説明

フィッシャー・トロプシュ合成生成物から基油を製造する方法

(a)フィッシャー・トロプシュ合成生成物を、沸点が中間蒸留物範囲以下のフラクション(i)と、重質最終フラクション(iii)と、沸点がフラクション(i)とフラクション(iii)との間にある中間基油前駆体フラクション(ii)とに分離する工程、(b)基油前駆体フラクション(ii)に対し、接触水素化異性化及び接触脱蝋工程を施して、1種以上の基油等級を得る工程、(c)重質最終フラクション(iii)に対し、転化工程を施して、該重質最終フラクション(iii)より低沸点のフラクション(iv)を得る工程、及び(d)フラクション(iv)の高沸点フラクション(v)に対し、接触水素化異性化及び接触脱蝋工程を施して、1種以上の基油等級を得る工程により、フィッシャー・トロプシュ合成生成物から基油を製造する方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィッシャー・トロプシュ合成生成物から基油又は中間蝋状ラフィネート生成物を高収率で製造する方法に向けたものである。
【背景技術】
【0002】
このような方法は、WO−A−9941332、US−A−6080301、EP−A−0668342、US−A−6179994又はWO−A−02070629で公知である。これらの方法は、いずれもフィッシャー・トロプシュ合成生成物の或る種の水素化異性化工程、及び次いで、この水素化異性化で得られた高沸点フラクションの脱蝋工程を含む。
【0003】
例えばWO−A−02070629には、フィッシャー・トロプシュ合成生成物のC5以上のフラクションに対し、まず、非晶質シリカ−アルミナ担体上の白金よりなる触媒の存在下に水素化分解/水素化異性化工程を施す方法が記載されている。この転化工程の流出流は、中間蒸留物生成物と、基油前駆体フラクションと、高沸点フラクションとに分離される。基油前駆体フラクションは白金−ZSM−5基触媒の存在下で接触脱蝋され、また重質フラクションは水素化分解/水素化異性化工程に再循環される。
【特許文献1】WO−A−9941332
【特許文献2】US−A−6080301
【特許文献3】EP−A−0668342
【特許文献4】US−A−6179994
【特許文献5】WO−A−02070629
【特許文献6】EP−A−776959
【特許文献7】EP−A−668342
【特許文献8】US−A−4943672
【特許文献9】US−A−5059299
【特許文献10】WO−A−9934917
【特許文献11】WO−A−9920720
【特許文献12】AU−A−698392
【特許文献13】EP−A−458895
【特許文献14】EP−B−832171
【特許文献15】EP−A−540590
【特許文献16】EP−A−092376
【特許文献17】US−A−4574043
【特許文献18】US−A−6179994
【特許文献19】EP−A−1029029
【特許文献20】US−A−5885438
【特許文献21】EP−A−536525
【特許文献22】WO−A−0107538
【特許文献23】US−A−4919788
【特許文献24】US−A−4599162
【特許文献25】US−A−6703530
【特許文献26】US−A−4684759
【特許文献27】WO−A−200014179
【特許文献28】EP−A−532118
【特許文献29】US−A−4042488
【特許文献30】EP−A−101553
【特許文献31】EP−B−668342
【特許文献32】US−A−670693
【特許文献33】US−A−2004002984
【特許文献34】US−A−6703535
【特許文献35】US−A−4417088
【特許文献36】US−A−4434308
【特許文献37】US−A−4827064
【特許文献38】US−A−4827073
【特許文献39】US−A−4990709
【特許文献40】US−A−6703535
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この方法では、高品質の基油が得られるが、なお改良の余地がある。特にフィッシャー・トロプシュ合成生成物に対する基油の収量は改良可能である。特に動粘度が100℃で2〜8cStの基油については、収率の向上が歓迎される。
本発明はこのような方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下の方法は、この目的を達成する。
(a)フィッシャー・トロプシュ合成生成物を、沸点が中間蒸留物範囲以下のフラクション(i)と、重質最終フラクション(iii)と、沸点がフラクション(i)とフラクション(iii)との間にある中間基油前駆体フラクション(ii)とに分離する工程、
(b)基油前駆体フラクション(ii)に対し、接触水素化異性化及び接触脱蝋工程を施して、1種以上の基油等級を得る工程、
(c)重質最終フラクション(iii)に対し、転化工程を施して、該重質最終フラクション(iii)より低沸点のフラクション(iv)を得る工程、及び
(d)フラクション(iv)の高沸点フラクション(v)に対し、接触水素化異性化及び接触脱蝋工程を施して、1種以上の基油等級を得る工程、
により、フィッシャー・トロプシュ合成生成物から基油を製造する方法。
【発明の効果】
【0006】
出願人は、フィッシャー・トロプシュ合成生成物の中間フラクション(ii)及び工程(c)で得られた高沸点フラクション(v)のフラクションに、直接、選択的異性化及び脱蝋工程を施すことにより、フィッシャー・トロプシュ合成生成物に対して基油が高収率で得られることを見い出した。
【0007】
以下の理論により束縛されることを意図するものではないが、基油が高収率で得られるのは、沸点が基油範囲にあるフラクション、即ち、フラクション(ii)及び(v)が接触異性化及び脱蝋用触媒と直接接触することによるものと考えられる。WO−A−02070629の従来法では、フィッシャー・トロプシュ合成生成物の相当するフラクションは、まず、触媒と接触させて、大部分を中間蒸留物生成物及び低沸点生成物に転化させる。このような異なる構成を用いることにより、フィッシャー・トロプシュ合成生成物中の潜在的基油分子の中間蒸留物分子への転化は最小となる。更にWO−A−02070629では、水素化分解/水素化異性化工程で得られた重質フラクションは、前記工程に再循環される。その結果、潜在的基油分子は、中間蒸留物分子に一層転化される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
フィッシャー・トロプシュ合成生成物は、周知の方法、例えばいわゆる商用Sasol法、Shell Middle Distillate法又は非商用Exxon法により得られる。これらの方法及びその他の方法は、例えばEP−A−776959、EP−A−668342、US−A−4943672、US−A−5059299、WO−A−9934917及びWO−A−9920720に更に詳細に記載されている。通常、これらフィッシャー・トロプシュ合成生成物は、炭素原子数1〜100及び更には100を超える炭化水素を含有する。この炭化水素生成物は、iso−パラフィン、n−パラフィン、酸素化生成物及び不飽和生成物を含有する。工程(a)の原料又は工程(a)で得られたいずれのフラクションも、酸素化物又は飽和生成物を除去するため、水素化してよい。本発明方法は、フィッシャー・トロプシュ合成生成物の実質的一部、好ましくは10重量%を超え、更に好ましくは30重量%を超え、なお更に好ましくは50重量%を超える部分が550℃より高い沸点を有すると、特に有利である。このような重質フィッシャー・トロプシュ合成生成物を製造できる好適な方法の一例は、WO−A−9934917及びAU−A−698392に記載されている。
【0009】
工程(a)では、フィッシャー・トロプシュ合成生成物は、沸点が中間蒸留物範囲以下のフラクション(i)と、好ましくは初期沸点が500〜600℃の、重質最終フラクション(iii)と、沸点がフラクション(i)とフラクション(iii)との間にある中間基油前駆体フラクション(ii)とに分離される。好適にはフィッシャー・トロプシュ合成生成物は、まず大気圧以上の圧力で分別して、沸点が中間蒸留物範囲以下のフラクション(i)を得る。分別は、フラッシング又は蒸留により行ってよい。この中間蒸留物範囲は、時には、大部分、即ち、90重量%を超える部分が200〜350℃の沸点を有するフラクションとして定義する。中間蒸留物は、ガス油フラクション及びケロシンフラクションを含有し、これらはフィッシャー・トロプシュ合成生成物から単離できる。大気分別の残留物又は塔底生成物は、更にほぼ真空圧で、初期沸点500〜600℃の重質最終フラクション(iii)と中間基油前駆体フラクション(ii)とに分離される。更に好ましくは、重質最終フラクション(iii)のT10重量%回収点は500〜600℃の範囲である。
【0010】
工程(b)では、基油前駆体フラクション(ii)に対し、接触水素化異性化及び接触脱蝋工程を施して、1種以上の基油等級を得る。これらの接触法は、本発明では370℃より高沸点の分子が370℃より低沸点の分子に転化するのを最小に抑えながら、このフラクションの流動点を低下させるのに選択的な方法として定義する。基油に更に低温の流動点を所望する場合は、更に選択的な異性化及び脱蝋法によってでも、分子を一層転化させる。選択的異性化及び脱蝋法は、100℃での動粘度が5cStで、流動点が−27℃で、Noack揮発減量が10重量%である基油を製造する際、工程(b)の原料の好ましくは40重量%未満、更に好ましくは30重量%未満が、沸点370℃未満のフラクションに転化する方法である。前述のような基油への選択性を有する方法の例は周知であり、以下に説明する。
【0011】
工程(b)では、接触水素化異性化及び接触脱蝋は、1つの触媒で行っても、或いは別途に指定した異性化触媒及び脱蝋触媒で行ってもよい。
可能な異性化触媒の例としては、耐火性酸化物担体上の1種以上の第VIII族金属、例えばニッケル、コバルト、白金又はパラジウムである。特定の触媒例は、シリカ−アルミナ担体(ASA)上のPt、ASA上のPd、ASA上のPtNi、ASA上のPtCo、ASA上のPtPd、ASA上のCoMoCu、ASA上のNiMoCu、ASA上のNiW、アルミナ上のNiWF、ASA上のPtF、アルミナ上のNiMoFである。別途の脱蝋工程として、周知の接触脱蝋法の工程(b)で使用できる。ここで触媒としては、中間細孔サイズのモレキュラーシーブ及び水素化成分、好ましくは白金又はパラジウムのような貴金属を含む触媒が使用される。これら方法の例は、例えばEP−A−458895に記載されるようなSAPO−11、例えばEP−B−832171に記載されるようなZSM−5、例えばEP−A−540590及びEP−A−092376に記載されるようなZSM−23、例えばUS−A−4574043に記載されるようなZSM−22、例えばUS−A−6179994に記載されるようなモルデナイト、及び例えばEP−A−1029029に記載されるようなフェリエライト(ferrierite)をベースとした方法がある。
【0012】
このような別途の異性化法と接触脱蝋法との組合せは、例えばEP−A−776959に記載されている。
工程(b)を単一触媒法を用いて行う場合、触媒としては、例えばUS−A−5885438に記載されるような白金−ゼオライトβ含有触媒をベースとする触媒、或いは例えばEP−A−536525に記載されるようなZSM−23又はZSM−22をベースとする触媒を使用してよい。例えばWO−A−0107538に記載されるようなZSM−12をベースとする触媒を使用する方法が好ましい。
【0013】
ゼオライトβをベースとする触媒を使用する異性化工程は、前述の脱蝋触媒が使用できる選択的接触脱蝋工程と組合せると有利である。白金−ゼオライトβを触媒とする工程及び引き続き白金−ZSM−23を触媒とする更に選択的な脱蝋工程の使用例は、例えばUS−A−4919788及びEP−A−1029029にある。ZSM−23、ZSM−22及びZSM−12触媒は、例えばUS−A−4599162に記載されるようなカスケード式脱蝋操作に使用してもよい。この操作では、例えばZSM−5、ZSM−11又はフェリエラトのように更に細孔サイズを制限したゼオライトを用いて最終脱蝋が行われる。
【0014】
工程(b)の最も好ましい方法は、フラクション(ii)をZSM−12、白金及びバインダーを含む触媒と接触させる工程を含む。この方法は、基油への選択率が高いことが見い出された。他の利点は、ガス状副生物が少なく、またオイル副生物が多く生成することである。バインダーは、本質的にアルミナを含まない低酸性度バインダーが好ましい。バインダーは、好ましくはシリカである。更に好ましくはゼオライトは脱アルミ化され、また更に好ましくは脱アルミ化処理はZSM−12微結晶の表面を選択的に脱アルミ化するように選択される。この方法を行うための触媒及び方法条件は、WO−A−0107538に更に詳細に記載されている。
【0015】
脱蝋工程(b)を行った後、所望の基油は、基油回収工程(e)の脱蝋流出流から単離することが好ましい。この工程(e)では、接触脱蝋中に形成された低沸点化合物は、好ましくは蒸留により、任意に初期フラッシング工程と組合せて、除去される。工程(b)の原料として、好適な蒸留留分を選択することにより、最終基油等級からいずれの高沸点化合物も除去する必要なく、接触脱蝋工程(b)後、直接、単一の所望基油を得ることが可能である。極めて好適な等級の例は、100℃での動粘度が3.5〜6cStの範囲の基油である。
【0016】
本発明方法により、2種以上の粘度等級の基油を製造することが可能であることも見い出された。工程(a)において、更に広範な沸点範囲の基油前駆体フラクション(ii)を得ることにより、工程(e)では多くの基油等級が同時に得られる。沸点曲線において、T10重量%回収点と90重量%回収点との差は、100℃を超えることが好ましい。この方式では、工程(b)の流出流は、2種以上の基油等級を含む各種蒸留物フラクションに分離される。各種基油等級についての所望の粘度等級及び揮発減量要件に適合させるため、所望の基油等級の間、これら等級よりも高い、及び/又は低い沸点を有する好ましくは規格外フラクションも、別個のフラクションとして得られる。これらのフラクション及び沸点がガス油範囲以下のいずれのフラクションも工程(a)に再循環すると有利であるかも知れない。或いは沸点がガス油範囲以下で得られたフラクションは、ガス油燃料組成物製造用の別個のブレンド成分として好適に使用できる。
【0017】
工程(e)で各種フラクションの分離は、フラクション分離用の側部ストリッパーを備えた真空蒸留塔で好適に行うことができる。この方式では、単一の基油前駆体フラクション(ii)から、例えば2〜3cStの生成物、4〜6cStの生成物及び7〜10cStの生成物が同時に得られることが判った。これらの粘度値は100℃での動粘度である。
【0018】
工程(c)では、重質最終フラクション(iii)に対し、転化工程を施して、沸点が重質最終フラクション(iii)未満のフラクション(iv)を得る。工程(c)は、重質フィッシャー・トロプシュ蝋をこれより低沸点の炭化水素化合物に転化できるいかなる転化法で行ってもよい。工程(c)の転化生成物がオレフィン系化合物を多量に含むならば、添加水素の不存在下に操作する転化法を利用するのが好ましい。添加水素の不存在下に操作する好適な転化法の例は、例えばUS−A−6703530に記載されるような周知の熱分解法及び例えばUS−A−4684759に記載されるような接触分解法である。これに対し、工程(c)の転化生成物がオレフィン系化合物を殆ど含まないものならば、添加水素の存在下に操作する方法を利用するのが好ましい。好適な方法の一例は、周知の水素化異性化/水素化分解法である。
【0019】
工程(c)では、水素化分解/水素化異性化反応が起こることが好ましい。工程(c)は水素及び触媒の存在下で行うことが好ましい。触媒は、この反応に好適であるとして当業者に公知のものから選択できる。このような触媒の例は、工程(b)でについて検討した際に説明したような異性化触媒である。工程(c)に使用される触媒は、通常、酸性官能価及び水素化/脱水素化官能価を有する非晶質触媒である。好ましい酸性官能価成分は、耐火性金属酸化物担体である。好適な担体材料としては、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、ジルコニア、チタニア及びそれらの混合物が挙げられる。本発明方法で使用される触媒に含まれる好ましい担体材料は、シリカ、アルミナ及びシリカ−アルミナである。特に好ましい触媒は、シリカ−アルミナ担体上に白金、白金又は白金及びパラジウムを担持して構成される。所望ならば、担体にハロゲン部分、特に弗素又は塩素、又は燐部分を適用して、触媒担体の酸性度を高めてもよい。好適な水素化分解/水素化異性化方法及び好適な触媒は、WO−A−200014179、EP−A−532118及び前述のEP−A−776959に記載されている。
【0020】
好ましい水素化/脱水素化官能価成分は、第VIII族非貴金属、例えばニッケルであり、更に好ましくは第VIII族貴金属、例えばパラジウム、最も好ましくは白金又は白金及びパラジウムである。触媒は、水素化/脱水素化活性成分を担体材料100重量部当り0.005〜5重量部、好ましくは0.02〜2重量部含んでよい。水素化転化段階で使用される特に好ましい触媒は、白金を担体材料100重量部当り0.05〜2重量部、更に好ましくは0.1〜1重量部の量で含有する。触媒の強度を高めるため、触媒は、バインダーを含んでもよい。バインダーは、非酸性であってよい。バインダーの例は、アルミナ、シリカ、粘土及びその他、当業者に公知のバインダーである。
【0021】
工程(c)では、原料は、高温高圧下、触媒の存在下に水素と接触させる。温度は通常、175〜380℃、好ましくは250℃より高く、更に好ましくは300〜370℃の範囲である。圧力は通常、10〜250バール、好ましくは20〜80バールの範囲である。水素は、ガスの1時間当り空間速度 100〜10000Nl/l/hr、好ましくは500〜5000Nl/l/hrで供給できる。炭化水素原料は、重量の1時間当り空間速度 0.1〜5kg/l/hr、好ましくは0.5kg/l/hrを超え、更に好ましくは2kg/l/hr未満で供給してよい。水素と炭化水素原料との比は、100〜5000Nl/kgの範囲が可能で、好ましくは250〜2500Nl/kgである。
【0022】
1パス当り370℃よりも高い沸点を有する原料が、370℃より低い沸点を有するフラクションまで反応する重量パーセントとして定義する、工程(a)での転化率は、好ましくは少なくとも20重量%、更に好ましくは少なくとも25重量%であるが、好ましくは80重量%以下、更に好ましくは70重量%以下、なお更に好ましくは65重量%以下である。
【0023】
工程(c)は、モレキュラーシーブ及び金属水素化成分を使用して行ってもよい。好適なモレキュラーシーブは、SAPO−11、ZSM−22又はZSM−23である。モレキュラーシーブは、好ましくは12−酸素環型の細孔構造を有する。本発明で使用される12−員環構造を有する好適なモレキュラーシーブは、ゼオライトβ及びZSM−12である。好適な水素化金属は、好ましくは元素の周期表第VIII族のものである。更に好ましくは、水素化成分は、ニッケル、コバルト及びなお更に好ましくは白金又はパラジウムである。これら触媒の例は、工程(b)で更に詳細に説明した。工程(c)でモレキュラーシーブベース型触媒を使用する利点は、得られる基油の別途の脱蝋を省略してよいことである。したがって、工程(c)及び(d)は、本質的に一工程に組合わされる。このようにして、好ましくは100℃での動粘度が15cStを超える、極めて高粘度の基油等級が製造できる。最大粘度は、工程(a)で使用されるフィッシャー・トロプシュ合成生成物の重質性に依存する。
【0024】
工程(c)及び(d)の前記組合わせの流出流は、前述と同じ基油仕立て部(工程(e))に供給する。これにより、次に重質等級を含む全ての基油等級の単離が同じ蒸留塔で行えるので有利である。
【0025】
工程(c)をモレキュラーシーブベース触媒の存在下で行う場合、一般に以下の方法条件が適用される。温度は通常、175〜380℃、好ましくは200℃より高く、更に好ましくは220〜330℃の範囲である。必要な温度は、モレキュラーシーブの種類及び脱アルミ化の程度毎に変化し得るモレキュラーシーブの酸性度に一部依存する。当業者ならば、最適温度条件を容易に見い出せる。圧力は、通常、10〜250バール、好ましくは20〜80バールの範囲である。水素は、ガスの1時間当り空間速度100〜10000Nl/l/hr、好ましくは500〜5000Nl/l/hrで供給してよい。炭化水素原料は、重量の1時間当り空間速度0.1〜5kg/l/hr、好ましくは0.5kg/l/hrより高く、更に好ましくは2kg/l/hrより低く供給してよい。水素と炭化水素原料との比は、100〜5000Nl/kgの範囲でよく、好ましくは250〜2500Nl/kgである。
【0026】
工程(c)を接触分解法の熱分解により行えば、流出流は、沸点370℃未満の比較的多量のオレフィンを、特に沸点25〜215℃のガソリン範囲のフラクション中に含有する。これらのフラクションは、フラクション(iv)から蒸留により高沸点フラクション(v)を単離する際、残存低沸点フラクション(vi)として得られる。これらフラクション中のオレフィン含有量は、50重量%以下及びそれ以上の範囲になるかも知れない。オレフィンとしては、化学的供給原料として使用できるプロピレン、アルキル化の供給原料として使用できるC−オレフィン、及びガス油や基油のような高沸点生成物の収率を向上するため、オリゴマー化工程の原料として使用できるC以上のオレフィンが含まれる。これらのオレフィンは、ガソリンブレンド用フラクションの製造を意図するか、これらのフラクション中に存在するC−オレフィンやC−パラフィンからガソリンブレンド用化合物を製造するためのアルキル化工程(g)の供給原料として意図するか、或いはガス油及び基油の沸点範囲の化合物を製造するため、追加のオリゴマー化工程(f)用の供給原料として意図した場合、有利である。
【0027】
工程(c)で使用される好適な熱分解工程は、パラフィン分子を低分子量のオレフィンに分解することを意図している。この方法は、液相又は気相中で行ってよい。液相法構成の例は、遅延コークス化又は循環バッチ式操作で使用されるようなバッチ式熱分解反応器である。この方法は気相中で行ってもよい。この場合は、連続流−通し(through)操作が好ましい。このような方法では、まず原料を、原料の大部分又は全部を蒸発させるのに十分な温度で予熱した後、この蒸気を管に通す。ここで、管を分解炉に入れる前に、未蒸発の残存炭化水素をブレンドするのが望ましい選択である。熱分解は水蒸気の存在下で行うことが好ましい。水蒸気は熱源として役立つし、また反応器中でコークス化するのを抑える助けとなる。通常の水蒸気熱分解法の詳細は、US−A−4042488に見られる。
【0028】
気相熱分解操作を行う際は、オレフィンの生産量を最大化するため、原料は、熱分解操作中、蒸気相中に維持することが好ましい。熱分解帯での分解条件は、存在するパラフィンの30重量%を超える分解転化率を得るのに十分でなければならない。分解転化率は、好ましくは少なくとも50重量%、最も好ましくは少なくとも70重量%である。分解操作用熱分解帯の最適温度及びその他の条件は、原料により若干変化する。一般に温度は、原料を蒸気相中に維持するのに十分高いが、原料を過剰分解するほど高くないようにしなければならない。熱分解帯の温度は、普通、500〜900℃の範囲の温度に維持される。フィッシャー・トロプシュ蝋からのオレフィンの生産量を最大にするための熱分解帯での最適温度範囲は、原料の終点に依存する。一般に炭素数が大きいほど、最大転化率の達成に必要な温度は高くなる。熱分解帯では、通常、約0〜約5気圧の範囲に維持された圧力が使用されるが、一般に圧力は約0〜約3気圧が好ましい。反応器中での蝋フラクションの最適滞留時間は、熱分解帯の温度及び圧力に応じて変化するが、通常の滞留時間は、一般に約0.1〜約500秒で、好ましい範囲は約0.1〜5秒である。
【0029】
工程(c)を接触分解法、例えば流動接触分解(FCC)法を用いて行う場合は、以下の条件が好ましい。原料は、好ましくは450〜650℃の範囲の温度で触媒と接触させる。更に好ましくは、この温度は475℃より高い。ガス状化合物への余計な過剰分解を避けるため、600℃未満の温度が好ましい。この方法は各種の反応器で行ってよい。石油誘導原料に対して操作するFCC法に比べて、コークスの生成が比較的少ないため、この方法は固定床反応器中で行うことが可能である。しかし、触媒の再生を可能にするには、更に簡単な優先順位は、流動床反応器又は立上り管反応器のいずれかである。この方法を立上り管反応器で行う場合、接触時間は、好ましくは1〜10秒、更に好ましくは2〜7秒の範囲である。触媒とオイルとの比は、好ましくは2〜20kg/kgの範囲である。良好な結果は、15kg/kg未満、更には10kg/kg未満の低触媒対オイル比で得られることが見い出された。
【0030】
工程(c)の接触分解法で使用される触媒系は、母材及び大細孔モレキュラーシーブを主体とする触媒で少なくとも構成される。好適な大細孔モレキュラーシーブの例は、ゼオライトY、超安定ゼオライトY及びゼオライトXのようなホウジャサイト(FAU)型である。母材は酸性母材が好ましい。好適な触媒は市販のFCC触媒である。触媒系方法は、プロピレンをガソリンフラクションの次に高収率で得るように、中間細孔サイズのモレキュラーシーブで構成しても有利かも知れない。好ましい中間細孔サイズのモレキュラーシーブは、ゼオライトβ、エリオナイト(Erionite)、フェリエライト、ZSM−5、ZSM−11、ZSM−12、ZSM−22、ZSM−23又はZSM−57である。この方法で存在するモレキュラーシーブの全量に対する中間細孔結晶のフラクション重量は、好ましくは2〜20重量%の範囲である。
【0031】
工程(d)では、フラクション(iv)の中の高沸点フラクション(v)に対し、接触水素化異性化及び接触脱蝋工程を施して、1種以上の基油等級を得る。工程(c)の流出流中の高沸点フラクション(v)は、初期沸点が好ましくは340〜400℃の範囲のものである。更に好ましくは10重量%回収点は、340〜400℃の範囲である。フラクション(v)の最終沸点は、好ましくは500〜600℃の範囲である。更に好ましくは、90重量%回収点は500〜600℃の範囲である。工程(d)は、工程(b)で説明したように、行ってよい。分離は蒸留で行うのが好ましい。基油は、前述と同じ基油仕立て部(工程(e))において工程(d)の流出流から単離される。
【0032】
工程(c)の流出流は、工程(a)に供給することが好ましい。これにより、蒸留塔の数が減るので、有利である。工程(a)では、新しいフィッシャー・トロプシュ合成生成物と工程(c)の流出流との混合物は、再び同時に、沸点が中間蒸留物範囲以下のフラクション(i)と、重質最終フラクション(iii)と、沸点がフラクション(i)とフラクション(iii)との間にある中間基油前駆体フラクション(ii)とに分離される。この実施態様では、工程(b)及び(d)は、同じ反応器中で行われる。この実施態様も、明らかに有利である。
【0033】
フィッシャー・トロプシュ合成生成物は、オレフィン及び酸素化物を含有してもよいが、酸素化物は工程(b)、(c)及び(c)で使用される水素化転化触媒に有害である可能性がある。これらの化合物は、工程(a)を行う前、又は分離工程(b)、(c)及び/又は(d)の原料を水素化する前にフィッシャー・トロプシュ合成生成物の水素化により除去してよい。後者は、フィッシャー・トロプシュ合成生成物中に存在する酸素化物の若干が最終的に中間蒸留物フラクション(i)に入り、得られるガス油フラクション又はケロシンフラクション中で潤滑向上剤として役立つので、有利である。このような化合物の存在による利点は、例えばEP−A−101553に記載されている。
【0034】
可能な水素化法は、例えばEP−B−668342に記載されている。水素化処理工程のマイルド性は、この工程での転化程度が好ましくは20重量%未満、更に好ましくは10重量%未満として表わされる。ここで転化率は、370℃よりも高い沸点を有する原料が、370℃より低い沸点を有するフラクションまで反応する該原料の重量パーセントとして定義する。可能な水素化法の例には、ニッケル含有触媒、例えばアルミナ上のニッケル、シリカ−アルミナ上のニッケル、珪藻土上のニッケル、アルミナ上の銅ニッケル、シリカ−アルミナ上のコバルト、又はアルミナ上の白金ニッケルを使用することが含まれる。水素化条件は、当業者に周知のこの種の方法での通常の条件である。
【0035】
前述のオリゴマー化工程(f)は、沸点が370℃未満のフラクション、特に工程(c)で得られるようなガソリンの沸点範囲にあるフラクション中に存在するオレフィンをオリゴマー化することにより、基油の収率を最大にすることを意図する。好ましい実施態様では、オレフィン系フラクション(i)を得るため、工程(c)のオレフィン系流出流は工程(a)に供給される。このフラクション(i)は、工程(f)で直接使用することができ、或いは工程(f)で使用する前に、更に分別してもよい。このような体系では、工程(f)の原料は、フィッシャー・トロプシュ合成生成物中に存在するような低沸点化合物も含有する。このような生成物はオレフィンも含有するので、工程(f)では、これらオレフィンのオリゴマー化も起こる。オリゴマー化中、軽質オレフィンは重質生成物に転化する。工程(f)で得られるような基油の沸点範囲の分子は、優れた粘度指数を有するので、工程(b)及び(d)で得られるような基油生成物と好適にブレンドできる。流動点が高すぎる場合は、オリゴマー化生成物は接触脱蝋工程に送ってよい。好ましい実施態様では、接触脱蝋は、このフラクションを、工程(b)の原料又は工程(d)の原料と一緒にそれぞれの脱蝋工程に同時に(co−)供給することにより行える。更に好ましくは蒸留の工程数を簡素化するため、工程(b)で脱蝋を行う前に、オリゴマー化生成物を工程(a)に送ることである。転化されるオレフィンと同じ沸点範囲のパラフィンの増加を避けるため、放出(bleed)流が存在することが好ましい。好ましい実施態様では、工程(f)は接触蒸留で行われる。接触蒸留では、オレフィンは同時に基油分子に転化し、また基油分子は高沸点のため、蒸留塔の底部で回収される。未反応オレフィンは、塔頂又は塔頂付近で得られ、接触蒸留塔に再循環できる。
【0036】
オレフィンのオリゴマー化は文献に十分に報告され、多くの方法が利用できる。例えばUS−A−670693、US−A−2004002984、US−A−6703535、US−A−4417088、US−A−4434308、US−A−4827064、US−A−4827073及びUS−A−4990709参照。各種の反応器構成を使用してよく、工業的には固定触媒床反応器が使用される。最近は、触媒と反応剤との接触が効率的で、またオリゴマー生成物からの触媒の分離が容易なことから、イオン性液体媒体中でオリゴマー化を行う方法が提案されている。しかし、接触蒸留法も有利に使用できる。
【0037】
オリゴマー化生成物の平均分子量は、初期の供給原料よりも好ましくは少なくとも10%、更に好ましくは少なくとも20%高い。オリゴマー化反応は、広範囲の反応条件に亘って進行する。反応を行う通常の温度は、0〜430℃の範囲である。その他の条件としては、空間速度0.1〜3LHSV、圧力0〜2000psigがある。オリゴマー化反応用触媒は、事実上、いずれかの酸性材料、例えばゼオライト、粘土、樹脂、BF3錯体、HF、HSO、AlCl、イオン性液体(好ましくはBronsted又はLewis酸性成分又はBronsted及びLewis酸成分の組合せを含有するイオン性液体)、遷移金属系触媒(例えばCr/SiO)、及びスーパー酸等が可能である。更に、特定の有機金属又は遷移金属オリゴマー化触媒を含む非酸性オリゴマー化触媒、例えばジルコノセン(zirconocene)を使用してもよい。説明の目的で、US−A−6703535を参照する。この文献は、オリゴマー化により、オレフィン系フィッシャー・トロプシュ誘導原料から基油を製造する方法を説明している。
【0038】
本発明は、中間フラクション(ii)の製造方法にも向けたものである。このフラクションは、90重量%を超える部分が350〜550℃、好ましくは370〜550℃の沸点範囲にある蝋状ラフィネートフラクションと言える。この中間生成物の製造法は、好ましくは40重量%を超え、更に好ましくは50重量%を超える部分が550℃より高沸点であるフィッシャー・トロプシュ合成生成物から出発して行われる。この方法は、
(aa)該フィッシャー・トロプシュ合成生成物を、沸点が中間蒸留物範囲以下のフラクション(i)と、初期沸点が500〜600℃の範囲にある重質最終フラクション(iii)と、沸点がフラクション(i)と重質最終フラクション(iii)との間にある蝋状ラフィネートフラクション(ii)とに分離する工程、
(bb)該重質最終フラクション(iii)に対し、転化工程を施して、重質最終フラクションの一部を、これより低沸点の化合物に転化した後、転化工程の流出流を工程(aa)に再循環する工程、
を含む。
【0039】
前記フラクション(i)〜(iii)の好ましい沸点範囲値は、この方法の実施態様にも適用する。転化工程(bb)は、前記工程(c)で説明したような水素化転化工程であってよい。或いは重質最終物の転化には熱分解も適用してよい。好ましくは熱分解工程(b)の生成物は、該生成物中に存在する可能性があるジオレフィンを少なくとも水素化するように、水素化される。
【0040】
蝋状ラフィネートは、別個の生成物として販売してよい。この蝋状ラフィネートは、例えばガス生成場所で製造し、更に最終消費者に一層近い場所で例えば基油のような最終生成物に加工してよい。ラフィネート自体は、前述のように基油の製造原料としての用途が見られる。蝋状ラフィネート生成物は、低級オレフィン、例えばエチレンやプロピレンの製造用水蒸気分解供給原料としても有利に使用できる。蝋状ラフィネート生成物はパラフィンを多量に含有するので、このような供給原料を水蒸気分解供給原料として用いると、低級オレフィンを高収率で得ることが可能である。
【0041】
工程(bb)用に熱分解工程を含む前記方法は、該方法の丁度下流に位置する水蒸気分解器の原料製造法として使用される。可能な水蒸気分解法は、蝋状ラフィネート生成物と、工程(aa)において専用の水蒸気分解炉で得られるような、エタン、LPG及びナフサの沸点範囲で、かつガス油の沸点範囲以下の低沸点フラクション(i)との組合せに対し作業するように設計できる。
【0042】
本発明を図1〜5を利用して更に説明する。
図1はWO−A−02070629の従来法を示す。
図2は本発明方法を示す。
図3は本発明方法を示す。
図4は本発明方法を示す。
図5は本発明方法を示す。
【0043】
図1は、フィッシャー・トロプシュ生成物2を製造するフィッシャー・トロプシュ合成法工程1を例示するWO−A−02070629の従来法を説明する。この生成物2は、水素化分解/水素化異性化工程3に供給される。次いで、生成物4は、常圧蒸留塔5においてナフサ生成物6、ケロシン生成物7、ガス油生成物8及び塔底生成物に分離される。この塔底生成物は、引き続き真空蒸留塔9において基油前駆体フラクション10及び高沸点フラクション17に分離される。次いで、フラクション10は接触脱蝋11され、得られた脱蝋油12は塔13において各種基油生成物14、15、16に分別される。高沸点フラクション17は、水素化分解/水素化異性化工程3に再循環される。
【0044】
図2は本発明の一実施態様を示す。フィッシャー・トロプシュ合成法工程20では、フィッシャー・トロプシュ生成物21が製造される。この生成物21は、蒸留22により1種以上の中間蒸留物フラクション34、35、基油前駆体フラクション36及び高沸点フラクション23に分離される。中間蒸留物フラクションは、ナフサ、ケロシン及びガス油であってよい。蒸留22は、図1と同様、常圧蒸留及び真空蒸留体系であってよい。基油前駆体フラクションは接触脱蝋工程30に供給され、得られた脱蝋油34は、塔32において1種以上の基油生成物35、36、37に分別される。高沸点フラクション23は、水素化分解/水素化異性化工程24に供給され、ここで分解生成物25が得られる。この生成物25からは、塔26において、ガス油の沸点範囲以下のフラクション38、基油前駆体フラクション27及び高沸点フラクション33が分離される。基油前駆体フラクション27は、接触脱蝋28され、得られた脱蝋油は、脱蝋油34と一緒になり、前述のように32において分離される。
【0045】
図3は、水素化分解/水素化異性化工程44で得られた生成物が第一分離ユニット42に再循環される図2と同様な方法である。図2と図3とを比較して判るように、単位操作がかなり減少する。フィッシャー・トロプシュ合成法工程40では、フィッシャー・トロプシュ生成物41が製造される。この生成物41は、蒸留42により1種以上の中間蒸留物フラクション46、47、基油前駆体フラクション48及び高沸点フラクション43に分離される。中間蒸留物フラクションは、ナフサ、ケロシン及びガス油であってよい。蒸留42は、図1と同様、常圧蒸留及び真空蒸留体系であってよい。高沸点フラクション43は、水素化分解/水素化異性化工程44に供給され、ここで分解生成物45が得られ、更にこの分解生成物は蒸留42に再循環される。
【0046】
基油前駆体フラクション48は、接触脱蝋工程49に供給され、得られた脱蝋油50は、塔51において1種以上の基油生成物53、54に分別される。
脱蝋油から分離されたガス油生成物52は、有望な低温特性を有するブレンド生成物が得られるよう、好ましくはガス油フラクション47とブレンドされる。ガス油生成物52は、低い曇り点及び常温油こし詰まり点(CFFP)を有する。有望な低温特性を有するガス油生成物52の容積は、基油前駆体フラクション48の初期沸点を調節することにより制御できる。このような制御により、操作者は、小容積のガス油52、したがって、得られるガス油生成物52、47のブレンドの、曇り点やCFFPのような低温特性を目標とすることができる。
【0047】
図4に蝋状ラフィネート生成物65の製造方法を例示する。図4は、フィッシャー・トロプシュ生成物61を製造するフィッシャー・トロプシュ合成法工程60を示す。この生成物61は、蒸留62により1種以上の中間蒸留物フラクション63、64、蝋状ラフィネート生成物65及び高沸点フラクション66に分離される。中間蒸留物フラクションは、ナフサ、ケロシン及びガス油であってよい。蒸留62は、図1と同様、常圧蒸留及び真空蒸留体系であってよい。高沸点フラクション66は、重質最終物(ends)転化工程67に供給され、ここで原料66よりも平均沸点の低い分子を含有する生成物68が得られる。重質最終物転化工程67は、工程(c)で説明した複数の工程のいずれでもよい。生成物68は蒸留62に再循環される。蝋状ラフィネート65は、このような原料に専用の水蒸気分解炉の原料として任意に使用してよい。可能な実施態様では、ナフサフラクション63は、専用の水蒸気分解炉に供給される。ガス油生成物64は、別途の生成物として販売するのが有利かも知れない。ガス油生成物はセタン価が高いため、水蒸気分解炉供給原料として使用するよりも、自動車ガス油燃料成分として使用する方が有利かも知れない。
【0048】
図5は、工程(c)で流動接触分解法(70)を行う他は、図3と同様である。この場合、フラクション(64)はオレフィンが豊富であり、したがって、接触オリゴマー化−蒸留塔(71)の原料として使用されるガソリンフラクション(63)もオレフィンが豊富である。基油の沸点範囲の化合物が豊富な塔底流(72)は、塔(71)で形成された可能性がある蝋状化合物を除去するため、脱蝋工程(49)に送られる。軽質化合物(74)はオリゴマー化工程(71)に再循環され、一方、パラフィンの増加を避けるため、放出流(73)が存在する。ガス油(47)は、エチレンクラッシュ(craches)供給原料工業用ガス油又は自動車ガス油としての利用が見い出せる。
本発明を以下の非限定的例により説明する。
【実施例1】
【0049】
例1
第1表に示すような特性を有するフィッシャー・トロプシュ誘導生成物を蒸留して、沸点がほぼ540℃より高温のフラクション(蒸留原料に対し72重量%回収された)及び沸点がほぼ350〜540℃の範囲にあるフラクション(蒸留原料に対し25重量%回収された)を得た。更に、この原料から、沸点がほぼ350℃未満のフラクション3重量%が分離された。原料及び主な蒸留物フラクションの沸点曲線データを第1表に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
第1表の540℃+フラクションに対し、原料が非晶質シリカ−アルミナ担体上の白金0.8重量%と接触する水素化分解工程を施した。水素化分解工程の条件は、新しい原料の重量の1時間当り空間速度(WHSV)0.9kg/l.h、再循環なし、水素ガス速度=1100Nl/原料kg、全圧=32バールである。反応器温度は、第2表に示すように変化させた。水素化分解器の流出流を分析し、各種沸点のフラクションについての収率を第2表に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
こうして蒸留工程では、ほぼn−パラフィンからなる沸点範囲350〜540℃のフラクション(i)が蒸留工程の原料に対して25重量%得られ、また水素化分解工程では、沸点範囲370〜540℃の蝋状ラフィネートフラクション(ii)が14重量%得られた。これら2種のフラクション(i)及び(ii)は組合わせてもよく、この組合わせフラクションから脱蝋により基油を製造してもよい。
【0054】
これら2種のフラクション(i)及び(ii)に対する可能な基油の収率を計算するため、以下の控え目な評価を与える我々の転化モデルを用いた。この評価は、本発明方法の基油収率が従来法に比べて向上したことを説明するため、本願だけに関連して使用するものである。
【0055】
基油の収率は、蝋状ラフィネート原料(ii)から出発して、100℃での動粘度が5cStで流動点が−20℃である、脱蝋油の中の沸点範囲400〜540℃のフラクションとしては70重量%である。この収率は、EP−A−776959で異なる原料について記載された白金ZSM−23触媒を用い、水素化異性化工程と接触脱蝋工程とを組合わせた工程により基油を得た場合に達成できる。
したがって、フラクション(i)から、基油の原料に対し11重量%が得られる。
【0056】
基油の収率は、n−パラフィン系原料(i)から出発して、100℃での動粘度が5cStで流動点が−20℃である、脱蝋油の中の沸点範囲400〜540℃のフラクションとしては45重量%である。この収率は、EP−A−776959に記載されたシリカ結合白金ZSM−12型触媒を用い、フラクション(ii)に対し接触脱蝋工程を施すことにより基油を得た場合に達成できる。
したがって、例1−bで得られるようなフラクション(ii)から、基油の原料に対し10重量%が得られる。したがって、基油の原料に対する合計収率は21重量%である。
【0057】
比較実験A
フィッシャー・トロプシュ誘導生成物(原料)を直接、水素化分解工程に供給した他は、例1を繰り返した。先行蒸留は行わなかった。原料に対する370〜540℃フラクションの収率は24重量%であった。このフラクションは、部分的に水素化異性化もされているので、例1のフラクション(ii)と同じ評価の基油収率をこのフラクションに適用できる。この場合、基油収率は原料に対し17重量%となる。
【0058】
例1と比較実験Aとを比較して判るように、フィッシャー・トロプシュ誘導生成物(原料)に対する基油の収率は、従来法の構成を用いた場合(17重量%)に比べて本発明方法の方がかなり高い(21重量%)。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】WO−A−02070629に記載の従来法を示す。
【図2】本発明方法の一実施態様を示す。
【図3】本発明方法の他の一実施態様を示す。
【図4】本発明方法の更に他の一実施態様を示す。
【図5】本発明方法の更に別の一実施態様を示す。
【符号の説明】
【0060】
1 フィッシャー・トロプシュ合成法工程
2 フィッシャー・トロプシュ生成物
3 水素化分解/水素化異性化工程
4 生成物
5 常圧蒸留塔
6 ナフサ生成物
7 ケロシン生成物
8 ガス油生成物
9 真空蒸留塔
10 基油前駆体フラクション
11 接触脱蝋
12 脱蝋油
13 塔
14 基油生成物
15 基油生成物
16 基油生成物
17 高沸点フラクション
20 フィッシャー・トロプシュ合成法工程
21 フィッシャー・トロプシュ生成物
22 蒸留
23 高沸点フラクション
30 接触脱蝋工程
32 塔
34 中間蒸留物フラクション又は脱蝋油
35 中間蒸留物フラクション又は基油生成物
36 基油前駆体フラクション又は基油生成物
37 基油生成物
40 フィッシャー・トロプシュ合成法工程
41 フィッシャー・トロプシュ生成物
42 第一分離ユニット又は蒸留
43 高沸点フラクション
44 水素化分解/水素化異性化工程
45 分解生成物
46 中間蒸留物フラクション
47 中間蒸留物フラクション又はガス油
48 基油前駆体フラクション
49 接触脱蝋工程
50 脱蝋油
51 塔
53 基油生成物
54 基油生成物
60 フィッシャー・トロプシュ合成法工程
61 フィッシャー・トロプシュ生成物
62 蒸留
63 中間蒸留物フラクション或いはナフサ又はガソリンフラクション
64中間蒸留物フラクション又はガス油生成物
65 蝋状ラフィネート生成物又は蝋状ラフィネート
66 高沸点フラクション又は原料
67 重質最終物転化工程
68 生成物
70 流動接触分解法
71 接触オリゴマー化−蒸留塔又はオリゴマー化工程
72 塔底流
73 放出流
74 軽質化合物


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)フィッシャー・トロプシュ合成生成物を、沸点が中間蒸留物範囲以下のフラクション(i)と、重質最終フラクション(iii)と、沸点がフラクション(i)とフラクション(iii)との間にある中間基油前駆体フラクション(ii)とに分離する工程、
(b)基油前駆体フラクション(ii)に対し、接触水素化異性化及び接触脱蝋工程を施して、1種以上の基油等級を得る工程、
(c)重質最終フラクション(iii)に対し、転化工程を施して、該重質最終フラクション(iii)より低沸点のフラクション(iv)を得る工程、及び
(d)フラクション(iv)の高沸点フラクション(v)に対し、接触水素化異性化及び接触脱蝋工程を施して、1種以上の基油等級を得る工程、
により、フィッシャー・トロプシュ合成生成物から基油を製造する方法。
【請求項2】
前記重質最終フラクション(iii)の初期沸点が、500〜600℃の範囲である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(b)が、貴金属水素化成分と、ゼオライトβ、ZSM−23、ZSM−22、ZSM−35又はZSM−12よりなる群から選ばれたモレキュラーシーブとを含む触媒の存在下に行われる請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程(c)が、酸性官能価及び水素化/脱水素化官能価を含む非晶質触媒を利用する水素化分解/水素化異性化工程として行われる請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
工程(c)が、12員の環構造を有するモレキュラーシーブ及び金属水素化成分を含有する触媒の存在下、接触脱蝋条件下で行われる請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
工程(c)及び(d)を事実上、同時に行って、接触水素化異性化及び接触脱蝋も起こるように、前記条件が選ばれる請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程(d)が、貴金属水素化成分と、ゼオライトβ、ZSM−23、ZSM−22、ZSM−35又はZSM−12よりなる群から選ばれたモレキュラーシーブとを含む触媒の存在下に行われる請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
工程(a)、工程(b)及び/又は工程(c)の原料が、これら原料に存在する酸素化物及び/又はオレフィンを除去するため、まず水素化される請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
工程(c)が、熱分解工程により行われる請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
工程(c)が、接触分解工程により行われる請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
工程(c)で得られた沸点370℃未満のフラクションに対し、オリゴマー化工程(f)を施す請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
工程(f)で基油フラクションが製造され、該基油フラクションが工程(b)及び/又は(d)基油生成物と混合される請求項11に記載の方法。
【請求項13】
工程(f)で基油フラクションが製造され、該基油フラクションが工程(b)で脱蝋される請求項11に記載の方法。
【請求項14】
工程(c)の流出流が工程(a)に供給され、こうして工程(b)及び(d)が事実上、同時に行われる請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
(aa)40重量%を超える部分が550℃より高沸点であるフィッシャー・トロプシュ合成生成物を、沸点が中間蒸留物範囲以下のフラクション(i)と、初期沸点が500〜600℃の範囲にある重質最終フラクション(iii)と、沸点がフラクション(i)と重質最終フラクション(iii)との間にある蝋状ラフィネートフラクション(ii)とに分離する工程、(bb)該重質最終フラクション(iii)に対し、転化工程を施して、重質最終フラクションの一部を、これより低沸点の化合物に転化した後、転化工程の流出流を工程(aa)に再循環する工程、
により該フィッシャー・トロプシュ合成生成物から、90重量%を超える部分が370〜550℃の沸点範囲にある蝋状ラフィネートフラクションを製造する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2009−513496(P2009−513496A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516202(P2006−516202)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【国際出願番号】PCT/EP2004/051349
【国際公開番号】WO2005/003067
【国際公開日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(390023685)シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ (411)
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
【Fターム(参考)】