説明

フィスカルメモリーの制御方法およびフィスカルプリンター

【課題】フィスカル法規に準拠しつつ、フィスカルメモリーに記録したフィスカル情報を高速で読出し可能とする技術を提供する。
【解決手段】フィスカル情報を記憶するフィスカルメモリー10と、少なくともホストコンピューター2との通信を制御し、第1処理速度で動作する第1制御部5と、少なくとも前記フィスカルメモリー10の動作を制御し、前記第1処理速度よりも低い第2処理速度で動作する第2制御部7とを備えるフィスカルプリンター1において、前記ホストコンピューター2より受信した前記フィスカル情報を前記フィスカルメモリー10に書き込む処理を、前記第2制御部7が実行し、前記フィスカルメモリー10に記憶された前記フィスカル情報を該フィスカルメモリー10から読み出す処理を、前記第2制御部7による処理を介在させることなく、前記第1制御部5が実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レシート等の印刷と共に販売取引に関するフィスカル情報をフィスカルメモリーに記憶保持する機能を備えたフィスカルプリンターにおいて、当該フィスカルメモリーを制御する方法に関する。また当該制御方法を適用するフィスカルプリンターに関する。
【背景技術】
【0002】
フィスカルプリンターは、一般のプリンターのように単にテキストデータ等を印刷するだけでなく、商品等の販売取引に関する売上金額、課税額等の決済情報(フィスカル情報)を記憶保持する機能を備えており、例えばPOSシステム等においてキャッシュレジスターのプリンターとして用いられている。
【0003】
記憶すべきフィスカル情報は各国の法律(以下フィスカル法規と称する)で定められており、税務監査用データ等として用いられるため、外部からアクセスして改竄されないように保護された不揮発性メモリー等から成るフィスカルメモリーに記憶保持される。
【0004】
一般にフィスカルプリンターは、POSシステム等のホストコンピューターとの通信を制御する通信制御部と、フィスカルメモリーに対するフィスカル情報の書込みおよび読出し処理を制御するメモリー制御部とを備えている。
【0005】
通信制御部は、前述したホストコンピューターとのデータ通信を制御する機能を有するアプリケーションCPUを備えている。一方でフィスカル法規は、アプリケーションCPUにより直接フィスカルメモリーにフィスカル情報を書込むことを改竄防止の観点から禁止している。よってメモリー制御部は、フィスカルメモリーに対するフィスカル情報の書込みを実行するメモリー制御CPUを、前記アプリケーションCPUとは別に備えている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−276593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図6にこのような従来のフィスカルプリンター101の制御系を模式的に示す。例えば決済処理の度にホストコンピューター102の側から供給される販売取引に関するフィスカル情報は、通信制御部103のアプリケーションCPU105によりメモリー制御部104のメモリー制御CPU107に転送され、メモリー制御CPU107は受取ったフィスカル情報をフィスカルメモリー110に書込む。
【0008】
フィスカルメモリー110に記録されたフィスカル情報は、上述した税務監査等の目的で定期的に提出が求められるため、適宜のタイミングで読み出される。図6のフィスカルプリンター101では、メモリー制御CPU107がフィスカルメモリー110からのフィスカル情報の読出しを行ない、これをアプリケーションCPU105へ転送するように構成されている。
【0009】
時間的に分散して行われるフィスカル情報の書込み処理に関しては、高速処理性能が求められるアプリケーションCPU105と比較して処理速度が比較的低いCPUでもメモリー制御CPU107として使用可能である。しかしながらフィスカル情報の読出しに関しては、その目的上、ある程度の期間蓄積された状態で一括して処理に供されるため、そのような低速のCPUでは処理に非常に時間を要する。一方で頻度の低い読出し処理に対応するために高速のメモリー制御CPUを使用することは、回路設計上の観点からは非現実的であると言える。
【0010】
なお本明細書では、フィスカル情報の授受に係る通信速度を少なくとも指すものとして「処理速度」という語を定義する。
【0011】
本発明の目的は、フィスカル法規に準拠しつつ、フィスカルメモリーに記録したフィスカル情報を高速で読出し可能とする技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明によれば以下に列挙するものが提供される。
【0013】
(1):フィスカル情報を記憶するフィスカルメモリーと、少なくともホストコンピューターとの通信を制御し、第1処理速度で動作する第1制御部と、少なくとも前記フィスカルメモリーの動作を制御し、前記第1処理速度よりも低い第2処理速度で動作する第2制御部とを備えるフィスカルプリンターにおける前記フィスカルメモリーの制御方法であって、
前記第1制御部によって前記ホストコンピューターより前記フィスカル情報を受信するとともに該フィスカル情報を前記第2制御部に転送し、前記第1制御部より転送された前記フィスカル情報を前記フィスカルメモリーに書き込む書込み処理を、前記第2制御部により実行することによって前記フィスカル情報を前記フィスカルメモリーに記憶させ、
前記フィスカルメモリーに記憶された前記フィスカル情報を該フィスカルメモリーから読み出す読出し処理を、前記第2制御部による処理を介在させることなく前記第1制御部により実行することを特徴とするフィスカルメモリーの制御方法。
【0014】
この方法によれば、フィスカルメモリーからのフィスカル情報の読出しのみ第2制御部よりも高い処理速度を有する第1制御部によって行なわれる。したがってフィスカル情報の容量が大きい場合においてもデータ読出しに要する時間を大幅に短縮可能である。またフィスカル情報の読出しのみ第1制御部によって行なわれるため、第1制御部によるフィスカルメモリーへの書込みのみを禁じたフィスカル法規に抵触することもない。
【0015】
(2):前記第2制御部を経由して前記第1制御部と前記フィスカルメモリーを接続する第1通信路と、前記第2制御部を経由することなく前記第1制御部と前記フィスカルメモリーを接続する第2通信路の何れかを選択可能とし、
前記第2制御部が前記書込み処理を実行する際には前記第1通信路を選択し、
前記第1制御部が前記読出し処理を実行する際には前記第2通信路を選択することを特徴とする(1)に記載のフィスカルメモリーの制御方法。
【0016】
例えば第2制御部とフィスカルメモリーの間に適宜セレクターを介在させることにより、フィスカルメモリーがシリアル型、パラレル型、又はこれらの組み合わせである各々の場合において上述の制御方法を実現できる。
【0017】
(3):前記第1通信路と前記第2通信路の選択を、前記第2制御部が制御することを特徴とする(2)に記載のフィスカルメモリーの制御方法。
【0018】
フィスカルメモリーが第2制御部を介して第1制御部と接続される通信路を確立する処理すなわちフィスカルメモリーへの書込みを可能とする環境を成立させる処理は、フィスカル法規によれば第2制御部によって行なわれる必要がある。したがって上記の構成によればフィスカル法規を遵守することが可能である。
【0019】
(4):前記フィスカルメモリーへの前記書込み処理の可否を前記第2制御部が決定することを特徴とする(1)から(3)のいずれか一つに記載のフィスカルメモリーの制御方法。
【0020】
第1制御部がフィスカルメモリーからフィスカル情報を読み出している間は、第1制御部によるフィスカルメモリーへの直接アクセスが可能となっている。しかしながら書込み処理の実行時以外は第2制御部によってフィスカルメモリーへの書込み処理を禁止することにより、第1制御部による書込みは改竄目的であるとなしを問わず不可能となる。フィスカルメモリーへの書込み処理を許可する処理は、フィスカル法規によれば第2制御部により実行される必要がある。したがって上記の構成によればフィスカル法規を遵守することが可能である。
【0021】
また本発明によれば、以下に列挙するものも提供される。
(5):ホストコンピューターに接続されるフィスカルプリンターであって、
フィスカル情報を記憶するフィスカルメモリーと、
少なくとも前記ホストコンピューターとの通信を制御し、第1処理速度で動作する第1制御部と、
少なくとも前記フィスカルメモリーの動作を制御し、前記第1処理速度よりも低い第2処理速度で動作する第2制御部とを備え、
前記フィスカルメモリーに前記フィスカル情報を記憶させる際には、前記第1制御部は前記ホストコンピューターより受信した前記フィスカル情報を前記第2制御部に転送し、前記第2制御部は前記第1制御部より転送された前記フィスカル情報を前記フィスカルメモリーに書き込む処理を実行し、
前記フィスカルメモリーに記憶された前記フィスカル情報を前記フィスカルメモリーから読み出す処理は、前記第2制御部による処理を介在させることなく前記第1制御部が実行することを特徴とするフィスカルプリンター。
この構成によれば、上記(1)について説明したものと同様の作用効果が得られる。
【0022】
(6):前記第2制御部を経由して前記第1制御部と前記フィスカルプリンターを接続する第1通信路と、
前記第2制御部を経由することなく前記第1制御部と前記フィスカルプリンターを接続する第2通信路と、
前記第1通信路と前記第2通信路の何れかを選択するセレクターと、
を更に備え、
前記第2制御部が前記書き込む処理を実行する際には前記第1通信路が選択され、前記第2制御部が前記読み出す処理を実行する際には前記第2通信路を選択されることを特徴とする(5)に記載のフィスカルプリンター。
この構成によれば、上記(2)について説明したものと同様の作用効果が得られる。
【0023】
(7):前記第2制御部は、前記第1通信路と前記第2通信路の何れかを選択するように前記セレクターを制御することを特徴とする(6)に記載のフィスカルプリンター。
この構成によれば、上記(3)について説明したものと同様の作用効果が得られる。
【0024】
(8):前記第2制御部は、前記フィスカルメモリーへの前記書込み処理の可否を決定することを特徴とする(5)から(7)のいずれか一つに記載のフィスカルプリンター。
この構成によれば、上記(4)について説明したものと同様の作用効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係るフィスカルプリンターの制御系を示す模式図である。
【図2】図1のフィスカルプリンターにおいて用いられる送信パケットのデータ構造の例を示す模式図である。
【図3】図1のフィスカルプリンターにおいて用いられる受信パケットのデータ構造の例を示す模式図である。
【図4】図1のフィスカルプリンターにおいて実行されるフィスカルメモリーへのフィスカル情報の書込み処理を示すシーケンス図である。
【図5】図1のフィスカルプリンターにおいて実行されるフィスカルメモリーからのフィスカル情報の読出し処理を示すシーケンス図である。
【図6】従来のフィスカルプリンターの制御系を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
添付図面を参照しつつ、本発明に係るフィスカルメモリーの制御方法を適用したフィスカルプリンターの実施形態を以下詳細に説明する。
【0027】
図1に本発明の実施形態に係るフィスカルプリンター1の制御系を模式的に示す。フィスカルプリンター1は、例えばPOSシステムのホストコンピューター2とバスを介して双方向通信可能に接続されており、ホストコンピューター2より供給される販売取引に関する印刷情報を印刷してレシートとして発行するとともに、例えば決済処理の度にホストコンピューター2より供給される販売取引に関するフィスカル情報を記憶保持する機能を備えている。
【0028】
本明細書中では、「バス」という語を、コントロールバス、データバスおよびアドレスバスを包括的に含む意味で用い、特にこれらを区別しない。
【0029】
フィスカルプリンター1は、ホストコンピューター2との通信を制御する通信制御部3と、フィスカルメモリー10に対するフィスカル情報の書込みおよび読出し処理を制御するメモリー制御部4とを備えている。
【0030】
通信制御部3は、バスを介して接続されたアプリケーションCPU5(第1制御部)と不揮発性メモリー6を含んで構成されている。アプリケーションCPU5は、上述したホストコンピューター2との通信を制御する機能を有する。不揮発性メモリー6には当該制御機能を実行するためのファームウェア等が記憶されており、アプリケーションCPU5により適宜データ読出しのためのアクセスが為される。不揮発性メモリー6は、マスクROMのように書替え不可能の形式や、プログラマブルROMやフラッシュROMのように書替え可能な形式の何れかにより構成される。
【0031】
メモリー制御部4は、メモリー制御CPU7(第2制御部)、不揮発性メモリー8、セレクター9、およびフィスカルメモリー10を含んで構成されている。
【0032】
メモリー制御CPU7は、通信制御部3のアプリケーションCPU5とバスを介して双方向通信可能に接続されている。アプリケーションCPU5の処理速度(第1処理速度)は、メモリー制御CPU7の処理速度(第2処理速度)よりも高速のものが用いられる。メモリー制御CPU7は、フィスカル情報のフィスカルメモリー10への書込みと、フィスカルメモリー10における書込み保護(ライトプロテクト)の有効化・無効化(書込み処理の可否決定)とを少なくとも行なう機能を備えている。
【0033】
不揮発性メモリー8はバスを介してメモリー制御CPU7と双方向通信可能に接続されている。不揮発性メモリー8にはメモリー制御CPU7の上記機能を実行するためのファームウェア等が記憶されており、メモリー制御CPU7により適宜読み出される。不揮発性メモリー8は、マスクROMのように書替え不可能の形式や、プログラマブルROMやフラッシュROMのように書替え可能な形式の何れかにより構成される。
【0034】
フィスカルメモリー10は、プログラマブルROMやフラッシュROMのように書替え可能な不揮発性メモリーにより構成される。
【0035】
セレクター9は、第1のバス11を介してメモリー制御CPU7と双方向通信可能に接続され、第2のバス12を介してアプリケーションCPU5と双方向通信可能に接続され、更に第3のバス13を介してフィスカルメモリー10と双方向通信可能に接続されている。セレクター9は、アプリケーションCPU5からの切替コマンドを受信して第3のバス13を第1のバス11と第2のバス12の何れか一方と接続させるように構成されている。すなわちフィスカルメモリー10がメモリー制御CPU7を介してアプリケーションCPU5と接続される通信路(第1通信路)と、フィスカルメモリー10がメモリー制御CPU7を介することなくアプリケーションCPU5と接続される通信路(第2通信路)との何れかを、切替コマンドに応じて選択可能に構成されている。
【0036】
セレクター9は、集積回路等により電気的に上記何れかの通信路を選択する構成としてもよいし、スイッチ等により機械的に上記何れかの通信路を選択する構成としてもよい。
【0037】
本実施形態では、フィスカルメモリー10へのフィスカル情報の書込みはフィスカル法規に則ってメモリー制御CPU7により実行される。一方でフィスカルメモリー10からのフィスカル情報の読出しは、より高速の処理速度を有するアプリケーションCPU5により実行される。これにより大量のフィスカル情報を一括してフィスカルメモリー10から読み出す必要がある場合においても、迅速に処理を遂行することが可能となる。
【0038】
具体的には、メモリー制御CPU7を用いたフィスカルメモリー10へのフィスカル情報の書込みは1Mbps程度の速度で、アプリケーションCPU5を用いたフィスカルメモリー10からのフィスカル情報の読出しは40Mbps程度の速度で行なわれる。但しこの数値は現行の素子性能に基づく例示に過ぎず、将来的な素子の性能向上に際して通信速度を何ら限定するものではない。
【0039】
アプリケーションCPU5、メモリー制御CPU7およびフィスカルメモリー10の間では、例えばパケット方式を利用して双方向通信が行なわれる。アプリケーションCPU5からメモリー制御CPU7へ、およびメモリー制御CPU7からフィスカルメモリー10へ送られるパケットを送信パケット20と定義し、フィスカルメモリー10からメモリー制御CPU7へ、およびメモリー制御CPU7からアプリケーションCPU5へ送られるパケットを受信パケット30と定義する。
【0040】
図2に示すように、一例として送信パケット20はパケットヘッダ21、コマンドデータ22、データパケット23、パケットエンド24から成るデータ構造を有する。
【0041】
パケットヘッダ21は送受信パケット30を認識するためのユニークデータであり、例えば07h等と定められる(hは16進数を示す表記)。
【0042】
コマンドデータ22は所定のコマンドを認識するためのデータであり、例えば256個以下のコマンドを特定する8ビットのデータで表される。例えば01hであればフィスカルメモリー10へのフィスカル情報の書込み、02hであればフィスカルメモリー10からのフィスカル情報の読出し、03hであればフィスカルメモリー10がメモリー制御CPU7を介してアプリケーションCPU5と接続されるようにセレクター9を切替、04hであればフィスカルメモリー10がメモリー制御CPU7を介することなくアプリケーションCPU5と接続されるようにセレクター9を切替、といったように各種コマンドを定める。
【0043】
データパケット23は、コマンドの種類に対応した可変データ長を有するデータの本体である。フィスカル情報はデータパケット23により搬送される。
【0044】
パケットエンド24はパケットの終了を示すユニークデータであり、例えばFFh等と定められる。
【0045】
図3に示すように、一例として受信パケット30は応答データ31とデータパケット32から成るデータ構造を有する。
【0046】
応答データ31は、送信パケット20のコマンドデータ22が示すコマンドへの応答を表すデータである。例えばコマンドがデータの送信である場合、応答データ31が00hであればデータの受信が正常であることを示し、01hであればデータに欠落等の異常があったことを示すものと定義する。
【0047】
データパケット32は送信パケット20に対してデータを返送する必要がある場合に付加される。本発明のメモリー制御方法によれば、フィスカルメモリー10から読み出されたフィスカル情報はデータパケット32により搬送される。
【0048】
図4および図5を参照しつつ、本実施形態のフィスカルメモリー10の制御方法について具体的に説明する。なお本実施形態のフィスカルプリンター1においては、書込み処理の実行時以外は、メモリー制御CPU7によりフィスカルメモリー10の書込み保護が有効化され、セレクター9は第1のバス11と第3のバス13を接続する(すなわちメモリー制御CPU7を経由してフィスカルメモリー10とアプリケーションCPU5が接続される)ように構成されている。
【0049】
図4にフィスカルメモリー10にフィスカル情報を書込む際の、アプリケーションCPU5、メモリー制御CPU7、およびフィスカルメモリー10各々の動作の流れを示す。
【0050】
先ずアプリケーションCPU5がメモリー制御CPU7に対して書込みコマンドおよびフィスカル情報を送信する(S10)。例えば書込みコマンドを示すコマンドデータ22とフィスカル情報を含むデータパケット23を含む上述した送信パケット20を送信する。なお、先ず書込みコマンドのみを送付して書込み処理の開始をメモリー制御CPU7に対して通知し、メモリー制御CPU7からの確認応答を受けてからフィスカル情報を送信する構成としてもよい。
【0051】
メモリー制御CPU7は、アプリケーションCPU5からの書込みコマンドの通知を受けて、フィスカルメモリー10の書込み保護を無効化するコマンドをフィスカルメモリー10へ送信する(S11)。メモリー制御CPU7が書込み保護の無効化を行なうのは、アプリケーションCPU5によるフィスカルメモリー10への直接書込みを禁止したフィスカル法規の要請に従うためである。
【0052】
次いでメモリー制御CPU7は、フィスカルメモリー10に対して書込みコマンドおよびフィスカル情報を送信する(S12)。例えば書込みコマンドを示すコマンドデータ22とフィスカル情報を含むデータパケット23を含む上述した送信パケット20を送信する。
【0053】
なお、フィスカルメモリー10から書込み保護無効化が為された旨を通知する応答を送信する構成とし、当該応答を受信後に送信パケット20の送信を開始する構成としてもよい。また、先ず書込みコマンドのみを送付して書込み処理の開始をフィスカルメモリー10に対して通知し、フィスカルメモリー10からの確認応答を受けてからフィスカル情報を送信する構成としてもよい。
【0054】
フィスカルメモリー10は、メモリー制御CPU7より送信された書込みコマンドに基づいて、フィスカル情報の書込みを実行し(S13)、書込みが正常に完了した旨を示す応答データ31をメモリー制御CPU7へ送信する(S14)。
【0055】
メモリー制御CPU7は、正常に書込み処理が完了した旨の通知をフィスカルメモリー10から受信すると、書込み保護を有効化するコマンドをフィスカルメモリー10へ送信する(S15)。書込み処理の実行時以外はフィスカルメモリー10の書込み保護を有効化することにより、フィスカル法規が求めるフィスカルメモリー10の堅牢性を確保する。
【0056】
次いでメモリー制御CPU7は、正常に書込み処理が完了した旨を示す応答データ31をアプリケーションCPU5へ送信する(S16)。なお、フィスカルメモリー10から書込み保護有効化が為された旨を通知する応答をメモリー制御CPU7に送信する構成とし、当該応答を受信後に応答データ31を送信する構成としてもよい。
【0057】
アプリケーションCPU5は、メモリー制御CPU7から書込み処理完了を示す応答データ31を受信すると、フィスカル情報の書込み処理を終了する。
【0058】
なお上記の例においてはフィスカルメモリーの書込み保護を有効化または無効化(書込み処理の可否を決定)するにあたって、メモリー制御CPU7が対応するコマンドをフィスカルメモリー10へ送信しているが、書込み処理の可否を決定する手法はこれに限られるものではない。例えばフィスカルメモリー10における特定の端子における電位の状態を書込み処理の可否に対応付け、メモリー制御CPU7が決定結果に応じて当該電位状態を切替える構成としてもよい。
【0059】
図5にフィスカルメモリー10からフィスカル情報を読出す際の、アプリケーションCPU5、メモリー制御CPU7、セレクター9、およびフィスカルメモリー10各々の動作の流れを示す。
【0060】
先ずアプリケーションCPU5がメモリー制御CPU7に対してセレクター切替コマンドを送信する(S20)。メモリー制御CPU7は、当該セレクター切替コマンドを受信すると、フィスカルメモリー10がメモリー制御CPU7を経由することなくアプリケーションCPU5と接続される通信路(第2通信路)を確立(第2のバス12と第3のバス13を接続)するようにセレクター9を制御する(S21)。
【0061】
メモリー制御CPU7は、セレクター9の切替が終了すると、その旨を示す応答データをアプリケーションCPU5へ送信する(S22)。
【0062】
アプリケーションCPU5は、メモリー制御CPU7からセレクター9の切替完了を示す応答データ31を受信すると、読出しコマンドをフィスカルメモリー10へ送信する(S23)。例えば上述した送信パケット20を用い、データパケット23に読出しアドレスや読出しデータ量を指定するデータを含めるようにする。
【0063】
フィスカルメモリー10は、アプリケーションCPU5から送信された読出しコマンドに基づいて、指定されたフィスカル情報をアプリケーションCPU5へ向けて送信する(S24)。例えば読出しコマンドに対する応答であることを示す応答データ31と、フィスカル情報を含んだデータパケット32とを備える受信パケット30を用いて送信を行なう。
【0064】
セレクター9がメモリー制御CPU7を経由しない通信路を確立しているため、フィスカルメモリー10からのフィスカル情報の読出しは、メモリー制御CPU7よりも高い処理速度を有するアプリケーションCPU5によって行なわれる。したがってフィスカル情報の容量が大きい場合においてもデータ読出しに要する時間を大幅に短縮可能である。またアプリケーションCPU5によるフィスカルメモリー10への書込みのみを禁じたフィスカル法規に抵触することもない。
【0065】
アプリケーションCPU5は、フィスカルメモリー10からのフィスカル情報読出しの完了を確認すると、メモリー制御CPU7へ向けてセレクター切替コマンドを送信する(S25)。メモリー制御CPU7は、当該セレクター切替コマンドを受信すると、フィスカルメモリー10がメモリー制御CPU7を経由してアプリケーションCPU5と接続される通信路(第1通信路)を確立(第1のバス11と第3のバス13を接続)するようにセレクター9を制御する(S26)。
【0066】
なお、S21で送信するセレクター切替コマンドとS26で送信するセレクター切替コマンドは、セレクター9の仕様に応じて異なるデータ内容としても同じデータ内容としてもよい。セレクター9は2つの状態間を遷移するのみであるので、切替コマンドの入力の度に状態遷移を行なうように構成すれば同じデータ内容であっても問題ない。
【0067】
メモリー制御CPU7は、セレクター9の切替が終了すると、その旨を示す応答データをアプリケーションCPU5へ送信する(S27)。アプリケーションCPU5は、メモリー制御CPU7からセレクター9の切替完了を示す応答データを受信すると、フィスカル情報の読出し処理を終了する。
【0068】
フィスカルメモリー10がメモリー制御CPU7を介することなくアプリケーションCPU5と接続される通信路が確立されている間(図5におけるS21からS26の間)は、アプリケーションCPU5によるフィスカルメモリー10への直接アクセスが可能となっている。しかしながら、上述したように書込み処理の実行時以外はフィスカルメモリー10の書込み保護が禁止されている。よってアプリケーションCPU5による書込みは改竄目的であるとなしを問わず不可能であり、フィスカル法規に抵触することはない。
【0069】
フィスカルメモリー10がメモリー制御CPU7を介してアプリケーションCPU5と接続される通信路を確立する処理、すなわちメモリー制御CPU7によるフィスカルメモリー10への書込みを可能とする環境を成立させる処理は、フィスカル法規によればメモリー制御CPU7により遂行される必要がある。本実施形態ではセレクター9の切替制御をメモリー制御CPU7に遂行させているため、フィスカル法規を遵守することが可能である。
【0070】
以上、上記実施形態に基づいて本発明に係るフィスカルメモリー10の制御方法について説明したが、上記実施形態は本発明の理解を容易にするためのものであって、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく変更・改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる事は勿論である。
【0071】
例えば、上記フィスカルプリンター1にシリアル型の不揮発性メモリーを用い、メモリー制御CPU7からフィスカルメモリー10にフィスカル情報を送信するためのデータラインと、フィスカルメモリー10からアプリケーションCPU5へフィスカル情報を送信するためのデータラインとを予め独立して設けておけば、セレクター9を省略することが可能である。この場合、書込みコマンドが入力されると書込み専用のデータラインを用いてフィスカル情報をメモリー制御CPU7から受信し、読出しコマンドが入力されると読出し専用のデータラインを用いてフィスカル情報をアプリケーションCPU5へ送信する動作を行なうようフィスカルメモリー10を構成すればよい。
【0072】
この構成例においても、フィスカル情報の書込みはメモリー制御CPU7により、フィスカル情報の読出しはアプリケーションCPU5により実行されるため、フィスカル法規に抵触することなくフィスカル情報の読出しに要する時間を短縮可能である。
【0073】
上記の実施形態においては、フィスカルメモリー10として単一の不揮発性メモリーを用いる例を説明している。しかしながら例えばシリアル型の不揮発性メモリー(フラッシュROM等)とパラレル型の不揮発性メモリー(OTPROM等)を組み合わせて使用する構成も可能である。この場合、各々の不揮発性メモリーについて、メモリー制御CPU7を介してアプリケーションCPU5に接続される通信路とメモリー制御CPU7を介することなくアプリケーションCPU5に接続される通信路の何れかを切替可能にセレクター9を構成する。
【0074】
この構成によれば、例えばフィスカル法規上重要な電子署名等の改竄防止用データをパラレル型の不揮発性メモリーに記録し、それ以外のデータをシリアル型の不揮発性メモリーに記録することができ、フィスカル法規が求める堅牢性を維持しつつデータの読出し速度の向上が可能である。
【0075】
上記の実施形態においては、アプリケーションCPU5がホストコンピューター2との通信を制御する例を説明している。しかしながら当該アプリケーションCPU5は当該機能に加えてフィスカルプリンター1の印刷動作を制御する機能を備えるものであってもよい。
【符号の説明】
【0076】
1 フィスカルプリンター
2 ホストコンピューター
3 通信制御部
4 メモリー制御部
5 アプリケーションCPU(第1制御部)
7 メモリー制御CPU(第2制御部)
9 セレクター
10 フィスカルメモリー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィスカル情報を記憶するフィスカルメモリーと、少なくともホストコンピューターとの通信を制御し、第1処理速度で動作する第1制御部と、少なくとも前記フィスカルメモリーの動作を制御し、前記第1処理速度よりも低い第2処理速度で動作する第2制御部とを備えるフィスカルプリンターにおける前記フィスカルメモリーの制御方法であって、
前記第1制御部によって前記ホストコンピューターより前記フィスカル情報を受信するとともに該フィスカル情報を前記第2制御部に転送し、前記第1制御部より転送された前記フィスカル情報を前記フィスカルメモリーに書き込む書込み処理を、前記第2制御部により実行することによって前記フィスカル情報を前記フィスカルメモリーに記憶させ、
前記フィスカルメモリーに記憶された前記フィスカル情報を該フィスカルメモリーから読み出す読出し処理を、前記第2制御部による処理を介在させることなく前記第1制御部により実行することを特徴とするフィスカルメモリーの制御方法。
【請求項2】
前記第2制御部を経由して前記第1制御部と前記フィスカルメモリーを接続する第1通信路と、前記第2制御部を経由することなく前記第1制御部と前記フィスカルメモリーを接続する第2通信路の何れかを選択可能とし、
前記第2制御部が前記書込み処理を実行する際には前記第1通信路を選択し、
前記第1制御部が前記読出し処理を実行する際には前記第2通信路を選択することを特徴とする請求項1に記載のフィスカルメモリーの制御方法。
【請求項3】
前記第1通信路と前記第2通信路の選択を、前記第2制御部が制御することを特徴とする請求項2に記載のフィスカルメモリーの制御方法。
【請求項4】
前記フィスカルメモリーへの前記書込み処理の可否を前記第2制御部が決定することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のフィスカルメモリーの制御方法。
【請求項5】
ホストコンピューターに接続されるフィスカルプリンターであって、
フィスカル情報を記憶するフィスカルメモリーと、
少なくとも前記ホストコンピューターとの通信を制御し、第1処理速度で動作する第1制御部と、
少なくとも前記フィスカルメモリーの動作を制御し、前記第1処理速度よりも低い第2処理速度で動作する第2制御部とを備え、
前記フィスカルメモリーに前記フィスカル情報を記憶させる際には、前記第1制御部が前記ホストコンピューターより受信した前記フィスカル情報を前記第2制御部に転送し、前記第2制御部が前記第1制御部より転送された前記フィスカル情報を前記フィスカルメモリーに書き込む書込み処理を実行し、
前記フィスカルメモリーに記憶された前記フィスカル情報を該フィスカルメモリーから読み出す読出し処理は、前記第2制御部による処理を介在させることなく前記第1制御部が実行することを特徴とするフィスカルプリンター。
【請求項6】
前記第2制御部を経由して前記第1制御部と前記フィスカルメモリーを接続する第1通信路と、
前記第2制御部を経由することなく前記第1制御部と前記フィスカルメモリーを接続する第2通信路と、
前記第1通信路と前記第2通信路の何れかを選択するセレクターと、
を更に備え、
前記第2制御部が前記書込み処理を実行する際には前記第1通信路が選択され、前記第1制御部が前記読出し処理を実行する際には前記第2通信路が選択されることを特徴とする請求項5に記載のフィスカルプリンター。
【請求項7】
前記第2制御部は、前記第1通信路と前記第2通信路の何れかを選択するように前記セレクターを制御することを特徴とする請求項6に記載のフィスカルプリンター。
【請求項8】
前記第2制御部は、前記フィスカルメモリーへの前記書込み処理の可否を決定することを特徴とする請求項5から7のいずれか1項に記載のフィスカルプリンター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−108851(P2012−108851A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258956(P2010−258956)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】