説明

フィルム積層体、フィルム巻層体、及び該フィルム巻層体の製造方法

【課題】光学用途部材に使用可能であり、巻回時やトリミング時にポリカーボネート樹脂フィルムの表面や端部に割れが生じず、透明性と厚み精度に優れるフィルム積層体、及びこれを用いた、巻きずれや巻きじわのないフィルム巻層体を提供する。
【解決手段】構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物(a)に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂を溶融押出成形してなる脆性破壊しないポリカーボネート樹脂フィルムと、基材層と粘着層を有するマスキングフィルムと、を積層してなり、ポリカーボネート樹脂フィルム同士を面接触させた状態の静摩擦係数が1.8以上であり、ポリカーボネート樹脂フィルムの一面とマスキングフィルムの非粘着面とを面接触させた状態での静摩擦係数が0.01以上1.8未満であるフィルム積層体とし、これをロール状に巻き取ってフィルム巻層体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性が高くフィルム面同士の摩擦抵抗が大きなポリカーボネート樹脂フィルムとマスキングフィルムとを積層したフィルム積層体、該フィルム積層体をロール状に巻き取って得られるフィルム巻層体、及び該フィルム巻層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂フィルムは、安価で軽量、且つ透明性や成形性、光学特性、耐熱性、寸法安定性、機械強度に優れ幅広い分野で用いられている。取り分け優れた光学特性から、光ディスクや光ガード、液晶ディスプレイ等の位相差補正板等の光学用途部材に広く用いられている。更にポリカーボネートフィルムに耐溶剤性、耐摩耗性、耐擦傷性、反射防止等の性能や機能を付与するためのコーティング、印刷等の表面加工、表面処理が施されることもある。
【0003】
しかしながら、一般にポリカーボネート樹脂フィルムはフィルム面同士の摩擦抵抗が大きく、何ら表面加工等せずに鏡面フィルムをロール状に巻き取ろうとすると、フィルム面同士の滑性が乏しいが故に巻きずれや巻きじわが生じることが多かった。
【0004】
このような巻きずれや巻きじわの発生を回避するために、フィルム表面を粗くする方法が提案されている。この方法は、フィルム面同士の接触面積を減少させて滑性を改善せしめることを意図したものである。
【0005】
その手段の一つとして、ポリカーボネート樹脂に微粒子を練りこんで表面を粗くする方法が開示されている(特許文献1、2)。
【0006】
また、別の手段として、冷却ロールの一部にゴムロールや粗面化した金属ロールを用いて、両面タッチ方式により製膜し、押圧によりロール粗面をフィルムに転写させる方法が開示されている(特許文献3〜5)。
【0007】
さらに、近年提案された手段として、粗度を規定した冷却ロールを用いて両面タッチ方式により製膜し、フィルム面同士の静摩擦抵抗を低減させながら、フィルムのヘーズ上昇を抑制せしめる方法が開示されている(特許文献6)。
【0008】
また、ポリカーボネート樹脂を主とする光学フィルムに保護フィルムを積層することで、表面に凹凸が少ない光学フィルム製品を得たり、外観が綺麗なロール状巻回体を得たりすることについても開示されている(特許文献7、8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭52−105957号公報
【特許文献2】特開平01−319540号公報
【特許文献3】特開昭64−72831号公報
【特許文献4】特開昭64−72832号公報
【特許文献5】特開昭64−72833号公報
【特許文献6】特開2008−7626号公報
【特許文献7】国際公開2003/004270号パンフレット
【特許文献8】特開2011−112945号公報
【特許文献9】国際公開2006/041190号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1や2に開示された方法では、ポリカーボネート樹脂に練りこんだ微粒子の一部が、フィルム表面に浮き出してフィルムの光学特性上の点欠陥となったり、冷却ロールに密着汚染してフィルム外観が損なわれる。
【0011】
また、特許文献3〜5に開示された方法では、フィルムのヘーズが増大して透明性が損なわれる。
【0012】
さらに、特許文献6に開示された方法では、取り分け高精度なフィルム厚み精度が要求される用途や特定のポリカーボネート樹脂フィルムの巻層体を得ようとする場合においては、目的の厚み精度を達成することができない。
【0013】
一方、特許文献7や8には、保護フィルムを積層して巻回することが記載されているものの、そもそもポリカーボネート樹脂を主とする光学フィルムは多岐にわたるのであり、例えば特許文献9に記載されたようなポリカーボネートからなるフィルムは非常に脆性が大きく、保護フィルムを積層したとしても、巻回しようとしたり、端部をトリミングしようとしたりすると割れが発生して使用できない。
【0014】
すなわち、フルオレンのように嵩高い構造を有するポリカーボネート樹脂は、光学用途への有用性が高いものの、その剛直な構造により分子鎖の絡み合いが起こりにくく、ノッチ感度が高いことから、特にフィルムなどの厚みの薄い成形体を安定して製造することが難しいものである。
【0015】
そこで本発明は、上記事情に鑑み、光学用途部材に使用可能であり、巻回時やトリミング時にポリカーボネート樹脂フィルムの表面や端部に割れが生じず、透明性と厚み精度に優れるフィルム積層体、及び該フィルム積層体を用いた、巻きずれや巻きじわがなく均一なフィルム巻層体を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、特定の分子構造を有するポリカーボネート樹脂を用いて作製された、脆性破壊しないフィルムと、特定のマスキングフィルムとのフィルム積層体、及び該フィルム積層体をロール状に巻き取って得られるフィルム巻層体が、上記課題を全て解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
本発明の第1の態様は、構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物(a)に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂を溶融押出成形してなる脆性破壊しないポリカーボネート樹脂フィルムと、基材層および粘着層を有するマスキングフィルムと、を積層してなるフィルム積層体であって、前記ポリカーボネート樹脂フィルム同士を面接触させた状態の静摩擦係数が1.8以上であり、前記ポリカーボネート樹脂フィルムの一面と前記マスキングフィルムの非粘着面とを面接触させた状態での静摩擦係数が0.01以上1.8未満であるフィルム積層体である。
【0018】
【化1】

【0019】
なお、本発明において「非粘着面」とは、マスキングフィルムの粘着層とは反対側にある基材層側の面をいう。また、本発明において「静摩擦係数」とはJIS−K7125(1999年)に基づき測定した静摩擦係数をいう。さらに、本発明においてポリカーボネート樹脂フィルムが「脆性破壊しない」とは、以下の条件を満たすものであると定義する。
【0020】
まず、ポリカーボネート樹脂を溶融押出成形し、幅200mm以上、100μm厚のフィルムを作製する。このフィルムの幅方向の中央部付近から、フィルムの流れ方向(MD)に長さ40mm、幅方向(TD)に幅10mmの長方形の試験片を得る。
万力の左右の接合面の間隔を40mmに開き、試験片の両端を接合面内に固定する。次に左右の接合面の間隔を2mm/秒以下の速度で狭めていき、フィルムが万力の接合面の外にはみ出さないようにしながら、折れ曲がったフィルム全体を該接合面内で圧縮していく。
そして、接合面間が完全に密着する迄に試験片が折れ曲がり部で2片(又は3片以上の破片)に割れた場合を「割れあり」、接合面間が完全に密着してもなお試験片が割れずに折り曲げられた場合を「割れなし」とする。
同一の種類のフィルムについて5回繰り返して試験を実施し、そのうち4回以上「割れあり」となるものを「×:脆性破壊あり」、3回以下「割れあり」となるものを「○:脆性破壊なし」とする。
【0021】
本発明の第2の態様は、下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物(b)に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂を溶融押出成形してなるポリカーボネート樹脂フィルムと、基材層および粘着層を有するマスキングフィルムと、を積層してなるフィルム積層体であって、前記ポリカーボネート樹脂フィルム同士を面接触させた状態の静摩擦係数が1.8以上であり、前記ポリカーボネート樹脂フィルムの一面と前記マスキングフィルムの非粘着面とを面接触させた状態での静摩擦係数が0.01以上1.8未満であるフィルム積層体である。
【0022】
【化2】

【0023】
(上記式(2)中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のシクロアルキル基、または、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のアリール基を表し、Xは置換若しくは無置換の炭素数2〜炭素数10のアルキレン基、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のシクロアルキレン基、または、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のアリーレン基を表し、m及びnはそれぞれ独立に1〜5の整数である。)
【0024】
本発明の第1又は第2の態様において、前記ポリカーボネート樹脂フィルムの面内位相差の絶対値が10nm以下であることが好ましい。
【0025】
本発明の第1又は第2の態様において、上記ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度が110℃以上160℃以下であることが好ましい。
【0026】
本発明の第1又は第2の態様において、前記ジヒドロキシ化合物(a)または前記ジヒドロキシ化合物(b)が、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンであることが好ましい。
【0027】
本発明の第1又は第2の態様において、上記ポリカーボネート樹脂フィルムが厚み30μm以上300μm以下、全光線透過率85%以上、かつ、ヘーズ2%以下であることが好ましい。
【0028】
本発明の第1又は第2の態様において、前記ポリカーボネート樹脂フィルムに前記マスキングフィルムを積層する前の、ポリカーボネート樹脂フィルム表面の水滴接触角θと、前記ポリカーボネート樹脂フィルムに前記マスキングフィルムを積層し、さらに前記ポリカーボネート樹脂フィルムから前記マスキングフィルムを剥離した後のポリカーボネート樹脂フィルム表面の水滴接触角θとの差の絶対値|θ−θ|が20°以下であることが好ましい。
【0029】
本発明の第1又は第2の態様において、前記マスキングフィルムの、JIS−Z0237(2009年)に準拠した、前記ポリカーボネート樹脂フィルムに対する剥離強度が、5mN/10mm以上、200mN/10mm以下であることが好ましい。
【0030】
本発明の第1又は第2の態様において、前記マスキングフィルムの前記基材層がポリオレフィン樹脂から構成されることが好ましい。
【0031】
本発明の第1又は第2の態様において、前記マスキングフィルムの前記粘着層が変性ポリオレフィン樹脂から構成されることが好ましい。
【0032】
本発明の第3の態様は、本発明の第1又は第2の態様に係るフィルム積層体を円筒形の巻き芯に巻き取りロール状としたフィルム巻層体である。
【0033】
本発明の第3の態様において、前記フィルム巻層体の側面端部の巻きずれ幅が4mm以下であることが好ましい。
【0034】
本発明の第4の態様は、本発明の第3の態様に係るフィルム巻層体の製造方法であって、上記ポリカーボネート樹脂を溶融押出し、表面の最大高さRzが0.3μm以下の金属製鏡面ロールを使用して冷却させながら引き取ってポリカーボネート樹脂フィルムを作製する工程と、作製したポリカーボネート樹脂フィルムとマスキングフィルムとを積層することにより、フィルム積層体を作製する工程と、作製したフィルム積層体を円筒形の巻き芯にロール状に巻き取る工程と、を含む、フィルム巻層体の製造方法である。
【0035】
本発明の第4の態様のうち、前記フィルム積層体を円筒形の巻き芯にロール状に巻き取る工程において、フィルム幅1m辺りの巻き取り張力を80N/m以上、200N/m以下とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、光学用途部材に使用可能であり、巻回時やトリミング時にポリカーボネート樹脂フィルムの表面や端部に割れが生じず、透明性と厚み精度に優れるフィルム積層体、及び該フィルム積層体を用いた、巻きずれや巻きじわがなく均一なフィルム巻層体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態の1つの例としての、ポリカーボネート樹脂フィルムとマスキングフィルムとを積層してなるフィルム積層体、及び該フィルム積層体をロール状に巻き取って得られるフィルム巻層体について説明する。但し、本発明は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0038】
<ポリカーボネート樹脂>
本発明に用いるポリカーボネート樹脂は、構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物(a)に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂であり、上記ポリカーボネート樹脂を溶融押出成形してなるポリカーボネート樹脂フィルムが脆性破壊しないものである。なお、本発明において「ポリカーボネート樹脂」は、いわゆる「ポリエステルカーボネート樹脂」をも含む概念である。
【0039】
【化3】

【0040】
上記の脆性破壊しないポリカーボネート樹脂フィルムを得るには、ポリカーボネート樹脂の分子設計とともに、重合条件や成形条件など種々の製造条件を適切に設定することが重要である。ポリカーボネート樹脂の分子設計の観点からは、後述するようなジヒドロキシ化合物を原料に用いたり、種々のジヒドロキシ化合物を組み合わせて用いることによって、ポリカーボネート樹脂に柔軟性を付与したり、ガラス転移温度を適切な範囲に調節することで、靭性に優れたポリカーボネート樹脂を得ることができる。また、ポリカーボネート樹脂が本来有する機械物性を発現させるためには、ポリカーボネート樹脂の重合時に、十分な分子量まで反応を進行させる必要がある。さらに、溶融押出成形の際に、樹脂物性に合わせて押出機の条件を適切に設定し、加工時の熱分解を抑制することによって、ポリカーボネート樹脂の機械特性を低下させずにフィルムを成形することが可能となる。それぞれ詳細については後述する。
【0041】
[ジヒドロキシ化合物(a)]
ジヒドロキシ化合物(a)は、構造の一部に上記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物であって、後述するように、上記ポリカーボネート樹脂を溶融押出成形してなるポリカーボネート樹脂フィルムが脆性破壊せず、かつ、当該ポリカーボネート樹脂フィルム同士を面接触させた状態の静摩擦係数が1.8以上となるものであれば特に限定されるものではない。
【0042】
このうち、ジヒドロキシ化合物(a)が下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物(b)であることが好ましい。得られるポリカーボネート樹脂フィルムが、光学的等方性や延伸フィルムの光学的異方性等の各種光学特性に優れ、かつ特に際立って脆性破壊しないものとなるためである。
【0043】
【化4】

【0044】
上記式(2)中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のシクロアルキル基、または、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のアリール基を表し、Xは置換若しくは無置換の炭素数2〜炭素数10のアルキレン基、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のシクロアルキレン基、または、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のアリーレン基を表し、m及びnはそれぞれ独立に1〜5の整数である。
【0045】
具体的には、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチル−6−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等が例示され、得られるポリカーボネート樹脂の耐熱性及び柔軟性の観点から、好ましくは、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレンであり、特に好ましくは、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンである。
【0046】
構造の一部に上記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物(a)に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂の中でも、特に上記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物(b)に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂を用いたフィルムは、嵩高い分子構造に起因する優れた耐熱性を有するとともに、主鎖中に柔軟性を付与できる構造も有するため、優れた機械物性も兼ね備えている。このように、上記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物(b)をモノマーに選択することで、脆性破壊しないポリカーボネート樹脂を得ることが可能となる。
【0047】
[その他のジヒドロキシ化合物]
本発明に用いるポリカーボネート樹脂は、上記ジヒドロキシ化合物(a)及びジヒドロキシ化合物(b)以外のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含んでいてもよい。
【0048】
中でも、構造の一部に下記式(3)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物(c)に由来する構造単位を含んでいることが、ポリカーボネート樹脂の光学特性や成形性が良好となるという点から好ましい。但し、このジヒドロキシ化合物(c)は、上記のジヒドロキシ化合物(a)及びジヒドロキシ化合物(b)とは異なるものとし、且つ、式(3)で表される部位を−CH−O−Hの一部としてのみ含む場合を除くものとする。
【0049】
【化5】

【0050】
構造の一部に上記式(3)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物(c)としては、例えば、後述する式(4)で表されるジヒドロキシ化合物に代表される無水糖アルコール類および後述する式(5)で表されるスピログリコールに代表される環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物類などのように、エーテル構造を有するものが挙げられる。
【0051】
無水糖アルコール類は、通常、糖類またはその誘導体を脱水環化することにより得られる複数のヒドロキシ基を有するものである。また、環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物類は、環状エーテル構造を有する構造部分と2つのヒドロキシ基とを有する化合物である。
【0052】
無水糖アルコール類、および環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物類は、いずれもヒドロキシ基は環状構造に直接結合していてもよいし、置換基を介して環状構造に結合していてもよい。環状構造は単環であっても多環であってもよい。
【0053】
無水糖アルコール類、および分子内に環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物類では、環状構造が複数あるものが好ましく、環状構造を2つ有するものがより好ましく、当該2つの環状構造が同じものであることがさらに好ましい。また、複数の環状構造が縮環していてもよい。
【0054】
より具体的には、無水糖アルコール類としては、下記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物が挙げられ、例えば、立体異性体の関係にある、イソソルビド、イソマンニドおよびイソイデットが挙げられる。
【0055】
【化6】

【0056】
上記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物は、生物起源物質を原料として糖質から製造可能なエーテルジオールである。とりわけイソソルビドは、澱粉から得られるD−グルコースを水添してから脱水することにより安価に製造可能であって、資源として豊富に入手することが可能である上、上記ポリカーボネート樹脂の光学特性や成形性が良好となる。これら事情により、イソソルビドが最も好ましい。
【0057】
また、環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物類としては、例えば、下記式(5)に代表される環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物が挙げられる。
【0058】
【化7】

【0059】
上記式(5)中、R〜Rはそれぞれ独立に、炭素数1から炭素数3のアルキル基である。
【0060】
環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物類の具体例としては、例えば、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン(慣用名:スピログリコール)、3,9−ビス(1,1−ジエチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン、3,9−ビス(1,1−ジプロピル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカンおよび下記式(6)で表される化合物が挙げられる。
【0061】
【化8】

【0062】
これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂は、上記ジヒドロキシ化合物(c)以外のその他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含んでいてもよい。
【0064】
より具体的には、下記式(7)で表されるジヒドロキシ化合物や、下記式(8)で表されるジヒドロキシ化合物、下記式(9)で表されるジヒドロキシ化合物、下記式(10)で表されるジヒドロキシ化合物、さらにビスフェノール類を挙げることができる。
【0065】
【化9】

【0066】
上記式(7)中、Rは炭素数4から炭素数20の置換若しくは無置換の単環構造のシクロアルキレン基を示す。
【0067】
【化10】

【0068】
上記式(8)中、R10は炭素数4から炭素数20の置換若しくは無置換の単環構造のシクロアルキレン基を示す。
【0069】
【化11】

【0070】
上記式(9)中、R11は置換若しくは無置換の炭素数2から炭素数10のアルキレン基を示し、pは2から120の整数である。
【0071】
【化12】

【0072】
上記式(10)中、R12は炭素数2から炭素数20のアルキレン基を表す。
【0073】
上記式(7)で表されるジヒドロキシ化合物としては、単環構造のシクロアルキレン基を含む化合物が挙げられる。単環構造とすることにより、得られるポリカーボネート樹脂をフィルムとしたときの靭性を改良することができる。又、通常、5員環構造又は6員環構造を含む化合物が挙げられる。5員環構造又は6員環構造であることにより、得られるポリカーボネート樹脂の耐熱性を高くすることができる。6員環構造は共有結合によって椅子形もしくは舟形に固定されていてもよい。具体的には、1,2−シクロペンタンジオール、1,3−シクロペンタンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2−メチル−1,4−シクロヘキサンジオール等が挙げられる。
【0074】
上記式(8)で表されるジヒドロキシ化合物としては、単環構造のシクロアルキレン基を含む化合物が挙げられる。単環構造とすることにより、得られるポリカーボネート樹脂をフィルムとしたときの靭性を改良することが出来る。又、通常、上記式(8)におけるR10が下記式(11)で示される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。
【0075】
【化13】

【0076】
式(11)中、R13は水素原子、又は、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数12のアルキル基を表す。
【0077】
上述した脂環式ジヒドロキシ化合物の具体例のうち、特に、シクロヘキサンジメタノール類が好ましく、入手のしやすさ、取り扱いのしやすさ、および得られるポリカーボネート樹脂の機械物性の観点から、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノールが好ましい。
【0078】
なお、上記例示化合物は、本発明に使用し得る脂環式ジヒドロキシ化合物の一例であって、何らこれらに限定されるものではない。これらの脂環式ジヒドロキシ化合物は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0079】
上記式(9)で表されるジヒドロキシ化合物としては、具体的にはジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール(数平均分子量150〜2000)などが挙げられ、その中でもジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(数平均分子量150〜2000)が好ましい。
【0080】
上記式(10)で表されるジヒドロキシ化合物としては、具体的にはエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどが挙げられ、その中でもプロピレングリコール、1,4−ブタンジオールが好ましい。
【0081】
尚、本発明に用いるポリカーボネート樹脂は上記式(7)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位、上記式(8)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位、上記式(9)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位および上記式(10)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の中でも、上記式(8)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位及び/又は上記式(9)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含んでいることが好ましく、上記式(9)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含んでいることがより好ましい。
【0082】
ビスフェノール類としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(すなわちビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−(3,5−ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,4’−ジヒドロキシ−ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−5−ニトロフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジクロロジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−2,5−ジエトキシジフェニルエーテル等が挙げられる。
【0083】
[ポリカーボネート樹脂]
本発明に用いるポリカーボネート樹脂に含まれるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位のうち、上記ジヒドロキシ化合物(a)に由来する構造単位の含有比率は、下限が10モル%以上であることが好ましく、18モル%以上であることがより好ましく、20モル%以上であることがさらに好ましく、25モル%以上であることが特に好ましい。また、上限が90モル%以下であることが好ましく、85モル%以下であることがさらに好ましく、80モル%以下であることが特に好ましい。
ここで、ジヒドロキシ化合物(a)はジヒドロキシ化合物(b)をも含む概念である。
【0084】
上記ジヒドロキシ化合物(a)に由来する構造単位の含有比率が上記下限値以上であることにより、耐熱性が良好となる。また、含有比率が上記上限値以下であることにより、加工温度が高くなくなり成形性が良好となる。
【0085】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂に含まれるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位のうち、上記ジヒドロキシ化合物(c)に由来する構造単位を含む場合の含有比率は、下限が5モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがさらに好ましく、15モル%以上であることが特に好ましい。また、上限が90モル%以下であることが好ましく、85モル%以下であることがさらに好ましく、80モル%以下であることが特に好ましい。
【0086】
上記ジヒドロキシ化合物(c)に由来する構造単位の含有比率が上記下限値以上であることにより、耐熱性が良好となる。また、含有比率が上記上限値以下であることにより、吸水率が高くならずフィルムの変形等がなくなる。
【0087】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂に含まれるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位のうち、上記(a)および(c)以外のその他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む場合の含有比率は、0.02モル%以上であることが好ましく、0.05モル%以上であることがさらに好ましく、0.1モル%以上であることが特に好ましい。また、60モル%以下であることが好ましく、50モル%以下であることがさらに好ましく、40モル%以下であることが特に好ましい。
【0088】
上記(a)および(c)以外のその他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有比率が上記範囲内であることにより、成形時の流動性が向上し、成形されたフィルムの柔軟性が良好で、脆性破壊し難くなる。又、耐熱性も良好となる。
【0089】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂のガラス転移温度(Tg)は、110℃以上が好ましく、115℃以上がより好ましく、120℃以上が特に好ましい。また、160℃以下が好ましく、157℃以下がより好ましく、155℃以下が特に好ましい。
【0090】
ガラス転移温度が110℃以上であることにより、耐熱性に優れ、フィルム成形後に寸法変化を起こしにくくなる。また、ガラス転移温度が160℃以下であることによって、フィルム成形時の成形安定性や、フィルムの透明性、及び機械物性が優れたものになる。
【0091】
ガラス転移温度を上記範囲とする方法としては、ポリカーボネート樹脂を構成するジヒドロキシ化合物の組成比を本明細書中に記載の範囲内において適宜調整する方法などを好ましく例示することができる。
【0092】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂の分子量は、還元粘度で表すことができる。還元粘度は、溶媒として塩化メチレンを用い、ポリカーボネート濃度を0.6g/dLに精密に調製し、温度20.0℃±0.1℃でウベローデ粘度管を用いて測定する。還元粘度の下限は、0.25dL/gが好ましく、0.30dL/gがより好ましい。還元粘度の上限は、1.20dL/gが好ましく、より好ましくは1.00dL/g、更に好ましくは0.80dL/gである。
【0093】
ポリカーボネート樹脂の還元粘度が上記下限値以上であれば、成形品の機械的強度が小さくなりすぎない。一方、還元粘度が上記上限値以下であれば、成形する際の流動性が低下するおそれが小さく、生産性や成形性が低下しにくい。
【0094】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂は、一般に用いられる重合方法で製造することができ、ホスゲン法または炭酸ジエステルと反応させるエステル交換法のいずれでもよい。なかでも、重合触媒の存在下に、上記ジヒドロキシ化合物(a)と、上記ジヒドロキシ化合物(c)と、必要に応じて用いられるその他のジヒドロキシ化合物と、炭酸ジエステルとを反応させるエステル交換法が好ましい。
【0095】
エステル交換法は、上記ジヒドロキシ化合物(a)と、上記ジヒドロキシ化合物(c)と、必要に応じて用いられるその他のジヒドロキシ化合物と、炭酸ジエステルとを塩基性触媒、さらにはこの塩基性触媒を中和する酸性物質を添加し、エステル交換反応を行う製造方法である。
【0096】
炭酸ジエステルの代表例としては、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m−クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ビフェニル)カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジブチルカーボネートおよびジシクロヘキシルカーボネートなどが挙げられる。これらのうち、特にジフェニルカーボネートが好ましく用いられる。
【0097】
なお、上述したように、本発明において「ポリカーボネート樹脂」とは、いわゆる「ポリエステルカーボネート樹脂」をも含む概念である。ポリエステルカーボネート樹脂とする場合には、上記の炭酸ジエステルの一部が、ジカルボン酸又はそのエステル(以下、ジカルボン酸化合物と称する)で置換される。このようなジカルボン酸化合物としては、テレフタル酸、イソフタル酸、シュウ酸、コハク酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などのジカルボン酸、およびそれらのメチルエステル体、フェニルエステル体等が用いられる。本発明に用いるポリカーボネート樹脂において、ジカルボン酸化合物に由来する構造単位の含有比率は、全ジヒドロキシ化合物と全カルボン酸化合物に由来する構造単位を100モル%として、45モル%以下であることが好ましく、さらには40モル%以下が好ましい。ジカルボン酸化合物の含有比率が45モル%以下であれば、重合性の低下により所望とする分子量まで重合が進行しなくなるおそれが低減される。
【0098】
<ポリカーボネート樹脂フィルム>
本発明に用いるポリカーボネート樹脂フィルムは、上記ポリカーボネート樹脂を用いて作製される。この時、一般に用いられる各種の添加剤を本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。具体的には酸化防止剤、着色防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤などが挙げられる。
【0099】
さらに、本発明に用いられるポリカーボネート樹脂は、例えば、芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、スチレン/メタクリル酸エステル共重合体、スチレン/メタクリル酸共重合体、スチレン/N−フェニルマレイミド共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリオレフィン、アモルファスポリオレフィン、ポリ乳酸、ポリブチレンスクシネート、ゴム、エラストマーなどの熱可塑性樹脂の1種又は2種以上と混練して、ポリマーアロイとしても用いることもできる。上記のような、機械物性や溶融加工性に優れた熱可塑性樹脂を改質剤として適量、混練して用いることで、必要な光学物性や耐熱性などを保持したまま、機械物性や溶融加工性を向上させることが可能となる。
【0100】
さらに、本発明に用いられるポリカーボネート樹脂に柔軟性や溶融加工性を付与するために、可塑剤の類を添加して、樹脂のガラス転移温度を適度に低下させる方法を用いることもできる。可塑剤としては、本発明に用いられるポリカーボネート樹脂のガラス転移温度を低下させることができるものであればよく、通常知られる長鎖アルキル基やアリール基を有する化合物を用いることができる。具体的には、フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)などのフタル酸エステル、アジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)などのアジピン酸エステル、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウムなどの脂肪酸、エチレングリコールジステアリン酸エステルなどの脂肪酸エステル、リン酸トリクレジル、リン酸トリス(2−エチルヘキシル)などのリン酸エステル、脂肪酸アミド、ステアリルアルコールなどの高級アルコール、流動パラフィンなどが挙げられる。また、低分子量ポリマーも改質剤として用いることができる。具体的には、スチレンオリゴマー、ポリヒドロキシポリオレフィンオリゴマー(ポリテール(「ポリテール」は三菱化学株式会社の登録商標))、テルペンフェノール樹脂などが挙げられる。
【0101】
上記に挙げた種々の改質剤は、過剰量用いると、樹脂の透明性が低下したり、溶融加工時の揮発成分の量が増加し、異物の原因となり得る。一方、少なすぎると十分な改質効果が得られなくなる。そのため、本発明で用いられるポリカーボネート樹脂に対して、添加量は0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、さらには0.2質量%以上5質量%以下が好ましく、特には0.3質量%以上3質量%以下が好ましい。
【0102】
上記の改質剤は、種々の成形を行う前にタンブラー、スーパーミキサー、フローター、V型ブレンダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、押出機などで混合することができる。
【0103】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂フィルムは、溶融押出成形して得られることが重要であり、例えば、Tダイ成形法、インフレーション成形法などを用いて製膜することができ、特にTダイ成形法が好ましい。
【0104】
一般に、ポリカーボネート樹脂フィルムの製造方法としては、溶液流延法なども採用される。しかしながら、これら有機溶媒を使用する方法は、均一な厚みと表面平滑性に優れたフィルムを得ることができる反面、歩留まりが低く、使用済みの有機溶媒の処理が必要であるなど、生産性や環境負荷に関する課題がある。そのため、溶融押出成形による製造が好ましい。
【0105】
例えば、Tダイ成形法であれば、上記ポリカーボネート樹脂と必要に応じて各種の添加剤をドライブレンドしたもの、上記ポリカーボネート樹脂に事前に各種添加剤を添加して作製したペレット、上記ポリカーボネート樹脂に事前に各種添加剤を高濃度添加して作製したマスターバッチペレットと上記ポリカーボネート樹脂をドライブレンドしたもの等を、フィーダーを通じて押出機に投入し、溶融混練し、Tダイによってフィルム状に成形しながら押し出す。この時、押出機やTダイの設定温度は通常220℃以上、280℃以下であることが好ましく、220℃以上、250℃以下であることがより好ましい。
【0106】
また、押出機の出口における樹脂温度は300℃以下であることが好ましく、280℃以下であることがより好ましく、260℃以下であることが特に好ましい。樹脂温度が300℃を超える場合は、ポリカーボネート樹脂の熱分解が促進され、分子量が低下したり、得られるフィルムに樹脂の発泡に起因する欠陥が発生するなどして、フィルムの強度が低下するおそれがある。押出機の出口における樹脂温度は、前述の押出機やTダイの設定温度に加えて、スクリューの回転数やスクリューエレメントの構成、樹脂の処理量によっても制御される。
【0107】
本発明において前記押出機の形態は限定されるものではないが、一軸または二軸の押出機が用いられる。中でもベント口を設置し、真空ポンプなどを用いて減圧することにより、ポリカーボネート樹脂中の水分や残存低分子成分の脱揮除去ができる、二軸の押出機を用いることが好ましい。水分や残存低分子を多く含有したポリカーボネート樹脂を高温下で溶融させると、大きな分子量低下を招くおそれがあるため、真空脱揮することで樹脂の分子量低下を抑制することができる。
【0108】
フィルム状に成形しながら押し出した樹脂は、キャストロールに接触させて冷却し、さらに後段の少なくとも1つの冷却ロールに接触させて冷却しながら引き取ることで、本発明に用いるポリカーボネート樹脂フィルムを得ることができる。なお、さらにタッチロールやタッチベルト等を用いて、フィルムの表面を平滑化することもできる。
【0109】
この時、キャストロール、又はタッチロールの少なくとも一方が、金属製鏡面ロールであることが好ましく、さらにその鏡面ロールについて、JIS−B0601(2001年)に準拠して測定した表面の最大高さRzが0.3μm以下であることが好ましい。一般にロール表面に微小凹凸があると、製品フィルムにその凹凸が転写される。光学用途等の取り分け高精度なフィルム厚み精度を要求される用途においては、こうした転写凹凸が看過できないため、ロール表面の微小凹凸の大きさの上限として、上記の範囲が好ましい。
【0110】
また、キャストロールの設定温度は、上記ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度(Tg)に対し、Tg−50℃以上、Tg−5℃以下が好ましい。
【0111】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂フィルムは、厚みが30μm以上、300μm以下であることが好ましい。例えば表示装置と組み合わせた際に、所定の光学特性が発現する限りできるだけ薄い方が、製品厚みを薄くでき、光源の強度を低減できる。一方、取り扱いやすさを保つためには厚みが30μm以上であることが好ましい。また巻層体としたときの巻きじわを抑制したり、全光線透過率を過度に低下させたりしないように、厚みが300μm以下であることが好ましい。
【0112】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂フィルムは、吸水率が1.0質量%より大きく2.0質量%以下であることが好ましく、更に好ましくは1.1質量%以上1.5質量%以下である。吸水率が1.0質量%より大きければ、該フィルムを他のフィルムなどと貼りあわせるとき、接着剤を自由に設計し易く、容易に接着性を確保することができる。一方、吸水率が2.0質量%以下であれば高温高湿環境下での光学特性の耐久性を確保することができる。
【0113】
なお、吸水率は、厚さ100〜400μmのフィルムについて、JIS−K7209(2000年)に記載の「プラスチック−吸水率の求め方」に準拠して測定される。
【0114】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂フィルムの吸水率を上記範囲とするためには、ポリカーボネート樹脂を構成するジヒドロキシ化合物の組成比を本明細書中に記載の範囲内において適宜調整する方法などを好ましく例示することができる。
【0115】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂フィルムは、全光線透過率が85%以上であることが好ましく、より好ましくは87%以上、特に好ましくは89%以上である。透過率が上記範囲であれば、着色の少ないフィルムが得られ、例えば表示装置と組み合わせた際に、高い表示品位を実現することが可能となる。
【0116】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂フィルムは、ヘーズが2%以下であることが好ましく、より好ましくは1.5%以下、特に好ましくは1%以下である。ヘーズが上記範囲であれば、透明性の高いフィルムが得られ、光学用途部材として好適に利用することができる。
【0117】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂フィルムは、面内位相差Reの絶対値が10nm以下であることが好ましく、より好ましくは8nm以下、特に好ましくは6nm以下である。面内位相差の絶対値が上記範囲であれば、光学的異方性が小さい原反フィルムが得られ、これを所定条件で延伸するなどによって、変動の少ない所望の面内位相差を有する位相差フィルムが得られ、光学用途部材として好適に用いることができる。
【0118】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂フィルムの全光線透過率やヘーズ、面内位相差Reの絶対値を上記範囲とする方法としては、ポリカーボネート樹脂を構成するジヒドロキシ化合物の組成比を本明細書中に記載の範囲内において適宜調整する方法や、ポリカーボネート樹脂フィルムの製造工程においてできる限り分子配向がかかりにくい条件で引き取る方法、鏡面ロールを用いる方法、ポリカーボネート樹脂フィルムの厚みを本明細書中に記載の範囲内において適宜調整する方法などを好ましく例示することができる。
【0119】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂フィルム同士を面接触させた状態において、JIS−K7125(1999年)に基づき測定した静摩擦係数は1.8以上となる。静摩擦係数が1.8以上であることによって、ポリカーボネート樹脂フィルム表面の平滑性が際立っているのであり、ポリカーボネート樹脂フィルムを光学用途部材として好適に利用することができる。ただし、後述するように、このようなポリカーボネート樹脂フィルムのみを巻き取ってフィルム巻層体を製造した場合には、巻きずれや巻きじわが生じるおそれがある。
【0120】
ポリカーボネート樹脂フィルム同士を面接触させた状態のJIS−K7125(1999年)に基づき測定した静摩擦係数を1.8以上とする方法としては、ポリカーボネート樹脂フィルムの製造工程において鏡面ロールを用いる方法などを例示できる。或いは、静摩擦係数は表面の物理的形状のみではなく、ポリカーボネート樹脂フィルム同士を面接触させた状態での化学的な親和性も影響するため、本発明に用いるポリカーボネート樹脂を構成するジヒドロキシ化合物の組成比を本明細書中に記載の範囲内とする方法なども例示できる。
【0121】
<マスキングフィルム>
本発明に用いるマスキングフィルムは、基材層の片面に粘着層を設けたものである。すなわち、マスキングフィルムの粘着層側の面は粘着面となり、その反対側にある基材層側の面は非粘着面となる。
【0122】
基材層については特に限定されるものではなく、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂等のフィルムを例示することができる。後述する好適な粘着層との化学的な親和性や、マスキングフィルムの生産性の観点から、中でもポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂を用いたフィルムが好ましい。
【0123】
また、粘着層についても特に限定されるものではなく、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂、変性ポリオレフィン樹脂などを用いたものを例示することができる。中でも酸性官能基や塩基性官能基を付加させた変性ポリオレフィン樹脂を用いたものが、アウトガス成分による製品汚染や、本発明のフィルム積層体から該マスキングフィルムを剥離する際の糊残りが生じたりする懸念が少なく好適である。
【0124】
本発明に用いるマスキングフィルムの製造方法は特に限定されるものではなく、基材層と粘着層とを共押出により積層する共押出法、基材層を製膜した後に粘着層をインラインで塗布するキャスト塗工法、基材層と粘着層とを別々に製膜した後、熱融着させて積層する熱プレス法などが挙げられる。このうち、残留溶剤の揮発による製品汚染の懸念が少ないことや、厚み精度を高めるという観点から、共押出法が特に好適である。
【0125】
本発明に用いるマスキングフィルムの厚みは、取扱いやすさや、本発明のフィルム積層体の剛性や靭性を考慮して、任意に選択することができる。中でも30μm以上、70μm以下であることが好ましい。
【0126】
本発明に用いるマスキングフィルムの粘着層の粘着力は、本発明のフィルム積層体において、前記ポリカーボネート樹脂フィルムから前記マスキングフィルムを剥離する際のJIS−Z0237(2009年)に準拠して幅10mmに切り出したフィルムに対し剥離角度180°、剥離速度100mm/分で測定される剥離強度として評価することができる。当該剥離強度は5mN/10mm以上、200mN/10mm以下であることが好ましい。剥離強度が5mN/10mm以上であれば、本発明のフィルム積層体及びフィルム巻層体において、ポリカーボネート樹脂フィルムとマスキングフィルムが取り扱いの過程で容易に剥離することがない。また、剥離強度が200mN/10mm以下であれば、ポリカーボネート樹脂フィルムに剥離キズや剥離痕が生じることなく、十分保護することが可能である。
【0127】
<フィルム積層体>
本発明のフィルム積層体は、上記ポリカーボネート樹脂フィルムと、上記マスキングフィルムとを積層したものである。この時、上記ポリカーボネート樹脂フィルムの片面に、上記マスキングフィルムの粘着面が来るように積層することで、後述の本発明のフィルム巻層体が、上記ポリカーボネート樹脂フィルムの表面に、マット加工やフィラー添加による凹凸付与等を施すことなく、鏡面で且つ巻きずれや巻きじわのない均一なフィルム巻層体となるのである。
【0128】
本発明のフィルム積層体の製造方法は、特に限定されるものではなく、例えばポリカーボネート樹脂フィルムとマスキングフィルムとを別々に作製した後に、巻き取らずにそのままインラインで積層する方法や、マスキングフィルムを事前に作製して巻き取ってロールにしておき、ポリカーボネート樹脂フィルムを作製した後にマスキングフィルムをロールから巻き出してインラインで積層する方法などが好ましく例示される。
【0129】
前述の通り、本発明に用いるポリカーボネート樹脂フィルム同士が面接触すると、滑性に乏しいため、フィルム巻層体とした時に巻きずれや巻きじわが生じるおそれがあり、この場合、JIS−K7125(1999年)に基づき測定した静摩擦係数は1.8以上となる。これに対し、本発明のフィルム積層体において、上記ポリカーボネート樹脂フィルムと上記マスキングフィルムの非粘着面とが面接触した場合に、JIS−K7125(1999年)に基づき測定した静摩擦係数は0.01以上1.8未満であり、好ましくは0.02以上1.4以下、特に好ましくは0.03以上1.0以下である。静摩擦係数が上記範囲にあることにより、後述の本発明のフィルム巻層体において巻きずれや巻きじわを防止することができる。
【0130】
本発明のフィルム積層体においては、前記ポリカーボネート樹脂フィルムに前記マスキングフィルムを積層する前の、ポリカーボネート樹脂フィルム表面の水滴接触角θと、前記ポリカーボネート樹脂フィルムに前記マスキングフィルムを積層し、さらに前記ポリカーボネート樹脂フィルムからマスキングフィルムを剥離した後のポリカーボネート樹脂フィルム表面の水滴接触角θとの差の絶対値|θ−θ|が20°以下であることが好ましい。ここで、「水滴接触角」はJIS−K6768(1999年)に準じて測定される値である。水滴接触角θは通常70°以上、85°以下の範囲であることが好ましく、水滴接触角θは通常85°以上、100°以下の範囲であることが好ましい。|θ−θ|が20°以下であることにより、前記マスキングフィルムの剥離後においても、前記ポリカーボネート樹脂フィルムの表面への糊残りや傷入り等が非常に少なく、表面の平滑性が維持されるため、ポリカーボネート樹脂フィルムを光学用途部材として好適に利用することができる。
【0131】
|θ−θ|を20°以下とする方法としては、本発明に用いるポリカーボネート樹脂を構成するジヒドロキシ化合物の組成比を本明細書中に記載の範囲内とする方法や、本発明に用いるマスキングフィルムの粘着層の種類、剥離強度を本明細書中に記載の範囲内とする方法などが好ましく例示される。
【0132】
<フィルム巻層体>
本発明のフィルム巻層体は、本発明のフィルム積層体を円筒形の巻き芯に巻き取り、ロール状にしたものである。より具体的には、上記ポリカーボネート樹脂フィルムと上記マスキングフィルムとを積層し、次いで円筒形の巻き芯の周囲に連続的にロール状に巻き取って得ることができる。この時、フィルム積層体のうち上記マスキングフィルムが常に上記ポリカーボネート樹脂フィルムの外側に来るように巻き取ることで、上記ポリカーボネート樹脂を十分保護することができるため好ましい。
【0133】
本発明のフィルム巻層体を作製する際に使用する巻き芯は、特に限定されるものではなく、紙、プラスチック、繊維補強プラスチック、金属等から製造された種々のもの、またはこれらに塗装、ゴム被覆、フィルム巻回等の二次加工を施した物等を使用できる。
【0134】
本発明のフィルム巻層体は、その側面端部の巻きずれ幅が4mm以下であることが好ましい。側面端部の巻きずれ幅は、より好ましくは2mm以下、特に好ましくは1mm以下である。なお、側面端部の巻きずれ幅とは、ロール状のフィルム巻層体の側面に生じている凹凸の最大幅を言う。側面端部の巻きずれ幅が4mm以下であれば、フィルム巻層体の輸送中に不慮の事情でフィルム側面がつぶれて歩留まりが低下するといった不具合や、フィルム巻層体からフィルム積層体を巻き出して使用する際に巻き出し方向が不安定となりフィルムが蛇行するといった不具合が生じ難い。
【0135】
本発明のフィルム巻層体を作製する際のフィルム幅1m辺りの巻き取り張力は、ポリカーボネート樹脂フィルムの厚みやマスキングフィルムの種類により適宜設定されるものである。特に巻き取り張力が80N/m以上200N/m以下であれば、巻きずれや巻き膨れを生じさせることがないため好ましい。また、巻き取り張力が200N/m以下であれば、巻きじわを生じさせることもない。
【実施例】
【0136】
本発明をより具体的かつ詳細に説明するために、以下に実施例を示す。ただし、本発明は下記実施例によって何ら限定されるものではない。
【0137】
<評価方法>
ポリカーボネート樹脂及びフィルムの評価は以下の方法により行った。
(1)ガラス転移温度(Tg)
JIS−K7121(1987年)に準拠して、示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、DSC220)を用いて、ポリカーボネート樹脂約10mgを20℃/分の昇温速度で加熱して測定し、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度である、補外ガラス転移開始温度を求め、それをガラス転移温度とした。
【0138】
(2)脆性破壊の有無
まず、ポリカーボネート樹脂を溶融押出成形し、幅200mm以上、100μm厚のフィルムを作製した。このフィルムの幅方向の中央部付近から、フィルムの流れ方向(MD)に長さ40mm、幅方向(TD)に幅10mmの長方形の試験片を作製した。
万力の左右の接合面の間隔を40mmに開き、試験片の両端を接合面内に固定した。次に左右の接合面の間隔を2mm/秒以下の速度で狭めていき、フィルムが万力の接合面の外にはみ出さないようにしながら、折れ曲がったフィルム全体を該接合面内で圧縮していった。
接合面間が完全に密着する迄に試験片が折れ曲がり部で2片(又は3片以上の破片)に割れた場合を「割れあり」、接合面間が完全に密着してもなお試験片が割れずに折り曲げられた場合「割れなし」とした。
同一の種類のフィルムについて5回繰り返して試験を実施し、そのうち4回以上「割れあり」となったものを「×:脆性破壊する」、3回以下「割れあり」となったものを「○:脆性破壊しない」とした。
【0139】
(3)全光線透過率、ヘーズの測定
JIS−K7136(2000年)、JIS−K7361−1(1997年)に準拠して、ヘーズメーター(村上色彩研究所社製、HR−100)を用いて、ポリカーボネート樹脂フィルムの全光線透過率とヘーズを測定した。
全光線透過率については、85%以上の場合を○(良好)、85%未満の場合を×(不良)とした。ヘーズについては、2%以下の場合を○(良好)、2%を超えた場合を×(不良)とした。
【0140】
(4)面内位相差
位相差測定装置(王子計測機器社製、KOBRA−WR)を用いて、低位相差モード、次数選択自動、平均測定回数5回の条件で、位相差を測定した。測定フィルムは、マスキングフィルムを剥離した方の面を地面側、貼合していなかった方の面を天面側に向けて装填した。位相差の絶対値が10nm以下の場合を○(良好)、10nmを越えた場合を×(不良)とした。
【0141】
(5)静摩擦係数の測定
JIS−K7125(1999年)に準拠して、摩擦係数測定器(インテスコ社製)を用いて、ポリカーボネート樹脂フィルムの静摩擦係数を測定した。マスキングフィルムを積層する場合は、ポリカーボネート樹脂フィルムの一面とマスキングフィルムの非粘着面との静摩擦係数を、マスキングフィルムを積層しない場合は、ポリカーボネート樹脂フィルムの表面と裏面との静摩擦係数を、表1の静摩擦係数の欄に記載した。
上記の方法により測定した静摩擦係数が1.8未満の場合を○(良好)、1.8以上の場合を×(不良)とした。
【0142】
(6)剥離強度の測定
ポリカーボネート樹脂フィルムの片面にマスキングフィルムの粘着層側が来るように積層した後、JIS−Z0237(2009年)に準拠して幅10mmに切り出したフィルムに対し剥離角度180°、剥離速度100mm/分の条件で剥離強度を測定した。
剥離強度が5mN/10mm以上、200mN/10mm以下である場合を○(良好)、5mN/10mm未満、又は200mN/10mmより大きい場合を×(不良)とした。
【0143】
(7)水滴接触角の測定
上記の(6)の試験後のポリカーボネート樹脂フィルムについて、JIS−K6768(1999年)に準じて、マスキングフィルムを積層していない面の水滴接触角(θ)と、積層し剥離した面の水滴接触角(θ)のそれぞれを測定し、|θ−θ|を算出した。
|θ−θ|の値が20°以下である場合を○(良好)、20°より大きい場合を×(不良)とした。
【0144】
<実施例>
[実施例1]
イソソルビド(以下、「ISB」と略記することがある。)を1976.0質量部、9,9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(以下、「BHEPF」と略記することがある。)を4774.0質量部、平均分子量1000のポリエチレングリコール(以下、「PEG#1000」と略記することがある。)を73.4質量部、ジフェニルカーボネート(以下、「DPC」と略記することがある。)を5296.9質量部、及び触媒として、酢酸マグネシウム4水和物(5.0質量%水溶液)を3.0質量部、それぞれ反応容器に投入し、窒素雰囲気下にて、反応の第1段目の工程として、反応容器の熱媒温度を150℃にし、必要に応じて攪拌しながら原料を溶解させた(約15分)。
【0145】
次いで、反応容器内の圧力を常圧から13.3kPaにし、反応容器の熱媒温度を190℃まで1時間で上昇させながら、発生するフェノールを反応容器外へ抜き出した。反応容器内温度を190℃で15分保持した後、第2段目の工程として、反応容器内の圧力を6.67kPaとし、反応容器の熱媒温度を230℃まで、15分で上昇させ、発生するフェノールを反応容器外へ抜き出した。攪拌機の攪拌トルクが上昇してくるので、8分で250℃まで昇温し、さらに発生するフェノールを取り除くため、反応容器内の圧力を0.200kPa以下に減圧した。所定の攪拌トルクに到達後、反応を終了し、生成した反応物を水中に押し出した後に、ペレット化を行い、BHEPF/ISB/PEG#1000=44.5/55.2/0.3モル%のポリカーボネート樹脂Aを得た。該ポリカーボネート樹脂Aのガラス転移温度は145℃であった。
【0146】
得られたポリカーボネート樹脂Aを80℃で5時間真空乾燥をした後、減圧脱揮口を備えた二軸押出機(スクリュー径41mm、シリンダー設定温度:250℃)、Tダイ(設定温度:250℃)、冷却ロール(クロムめっきした鏡面ロール、表面の最大高さRz=0.2μm、設定温度:70〜120℃)、マスキングフィルム貼合用のニップロール、及び巻取機を備えたフィルム製膜装置を用いて、厚み100μmのポリカーボネート樹脂フィルムを作製し、インラインでマスキングフィルムと積層した後、マスキングフィルムが外側に来るように連続的に繊維補強プラスチック製の巻き芯にロール状に1000m巻き取って、フィルム巻層体を得た。マスキングフィルムは、サンエー化研社製「サニテクト、PAC−3−50THK」(基材層:低密度ポリエチレン、粘着層:特殊ポリオレフィン、厚み:50μm)をロールから巻き出しながら使用した。
【0147】
[実施例2]
BHEPFを571.1質量部、ISBを267.4質量部、ジエチレングリコール(以下、「DEG」と略記することがある。)を64.3質量部、DPCを808.7質量部、酢酸マグネシウム4水和物を8.02×10−3質量部をそれぞれ反応器に投入し、十分に窒素置換した(酸素濃度0.0005〜0.001vol%)。続いて熱媒で加温を行い、内温が100℃になった時点で撹拌を開始した。昇温を開始後40分で内温を220℃にし、内温が220℃に到達した時点でこの温度を保持するように制御すると同時に、減圧を開始し、220℃に到達してから90分で13.3kPa(絶対圧力、以下同様)にして、この圧力を保持するようにしながら、さらに30分間保持した。重合反応とともに副生するフェノール蒸気は、100℃の還流冷却器に導き、フェノール蒸気中に若干量含まれるモノマー成分を重合反応器に戻し、凝縮しないフェノール蒸気は続いて45℃の凝縮器に導いて回収した。
【0148】
このようにしてオリゴマー化させた内容物を、一旦大気圧にまで復圧させた後、撹拌翼および100℃に制御された還流冷却器を具備した別の重合反応装置に移し、昇温および減圧を開始して、50分で内温240℃、圧力200Paにした。その後、20分かけて圧力133Pa以下にして、所定撹拌動力になった時点で復圧し、内容物をストランドの形態で抜出し、回転式カッターでペレットにし、BHEPF/ISB/DEG=60.5/31.5/8.0モル%のポリカーボネート樹脂Bを得た。該ポリカーボネート樹脂Bの還元粘度は0.425L/g、ガラス転移温度は127℃であった。
得られたポリカーボネート樹脂Bについて、実施例1と同様にしてフィルム巻層体を得た。
【0149】
[実施例3]
実施例2において、BHEPFを804.9質量部、ビスフェノールA(以下、「BPA」と略記することがある。)を132.3質量部、DPCを532.9質量部、及び触媒として酢酸カルシウム1水和物を1.28×10−2質量部を用い、最終重合温度を260℃とした。それ以外は実施例2と同様に行い、BHEPF/BPA=76.0/24.0モル%のポリカーボネート樹脂Cを得た。このポリカーボネート樹脂Cの還元粘度は0.344dL/g、ガラス転移温度は149℃であった。
得られたポリカーボネート樹脂Cについて、実施例1と同様にしてフィルム巻層体を得た。
【0150】
[実施例4]
実施例2において、BHEPFを868.4質量部、テレフタル酸ジメチル(以下「DMT」と略記することがある。)を149.5質量部、DPCを284.7質量部、及び触媒としてテトラブトキシチタンを1.35×10−1質量部を用い、最終重合温度を250℃とした。それ以外は実施例2と同様に行い、BHEPF/DMT=72.0/28.0モル%のポリエステルカーボネート樹脂Dを得た。このポリエステルカーボネート樹脂Dの還元粘度は0.277dL/g、ガラス転移温度は154℃であった。
得られたポリエステルカーボネート樹脂Dについて、実施例1と同様にしてフィルム巻層体を得た。
【0151】
[実施例5]
実施例1において、マスキングフィルムを、三井化学東セロ社製「ピュアテクト、VLH9」(基材層:ポリオレフィン混合物、粘着層:オレフィン系特殊ポリマー、厚み:30μm)に変更した以外は、実施例1と同様にしてフィルム巻層体を得た。
【0152】
[比較例1]
実施例2において、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(ビスクレゾールフルオレン、以下「BCF」と略記することがある。)を322.0質量部、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ−(5.5)−ウンデカン(スピログリコール、以下「SPG」と略記することがある。)を604.3質量部、DPCを619.7質量部、及び触媒として酢酸カルシウム1水和物を9.99×10−2質量部を用い、最終重合温度を260℃とした。それ以外は実施例2と同様に行い、BCF/SPG=30.0/70モル%のポリカーボネート樹脂Eを得た。このポリカーボネート樹脂Eの還元粘度は0.499dL/g、ガラス転移温度は135℃であった。
得られたポリカーボネート樹脂Eについて、実施例1と同様にしてフィルム巻層体を得ようとしたが、脆性破壊するためフィルム巻層体を作製中にひび割れや傷が生じ、フィルム巻層体を得ることができなかった。
【0153】
[比較例2]
実施例1において、マスキングフィルムを貼合せず、ポリカーボネート樹脂フィルムのみを巻き取ろうとしたが、巻き取ることが著しく困難であり、フィルム巻層体を得られなかった。
【0154】
【表1】

【0155】
上記の通り、本発明の構成を例示した実施例は、脆性破壊しないポリカーボネート樹脂フィルムに、特定のマスキングフィルムを積層することでフィルム積層体およびフィルム巻層体を得ることが出来ている。
一方、比較例1では、脆性破壊するポリカーボネート樹脂フィルムを用いたため特定のマスキングフィルムを積層してもなおフィルム巻層体を得ることが出来なかった。比較例2では、特定のマスキングフィルムを積層しなかったため、フィルム巻層体を得ようとした時に互いに面接触するポリカーボネート樹脂フィルム同士の摩擦が過度に生じ、フィルム巻層体を得ることが出来なかった。
【0156】
上記した実施例及び比較例の結果から、本発明によれば、光学用途部材に使用可能であり、巻回時やトリミング時にポリカーボネート樹脂フィルムの表面や端部に割れが生じず、透明性と厚み精度に優れるフィルム積層体、及び該フィルム積層体を用いた、巻きずれや巻きじわがなく均一なフィルム巻層体を提供できることが示された。また、かかるフィルム巻層体の製造方法を提供できることが示された。
【0157】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うフィルム積層体、フィルム巻層体、及びフィルム巻層体の製造方法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物(a)に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂を溶融押出成形してなる脆性破壊しないポリカーボネート樹脂フィルムと、基材層および粘着層を有するマスキングフィルムと、を積層してなるフィルム積層体であって、
前記ポリカーボネート樹脂フィルム同士を面接触させた状態の静摩擦係数が1.8以上であり、前記ポリカーボネート樹脂フィルムの一面と前記マスキングフィルムの非粘着面とを面接触させた状態での静摩擦係数が0.01以上1.8未満であるフィルム積層体。
【化1】

【請求項2】
下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物(b)に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂を溶融押出成形してなるポリカーボネート樹脂フィルムと、基材層および粘着層を有するマスキングフィルムと、を積層してなるフィルム積層体であって、
前記ポリカーボネート樹脂フィルム同士を面接触させた状態の静摩擦係数が1.8以上であり、前記ポリカーボネート樹脂フィルムの一面と前記マスキングフィルムの非粘着面とを面接触させた状態での静摩擦係数が0.01以上1.8未満であるフィルム積層体。
【化2】

(上記式(2)中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のシクロアルキル基、または、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のアリール基を表し、Xは置換若しくは無置換の炭素数2〜炭素数10のアルキレン基、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のシクロアルキレン基、または、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のアリーレン基を表し、m及びnはそれぞれ独立に1〜5の整数である。)
【請求項3】
前記ポリカーボネート樹脂フィルムの面内位相差の絶対値が10nm以下である、請求項1又は2に記載のフィルム積層体。
【請求項4】
前記ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度が110℃以上、160℃以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のフィルム積層体。
【請求項5】
前記ジヒドロキシ化合物(a)または前記ジヒドロキシ化合物(b)が、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のフィルム積層体。
【請求項6】
前記ポリカーボネート樹脂フィルムが、厚み30μm以上、300μm以下、全光線透過率85%以上、かつ、ヘーズ2%以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のフィルム積層体。
【請求項7】
前記ポリカーボネート樹脂フィルムに前記マスキングフィルムを積層する前の、ポリカーボネート樹脂フィルム表面の水滴接触角θと、前記ポリカーボネート樹脂フィルムに前記マスキングフィルムを積層し、さらに前記ポリカーボネート樹脂フィルムから前記マスキングフィルムを剥離した後のポリカーボネート樹脂フィルム表面の水滴接触角θとの差の絶対値|θ−θ|が20°以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のフィルム積層体。
【請求項8】
前記マスキングフィルムの、JIS−Z0237(2009年)に準拠した、前記ポリカーボネート樹脂フィルムに対する剥離強度が、5mN/10mm以上、200mN/10mm以下である請求項1〜7のいずれか1項に記載のフィルム積層体。
【請求項9】
前記マスキングフィルムの前記基材層がポリオレフィン樹脂から構成される、請求項1〜8のいずれか1項に記載のフィルム積層体。
【請求項10】
前記マスキングフィルムの前記粘着層が変性ポリオレフィン樹脂から構成される、請求項1〜9のいずれか1項に記載のフィルム積層体。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のフィルム積層体を円筒形の巻き芯に巻き取りロール状としたフィルム巻層体。
【請求項12】
前記フィルム巻層体の側面端部の巻きずれ幅が4mm以下である請求項11に記載のフィルム巻層体。
【請求項13】
請求項11又は12に記載のフィルム巻層体の製造方法であって、
前記ポリカーボネート樹脂を溶融押出し、表面の最大高さRzが0.3μm以下の金属製鏡面ロールを使用して冷却させながら引き取ってポリカーボネート樹脂フィルムを作製する工程と、
作製した前記ポリカーボネート樹脂フィルムとマスキングフィルムとを積層することにより、フィルム積層体を作製する工程と、
作製した前記フィルム積層体を円筒形の巻き芯にロール状に巻き取る工程と、
を含む、フィルム巻層体の製造方法。
【請求項14】
前記フィルム積層体を円筒形の巻き芯にロール状に巻き取る工程において、フィルム幅1m辺りの巻き取り張力を80N/m以上、200N/m以下とする、請求項13に記載の製造方法。

【公開番号】特開2013−47000(P2013−47000A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−167338(P2012−167338)
【出願日】平成24年7月27日(2012.7.27)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】