説明

フィラー配合材料のシミュレーションモデル生成方法。

【課題】フィラー配合材料のシミュレーションモデルをコンピュータを用いて簡単かつ短時間で生成する。
【解決手段】マトリックス中にフィラーが分散配合されたフィラー配合材料のシミュレーションモデルをコンピュータを用いて生成するための方法であって、シミュレーションモデルの形成空間を、前記フィラーの領域とフィラー以外の領域とに区分し、これらの境界を定めるステップS1、前記フィラーの領域を有限個の要素に分割してフィラーモデルを設定するステップS2、前記フィラー以外の領域を有限個の要素に分割するステップS3、前記フィラー以外の領域の要素のうち、少なくとも前記フィラーモデルに接触している要素を界面モデルとして設定するステップS4、及び前記フィラー以外の領域の要素のうち、前記界面モデルの外側の要素をマトリックスモデルとして設定するステップS5を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マトリックス中にフィラーが分散配合されたフィラー配合材料から、そのシミュレーションモデルをコンピュータを用いて簡単かつ短時間で生成しうるフィラー配合材料のシミュレーションモデル生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マトリックス(例えばゴム)中にフィラー(例えばカーボンブラック)が分散配合されたフィラー配合材料(例えばカーボン補強ゴム)の変形挙動、応力又は歪分布状態などを評価するために、シミュレーションによる解析が行われている。シミュレーションを行うためには、上述のフィラー配合材料について、例えば有限要素法などの数値解析法で取り扱いが可能なシミュレーションモデルを準備する必要がある。
【0003】
図8に示されるように、上記シミュレーションモデルaとしては、フィラーを表現しているフィラーモデルbと、該フィラーモデルbの外側に形成された小厚さの界面モデルcと、該界面モデルcの外側に形成されかつマトリックスを表現しているマトリックスモデルdとを含むものが一般的である。
【0004】
前記界面モデルcについては、実際の材料において、このような物理的な層が明確に形成されているものではないが、マトリックスのうち、フィラーと接触している部分については、異なる物性値を示すとの知見に基づき、このような界面モデルcが採用されることが多い。
【0005】
また、上記シミュレーションモデルaをコンピュータを用いて生成する方法として、本件出願人は、既に、下記特許文献1を提案している。該特許文献1では、次のステップs1乃至s6を含んで、シミュレーションモデルaを自動生成するものである。
s1)フィラー配合材料から、マトリックス及びフィラーを含んだ画像を取得するステップ
s2)前記画像からフィラーのエッジを抽出するステップ
s3)前記エッジを抽出した後、エッジの外側に予め定めた厚さでオフセットされた輪郭線を設定するステップ
s4)前記エッジの内側領域を分割しかつフィラーモデルとして定義するステップ
s5)前記輪郭線の外側領域を分割しかつマトリックスモデルとして定義するステップ
s6)前記輪郭線と前記エッジとの間の領域を分割し、かつ、マトリックスとフィラーとの界面を表す前記マトリックスモデルとは異なる物性値の界面モデルとして定義するステップ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4695399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記方法では、次のような問題がある。即ち、フィラーの輪郭形状は単純な球形をなす単一の粒子のみならず、図8に示したように、複数の粒子が連結して葡萄の房状をなす複雑な形状のものも含まれる。このため、例えば、ステップs3を終えた状態を示す図9及びそのX部断面である図10に示されるように、複雑な形状のフィラーfに関しては、フィラーfのエッジeの外側に所定厚さzでオフセットされた輪郭線g1、g2を設定した場合、特にエッジeの入隅部kなどにおいては輪郭線g1、g2が交差する場合がある。このような現象が生じると、コンピュータで上記ステップs4及びs6を実行することが困難であり、処理が中断する他、輪郭線g1、g2を手作業で修正する必要があり、これらの作業に時間を要するいう問題があった。
【0008】
本発明は、以上のような問題点に鑑み案出なされたもので、シミュレーションモデルの形成空間を、フィラーの領域とフィラー以外の領域とに区分する境界を定め、フィラーの領域を有限個の要素に分割してフィラーモデルを設定し、フィラー以外の領域を有限個の要素に分割し、フィラー以外の領域の要素のうち、少なくともフィラーモデルに接触している要素を界面モデルとして設定し、フィラー以外の領域の要素のうち、界面モデルの外側の要素をマトリックス要素として設定することを基本として、フィラー配合材料からそのシミュレーションモデルを簡単かつ短時間で生成しうるフィラー配合材料のシミュレーションモデル生成方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のうち請求項1記載の発明は、マトリックス中にフィラーが分散配合されたフィラー配合材料のシミュレーションモデルをコンピュータを用いて生成するための方法であって、シミュレーションモデルの形成空間を、前記フィラーの領域とフィラー以外の領域とに区分し、これらの境界を定めるステップ、前記フィラーの領域を有限個の要素に分割してフィラーモデルを設定するステップ、前記フィラー以外の領域を有限個の要素に分割するステップ、前記フィラー以外の領域の要素のうち、少なくとも前記フィラーモデルに接触している要素を界面モデルとして設定するステップ、及び前記フィラー以外の領域の要素のうち、前記界面モデルの外側の要素をマトリックスモデルとして設定するステップを含むことを特徴とする。
【0010】
また請求項2記載の発明は、前記界面モデルを設定するステップは、前記フィラーモデルに接触している要素、及び、その外側に接触している要素を界面モデルとして設定する請求項1記載のフィラー配合材料のシミュレーションモデル生成方法である。
【0011】
また請求項3記載の発明は、前記界面モデルは、前記マトリックスモデルと異なる物性が定義される請求項1又は2記載のフィラー配合材料のシミュレーションモデル生成方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のフィラー配合材料のシミュレーションモデル生成方法では、シミュレーションモデルの形成空間を、前記フィラーの領域とフィラー以外の領域とに区分し、これらの境界を定めるステップ、前記フィラーの領域を有限個の要素に分割してフィラーモデルを設定するステップ、前記フィラー以外の領域を有限個の要素に分割するステップ、前記フィラー以外の領域の要素のうち、少なくとも前記フィラーモデルに接触している要素を界面モデルとして設定するステップ、及び前記フィラー以外の領域の要素のうち、前記界面モデルの外側の要素をマトリックス要素として設定するステップを含んでいる。従って、界面モデルを設定する際、コンピュータは、単純に、フィラー以外の領域の要素の中から、フィラーモデルに接触している要素のみを抽出すれば足りるので、簡単に界面モデルを設定することができる。また、請求項2の発明を採用することにより、界面モデルの厚さを自在に設定することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態を示すフローチャートである。
【図2】シミュレーションモデルの形成空間を、フィラーの領域とフィラー以外の領域とに区分する境界を抽出した画像の一例である。
【図3】図2の各領域を有限個の要素に分割した状態を示す線図である。
【図4】フィラーモデルに接触している要素を界面モデルとして設定するステップを説明する部分拡大図である。
【図5】界面モデルの外側の要素をマトリックスモデルとして設定するステップを説明する部分拡大図である。
【図6】本実施形態のシミュレーションモデルを示す線図である。
【図7】他の実施形態のシミュレーションモデルを示す線図である。
【図8】従来のシミュレーションモデルを示す線図である。
【図9】フィラーのエッジ、及び、オフセットされた輪郭線を示す線図である。
【図10】図9のA部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態では、フィラー配合材料として、ゴムにカーボンを充填したカーボン補強ゴムを例に挙げ、その二次元(単一平面)のシミュレーションモデルを生成する手順を説明する。この手順は、図示しないコンピュータ装置を用いて行われる。
【0015】
図1には、本実施形態のシミュレーションモデルの生成方法の処理手順の一例が示されている。本実施形態の生成方法では、先ず、シミュレーションモデルの形成空間が、フィラーの領域とフィラー以外の領域とに区分され、これらの境界が設定される(ステップS1)。
【0016】
図2には、シミュレーションモデルの形成空間として、予め定められた所定の大きさの矩形の二次元空間jが示される。本実施形態において、この二次元空間jは、シミュレーションモデルの最小単位としての微視構造(ユニットセルとも呼ばれる。)を構成している。この二次元空間jは、フィラーの領域2とフィラー以外の領域3とに区分され、これらの領域2及び3を区画する境界Eが設定される。
【0017】
本実施形態において、フィラーの領域2は、互いに離間した4つの領域2a乃至2dが定義されている。これらの4つのフィラーの領域2a乃至2dは、環状に連続した境界(境界線)Ea乃至Edで囲まれることにより、いずれも閉じた空間となる。
【0018】
前記フィラー以外の領域3は、前記二次元空間jのうち、境界Ea乃至Edの外側の領域として区分されている。
【0019】
このような境界Ea乃至Edは、いかなる方法で取得されても良い。好ましくは、実際のフィラー配合材料の顕微鏡画像などに公知の画像処理を施すことによって、境界Ea乃至Edを得ることができる。例えば前記特許文献1に詳細に記載されているように、マトリックスゴム及びカーボンを含んだ顕微鏡画像をTEM等を利用して取得し、この画像をラスターデータ化し(ただし、直接デジタルデータが得られる場合はこの処理は不要)、必要によりノイズを除去し、このラスター化された画像に対してフィラーのエッジを抽出する処理を行えば良い。この抽出されたエッジが、前記境界Ea乃至Edに相当する。なお、エッジ(境界)が連続していない場合、そのエッジの不連続部を例えば補間処理等によって連続させる処理を行うのが好ましい。
【0020】
次に、本実施形態では、図3に示されるように、フィラーの領域2a乃至2dを、有限個の要素4aに分割してフィラーモデル4を設定するとともに、フィラー以外の領域3についても、有限個の要素5aに分割する(ステップS2及びS3)。この処理は、いずれが先に行われても良いのは言うまでもない。
【0021】
前記各閉空間であるフィラーの領域2a乃至2d、及び、フィラー以外の領域3を、それぞれ有限個の小さな要素4a乃至5aで分割すること、即ちメッシュ化処理は、種々のアプリケーションソフトを用いて行い得る。要素4a乃至5aの形状は、平面要素の場合、三角形又は四角形が望ましい。また、各要素4a乃至5aの大きさなどは、例えば、解析の目的などに応じて予め好ましい範囲を定め、その範囲中に納まるよう処理され得る。そして、分割後、全ての要素4a及び5aの節点座標や要素番号、要素形状などの情報がコンピュータ装置に記憶される。
【0022】
また、「フィラーモデル4を設定する」とは、コンピュータに記憶されている前記要素のうち、フィラーモデル4に該当する要素4aについて、該フィラーモデル4を構成する要素であることを識別しうる情報を書き込んで他の要素と識別可能とされることを意味する。
【0023】
次に、図4に示されるように、本実施形態では、フィラー以外の領域3の要素5aのうち、フィラーモデル4に接触している要素6aを界面モデル6として設定する処理が行われる(ステップS4)。全ての要素の節点座標は、コンピュータに記憶されており、かつ、その中で、フィラーモデル4を構成する要素も識別可能である。従って、コンピュータは、これらの情報に基づいて、フィラーモデル4に接触している要素を迅速かつエラーなく、抽出して界面モデル6として設定することができる。
【0024】
前記「フィラーモデル4に接触している要素6a」とは、フィラーモデル4を構成する要素4aと辺又は節点を共有する要素とする。また、本実施形態では、フィラーモデル4は、環状に連続するエッジ(輪郭線)を有するので、それに接触する要素4a、即ち、界面モデルは、環状に連続するものとなる。
【0025】
また、「界面モデル6として設定する」とは、コンピュータに記憶されている前記要素のうち、界面モデル6に該当する要素について、該界面モデル6を構成する要素であることを識別しうる情報を書き込んで他の要素よ識別可能とされることを意味する。
【0026】
次に、図5に示されるように、本実施形態では、フィラー以外の領域3の要素のうち、界面モデル6の外側の要素7aをマトリックスモデル7として設定する処理が行われる(ステップS5)。この処理を行うことにより、図6に示されるように、二次元空間jが、フィラーモデル4、マトリックスモデル7及びこれらの間の界面モデル6に区分されたシミュレーションモデル10が生成される。
【0027】
なお、フィラーモデル4の各要素4a、界面モデル6の各要素6a、及び、マトリックスモデル7の各要素7aには、それぞれ、計算用のパラーメータとして、密度や弾性率といった物性値が定義され、コンピュータ装置に記憶されるのは言うまでもない。特に、界面モデル6を構成する各要素6aには、マトリックスモデル7とは異なる物性、通常、マトリックスモデル7よりも硬い物性やtanδの大きい物性が定義されることが望ましい。これにより、界面モデルでより大きなエネルギーロスを生じさせたり、又は、変形し難くするなど、実際のゴム材料で生じうる種々の変形形態をシミュレーションで精度良く再現することができる。
【0028】
以上のような処理を経て生成されたシミュレーションモデルMは、実際のカーボンの輪郭形状及び分散状態と非常に近似する。従って、シミュレーションにおける計算結果が、より実物のそれに近くなり、シミュレーション精度の大幅な向上が期待できる。また、シミュレーションモデルMの生成工程は、フィラーの輪郭形状が入隅等を有する複雑なものであっても、コンピュータによる連続自動処理で実行できるため、人間の作業工数を減じ、かつ、短時間で行うことができる。
【0029】
また、本実施形態では、2次元のシミュレーションモデル10を示したが、例えば、上記の処理をカーボン補強ゴムの厚さ方向で繰り返して行い、かつ、それらの間を補って三次元のシミュレーションモデルを生成することも可能になる。
【0030】
また、カーボン配合ゴムの場合、界面モデル6の厚さは、一般的に、1〜10ナノメータ程度と考えられている。このような厚さに調整するために、界面モデル6の厚さは、要素aの大きさに応じて自在に設定することができる。例えば、前記界面モデル6を設定するステップS4を、フィラーモデル4に接触している要素6a及びその外側に接触する要素6bをさらに界面モデルとして設定することができる。この際、外側に接触する要素の数を指定することも可能である。これによれば、図7に示されるように、要素の大きさに応じて界面モデル6の厚さを大きくかつ自在に設定することができる。
【0031】
以上本発明の実施形態について説明したが、本発明は、カーボン補強ゴム以外にも、シリカをフィラーとしてゴム組成物や、各種のエラストマーなどのシミュレーションモデルの生成にも用いることができる。
【符号の説明】
【0032】
j シミュレーションモデルの二次元空間
E、Ea〜Ed 境界
2、2a〜2d フィラーの領域
3 フィラー以外の領域
4 フィラーモデル
4a〜4d フィラーモデルを構成する要素
6 界面モデル
6a〜6d 界面モデルを構成する要素
7 マトリックスモデル
7a〜7d マトリックスモデルを構成する要素
10 シミュレーションモデル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス中にフィラーが分散配合されたフィラー配合材料のシミュレーションモデルをコンピュータを用いて生成するための方法であって、
シミュレーションモデルの形成空間を、前記フィラーの領域とフィラー以外の領域とに区分し、これらの境界を定めるステップ、
前記フィラーの領域を有限個の要素に分割してフィラーモデルを設定するステップ、
前記フィラー以外の領域を有限個の要素に分割するステップ、
前記フィラー以外の領域の要素のうち、少なくとも前記フィラーモデルに接触している要素を界面モデルとして設定するステップ、及び
前記フィラー以外の領域の要素のうち、前記界面モデルの外側の要素をマトリックスモデルとして設定するステップを含むことを特徴とするフィラー配合材料のシミュレーションモデル生成方法。
【請求項2】
前記界面モデルを設定するステップは、前記フィラーモデルに接触している要素、及び、その外側に接触している要素を界面モデルとして設定する請求項1記載のフィラー配合材料のシミュレーションモデル生成方法。
【請求項3】
前記界面モデルは、前記マトリックスモデルと異なる物性が定義される請求項1又は2記載のフィラー配合材料のシミュレーションモデル生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図10】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−89124(P2013−89124A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230956(P2011−230956)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】