が広くなることを防止できる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、分散補償光ファイバ8は、通常の単一モードファイバに比べてモードフィールド径が小さく、SBS(誘導ブリルアン散乱)やSPM(自己位相変調効果)等の非線形現象が生じ易いために、図4に示したような従来のファイバ型分散補償器20を光通信システムに介設すると、光のパワーが低下してしまうといった問題が生じ、この光パワーの減衰を補うためには、光増幅の何らかの手段を設ける必要が生じる。そこで、本出願人は、例えば、図2に示すように、サーキュレータ6の分岐端2a,2b側に光増幅用ファイバとしてのエルビウムドープファイバ5a,5bを設けたファイバ型分散補償器20を考えた。
【0010】なお、光ファイバに光を入力するときに、スレッシュホールドと呼ばれる閾値を越えると、前記SBSによる後方散乱が大きくなり、スレッシュホールドを越えたパワーの光を光ファイバに入射させても、前記後方散乱による戻り光が増えるばかりで、伝搬する光のパワーは増えないことが知られているが、分散補償光ファイバ8においては、前記のように、SBS等の非線形現象が生じ易いために、前記スレッシュホールドが+3dBmと小さい(通常のシングルモード光ファイバのスレッシュホールドは+10dBmである)。
【0011】そのため、分散補償光ファイバに入力する光パワーは+3dBmと小さく制限されてしまうことになり、図2のファイバ型分散補償器20においても、分散補償光ファイバ8への入力光のパワーは+3dBmとなるように、エルビウムドープファイバ5aによる増幅率を設定している。
【0012】図2において、送信器3は、例えば、10Gbps の直接変調を施せるDFBレーザ(分布帰還レーザ)等により構成されており、送信器3には光入射光路としての光ファイバ10が接続されている。光ファイバ10にはアイソレータ4aを介して光増幅用ファイバとしてのエルビウムドープファイバ5aが接続されており、エルビウムドープファイバ5aには、光分岐手段としてのサーキュレータ6の分岐端2a側が接続されている。エルビウムドープファイバ5aにはカップラ16aを介して励起用LD(励起用レーザダイオード)15aが接続されており、エルビウムドープファイバ5aが励起用LD15aから1.48μmの励起光をドープされることにより、光増幅用ファイバとして機能するようになっている。
【0013】また、サーキュレータ6の分岐端2b側にはエルビウムドープファイバ5bが接続されており、このエルビウムドープファイバ5bにはカップラ16bを介して励起用LD15bが接続され、エルビウムドープファイバ5bは、エルビウムドープファイバ5aと同様に光増幅用ファイバとして機能するようになっている。エルビウムドープファイバ5bには、アイソレータ4bを介して、光出射光路として機能する光ファイバ11が接続されており、光ファイバ11には光通信システムの伝送路としての零分散光ファイバ13が接続され、零分散光ファイバ13には受信器18が接続されている。
【0014】この零分散光ファイバ13は、1310nm付近での波長分散が零となる1310nm零分散光ファイバであり、長さは120 km、零分散光ファイバ全体の分散特性は+2040ps/nm、全体の伝搬損失は25dBとなっている。
【0015】前記サーキュレータ6の合流端1側には分散補償光ファイバ8が接続されており、分散補償光ファイバ8の片端には反射手段として機能する反射板14が接続されており、サーキュレータ6の合流端1から反射板14に至る光路は、光ファイバ10からの光をサーキュレータ6を介して入射させて伝搬させ、伝搬光を反射板14によりサーキュレータ6側に反射し、サーキュレータ6で分岐して光ファイバ11側に導く往復光路21を構成している。
【0016】分散補償光ファイバ8は、1500nm付近の波長での単位長さ当たりの波長分散が−100 ps/nm/kmとなっており、伝搬損失は0.5 dB/kmであり、長さが10.2kmとなっている。そして、この分散補償光ファイバ8を光波が往復することにより、−2040ps/nmの分散特性が生じ、それにより、零分散光ファイバ13の正の分散特性(+2040ps/nm)が補償されるように構成されている。
【0017】前記エルビウムドープファイバ5a,5bの長さは、それぞれ30mとなっている。エルビウムドープファイバ5aは、光ファイバ10から入射される光を増幅して分散補償光ファイバ8側に伝搬させる役割を果たすようになっており、一方、エルビウムドープファイバ5bは、分散補償光ファイバ8を往復して戻ってきた光を増幅して光ファイバ11側に伝搬させる役割を果たすようになっている。そして、この提案のファイバ型分散補償器20においては、このように、サーキュレータ6の分岐端2aにエルビウムドープファイバ5aを設けて、分散補償光ファイバ18への入力光を分散補償光ファイバ8のスレッシュホールド(+3dBm)まで増幅しており、さらに、サーキュレータ6の分岐端2bにエルビウムドープファイバ5bを設けて光増幅を行うことにより、前記分散補償光ファイバ8を伝搬した光のパワーの減衰を補って、零分散光ファイバ13のスレッシュホールドである+10dBmの光を零分散光ファイバ13に入射できるようにしようとしている。
【0018】このシステムにおいては、例えば、送信器3から1552nmの波長を有する10Gbps の信号光を発信すると、この入射光のパワーは−15dBm(図のA)となり、この光はエルビウムドープファイバ5aにより、分散補償光ファイバ8のスレッシュホールドである+3dBmまで増幅され、サーキュレータ6を介して、図のBに示すように、+3dBmのレベルで分散補償光ファイバ8に入射する。そして、分散補償光ファイバ8を伝搬して反射板14で反射し、分散補償光ファイバ8を往復することで、図のCに示すように、−8dBmのレベルとなって分散補償光ファイバ8から出射される。
【0019】この光がサーキュレータ6を介してエルビウムドープファイバ5bに入射すると、エルビウムドープファイバ5bにより、零分散光ファイバ13のスレッシュホールドである+10dBmまで増幅されて、図のDに示すように+10dBmのレベルとなって零分散光ファイバ13に入射する。そして、零分散光ファイバ13を伝搬した後に、図のEに示すように、−15dBmのレベルとなり、入射光と同じレベルの光が受信器18により受信される。なお、このシステムにおいても、図4に示したシステムと同様に、零分散光ファイバ13の正の分散特性は、分散補償光ファイバ8の負の分散特性により補償され、受信器18には波長分散が補償された光が受信器18に受信される。
【0020】このように、提案のファイバ型分散補償20を設けて光通信システムを構築すれば、ファイバ型分散補償器20により、伝搬用の零分散光ファイバ13の波長分散を分散補償することができ、かつ、分散補償光ファイバ8による伝搬損失と零分散光ファイバ13の伝搬損失とを共に補償することができるために、高速、大容量の通信システムの構築が可能となる。
【0021】しかしながら、図2に示したファイバ型分散補償器20は、サーキュレータ6の分岐端2a,2b側にそれぞれ、エルビウムドープファイバ5a,5bを接続しており、さらに、エルビウムドープファイバ5a,5bと光ファイバ10,11との間には、それぞれ、アイソレータ4a,4bを介設しているために、ファイバ型分散補償器20の装置構成が複雑になり、コストも高くなってしまうといった問題があった。
【0022】本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、装置構成が簡略で、コストが安く、しかも、伝搬用のファイバの波長分散や伝搬損失を確実に補うことができるファイバ型分散補償器を提供することにある。
【0023】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明は次のように構成されている。すなわち、本発明は、光入射光路からの光を光分岐手段を介して入射させて伝搬させ、該伝搬光を反射手段により前記光分岐手段側に反射し、該光分岐手段で分岐して光出射光路に導く往復光路を有し、該往復光路の途中には負の分散特性を有する分散補償光ファイバが設けられているファイバ型分散補償器であって、前記往復光路の分散補償光ファイバと光分岐手段との間には光増幅用ファイバが介設されていることを特徴として構成されている。
【0024】また、前記分散補償光ファイバの出射端と光反射手段との間には、分散補償光ファイバの断面の直角2軸方向に形成される伝搬定数の異なる偏波成分軸に分かれて伝搬した伝搬出射光を光軸を中心として略90°回転させる偏波回転手段が介設されていることも本発明の特徴的な構成とされている。
【0025】
【作用】上記構成の本発明において、光入射光路からの光は光分岐手段を介して往復光路に入射して伝搬した後、反射手段により前記光分岐手段側に反射し、この光分岐手段で分岐されて光出射光路に導かれるが、往復光路の途中には分散補償光ファイバが設けられており、さらに、往復光路の分散補償光ファイバと光分岐手段との間には光増幅用ファイバが介設されているために、往復光路を往復する光は、まず、光増幅用ファイバで増幅されてから分散補償光ファイバに入射して分散補償光ファイバを往復し、その後、再び前記光増幅用ファイバを伝搬して増幅される。
【0026】そして、光が分散補償光ファイバを往復することにより、ファイバ型分散補償器と接続される零分散光ファイバ等の伝搬用光ファイバの波長分散が効率的に補償されることとなり、また、光が光増幅用ファイバを往復することにより、1つの光増幅用ファイバにより2度増幅が行われて、分散補償光ファイバと伝搬用の光ファイバの伝搬損失が効率的に補償される。
【0027】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。なお、本実施例の説明において、図2に示した光通信システムと同一名称部分には同一符号を付し、その重複説明は省略する。図1には、本発明に係るファイバ型分散補償器の一実施例を備えた光通信システムが示されている。本実施例のファイバ型分散補償器20が図2に示したファイバ型分散補償器20と異なる特徴的なことは、光増幅用ファイバとしてのエルビウムドープファイバ5が、往復光路20の分散補償光ファイバ8とサーキュレータ6との間に介設されていることと、分散補償光ファイバ8の出射端23と反射板14との間にファラデー回転子9が介設されていることである。
【0028】このファラデー回転子9は、分散補償光ファイバ8の断面の直角2軸方向に形成される伝搬定数の異なる偏波成分軸に分かれて伝搬した伝搬出射光を、光軸を中心として略90°回転させる偏波回転手段として機能するものであり、このファラデー回転子9を分散補償光ファイバ8の出射端23と反射板14との間に介設することにより、分散補償光ファイバ8を伝搬した伝搬出射光は、光軸を中心として略90°回転させられて、反射板14で反射し、この反射光が戻り光として分散補償光ファイバ8の出射端23に戻り、エルビウムドープファイバ5側に伝搬するようになっている。
【0029】なお、本実施例でも、エルビウムドープファイバ5にはカップラ16を介して励起用LD15が接続されており、これらのカップラ16と励起用LD15も往復光路21に設けられている。また、本実施例では、アイソレータ4a,4bを省略して構成されており、光ファイバ10,11が、それぞれ、サーキュレータ6の分岐端2a,2bに直接接続されている。そして、ファイバ型分散補償器20の上記以外の構成および、送信器3、零分散光ファイバ13、受信器18の構成は、図2に示した光通信システムと同様に構成されている。
【0030】本実施例のファイバ型分散補償器20を備えた光通信システムは以上のように構成されており、このシステムにおいても、送信器3からの信号光は、ファイバ型分散補償器20に入射して、光ファイバ10からサーキュレータ6を介して往復光路21に入射し、往復光路21を往復した後に、サーキュレータ6により分岐されて光ファイバ11から零分散光ファイバ13に導かれるが、本実施例では、エルビウムドープファイバ5が往復光路21の分散補償光ファイバ8とサーキュレータ6との間に介設されているために、光ファイバ10からの光は、サーキュレータ6を介して−16dBmのレベルとなり(図のB′)、エルビウムドープファイバ5に入射し、エルビウムドープファイバ5により、分散補償光ファイバ8のスレッシュホールドである+3dBmに増幅されて(図のB)、分散補償光ファイバ8に入射する。そして、この光は、分散補償光ファイバ8を往復し、図のCに示すように、−8dBmのレベルの光となって、再びエルビウムドープファイバ5に入射する。
【0031】この入射光は、エルビウムドープファイバ5を通ってサーキュレータ6側に伝搬し、エルビウムドープファイバ5を伝搬することにより、図のC′に示すように+11dBmのレベルまで増幅されて、サーキュレータ6に入射し、サーキュレータ6により分岐されて、光ファイバ11に導かれ、光ファイバ11を介して、図のDに示すように、零分散光ファイバ13のスレッシュホールドである+10dBmのレベルとなって零分散光ファイバ13に入射し、零分散光ファイバ13を介して−15dBmのレベルとなって受信器18に受信される。
【0032】このように、本実施例では、エルビウムドープファイバ5を光が往復することになり、光がサーキュレータ6側から分散補償光ファイバ8側に伝搬するときと、分散補償光ファイバ8側からサーキュレータ6側に戻るときとの両方で、信号光のレベルの増幅が行われる。
【0033】また、本実施例でも、図2に示した光通信システムと同様に、ファイバ型分散補償器20の分散補償光ファイバ8により零分散光ファイバ13の波長分散の分散補償が行われる。
【0034】さらに、ファイバ型分散補償器20における分散補償光ファイバ8は、一般に、小径のコイル状に巻いて形成しており、このように、長尺の分散補償光ファイバ8を小径のコイル状に巻いた場合、光ファイバ8に曲げによる応力歪が印可され、それによって分散補償光ファイバ8の軸対称の屈折率の断面構造が崩れ、ファイバ断面(横断面)の互いに直角をなす直角2軸方向の屈折率分布が異なるように変化する複屈折という現象が生じ、そうすると、分散補償光ファイバ8を伝搬する光の伝搬速度が遅い偏波成分軸である遅相軸と、この遅相軸よりも光の伝搬速度が速い偏波成分軸である進相軸とが互いに直交して形成され、これに起因して偏波分散が生じ、この偏波分散により、前記材料分散と同様の問題が引き起こされることが知られている。
【0035】しかしながら、本実施例では、分散補償光ファイバ8の出射端23と反射板14との間にファラデー回転子9が介設されており、分散補償光ファイバ8を伝搬して出射端23から出射される伝搬出射光がファラデー回転子9に入射すると、ファラデー回転子9により、伝搬出射光はその偏波面が略90°回転させられ、前記偏波成分軸(遅相軸と進相軸)のうち、遅相軸を通って分散補償光ファイバ8の出射端23側に伝搬した光が進相軸を通って分散補償光ファイバ8の入射端側に戻っていき、その逆に進相軸を通って分散補償光ファイバ8の出射端23側に伝搬した光が遅相軸を通って分散補償光ファイバ8の入射端側に戻っていくこととなり、両者の伝搬時間差は生じず、ファイバ型分散補償光ファイバ8の偏波分散はほぼ零となり、前記偏波分散による問題は解消されることになる。
【0036】また、分散補償光ファイバ8の偏波分散ほど大きくはないものの、エルビウムドープファイバ5のような光増幅用ファイバにおいても多少の偏波分散が生じることが知られているが、本実施例では、エルビウムドープファイバ5を伝搬した後に、分散補償光ファイバ8を伝搬してその出射端23から出射した光が、ファラデー回転子9により、光軸を中心として略90°回転させられ、エルビウムドープファイバ5側に戻り、その戻り光がエルビウムドープファイバ5を通ってサーキュレータ6側に戻っていくことにより、上記と同様に、エルビウムドープファイバ5の偏波分散もほぼ零となる。
【0037】本実施例によれば、上記動作により、光ファイバ10からの光が、サーキュレータ6を介してエルビウムドープファイバ5を往復することにより、この1つのエルビウムドープファイバ5により2度増幅が行われるために、図2のファイバ型分散補償器20においては2つ必要であったエルビウムドープファイバ5を1つに省略することができるために、その分だけファイバ型分散補償器20の装置構成を簡略化することができる。
【0038】また、本実施例では、エルビウムドープファイバ5は、サーキュレータ6を介して各光ファイバ10,11と接続されており、サーキュレータ6が、図2のファイバ型分散補償器20のアイソレータ4a,4bと同様の役割を果たすことになるために、本実施例のファイバ型分散補償器20は、アイソレータ4a,4bも省略することが可能となり、装置構成をより一層簡略化することが可能となり、コストも安くすることができる。
【0039】さらに、本実施例によれば、上記のように、分散補償光ファイバ8の出射端23と反射板14との間に介設したファラデー回転子9により、分散補償光ファイバ8の伝搬出射光を光軸を中心として略90°回転させることにより、分散補償光ファイバ8の偏波分散をほぼ零とし、また、同様に、エルビウムドープファイバ5の偏波分散もほぼ零とすることができるために、ファイバ型分散補償器20の偏波分散をほぼ零とすることが可能となり、受信器18に受信される光のビットエラーレート(BER)を非常に小さくすることが可能となる。
【0040】ちなみに、図2のファイバ型分散補償器20において、分散補償光ファイバ8の出射端23と反射板14との間にファラデー回転子9を介設して、送信器3から1552nmの波長の10Gbps の光を送信したところ、受信器18により受信された光のビットエラーレートは10-9となり、本実施例のファイバ型分散補償器20を用いて送信器3から同様の光を送信したときの受信器18により受信した光のビットエラーレートは10-10 となることが確認されている。このように、エルビウムドープファイバ5をサーキュレータ6と分散補償光ファイバ8との間に介設すれば、分散補償光ファイバ8の偏波分散の解消に加えて、サーキュレータ6側から分散補償光ファイバ8側にエルビウムドープファイバ5を伝搬していく光の光軸を90°回転させて分散補償光ファイバ6側からエルビウムドープファイバ5を通してサーキュレータ6側に戻すことによるビットエラーレートの抑制効果が確認された。
【0041】以上のように、本実施例のファイバ型分散補償器20は、装置構成が簡単で、コストが安く、しかも、分散補償光ファイバ8等の偏波分散が殆どない優れた分散補償器とすることが可能となり、このファイバ型分散補償器20を設けて零分散光ファイバ13の波長分散を補償して、波長1550nm付近での優れた長距離高速光通信システムを構築することができる。
【0042】なお、図3の(a)には、図2のファイバ型分散補償器20のエルビウムドープファイバ5aを省略したときの光通信システム構成例が示されており、図3の(b)には、図2のファイバ型分散補償器20のエルビウムドープファイバ5bを省略したときの光通信システム構成例が示されている。また、図3の(a),(b)には、これらのシステムの各点での信号光パワーがそれぞれ示されている。これらの図から分かるように、例えば、同図の(b)のように、エルビウムドープファイバ5bを省略すると、分散補償光ファイバ8を通って、図のCに示すように−8dBmのレベルとなった光が、直接、光ファイバ11に入射して、その後零分散光ファイバ13に入射することになるために、受信器18で受信される光のレベルは、図のEに示すように、最大でも−33dBmとなり、この状態では、10Gbps の高速光通信は不可能となる。
【0043】また、同図の(a)に示すように、エルビウムドープファイバ5aを省略すると、図のCに示すように、分散補償光ファイバ8から戻ってくる戻り光のレベルは−26dBmとなり、この光をエルビウムドープファイバ5bにより増幅した後に、零分散光ファイバ13を介して−15dBm(図のE)で受信器18に受信させるためには、エルビウムドープファイバ5bにより、図のCの−26dBmの光を図のDに示すように、零分散光ファイバ13のスレッシュホールドである+10dBmのレベルまで増幅しなければならず、そのためには、エルビウムドープファイバ5bを非常に高出力の光増幅用ファイバとして、かつ、励起用LD15bの励起パワーも極端に大きくしなけらばならず、したがって、ファイバ型分散補償器20のコストが極端に高くなってしまう。また、この例では、分散補償光ファイバ8の戻り光のパワーが−26dBmまで低下するため、S/N比の劣化が激しく、高速光通信の実現は困難になる。
【0044】このように、図2のファイバ型分散補償器20とほぼ同様の構成で、単にエルビウムドープファイバ5aと5bの何れかを省略しても本実施例のように安いコストでファイバ型分散補償器20を構成することができないし、このファイバ型分散補償器20を用いて長距離高速光通信システムを実現させることができないことが以上のことから立証される。
【0045】なお、本発明は上記実施例に限定されることはなく、様々な実施の態様を採り得る。例えば、上記実施例では、分散補償光ファイバ8の出射端23と反射板14との間に、偏波回転手段としてのファラデー回転子9を設けたが、偏波回転手段として、ファラデー回転子9以外の、例えば1/4波長板等を設けて、分散補償光ファイバ8の断面の直角2軸方向に形成される伝搬定数の異なる偏波成分軸に分かれて伝搬した伝搬出射光を光軸を中心として略90°回転させるようにしても構わない。
【0046】また、本発明のファイバ型分散補償器は、上記のような偏波回転手段を省略して構成することもできる。ただし、偏波回転手段を設けることにより、分散補償光ファイバ8の偏波分散とエルビウムドープファイバ5のような光増幅用ファイバの偏波分散を補償することが可能となるために、偏波回転手段を設けることが望ましい。
【0047】さらに、上記実施例では、反射手段として、反射板14を設けたが、反射手段は反射板14以外の別の反射体により構成しても構わない。
【0048】さらに、上記実施例では、光分岐手段として、サーキュレータ6を設けて構成したが、光分岐手段は、サーキュレータ6以外の、カップラや導波路型Y分岐チップ等により構成しても構わない。
【0049】さらに、分散補償光ファイバ8の長さや、単位長さ当たりの偏波分散等は特に限定されるものではなく、例えば、図1の光通信システムにおける零分散光ファイバ13の波長分散を補償できるように適宜設定されるものである。
【0050】さらに、上記実施例では、光増幅用ファイバとしてエルビウムドープファイバ5を設けて構成したが、光増幅用ファイバは必ずしもエルビウムドープファイバ5により形成するとは限らず、分散補償光ファイバ8や零分散光ファイバ13による光強度の減衰を補い、送信器3からの光とほぼ同様の強度の光を受信器18により受信できるように光増幅できる光ファイバであればよく、光通信システムに合わせて増幅率等が適宜設定されるものである。
【0051】さらに、上記実施例では、送信器3はDFBレーザにより構成したが、送信器3はDFBレーザ以外の他のレーザ等により構成しても構わない。
【0052】さらに、これまでの説明は、送信器3からの光を零分散光ファイバ13を介して受信器18に伝搬する光通信システムに、1つのファイバ型分散補償器20を設けて光通信システムを構成する例について述べたが、本発明のファイバ型分散補償器は、光通信システムの光伝搬経路に複数設けることが可能であり、例えば、光通信システムの光伝搬経路に一定距離毎にファイバ型分散補償器を介設して光通信システムを構成することにより、非常に長距離の高速伝送システムを構築することができる。
【0053】
【発明の効果】本発明によれば、往復光路の分散補償光ファイバと光分岐手段との間に光増幅用ファイバを配設することにより、光入射光路からの光を光分岐手段を介して光増幅用ファイバに入射させて増幅し、その光を分散補償光ファイバに入射させて分散補償光ファイバを往復させた後、再び前記光増幅用ファイバにより増幅することができ、このように光を分散補償光ファイバと光増幅用ファイバを往復することにより、分散補償光ファイバによる波長分散補償と光増幅ファイバによる増幅を効率的に行うことが可能となる。そして、その分だけファイバ型分散補償器の装置構成を簡略化することが可能となり、コストも安くすることができる。
【0054】また、分散補償光ファイバの出射端と光反射手段との間には、分散補償光ファイバの断面の直角2軸方向に形成される伝搬定数の異なる偏波成分軸に分かれて伝搬した伝搬出射光を光軸を中心として略90°回転させる偏波回転手段が介設されている本発明によれば、分散補償光ファイバの伝搬出射光を、光軸を中心として略90°回転させることにより、分散補償光ファイバの横断面の直角2軸方向に形成される、伝搬定数が異なる偏波成分軸(遅相軸と進相軸)に分かれて伝搬した伝搬光を回転させて、両伝搬光の伝搬時間差をほぼ零とし、また、光増幅用ファイバの偏波分散も同様にしてほぼ零とすることが可能となるために、ファイバ型分散補償器の偏波分散をほぼ零とすることができる。
【0055】以上のように、本発明によれば、非常に簡略化された装置構成で、偏波分散の殆どないファイバ型分散補償器を構成し、このファイバ型分散補償器を利用して、零分散光ファイバのような伝搬用光ファイバの波長分散を確実に分散補償し、かつ、光増幅用ファイバにより、分散補償光ファイバと伝搬用光ファイバの伝搬損失を補償することがでできるために、このファイバ型分散補償器を用いて、高速、大容量の通信システムの構築を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るファイバ型分散補償器を設けた光通信システムの一例を示す要部構成図である。
【図2】2つのエルビウムドープファイバ5a,5bを有するファイバ型分散補償器の一例を示す説明図である。
【図3】図2の2つのエルビウムドープファイバ5a,5bのうち何れか一方側を省略してファイバ型分散補償器を構成し、光通信システムに設けた例をそれぞれ示す説明図である。
【図4】従来のファイバ型分散補償器を設けた光通信システムの一例を示す説明図である。
【符号の説明】
5,5a,5b エルビウムドープファイバ
6 サーキュレータ
8 分散補償光ファイバ
9 ファラデー回転子
13 零分散光ファイバ
14 反射板
21 往復光路

【特許請求の範囲】
【請求項1】 光入射光路からの光を光分岐手段を介して入射させて伝搬させ、該伝搬光を反射手段により前記光分岐手段側に反射し、該光分岐手段で分岐して光出射光路に導く往復光路を有し、該往復光路の途中には負の分散特性を有する分散補償光ファイバが設けられているファイバ型分散補償器であって、前記往復光路の分散補償光ファイバと光分岐手段との間には光増幅用ファイバが介設されていることを特徴とするファイバ型分散補償器。
【請求項2】 分散補償光ファイバの出射端と光反射手段との間には、分散補償光ファイバの断面の直角2軸方向に形成される伝搬定数の異なる偏波成分軸に分かれて伝搬した伝搬出射光を光軸を中心として略90°回転させる偏波回転手段が介設されていることを特徴とする請求項1記載のファイバ型分散補償器。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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