説明

フィッシャー・トロプシュ合成法による液体燃料の製造方法

【課題】水素と一酸化炭素の合成ガスを原料として、溶剤の共存下で行う液体燃料の製造方法において、運転初期から高い一酸化炭素転化率で反応を行い、かつ暴走を抑制することのできる製造方法を提供する。
【解決手段】溶剤の共存下、水素と一酸化炭素を含む合成ガスから液体燃料を製造する方法において、一酸化炭素の転化率50%以上で反応を行うにあたり、反応開始より少なくとも3日以上の期間、流通する溶剤量を触媒容量に対して1時間あたり200容量%超とし、その後流通する溶剤量を触媒容量に対して1時間あたり50〜200容量%の範囲に減少させることを特徴とする液体燃料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素と一酸化炭素を主成分とする合成ガスを原料として液体燃料を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全の必要性が求められ、硫黄分および芳香族炭化水素の含有量が低いクリーンな液体燃料への要求が急速に高まってきている。また、埋蔵量に限りのある原油資源を有効に使う必要性より、石油に代替しうるエネルギー源の開発が望まれてきている。以上のような要望に応える技術として、将来、さらなる需要低下が予測されているアスファルトを原料に用いて、硫黄分および芳香族炭化水素をほとんど含まない液体燃料を製造するATL(Asphalt to Liquid)や、天然ガスを原料に用いるGTL (Gas to Liquid) がますます注目されるようになってきている。
ATLおよびGTLによる液体燃料の製造は、アスファルトまたは天然ガスから水素と一酸化炭素を製造する改質工程、水素と一酸化炭素からなる合成ガスを原料として高級パラフィンを製造するフィッシャー・トロプシュ合成(以下、FT合成)工程、さらに通常は、FT合成生成油を原料として分解および異性化を行う水素化処理工程を経て製品化される方法が一般に知られている。
【0003】
上記の工程のうち、FT合成反応は極めて発熱的であるという特徴を有する反応である。したがって、反応器から反応熱を効率よく除去することが、FT合成反応により炭化水素を合成するプロセスの課題の一つである。FT合成反応に用いる反応器としては、一般に、固定床反応器、スラリー床反応器などが用いられる。固定床反応器は、原料となる合成ガスの拡散に優れ、またプロセスが比較的シンプルであるという特徴を有しているが、除熱効果が低いという欠点を有している。
【0004】
これまで、固定床反応器を用いたFT合成に関して、除熱効果を高めるために多くの検討がなされてきた。例えば特許文献1や2では、溶剤を共存させて反応を行うことにより、除熱効果を高めることができ、発熱による暴走を抑制できることが報告されている。
【特許文献1】米国特許第4413063号明細書
【特許文献2】米国特許第5786393号明細書
【0005】
しかし、反応に多量の溶剤を流通することは、装置の建設コストや運転コストが増加するため、経済性の面からは望ましくない。そのため、溶剤量を極力削減するべく検討がなされている。触媒活性や反応条件の違いがあるため、一概には明記できないが、あまり極度に溶剤量を削減すると、局所的な発熱を抑制できなくなり、暴走が発生する傾向がみられることが知られている。
【0006】
また一般に、触媒は運転初期において、極めて高い活性を示すことが知られている。FT合成反応では、特にこの初期の高活性の期間において、暴走が発生するケースが多く、運転初期の暴走を抑制することが、その後、長期的に安定運転を継続する上でも、重要な課題の一つと考えられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまでは、溶剤量を削減した状態で保ったまま運転した上で、運転初期の暴走を抑制するために、反応開始より一定の期間は、反応温度を低く調整し、低い一酸化炭素転化率で運転を行って触媒活性を安定化させ、その後、徐々に反応温度を高くしていく方法が一般に考えられていた。しかしこの方法では、初期の安定化期間は、低い一酸化炭素転化率で運転を行わねばならないため、生産性が低下するという欠点を有する。そのため、生産性を向上させる目的から、わずかでも早い時期から高い一酸化炭素転化率で運転を実施することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、運転初期の3日間以上の期間、1時間あたり流通する溶剤量を触媒容量に対して200容量%よりも多い量を流通させ、その後に流量を200容量%以下に低下させていくことで、運転初期から50%以上の高い一酸化炭素転化率で運転を行い、かつ運転初期の暴走を抑制することができ、その上で、溶剤流量を削減することができることを見出した。
すなわち本発明は、溶剤の共存下、水素と一酸化炭素を含む合成ガスから液体燃料を製造する方法において、一酸化炭素の転化率50%以上で反応を行うにあたり、反応開始より少なくとも3日以上の期間、流通する溶剤量を触媒容量に対して1時間あたり200容量%超とし、その後流通する溶剤量を触媒容量に対して1時間あたり50〜200容量%の範囲に減少させることを特徴とする液体燃料の製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法により、暴走を抑制し、かつ極力溶剤量を削減し、運転初期から高い一酸化炭素転化率にて運転を行うことができるため、液体燃料の生産性を向上させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明を詳述する。
本発明は、溶剤の共存下、水素と一酸化炭素を含む合成ガスを、触媒と接触させることで液体燃料を製造する方法に関する。
【0011】
本反応における転化反応には、固定床反応器が採用される。本発明においては、一酸化炭素転化率を50%以上とする条件下に反応が行われる。特に70〜90%の範囲で行われることが好ましい。
【0012】
共存させる溶剤は、ノルマルパラフィン、イソパラフィンを主成分とし、沸点範囲150〜300℃の炭化水素を80質量%以上含むものが好ましく用いられる。沸点が150℃未満の炭化水素および300℃を超える炭化水素の割合が増すと、一酸化炭素転化率が低下する傾向にあり好ましくない。
【0013】
運転初期の溶剤量については、触媒容量に対して1時間あたり200容量%より多いことが必要である。溶剤量は多いほど発熱を抑制する効果は高まるが、装置の建設コストや運転コストが増加することから、200容量%超400容量%以下の範囲であることが好ましい。200容量%以下であると発熱抑制効果が不十分であるため好ましくない。
運転反応開始から少なくとも3日間は溶媒量が触媒容量に対して1時間あたり200容量%超であることが必要である。3日未満であると初期の高活性触媒への除熱効果が不十分となるため好ましくない。また3日を超えて運転する日数については特に制限はないが、10日以下とすることが好ましい。10日を超えると溶剤量あたりのCO転化率が低下するため好ましくない。
【0014】
上記の如く、運転反応開始から少なくとも3日間は溶媒量が触媒容量に対して1時間あたり200容量%超の高溶媒量運転を行い、その後、流通する溶剤量を触媒容量に対して1時間あたり50〜200容量%の範囲に減少させる。溶剤量を極力削減しつつ発熱を抑制する観点から、溶剤量は80〜150容量%の範囲が特に好ましい。
【0015】
反応温度は、目標とする一酸化炭素転化率で定めることができるが、150〜300℃であることが好ましく、170〜250℃であることがさらに好ましい。
【0016】
反応圧力は0.5〜5.0MPaであることが好ましく、2.0〜4.0MPaであることがさらに好ましい。反応圧力が0.5MPa未満である場合は、一酸化炭素転化率が50%以上になりにくい傾向があり、5.0MPaを超えると、局所的に発熱が発生しやすくなる傾向にあるので好ましくない。
【0017】
合成ガス中の水素/一酸化炭素のモルあたりの比率は0.5〜4.0であることが好ましく、1.0〜2.5であることがさらに好ましい。0.5未満では反応温度が高くなり触媒が失活する傾向があり、4.0を超えると望ましくない副生成物であるメタンの生成量が増加する傾向があり好ましくない。
【0018】
合成ガスのガス空間速度は500〜5000h−1であることが好ましく、1000〜2500h−1であることがさらに好ましい。500h−1未満では同一触媒量に対する生産性が低く、5000h−1より大きい場合は、一酸化炭素の転化率が50%以上になりにくいため好ましくない。
【0019】
本発明に用いる触媒は、アルミナ、シリカ、チタニア、マグネシア及びそれらの組合せからなる群より選択される無機酸化物が好ましい担体として挙げられる。また、これらの担体に活性金属として、コバルトまたは/およびルテニウムを担持したものが用いられる。
【0020】
活性金属の担持量については特に制限はないが、無機酸化物担体に対して、金属として好ましくは1〜50質量%であり、さらに好ましくは15〜40質量%である。金属量が1質量%未満では一酸化炭素の転化率が50%以上になりにくく、50質量%より多いと金属量の増加による活性向上の効果は少なくなるので好ましくない。活性金属の担持方法には特に制限はないが、含浸法により担持することが好ましい。
また触媒には、必要に応じてジルコニアなどを助触媒として加えたものが用いられる。ジルコニアの担持量には特に制限はないが、無機酸化物担体に対して、好ましくは0.1〜20質量%であり、より好ましくは0.5〜5質量%である。0.1質量%未満または20質量%より多いと、ジルコニア添加による活性向上効果が低くなるため好ましくない。
【実施例】
【0021】
以下に実施例および比較例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0022】
[実施例1]
市販のシリカ(富士シリシア化学社製、CARiACT Q−10)を担体として用い、硝酸ジルコニルをイオン交換水に溶かした水溶液を用いて、Incipient wetness法により、ジルコニアを担体に対して1.0質量%となるよう担体に含浸した。その後、乾燥器により100℃で1昼夜乾燥し、焼成炉を用いて、500℃で1時間焼成した。焼成後の担体を取り出し常温まで冷ました後、さらに、硝酸コバルトをイオン交換水に溶解して調製した水溶液を用いて、Incipient Wetness法により、コバルトを担体に対して30質量%となるよう含浸した。その後、乾燥器により100℃で1昼夜乾燥し、焼成炉を用いて450℃で2時間焼成し、触媒を調製した。
【0023】
触媒20mlを固定床反応器に充填し、一酸化炭素の還元反応を行った。反応開始前に、水素雰囲気下で400℃、5時間処理し、触媒の還元処理を行った。その後、反応圧力3.1MPa、ノルマルドデカン溶剤を触媒容量に対して1時間あたり200容量%で流通、原料の合成ガス(水素/一酸化炭素(モル比)=2)を30NL/hで流通、反応温度150℃の条件で運転を開始した。運転開始後、反応温度を150℃から、5℃/hで昇温し、200℃まで昇温した時点で、一酸化炭素転化率が70%となったため、反応温度を固定した。その後3日間、その条件で反応を継続し、運転開始4日目より、溶剤量を触媒容量に対して1時間あたり180容量%に削減し、その後5日目に160容量%、6日目に140容量%と徐々に削減し、140容量%となった時点で条件を固定したまま30日目まで運転を継続した。運転開始時および溶剤量削減以降においても、一酸化炭素転化率を維持しながら、暴走することなく安定に運転を継続することが出来た。
【0024】
[比較例1]
実施例1と同様の触媒を用い、触媒20mlを固定床反応器に充填し、実施例1と同様の方法で触媒の還元処理を行った。その後、溶剤量を触媒容量に対して1時間あたり140容量%とすることを除いては、実施例1と同様の方法と同様に運転を開始し、反応温度150℃から5℃/hで昇温を行った。その結果、運転開始後4時間後、反応温度が170℃に到達した時点で、反応温度が急激に上昇し制御不能となる暴走が発生した。
【0025】
[比較例2]
実施例1と同様の触媒を用い、触媒20mlを固定床反応器に充填し、実施例1と同様の方法で触媒の還元処理を行った。その後、溶剤量を触媒容量に対して1時間あたり140容量%であることを除いては、実施例1に記載の方法と同様に運転を開始し、その後、1℃/hで昇温を実施した。その結果、運転開始後3日目に反応温度が170℃に到達した時点で、比較例1と同様の暴走が発生した。
【0026】
[比較例3]
実施例1と同様の触媒を用い、触媒20mlを固定床反応器に充填し、実施例1と同様の方法で触媒の還元処理を行った。その後、実施例1に記載の方法と同様に運転を開始し反応温度を200℃で固定した後、1日間反応を継続後、溶剤量を触媒容量に対して1時間あたり180容量%に削減したところ、反応温度が急激に上昇し制御不能となる暴走が発生した。
【0027】
[比較例4]
実施例1と同様の触媒を用い、触媒20mlを固定床反応器に充填し、実施例1と同様の方法で触媒の還元処理を行った。その後、溶剤量を触媒容量に対して1時間あたり140容量%であることを除いては、実施例1に記載の方法と同様に運転を開始し、その後、0.1℃/hで昇温を実施した。運転開始後21日目において、反応温度が200℃に到達し、一酸化炭素転化率は70%となったため、そこで昇温を停止し反応温度を固定した。その後、その条件で30日目まで運転を継続した。昇温速度をここまで低く抑えたことで、運転開始時およびその後の運転においても暴走を抑制した運転を行うことができた。
【0028】
30日間運転を継続することができた実施例1および比較例4の条件にて、30日間運転を継続した結果について、触媒1Lあたりに用いた溶剤量と、触媒1Lに対して転化した一酸化炭素の量を表1に示した。実施例1に記載の方法を用いることで、暴走を起こすことなく、かつ、生産性の高い運転を行うことができることが分かった。
【0029】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤の共存下、水素と一酸化炭素を含む合成ガスから液体燃料を製造する方法において、一酸化炭素の転化率50%以上で反応を行うにあたり、反応開始より少なくとも3日以上の期間、流通する溶剤量を触媒容量に対して1時間あたり200容量%超とし、その後流通する溶剤量を触媒容量に対して1時間あたり50〜200容量%の範囲に減少させることを特徴とする液体燃料の製造方法。
【請求項2】
前記溶剤が、沸点範囲150〜300℃の炭化水素を80質量%以上含むことを特徴とする請求項1に記載の液体燃料の製造方法。
【請求項3】
一酸化炭素の転化率が70〜90%であることを特徴とする請求項1または2に記載の液体燃料の製造方法。
【請求項4】
反応温度が150〜300℃であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の液体燃料の製造方法。
【請求項5】
合成ガス中の水素/一酸化炭素のモル比率が0.5〜4.0であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の液体燃料の製造方法。
【請求項6】
合成ガスのガス空間速度が500〜5000h−1であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の液体燃料の製造方法。
【請求項7】
アルミナ、シリカ、チタニア及びマグネシアから選ばれる1または2以上の無機酸化物を担体として、コバルトまたは/およびルテニウムを活性金属として含む触媒を使用することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の液体燃料の製造方法。

【公開番号】特開2008−214563(P2008−214563A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−56852(P2007−56852)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度新エネルギー・産業技術総合開発機構 重質残油クリーン燃料転換プロセス技術開発委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】