説明

フィルム搬送における張力変動防止装置

【課題】下流側で急激なフィルム張力の上昇があっても、フィルムを搬送するロール上をフィルムが滑ることなく、更に、急激な張力上昇を上流へ遡及させないフィルム張力の変動防止装置を提供する。
【解決手段】フィルムの搬送工程において下流側で発生した設定値以上の大きさの張力変動の上流側への遡及を防止するための少なくとも3本のロールが三つ葉状に配設され、前記3本のロール中、2本が固定ロールであり、残りの1本がフィルム張力変動に対応して前記2本の固定ロールの間で上下動する移動ロールであり、前記設定値以上の大きさの張力変動が発生すると移動ロールが前記2本の固定ロールと接触して走行するフィルムをニップするフィルム張力変動防止装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフィルム製造、搬送ラインにおいてフィルムの張力変動が搬送部の上流へ遡及するのを防止する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルム製造ラインには張力が急激に大きく変動する機器がある。例えば、連続巻取装置においてフィルムの巻取が満巻となって、満巻ロールから空ロールへ切り替える時にフィルムをカットする際の張力上昇や、粉砕装置によりフィルムを粉砕する際に行われるシャクリ運動による急激な張力上昇などである。
【0003】
このようにして発生した張力上昇が上流側へ遡及すると、フィルム品質の低下(ロール上滑りによるスクラッチ傷等)やレザー刃スリット部のカット面乱れやそれに伴うフィルム裂けの発生などの問題が生じる。また、張力変動が生じると、フィルムのバタツキやキャストフィルムにおいては、ダイから吐出された溶融樹脂を冷却ドラム上で固化する工程にまで張力変動が遡及する可能性があり、このような事態が生じると大きな厚み斑や最悪の場合には、フィルム切断に至る。
【0004】
そこで、このようなフィルム搬送ラインの上流側への張力変動の遡及を防止するため、一対のニップロールの間にフィルムをニップして張力変動を単純にカットしたり、特許文献1に記載されているように、ダンサーロールを設けて張力制御したりすることにより張力変動の吸収を行うことが考えられる。しかし、この様な従来の方法には以下に説明する問題がある。
【0005】
先ず、一対のニップロール間にフィルムをニップする張力カットではロールによるフィルムのニップ部分に法線方向に加えられたニップ力に摩擦係数を乗じた力がフィルムの滑りを防止する最大の力となる。したがって、それ以上の大きな張力上昇が発生した場合はフィルムとニップロールとの間で滑りが起きて、張力変動が上流側に遡及してしまうことになる。
【0006】
そこで、前述の滑りを防止するために、更にニップ力を上げようとすると、特に、フィルム幅が広い場合にはニップロールのたわみが発生して、逆にニップロールのセンター部分に間隙が生じて空いてくる。そうすると、ニップロールのセンター部でのニップ力が弱くなるので、これを防ぐためにニップロールの剛性をあげる必要が生じ、その結果、装置が大掛かりになる。また、ダンサーロールの場合はダンサーロール自体の慣性力(質量)により応答が遅く、急激な張力変動への追従ができずに張力変動が上流側へ遡及してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平02−34855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の従来技術が有する諸問題に鑑み、本発明の目的は、フィルム搬送時に下流側で急激なフィルム張力の上昇があっても、フィルムを搬送するロール上をフィルムが滑ることなく、しかも、急激な張力上昇を上流側へ遡及させないフィルム張力の変動防止装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ここに、前述の課題を解決するための本発明として、「フィルムの搬送工程において下流側で発生した設定値以上の大きさの張力変動の上流側への遡及を防止するための少なくとも3本のロールが三つ葉状に配設された装置であって、前記3本のロール中、2本が固定ロールであり、残りの1本がフィルム張力変動に対応して前記2本の固定ロールの間で上下動する移動ロールであり、前記設定値以上の大きさの張力変動が発生すると移動ロールが前記2本の固定ロールと接触して走行するフィルムをニップすることを特徴とするフィルム張力変動防止装置」が提供される。
【0010】
このとき、本発明のフィルム張力変動防止装置では、「固定ロールと移動ロールとの間に発生するニップ点と、移動ロールの回転中心点とを結んだ直線に対し、前記2本の固定ロールのそれぞれの回転中心点を結んだ直線とが形成する角度θが3度以上60度以下である、請求項1記載のフィルム張力変動防止装置」とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
下流側に存在する設備(例えばフィルム巻取り機や粉砕機)において、特に急激で大きいフィルム張力の変動があっても、急激かつ大きな張力変動分をカットすることができる。その結果、上流側へのフィルム張力変動の伝播を防止できる。特に、無延伸フィルムなどのフィルム厚みが厚いほど起こりうる大きな張力上昇の伝播にも十分に張力変動をカットできるので、急激かつ大きな張力変動が生じる設備が下流側に存在したとしても安定したフィルム製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るフィルム張力変動防止装置の一実施形態を例示した側面図である。
【図2】図2は、ニップロール装置のニップロール間の位置関係と力のバランスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例を図1に基づいて説明する。図1は本発明に係るフィルム張力変動防止装置の一実施形態を例示した側面図である。この図1において、符合1及び2はそれぞれ所定の位置に固定された固定ロール、符合3は上下に動く移動ロール、そして、符合4は下流側の別工程設備をそれぞれ示す。
【0014】
以上のように構成される本発明のフィルム張力変動防止装置において、所定の位置に固定された固定ロール1及び2に対して、フィルム張力の変動に対応して上下に動く移動ロール3が図1に例示したように三つ葉状に配置されている。すなわち、フィルムは上流より、固定ロール1から供給されて移動ロール3に巻付き、更に固定ロール2を介して下流側の別工程設備4へ搬送される。
【0015】
このとき、大きな張力がフィルムに作用しない限り、図示した実線の位置で移動ロール3が張力変動に応じてわずかに上下してフィルムに発生した張力変動を吸収する。つまり、フィルムの張力の上昇と下降に伴ってロール3も上下に昇降する。ところが、下流側に設けられた設備4において急激かつ大きな張力変動が発生すると、この急激かつ大きな張力が搬送されるフィルムを伝播してきて移動ロール3に作用し、移動ロール3を速やかに上方へ移動させる。
【0016】
このとき、フィルムの張力が一定の値以上に上昇すると、移動したロール3が上方に配置されたロール1及び/又はロール2と接触して移動ロール3は上方の固定ロール1及び2に押し付けられた状態(2点鎖線で示した状態)となる。そうすると、これらのロール1〜3上を走行するフィルムは、これらのロールによってニップされることになる。
【0017】
したがって、符号4で示される下流側の設備(例えばフィルム巻取り機や粉砕機)においてフィルムの張力変動、中でも急激で大きい張力上昇があったとしても、ある張力以上になるとフィルムはロール1〜3にニップされてしまう。このために、フィルムの張力変動がカットされて上流側へフィルム張力の変動が伝播するのが防止できる。
【0018】
特に、無延伸フィルムなどの厚みが厚いフィルムほど大きな張力上昇が起こり得るが、このような場合であっても張力変動の上流側への伝播にも十分に迅速に対応でき、張力変動を遡及をカットできる。その結果、急激あるいは大きな張力変動が生じるような機器が下流側に存在したとしても、安定したフィルム製造が可能となる。
【0019】
ここで、前述のロール1〜3の中で、少なくとも1つは駆動ロールとして、フィルム張力の変動があっても、ロールの表面速度に変動なく一定の速度で回転するようにする。この場合、固定ロール2、もしくは、固定ロール1及び2を駆動ロールとすることが好ましいが、移動ロール3が駆動ロールとなっても良い。なお、このような駆動ロールの駆動系は回転モーメントの大きいもの、例えば大きな減速比をもつ減速機を介して駆動したり、更に高速側にフライホイールを設けたりすることが、張力変動によるロールの回転速度の変動を防止には良い。
【0020】
次に、図2は前述の3本のロール1〜3の位置関係と力のかかり方を説明する図であり、この図2を使用して、3本のロール1〜3の相互作用について更に詳細に説明する。
【0021】
図2において、固定ロール2と移動ロール3との間のニップ点Aと移動ロール3の回転中心点とを結んだ直線に対し、これと2本の固定ロール1と2のそれぞれの回転中心点を結んだ直線(図1では水平線である)とが形成する角度をθとする。このとき、ニップ点Aにかかるフィルム張力をTとすると、移動ロール3に対しフィルムをニップするために上方向へ加えられた力に、更にフィルム張力Tが加算されて上方向に移動ロール3を引き上げる力Fが作用する。なお、この関係を式で表現すると、「F=2・T・sinθ」となる。この上方向の力Fにより、ニップ点Aにはロール表面の法線方向にFrが作用する。その関係は、「2・Fr・cos(90‐θ)=F」となる。
【0022】
このため、結局、フィルム張力Tによりロール表面で法線方向へフィルムを押し付ける力Frは、「Fr=T・cosθ/(cos(90-θ))」となる。ここで、単に説明の便宜上から試しにθを45°程度から30°、15°と徐々に小さくしていくと、cosθ/(cos(90-θ))の値は表1に示したような値となることが分かる。
【0023】
【表1】

【0024】
したがって、θが小さくなる程、クサビ効果によりフィルム張力Tが主因である押さえ力Frは大きくなることも理解できるであろう。このようなことを勘案すると、フィルム張力Tが急激に上昇した場合、その張力自体の作用によりフィルムをロール間でニップする力も大きくなり、ロール上でフィルムが滑って上流側へフィルム張力の上昇が遡及するのを防止することができる。なお、θの値としては、本発明の主旨を満足する限り特に限定する必要はないが、フィルムの走行性とのバランスとロール配置のバランスなども考慮して、3°〜60°が好ましく、中でも、15°〜30°が特に好ましい。
【0025】
以上に説明した本発明の効果により、フィルムをニップするため外部から移動ロール3に対して上側へ作用させるために懸かる力は、フィルム張力Tによる前述の作用によって強くローラ間でニップされるので、ロール自体に大きなニップ力を懸けなくても小さくて済む。したがって、ロール軸受の負荷も小さくて済み、これに伴うロール撓み変形も少なくなって広幅のフィルムの中央付近も確実にニップされることとなる。
【符号の説明】
【0026】
1:ニップロール
2:ニップロール
3:昇降側ニップロール
4:張力変動の有る下流側の設備

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムの搬送工程において下流側で発生した設定値以上の大きさの張力変動の上流側への遡及を防止するための少なくとも3本のロールが三つ葉状に配設された装置であって、前記3本のロール中、2本が固定ロールであり、残りの1本がフィルム張力変動に対応して前記2本の固定ロールの間で上下動する移動ロールであり、前記設定値以上の大きさの張力変動が発生すると移動ロールが前記2本の固定ロールと接触して走行するフィルムをニップすることを特徴とするフィルム張力変動防止装置。
【請求項2】
固定ロールと移動ロールとの間に発生するニップ点と、移動ロールの回転中心点とを結んだ直線に対し、前記2本の固定ロールのそれぞれの回転中心点を結んだ直線とが形成する角度θが3度以上60度以下である、請求項1記載のフィルム張力変動防止装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−254425(P2010−254425A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106455(P2009−106455)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】