フィルタ
【課題】平面フィルタの特性に影響を与えることなく、金属ケース内の電磁波伝播を抑制し、平面フィルタ本来の特性を実現したフィルタを提供する。
【解決手段】フィルタは、入力線路101a、複数の共振器101c、出力線路101bを有し、通過帯域の中心周波数f0のマイクロストリップライン型の平面フィルタ101と、平面フィルタ101を囲む金属ケース102と、入力線路101aから出力線路101bに向かう電磁波の進行方向の間隔、または電磁波が金属ケース102内で共振することによって発生する定在波の波面に対して垂直な方向の間隔が中心周波数f0の電気長にして1/5波長から1/2波長で、金属ケース102内に配置される誘電体を含む複数の構造物103を備える。
【解決手段】フィルタは、入力線路101a、複数の共振器101c、出力線路101bを有し、通過帯域の中心周波数f0のマイクロストリップライン型の平面フィルタ101と、平面フィルタ101を囲む金属ケース102と、入力線路101aから出力線路101bに向かう電磁波の進行方向の間隔、または電磁波が金属ケース102内で共振することによって発生する定在波の波面に対して垂直な方向の間隔が中心周波数f0の電気長にして1/5波長から1/2波長で、金属ケース102内に配置される誘電体を含む複数の構造物103を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロストリップライン型のような片面開放型の平面フィルタは、作成および調整等が簡単に行えるメリットがある。しかし、片面が解放されているために外部環境の影響を受けやすく、また逆に電磁波を放射して外部にも影響を与えるデメリットがあり、この傾向は周波数が高くなるほど顕著である。このデメリットを防ぐための一つの簡便な方法は平面フィルタを金属ケース内に封入し、金属ケース内外の不要な電磁波の行き来を完全にシャットアウトすることである。
【0003】
しかしながら、平面フィルタを金属ケースで囲うことは別の問題を発生させる。それは金属ケースの空洞モード共振によるものである。例えば、平面フィルタへの入力電力が空洞モード共振を励起し、これが平面フィルタの出力線にピックアップされることによって、平面フィルタの設計上は意図していない周波数帯に通過帯域が発生したり、フィルタの周波数特性を大きく劣化させたりする。
【0004】
上記の問題を解決するための方法としては、導体や高誘電率誘電体などで構成された不要高次モード遮断板を用いる方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−269704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであり、その目的とするところは、平面フィルタの特性に影響を与えることなく、金属ケース内の電磁波伝播を抑制し、平面フィルタ本来の特性を実現したフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施の形態のフィルタは、入力線路、複数の共振器、出力線路を有し、通過帯域の中心周波数f0のマイクロストリップライン型の平面フィルタと、前記平面フィルタを囲む金属ケースと、前記入力線路から前記出力線路に向かう電磁波の進行方向の間隔、または前記電磁波が前記金属ケース内で共振することによって発生する定在波の波面に対して垂直な方向の間隔が中心周波数f0の電気長にして1/5波長から1/2波長で、前記金属ケース内に配置される誘電体を含む複数の構造物と、を備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1の実施の形態のフィルタを示す斜視図である。
【図2】3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。
【図3】図2の構造のシミュレーション結果を示す図である。
【図4】3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。
【図5】図4の構造のシミュレーション結果を示す図である。
【図6】3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。
【図7】図6の構造のシミュレーション結果を示す図である。
【図8】図6における2つの誘電体構造物間の距離を変化させた場合の通過特性を示す図である。
【図9】図6における2つの誘電体構造物間の距離を変化させた場合の通過特性を示す図である。
【図10】3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。
【図11】図10の構造のシミュレーション結果を示す図である。
【図12】第2の実施の形態のフィルタを示す斜視図である。
【図13】3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。
【図14】図13の構造のシミュレーション結果を示す図である。
【図15】10GHzでの金属ケース内の電場分布を示す図である。
【図16】3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。
【図17】図16の構造のシミュレーション結果を示す図である。
【図18】10GHzでの金属ケース内の電場分布を示す図である。
【図19】3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。
【図20】図19の構造のシミュレーション結果を示す図である。
【図21】10GHzでの金属ケース内の電場分布を示す図である。
【図22】3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。
【図23】図22の構造のシミュレーション結果を示す図である。
【図24】図23のグラフの共振ピークにおける電場分布を示す図である。
【図25】図23のグラフの共振ピークにおける電場分布を示す図である。
【図26】図23のグラフの共振ピークにおける電場分布を示す図である。
【図27】図23のグラフの共振ピークにおける電場分布を示す図である。
【図28】図23のグラフの共振ピークにおける電場分布を示す図である。
【図29】3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。
【図30】図29の構造のシミュレーション結果を示す図である。
【図31】構造物対間隔を変化させた場合のシミュレーション結果を示す図である。
【図32】第3の実施の形態のフィルタを示す斜視図である。
【図33】3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。
【図34】図33の構造のシミュレーション結果を示す図である。
【図35】10GHzでの金属ケース内の電場分布を示す図である。
【図36】3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。
【図37】図36の構造のシミュレーション結果を示す図である。
【図38】10GHzでの金属ケース内の電場分布を示す図である。
【図39】3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。
【図40】図39の構造のシミュレーション結果を示す図である。
【図41】9.4GHzでの金属ケース内の電場分布を示す図である。
【図42】図39の構造の低周波側のシミュレーション結果を示す図である。
【図43】2GHzでの金属ケース内の電場分布を示す図である。
【図44】3.1GHzでの金属ケース内の電場分布を示す図である。
【図45】3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。
【図46】図45の構造のシミュレーション結果を示す図である。
【図47】図45に対し棒状の構造物群を3つとした構造の斜視図である。
【図48】図47の構造のシミュレーション結果を示す図である。
【図49】図45に対し棒状の構造物群を4つとした構造の斜視図である。
【図50】図49の構造のシミュレーション結果を示す図である。
【図51】3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。
【図52】図51の構造のシミュレーション結果を示す図である。
【図53】図51の構造のシミュレーション結果を示す図である。
【図54】周波数調整の実験結果を示す図である。
【図55】周波数調整の実験結果を示す図である。
【図56】周波数調整の実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
金属ケース内に遮断板を設けることによって、金属ケース内の電磁波伝播を抑制する方法では、遮断板単体の共振や複数の遮断板間の空洞共振などがフィルタ特性に悪影響を与える場合がある。金属ケース内に設けた遮断板は、その存在によって金属ケース内を伝播する電磁波を遮断し、フィルタの阻止帯域の減衰量を増大させることが目的の一つである。しかし、フィルタの中心周波数近傍に金属ケースの共振が存在すると、その共振によって阻止帯域に通過帯域が形成されてしまうおそれがある。
【0010】
また、導体の遮断板、あるいは誘電損失の大きな誘電体の遮断板を設けた場合には、遮断板自体の損失によって、フィルタの挿入損失が劣化する問題を生ずる。これは、平面フィルタの損失が極めて少ない場合、例えば平面フィルタの導体部分を超伝導体によって構成した場合などに顕著なものとなる。なお、一般的に誘電体の誘電率が高いほど誘電損失も高い。
【0011】
さらに、狭帯域のバンドパスフィルタを製作する場合には、フィルタを構成する複数の共振器の周波数を厳密に合わせこむ必要があるため、平面フィルタ作成後にフィルタ外部から共振周波数の調整を行わなければならないことも多い。遮断板の存在はこのような外部からの周波数調整を困難にする。
【0012】
以下、図面を参照しつつ、実施の形態について説明する。なお、図中、同一または類似の部分には同一の番号を付する。
【0013】
(第1の実施の形態)
本実施の形態のフィルタは、入力線路、複数の共振器、出力線路を備え、通過帯域の中心周波数f0のマイクロストリップライン型の平面フィルタと、平面フィルタを囲む金属ケースと、入力線路から出力線路に向かう電磁波の進行方向の間隔、または電磁波が金属ケース内で共振することによって発生する定在波の波面に対して垂直な方向の間隔が中心周波数f0の電気長にして1/5波長から1/2波長で、金属ケース内に配置される誘電体を含む複数の構造物を備える。本実施の形態では、構造物は板状である。
【0014】
なお、本明細書中、2つの構造物の間隔は、それぞれの構造物の重心から重心の距離で代表させるものとする。
【0015】
マイクロストリップ型平面フィルタを外部環境から独立させるためには、周囲を金属ケースで覆うことが簡単な解決手段である。しかしながら、金属ケースで覆った場合には、金属ケースが導波管として作用し、この導波管の伝播モードを介してフィルタの入出力が結合してしまう。
【0016】
このために、上面解放の平面フィルタの特性と比較して、余計な電磁波の伝播経路が追加されるために、フィルタの帯域外の減衰量が低下する。すなわち、バックグラウンドレベルが上昇する。
【0017】
これを回避するために、本実施の形態では、金属ケース内に誘電体の構造物を設け電磁波の伝播を阻害する。もっとも、誘電体の構造物はそれ自体も共振器として作用するために、その共振周波数近傍に通過域を形成してしまう。この通過域が平面フィルタの中心周波数f0近傍に存在すると、平面フィルタの通過特性に悪影響を与えたり、平面フィルタの帯域外減衰量を低下させたりする。
【0018】
この問題を回避するために、フィルタの入力線路から出力線路に向かって金属ケース内を伝播する電磁波の進行方向、またはこの電磁波が金属ケース内で共振することによって発生する定在波の波面に対して垂直な方向に、平面フィルタの通過帯域の中心周波数f0の電気長にして概ね1/5(5分の1)波長から1/2(2分の1)波長の間隔で、複数の誘電体の構造物を配置する。
【0019】
図1は、本実施の形態のフィルタを示す斜視図である。本実施の形態のフィルタは、平面フィルタ101、平面フィルタ101を囲む金属ケース102、金属ケース内に配置される誘電体を含む2つの構造物103を備えている。
【0020】
平面フィルタ101は、下面にグランドプレーン、上面にフィルタ回路パターンが形成された誘電体基板であるマイクロストリップライン型平面フィルタ基板を用いて形成される。すなわち、マイクロストリップライン型の平面フィルタである。
【0021】
平面フィルタは左右に入力線路101a、出力線路101bを備え、12個の短冊形の共振器101cによって形成される12段のチェビシェフ型バンドパスフィルタである。フィルタの中心周波数f0は、例えば10GHzである。
【0022】
フィルタの入出力の取り出しは、この金属ケースの左右に同軸−マイクロストリップ変換コネクタを取り付けるなどして行うことができる。
【0023】
構造物103は、フィルタの入力線路101aから出力線路101bに向かって金属ケース内を伝播する電磁波の進行方向、または、上記電磁波が金属ケース102内で共振することによって発生する定在波の波面に対して垂直な方向に、平面フィルタの通過帯域の中心周波数f0の電気長にして概ね1/5波長から1/2波長の間隔で配置された2つの誘電体である。本実施の形態において、誘電体の構造物の形状は板状である。
【0024】
構造物を誘電体とすることで、渦電流の発生等による電力損失を抑制することができる。
【0025】
上記の構造物によって得られる効果を、3次元電磁界シミュレーションの結果に基づき以下で順に説明する。
【0026】
図2は、3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。金属ケース102内に誘電体の構造物がない場合である。以下のシミュレーションでは金属ケースを導波管とみなした場合の特性を計算している。
【0027】
図3は、図2の構造のシミュレーション結果を示す図である。金属ケース102の左右の面201および202を入出力ポートとして、その通過特性を計算した結果を図3に示す。
【0028】
図3のグラフの横軸は周波数(6GHz〜14GHz)であり、縦軸はポート間の通過量(−20〜0dB)である。図2のように、金属ケース102内に誘電体の構造物がない場合には、この周波数範囲においては、ほぼ全通過となっている。
【0029】
図4は、3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。金属ケース102内に一つの誘電体の構造物401を配置した場合である。
【0030】
図5は、図4の構造のシミュレーション結果を示す図である。金属ケース102の左右の面402および403を入出力ポートとして、その通過特性を計算した結果を図5に示す。
【0031】
図5のグラフの横軸は周波数(6GHz〜14GHz)であり、縦軸はポート間の通過量(−20〜0dB)である。図5によると、誘電体の構造物401による反射によって、この周波数域全体にわたって通過量が下がるが、構造物自体の共振によって、501と502に通過ピークが現れている。なお、周波数が上がるほど通過量の低下は小さい。
【0032】
図6は、3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。金属ケース102内に2つの誘電体の構造物601を配置した場合である。ここで、2つの誘電体構造物601間の距離604は、平面フィルタの中心周波数10GHzにおける電気長にしてλ/3である。
【0033】
図7は、図6の構造のシミュレーション結果を示す図である。金属ケース102の左右の面602および603を入出力ポートとして、その通過特性を計算した結果を図7に示す。
【0034】
図7のグラフの横軸は周波数(6GHz〜14GHz)であり、縦軸はポート間の通過量(−20〜0dB)である。図7を図5と比較すると、誘電体構造物の数を1つから2つに増やしたことによって、2つの誘電体同士が電磁気的に結合し、図5における通過ピーク501と502が、図7においては通過ピーク群701と702に変化している。また701と702の間の周波数帯においては、図5と比較して通過量が更に下がっている。
【0035】
図8、図9は、図6における2つの誘電体構造物601間の距離604を変化させた場合の通過特性を示す図である。距離604を中心周波数10GHzの電気長にしてλ/6からλ/1.8まで変化させている。図8(a)、(b)、(c)、(d)、(e)はそれぞれ、距離604が、λ/6、λ/5、λ/4.3、λ/3.3、λ/3の場合である。また、図9(a)、(b)、(c)、(d)はそれぞれ、距離604が、λ/2.7、λ/2.3、λ/2、λ/1.8の場合である。
【0036】
距離604がλ/5からλ/2の場合には、構造物601に起因する通過ピークは、平面フィルタの中心周波数10GHzから離れている。距離604を短くするに従って、構造物同士の電磁気的な結合が強まり、図7における通過ピーク群701および702が広がる傾向にある。そして、距離604をλ/6とすると、平面フィルタの中心周波数10GHzに通過ピーク801が近接する。
【0037】
逆に距離604を長くすると、構造体601間の空洞共振の周波数が下がる傾向にあり、距離604をλ/1.8とすると、平面フィルタの中心周波数10GHzに通過ピーク901が近接する。
【0038】
したがって、距離604が概ねλ/5からλ/2の範囲で、構造物601自身または構造物601間の共振に邪魔されずに、平面フィルタの中心周波数近傍の通過量を下げることができる。距離604がλ/4.3からλ/2.3の範囲であることがより望ましい。
【0039】
図10は、3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。金属ケース内の構造物の数を、図10(a)、(b)、(c)に示すように、3つ、4つ、5つと増やした場合である。なお誘電体構造物間の距離はすべてλ/3である。
【0040】
図11は、図10の構造のシミュレーション結果を示す図である。金属ケースの左右の面を入出力ポートとして、その通過特性を計算した結果を図11に示す。図11(a)、(b)、(c)がそれぞれ、図10(a)、(b)、(c)の構造に対応する。図11のグラフの横軸は周波数(6GHz〜14GHz)であり、縦軸はポート間の通過量(−40〜0dB)である。
【0041】
構造物の数を増やすにしたがって、平面フィルタの中心周波数10GHz付近の通過量が低下するが、構造物に起因する通過ピーク群の周波数にそれほど変化はない。このことから、入出力間のアイソレーションを向上させるためには、構造物間の距離をλ/5からλ/2、望ましくはλ/3程度とし、構造物の数を増やすことが効果的であるといえる。
【0042】
以上、本実施の形態のフィルタによれば、板状の誘電体の構造物を複数所定の間隔で配置することにより、平面フィルタの特性に影響を与えることなく、金属ケース内の電磁波伝播を抑制し、平面フィルタ本来の特性を実現したフィルタを提供することが可能となる。
【0043】
(第2の実施の形態)
本実施の形態のフィルタは、金属ケース内に配置される誘電体を含む複数の構造物が、入力線路から出力線路に向かう電磁波の進行方向に対し垂直な方向、または、金属ケース内で共振することによって発生する定在波の波面に平行な方向に配置される複数の棒状の誘電体である点で第1の実施の形態と異なっている。以下、第1の実施の形態と重複する内容については、記述を省略する。
【0044】
図12は、本実施の形態のフィルタを示す斜視図である。本実施の形態のフィルタは、平面フィルタ1201、平面フィルタ1201を囲む金属ケース1202、金属ケース内に配置される誘電体を含む複数の構造物対1203〜1206を備えている。構造物対1203〜1206はそれぞれ、2つの棒状の構造物で構成される。なお、2つの棒状の構造物をまとめて構造物対と呼ぶことにする。
【0045】
平面フィルタ1201は、下面にグランドプレーン、上面にフィルタ回路パターンが形成された誘電体基板であるマイクロストリップライン型平面フィルタ基板を用いて形成される。すなわち、マイクロストリップライン型の平面フィルタである。
【0046】
平面フィルタは左右に入力線路1201a、出力線路1201bを備え、12個の短冊形の共振器1201cによって形成される12段のチェビシェフ型バンドパスフィルタである。フィルタの中心周波数f0は10GHzである。
【0047】
フィルタの入出力の取り出しは、この金属ケースの左右に同軸−マイクロストリップ変換コネクタを取り付けるなどして行うことができる。
【0048】
構造物対1203〜1206は、フィルタの入力線路1201aから出力線路1201bに向かって金属ケース内を伝播する電磁波の進行方向(Y方向)、または、上記電磁波が金属ケース1202内で共振することによって発生する定在波の波面に対して垂直な方向に、平面フィルタの通過帯域の中心周波数f0の電気長にして概ね1/5波長から1/2波長の間隔で配置されている。本実施の形態において、構造物対は、2本の棒状の構造物であり、棒状の構造物の上部の太い部分1203a〜1206aは金属、下部の細い部分1203b〜1206bが誘電体によって形成されている。2本の棒状の構造物は、入力線路1201aから出力線路1201bに向かう電磁波の進行方向に対し垂直な方向(X方向)、または、金属ケース内で共振することによって発生する定在波の波面に平行な方向に並んで配置される。
【0049】
上記の構造物によって得られる効果を、3次元電磁界シミュレーションの結果に基づき以下で順に説明する。
【0050】
図13は、3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。平面フィルタ1301、金属ケース1302を備える。金属ケース1302内に誘電体の構造物がない場合である。電磁波の分布を分かりやすく示すために、図13では、図12に比較して金属ケース1302の長さを長くしている。以下のシミュレーションを行うフィルタの構造でも同様である。
【0051】
図14は、図13の構造のシミュレーション結果を示す図である。金属ケースの左右の面1303および1304を入出力ポートとして、その通過特性を計算した結果を図14に示す。図14のグラフの横軸は周波数(0GHz〜12GHz)であり、縦軸はポート間の通過量(−100〜0dB)である。
【0052】
この金属ケースのカットオフ周波数はおよそ5GHzであり、カットオフ周波数以上ではほぼ全通過となっている。
【0053】
図15は、10GHzでの金属ケース内の電場分布を示す図である。この図のみからは判別できないが、計算機上で入力位相を変化させて電場ベクトルの動きを観測すると、この電場は図15の左側から右側へと向かう進行波である。
【0054】
図16は、3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。金属ケース内に電磁波の進行方向とは垂直に2つの棒状の構造物1601および1602を配置した場合である。
【0055】
図17は、図16の構造のシミュレーション結果を示す図である。金属ケースの左右の面1303および1304を入出力ポートとして、その通過特性を計算した結果を図17に示す。図17のグラフの横軸は周波数(8GHz〜12GHz)であり、縦軸はポート間の通過量(−40〜0dB)である。
【0056】
構造物を2つ配置したことにより通過量は約−8dBに下がっている。
【0057】
図18は、10GHzでの金属ケース内の電場分布を示す図である。この図のみからは判別できないが、計算機上で入力位相を変化させて電場ベクトルの動きを観測すると、この電場は構造物より左側では定在波、右側では右向きの進行波となっており、通過量が約−8dBに下がった原因は、構造物が2つ並んだ面(XZ面)において電磁波が反射されたためであることが分かる。
【0058】
図19は、3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。金属ケース内に2つの棒状の構造物対1901および1902を配置して反射面を2つ作り、共振器構造とした場合である。2つの棒状の構造物対の電磁波の進行方向の間隔は約λ/1.5である。
【0059】
図20は、図19の構造のシミュレーション結果を示す図である。金属ケースの左右の面1303および1304を入出力ポートとして、その通過特性を計算した結果を図20に示す。図20の横軸は周波数(8GHz〜12GHz)、縦軸は通過量(−40dB〜0dB)である。
【0060】
図21は、10GHzでの金属ケース内の電場分布を示す図である。電磁波の伝播方向と垂直に2つ並んだ棒状の構造物対が反射面となるために、2つの反射面の間で電磁波が往復し、構造物間に電界が集中するモードで共振していることが分かる。
【0061】
図22は、3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。金属ケース内に3つの棒状の構造物対2201、2202および2203を配置して、導波管内に共振器構造を2つ作った場合である。棒状の構造物対の電磁波の進行方向の間隔は約λ/1.5である。
【0062】
図23は、図22の構造のシミュレーション結果を示す図である。金属ケースの左右の面1303および1304を入出力ポートとして、その通過特性を計算した結果を図20に示す。図23のグラフの横軸は周波数(1GHz〜12GHz)、縦軸は通過量(−140dB〜0dB)である。
【0063】
図23のグラフによると、10GHz近傍においては2つのピーク2304、2305があり、3GHz〜5GHzに3つのピーク2301、2302、2303がある。
【0064】
図24〜図28は、図23のグラフの各共振ピーク2301〜2305における電場分布をそれぞれ示す図である。図24から図28によると明らかなように、2301、2302、2303の3つの共振ピークは棒状の構造物対自体がそれぞれ共振器となって共振していることが分かる。また電場分布のパターン(図24は↓↓↓、図25は↓0↑、図26は↓↑↓)から、これらは3つの共振器がそれぞれ隣接する共振器と結合している場合の典型的なパターンであることも分かる。また、図27および図28から2304、2305の共振ピークは、構造物対間が1つの共振器として働く共振モードであることも分かる。
【0065】
構造物対の数と通過量との関係は以下のようになっている。図29は、3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。図29(a)〜(e)で、棒状の構造物対の数を1つから5つまで変化させた場合である。棒状の構造物対の電磁波の進行方向の間隔は約λ/2.5である。
【0066】
図30は、図29の構造のシミュレーション結果を示す図である。図30(a)〜(e)それぞれが、図29(a)〜(e)それぞれの計算結果に対応する。金属ケースの左右の面1303および1304を入出力ポートとして、その通過特性を計算した結果を図30に示す。図30のグラフの横軸は周波数(8GHz〜12GHz)、縦軸は通過量(−100dB〜0dB)である。
【0067】
図30によると、構造物対の数を増やすほど、通過量の低下を大きくすることができ、フィルタ入出力間のアイソレーションを高めることができる。また、構造物を2本の棒状の構造物とすることで、板状の場合と比較して、高次の共振モードが少ないために、アイソレーションの高い周波数領域を広くすることができる。
【0068】
図31は、構造物対間隔を変化させた場合のシミュレーション結果を示す図である。構造物対の数が5つの場合において、構造物対間隔を中心周波数10GHzの電気長にしてλ/5〜λ/1.8まで変化させた場合の通過特性の計算結果である。図31のグラフの横軸は周波数(8GHz〜12GHz)、縦軸は通過量(−100dB〜0dB)である。
【0069】
構造物対間隔が狭い場合には低周波側に共振ピークが現れ、広い場合には高周波側に共振ピークが現れている。前述のように、低周波側の共振ピークは構造物対自体が共振器として作用する共振モードであり、高周波側の共振ピークは構造物対間が共振器として作用する共振モードである。構造物対間隔がλ/5〜λ/2の範囲においては平面フィルタの中心周波数である10GHz近傍で通過量の低下が大きい領域があり、フィルタ入出力間のアイソレーションを高めることができる。
【0070】
以上、本実施の形態のフィルタによれば、棒状の誘電体の構造物を複数所定の間隔で配置することにより、平面フィルタの特性に影響を与えることなく、金属ケース内の電磁波伝播を抑制し、平面フィルタ本来の特性を実現したフィルタを提供することが可能となる。
特に、構造物を2本の棒状の構造物対とすることで、板状の場合と比較して、高次の共振モードが少ないために、アイソレーションの高い周波数領域を広くすることができ、金属ケース内の電磁波伝播の抑制を一層容易に実現することができる。
【0071】
(第3の実施の形態)
本実施の形態のフィルタは、入力線路、複数の共振器、出力線路を備え、通過帯域の中心周波数f0のマイクロストリップライン型の平面フィルタと、平面フィルタを囲む金属ケースと、入力線路から出力線路に向かう電磁波の進行方向の間隔、または電磁波が金属ケース内で共振することによって発生する定在波の波面に対して垂直な方向の間隔が中心周波数f0の電気長にして1/5波長から1/2波長で、金属ケース内に配置される誘電体を含む複数の構造物を備える。
【0072】
そして、構造物が、電磁波の進行方向に対し垂直な方向、または、定在波の波面に平行な方向に配置される複数、ここでは6本の棒状の誘電体を含む。そして、6本の棒状の誘電体が、それぞれ、中心周波数f0の電気長にして1/5波長から1/2波長の間隔で配置される。
【0073】
また、構造物が、棒状の誘電体を長手方向に上下移動させる可動機構を備える。そして、共振器の直上に棒状の誘電体が配置される構造となっている。この可動機構が、誘電体に接続される金属部をそなえ、金属部が金属ケースの外側に突出しており、突出した金属部の一部を回転させることで誘電体を棒の長手方向に可動させる。そして、棒状の誘電体を上下させることで共振器の中心周波数の調整が可能である。
【0074】
さらに、平面フィルタ基板の導体部分が超電導体である。
【0075】
図32は、本実施の形態のフィルタを示す斜視図である。本実施の形態のフィルタは、平面フィルタ3201、平面フィルタ3201を囲む金属ケース3202、金属ケース3202内に配置される誘電体を含む複数の構造物3203、3204、3205、3206を備えている。
【0076】
平面フィルタ3201は、は、下面にグランドプレーン、上面にフィルタ回路パターンが形成された誘電体基板であるマイクロストリップライン型平面フィルタ基板を用いて形成される。すなわち、マイクロストリップライン型の平面フィルタである。
【0077】
平面フィルタは左右に入力線路3201a、出力線路3201bを備え、8個のヘアピン形の共振器3201cによって形成された8段の擬似楕円関数型バンドパスフィルタである。フィルタの中心周波数f0は10GHzである。
【0078】
フィルタの入出力の取り出しは、この金属ケースの左右に同軸−マイクロストリップ変換コネクタを取り付けるなどして行うことができる。
【0079】
構造物3203、3204、3205、3206は、フィルタの入力線路3201aから出力線路3201bに向かって金属ケース内を伝播する電磁波の進行方向(Y方向)、または、上記電磁波が金属ケース3202内で共振することによって発生する定在波の波面に対して垂直な方向に、平面フィルタの通過帯域の中心周波数f0の電気長にして概ね1/5波長から1/2波長の間隔で配置された6本の棒状の構造物である、棒状の構造物の上部の太い部分3203a〜3206aは金属、下部の細い部分3203b〜3206bが誘電体によって形成されている。
【0080】
上記の構造物によって得られる効果を、3次元電磁界シミュレーションの結果に基づき以下で順に説明する。
【0081】
図33は、3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。平面フィルタ3301が金属ケース3302に囲まれ、金属ケース3302内には、誘電体の構造物がない場合である。平面フィルタ3301のフィルタ回路パターンは記載を省略している。
【0082】
図34は、図33の構造のシミュレーション結果を示す図である。金属ケースの左右の面3303および3304を入出力ポートとして、その通過特性を計算した結果を図34に示す。図34のグラフの横軸は周波数(1〜16GHz)であり、縦軸はポート間の通過量(−25〜0dB)である。
【0083】
この金属ケースのカットオフ周波数はおよそ2.4GHzであり、カットオフ周波数以上では、ほぼ全通過となっている。
【0084】
図35は、10GHzでの金属ケース内の電場分布を示す図である。この図のみからは判断できないが、計算機上で入力位相を変化させて電場ベクトルの動きを観測すると、この電場は図35の左側から右側へ向かう進行波である。
【0085】
図36は、3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。金属ケース内に電磁波の進行方向とは垂直に6つの棒状の誘電体の構造物3601、3602、3603、3604、3605、3606を配置した場合である。棒状の構造物の電磁波の進行方向の間隔は約λ/3である。平面フィルタ3301のフィルタ回路パターンは記載を省略している。
【0086】
図37は、図36の構造のシミュレーション結果を示す図である。金属ケースの左右の面3303および3304を入出力ポートとして、その通過特性を計算した結果を図37に示す。図37のグラフの横軸は周波数(8〜12GHz)であり、縦軸はポート間の通過量(−25〜0dB)である。
【0087】
構造物を6つ配置したことにより通過量は約−5dBに下がっている。
【0088】
図38は、10GHzでの金属ケース内の電場分布を示す図である。この図のみからは判断できないが、計算機上で入力位相を変化させて電場ベクトルの動きを観測すると、この電場は構造物より左側では定在波、右側では右向きの進行波となっており、通過量が約−5dBに下がった原因は構造物が6つ並んだ面(XZ面)において電磁波が反射されたためであることが分かる。
【0089】
図39は、3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。金属ケース内に、2つの構造物群3901および3902を配置して反射面を2つ形成し共振器構造とした場合である。なお、6つの棒状の構造物をまとめて構造物群と呼ぶことにする。2つの構造物群の電磁波の進行方向の間隔は約λ/1.5である。平面フィルタ3301のフィルタ回路パターンは記載を省略している。
【0090】
図40は、図39の構造のシミュレーション結果を示す図である。金属ケースの左右の面3303および3304を入出力ポートとして、その通過特性を計算した結果を図40に示す。図40のグラフの横軸は周波数(8〜12GHz)であり、縦軸はポート間の通過量(−14〜0dB)である。
【0091】
2つの構造物群を用いることで、共振器構造ができ約9.4GHzにおいて共振ピークが見られる。
【0092】
図41は、9.4GHzでの金属ケース内の電場分布を示す図である。電磁波の伝播方向と垂直に2つ並んだ構造物群が反射面となるために、2つの反射面の間で電磁波が往復し、構造物群間に電界が集中するモードで共振していることが分かる。
【0093】
図42は、図39の構造の低周波側のシミュレーション結果を示す図である。図42の横軸は周波数(1〜12GHz)、縦軸は通過量(−40〜0dB)である。
【0094】
この結果によると、約2GHz、約3.1GHz、約9.4GHzにそれぞれ図中に4201、4202、4203で示した3つの通過ピークが見られる。なお、ピーク4201が0dB以上となっているのは、金属ケースのカットオフ付近で計算が発散したためであり、物理的には0dBであると考えられる。
【0095】
まず、ピーク4203は図41を用いて説明した構造物群間の共振によるものである。一方ピーク4201とピーク4202の要因を調べるために、それぞれの周波数における電場分布を計算した。
【0096】
図43は、2GHzでの金属ケース内の電場分布を示す図である。図44は、3.1GHzでの金属ケース内の電場分布を示す図である。
【0097】
図43および図44から明らかに、ピーク4201およびピーク4202の2つのピークは構造物群自体がそれぞれ共振器となって共振することに起因する。また電場分布のパターン(図43は同位相、図44は逆位相)から、これらは2つの共振器がそれぞれ隣接する共振器と結合している場合の典型的なパターンであることも分かる。
【0098】
また、図42によると、ピーク4201、ピーク4202の2つのピークとピーク4203の間の周波数範囲4204には通過量の低い、電磁波の伝播が抑制された領域が存在することが分かる。したがって、このような領域が平面フィルタの周波数である10GHz近傍となるように、構造物群の間隔を所定の範囲内に納めれば、平面フィルタの帯域外減衰量を大きくすることができる。この所定の範囲内とは第2の実施の形態の場合と概ね一致しており、フィルタの通過帯域の中心周波数f0の電気長にしておよそλ/5〜λ/2の範囲となっている。
【0099】
図45は、3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。金属ケース内に、2つの棒状の構造物群4501および4502を、構造物群の間隔がλ/2.5となるように配置した場合である。平面フィルタ3301のフィルタ回路パターンは記載を省略している。
【0100】
図46は、図45の構造のシミュレーション結果を示す図である。金属ケースの左右の面3303および3304を入出力ポートとして、その通過特性を計算した結果を図40に示す。図46の横軸は周波数(1〜12GHz)、縦軸は通過量(−60〜0dB)である。
【0101】
図46から明らかに平面フィルタの中心周波数である10GHz近傍では通過量が約−16dB程度に抑制されていることが分かる。
【0102】
図47は、図45に対し棒状の構造物群を3つとした構造の斜視図である。図49は、図45に対し棒状の構造物群を4つとした構造の斜視図である。図47と図49において構造物群の間隔はどちらもλ/2.5である。
【0103】
図48、図50は、それぞれ図47、図49の構造のシミュレーション結果を示す図である。図48および図50の横軸は周波数(1〜12GHz)、縦軸は通過量(−60〜0dB)である。
【0104】
構造物群の数を増やすにしたがって、平面フィルタの周波数10GHz近傍での通過量が低下しており、構造物群の数を増やすことが平面フィルタの帯域外減衰量を大きくするのに効果的であることが分かる。
【0105】
上述のように、6本の棒状の構造物それぞれの図中X方向の間隔もまた平面フィルタの通過帯域の中心周波数f0の電気長にして概ね1/5波長から1/2波長の間隔で配置されている。このように配置することで、図中の奥行き方向(X方向)への電磁波の伝播も抑制することができる。このことは、金属ケースの奥行き方向の共振モードを抑制する効果をもたらす。
【0106】
図51において、棒状の構造物の奥行き方向の間隔はすべてλ/3である。図51は、3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。金属ケースおよび構造物の配置は図32と同じである。
【0107】
図52、図53は、図51の構造のシミュレーション結果を示す図である。金属ケースの左右の面5101および5102を入出力ポートとして、その通過特性を計算した結果を図52に示す。また、奥行き方向(X方向)の面5103および5104を入出力ポートとしてその通過特性を計算した結果を図53に示す。図52の横軸は周波数(4〜14GHz)、縦軸は通過量(−60〜0dB)である。図53の横軸は周波数(4〜14GHz)、縦軸は通過量(−80〜0dB)である。
【0108】
図52、図53どちらの場合も平面フィルタの周波数10GHz近傍で通過が抑制されていることが分かる。
【0109】
さらに、上述のように、本実施の形態においては、棒状の誘電体を長手方向に上下移動させる可動機構を備える。棒状の構造物の構成は、図32に示すように、棒の長手方向に誘電体3203a〜3206aと金属部3203b〜3206bとが重ねられたものである。そして、金属部が金属ケースの外側に突出しており、例えば、突出した金属部分の一部を回転させることで誘電体を棒の長手方向に上下移動させることができる構成になっている。金属部と誘電体部とは接着されており、金属ケースの外部から誘電体部を上下させることができ、かつ全体が金属で覆われた構成にすることができる。
【0110】
さらに、共振器3201cの直上に棒状の誘電体が配置される。いいかえれば、平面フィルタを構成する複数の共振器3201cの配置は、共振器3201cの位置が誘電体の構造物の下となるようになっており、棒状の誘電体の可動によって共振器の中心周波数の調整が可能である。これによって、金属ケース内の電磁波伝播を抑制しつつ、微妙な周波数調整が可能となるため、特に狭帯域のフィルタで有効である。
【0111】
一例として、図32のような構造を用いて、フィルタの周波数を9700MHz、9750MHz、9800MHzに調整する実験をした。図54、55、56は、周波数調整の実験結果を示す図である。図54、図55、図56において、横軸は周波数(9650〜9850MHz)、縦軸はフィルタ通過量(−100〜0dB)である。
【0112】
このように、微妙な周波数調整を可能にすることで、フィルタの周波数を変化させることもできる。また、構造物の金属部3203b〜3206bが外部からの電磁波を遮断するという利点もある。
【0113】
また、この平面フィルタの導体部分は超電導体で構成されている。図32における入力線路3201a、出力線路3201b、共振器3201cのパターン部分が超電導薄膜によって形成されている。また、この図には表示されていないが基板のパターンとは反対の面のグランドプレーンも超電導薄膜によって形成されている。
【0114】
以上、本実施の形態のフィルタによれば、棒状の誘電体の構造物を複数所定の間隔で配置することにより、平面フィルタの特性に影響を与えることなく、金属ケース内の電磁波伝播を抑制し、平面フィルタ本来の特性を実現したフィルタを提供することが可能となる。
【0115】
また、棒状の構造物の可動によって共振器の中心周波数の調整が可能である。これによって、別途、調整機構を設けることなく、金属ケース内の電磁波伝播を抑制しつつ、微妙な周波数調整が可能となる。
【0116】
さらに、平面フィルタの導体部分は超伝導体で構成される。したがって、低損失なフィルタが実現される。
【0117】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。上記、実施の形態はあくまで、例として挙げられているだけであり、本発明を限定するものではない。また、実施の形態の説明においては、フィルタ等で、本発明の説明に直接必要としない部分等については記載を省略したが、必要とされるフィルタ等に関わる要素を適宜選択して用いることができる。
【0118】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全てのフィルタが、本発明の範囲に包含される。本発明の範囲は、特許請求の範囲およびその均等物の範囲によって定義されるものである。
【符号の説明】
【0119】
101 平面フィルタ
101a 入力線路
101b 出力線路
101c 共振器
102 金属ケース
103 構造物
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロストリップライン型のような片面開放型の平面フィルタは、作成および調整等が簡単に行えるメリットがある。しかし、片面が解放されているために外部環境の影響を受けやすく、また逆に電磁波を放射して外部にも影響を与えるデメリットがあり、この傾向は周波数が高くなるほど顕著である。このデメリットを防ぐための一つの簡便な方法は平面フィルタを金属ケース内に封入し、金属ケース内外の不要な電磁波の行き来を完全にシャットアウトすることである。
【0003】
しかしながら、平面フィルタを金属ケースで囲うことは別の問題を発生させる。それは金属ケースの空洞モード共振によるものである。例えば、平面フィルタへの入力電力が空洞モード共振を励起し、これが平面フィルタの出力線にピックアップされることによって、平面フィルタの設計上は意図していない周波数帯に通過帯域が発生したり、フィルタの周波数特性を大きく劣化させたりする。
【0004】
上記の問題を解決するための方法としては、導体や高誘電率誘電体などで構成された不要高次モード遮断板を用いる方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−269704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであり、その目的とするところは、平面フィルタの特性に影響を与えることなく、金属ケース内の電磁波伝播を抑制し、平面フィルタ本来の特性を実現したフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施の形態のフィルタは、入力線路、複数の共振器、出力線路を有し、通過帯域の中心周波数f0のマイクロストリップライン型の平面フィルタと、前記平面フィルタを囲む金属ケースと、前記入力線路から前記出力線路に向かう電磁波の進行方向の間隔、または前記電磁波が前記金属ケース内で共振することによって発生する定在波の波面に対して垂直な方向の間隔が中心周波数f0の電気長にして1/5波長から1/2波長で、前記金属ケース内に配置される誘電体を含む複数の構造物と、を備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1の実施の形態のフィルタを示す斜視図である。
【図2】3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。
【図3】図2の構造のシミュレーション結果を示す図である。
【図4】3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。
【図5】図4の構造のシミュレーション結果を示す図である。
【図6】3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。
【図7】図6の構造のシミュレーション結果を示す図である。
【図8】図6における2つの誘電体構造物間の距離を変化させた場合の通過特性を示す図である。
【図9】図6における2つの誘電体構造物間の距離を変化させた場合の通過特性を示す図である。
【図10】3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。
【図11】図10の構造のシミュレーション結果を示す図である。
【図12】第2の実施の形態のフィルタを示す斜視図である。
【図13】3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。
【図14】図13の構造のシミュレーション結果を示す図である。
【図15】10GHzでの金属ケース内の電場分布を示す図である。
【図16】3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。
【図17】図16の構造のシミュレーション結果を示す図である。
【図18】10GHzでの金属ケース内の電場分布を示す図である。
【図19】3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。
【図20】図19の構造のシミュレーション結果を示す図である。
【図21】10GHzでの金属ケース内の電場分布を示す図である。
【図22】3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。
【図23】図22の構造のシミュレーション結果を示す図である。
【図24】図23のグラフの共振ピークにおける電場分布を示す図である。
【図25】図23のグラフの共振ピークにおける電場分布を示す図である。
【図26】図23のグラフの共振ピークにおける電場分布を示す図である。
【図27】図23のグラフの共振ピークにおける電場分布を示す図である。
【図28】図23のグラフの共振ピークにおける電場分布を示す図である。
【図29】3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。
【図30】図29の構造のシミュレーション結果を示す図である。
【図31】構造物対間隔を変化させた場合のシミュレーション結果を示す図である。
【図32】第3の実施の形態のフィルタを示す斜視図である。
【図33】3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。
【図34】図33の構造のシミュレーション結果を示す図である。
【図35】10GHzでの金属ケース内の電場分布を示す図である。
【図36】3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。
【図37】図36の構造のシミュレーション結果を示す図である。
【図38】10GHzでの金属ケース内の電場分布を示す図である。
【図39】3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。
【図40】図39の構造のシミュレーション結果を示す図である。
【図41】9.4GHzでの金属ケース内の電場分布を示す図である。
【図42】図39の構造の低周波側のシミュレーション結果を示す図である。
【図43】2GHzでの金属ケース内の電場分布を示す図である。
【図44】3.1GHzでの金属ケース内の電場分布を示す図である。
【図45】3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。
【図46】図45の構造のシミュレーション結果を示す図である。
【図47】図45に対し棒状の構造物群を3つとした構造の斜視図である。
【図48】図47の構造のシミュレーション結果を示す図である。
【図49】図45に対し棒状の構造物群を4つとした構造の斜視図である。
【図50】図49の構造のシミュレーション結果を示す図である。
【図51】3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。
【図52】図51の構造のシミュレーション結果を示す図である。
【図53】図51の構造のシミュレーション結果を示す図である。
【図54】周波数調整の実験結果を示す図である。
【図55】周波数調整の実験結果を示す図である。
【図56】周波数調整の実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
金属ケース内に遮断板を設けることによって、金属ケース内の電磁波伝播を抑制する方法では、遮断板単体の共振や複数の遮断板間の空洞共振などがフィルタ特性に悪影響を与える場合がある。金属ケース内に設けた遮断板は、その存在によって金属ケース内を伝播する電磁波を遮断し、フィルタの阻止帯域の減衰量を増大させることが目的の一つである。しかし、フィルタの中心周波数近傍に金属ケースの共振が存在すると、その共振によって阻止帯域に通過帯域が形成されてしまうおそれがある。
【0010】
また、導体の遮断板、あるいは誘電損失の大きな誘電体の遮断板を設けた場合には、遮断板自体の損失によって、フィルタの挿入損失が劣化する問題を生ずる。これは、平面フィルタの損失が極めて少ない場合、例えば平面フィルタの導体部分を超伝導体によって構成した場合などに顕著なものとなる。なお、一般的に誘電体の誘電率が高いほど誘電損失も高い。
【0011】
さらに、狭帯域のバンドパスフィルタを製作する場合には、フィルタを構成する複数の共振器の周波数を厳密に合わせこむ必要があるため、平面フィルタ作成後にフィルタ外部から共振周波数の調整を行わなければならないことも多い。遮断板の存在はこのような外部からの周波数調整を困難にする。
【0012】
以下、図面を参照しつつ、実施の形態について説明する。なお、図中、同一または類似の部分には同一の番号を付する。
【0013】
(第1の実施の形態)
本実施の形態のフィルタは、入力線路、複数の共振器、出力線路を備え、通過帯域の中心周波数f0のマイクロストリップライン型の平面フィルタと、平面フィルタを囲む金属ケースと、入力線路から出力線路に向かう電磁波の進行方向の間隔、または電磁波が金属ケース内で共振することによって発生する定在波の波面に対して垂直な方向の間隔が中心周波数f0の電気長にして1/5波長から1/2波長で、金属ケース内に配置される誘電体を含む複数の構造物を備える。本実施の形態では、構造物は板状である。
【0014】
なお、本明細書中、2つの構造物の間隔は、それぞれの構造物の重心から重心の距離で代表させるものとする。
【0015】
マイクロストリップ型平面フィルタを外部環境から独立させるためには、周囲を金属ケースで覆うことが簡単な解決手段である。しかしながら、金属ケースで覆った場合には、金属ケースが導波管として作用し、この導波管の伝播モードを介してフィルタの入出力が結合してしまう。
【0016】
このために、上面解放の平面フィルタの特性と比較して、余計な電磁波の伝播経路が追加されるために、フィルタの帯域外の減衰量が低下する。すなわち、バックグラウンドレベルが上昇する。
【0017】
これを回避するために、本実施の形態では、金属ケース内に誘電体の構造物を設け電磁波の伝播を阻害する。もっとも、誘電体の構造物はそれ自体も共振器として作用するために、その共振周波数近傍に通過域を形成してしまう。この通過域が平面フィルタの中心周波数f0近傍に存在すると、平面フィルタの通過特性に悪影響を与えたり、平面フィルタの帯域外減衰量を低下させたりする。
【0018】
この問題を回避するために、フィルタの入力線路から出力線路に向かって金属ケース内を伝播する電磁波の進行方向、またはこの電磁波が金属ケース内で共振することによって発生する定在波の波面に対して垂直な方向に、平面フィルタの通過帯域の中心周波数f0の電気長にして概ね1/5(5分の1)波長から1/2(2分の1)波長の間隔で、複数の誘電体の構造物を配置する。
【0019】
図1は、本実施の形態のフィルタを示す斜視図である。本実施の形態のフィルタは、平面フィルタ101、平面フィルタ101を囲む金属ケース102、金属ケース内に配置される誘電体を含む2つの構造物103を備えている。
【0020】
平面フィルタ101は、下面にグランドプレーン、上面にフィルタ回路パターンが形成された誘電体基板であるマイクロストリップライン型平面フィルタ基板を用いて形成される。すなわち、マイクロストリップライン型の平面フィルタである。
【0021】
平面フィルタは左右に入力線路101a、出力線路101bを備え、12個の短冊形の共振器101cによって形成される12段のチェビシェフ型バンドパスフィルタである。フィルタの中心周波数f0は、例えば10GHzである。
【0022】
フィルタの入出力の取り出しは、この金属ケースの左右に同軸−マイクロストリップ変換コネクタを取り付けるなどして行うことができる。
【0023】
構造物103は、フィルタの入力線路101aから出力線路101bに向かって金属ケース内を伝播する電磁波の進行方向、または、上記電磁波が金属ケース102内で共振することによって発生する定在波の波面に対して垂直な方向に、平面フィルタの通過帯域の中心周波数f0の電気長にして概ね1/5波長から1/2波長の間隔で配置された2つの誘電体である。本実施の形態において、誘電体の構造物の形状は板状である。
【0024】
構造物を誘電体とすることで、渦電流の発生等による電力損失を抑制することができる。
【0025】
上記の構造物によって得られる効果を、3次元電磁界シミュレーションの結果に基づき以下で順に説明する。
【0026】
図2は、3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。金属ケース102内に誘電体の構造物がない場合である。以下のシミュレーションでは金属ケースを導波管とみなした場合の特性を計算している。
【0027】
図3は、図2の構造のシミュレーション結果を示す図である。金属ケース102の左右の面201および202を入出力ポートとして、その通過特性を計算した結果を図3に示す。
【0028】
図3のグラフの横軸は周波数(6GHz〜14GHz)であり、縦軸はポート間の通過量(−20〜0dB)である。図2のように、金属ケース102内に誘電体の構造物がない場合には、この周波数範囲においては、ほぼ全通過となっている。
【0029】
図4は、3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。金属ケース102内に一つの誘電体の構造物401を配置した場合である。
【0030】
図5は、図4の構造のシミュレーション結果を示す図である。金属ケース102の左右の面402および403を入出力ポートとして、その通過特性を計算した結果を図5に示す。
【0031】
図5のグラフの横軸は周波数(6GHz〜14GHz)であり、縦軸はポート間の通過量(−20〜0dB)である。図5によると、誘電体の構造物401による反射によって、この周波数域全体にわたって通過量が下がるが、構造物自体の共振によって、501と502に通過ピークが現れている。なお、周波数が上がるほど通過量の低下は小さい。
【0032】
図6は、3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。金属ケース102内に2つの誘電体の構造物601を配置した場合である。ここで、2つの誘電体構造物601間の距離604は、平面フィルタの中心周波数10GHzにおける電気長にしてλ/3である。
【0033】
図7は、図6の構造のシミュレーション結果を示す図である。金属ケース102の左右の面602および603を入出力ポートとして、その通過特性を計算した結果を図7に示す。
【0034】
図7のグラフの横軸は周波数(6GHz〜14GHz)であり、縦軸はポート間の通過量(−20〜0dB)である。図7を図5と比較すると、誘電体構造物の数を1つから2つに増やしたことによって、2つの誘電体同士が電磁気的に結合し、図5における通過ピーク501と502が、図7においては通過ピーク群701と702に変化している。また701と702の間の周波数帯においては、図5と比較して通過量が更に下がっている。
【0035】
図8、図9は、図6における2つの誘電体構造物601間の距離604を変化させた場合の通過特性を示す図である。距離604を中心周波数10GHzの電気長にしてλ/6からλ/1.8まで変化させている。図8(a)、(b)、(c)、(d)、(e)はそれぞれ、距離604が、λ/6、λ/5、λ/4.3、λ/3.3、λ/3の場合である。また、図9(a)、(b)、(c)、(d)はそれぞれ、距離604が、λ/2.7、λ/2.3、λ/2、λ/1.8の場合である。
【0036】
距離604がλ/5からλ/2の場合には、構造物601に起因する通過ピークは、平面フィルタの中心周波数10GHzから離れている。距離604を短くするに従って、構造物同士の電磁気的な結合が強まり、図7における通過ピーク群701および702が広がる傾向にある。そして、距離604をλ/6とすると、平面フィルタの中心周波数10GHzに通過ピーク801が近接する。
【0037】
逆に距離604を長くすると、構造体601間の空洞共振の周波数が下がる傾向にあり、距離604をλ/1.8とすると、平面フィルタの中心周波数10GHzに通過ピーク901が近接する。
【0038】
したがって、距離604が概ねλ/5からλ/2の範囲で、構造物601自身または構造物601間の共振に邪魔されずに、平面フィルタの中心周波数近傍の通過量を下げることができる。距離604がλ/4.3からλ/2.3の範囲であることがより望ましい。
【0039】
図10は、3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。金属ケース内の構造物の数を、図10(a)、(b)、(c)に示すように、3つ、4つ、5つと増やした場合である。なお誘電体構造物間の距離はすべてλ/3である。
【0040】
図11は、図10の構造のシミュレーション結果を示す図である。金属ケースの左右の面を入出力ポートとして、その通過特性を計算した結果を図11に示す。図11(a)、(b)、(c)がそれぞれ、図10(a)、(b)、(c)の構造に対応する。図11のグラフの横軸は周波数(6GHz〜14GHz)であり、縦軸はポート間の通過量(−40〜0dB)である。
【0041】
構造物の数を増やすにしたがって、平面フィルタの中心周波数10GHz付近の通過量が低下するが、構造物に起因する通過ピーク群の周波数にそれほど変化はない。このことから、入出力間のアイソレーションを向上させるためには、構造物間の距離をλ/5からλ/2、望ましくはλ/3程度とし、構造物の数を増やすことが効果的であるといえる。
【0042】
以上、本実施の形態のフィルタによれば、板状の誘電体の構造物を複数所定の間隔で配置することにより、平面フィルタの特性に影響を与えることなく、金属ケース内の電磁波伝播を抑制し、平面フィルタ本来の特性を実現したフィルタを提供することが可能となる。
【0043】
(第2の実施の形態)
本実施の形態のフィルタは、金属ケース内に配置される誘電体を含む複数の構造物が、入力線路から出力線路に向かう電磁波の進行方向に対し垂直な方向、または、金属ケース内で共振することによって発生する定在波の波面に平行な方向に配置される複数の棒状の誘電体である点で第1の実施の形態と異なっている。以下、第1の実施の形態と重複する内容については、記述を省略する。
【0044】
図12は、本実施の形態のフィルタを示す斜視図である。本実施の形態のフィルタは、平面フィルタ1201、平面フィルタ1201を囲む金属ケース1202、金属ケース内に配置される誘電体を含む複数の構造物対1203〜1206を備えている。構造物対1203〜1206はそれぞれ、2つの棒状の構造物で構成される。なお、2つの棒状の構造物をまとめて構造物対と呼ぶことにする。
【0045】
平面フィルタ1201は、下面にグランドプレーン、上面にフィルタ回路パターンが形成された誘電体基板であるマイクロストリップライン型平面フィルタ基板を用いて形成される。すなわち、マイクロストリップライン型の平面フィルタである。
【0046】
平面フィルタは左右に入力線路1201a、出力線路1201bを備え、12個の短冊形の共振器1201cによって形成される12段のチェビシェフ型バンドパスフィルタである。フィルタの中心周波数f0は10GHzである。
【0047】
フィルタの入出力の取り出しは、この金属ケースの左右に同軸−マイクロストリップ変換コネクタを取り付けるなどして行うことができる。
【0048】
構造物対1203〜1206は、フィルタの入力線路1201aから出力線路1201bに向かって金属ケース内を伝播する電磁波の進行方向(Y方向)、または、上記電磁波が金属ケース1202内で共振することによって発生する定在波の波面に対して垂直な方向に、平面フィルタの通過帯域の中心周波数f0の電気長にして概ね1/5波長から1/2波長の間隔で配置されている。本実施の形態において、構造物対は、2本の棒状の構造物であり、棒状の構造物の上部の太い部分1203a〜1206aは金属、下部の細い部分1203b〜1206bが誘電体によって形成されている。2本の棒状の構造物は、入力線路1201aから出力線路1201bに向かう電磁波の進行方向に対し垂直な方向(X方向)、または、金属ケース内で共振することによって発生する定在波の波面に平行な方向に並んで配置される。
【0049】
上記の構造物によって得られる効果を、3次元電磁界シミュレーションの結果に基づき以下で順に説明する。
【0050】
図13は、3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。平面フィルタ1301、金属ケース1302を備える。金属ケース1302内に誘電体の構造物がない場合である。電磁波の分布を分かりやすく示すために、図13では、図12に比較して金属ケース1302の長さを長くしている。以下のシミュレーションを行うフィルタの構造でも同様である。
【0051】
図14は、図13の構造のシミュレーション結果を示す図である。金属ケースの左右の面1303および1304を入出力ポートとして、その通過特性を計算した結果を図14に示す。図14のグラフの横軸は周波数(0GHz〜12GHz)であり、縦軸はポート間の通過量(−100〜0dB)である。
【0052】
この金属ケースのカットオフ周波数はおよそ5GHzであり、カットオフ周波数以上ではほぼ全通過となっている。
【0053】
図15は、10GHzでの金属ケース内の電場分布を示す図である。この図のみからは判別できないが、計算機上で入力位相を変化させて電場ベクトルの動きを観測すると、この電場は図15の左側から右側へと向かう進行波である。
【0054】
図16は、3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。金属ケース内に電磁波の進行方向とは垂直に2つの棒状の構造物1601および1602を配置した場合である。
【0055】
図17は、図16の構造のシミュレーション結果を示す図である。金属ケースの左右の面1303および1304を入出力ポートとして、その通過特性を計算した結果を図17に示す。図17のグラフの横軸は周波数(8GHz〜12GHz)であり、縦軸はポート間の通過量(−40〜0dB)である。
【0056】
構造物を2つ配置したことにより通過量は約−8dBに下がっている。
【0057】
図18は、10GHzでの金属ケース内の電場分布を示す図である。この図のみからは判別できないが、計算機上で入力位相を変化させて電場ベクトルの動きを観測すると、この電場は構造物より左側では定在波、右側では右向きの進行波となっており、通過量が約−8dBに下がった原因は、構造物が2つ並んだ面(XZ面)において電磁波が反射されたためであることが分かる。
【0058】
図19は、3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。金属ケース内に2つの棒状の構造物対1901および1902を配置して反射面を2つ作り、共振器構造とした場合である。2つの棒状の構造物対の電磁波の進行方向の間隔は約λ/1.5である。
【0059】
図20は、図19の構造のシミュレーション結果を示す図である。金属ケースの左右の面1303および1304を入出力ポートとして、その通過特性を計算した結果を図20に示す。図20の横軸は周波数(8GHz〜12GHz)、縦軸は通過量(−40dB〜0dB)である。
【0060】
図21は、10GHzでの金属ケース内の電場分布を示す図である。電磁波の伝播方向と垂直に2つ並んだ棒状の構造物対が反射面となるために、2つの反射面の間で電磁波が往復し、構造物間に電界が集中するモードで共振していることが分かる。
【0061】
図22は、3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。金属ケース内に3つの棒状の構造物対2201、2202および2203を配置して、導波管内に共振器構造を2つ作った場合である。棒状の構造物対の電磁波の進行方向の間隔は約λ/1.5である。
【0062】
図23は、図22の構造のシミュレーション結果を示す図である。金属ケースの左右の面1303および1304を入出力ポートとして、その通過特性を計算した結果を図20に示す。図23のグラフの横軸は周波数(1GHz〜12GHz)、縦軸は通過量(−140dB〜0dB)である。
【0063】
図23のグラフによると、10GHz近傍においては2つのピーク2304、2305があり、3GHz〜5GHzに3つのピーク2301、2302、2303がある。
【0064】
図24〜図28は、図23のグラフの各共振ピーク2301〜2305における電場分布をそれぞれ示す図である。図24から図28によると明らかなように、2301、2302、2303の3つの共振ピークは棒状の構造物対自体がそれぞれ共振器となって共振していることが分かる。また電場分布のパターン(図24は↓↓↓、図25は↓0↑、図26は↓↑↓)から、これらは3つの共振器がそれぞれ隣接する共振器と結合している場合の典型的なパターンであることも分かる。また、図27および図28から2304、2305の共振ピークは、構造物対間が1つの共振器として働く共振モードであることも分かる。
【0065】
構造物対の数と通過量との関係は以下のようになっている。図29は、3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。図29(a)〜(e)で、棒状の構造物対の数を1つから5つまで変化させた場合である。棒状の構造物対の電磁波の進行方向の間隔は約λ/2.5である。
【0066】
図30は、図29の構造のシミュレーション結果を示す図である。図30(a)〜(e)それぞれが、図29(a)〜(e)それぞれの計算結果に対応する。金属ケースの左右の面1303および1304を入出力ポートとして、その通過特性を計算した結果を図30に示す。図30のグラフの横軸は周波数(8GHz〜12GHz)、縦軸は通過量(−100dB〜0dB)である。
【0067】
図30によると、構造物対の数を増やすほど、通過量の低下を大きくすることができ、フィルタ入出力間のアイソレーションを高めることができる。また、構造物を2本の棒状の構造物とすることで、板状の場合と比較して、高次の共振モードが少ないために、アイソレーションの高い周波数領域を広くすることができる。
【0068】
図31は、構造物対間隔を変化させた場合のシミュレーション結果を示す図である。構造物対の数が5つの場合において、構造物対間隔を中心周波数10GHzの電気長にしてλ/5〜λ/1.8まで変化させた場合の通過特性の計算結果である。図31のグラフの横軸は周波数(8GHz〜12GHz)、縦軸は通過量(−100dB〜0dB)である。
【0069】
構造物対間隔が狭い場合には低周波側に共振ピークが現れ、広い場合には高周波側に共振ピークが現れている。前述のように、低周波側の共振ピークは構造物対自体が共振器として作用する共振モードであり、高周波側の共振ピークは構造物対間が共振器として作用する共振モードである。構造物対間隔がλ/5〜λ/2の範囲においては平面フィルタの中心周波数である10GHz近傍で通過量の低下が大きい領域があり、フィルタ入出力間のアイソレーションを高めることができる。
【0070】
以上、本実施の形態のフィルタによれば、棒状の誘電体の構造物を複数所定の間隔で配置することにより、平面フィルタの特性に影響を与えることなく、金属ケース内の電磁波伝播を抑制し、平面フィルタ本来の特性を実現したフィルタを提供することが可能となる。
特に、構造物を2本の棒状の構造物対とすることで、板状の場合と比較して、高次の共振モードが少ないために、アイソレーションの高い周波数領域を広くすることができ、金属ケース内の電磁波伝播の抑制を一層容易に実現することができる。
【0071】
(第3の実施の形態)
本実施の形態のフィルタは、入力線路、複数の共振器、出力線路を備え、通過帯域の中心周波数f0のマイクロストリップライン型の平面フィルタと、平面フィルタを囲む金属ケースと、入力線路から出力線路に向かう電磁波の進行方向の間隔、または電磁波が金属ケース内で共振することによって発生する定在波の波面に対して垂直な方向の間隔が中心周波数f0の電気長にして1/5波長から1/2波長で、金属ケース内に配置される誘電体を含む複数の構造物を備える。
【0072】
そして、構造物が、電磁波の進行方向に対し垂直な方向、または、定在波の波面に平行な方向に配置される複数、ここでは6本の棒状の誘電体を含む。そして、6本の棒状の誘電体が、それぞれ、中心周波数f0の電気長にして1/5波長から1/2波長の間隔で配置される。
【0073】
また、構造物が、棒状の誘電体を長手方向に上下移動させる可動機構を備える。そして、共振器の直上に棒状の誘電体が配置される構造となっている。この可動機構が、誘電体に接続される金属部をそなえ、金属部が金属ケースの外側に突出しており、突出した金属部の一部を回転させることで誘電体を棒の長手方向に可動させる。そして、棒状の誘電体を上下させることで共振器の中心周波数の調整が可能である。
【0074】
さらに、平面フィルタ基板の導体部分が超電導体である。
【0075】
図32は、本実施の形態のフィルタを示す斜視図である。本実施の形態のフィルタは、平面フィルタ3201、平面フィルタ3201を囲む金属ケース3202、金属ケース3202内に配置される誘電体を含む複数の構造物3203、3204、3205、3206を備えている。
【0076】
平面フィルタ3201は、は、下面にグランドプレーン、上面にフィルタ回路パターンが形成された誘電体基板であるマイクロストリップライン型平面フィルタ基板を用いて形成される。すなわち、マイクロストリップライン型の平面フィルタである。
【0077】
平面フィルタは左右に入力線路3201a、出力線路3201bを備え、8個のヘアピン形の共振器3201cによって形成された8段の擬似楕円関数型バンドパスフィルタである。フィルタの中心周波数f0は10GHzである。
【0078】
フィルタの入出力の取り出しは、この金属ケースの左右に同軸−マイクロストリップ変換コネクタを取り付けるなどして行うことができる。
【0079】
構造物3203、3204、3205、3206は、フィルタの入力線路3201aから出力線路3201bに向かって金属ケース内を伝播する電磁波の進行方向(Y方向)、または、上記電磁波が金属ケース3202内で共振することによって発生する定在波の波面に対して垂直な方向に、平面フィルタの通過帯域の中心周波数f0の電気長にして概ね1/5波長から1/2波長の間隔で配置された6本の棒状の構造物である、棒状の構造物の上部の太い部分3203a〜3206aは金属、下部の細い部分3203b〜3206bが誘電体によって形成されている。
【0080】
上記の構造物によって得られる効果を、3次元電磁界シミュレーションの結果に基づき以下で順に説明する。
【0081】
図33は、3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。平面フィルタ3301が金属ケース3302に囲まれ、金属ケース3302内には、誘電体の構造物がない場合である。平面フィルタ3301のフィルタ回路パターンは記載を省略している。
【0082】
図34は、図33の構造のシミュレーション結果を示す図である。金属ケースの左右の面3303および3304を入出力ポートとして、その通過特性を計算した結果を図34に示す。図34のグラフの横軸は周波数(1〜16GHz)であり、縦軸はポート間の通過量(−25〜0dB)である。
【0083】
この金属ケースのカットオフ周波数はおよそ2.4GHzであり、カットオフ周波数以上では、ほぼ全通過となっている。
【0084】
図35は、10GHzでの金属ケース内の電場分布を示す図である。この図のみからは判断できないが、計算機上で入力位相を変化させて電場ベクトルの動きを観測すると、この電場は図35の左側から右側へ向かう進行波である。
【0085】
図36は、3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。金属ケース内に電磁波の進行方向とは垂直に6つの棒状の誘電体の構造物3601、3602、3603、3604、3605、3606を配置した場合である。棒状の構造物の電磁波の進行方向の間隔は約λ/3である。平面フィルタ3301のフィルタ回路パターンは記載を省略している。
【0086】
図37は、図36の構造のシミュレーション結果を示す図である。金属ケースの左右の面3303および3304を入出力ポートとして、その通過特性を計算した結果を図37に示す。図37のグラフの横軸は周波数(8〜12GHz)であり、縦軸はポート間の通過量(−25〜0dB)である。
【0087】
構造物を6つ配置したことにより通過量は約−5dBに下がっている。
【0088】
図38は、10GHzでの金属ケース内の電場分布を示す図である。この図のみからは判断できないが、計算機上で入力位相を変化させて電場ベクトルの動きを観測すると、この電場は構造物より左側では定在波、右側では右向きの進行波となっており、通過量が約−5dBに下がった原因は構造物が6つ並んだ面(XZ面)において電磁波が反射されたためであることが分かる。
【0089】
図39は、3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。金属ケース内に、2つの構造物群3901および3902を配置して反射面を2つ形成し共振器構造とした場合である。なお、6つの棒状の構造物をまとめて構造物群と呼ぶことにする。2つの構造物群の電磁波の進行方向の間隔は約λ/1.5である。平面フィルタ3301のフィルタ回路パターンは記載を省略している。
【0090】
図40は、図39の構造のシミュレーション結果を示す図である。金属ケースの左右の面3303および3304を入出力ポートとして、その通過特性を計算した結果を図40に示す。図40のグラフの横軸は周波数(8〜12GHz)であり、縦軸はポート間の通過量(−14〜0dB)である。
【0091】
2つの構造物群を用いることで、共振器構造ができ約9.4GHzにおいて共振ピークが見られる。
【0092】
図41は、9.4GHzでの金属ケース内の電場分布を示す図である。電磁波の伝播方向と垂直に2つ並んだ構造物群が反射面となるために、2つの反射面の間で電磁波が往復し、構造物群間に電界が集中するモードで共振していることが分かる。
【0093】
図42は、図39の構造の低周波側のシミュレーション結果を示す図である。図42の横軸は周波数(1〜12GHz)、縦軸は通過量(−40〜0dB)である。
【0094】
この結果によると、約2GHz、約3.1GHz、約9.4GHzにそれぞれ図中に4201、4202、4203で示した3つの通過ピークが見られる。なお、ピーク4201が0dB以上となっているのは、金属ケースのカットオフ付近で計算が発散したためであり、物理的には0dBであると考えられる。
【0095】
まず、ピーク4203は図41を用いて説明した構造物群間の共振によるものである。一方ピーク4201とピーク4202の要因を調べるために、それぞれの周波数における電場分布を計算した。
【0096】
図43は、2GHzでの金属ケース内の電場分布を示す図である。図44は、3.1GHzでの金属ケース内の電場分布を示す図である。
【0097】
図43および図44から明らかに、ピーク4201およびピーク4202の2つのピークは構造物群自体がそれぞれ共振器となって共振することに起因する。また電場分布のパターン(図43は同位相、図44は逆位相)から、これらは2つの共振器がそれぞれ隣接する共振器と結合している場合の典型的なパターンであることも分かる。
【0098】
また、図42によると、ピーク4201、ピーク4202の2つのピークとピーク4203の間の周波数範囲4204には通過量の低い、電磁波の伝播が抑制された領域が存在することが分かる。したがって、このような領域が平面フィルタの周波数である10GHz近傍となるように、構造物群の間隔を所定の範囲内に納めれば、平面フィルタの帯域外減衰量を大きくすることができる。この所定の範囲内とは第2の実施の形態の場合と概ね一致しており、フィルタの通過帯域の中心周波数f0の電気長にしておよそλ/5〜λ/2の範囲となっている。
【0099】
図45は、3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。金属ケース内に、2つの棒状の構造物群4501および4502を、構造物群の間隔がλ/2.5となるように配置した場合である。平面フィルタ3301のフィルタ回路パターンは記載を省略している。
【0100】
図46は、図45の構造のシミュレーション結果を示す図である。金属ケースの左右の面3303および3304を入出力ポートとして、その通過特性を計算した結果を図40に示す。図46の横軸は周波数(1〜12GHz)、縦軸は通過量(−60〜0dB)である。
【0101】
図46から明らかに平面フィルタの中心周波数である10GHz近傍では通過量が約−16dB程度に抑制されていることが分かる。
【0102】
図47は、図45に対し棒状の構造物群を3つとした構造の斜視図である。図49は、図45に対し棒状の構造物群を4つとした構造の斜視図である。図47と図49において構造物群の間隔はどちらもλ/2.5である。
【0103】
図48、図50は、それぞれ図47、図49の構造のシミュレーション結果を示す図である。図48および図50の横軸は周波数(1〜12GHz)、縦軸は通過量(−60〜0dB)である。
【0104】
構造物群の数を増やすにしたがって、平面フィルタの周波数10GHz近傍での通過量が低下しており、構造物群の数を増やすことが平面フィルタの帯域外減衰量を大きくするのに効果的であることが分かる。
【0105】
上述のように、6本の棒状の構造物それぞれの図中X方向の間隔もまた平面フィルタの通過帯域の中心周波数f0の電気長にして概ね1/5波長から1/2波長の間隔で配置されている。このように配置することで、図中の奥行き方向(X方向)への電磁波の伝播も抑制することができる。このことは、金属ケースの奥行き方向の共振モードを抑制する効果をもたらす。
【0106】
図51において、棒状の構造物の奥行き方向の間隔はすべてλ/3である。図51は、3次元電磁界シミュレーションを行う構造を示す斜視図である。金属ケースおよび構造物の配置は図32と同じである。
【0107】
図52、図53は、図51の構造のシミュレーション結果を示す図である。金属ケースの左右の面5101および5102を入出力ポートとして、その通過特性を計算した結果を図52に示す。また、奥行き方向(X方向)の面5103および5104を入出力ポートとしてその通過特性を計算した結果を図53に示す。図52の横軸は周波数(4〜14GHz)、縦軸は通過量(−60〜0dB)である。図53の横軸は周波数(4〜14GHz)、縦軸は通過量(−80〜0dB)である。
【0108】
図52、図53どちらの場合も平面フィルタの周波数10GHz近傍で通過が抑制されていることが分かる。
【0109】
さらに、上述のように、本実施の形態においては、棒状の誘電体を長手方向に上下移動させる可動機構を備える。棒状の構造物の構成は、図32に示すように、棒の長手方向に誘電体3203a〜3206aと金属部3203b〜3206bとが重ねられたものである。そして、金属部が金属ケースの外側に突出しており、例えば、突出した金属部分の一部を回転させることで誘電体を棒の長手方向に上下移動させることができる構成になっている。金属部と誘電体部とは接着されており、金属ケースの外部から誘電体部を上下させることができ、かつ全体が金属で覆われた構成にすることができる。
【0110】
さらに、共振器3201cの直上に棒状の誘電体が配置される。いいかえれば、平面フィルタを構成する複数の共振器3201cの配置は、共振器3201cの位置が誘電体の構造物の下となるようになっており、棒状の誘電体の可動によって共振器の中心周波数の調整が可能である。これによって、金属ケース内の電磁波伝播を抑制しつつ、微妙な周波数調整が可能となるため、特に狭帯域のフィルタで有効である。
【0111】
一例として、図32のような構造を用いて、フィルタの周波数を9700MHz、9750MHz、9800MHzに調整する実験をした。図54、55、56は、周波数調整の実験結果を示す図である。図54、図55、図56において、横軸は周波数(9650〜9850MHz)、縦軸はフィルタ通過量(−100〜0dB)である。
【0112】
このように、微妙な周波数調整を可能にすることで、フィルタの周波数を変化させることもできる。また、構造物の金属部3203b〜3206bが外部からの電磁波を遮断するという利点もある。
【0113】
また、この平面フィルタの導体部分は超電導体で構成されている。図32における入力線路3201a、出力線路3201b、共振器3201cのパターン部分が超電導薄膜によって形成されている。また、この図には表示されていないが基板のパターンとは反対の面のグランドプレーンも超電導薄膜によって形成されている。
【0114】
以上、本実施の形態のフィルタによれば、棒状の誘電体の構造物を複数所定の間隔で配置することにより、平面フィルタの特性に影響を与えることなく、金属ケース内の電磁波伝播を抑制し、平面フィルタ本来の特性を実現したフィルタを提供することが可能となる。
【0115】
また、棒状の構造物の可動によって共振器の中心周波数の調整が可能である。これによって、別途、調整機構を設けることなく、金属ケース内の電磁波伝播を抑制しつつ、微妙な周波数調整が可能となる。
【0116】
さらに、平面フィルタの導体部分は超伝導体で構成される。したがって、低損失なフィルタが実現される。
【0117】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。上記、実施の形態はあくまで、例として挙げられているだけであり、本発明を限定するものではない。また、実施の形態の説明においては、フィルタ等で、本発明の説明に直接必要としない部分等については記載を省略したが、必要とされるフィルタ等に関わる要素を適宜選択して用いることができる。
【0118】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全てのフィルタが、本発明の範囲に包含される。本発明の範囲は、特許請求の範囲およびその均等物の範囲によって定義されるものである。
【符号の説明】
【0119】
101 平面フィルタ
101a 入力線路
101b 出力線路
101c 共振器
102 金属ケース
103 構造物
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力線路、複数の共振器、出力線路を有し、通過帯域の中心周波数f0のマイクロストリップライン型の平面フィルタと、
前記平面フィルタを囲む金属ケースと、
前記入力線路から前記出力線路に向かう電磁波の進行方向の間隔、または前記電磁波が前記金属ケース内で共振することによって発生する定在波の波面に対して垂直な方向の間隔が中心周波数f0の電気長にして1/5波長から1/2波長で、前記金属ケース内に配置される誘電体を含む複数の構造物と、
を備えることを特徴とするフィルタ。
【請求項2】
前記誘電体が棒状であることを特徴とする請求項1記載のフィルタ。
【請求項3】
前記構造物が、前記電磁波の進行方向に対し垂直な方向、または、前記定在波の波面に平行な方向に配置されることを特徴とする請求項2記載のフィルタ。
【請求項4】
前記構造物が、前記電磁波の進行方向に対し垂直な方向、または、前記定在波の波面に平行な方向に、中心周波数f0の電気長にして1/5波長から1/2波長の間隔で配置されることを特徴とする請求項3記載のフィルタ。
【請求項5】
前記構造物が、前記誘電体を棒の長手方向に上下移動させる可動機構を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項4いずれか一項記載のフィルタ。
【請求項6】
前記共振器の直上に前記誘電体が配置されることを特徴とする請求項5記載のフィルタ。
【請求項7】
前記構造物が、前記誘電体に接続される金属部を有し、前記金属部が前記金属ケースの外側に突出しており、突出した前記金属部の一部を回転させることで前記誘電体を棒の長手方向に可動させることを特徴とする請求項5または請求項6記載のフィルタ。
【請求項8】
前記平面フィルタ基板の導体部分が超電導体であることを特徴とする請求項1ないし請求項7いずれか一項記載のフィルタ。
【請求項1】
入力線路、複数の共振器、出力線路を有し、通過帯域の中心周波数f0のマイクロストリップライン型の平面フィルタと、
前記平面フィルタを囲む金属ケースと、
前記入力線路から前記出力線路に向かう電磁波の進行方向の間隔、または前記電磁波が前記金属ケース内で共振することによって発生する定在波の波面に対して垂直な方向の間隔が中心周波数f0の電気長にして1/5波長から1/2波長で、前記金属ケース内に配置される誘電体を含む複数の構造物と、
を備えることを特徴とするフィルタ。
【請求項2】
前記誘電体が棒状であることを特徴とする請求項1記載のフィルタ。
【請求項3】
前記構造物が、前記電磁波の進行方向に対し垂直な方向、または、前記定在波の波面に平行な方向に配置されることを特徴とする請求項2記載のフィルタ。
【請求項4】
前記構造物が、前記電磁波の進行方向に対し垂直な方向、または、前記定在波の波面に平行な方向に、中心周波数f0の電気長にして1/5波長から1/2波長の間隔で配置されることを特徴とする請求項3記載のフィルタ。
【請求項5】
前記構造物が、前記誘電体を棒の長手方向に上下移動させる可動機構を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項4いずれか一項記載のフィルタ。
【請求項6】
前記共振器の直上に前記誘電体が配置されることを特徴とする請求項5記載のフィルタ。
【請求項7】
前記構造物が、前記誘電体に接続される金属部を有し、前記金属部が前記金属ケースの外側に突出しており、突出した前記金属部の一部を回転させることで前記誘電体を棒の長手方向に可動させることを特徴とする請求項5または請求項6記載のフィルタ。
【請求項8】
前記平面フィルタ基板の導体部分が超電導体であることを特徴とする請求項1ないし請求項7いずれか一項記載のフィルタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図55】
【図56】
【図2】
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【図4】
【図5】
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【図10】
【図11】
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【図18】
【図19】
【図20】
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【図22】
【図23】
【図24】
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【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
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【図38】
【図39】
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【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図55】
【図56】
【公開番号】特開2013−74558(P2013−74558A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213691(P2011−213691)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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