フィリップサイト型ゼオライト膜及びその製造方法
【課題】アルミナなどの多孔質基材上に製膜した、フィリップサイト(PHI)ゼオライト膜、その製造方法及びその用途を提供する。
【解決手段】支持体基材上に製膜されたゼオライト膜において、その構造が支持体上に形成されたフィリップサイト(PHI)膜であり、高親水性及び高耐酸性の特性を有することを特徴とするゼオライト膜、その製造方法及び分離膜等の用途。
【効果】従来にはなかった、フィリップサイト膜が合成可能であり、気体及び液体の分離濃縮のみならず、同時に触媒反応を行えるメンブレンリアクターや触媒膜として、工業的にも好適に使用可能なPHI膜を合成し、提供することができる。
【解決手段】支持体基材上に製膜されたゼオライト膜において、その構造が支持体上に形成されたフィリップサイト(PHI)膜であり、高親水性及び高耐酸性の特性を有することを特徴とするゼオライト膜、その製造方法及び分離膜等の用途。
【効果】従来にはなかった、フィリップサイト膜が合成可能であり、気体及び液体の分離濃縮のみならず、同時に触媒反応を行えるメンブレンリアクターや触媒膜として、工業的にも好適に使用可能なPHI膜を合成し、提供することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト膜に関するものであり、更に詳しくは、そのゼオライト膜が支持体上に製膜されたフィリップサイト(Phillipsite、PHI:英文字3文字で表記)膜であり、高親水性及び高耐酸性の特性を有することを特徴とするフィリップサイト型ゼオライト膜、その合成方法及び分離膜等の用途に関するものである。本発明は、特に、耐酸性が要求される系で好適に使用することが可能な新規PHI膜に関する新技術・新製品を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは、規則的に配列したミクロ孔を有し、一般に、耐熱性が高く、化学的にも安定なものが数多く得られることから、様々な分野で利用されている。このゼオライトは、その骨格構造が、Siの一部がAlに置換したアルミノシリケートであり、分子オーダー(3−10Å程度)の細孔を有し、立体選択的な吸着作用を持つことより、モレキュラーシーブ(分子ふるい)としての機能を有する。数十種類の天然に産出するゼオライトの他に、これまでに、150種類以上のゼオライトが合成されており、固体酸触媒、分離吸着剤、及びイオン交換剤等の分野で幅広く用いられている。
【0003】
このゼオライトは、可塑性に乏しいため、膜化する場合、ほとんどの場合は水熱合成法により、基板上にゼオライト膜を合成している。すなわち、大量の水とアルミニウム源、シリカ源、アルカリ金属、アミン類などの有機結晶化調整剤を適宜目的の生成物のゼオライト組成になるように調合し、オートクレーブ等の圧力容器にそれらを封じ込めて、アルミナやムライトなどの多孔質基板やチューブを共存させて加熱することにより、それらの基板上にゼオライト膜を合成している。
【0004】
これまでに、例えば、MFI、MEL、LTA、ANA、CHA、FAU、SOD、MOR、ERI、BEA、LTL、DDRといったゼオライト膜が合成されており、それぞれのゼオライトの性質(例えば、細孔径・親和性)から、分離対象を適宜選択している。また、先行文献には、ゼオライト種結晶を塗布した後、更に、水熱合成することにより欠陥のないゼオライト膜を合成する方法が開示されており(特許文献1)、また、これらの手法で合成されたゼオライト膜は、気体又は液体混合物からの分離・濃縮などに利用されることが開示されている(特許文献2)。
【0005】
近年、ゼオライト膜の合成技術の向上により、蒸留法に代る分離法として実用化された例として、A型ゼオライトの親水性を利用したアルコール水溶液からの水選択透過による、アルコールの濃縮方法などがある(特許文献3)。このA型ゼオライトは、耐酸性が、他の高シリカ型ゼオライトと比較して劣るため(酸と接触するとその構造が破壊される)、酸性の混合物と水の分離には使用することが困難であるという課題があった。そこで、T型ゼオライト(特許文献4)、モルデナイトやシリカライトなどの高シリカ型ゼオライト膜による分離・濃縮が提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−159518号公報
【特許文献2】特開2003−144871号公報
【特許文献3】特許第3431973号明細書
【特許文献4】特開2000−042387号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況下にあって、本発明者らは、これまでに報告されていないPHI(フィリップサイト:酸素8員環構造を有し、3.8×3.8Å:[100], 3.0×4.3Å[010], 3.3×3.2Å[001]の細孔径)膜に着目し、PHI膜を開発すべく、鋭意検討を行った結果、基材上にPHI膜を製膜することに成功し、本発明を完成するに至った。本発明は、従来、合成された例がない、高耐酸性を有する親水性PHIゼオライト膜を合成し、提供することを目的とするものである。
【0008】
また、本発明は、PHIゼオライト膜を合成するにあたり、アルミナなどの多孔質チューブ管や平板の内側と外側、あるいは上下に製膜するゼオライトの種類を任意に変えることにより、親和性及び構造が異なるゼオライト膜を合成し、提供することを目的とするものである。更に、本発明は、気体又は液体混合物からの分離・濃縮と同時に、反応を行える触媒膜として使用できるゼオライト膜及びその合成法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、支持体基材上に製膜されたゼオライト膜において、その構造が支持体上に形成されたフィリップサイト(PHI)膜であり、高親水性及び高耐酸性の特性を有することを特徴とするゼオライト膜、である。本ゼオライト膜は、(1)基材が、金属及び/又は金属酸化物基材であること、(2)基材が、アルミナ、ムライト、ジルコニア、又はSUSの多孔質基材であること、(3)PHI膜が、空気を透過しない非透過性を有すること、を好ましい態様としている。また、本発明は、上記の高親水性及び高耐酸性ゼオライト膜から成ることを特徴とする分離膜、である。本分離膜は、脱水用親水性ゼオライト膜であること、を好ましい態様としている。また、本発明は、上記の高親水性及び高耐酸性ゼオライト膜から成ることを特徴とする分離と反応を同時に行うことができるメンブレンリアクター、である。
【0010】
また、本発明は、PHI組成を持つ原料溶液を用いて、水熱合成法によりゼオライトに転換する手法又はアルミノシリケートゲルを水蒸気処理によってゼオライトに転換する手法により、支持体基材上にPHIゼオライト膜を製膜することを特徴とするゼオライト膜の製造方法、である。また、本発明は、PHI組成を持つ原料溶液を用いて作製した、種晶を多孔質支持体基材に塗布した後、水熱合成法によりゼオライトに転換する手法又はアルミノシリケートゲルを水蒸気処理によってゼオライトに転換する手法により、多孔質支持体基材上にPHIゼオライト膜を製膜することを特徴とするゼオライト膜の製造方法、である。本方法は、(1)種晶を二次成長させて連続膜とすること、(2)PHI膜の合成後に、膜の表面処理を行うこと、(3)膜の表面処理を、アルカリ水溶液処理、研磨処理、又は超音波処理により行うことで、膜表面に余分に存在するPHI結晶、非晶質ゲル、及び/又は他の結晶相を取り除くこと、を好ましい態様としている。
【0011】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明者らは、上記の目的に適合するPHIゼオライト膜合成法について鋭意検討した結果、多孔質支持体基材(多孔質支持体又は支持体と記載することがある)に、あらかじめ水熱合成法により合成したPHI結晶を種晶として塗布し、その後、多孔質支持体ごとオートクレーブ中に移し、水熱合成法により多孔質支持体上の種晶を二次成長させることにより比較的簡単にPHI膜を得ることに成功した。すなわち、本発明は、PHI構造を有する膜を多孔質支持体上に製膜したゼオライト膜を提供するものである。
【0012】
次に、本発明の好適な実施の形態について説明する。なお、本発明において、数値範囲の記載は、両端の値のみならず、その範囲の中に含まれる全ての任意の中間の値を含むものである。本発明において、多孔質支持体基材としては、例えば、アルミナ、ムライト、ジルコニア、ステンレススチール及びアルミニウムを代表とする金属あるいは合金製の多孔質支持体基材が例示され、具体的には、例えば、陽極酸化膜多孔質支持体やそれと同等ないし類似の特性を持つ支持体などが例示される。また、その形態としては、好ましくは平均細孔径が0.1〜10ミクロンを有する多孔質であり、例えば、管状、平板状、円盤状又は角板形状などの多孔質支持体があげられるが、これらに制限されるものではなく、任意の多孔質及び形状の支持体を使用することができる。これらの支持体の表面の洗浄方法としては、例えば、水洗い、超音波洗浄などが例示されるが、好ましくは水による1〜10分の超音波洗浄により、支持体表面を洗浄する方法が例示される。
【0013】
本発明においては、水熱合成法により前述の多孔質支持体にゼオライトを製膜する。その際に、PHI(又はフォージャサイトなど)の種晶を多孔質支持体に擦り込んだ後、再度、水熱合成あるいは水蒸気処理により、種晶を二次成長させて強固な連続膜にしたり、あるいは、PHI結晶が支持体表面に配されている膜にする。この水熱合成には、適当な容器、例えば、耐圧容器が使用される。
【0014】
本発明において、PHI膜の合成条件としては、PHI組成を持つ原料溶液を用いる。出発原料として、水及び水酸化カリウム又は水酸化ナトリウム、アルミナ、コロイダルシリカなどを用いて、0.5−3Na2O(又はK2O) : Al2O3 :2−10 SiO2 :20−300 H2O のモル組成(好ましくは、2−2.5Na2O (又はK2O): Al2O3 :4−5SiO2 : 80−100H2O)になるように出発原料を調製する。
【0015】
このアルミナ源としては、市販の活性アルミナやベーマイト、塩化アルミニウム、アルミン酸ナトリウムなど適当なアルミナ原料であれば適宜使用可能である。シリカ源としては、コロイダルシリカや水ガラス、市販粉末シリカ、ヒュームドシリカ、アルコキシドなど適当なシリカ原料であれば適宜使用可能である。アルカリ源としては、KOH、NaOHなどが使用できる。この出発原料を、オートクレーブなどの圧力容器内に移し、80〜200℃で3時間以上、好ましくは100〜120℃では5〜7日間、150〜200℃では4〜12時間、水熱合成することによりPHI結晶を得ることができる。
【0016】
本発明では、前述のように、多孔質支持基材にPHI結晶を種晶として塗布するが、ここで、塗布とは、擦り込み及び/又は水に分散させたものをディップコートなどにより外表面に塗布すること及びそれらと同等の方法を意味する。その後、2−2.5K2O (又はNa2O):Al2O3: 2−4SiO2 : 80−100H2Oのモル組成に調整した溶液にて、150〜200℃で3−20時間水熱合成処理を行うことで種晶を二次成長させて膜厚2〜100μm好ましくは膜厚5〜50μm程度の連続膜とすることができる。
【0017】
PHIは、その骨格構造から、酸素8員環を有し(3.8×3.8Å:[100], 3.0×4.3Å[010], 3.3×3.2Å[001]:Atlas of Zeolite Framework Types, IZA,Ch.Baerlocher, W.M.Meier, D.H.Olson, ELSEVIER編)、Si/Al比=1.5前後であり、親水性である。本発明のPHI膜は、その3次元細孔構造と比較的小さな細孔径を有することから、低分子ガス、例えば、CO2とCH4の分離に好適に使用することが可能であり、また、PHI膜は、Si/Al比から親水性膜であることから、水/アルコール分離にも応用できるし、耐薬品性もLTAやFAU型ゼオライトに比較して優れていることから、例えば、酢酸濃縮などの分離プロセスへの応用が可能である。本発明のフィリップサイト型ゼオライト膜は、高性能・高選択な液体及び気体分離膜に応用可能であり、特に、耐酸性の脱水膜として使用できる。また、このPHI膜は、分離と反応を同時に行える触媒膜、メンブレンリアクターなどとして利用できる。本発明のPHI膜は、特に、耐酸性が要求される系で好適に使用できる利点を有する。
【0018】
本発明では、PHI膜の合成後に、膜の表面処理を行うことで、膜表面に余分に存在するPHI結晶、非晶質ゲル部分、及び/又は他の結晶相(例えば、チャバサイト、モルデナイト等)を取り除くことが好ましい。この場合、表面処理の手段としては、例えば、NaOH等のアルカリ水溶液による方法、適宜の研磨材又は手段による研磨方法、超音波による方法等が例示されるが、これらに制限されるものではなく、任意の方法及び手段により、膜の表面処理を行うことができる。上記表面処理により、膜の分離性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)現在までに報告されていないPHI膜を多孔質支持体上に合成した高耐酸性の特性を有する親水性PHIゼオライト膜を提供できる。
(2)高耐酸性の特性を有する親水性ゼオライト膜の合成方法を提供できる。
(3)本発明のPHIゼオライト膜は、例えば、耐酸性の脱水膜、分離膜、分離と反応を同時に行えるメンブレンリアクター、及び触媒膜等として利用できる。
(4)これまでに知られていない高耐酸性の特性を有する親水性PHIゼオライト膜を提供できる。
(5)本発明のPHIゼオライト膜は、高い水分離性能を有し、酸性条件下での分離膜として好適に使用することができる。
(6)脱水精製プロセス、蒸留プロセスに、PHIゼオライト膜による分離手段を併用することにより、熱源や設備の省コスト化が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
本実施例では、PHI種晶の合成と二次成長を行った。イオン交換水99.0gにNaOH(和光純薬(株)製)1.53gを加えて、完全に溶解した。更に、この溶液にKOH(和光純薬(株)製)1.90gを加えて、完全に溶解するまで攪拌した。次に、これにアルミン酸ナトリウム(関東化学(株)製)12.6gを加えて、完全に溶解するまで攪拌した。この溶液を、Cataloid SI−30(触媒化成(株)製、コロイダルシリカ、SiO2:30wt%、H2O:70wt%)67.0gに徐々に加えて均一なゲル溶液を得た。
【0022】
このゲル溶液を室温にて約30分攪拌した後、テフロン(登録商標)内筒つきのオートクレーブ(内容積200mL)に移し、100℃で7日間水熱処理した。水熱処理後、オートクレーブ中の生成物を濾過し、イオン交換水にてpHが7程度になるまで洗浄した。生成物を100℃で24時間乾燥した後、粉末X線回折を行ったところ、PHIの回折パターン(Collection of Simulated XRD Powder Patterns for Zeolites, M.M.J.Treacy and J.B.Higgins, IZA編集、ISBN 044507027, ELSEVIER p230,231(2001))と同一であった。
【0023】
次に、このようにして得られたPHI種晶を、乳鉢で1〜2分程度すり潰した後、ムライトチューブ(ニッカトー(株)製、PMチューブ、Al2O3=65%、SiO2=33%、平均細孔径1.8ミクロン、かさ密度1.70g/cc、気孔率44.7%、外径6ミリ、内径3ミリ、長さ80ミリ)外表面に塗布した。塗布後、ムライトチューブをSUS製のオートクレーブ(内容積120cc)内にテフロン(登録商標)製の治具に固定して縦方向に設置した。水ガラス(小宗化学、3号SiO2 28%, Na2O 9〜10%)と塩化アルミニウム6水和物(ナカライ)をアンモニアで共沈、洗浄して調製したSi/Al=2のモル比に調製した含水酸化物をNaOH水溶液に2.5Na2O: Al2O3:4SiO2:80H2O のモル組成となる様に混合して調製した溶液をこのオートクレーブ内に移し、200℃で3時間半温風式オーブン内で静置して水熱処理した。なお、ムライトチューブの外側のみにフィリップサイトを被覆するために、ムライトチューブの両端をテフロン(登録商標)テープで閉じた。
【0024】
種晶を塗布する方法としては、乾式でPHI種晶をキムワイプなどの紙や各種不織布などで擦り込んでもよいし、素手で擦り込んでもよい。また、PHI種晶を水などの溶液に入れた懸濁液を用いてムライトチューブ外表面にDip−coatしてもよい。上記の水熱処理をチューブ固定の向きの上下を変えて二度行った後、オートクレーブを水冷した後、ムライトチューブを取り出し、十分に水洗した。次に、100℃で24時間乾燥した後、60℃で24時間乾燥した。このようにして合成したPHI膜をトールシール(ニラコ(株)製)で片端を封止し、もう一方の側から0.2MPaの圧力で空気を送り込み、ムライトチューブを水の中に浸して、空気によるリーク試験を行ったところ、乾燥後の膜では、空気が透過しなかった。また、水熱処理後にオートクレーブ内の底部にPHI結晶ができていることを確認した。
【実施例2】
【0025】
以下、使用した試薬については、特にことわりがない場合は、実施例1と同じものを使用した。塩化アルミニウム6水和物(ナカライ)水溶液を撹拌しながら、これに水ガラス(小宗化学、3号SiO2 28%, Na2O 9〜10%)を徐々に加え、Si/Al=2のモル比にとなる様に混合した後、撹拌しながらアンモニアを添加して、生じた沈殿物を濾過/洗浄し、含水酸化物を調製した。Si/Al=2のモル比に調製した含水酸化物をNaOH水溶液に2.5Na2O: Al2O3:4SiO2:83H2Oのモル組成となる様に混合して均一なゲル溶液を得た。
【0026】
このゲル溶液を室温にて約30分攪拌した後、テフロン(登録商標)内筒つきのオートクレーブ(内容積200mL)に移し、200℃で4時間水熱処理した。水熱処理後、オートクレーブ中の生成物を濾過し、イオン交換水にてpHが7程度になるまで洗浄した。生成物を60℃で24時間乾燥した後、粉末X線回折を行ったところ、PHIの回折パターン(Collection of Simulated XRD Powder Patterns for Zeolites, M.M.J.Treacy and J.B.Higgins, IZA編集、ISBN 044507027, ELSEVIER p230,231(2001))と同一であった。
【0027】
次に、このようにして得られたPHI種晶を、ムライトチューブに擦り込んだ後、種晶合成に用いたものと同様に調製した溶液にて、実施例1と同様に、3時間半水熱処理を行った。水熱処理後、実施例1と同様に、ムライトチューブを乾燥し、空気が透過しないことを確認した。また、チューブ表面、断面の走査型電子顕微鏡観察によって20〜30μm厚のPHI膜の生成を確認した。
【実施例3】
【0028】
イオン交換水70.0gにアルミン酸ナトリウム(関東化学(株)製)8.6gを加えて完全に溶解するまで攪拌した。次に、イオン交換水20.0gにNaOH(和光純薬(株)製)6gを加えて完全に溶解し、前述のアルミン酸ナトリウム水溶液に添加して均一になるまで攪拌した。次に、この溶液に、Cataloid SI−30 40.0gを徐々に加えて均一なゲル溶液を得た。このゲル溶液を室温にて約30分攪拌した後、テフロン(登録商標)内筒つきのオートクレーブ(内容積200mL)に移し、150℃で6時間水熱処理した。水熱処理後、オートクレーブ中の生成物を濾過し、イオン交換水にてpHが7程度になるまで洗浄した。
【0029】
生成物を60℃で24時間乾燥した後、粉末X線回折を行ったところ、FAUの回折パターン(Collection of Simulated XRD Powder Patterns for Zeolites, M.M.J.Treacy and J.B.Higgins, IZA編集、ISBN 044507027, ELSEVIER p230,231(2001))と同一であった。次に、このようにして得られたFAU種晶を、ムライトチューブに擦り込んだ後、実施例2と同様に、200℃で19時間半水熱処理を行い、実施例2と同様に、PHI膜の生成を確認した。
【実施例4】
【0030】
実施例2と同様にして得られたPHI種結晶をムライトチューブに擦り込んだ後、実施例1と同様に、3時間半、更に、チューブの上下を変えて2時間半、水熱処理を行った。実施例2と同様に、PHI膜の生成を確認した。
【実施例5】
【0031】
実施例3と同様にして得られたFAU種結晶をムライトチューブに擦り込んだ後、実施例1と同様に、3時間半水熱処理を行った。実施例2と同様に、PHI膜の生成を確認した。また、前述の方法以外に、種晶として市販のPHI/FAU(フォージャサイト)ゼオライトを使用できる。これらの種晶を前記出発原料中に存在させることにより、合成時間を短縮することができることを確認した。
【実施例6】
【0032】
実施例4で得られたPHI膜の浸透気化法(PV法)による分離特性を調べた。供給液にはエタノール90wt%の水溶液を用いて、75℃で測定した結果、透過流束(Q)= 1.12kg/m2・h、分離係数α(H2O/EtOH)=631であった。このことから、本発明で得られたPHI膜は水選択透過膜であることが明らかとなった。更に、耐薬品性を調べる目的で、PHI種晶、FAU(フォージャサイト、Y型及びX型)を0.5g採り、0.1Nの塩酸水溶液で85℃・1時間及び10wt%のNaOH水溶液で室温・7日間処理した後、水洗・乾燥した各種ゼオライト試料の粉末X線回折を測定したところ、PHIは、他のゼオライトに比較してピーク強度の低下やピークブロードが観察されなかったことから、耐薬品性に優れていることがわかった。同様にして、PHI膜が高耐薬品性を有していることを確認した。
【実施例7】
【0033】
PHIゼオライト膜を用いて、浸透気化法により水/エタノール分離能の評価を行った。
(1)実験方法
膜作製については、ニッカトー製6mmφ×3〜5cmのムライトチューブに予め合成した、例えば、種結晶を塗布し、二次成長させて、ゼオライト膜を作製した。PV測定については、40℃一定でエタノール3wt%溶液を供給液として攪拌し、製膜したチューブを垂直に浸液して行った。分離係数(α=H2O/EtOH)は、透過側の蒸気圧の安定化後、数時間にわたってトラップされた透過液の総量をGC−TCDによって分析した値から計算した。
【0034】
(2)結果
上記条件で作製したゼオライト膜の膜厚は、20〜50μmであり、膜の粒子サイズは1〜5μm径前後であり、膜表面のEDX分析によると、Si/Al比は2.5〜3.0の範囲であった。PV測定に先立って、ゼオライト粉末の平衡状態での水吸着量を調べた結果、I型(Langmuir型)の吸着等温線が得られた。膜の水/エタノール分離係数(α値)及びFlux(Q)のPV測定結果(Q値)は、6.6及び0.01であった。測定時の透過側の蒸気圧は10〜15PaでQ値に対応していた。
【実施例8】
【0035】
(PHI種晶の合成方法)
PHI種晶の合成は、以下のようにして行った。イオン交換水99.0gにNaOH(和光純薬(株)製)1.53gを加えて、完全に溶解した。更に、この溶液にKOH(和光純薬(株)製)1.90gを加えて、完全に溶解するまで攪拌した。次に、これにアルミン酸ナトリウム(関東化学(株)製)12.6gを加えて、完全に溶解するまで攪拌した。この溶液を、Cataloid SI−30(触媒化成(株)製、コロイダルシリカ、SiO2:30wt%、H2O:70wt%)67.0gに徐々に加えて均一なゲル溶液を得た。
【0036】
上記ゲル溶液を室温にて約30分攪拌した後、テフロン(登録商標)内筒つきのオートクレーブ(内容積200mL)に移し、100℃で7日間水熱処理した。水熱処理後、オートクレーブ中の生成物を濾過し、イオン交換水にてpHが7程度になるまで洗浄した。生成物を100℃で24時間乾燥した後、粉末X線回折を行ったところ、PHIの回折パターン(Collection of Simulated XRD Powder Patterns for Zeolites, M.M.J.Treacy and J.B.Higgins, IZA編集、ISBN 044507027, ELSEVIER p230,231(2001))と同一であった。
【0037】
(PHI種晶の固定方法及び二次成長方法)
次に、このようにして得られたPHI種晶を、乳鉢で1〜2分程度すり潰した後、ムライトチューブ(ニッカトー(株)製、PMチューブ、Al2O3=65%、SiO2=33%、平均細孔径1.8ミクロン、かさ密度1.70g/cc、気孔率44.7%、外径6ミリ、内径3ミリ、長さ80ミリ)外表面に塗布した。種晶を塗布する方法としては、乾式でPHI種晶をキムワイプなどの紙や各種不織布などで擦り込んでもよいし、素手で擦り込んでもよい。また、PHI種晶を水などの溶液に入れた懸濁液を用いてムライトチューブ外表面にDip−coatしてもよい。塗布後、ムライトチューブをSUS製のオートクレーブ(内容積120cc)内にテフロン(登録商標)製の治具に固定して縦方向に設置した。
【0038】
アルミン酸ナトリウム(NaAlO2:ナカライテスク、特級)9.0gをイオン交換水50.0gに溶解し、約20分攪拌して、完全に溶解させた。この溶液に、NaOH(和光純薬、特級)1.0gをイオン交換水10.0gに予め溶解させておいたNaOH水溶液を加えた。更に、イオン交換水10.0gを加えた後、コロイダルシリカ(Cataloid−SI−30:触媒化成(株)製)40.0gを少量づつ滴加し、約20分攪拌することにより、均一なゲル溶液得た。
【0039】
このゲル溶液をオートクレーブ内に移し、150℃で6時間温風式オーブン内で静置して水熱処理した。なお、ムライトチューブの外側のみにPHIを被覆するために、ムライトチューブの両端をテフロン(登録商標)テープで封止した。オートクレーブを水冷した後、ムライトチューブを取り出し、イオン交換水でムライトチューブを洗浄した。次に、これを空気中で24時間乾燥した。このようにして合成したPHI膜をトールシール(ニラコ(株)製)で片端を封止し、もう一方の側から0.2MPaの圧力で空気を送り込み、ムライトチューブを水の中に浸して、空気によるリーク試験を行ったところ、乾燥後の膜では、空気が透過しなかった。また、PHI種晶を二次成長させたムライトチューブ外表面のX線回折測定(XRD)を行ったところ、ムライトの回折パターンとPHIの回折パターンが得られたことから、外表面はPHI膜のみで覆われていることがわかった。また、チューブ表面、断面の走査型電子顕微鏡(SEM)観察の結果、膜厚は約10−12μmであった。図3に、6時間二次成長させたPHI膜表面のSEM像を示す。
【0040】
(浸透気化法による分離性能の評価)
次に、このようにして得られたPHI膜の浸透気化法による分離特性を調べた。供給液にはエタノール90wt%の水溶液を用いて、40℃で測定を行った。膜を装置に装着後、浸透気化分離を開始してから1時間半後から透過液の回収を始めた。その後、2時間までの透過流束をQ1、分離係数をα1とし、4時間までの透過流束をQ2、分離係数をα2とした。
【0041】
なお、透過流束(Q)は、膜面積(m2)、1時間当たり(h)の透過量(kg):kg/m2・hとし、分離係数(α)は、供給液に対する透過液の重量%濃度の比とした(H2O/EtOH)。その結果、Q1=0.54kg/m2・h、α1=455、Q2=0.47kg/m2・h、α2=630であった。
【実施例9】
【0042】
(二次成長時間の影響)
二次成長時間を150℃で8時間とした以外は、PHI種晶の合成方法、固定方法及び二次成長方法は、実施例8と全く同様に行った。水熱合成終了後、オートクレーブを水冷した後、ムライトチューブを取り出し、イオン交換水でムライトチューブを洗浄した。その後、空気中で24時間乾燥した。この膜も、外表面がPHI結晶のみで覆われていることをXRDパターンにより確認した。SEM観察の結果から、膜厚は約8−10μmであった。表面には、ゲル状の生成物も確認された。
【0043】
図4に、8時間二次成長させたPHI膜表面のSEM像を示す。実施例8と同様に、この二次成長時間を150℃で8時間としたPHI膜の浸透気化法による分離性能の評価を行った結果、Q1=0.42kg/m2・h、α1=20、Q2=0.46kg/m2・h、α2=18であった。実施例8に比較して、Q及びαが低かったのは、ゲル状の生成物が膜表面に生成したためと考えられる。
【実施例10】
【0044】
二次成長時間を150℃で12時間とした以外は、PHI種晶の合成方法、固定方法及び二次成長方法は、実施例8と全く同様に行った。水熱合成終了後、オートクレーブを水冷した後、ムライトチューブを取り出し、イオン交換水でムライトチューブを洗浄した。その後、空気中で24時間乾燥した。この膜も、外表面がPHI結晶のみで覆われていることをXRDパターンにより確認した。SEM観察の結果から、膜厚は約15−18μmであった。表面は、ゲル状の生成物はほとんどなく、球状の結晶が集合した形態をしていた。
【0045】
図5に、12時間二次成長させたPHI膜表面のSEM像を示す。実施例8と同様に、この二次成長時間を150℃で12時間としたPHI膜の浸透気化法による分離性能の評価を行った結果、Q1=0.28kg/m2・h、α1=750、Q2=0.30kg/m2・h、α2=1060であった。
【実施例11】
【0046】
二次成長時間を150℃で24時間とした以外は、PHI種晶の合成方法、固定方法及び二次成長方法は、実施例8と全く同様に行った。水熱合成終了後、オートクレーブを水冷した後、ムライトチューブを取り出し、イオン交換水でムライトチューブを洗浄した。その後、空気中で24時間乾燥した。この膜も、外表面がPHI結晶のみで覆われていることをXRDパターンにより確認した。SEM観察の結果から、膜厚は約35−40μmであった。表面は、ゲル状の生成物はほとんどなく、球状の結晶が緻密に集合した形態をしていた。
【0047】
図6に、24時間二次成長させたPHI膜表面のSEM像を示す。実施例8と同様に、この二次成長時間を150℃で24時間としたPHI膜の浸透気化法による分離性能の評価を行った結果、Q1=0.24kg/m2・h、α1=4500以上、Q2=0.24kg/m2・h、α2=4500以上であった。
【実施例12】
【0048】
(膜洗浄方法及び水浸漬の影響)
実施例8の手法で、PHI膜を合成した。ただし、150℃で6時間の水熱合成終了後、オートクレーブを水冷した後、ムライトチューブを取り出し、イオン交換水でムライトチューブを洗浄する際、すすぎと浸漬を3回繰り返した。膜の外表面はPHI結晶のみで覆われていることをXRDパターンにより確認した。SEM観察の結果から、膜厚は約8−10μmであった。表面は、ゲル状の生成物はほとんどなく、球状の結晶が集合した形態をしていた。
【0049】
更に、浸透気化法による分離性能の評価を行う前に、イオン交換水に約1時間浸漬してから装置に装着した。その後、実施例8と同様に、このPHI膜の浸透気化法による分離性能の評価を行った結果、Q1=0.29kg/m2・h、α1=4500以上、Q2=0.35kg/m2・h、α2=4500以上であった。実施例8と比較すると、Qは減少するものの、αは格段に改善されることがわかった。
【実施例13】
【0050】
実施例9の手法で、PHI膜を合成した。ただし、150℃で8時間の水熱合成終了後、オートクレーブを水冷した後、ムライトチューブを取り出しイオン交換水でムライトチューブを洗浄する際、すすぎと浸漬を3回繰り返した。膜の外表面はPHI結晶のみで覆われていることをXRDパターンにより確認した。SEM観察の結果から、膜厚は約10−12μmであった。表面は、ゲル状の生成物はほとんどなく、球状の結晶が集合した形態をしていた。
【0051】
更に、浸透気化法による分離性能の評価を行う前に、イオン交換水に約1時間浸漬してから装置に装着した。その後、実施例9と同様に、このPHI膜の浸透気化法による分離性能の評価を行った結果、Q1=0.33kg/m2・h、α1=4500以上、Q2=0.39kg/m2・h、α2=4500以上であった。実施例9と比較すると、Qは減少するものの、αは格段に改善されることがわかった。
【実施例14】
【0052】
実施例10の手法で、PHI膜を合成した。ただし、150℃で12時間の水熱合成終了後、オートクレーブを水冷した後、ムライトチューブを取り出し、イオン交換水でムライトチューブを洗浄する際、すすぎと浸漬を3回繰り返した。膜の外表面はPHI結晶のみで覆われていることをXRDパターンにより確認した。SEM観察の結果から、膜厚は約15−18μmであった。表面は、ゲル状の生成物はほとんどなく、球状の結晶が集合した形態をしていた。
【0053】
更に、浸透気化法による分離性能の評価を行う前に、イオン交換水に約1時間浸漬してから装置に装着した。その後、実施例10と同様に、このPHI膜の浸透気化法による分離性能の評価を行った結果、Q1=0.38kg/m2・h、α1=4500以上、Q2=0.32kg/m2・h、α2=4500以上であった。実施例10と比較すると、Q、αともに格段に改善されることがわかった。
【実施例15】
【0054】
実施例11の手法で、PHI膜を合成した。ただし、150℃で24時間の水熱合成終了後、オートクレーブを水冷した後、ムライトチューブを取り出し、イオン交換水でムライトチューブを洗浄する際、すすぎと浸漬を3回繰り返した。膜の外表面はPHI結晶のみで覆われていることをXRDパターンにより確認した。SEM観察の結果から、膜厚は約35−40μmであった。表面は、ゲル状の生成物はほとんどなく、球状の結晶が緻密に集合した形態をしていた。
【0055】
更に、浸透気化法による分離性能の評価を行う前に、イオン交換水に約1時間浸漬してから装置に装着した。その後、実施例11と同様に、このPHI膜の浸透気化法による分離性能の評価を行った結果、Q1=0.27kg/m2・h、α1=4500以上、Q2=0.32kg/m2・h、α2=4500以上であった。実施例11と比較すると、Qが格段に改善されることがわかった。
【0056】
このように、PHI膜合成後の洗浄方法及び浸透気化分離前の膜表面の処理の方法を変えるだけで、その分離性能が大きく変化することが明らかとなった。このことは、親水性膜であるPHI膜の場合、合成時間の短い場合(実施例8及び9、10)は、膜を構成するPHI結晶以外に、非晶質ゲル部分や他の結晶相(PHIの場合、チャバサイトやモルデナイトが混晶しやすい)が混入するため、より高性能な分離性能を得るためには、これらの影響を取り除く必要があることを意味している。
【0057】
なお、上記実施例で、XRDパターンにはこれらの混晶が見られなかったのは、その重量が5%以下であったためと思われる(XRDには、主相であるPHIのみが観測された)。事実、実施例8及び9では、膜表面のSEM観察からは、PHI結晶以外に、非晶質ゲルが観測された。
【実施例16】
【0058】
実施例11の手法で、PHI膜を合成した。ただし、150℃で24時間の水熱合成終了後、オートクレーブを水冷した後、ムライトチューブを取り出し、イオン交換水でムライトチューブを洗浄する際、すすぎのみを1度だけ行い、イオン交換水への浸漬は行わなかった。膜の外表面はPHI結晶のみで覆われていることをXRDパターンにより確認した。SEM観察の結果から、膜厚は約35−40μmであった。表面は、ゲル状の生成物はほとんどなく、球状の結晶が緻密に集合した形態をしていた。
【0059】
図7に、洗浄なしのPHI膜表面のSEM像を示す。浸透気化法による分離性能の評価をする際は、60℃で24時間乾燥を行った。その結果、Q1=0.22kg/m2・h、α1=290、Q2=0.17kg/m2・h、α2=350であった。実施例4に比較して、Q及びαが低下した。
【実施例17】
【0060】
(NaOH水溶液処理)
実施例11の手法で、PHI膜を合成した。すなわち、二次成長条件を150℃で24時間とした。その後、膜を0.1NのNaOH水溶液に3時間浸漬し、最後はイオン交換水に24時間浸漬した。膜の外表面はPHI結晶のみで覆われていることをXRDパターンにより確認した。SEM観察の結果から、膜厚は約35−40μmであった。表面は、ゲル状の生成物はほとんどなく、実施例11の膜とほぼ同様の球状の結晶が緻密に集合した形態をしていた。また、膜を処理したNaOH水溶液中には、膜表面から剥がれ落ちたと思われる固形物があった。この固形物は、粉末XRD解析の結果、非晶質ハローピークを含んだPHIであることがわかった。このように、NaOH水溶液処理によって、膜表面のPHI及び支持体であるムライトが剥離・溶解することがわかった。
【0061】
図8に、0.1N−NaOH水溶液処理後のPHI膜表面のSEM像を示す。実施例8と同様に、このNaOH水溶液処理したPHI膜の浸透気化法による分離性能の評価を行った結果、Q1=0.28kg/m2・h、α1=24、Q2=0.30kg/m2・h、α2=40であった。実施例4と比較すると、αが2桁低下した。
【実施例18】
【0062】
(歯ブラシによる膜表面研磨処理)
実施例11の手法で、PHI膜を合成した。すなわち、二次成長条件を150℃で24時間とした。その後、200mLのイオン交換水中で市販の歯ブラシを用いてPHI膜表面を磨いた。膜の外表面はPHI結晶のみで覆われていることをXRDパターンにより確認した。SEM観察の結果から、膜厚は約25―30μmであり、実施例11の膜厚に比べるとやや薄くなっていた。表面は、ゲル状の生成物はほとんどなく、実施例11の膜で観察された球状集合体が平滑になっていた。また、膜を処理したイオン交換水中には、膜表面から剥がれ落ちたと思われる固形物があった。この固形物は、粉末XRD解析の結果、PHI結晶であることがわかった。このように、歯ブラシによる膜表面研磨処理によって、膜表面のPHI膜が一部剥離することがわかった。
【0063】
図9に、歯ブラシ研磨後のPHI膜表面のSEM像を示す。実施例8と同様に、この歯ブラシによる膜表面研磨処理したPHI膜の浸透気化法による分離性能の評価を行った結果、Q1=0.24kg/m2・h、α1=3860、Q2=0.19kg/m2・h、α2=3360であった。実施例11と比較しても、Q及びαは、遜色のない良好な結果が得られた。このように、膜表面に余分に存在するPHI結晶を取り除いても、分離性能にはほとんど影響を及ぼさないことがわかった。
【実施例19】
【0064】
(サンドペーパーによる膜表面研磨処理)
実施例11の手法で、PHI膜を合成した。すなわち、二次成長条件を150℃で24時間とした。その後、膜表面のPHI結晶を更に強制的に剥離することを目的として、市販の1000番のサンドペーパーを用いてPHI膜表面を磨いた。サンドペーパーを膜の外径に沿って丸め、上下30往復させることで、外表面のPHI結晶を剥離させた。SEM観察の結果から、膜表面はPHI特有の球状集合体の結晶が削ぎ落とされた様子が観察された。
【0065】
図10に、サンドペーパー研磨後のPHI膜表面のSEM像を示す。実施例8と同様に、このサンドペーパーによる膜表面研磨処理したPHI膜の浸透気化法による分離性能の評価を行った結果、Q1=0.22kg/m2・h、α1=1450、Q2=0.22kg/m2・h、α2=3000であった。実施例11と比較しても、Q及びαは遜色のない良好な結果が得られた。このように、実施例18と同様に膜表面に余分に存在するPHI結晶を取り除いても、分離性能にはほとんど影響を及ぼさないことがわかった。
【実施例20】
【0066】
(超音波処理による膜表面処理)
実施例11の手法で、PHI膜を合成した。すなわち、二次成長条件を150℃で24時間とした。その後、ビーカーに200mLのイオン交換水を採り、ビーカー内にこのPHI膜を浸し、市販の500Wの超音波洗浄機(アズワン、US−4型)を用いて、1時間超音波処理を施した。SEM観察の結果から、膜表面はPHI特有の球状集合体の結晶が削ぎ落とされ、平滑な表面になっている様子が観察された。また、膜表面には、巨視的なひび割れが観察された。
【0067】
図11に、超音波処理後のPHI膜表面のSEM像を示す。実施例8と同様に、この超音波処理を行ったPHI膜の浸透気化法による分離性能の評価を行った結果、Q1=0.28kg/m2・h、α1=4500以上、Q2=0.32kg/m2・h、α2=4500以上であった。実施例11と比較しても、Q及びαは、遜色のない良好な結果が得られた。このように、実施例19と同様に、膜表面に余分に存在するPHI結晶を取り除いても、分離性能にはほとんど影響を及ぼさないことがわかった。そればかりか、膜表面には、巨視的なひび割れが観察されたのにも係らず、分離性能が出現した。
【0068】
上記実施例17から20の結果から、PHI種晶をムライトチューブ表面に二次成長させて分離膜として利用するにあたり、膜の表面処理を行うことが、より高い分離能を出現させることになることがわかった。実施例8から20までを表1にまとめて示す。
【0069】
【表1】
【実施例21】
【0070】
(膜の経時変化)
実施例12から15において、浸透気化法による分離性能評価の際の水浸漬の影響について、水浸漬後、ただちに分離性能評価を始めることで、αが向上することを示したが、実施例8の手法で合成したPHI膜を用いて、60時間までの経時変化を測定した。その結果、Qは、この時間内で0.5kg/m2・h前後で安定していたが、αが、初期の450(α1)から40時間後には1500まで上昇した。その後、60時間まで、αは1500となり、安定することがわかった。 図12に、PHI膜の浸透気化分離における経時変化を示す。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上詳述したように、本発明は、フィリップサイト型ゼオライト膜、その製造方法及びその分離膜等の用途に係るものであり、本発明により、現在までに報告されていないPHI膜を多孔質支持体に合成できることが明らかになった。本発明によれば、耐酸性、耐薬品性に優れた親水性ゼオライト膜が合成可能であり、例えば、工業的な液体及びガス分離プロセス等に採用することが可能なゼオライト膜を、簡便に、かつ短期間で製造し、提供することが可能である。また、本発明のPHI膜は、石油化学工業において、分離と触媒作用を持ち合わせたメンブレンリアクターとしても応用可能である。本発明は、特に、耐酸性が要求される系における分離膜等として好適に使用できるPHI膜に関する新技術・新製品を提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】PHI型ゼオライト膜の電子顕微鏡写真(a:PHI被覆ムライトチューブ断面、b:PHI膜表面)を示す。
【図2】PHI型及びFAU型ゼオライトの耐酸性比較の結果を示す。
【図3】6時間二次成長させたPHI膜表面のSEM像を示す。
【図4】8時間二次成長させたPHI膜表面のSEM像を示す。
【図5】12時間二次成長させたPHI膜表面のSEM像を示す。
【図6】24時間二次成長させたPHI膜表面のSEM像を示す。
【図7】洗浄なしのPHI膜表面のSEM像を示す。
【図8】0.1N−NaOH水溶液処理後のPHI膜表面のSEM像を示す。
【図9】歯ブラシ研磨後のPHI膜表面のSEM像を示す。
【図10】サンドペーパー研磨後のPHI膜表面のSEM像を示す。
【図11】超音波処理後のPHI膜表面のSEM像を示す。
【図12】PHI膜の浸透気化分離における経時変化を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト膜に関するものであり、更に詳しくは、そのゼオライト膜が支持体上に製膜されたフィリップサイト(Phillipsite、PHI:英文字3文字で表記)膜であり、高親水性及び高耐酸性の特性を有することを特徴とするフィリップサイト型ゼオライト膜、その合成方法及び分離膜等の用途に関するものである。本発明は、特に、耐酸性が要求される系で好適に使用することが可能な新規PHI膜に関する新技術・新製品を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは、規則的に配列したミクロ孔を有し、一般に、耐熱性が高く、化学的にも安定なものが数多く得られることから、様々な分野で利用されている。このゼオライトは、その骨格構造が、Siの一部がAlに置換したアルミノシリケートであり、分子オーダー(3−10Å程度)の細孔を有し、立体選択的な吸着作用を持つことより、モレキュラーシーブ(分子ふるい)としての機能を有する。数十種類の天然に産出するゼオライトの他に、これまでに、150種類以上のゼオライトが合成されており、固体酸触媒、分離吸着剤、及びイオン交換剤等の分野で幅広く用いられている。
【0003】
このゼオライトは、可塑性に乏しいため、膜化する場合、ほとんどの場合は水熱合成法により、基板上にゼオライト膜を合成している。すなわち、大量の水とアルミニウム源、シリカ源、アルカリ金属、アミン類などの有機結晶化調整剤を適宜目的の生成物のゼオライト組成になるように調合し、オートクレーブ等の圧力容器にそれらを封じ込めて、アルミナやムライトなどの多孔質基板やチューブを共存させて加熱することにより、それらの基板上にゼオライト膜を合成している。
【0004】
これまでに、例えば、MFI、MEL、LTA、ANA、CHA、FAU、SOD、MOR、ERI、BEA、LTL、DDRといったゼオライト膜が合成されており、それぞれのゼオライトの性質(例えば、細孔径・親和性)から、分離対象を適宜選択している。また、先行文献には、ゼオライト種結晶を塗布した後、更に、水熱合成することにより欠陥のないゼオライト膜を合成する方法が開示されており(特許文献1)、また、これらの手法で合成されたゼオライト膜は、気体又は液体混合物からの分離・濃縮などに利用されることが開示されている(特許文献2)。
【0005】
近年、ゼオライト膜の合成技術の向上により、蒸留法に代る分離法として実用化された例として、A型ゼオライトの親水性を利用したアルコール水溶液からの水選択透過による、アルコールの濃縮方法などがある(特許文献3)。このA型ゼオライトは、耐酸性が、他の高シリカ型ゼオライトと比較して劣るため(酸と接触するとその構造が破壊される)、酸性の混合物と水の分離には使用することが困難であるという課題があった。そこで、T型ゼオライト(特許文献4)、モルデナイトやシリカライトなどの高シリカ型ゼオライト膜による分離・濃縮が提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−159518号公報
【特許文献2】特開2003−144871号公報
【特許文献3】特許第3431973号明細書
【特許文献4】特開2000−042387号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況下にあって、本発明者らは、これまでに報告されていないPHI(フィリップサイト:酸素8員環構造を有し、3.8×3.8Å:[100], 3.0×4.3Å[010], 3.3×3.2Å[001]の細孔径)膜に着目し、PHI膜を開発すべく、鋭意検討を行った結果、基材上にPHI膜を製膜することに成功し、本発明を完成するに至った。本発明は、従来、合成された例がない、高耐酸性を有する親水性PHIゼオライト膜を合成し、提供することを目的とするものである。
【0008】
また、本発明は、PHIゼオライト膜を合成するにあたり、アルミナなどの多孔質チューブ管や平板の内側と外側、あるいは上下に製膜するゼオライトの種類を任意に変えることにより、親和性及び構造が異なるゼオライト膜を合成し、提供することを目的とするものである。更に、本発明は、気体又は液体混合物からの分離・濃縮と同時に、反応を行える触媒膜として使用できるゼオライト膜及びその合成法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、支持体基材上に製膜されたゼオライト膜において、その構造が支持体上に形成されたフィリップサイト(PHI)膜であり、高親水性及び高耐酸性の特性を有することを特徴とするゼオライト膜、である。本ゼオライト膜は、(1)基材が、金属及び/又は金属酸化物基材であること、(2)基材が、アルミナ、ムライト、ジルコニア、又はSUSの多孔質基材であること、(3)PHI膜が、空気を透過しない非透過性を有すること、を好ましい態様としている。また、本発明は、上記の高親水性及び高耐酸性ゼオライト膜から成ることを特徴とする分離膜、である。本分離膜は、脱水用親水性ゼオライト膜であること、を好ましい態様としている。また、本発明は、上記の高親水性及び高耐酸性ゼオライト膜から成ることを特徴とする分離と反応を同時に行うことができるメンブレンリアクター、である。
【0010】
また、本発明は、PHI組成を持つ原料溶液を用いて、水熱合成法によりゼオライトに転換する手法又はアルミノシリケートゲルを水蒸気処理によってゼオライトに転換する手法により、支持体基材上にPHIゼオライト膜を製膜することを特徴とするゼオライト膜の製造方法、である。また、本発明は、PHI組成を持つ原料溶液を用いて作製した、種晶を多孔質支持体基材に塗布した後、水熱合成法によりゼオライトに転換する手法又はアルミノシリケートゲルを水蒸気処理によってゼオライトに転換する手法により、多孔質支持体基材上にPHIゼオライト膜を製膜することを特徴とするゼオライト膜の製造方法、である。本方法は、(1)種晶を二次成長させて連続膜とすること、(2)PHI膜の合成後に、膜の表面処理を行うこと、(3)膜の表面処理を、アルカリ水溶液処理、研磨処理、又は超音波処理により行うことで、膜表面に余分に存在するPHI結晶、非晶質ゲル、及び/又は他の結晶相を取り除くこと、を好ましい態様としている。
【0011】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明者らは、上記の目的に適合するPHIゼオライト膜合成法について鋭意検討した結果、多孔質支持体基材(多孔質支持体又は支持体と記載することがある)に、あらかじめ水熱合成法により合成したPHI結晶を種晶として塗布し、その後、多孔質支持体ごとオートクレーブ中に移し、水熱合成法により多孔質支持体上の種晶を二次成長させることにより比較的簡単にPHI膜を得ることに成功した。すなわち、本発明は、PHI構造を有する膜を多孔質支持体上に製膜したゼオライト膜を提供するものである。
【0012】
次に、本発明の好適な実施の形態について説明する。なお、本発明において、数値範囲の記載は、両端の値のみならず、その範囲の中に含まれる全ての任意の中間の値を含むものである。本発明において、多孔質支持体基材としては、例えば、アルミナ、ムライト、ジルコニア、ステンレススチール及びアルミニウムを代表とする金属あるいは合金製の多孔質支持体基材が例示され、具体的には、例えば、陽極酸化膜多孔質支持体やそれと同等ないし類似の特性を持つ支持体などが例示される。また、その形態としては、好ましくは平均細孔径が0.1〜10ミクロンを有する多孔質であり、例えば、管状、平板状、円盤状又は角板形状などの多孔質支持体があげられるが、これらに制限されるものではなく、任意の多孔質及び形状の支持体を使用することができる。これらの支持体の表面の洗浄方法としては、例えば、水洗い、超音波洗浄などが例示されるが、好ましくは水による1〜10分の超音波洗浄により、支持体表面を洗浄する方法が例示される。
【0013】
本発明においては、水熱合成法により前述の多孔質支持体にゼオライトを製膜する。その際に、PHI(又はフォージャサイトなど)の種晶を多孔質支持体に擦り込んだ後、再度、水熱合成あるいは水蒸気処理により、種晶を二次成長させて強固な連続膜にしたり、あるいは、PHI結晶が支持体表面に配されている膜にする。この水熱合成には、適当な容器、例えば、耐圧容器が使用される。
【0014】
本発明において、PHI膜の合成条件としては、PHI組成を持つ原料溶液を用いる。出発原料として、水及び水酸化カリウム又は水酸化ナトリウム、アルミナ、コロイダルシリカなどを用いて、0.5−3Na2O(又はK2O) : Al2O3 :2−10 SiO2 :20−300 H2O のモル組成(好ましくは、2−2.5Na2O (又はK2O): Al2O3 :4−5SiO2 : 80−100H2O)になるように出発原料を調製する。
【0015】
このアルミナ源としては、市販の活性アルミナやベーマイト、塩化アルミニウム、アルミン酸ナトリウムなど適当なアルミナ原料であれば適宜使用可能である。シリカ源としては、コロイダルシリカや水ガラス、市販粉末シリカ、ヒュームドシリカ、アルコキシドなど適当なシリカ原料であれば適宜使用可能である。アルカリ源としては、KOH、NaOHなどが使用できる。この出発原料を、オートクレーブなどの圧力容器内に移し、80〜200℃で3時間以上、好ましくは100〜120℃では5〜7日間、150〜200℃では4〜12時間、水熱合成することによりPHI結晶を得ることができる。
【0016】
本発明では、前述のように、多孔質支持基材にPHI結晶を種晶として塗布するが、ここで、塗布とは、擦り込み及び/又は水に分散させたものをディップコートなどにより外表面に塗布すること及びそれらと同等の方法を意味する。その後、2−2.5K2O (又はNa2O):Al2O3: 2−4SiO2 : 80−100H2Oのモル組成に調整した溶液にて、150〜200℃で3−20時間水熱合成処理を行うことで種晶を二次成長させて膜厚2〜100μm好ましくは膜厚5〜50μm程度の連続膜とすることができる。
【0017】
PHIは、その骨格構造から、酸素8員環を有し(3.8×3.8Å:[100], 3.0×4.3Å[010], 3.3×3.2Å[001]:Atlas of Zeolite Framework Types, IZA,Ch.Baerlocher, W.M.Meier, D.H.Olson, ELSEVIER編)、Si/Al比=1.5前後であり、親水性である。本発明のPHI膜は、その3次元細孔構造と比較的小さな細孔径を有することから、低分子ガス、例えば、CO2とCH4の分離に好適に使用することが可能であり、また、PHI膜は、Si/Al比から親水性膜であることから、水/アルコール分離にも応用できるし、耐薬品性もLTAやFAU型ゼオライトに比較して優れていることから、例えば、酢酸濃縮などの分離プロセスへの応用が可能である。本発明のフィリップサイト型ゼオライト膜は、高性能・高選択な液体及び気体分離膜に応用可能であり、特に、耐酸性の脱水膜として使用できる。また、このPHI膜は、分離と反応を同時に行える触媒膜、メンブレンリアクターなどとして利用できる。本発明のPHI膜は、特に、耐酸性が要求される系で好適に使用できる利点を有する。
【0018】
本発明では、PHI膜の合成後に、膜の表面処理を行うことで、膜表面に余分に存在するPHI結晶、非晶質ゲル部分、及び/又は他の結晶相(例えば、チャバサイト、モルデナイト等)を取り除くことが好ましい。この場合、表面処理の手段としては、例えば、NaOH等のアルカリ水溶液による方法、適宜の研磨材又は手段による研磨方法、超音波による方法等が例示されるが、これらに制限されるものではなく、任意の方法及び手段により、膜の表面処理を行うことができる。上記表面処理により、膜の分離性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)現在までに報告されていないPHI膜を多孔質支持体上に合成した高耐酸性の特性を有する親水性PHIゼオライト膜を提供できる。
(2)高耐酸性の特性を有する親水性ゼオライト膜の合成方法を提供できる。
(3)本発明のPHIゼオライト膜は、例えば、耐酸性の脱水膜、分離膜、分離と反応を同時に行えるメンブレンリアクター、及び触媒膜等として利用できる。
(4)これまでに知られていない高耐酸性の特性を有する親水性PHIゼオライト膜を提供できる。
(5)本発明のPHIゼオライト膜は、高い水分離性能を有し、酸性条件下での分離膜として好適に使用することができる。
(6)脱水精製プロセス、蒸留プロセスに、PHIゼオライト膜による分離手段を併用することにより、熱源や設備の省コスト化が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
本実施例では、PHI種晶の合成と二次成長を行った。イオン交換水99.0gにNaOH(和光純薬(株)製)1.53gを加えて、完全に溶解した。更に、この溶液にKOH(和光純薬(株)製)1.90gを加えて、完全に溶解するまで攪拌した。次に、これにアルミン酸ナトリウム(関東化学(株)製)12.6gを加えて、完全に溶解するまで攪拌した。この溶液を、Cataloid SI−30(触媒化成(株)製、コロイダルシリカ、SiO2:30wt%、H2O:70wt%)67.0gに徐々に加えて均一なゲル溶液を得た。
【0022】
このゲル溶液を室温にて約30分攪拌した後、テフロン(登録商標)内筒つきのオートクレーブ(内容積200mL)に移し、100℃で7日間水熱処理した。水熱処理後、オートクレーブ中の生成物を濾過し、イオン交換水にてpHが7程度になるまで洗浄した。生成物を100℃で24時間乾燥した後、粉末X線回折を行ったところ、PHIの回折パターン(Collection of Simulated XRD Powder Patterns for Zeolites, M.M.J.Treacy and J.B.Higgins, IZA編集、ISBN 044507027, ELSEVIER p230,231(2001))と同一であった。
【0023】
次に、このようにして得られたPHI種晶を、乳鉢で1〜2分程度すり潰した後、ムライトチューブ(ニッカトー(株)製、PMチューブ、Al2O3=65%、SiO2=33%、平均細孔径1.8ミクロン、かさ密度1.70g/cc、気孔率44.7%、外径6ミリ、内径3ミリ、長さ80ミリ)外表面に塗布した。塗布後、ムライトチューブをSUS製のオートクレーブ(内容積120cc)内にテフロン(登録商標)製の治具に固定して縦方向に設置した。水ガラス(小宗化学、3号SiO2 28%, Na2O 9〜10%)と塩化アルミニウム6水和物(ナカライ)をアンモニアで共沈、洗浄して調製したSi/Al=2のモル比に調製した含水酸化物をNaOH水溶液に2.5Na2O: Al2O3:4SiO2:80H2O のモル組成となる様に混合して調製した溶液をこのオートクレーブ内に移し、200℃で3時間半温風式オーブン内で静置して水熱処理した。なお、ムライトチューブの外側のみにフィリップサイトを被覆するために、ムライトチューブの両端をテフロン(登録商標)テープで閉じた。
【0024】
種晶を塗布する方法としては、乾式でPHI種晶をキムワイプなどの紙や各種不織布などで擦り込んでもよいし、素手で擦り込んでもよい。また、PHI種晶を水などの溶液に入れた懸濁液を用いてムライトチューブ外表面にDip−coatしてもよい。上記の水熱処理をチューブ固定の向きの上下を変えて二度行った後、オートクレーブを水冷した後、ムライトチューブを取り出し、十分に水洗した。次に、100℃で24時間乾燥した後、60℃で24時間乾燥した。このようにして合成したPHI膜をトールシール(ニラコ(株)製)で片端を封止し、もう一方の側から0.2MPaの圧力で空気を送り込み、ムライトチューブを水の中に浸して、空気によるリーク試験を行ったところ、乾燥後の膜では、空気が透過しなかった。また、水熱処理後にオートクレーブ内の底部にPHI結晶ができていることを確認した。
【実施例2】
【0025】
以下、使用した試薬については、特にことわりがない場合は、実施例1と同じものを使用した。塩化アルミニウム6水和物(ナカライ)水溶液を撹拌しながら、これに水ガラス(小宗化学、3号SiO2 28%, Na2O 9〜10%)を徐々に加え、Si/Al=2のモル比にとなる様に混合した後、撹拌しながらアンモニアを添加して、生じた沈殿物を濾過/洗浄し、含水酸化物を調製した。Si/Al=2のモル比に調製した含水酸化物をNaOH水溶液に2.5Na2O: Al2O3:4SiO2:83H2Oのモル組成となる様に混合して均一なゲル溶液を得た。
【0026】
このゲル溶液を室温にて約30分攪拌した後、テフロン(登録商標)内筒つきのオートクレーブ(内容積200mL)に移し、200℃で4時間水熱処理した。水熱処理後、オートクレーブ中の生成物を濾過し、イオン交換水にてpHが7程度になるまで洗浄した。生成物を60℃で24時間乾燥した後、粉末X線回折を行ったところ、PHIの回折パターン(Collection of Simulated XRD Powder Patterns for Zeolites, M.M.J.Treacy and J.B.Higgins, IZA編集、ISBN 044507027, ELSEVIER p230,231(2001))と同一であった。
【0027】
次に、このようにして得られたPHI種晶を、ムライトチューブに擦り込んだ後、種晶合成に用いたものと同様に調製した溶液にて、実施例1と同様に、3時間半水熱処理を行った。水熱処理後、実施例1と同様に、ムライトチューブを乾燥し、空気が透過しないことを確認した。また、チューブ表面、断面の走査型電子顕微鏡観察によって20〜30μm厚のPHI膜の生成を確認した。
【実施例3】
【0028】
イオン交換水70.0gにアルミン酸ナトリウム(関東化学(株)製)8.6gを加えて完全に溶解するまで攪拌した。次に、イオン交換水20.0gにNaOH(和光純薬(株)製)6gを加えて完全に溶解し、前述のアルミン酸ナトリウム水溶液に添加して均一になるまで攪拌した。次に、この溶液に、Cataloid SI−30 40.0gを徐々に加えて均一なゲル溶液を得た。このゲル溶液を室温にて約30分攪拌した後、テフロン(登録商標)内筒つきのオートクレーブ(内容積200mL)に移し、150℃で6時間水熱処理した。水熱処理後、オートクレーブ中の生成物を濾過し、イオン交換水にてpHが7程度になるまで洗浄した。
【0029】
生成物を60℃で24時間乾燥した後、粉末X線回折を行ったところ、FAUの回折パターン(Collection of Simulated XRD Powder Patterns for Zeolites, M.M.J.Treacy and J.B.Higgins, IZA編集、ISBN 044507027, ELSEVIER p230,231(2001))と同一であった。次に、このようにして得られたFAU種晶を、ムライトチューブに擦り込んだ後、実施例2と同様に、200℃で19時間半水熱処理を行い、実施例2と同様に、PHI膜の生成を確認した。
【実施例4】
【0030】
実施例2と同様にして得られたPHI種結晶をムライトチューブに擦り込んだ後、実施例1と同様に、3時間半、更に、チューブの上下を変えて2時間半、水熱処理を行った。実施例2と同様に、PHI膜の生成を確認した。
【実施例5】
【0031】
実施例3と同様にして得られたFAU種結晶をムライトチューブに擦り込んだ後、実施例1と同様に、3時間半水熱処理を行った。実施例2と同様に、PHI膜の生成を確認した。また、前述の方法以外に、種晶として市販のPHI/FAU(フォージャサイト)ゼオライトを使用できる。これらの種晶を前記出発原料中に存在させることにより、合成時間を短縮することができることを確認した。
【実施例6】
【0032】
実施例4で得られたPHI膜の浸透気化法(PV法)による分離特性を調べた。供給液にはエタノール90wt%の水溶液を用いて、75℃で測定した結果、透過流束(Q)= 1.12kg/m2・h、分離係数α(H2O/EtOH)=631であった。このことから、本発明で得られたPHI膜は水選択透過膜であることが明らかとなった。更に、耐薬品性を調べる目的で、PHI種晶、FAU(フォージャサイト、Y型及びX型)を0.5g採り、0.1Nの塩酸水溶液で85℃・1時間及び10wt%のNaOH水溶液で室温・7日間処理した後、水洗・乾燥した各種ゼオライト試料の粉末X線回折を測定したところ、PHIは、他のゼオライトに比較してピーク強度の低下やピークブロードが観察されなかったことから、耐薬品性に優れていることがわかった。同様にして、PHI膜が高耐薬品性を有していることを確認した。
【実施例7】
【0033】
PHIゼオライト膜を用いて、浸透気化法により水/エタノール分離能の評価を行った。
(1)実験方法
膜作製については、ニッカトー製6mmφ×3〜5cmのムライトチューブに予め合成した、例えば、種結晶を塗布し、二次成長させて、ゼオライト膜を作製した。PV測定については、40℃一定でエタノール3wt%溶液を供給液として攪拌し、製膜したチューブを垂直に浸液して行った。分離係数(α=H2O/EtOH)は、透過側の蒸気圧の安定化後、数時間にわたってトラップされた透過液の総量をGC−TCDによって分析した値から計算した。
【0034】
(2)結果
上記条件で作製したゼオライト膜の膜厚は、20〜50μmであり、膜の粒子サイズは1〜5μm径前後であり、膜表面のEDX分析によると、Si/Al比は2.5〜3.0の範囲であった。PV測定に先立って、ゼオライト粉末の平衡状態での水吸着量を調べた結果、I型(Langmuir型)の吸着等温線が得られた。膜の水/エタノール分離係数(α値)及びFlux(Q)のPV測定結果(Q値)は、6.6及び0.01であった。測定時の透過側の蒸気圧は10〜15PaでQ値に対応していた。
【実施例8】
【0035】
(PHI種晶の合成方法)
PHI種晶の合成は、以下のようにして行った。イオン交換水99.0gにNaOH(和光純薬(株)製)1.53gを加えて、完全に溶解した。更に、この溶液にKOH(和光純薬(株)製)1.90gを加えて、完全に溶解するまで攪拌した。次に、これにアルミン酸ナトリウム(関東化学(株)製)12.6gを加えて、完全に溶解するまで攪拌した。この溶液を、Cataloid SI−30(触媒化成(株)製、コロイダルシリカ、SiO2:30wt%、H2O:70wt%)67.0gに徐々に加えて均一なゲル溶液を得た。
【0036】
上記ゲル溶液を室温にて約30分攪拌した後、テフロン(登録商標)内筒つきのオートクレーブ(内容積200mL)に移し、100℃で7日間水熱処理した。水熱処理後、オートクレーブ中の生成物を濾過し、イオン交換水にてpHが7程度になるまで洗浄した。生成物を100℃で24時間乾燥した後、粉末X線回折を行ったところ、PHIの回折パターン(Collection of Simulated XRD Powder Patterns for Zeolites, M.M.J.Treacy and J.B.Higgins, IZA編集、ISBN 044507027, ELSEVIER p230,231(2001))と同一であった。
【0037】
(PHI種晶の固定方法及び二次成長方法)
次に、このようにして得られたPHI種晶を、乳鉢で1〜2分程度すり潰した後、ムライトチューブ(ニッカトー(株)製、PMチューブ、Al2O3=65%、SiO2=33%、平均細孔径1.8ミクロン、かさ密度1.70g/cc、気孔率44.7%、外径6ミリ、内径3ミリ、長さ80ミリ)外表面に塗布した。種晶を塗布する方法としては、乾式でPHI種晶をキムワイプなどの紙や各種不織布などで擦り込んでもよいし、素手で擦り込んでもよい。また、PHI種晶を水などの溶液に入れた懸濁液を用いてムライトチューブ外表面にDip−coatしてもよい。塗布後、ムライトチューブをSUS製のオートクレーブ(内容積120cc)内にテフロン(登録商標)製の治具に固定して縦方向に設置した。
【0038】
アルミン酸ナトリウム(NaAlO2:ナカライテスク、特級)9.0gをイオン交換水50.0gに溶解し、約20分攪拌して、完全に溶解させた。この溶液に、NaOH(和光純薬、特級)1.0gをイオン交換水10.0gに予め溶解させておいたNaOH水溶液を加えた。更に、イオン交換水10.0gを加えた後、コロイダルシリカ(Cataloid−SI−30:触媒化成(株)製)40.0gを少量づつ滴加し、約20分攪拌することにより、均一なゲル溶液得た。
【0039】
このゲル溶液をオートクレーブ内に移し、150℃で6時間温風式オーブン内で静置して水熱処理した。なお、ムライトチューブの外側のみにPHIを被覆するために、ムライトチューブの両端をテフロン(登録商標)テープで封止した。オートクレーブを水冷した後、ムライトチューブを取り出し、イオン交換水でムライトチューブを洗浄した。次に、これを空気中で24時間乾燥した。このようにして合成したPHI膜をトールシール(ニラコ(株)製)で片端を封止し、もう一方の側から0.2MPaの圧力で空気を送り込み、ムライトチューブを水の中に浸して、空気によるリーク試験を行ったところ、乾燥後の膜では、空気が透過しなかった。また、PHI種晶を二次成長させたムライトチューブ外表面のX線回折測定(XRD)を行ったところ、ムライトの回折パターンとPHIの回折パターンが得られたことから、外表面はPHI膜のみで覆われていることがわかった。また、チューブ表面、断面の走査型電子顕微鏡(SEM)観察の結果、膜厚は約10−12μmであった。図3に、6時間二次成長させたPHI膜表面のSEM像を示す。
【0040】
(浸透気化法による分離性能の評価)
次に、このようにして得られたPHI膜の浸透気化法による分離特性を調べた。供給液にはエタノール90wt%の水溶液を用いて、40℃で測定を行った。膜を装置に装着後、浸透気化分離を開始してから1時間半後から透過液の回収を始めた。その後、2時間までの透過流束をQ1、分離係数をα1とし、4時間までの透過流束をQ2、分離係数をα2とした。
【0041】
なお、透過流束(Q)は、膜面積(m2)、1時間当たり(h)の透過量(kg):kg/m2・hとし、分離係数(α)は、供給液に対する透過液の重量%濃度の比とした(H2O/EtOH)。その結果、Q1=0.54kg/m2・h、α1=455、Q2=0.47kg/m2・h、α2=630であった。
【実施例9】
【0042】
(二次成長時間の影響)
二次成長時間を150℃で8時間とした以外は、PHI種晶の合成方法、固定方法及び二次成長方法は、実施例8と全く同様に行った。水熱合成終了後、オートクレーブを水冷した後、ムライトチューブを取り出し、イオン交換水でムライトチューブを洗浄した。その後、空気中で24時間乾燥した。この膜も、外表面がPHI結晶のみで覆われていることをXRDパターンにより確認した。SEM観察の結果から、膜厚は約8−10μmであった。表面には、ゲル状の生成物も確認された。
【0043】
図4に、8時間二次成長させたPHI膜表面のSEM像を示す。実施例8と同様に、この二次成長時間を150℃で8時間としたPHI膜の浸透気化法による分離性能の評価を行った結果、Q1=0.42kg/m2・h、α1=20、Q2=0.46kg/m2・h、α2=18であった。実施例8に比較して、Q及びαが低かったのは、ゲル状の生成物が膜表面に生成したためと考えられる。
【実施例10】
【0044】
二次成長時間を150℃で12時間とした以外は、PHI種晶の合成方法、固定方法及び二次成長方法は、実施例8と全く同様に行った。水熱合成終了後、オートクレーブを水冷した後、ムライトチューブを取り出し、イオン交換水でムライトチューブを洗浄した。その後、空気中で24時間乾燥した。この膜も、外表面がPHI結晶のみで覆われていることをXRDパターンにより確認した。SEM観察の結果から、膜厚は約15−18μmであった。表面は、ゲル状の生成物はほとんどなく、球状の結晶が集合した形態をしていた。
【0045】
図5に、12時間二次成長させたPHI膜表面のSEM像を示す。実施例8と同様に、この二次成長時間を150℃で12時間としたPHI膜の浸透気化法による分離性能の評価を行った結果、Q1=0.28kg/m2・h、α1=750、Q2=0.30kg/m2・h、α2=1060であった。
【実施例11】
【0046】
二次成長時間を150℃で24時間とした以外は、PHI種晶の合成方法、固定方法及び二次成長方法は、実施例8と全く同様に行った。水熱合成終了後、オートクレーブを水冷した後、ムライトチューブを取り出し、イオン交換水でムライトチューブを洗浄した。その後、空気中で24時間乾燥した。この膜も、外表面がPHI結晶のみで覆われていることをXRDパターンにより確認した。SEM観察の結果から、膜厚は約35−40μmであった。表面は、ゲル状の生成物はほとんどなく、球状の結晶が緻密に集合した形態をしていた。
【0047】
図6に、24時間二次成長させたPHI膜表面のSEM像を示す。実施例8と同様に、この二次成長時間を150℃で24時間としたPHI膜の浸透気化法による分離性能の評価を行った結果、Q1=0.24kg/m2・h、α1=4500以上、Q2=0.24kg/m2・h、α2=4500以上であった。
【実施例12】
【0048】
(膜洗浄方法及び水浸漬の影響)
実施例8の手法で、PHI膜を合成した。ただし、150℃で6時間の水熱合成終了後、オートクレーブを水冷した後、ムライトチューブを取り出し、イオン交換水でムライトチューブを洗浄する際、すすぎと浸漬を3回繰り返した。膜の外表面はPHI結晶のみで覆われていることをXRDパターンにより確認した。SEM観察の結果から、膜厚は約8−10μmであった。表面は、ゲル状の生成物はほとんどなく、球状の結晶が集合した形態をしていた。
【0049】
更に、浸透気化法による分離性能の評価を行う前に、イオン交換水に約1時間浸漬してから装置に装着した。その後、実施例8と同様に、このPHI膜の浸透気化法による分離性能の評価を行った結果、Q1=0.29kg/m2・h、α1=4500以上、Q2=0.35kg/m2・h、α2=4500以上であった。実施例8と比較すると、Qは減少するものの、αは格段に改善されることがわかった。
【実施例13】
【0050】
実施例9の手法で、PHI膜を合成した。ただし、150℃で8時間の水熱合成終了後、オートクレーブを水冷した後、ムライトチューブを取り出しイオン交換水でムライトチューブを洗浄する際、すすぎと浸漬を3回繰り返した。膜の外表面はPHI結晶のみで覆われていることをXRDパターンにより確認した。SEM観察の結果から、膜厚は約10−12μmであった。表面は、ゲル状の生成物はほとんどなく、球状の結晶が集合した形態をしていた。
【0051】
更に、浸透気化法による分離性能の評価を行う前に、イオン交換水に約1時間浸漬してから装置に装着した。その後、実施例9と同様に、このPHI膜の浸透気化法による分離性能の評価を行った結果、Q1=0.33kg/m2・h、α1=4500以上、Q2=0.39kg/m2・h、α2=4500以上であった。実施例9と比較すると、Qは減少するものの、αは格段に改善されることがわかった。
【実施例14】
【0052】
実施例10の手法で、PHI膜を合成した。ただし、150℃で12時間の水熱合成終了後、オートクレーブを水冷した後、ムライトチューブを取り出し、イオン交換水でムライトチューブを洗浄する際、すすぎと浸漬を3回繰り返した。膜の外表面はPHI結晶のみで覆われていることをXRDパターンにより確認した。SEM観察の結果から、膜厚は約15−18μmであった。表面は、ゲル状の生成物はほとんどなく、球状の結晶が集合した形態をしていた。
【0053】
更に、浸透気化法による分離性能の評価を行う前に、イオン交換水に約1時間浸漬してから装置に装着した。その後、実施例10と同様に、このPHI膜の浸透気化法による分離性能の評価を行った結果、Q1=0.38kg/m2・h、α1=4500以上、Q2=0.32kg/m2・h、α2=4500以上であった。実施例10と比較すると、Q、αともに格段に改善されることがわかった。
【実施例15】
【0054】
実施例11の手法で、PHI膜を合成した。ただし、150℃で24時間の水熱合成終了後、オートクレーブを水冷した後、ムライトチューブを取り出し、イオン交換水でムライトチューブを洗浄する際、すすぎと浸漬を3回繰り返した。膜の外表面はPHI結晶のみで覆われていることをXRDパターンにより確認した。SEM観察の結果から、膜厚は約35−40μmであった。表面は、ゲル状の生成物はほとんどなく、球状の結晶が緻密に集合した形態をしていた。
【0055】
更に、浸透気化法による分離性能の評価を行う前に、イオン交換水に約1時間浸漬してから装置に装着した。その後、実施例11と同様に、このPHI膜の浸透気化法による分離性能の評価を行った結果、Q1=0.27kg/m2・h、α1=4500以上、Q2=0.32kg/m2・h、α2=4500以上であった。実施例11と比較すると、Qが格段に改善されることがわかった。
【0056】
このように、PHI膜合成後の洗浄方法及び浸透気化分離前の膜表面の処理の方法を変えるだけで、その分離性能が大きく変化することが明らかとなった。このことは、親水性膜であるPHI膜の場合、合成時間の短い場合(実施例8及び9、10)は、膜を構成するPHI結晶以外に、非晶質ゲル部分や他の結晶相(PHIの場合、チャバサイトやモルデナイトが混晶しやすい)が混入するため、より高性能な分離性能を得るためには、これらの影響を取り除く必要があることを意味している。
【0057】
なお、上記実施例で、XRDパターンにはこれらの混晶が見られなかったのは、その重量が5%以下であったためと思われる(XRDには、主相であるPHIのみが観測された)。事実、実施例8及び9では、膜表面のSEM観察からは、PHI結晶以外に、非晶質ゲルが観測された。
【実施例16】
【0058】
実施例11の手法で、PHI膜を合成した。ただし、150℃で24時間の水熱合成終了後、オートクレーブを水冷した後、ムライトチューブを取り出し、イオン交換水でムライトチューブを洗浄する際、すすぎのみを1度だけ行い、イオン交換水への浸漬は行わなかった。膜の外表面はPHI結晶のみで覆われていることをXRDパターンにより確認した。SEM観察の結果から、膜厚は約35−40μmであった。表面は、ゲル状の生成物はほとんどなく、球状の結晶が緻密に集合した形態をしていた。
【0059】
図7に、洗浄なしのPHI膜表面のSEM像を示す。浸透気化法による分離性能の評価をする際は、60℃で24時間乾燥を行った。その結果、Q1=0.22kg/m2・h、α1=290、Q2=0.17kg/m2・h、α2=350であった。実施例4に比較して、Q及びαが低下した。
【実施例17】
【0060】
(NaOH水溶液処理)
実施例11の手法で、PHI膜を合成した。すなわち、二次成長条件を150℃で24時間とした。その後、膜を0.1NのNaOH水溶液に3時間浸漬し、最後はイオン交換水に24時間浸漬した。膜の外表面はPHI結晶のみで覆われていることをXRDパターンにより確認した。SEM観察の結果から、膜厚は約35−40μmであった。表面は、ゲル状の生成物はほとんどなく、実施例11の膜とほぼ同様の球状の結晶が緻密に集合した形態をしていた。また、膜を処理したNaOH水溶液中には、膜表面から剥がれ落ちたと思われる固形物があった。この固形物は、粉末XRD解析の結果、非晶質ハローピークを含んだPHIであることがわかった。このように、NaOH水溶液処理によって、膜表面のPHI及び支持体であるムライトが剥離・溶解することがわかった。
【0061】
図8に、0.1N−NaOH水溶液処理後のPHI膜表面のSEM像を示す。実施例8と同様に、このNaOH水溶液処理したPHI膜の浸透気化法による分離性能の評価を行った結果、Q1=0.28kg/m2・h、α1=24、Q2=0.30kg/m2・h、α2=40であった。実施例4と比較すると、αが2桁低下した。
【実施例18】
【0062】
(歯ブラシによる膜表面研磨処理)
実施例11の手法で、PHI膜を合成した。すなわち、二次成長条件を150℃で24時間とした。その後、200mLのイオン交換水中で市販の歯ブラシを用いてPHI膜表面を磨いた。膜の外表面はPHI結晶のみで覆われていることをXRDパターンにより確認した。SEM観察の結果から、膜厚は約25―30μmであり、実施例11の膜厚に比べるとやや薄くなっていた。表面は、ゲル状の生成物はほとんどなく、実施例11の膜で観察された球状集合体が平滑になっていた。また、膜を処理したイオン交換水中には、膜表面から剥がれ落ちたと思われる固形物があった。この固形物は、粉末XRD解析の結果、PHI結晶であることがわかった。このように、歯ブラシによる膜表面研磨処理によって、膜表面のPHI膜が一部剥離することがわかった。
【0063】
図9に、歯ブラシ研磨後のPHI膜表面のSEM像を示す。実施例8と同様に、この歯ブラシによる膜表面研磨処理したPHI膜の浸透気化法による分離性能の評価を行った結果、Q1=0.24kg/m2・h、α1=3860、Q2=0.19kg/m2・h、α2=3360であった。実施例11と比較しても、Q及びαは、遜色のない良好な結果が得られた。このように、膜表面に余分に存在するPHI結晶を取り除いても、分離性能にはほとんど影響を及ぼさないことがわかった。
【実施例19】
【0064】
(サンドペーパーによる膜表面研磨処理)
実施例11の手法で、PHI膜を合成した。すなわち、二次成長条件を150℃で24時間とした。その後、膜表面のPHI結晶を更に強制的に剥離することを目的として、市販の1000番のサンドペーパーを用いてPHI膜表面を磨いた。サンドペーパーを膜の外径に沿って丸め、上下30往復させることで、外表面のPHI結晶を剥離させた。SEM観察の結果から、膜表面はPHI特有の球状集合体の結晶が削ぎ落とされた様子が観察された。
【0065】
図10に、サンドペーパー研磨後のPHI膜表面のSEM像を示す。実施例8と同様に、このサンドペーパーによる膜表面研磨処理したPHI膜の浸透気化法による分離性能の評価を行った結果、Q1=0.22kg/m2・h、α1=1450、Q2=0.22kg/m2・h、α2=3000であった。実施例11と比較しても、Q及びαは遜色のない良好な結果が得られた。このように、実施例18と同様に膜表面に余分に存在するPHI結晶を取り除いても、分離性能にはほとんど影響を及ぼさないことがわかった。
【実施例20】
【0066】
(超音波処理による膜表面処理)
実施例11の手法で、PHI膜を合成した。すなわち、二次成長条件を150℃で24時間とした。その後、ビーカーに200mLのイオン交換水を採り、ビーカー内にこのPHI膜を浸し、市販の500Wの超音波洗浄機(アズワン、US−4型)を用いて、1時間超音波処理を施した。SEM観察の結果から、膜表面はPHI特有の球状集合体の結晶が削ぎ落とされ、平滑な表面になっている様子が観察された。また、膜表面には、巨視的なひび割れが観察された。
【0067】
図11に、超音波処理後のPHI膜表面のSEM像を示す。実施例8と同様に、この超音波処理を行ったPHI膜の浸透気化法による分離性能の評価を行った結果、Q1=0.28kg/m2・h、α1=4500以上、Q2=0.32kg/m2・h、α2=4500以上であった。実施例11と比較しても、Q及びαは、遜色のない良好な結果が得られた。このように、実施例19と同様に、膜表面に余分に存在するPHI結晶を取り除いても、分離性能にはほとんど影響を及ぼさないことがわかった。そればかりか、膜表面には、巨視的なひび割れが観察されたのにも係らず、分離性能が出現した。
【0068】
上記実施例17から20の結果から、PHI種晶をムライトチューブ表面に二次成長させて分離膜として利用するにあたり、膜の表面処理を行うことが、より高い分離能を出現させることになることがわかった。実施例8から20までを表1にまとめて示す。
【0069】
【表1】
【実施例21】
【0070】
(膜の経時変化)
実施例12から15において、浸透気化法による分離性能評価の際の水浸漬の影響について、水浸漬後、ただちに分離性能評価を始めることで、αが向上することを示したが、実施例8の手法で合成したPHI膜を用いて、60時間までの経時変化を測定した。その結果、Qは、この時間内で0.5kg/m2・h前後で安定していたが、αが、初期の450(α1)から40時間後には1500まで上昇した。その後、60時間まで、αは1500となり、安定することがわかった。 図12に、PHI膜の浸透気化分離における経時変化を示す。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上詳述したように、本発明は、フィリップサイト型ゼオライト膜、その製造方法及びその分離膜等の用途に係るものであり、本発明により、現在までに報告されていないPHI膜を多孔質支持体に合成できることが明らかになった。本発明によれば、耐酸性、耐薬品性に優れた親水性ゼオライト膜が合成可能であり、例えば、工業的な液体及びガス分離プロセス等に採用することが可能なゼオライト膜を、簡便に、かつ短期間で製造し、提供することが可能である。また、本発明のPHI膜は、石油化学工業において、分離と触媒作用を持ち合わせたメンブレンリアクターとしても応用可能である。本発明は、特に、耐酸性が要求される系における分離膜等として好適に使用できるPHI膜に関する新技術・新製品を提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】PHI型ゼオライト膜の電子顕微鏡写真(a:PHI被覆ムライトチューブ断面、b:PHI膜表面)を示す。
【図2】PHI型及びFAU型ゼオライトの耐酸性比較の結果を示す。
【図3】6時間二次成長させたPHI膜表面のSEM像を示す。
【図4】8時間二次成長させたPHI膜表面のSEM像を示す。
【図5】12時間二次成長させたPHI膜表面のSEM像を示す。
【図6】24時間二次成長させたPHI膜表面のSEM像を示す。
【図7】洗浄なしのPHI膜表面のSEM像を示す。
【図8】0.1N−NaOH水溶液処理後のPHI膜表面のSEM像を示す。
【図9】歯ブラシ研磨後のPHI膜表面のSEM像を示す。
【図10】サンドペーパー研磨後のPHI膜表面のSEM像を示す。
【図11】超音波処理後のPHI膜表面のSEM像を示す。
【図12】PHI膜の浸透気化分離における経時変化を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体基材上に製膜されたゼオライト膜において、その構造が支持体上に形成されたフィリップサイト(PHI)膜であり、高親水性及び高耐酸性の特性を有することを特徴とするゼオライト膜。
【請求項2】
基材が、金属及び/又は金属酸化物基材である請求項1に記載のゼオライト膜。
【請求項3】
基材が、アルミナ、ムライト、ジルコニア、又はSUSの多孔質基材である請求項2に記載のゼオライト膜。
【請求項4】
PHI膜が、空気を透過しない非透過性を有する請求項1に記載のゼオライト膜。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の高親水性及び高耐酸性ゼオライト膜から成ることを特徴とする分離膜。
【請求項6】
脱水用親水性ゼオライト膜である請求項5に記載の分離膜。
【請求項7】
請求項1から4のいずれかに記載の高親水性及び高耐酸性ゼオライト膜から成ることを特徴とする分離と反応を同時に行うことができるメンブレンリアクター。
【請求項8】
PHI組成を持つ原料溶液を用いて、水熱合成法によりゼオライトに転換する手法又はアルミノシリケートゲルを水蒸気処理によってゼオライトに転換する手法により、支持体基材上にPHIゼオライト膜を製膜することを特徴とするゼオライト膜の製造方法。
【請求項9】
PHI組成を持つ原料溶液を用いて作製した、種晶を多孔質支持体基材に塗布した後、水熱合成法によりゼオライトに転換する手法又はアルミノシリケートゲルを水蒸気処理によってゼオライトに転換する手法により、多孔質支持体基材上にPHIゼオライト膜を製膜する請求項8に記載のゼオライト膜の製造方法。
【請求項10】
種晶を二次成長させて連続膜とする請求項9に記載のゼオライト膜の製造方法。
【請求項11】
PHI膜の合成後に、膜の表面処理を行う請求項8又は9に記載のゼオライト膜の製造方法。
【請求項12】
膜の表面処理を、アルカリ水溶液処理、研磨処理、又は超音波処理により行うことで、膜表面に余分に存在するPHI結晶、非晶質ゲル、及び/又は他の結晶相を取り除く請求項11に記載のゼオライト膜の製造方法。
【請求項1】
支持体基材上に製膜されたゼオライト膜において、その構造が支持体上に形成されたフィリップサイト(PHI)膜であり、高親水性及び高耐酸性の特性を有することを特徴とするゼオライト膜。
【請求項2】
基材が、金属及び/又は金属酸化物基材である請求項1に記載のゼオライト膜。
【請求項3】
基材が、アルミナ、ムライト、ジルコニア、又はSUSの多孔質基材である請求項2に記載のゼオライト膜。
【請求項4】
PHI膜が、空気を透過しない非透過性を有する請求項1に記載のゼオライト膜。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の高親水性及び高耐酸性ゼオライト膜から成ることを特徴とする分離膜。
【請求項6】
脱水用親水性ゼオライト膜である請求項5に記載の分離膜。
【請求項7】
請求項1から4のいずれかに記載の高親水性及び高耐酸性ゼオライト膜から成ることを特徴とする分離と反応を同時に行うことができるメンブレンリアクター。
【請求項8】
PHI組成を持つ原料溶液を用いて、水熱合成法によりゼオライトに転換する手法又はアルミノシリケートゲルを水蒸気処理によってゼオライトに転換する手法により、支持体基材上にPHIゼオライト膜を製膜することを特徴とするゼオライト膜の製造方法。
【請求項9】
PHI組成を持つ原料溶液を用いて作製した、種晶を多孔質支持体基材に塗布した後、水熱合成法によりゼオライトに転換する手法又はアルミノシリケートゲルを水蒸気処理によってゼオライトに転換する手法により、多孔質支持体基材上にPHIゼオライト膜を製膜する請求項8に記載のゼオライト膜の製造方法。
【請求項10】
種晶を二次成長させて連続膜とする請求項9に記載のゼオライト膜の製造方法。
【請求項11】
PHI膜の合成後に、膜の表面処理を行う請求項8又は9に記載のゼオライト膜の製造方法。
【請求項12】
膜の表面処理を、アルカリ水溶液処理、研磨処理、又は超音波処理により行うことで、膜表面に余分に存在するPHI結晶、非晶質ゲル、及び/又は他の結晶相を取り除く請求項11に記載のゼオライト膜の製造方法。
【図2】
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−176399(P2006−176399A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−344634(P2005−344634)
【出願日】平成17年11月29日(2005.11.29)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月29日(2005.11.29)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】
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