説明

フィルムスリット方法及び装置

【課題】切断により生じる切れ粉で切断装置やフィルムを汚染せず、切断刃の使用期間を長くする。
【解決手段】スリット装置23により、搬送されているフィルム16を搬送方向に切断する。スリット装置23は、外刃42及び内刃43を有するスリッタ41と、液供給部48とを備える。液供給部48は、外刃42及び内刃43とフィルム16との接触位置に液51を供給する。液51は、液供給部48の管52により、外刃42の刃部42bに案内され、回転する外刃42を介して接触位置に供給される。液51は、スリッタ41によるフィルム16の切断で生じた切り粉を捕捉し、フィルム16や側端部16aに付着する。液51が蒸発する間に、切り粉はフィルム16や側端部16aと一体になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送されているフィルムを搬送方向に切断するフィルムスリット方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースアシレートフィルムや環状ポリオレフィンフィルム、ポリエステルフィルム等の各種ポリマーフィルムは、製造過程では変形した側端部を切断したり、製品とするにあたっては所定幅に切断される。このような切断工程は、長尺のフィルムに対して行われるために、搬送されているフィルムの搬送方向に連続的に切断して、幅方向にフィルムを分断することになる。
【0003】
フィルムの搬送方向での切断は、各種の切断刃で行うことが多い。ところが、切断刃での切断の際に、微小なフィルム屑、すなわち切れ粉が生じることが多い。切れ粉は、切断を行う装置内のみならず、フィルムに対しても付着してしまうので、装置及びフィルムの汚染源となる。このような切れ粉による汚染は、フィルムが固く粘弾性が低い場合ほど顕著である。フィルムが固く粘弾性が低い場合ほど、切断刃で切断する際に微小な割れが生じやすく切り粉が多くなるからである。
【0004】
そこで、切れ粉の発生を防止するために、従来は、切断時におけるフィルムを軟かくするために、切断工程の前にフィルムを加熱する方法が採られていた(例えば、特許文献1参照)。このようないわゆる加熱切断方法は、ガラス転移点Tgをもつポリマーフィルムの場合には、通常、切断時のフィルム温度をTgに達しない程度の温度に設定する。Tgに達しない程度の温度に設定しておくと、フィルムを劣化させることがないからである。また、加熱切断方法によると、切断したフィルム側縁に生じるバリが小さくなることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−305637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1のような加熱切断方法は、切り粉の発生を防止するという一定の効果はあるが、切り粉の発生を完全には抑止できない。さらに、近年では、フィルム製品の生産効率を向上させるために、生産速度をより大きくするようになってきている。そのため、切断工程の速度もより大きくせざるを得なくなっている。切断工程の速度を大きくすると、発生する切り粉の量も増加し、加熱切断方法では効果が不十分である。
【0007】
また、切断工程の速度を大きくすると、切断刃の劣化がはやまり、良好な切れ味の保持期間がより短くなる。したがって、切断刃の交換頻度をより高くしなければならず、交換の度に切断工程が含まれる製造ラインを止めることになり、フィルム生産効率の向上の妨げとなる。
【0008】
そこで本発明は、フィルムの切断により生じる切れ粉で切断装置やフィルムを汚染することがなく、また、切断刃の使用期間を長くすることができるフィルムスリット方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のフィルムスリット方法は、搬送されているフィルムを切断刃で搬送方向に切断するスリット工程中に、切断により生じるフィルムの切り粉が溶解または膨潤する液を、切断刃とフィルムとが接触する接触位置に供給することを特徴として構成されている。
【0010】
このフィルムスリット方法では、フィルムと切断刃の刃部との間に液溜まりが形成されるように、前記液を供給することが好ましく、切断刃は、刃部が互いに摺接するように回転してフィルムを剪断する1対の回転切断刃からなることが好ましい。そして、1対の回転切断刃の一方は断面鋭角な刃部を有し、この回転切断刃を介して液を接触位置に供給することが好ましい。
【0011】
前記断面鋭角な刃部を有する回転切断刃を、切断すべきラインに関して前記フィルムの側縁側に配される外刃として用い、前記1対の回転切断刃の他方を、切断すべきラインに関しフィルムの幅方向中央側に配される内刃として用いることがより好ましい。また、断面鋭角な刃部を有する回転切断刃は、接触位置にある刃部の刃先が下向きとなるように配してあることが好ましい。
【0012】
本発明のフィルムスリット方法では、前記切断刃は、フィルムの搬送方向の上流側に刃部を向けるように配され、フィルムの搬送力を利用してフィルムを切断し、接触位置に向かうフィルムの接触予定位置に前記液を案内することにより、液を接触位置に供給してもよい。
【0013】
液は揮発性を有することが好ましい。
【0014】
また、本発明のフィルムスリット装置は、搬送されているフィルムを搬送方向に切断する切断刃と、切断により生じる切り粉が溶解または膨潤する液を、切断刃とフィルムとが接触する接触位置に供給する液供給手段とを備えることを特徴として構成されている。
【0015】
前記切断刃は、刃部が互いに摺接するように回転してフィルムを剪断する1対の回転切断刃からなり、液供給手段は、回転切断刃の前記接触位置よりも上流側にある刃部に液を案内し、回転切断刃を介して接触位置に前記液を供給すること、または、前記切断刃は、前記フィルムの搬送方向の上流側に刃部を向けるように配され、前記フィルムの搬送力を利用して前記フィルムを切断し、液供給手段は、接触位置に向かうフィルムの接触予定位置に前記液を案内することにより、液を接触位置に供給することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明のフィルムスリット方法及び装置によると、フィルムの切断により生じる切れ粉で切断装置やフィルムを汚染することがなく、また、切断刃の使用期間を長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明を実施した溶液製膜設備の概略図である。
【図2】スリット装置の概要を示す平面図である。
【図3】本発明の実施態様であるスリット装置の概略図である。
【図4】別の実施態様であるスリット装置の概略図である。
【図5】さらに別の実施態様であるスリット装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明を実施した溶液製膜設備の概略図である。溶液製膜設備10は、ポリマー11が溶剤12に溶解したドープ13からフィルム16を形成するフィルム形成装置17と、形成したフィルム16に幅方向での張力を加えながら乾燥をすすめるテンタ装置21と、テンタ装置21を経たフィルム16をローラで搬送しながら乾燥をさらにすすめるローラ乾燥装置22と、フィルム16の各側端部を切除するスリット装置23と、乾燥したフィルム16をロール状に巻き取る巻取装置26とを有する。
【0019】
フィルム形成装置17は、バックアップローラ27により支持されながら搬送される流延支持体としてのバンド28と、このバンド28の上にドープ13を流出する流延ダイ31とを備える。搬送されているバンド28に流延ダイ31からドープ13を流出することにより、ドープ13はバンド28上で流延されて流延膜32が形成される。流延膜32を、テンタ装置21への搬送が可能な程度にまで固くしてから、バンド28からフィルム17として剥がす。この剥ぎ取りの際には、フィルム17を剥ぎ取り用ローラ33で支持し、流延膜32がバンド28から剥がれる剥ぎ取り位置を一定に保持する。
【0020】
流延膜32を固める方法としては、流延膜32を乾燥するいわゆる乾燥流延と、流延膜を冷却してゲル化するいわゆる冷却流延とがあり、いずれでもよい。なお、冷却流延の場合には、バックアップローラ27により搬送されるバンド28に代えて、断面円形で周面に流延膜32が形成されるドラムを用いる方が好ましい。
【0021】
フィルム16は、フィルム形成装置17からテンタ装置21に至る渡り部36に配されたローラ34で搬送されて、テンタ装置21に案内される。テンタ装置21では、フィルム16の側端部を保持手段(図示無し)で保持し、この保持手段で搬送しながらフィルム16を乾燥する。保持手段は、フィルム16を所定のタイミングで幅方向に所定の張力をかけるように、フィルム16の幅方向に変位しながらフィルム16を搬送する。
【0022】
フィルム16は、テンタ装置21からローラ乾燥装置22へ送られると、搬送方向に並んで配された複数のローラ22aの周面で支持される。これらのローラ22aの中には、周方向に回転する駆動ローラがあり、この駆動ローラの回転により搬送される。
【0023】
そして、ローラ乾燥装置22で乾燥したフィルム16をスリット装置23へ送り、搬送されているフィルム16の両側を切断刃で切断して各側端部を除去する。一方の側端部と他方の側端部との間の中央部は巻取装置26へ送り、ロール状に巻き取る。
【0024】
スリット装置23は、図2に示すように、切断すべきライン(以降、スリットラインと称する)SLでフィルム16を切断するスリッタ41を備え、スリッタ41は、スリットラインSLよりもフィルム16の側縁側に配される外刃42と、スリットラインSLよりもフィルム16の中央側に配される内刃43とを有し、外刃42と内刃43とによりフィルム16を剪断するいわゆるゲーベルタイプスリッタである。フィルム16から切り離された側端部16bは、回収部36に回収されてドープ11に再利用される。
【0025】
スリッタ41は、外刃42と内刃43とをフィルム16の幅方向に移動するシフト部46と、予め決定してあるスリットラインSLでフィルム16を切断するようにシフト部46を制御して、外刃42と内刃43とのフィルム16の幅方向での位置を調整するコントローラ47とを有する。なお、シフト部46は、外刃42と内刃43とをフィルム面に対して垂直な方向にも独立して変位させ、コントローラ47はその変位量も制御する。
【0026】
スリット装置23は、さらに、外刃42と内刃43とのうち少なくともいずれか一方とフィルム16とが接触する接触位置に液を供給する液供給部48とを備える。
【0027】
図3に示すように、外刃42は、外刃軸42aに固定され、矢線Aで示す方向(以降、A方向と称する)に外刃軸42aと一体に回転し、内刃43は内刃軸43aに固定され、A方向とは逆向きの矢線Bで示す方向(以降、B方向と称する)に内刃軸43aと一体に回転する。フィルム16の搬送路を側面からみたときに、外刃42と内刃43とは、外刃42の刃部42bと内刃43の刃部43bとが部分的にオーバーラップするように配され、刃部42bと刃部43bとが互いに摺接するように回転して、案内されてきたフィルム16が搬送方向Xに剪断される。なお、摺接とは、刃部42bと刃部43bとが必ずしも接している状態だけを意味するものではなく、剪断を行うために両者の間にわずかな間隔がある状態をも含む。
【0028】
液供給部48は、前記接触位置に液51が供給されるように、液51を所定位置に案内する管52と、液51を管に送り込むポンプ53と、このポンプ53を制御して液51の流量を調節するコントローラ(図示無し)とを備える。
【0029】
液供給部48は、液51を接触位置に供給することにより、フィルム16の切断で生じた粉状のフィルム屑、すなわち切り粉を液51で捕捉して、フィルム16に付着させる。そこで、液51としては、切り粉が膨潤または溶解するものを用いる。捕捉した切り粉は、液51に捕捉された状態でフィルム16に付着し、液51が蒸発する間にフィルム16や側端部16aの一部となる。このようにして、液51が蒸発したときには、切り粉は側端部16aと側端部16aが切り離されたフィルム16との少なくともいずれか一方に一体化する。
【0030】
以上のようにして、切り粉によるスリット装置23及びフィルム16の汚染を防止することができる。また、スリット装置23のみならず、これより下流の搬送路や巻取装置26等の汚染も防止することができる。さらに、この方法及び装置によると、外刃42や内刃43が連続使用されて切れ味が低下した場合でも、良好な切断面を形成するように切断を続けることができ、外刃42や内刃43の使用期間を従来よりも長くすることができる。さらにまた、この方法及び装置によると、膨潤または溶解した切り粉が、側端部16aを切り離されたフィルム16の切断面及びその周辺に一体化するため、切断されたフィルムの側縁に従来生じていたバリが生じなくなるという効果もある。これらの3つの効果は、フィルム16が固く粘弾性が低いものであるほどより大きく、例えば、フィルム16がセルロースアシレートからなるフィルムである場合には確実に効果が得られる。
【0031】
上記の3つの効果、すなわち、汚染防止と、外刃42や内刃43の使用期間の長期化と、バリの抑止効果は、外刃42と内刃43との少なくともいずれか一方と、フィルム16との間に液51の溜まり(以下、液だまりと称する)を形成するように液51を接触位置に供給することで、より確実に効果が得られる。図3では、刃部42bに搬送方向Xの上流側から液51が供給されるように、接触位置よりもA方向上流側の刃部42bに管52の下流端を配してある。これにより、液51は、接触位置よりも上流の刃部42bとフィルム16との間に液溜まり56が形成される。
【0032】
液溜まり56は、フィルム16の上に、あるいは、内刃43の刃部43bに液51を案内しても形成することができる。フィルム16の上に液51を案内する場合には、スリットラインSL上部に管52の下流端を配し、スリットラインSL上に着液させるとよい。これによりスリットラインSL上で液51が流延されて、液51が接触位置に供給される。内刃43の刃部43bに液51を案内する場合には、接触位置よりもB方向上流側の刃部43bに着液させるとよい。これにより、刃部43bで液51が流延されて接触位置に供給される。液溜まり56は、本実施形態の外刃42及び内刃43のように回転刃を用いて切断する場合に、より形成しやすく、外刃42と内刃43との剪断によりフィルム16を切断する場合には、刃部42bと刃部43bとの少なくともいずれか一方に液を案内することで液溜まり56を形成して接触位置に液51を確実に供給することができる。外刃42,内刃43を回転刃とすることで、刃部42bないし43bに案内されてきた液51が、外刃42,内刃43の回転の遠心力により外刃42,内刃43の外周に保持されやすく、液溜まり56が形成されやすくなる。
【0033】
外刃42は刃部42bの断面が鋭角な鋭角刃であり、このような鋭角刃に液51を案内することにより、刃部43b断面が垂直な内刃43に液を供給するよりも液溜まり56をより確実に形成することができる。したがって、内刃43を鋭角刃とし、外刃42を断面垂直な垂直刃とする場合には、鋭角刃である内刃43の刃部に液51を案内する方が好ましい。このように鋭角刃を介して接触位置に液51を供給することが好ましい。なお、内刃43を垂直刃とすると、フィルム16の中央部が内刃43の周面で支持されるために切断時のフィルム16の形状をより安定に保持し、切り粉の発生量を少なく抑えることができる。
【0034】
鋭角刃を用いる場合には、鋭角刃を外刃42として用い、この外刃42に液51を案内することがより好ましい。この際には、図4に示すように、刃部42bとフィルム16の中央部との間に液溜まり56を形成することが好ましい。これにより、側端部16aが切り離された後のフィルム16の汚染防止と、バリ防止との両効果がより確実になる。フィルム16の中央部と刃部42bの内側面との間に液溜まりを形成するには、矢線Yで示すフィルム幅方向における外刃42の内側面42cに液51を案内するとよい。この場合であっても、液51は、接触位置よりもA方向上流側の刃部42bに着液するように管52の下流端を配することが好ましい。
【0035】
図3と図4とには、切断する際のフィルム16の搬送路を水平に図示してあるが、本発明はこの態様に限定されない。すなわち、水平方向と交差する方向にフィルム16を搬送し、この搬送状態でフィルム16を搬送方向に切断してもよい。例えば、上方から下方に向けてフィルム16を搬送し、水平方向に並べて配した外刃42と内刃43との間を通過させてもよい。しかし、液溜まり56をより確実に形成する観点では、フィルム16の搬送路を鉛直方向と交差させてフィルムを切断することがより好ましい。特に好ましくは、図3及び図4のように、搬送路を水平方向にして、内刃43を下刃として用いるとともに鋭角刃である外刃42を上刃として用いる態様である。この態様では、接触位置にある刃部42bの刃先が下向きとなるので、外刃の回転による遠心力と重力との両方が液溜まり56の形成により大きく寄与するからである。
【0036】
溶液製膜方法により製造されたフィルムを切断する場合や、本実施形態のように溶液製膜過程でフィルム16を切断する場合には、液51は、ドープ13(図1参照)をつくるにあたり用いられた溶剤12(図1参照)としてもよい。溶剤12が複数の液体の混合物である場合には、これら複数の液体のうち、ポリマー11(図1参照)の良溶媒成分を用いるとよい。良溶媒成分を液51として用いると、側端部16aの切断面及び側端部16aが切り離されたフィルム16の切断面や切り粉の膨潤または溶解が確実かつ迅速に進むとともに、切り粉と側端部16aや側端部16aが切り離されたフィルム16との一体化がより確実になる。さらに、良溶媒成分に貧溶媒成分を混合させたものを液51として用いると、側端部16aや側端部16aが切り離されたフィルム16への切り粉の一体化を早める効果がある。なお、切り粉を膨潤する液体よりも溶解する液体の方がより好ましい。
【0037】
ところで、溶液製膜では、フィルム16を前述の通り乾燥させる。乾燥するにあたりフィルム16から蒸発した溶剤12は、回収されて、新たなドープ13を製造するための溶剤12として再利用される。回収は、凝縮や、吸着及び脱着により為され、いずれの方法で回収するかは、溶剤12の種類、回収すべき溶剤12の量等によって決定する。さらに、再利用するためには、回収された溶剤12を精製する精製は蒸留や膜分離で為される。このように、溶剤12の回収と回収された溶剤12を再利用することができる程度にまで精製するには、溶剤12の種類や回収量及び精製処理量等に応じて種々の処理方法を組み合わせなくてはならない。そこで、本実施形態のように溶液製膜過程でフィルムを切断し、溶剤12の成分を液51として用いると、液51が溶液製膜設備10の内部で蒸発させるので、溶剤12とともに液51を回収、精製することができる。
【0038】
溶融製膜で製造されたフィルムを切断する場合や、溶融製膜過程でフィルムを切断する場合には、フィルムを膨潤あるいは溶解する液体を予め選定しておき、それを液51として用いる。
【0039】
液51は、揮発性をもつ液体であることがより好ましい。揮発性の液体を使用することで、側端部16aや側端部16aが切り離されたフィルム16に付着した切り粉をよりはやいタイミングでこれらに一体化することができるからである。なお、液51としては、工作油として一般的に広く用いられる油も用いることができるが、油が蒸発しにくいものであるとスリット装置23を含めた各種装置やフィルムが油で汚染されてしまうことがあるので、蒸発性や揮発性を考慮して使用する油を選定するとともに、供給する油の流量を決定するとよい。
【0040】
液51の流量は、フィルム16の搬送速度に応じて決定するとよい。具体的には、フィルム16の搬送速度が大きい場合ほど流量を大きくする。すなわち、フィルム16の搬送方向における単位長さあたりで供給すべき液51の量を決定する。上記の各実施形態及び下記の実施形態によると、切断するフィルム16の長さ1mあたり0.01mL以上0.50mL以下の範囲の量が供給されるように、すなわち0.01mL/m以上0.50mL/m以下の流量となるように液51を接触位置に供給することが好ましい。流量が多すぎると、スリッタ41とフィルム16との接触の際に液51が周辺に飛び散ることがあるので、流量を適宜増減するとよい。
【0041】
本発明は、上記のようにフィルム16を回転刃で剪断する場合に限定されず、他の切断方法で切断する場合も含む。図5に示すスリット装置61には、刃部62を移動させることなくフィルム16の搬送力を利用してフィルム16を連続的に切断するいわゆるレザータイプのスリッタ63が備えられる。このスリッタ63は、搬送方向Xの上流側に刃部62を向けるように、刃部62の長手方向をフィルムの幅方向Yに垂直にして配されている。
【0042】
また、スリット装置61は液供給部を備える。液供給部はスリット装置23と同じであるので、図5には管52のみを図示し、説明は略す。
【0043】
このスリット装置61による切断でも、前述の実施形態と同様に、管52から接触位置に液51を供給することにより、液51で切り粉を捕捉して、捕捉した切り粉をフィルムに付着させる。これにより、汚染防止と、スリッタ63の使用期間の長期化との効果が得られ、さらに、バリの抑止効果もある。
【0044】
下流端がスリットラインSLの上方に位置するように管52を配し、これにより、図5に示すように、液51をスリットラインSL上に連続的に案内する。フィルム16は接触位置に向かい、スリットラインSLは接触位置を通過するので、スリットラインSL上に着液すると液51はスリットラインSLで流延され接触位置に達する。
【0045】
刃部62の長手方向は、搬送路を側面から見たときに、接触位置よりも上流側での搬送路と鋭角になるようにされてある。これにより、刃部62の刃先は下向きになる。この場合には、管52の下流端を、接触位置よりも上流側の刃部62に近接させた位置に代え、液51を刃部62に案内し、スリッタ63を介して接触位置に供給してもよい。しかし、このようなレザータイプのスリッタ63を用いる場合には、スリットラインSL上に液51を案内する方がより確実に上記の効果が得られる。
【0046】
搬送方向Xは、下向きでもよい。この場合には、刃部62の刃先が上向きになるので、刃部62よりもスリットラインSL上に液51を案内する方が、接触位置に確実に液51を供給することができる。
【0047】
上記の実施形態は、溶液製膜設備10のローラ乾燥装置22と巻取装置26との間の搬送路にスリット装置23,61を設け、巻取直前で切断する場合であるが、これは、本発明が、切り粉が最も多く発生しやすい固いフィルムを切断する場合に効果が大きいことに基づく。溶液製膜設備では、上記のようなローラ乾燥装置22と巻取装置26との間の他にも側端部を連続的に切断するので、いずれの切断工程にも本発明は有効である。例えば、フィルム形成装置17とテンタ装置21との間や、テンタ装置21とローラ乾燥装置22との間の各搬送路にスリット装置23,61をそれぞれ設け、バンド28から剥ぎ取ったフィルム16をテンタ装置21に案内する前に切断したり、テンタ装置21の保持手段で保持された保持部をローラ乾燥装置22に案内する前に切除したりする場合である。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例としての実験1〜実験9と、本発明に対する比較例としての比較実験1,2を記載する。
【0049】
[実験1]〜[実験5]
図1に示す溶液製膜設備10を用いて所定幅のフィルム16を製造した。図3に示すスリット装置23を用いて、セルロースアシレートからなるフィルム16を連続して搬送方向に切断した。セルロースアシレートはトリアセチルセルロース(TAC)である。搬送方向Xが水平となるように、フィルム16の搬送路をスリット装置23の上流のローラ34と下流のローラ34とにより形成した。
【0050】
外刃42は搬送路の上側に配して上刃として用い、内刃43は搬送路の下側に配して下刃として用いた。管52の下流端を刃部42bの接触位置よりもA方向上流側に位置させ、液51を接触位置よりも上流側から刃部42に案内した。これにより、外刃42を介して、液51を接触位置に供給した。
【0051】
液51の種類と供給する際の流量とを表1の実験1〜実験5の記載のようにした。表1の「液の種類」欄における「混合物」とは、ジクロロメタンとメタノールとを9:1で混合したものである。ジクロロメタンとメタノールとはともに溶剤12の成分として用いており、ジクロロメタンはTACを溶解する良溶媒、メタノールはTACの貧溶媒である。表1の「液の流量(単位;mL/m)」は、供給する際の液51の流量であり、フィルム16を1m切断するために供給する液51の体積である。
【0052】
スリット装置23を含めた溶液製膜設備10とフィルム16との切り粉による汚染の有無の評価と、スリッタ41の使用期間についての評価とを実施した。これらの結果は表1の「切り粉による汚染の有無」欄と「使用期間」欄に示す。
【0053】
汚染の有無の評価は、目視にて行い、以下の基準で評価した。A〜Cが合格、Dが不合格のレベルである。
A;溶液製膜設備とフィルムの側端面とに汚染が全く認められない
B;フィルムの側端面にわずかの汚染はあるものの、スリット装置23の下流に配されるローラ34には汚染が全く認められず、溶液製膜設備に汚染が認められない
C;フィルムの側端面にわずかの汚染はあるものの、巻取装置26に巻き取る際のフィルムのフィルム面は汚染されておらず、製品とすることができる。また、溶液製膜設備にも汚染が認められない。
D;巻取装置26に巻き取る際のフィルムと溶液製膜設備とのいずれにも汚染が確認された
【0054】
スリッタ41の使用期間は、良好な切れ味が保持されている期間、すなわち、外刃42と内刃43とを新たなものに交換する必要無く連続して使用することができる期間を測定することにより評価した。評価基準は以下である。なお、従来実施されている加熱切断方法は、切断時におけるフィルムの温度が80℃以上100℃以下の範囲となるように切断直前にフィルムを加熱して、スリッタ41を用いて切断する方法である。この加熱切断方法による使用期間は、以下の評価基準のDにあたる。
A;1週間以上
B;1時間以上1週間未満
C;10分以上1時間未満
D;10分未満
【0055】
【表1】

【0056】
[実験6]
液51を、下刃として用いた内刃43の刃部43bに案内した。この際、液51が接触位置よりもB方向上流側の刃部43bに案内されるように、管52の下流端を配した。液51の種類と供給する際の流量は表1に示す通りであり、他の条件は実験1〜5と同じである。そして、実験1〜5と同様の評価を行った。
【0057】
[実験7]
液51を、フィルム16のスリットラインSL下に案内した。この際、管52の下流端がスリットラインSLの上方となるように管52を配した。表1の「液の案内先」欄には、スリットラインの符号である「SL」と記す。液51の種類と供給する際の流量は表1に示す通りであり、他の条件は実験1〜5と同じである。そして、実験1〜5と同様の評価を行った。
【0058】
[実験8]
溶液製膜設備10のスリット装置23を、図5に示すスリット装置61に代えた。液51を、スリッタ63の刃部62に案内し、このスリッタ63を介して接触位置に供給した。この際、液51が接触位置よりも上流から刃部62bに案内されるように、管52の下流端を刃部に近接させて配した。液51の種類と供給する際の流量は表1に示す通りである。そして、実験1〜5と同様の評価を行った。
【0059】
[実験9]
液51を、フィルム16のスリットラインSL下に案内した。この際、管52の下流端がスリットラインSLの上方となるように管52を配した。液51の種類と供給する際の流量は表1に示す通りであり、他の条件は実験8と同じである。そして、実験1〜5と同様の評価を行った。
【0060】
[比較実験1]
液供給装置48を使用せずに、スリット装置23で切断を実施した。すなわち、液51の供給を行わずに、スリッタ41でフィルムを切断した。その他の条件は実験1〜5と同じであり、実験1〜5と同様の評価を行った。
【0061】
[比較実験2]
液供給装置48を使用せずに、スリット装置61で切断を実施した。すなわち、液51の供給を行わずにスリッタ63でフィルムを切断した。その他の条件は実験8,9と同じであり、実験1〜5と同様の評価を行った。
【符号の説明】
【0062】
16 フィルム
23,61 スリット装置
41,63 スリッタ
42 外刃
42b 刃部
43 内刃
43b 刃部
48 液供給部
62 刃部
SL スリットライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送されているフィルムを切断刃で搬送方向に切断するスリット工程中に、
切断により生じる前記フィルムの切り粉が溶解または膨潤する液を、前記切断刃と前記フィルムとが接触する接触位置に供給することを特徴とするフィルムスリット方法。
【請求項2】
前記フィルムと前記切断刃の刃部との間に液溜まりが形成されるように、前記液を供給することを特徴とする請求項1記載のフィルムスリット方法。
【請求項3】
前記切断刃は、刃部が互いに摺接するように回転して前記フィルムを剪断する1対の回転切断刃からなることを特徴とする請求項1または2記載のフィルムスリット方法。
【請求項4】
前記1対の回転切断刃の一方は断面鋭角な前記刃部を有し、この回転切断刃を介して前記液を供給することを特徴とする請求項3記載のフィルムスリット方法。
【請求項5】
前記断面鋭角な刃部を有する回転切断刃を、切断すべきラインに関して前記フィルムの側縁側に配される外刃として用い、
前記1対の回転切断刃の他方を、前記切断すべきラインに関し前記フィルムの幅方向中央側に配される内刃として用いることを特徴とする請求項4記載のフィルムスリット方法。
【請求項6】
前記断面鋭角な刃部を有する回転切断刃は、前記接触位置にある前記刃部の刃先が下向きとなるように配してあることを特徴とする請求項4または5記載のフィルムスリット方法。
【請求項7】
前記切断刃は、前記フィルムの搬送方向の上流側に刃部を向けるように配され、前記フィルムの搬送力を利用して前記フィルムを切断し、
前記接触位置に向かう前記フィルムの接触予定位置に前記液を案内することにより、前記液を前記接触位置に供給することを特徴とする請求項1記載のフィルムスリット方法。
【請求項8】
前記液は揮発性を有することを特徴とする請求項1ないし7いずれか1項記載のフィルムスリット方法。
【請求項9】
搬送されているフィルムを搬送方向に切断する切断刃と、
切断により生じる切り粉が溶解または膨潤する液を、前記切断刃と前記フィルムとが接触する接触位置に供給する液供給手段とを備えることを特徴とするフィルムスリット装置。
【請求項10】
前記切断刃は、刃部が互いに摺接するように回転して前記フィルムを剪断する1対の回転切断刃からなり、
前記液供給手段は、前記回転切断刃の前記接触位置よりも上流側にある前記刃部に前記液を案内し、この回転切断刃を介して前記液を供給することを特徴とする請求項9記載のフィルムスリット装置。
【請求項11】
前記切断刃は、前記フィルムの搬送方向の上流側に刃部を向けるように配され、前記フィルムの搬送力を利用して前記フィルムを切断し、
前記液供給手段は、前記接触位置に向かう前記フィルムの接触予定位置に前記液を案内することにより、前記液を前記接触位置に供給することを特徴とする請求項9記載のフィルムスリット装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−125932(P2011−125932A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283704(P2009−283704)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】