説明

フィールド配線診断装置

【課題】突入電流特性を持つフィールド機器に対する配線距離制限を緩和すると共に、外部要因による突入電流変動に対して誤検出することのないフィールド配線診断装置を実現する。
【解決手段】デジタル出力モジュールにより操作されるスイッチ手段を介して電源電圧が供給されて動作するフィールド機器までの短絡異常を診断するための短絡診断部を備えるフィールド配線診断装置において、
前記短絡診断部は、
診断モード時に前記スイッチ手段を所定時間オンに操作するパルス出力手段と、
前記スイッチ手段がオンの期間に前記フィールド機器に流れる読み返し電流値を入力して短絡検出値を生成する短絡検出値生成手段と、
前記読み返し電流値と前記短絡検出値とを入力する短絡診断手段と、
を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル出力モジュールにより操作されるスイッチ手段を介して電源電圧が供給されて動作するフィールド機器までの短絡異常を診断するための短絡診断部を備えるフィールド配線診断装置に関するものである。本発明は、安全制御システムにおいてデジタル出力モジュールを介して2値的に操作される電磁弁やリレー等までの短絡異常診断装置として有効に適用される。
【背景技術】
【0002】
図5は、安全制御システムにおけるデジタル出力モジュールの構成例を示す機能ブロック図である。安全制御システム1の上位装置10は、制御バス20を介してデジタル出力モジュール30と通信し、プラントからのトリップ要求に基づくフィールド機器の操作指令をデジタル出力モジュール30の制御部40に送信する。
【0003】
デジタル出力モジュール30には、DC24Vの外部電源Eおよび複数のフィールド機器F1,F2,…Fnが接続され、外部電源Eがスイッチ手段S1,S2,…Snを介してフィールド機器F1,F2,…Fnに印加され2値的に操作される。
【0004】
制御部40は、上位装置10より所定の制御周期で渡されるトリップ指令に基づいて、トリップ操作対象のフィールド機器に接続するスイッチ手段をオンに操作する信号Mを発生する。
【0005】
制御部40は、安全制御システムの信頼性確保のために、フィールド機器F1,F2,…Fnまでの短絡異常を周期的に監視して異常検出情報ALを出力するための短絡診断部50を備えている。フィールド配線の短絡診断機能を備えるデジタル出力装置については、特許文献1に技術開示がある。
【0006】
短絡診断部50は、制御部40の制御周期の間の時間帯を利用してテストパルスPによりスイッチ手段S1,S2,…Snを所定時間オンに操作し、フィールド機器F1,F2,…Fnに流れる電流値を、電流検出手段R1,R2,…Rnを介して読み返し電流値i1,i2,…inとして取得し、取得した読み返し電流値と短絡検出設定値とを比較し、読み返し電流値が短絡検出設定値を超えた時に異常検出情報ALを出力する。
【0007】
図6は、従来の短絡診断部50の構成例を示す機能ブロック図である。簡単のため、スイッチ手段S1とフィールド機器F1による1チャンネルを代表として示してある。短絡診断部50は、パルス出力手段51、短絡診断手段52、短絡検出値設定手段53を備えている。
【0008】
パルス出力手段51からのテストパルスPによりスイッチ手段S1がオンに操作されたときにフィールド機器F1に流れる電流が電流検出手段R1で検出され、読み返し電流値i1が短絡診断手段52に入力される。
【0009】
短絡診断手段52は、短絡検出値設定手段53により固定の短絡検出値Isが設定入力されており、読み返し電流値i1>短絡検出値Isの場合に異常検出情報ALを外部出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−209618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来装置では次のような問題がある。
(1)図7は、従来のフィールド配線診断装置における短絡検出動作の説明図である。配線が正常な状態でも、突入電流特性のあるフィールド機器を接続していた場合には、パルステストのタイミングで過大電流が発生する。
【0012】
短絡診断手段52は、この突入電流による短絡誤検出を回避するため、図7(A)に示すように、短絡検出値Isを想定される突入電流値i1よりも高い値に設定しなければならない。
【0013】
(2)一方、実際に短絡した場合の電流値は、フィールド配線の配線抵抗により制限されるため、フィールド機器とモジュールを配線するときは短絡異常が検出できるように、短絡時のパルステスト読み返し電流> 短絡検出値を満たすように配線しなければならない。
【0014】
従って、突入電流による誤検出回避のため短絡検出値を高く設定していた場合、配線距離(配線抵抗)が制限される問題がある。この対策として、フィールド機器の突入電流値に応じてチャンネル個別に短絡検出値を設定変更する手段も考えられるが、パルステスト読み返し電流近くに設定した場合、外部電源電圧の変動または温度変動による配線抵抗変動により突入電流値が変動し、図7(B)に示すように短絡異常を誤検出する可能性がある。
【0015】
本発明の目的は、突入電流特性を持つフィールド機器に対する配線距離制限を緩和すると共に、外部要因による突入電流変動に対して誤検出することのないフィールド配線診断装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
このような課題を達成するために、本発明は次の通りの構成になっている。
(1)デジタル出力モジュールにより操作されるスイッチ手段を介して電源電圧が供給されて動作するフィールド機器までの短絡異常を診断するための短絡診断部を備えるフィールド配線診断装置において、
前記短絡診断部は、
診断モード時に前記スイッチ手段を所定時間オンに操作するパルス出力手段と、
前記スイッチ手段がオンの期間に前記フィールド機器に流れる読み返し電流値を入力して短絡検出値を生成する短絡検出値生成手段と、
前記読み返し電流値と前記短絡検出値とを入力する短絡診断手段と、
を備えることを特徴とするフィールド配線診断装置。
【0017】
(2)前記短絡検出値生成手段は、入力された前記読み返し電流値の所定期間の値を移動平均するフィルタ手段と、このフィルタ手段の出力を保持し前記短絡検出値を更新処理して出力する電流基準値保持手段を備えることを特徴とする(1)に記載のフィールド配線診断装置。
【0018】
(3)前記短絡検出値生成手段は、前記電流基準値保持手段の出力値に所定のオフセット値を付加するオフセット値設定手段を備え、前記オフセット値は前記電流基準値保持手段の出力に基づいて変更されることを特徴とする(2)に記載のフィールド配線診断装置。
【0019】
(4)前記短絡検出値生成手段は、前記電源電圧の読み返し電源電圧値を入力して移動平均するフィルタ手段と、このフィルタ手段の出力を更新して保持する電源基準値保持手段と、前記電源電圧の読み返し電源電圧値と前記電源基準値保持手段の出力値との比率を演算する除算手段とを備え、演算された前記比率により前記電流基準値保持手段の出力値または前記短絡診断手段に入力する前記読み返し電流値を補正することを特徴とする(2)または(3)に記載のフィールド配線診断装置。
【0020】
(5)前記短絡検出値生成手段は、前記電流基準値保持手段の出力値を所定値で制限するリミット処理手段を備えることを特徴とする(2)乃至(4)のいずれかに記載のフィールド配線診断装置。
【0021】
(6)前記診断手段からの異常検出情報または他チャンネルの異常検出情報に基づいて前記電流基準値保持手段の更新処理を停止させる更新停止手段を備えることを特徴とする(2)乃至(5)のいずれかに記載のフィールド配線診断装置。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、次のような効果を期待することができる。
(1)従来装置では、短絡検出値を高い固定値に設定していたが、本発明では現場のフィールド機器の突電流に応じて短絡検出値が自動更新されるため、フィールド機器に対する配線距離制限が緩和される。
【0023】
(2)外部電源電圧が変動して突入電流が変動しても、短絡検出値は変動を検出して補正されるため、短絡異常を誤検出することがない。
【0024】
(3)温度変動で配線抵抗値が変動して突入電流が変動しても、電流基準値は常時更新しているため変動した突入電流値に追従する。このため、温度変動により短絡異常を誤検出することがない。
【0025】
(4)一時的にノイズが混入して突入電流が変動しても、短絡検出値はフィルタリングして生成しているため変動することはない。一般的に診断は検出カウンタを備えており、ノイズにより数回エラーカウントされることがあっても、短絡異常を誤検出することがない。
【0026】
(5)チャンネル異常の場合には基準値の更新を停止しているため、短絡異常を検出しているときに短絡検出値が更新され検出されなくなることはない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明を適用したフィールド配線診断装置の一実施例を示す機能ブロック図である。
【図2】短絡検出値生成手段の構成例を示す機能ブロック図である。
【図3】オフセット値の特性図である。
【図4】本発明を適用したフィールド配線診断装置の他の実施例を示す機能ブロック図である。
【図5】安全制御システムにおけるデジタル出力モジュールの構成例を示す機能ブロック図である。
【図6】従来の短絡診断部の構成例を示す機能ブロック図である。
【図7】従来のフィールド配線診断装置における短絡検出動作の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を図面により詳細に説明する。図1は、本発明を適用したフィールド配線診断装置の一実施例を示す機能ブロック図である。図6で説明した従来構成と同一要素には同一符号を付して説明を省略する。
【0029】
図6に示した従来装置との構成上の相違点は、固定した短絡検出値Isを短絡診断手段52に出力する短絡検出値設定手段53に代えて、読み返し電流値i1を入力して動的に生成され自動更新される短絡検出値Ifを短絡診断手段52に出力する、短絡検出値生成手段100を設けた構成にある。
【0030】
さらに短絡検出値生成手段100は、電流基準値に基づいて短絡検出値Ifに付加するオフセット値を調整する機能、並びに読み返し電源電圧値Eを入力しその変動比率をリアルタイムに検出して短絡検出値Ifまたは短絡診断手段52に入力する読み返し電流値i1を補正する機能を備える。
【0031】
図2は、短絡検出値生成手段100の構成例を示す機能ブロック図である。短絡検出値Ifは、電流基準値保持手段101の電流基準値出力Ioに基づいて生成される。フィルタ手段102は、読み返し電流i1の現在値から所定期間前のデータを保持しその移動平均を演算して電流基準値保持手段101に渡す。
【0032】
このようなフィルタ処理により、テスト時の突入電流が短時間に発生して読み返し電流i1が急変しても電流基準値保持手段101の電流基準値出力Ioは変動しないが、電源電圧変動や温度変動による読み返し電流i1の緩慢な変動には追従し、環境変動に対して自動更新される。
【0033】
電流基準値保持手段101の電流基準値出力Ioは、オフセット値設定手段103からのオフセット値Qを加算手段104で加算処理される。図3は、オフセット値の特性図である。配線抵抗により電流基準値は変化するので、オフセット値Qは電流基準値のレベルに対して所定比率の可変値とする。
【0034】
オフセット値が付加された加算手段104の出力は、乗算手段105により外部電源の変動比率kが乗算され、さらに、リミット処理手段106で上限値リミットされ、短絡検出値Ifとして短絡診断手段52に出力される。
【0035】
電源基準値Eoは、電源基準値保持手段107の出力に基づいて生成される。フィルタ手段108は、読み返し電源電圧値Eの現在値から所定期間前のデータを保持しその移動平均を演算して電源基準値保持手段107に渡す。
【0036】
このようなフィルタ処理により、外部電源の電圧変動が短時間に発生して読み返し電源電圧Eが急変しても電源基準値保持手段107の電源基準値出力Eoは変動しないが、電源電圧の緩慢な変動には追従し、環境変動に対して自動更新される。
【0037】
読み返し電源電圧Eと電源基準値出力Eoは除算手段で比率演算され、電源電圧Eの変動比率kが算出される。この変動比率kが乗算手段105で電流基準値Ioを補正し、電源電圧変動に対する診断ミスを防止する。
【0038】
図4は、本発明を適用したフィールド配線診断装置の他の実施例を示す機能ブロック図である。図2に示した実施例との相違点は、乗算手段105´により短絡診断手段52に入力される読み返し電流値i1に対して比率kを乗算する構成にある。短絡診断手段52は、読み返し電流i1と短絡検出値Ifの差を監視するので、図2と同一の効果をもたらす。
【0039】
図2、図4の実施例では、簡単のためフィールド機器1台の1チャンネルの構成を示したが、他のチャンネルの構成も同様である。異常停止手段200は、自己のチャンネルの異常検出情報ALまたは他のチャンネルの異常検出情報に基づいて電流基準値保持手段101の自動更新を停止させる。
【0040】
以上説明した本発明によれば、現場のフィールド機器の突電流に応じて短絡検出値が自動更新されるため、フィールド機器に対する配線距離制限が緩和される。さらに、外部電源電圧が変動して突入電流が変動しても、短絡検出値は変動を検出して補正されるため、短絡異常を誤検出することがない。
【0041】
また、温度変動で配線抵抗値が変動して突入電流が変動しても、電流基準値は常時更新しているため変動した突入電流値に追従する。このため、温度変動により短絡異常を誤検出することがない。
【0042】
一時的にノイズが混入して突入電流が変動しても、短絡検出値はフィルタリングして生成しているため変動することはない。一般的に診断は検出カウンタを備えており、ノイズにより数回エラーカウントされることがあっても、短絡異常を誤検出することがない。
【0043】
チャンネル異常の場合には電流基準値の更新を停止しているため、短絡異常を検出しているときに短絡検出値が更新され検出されなくなることはない。
【符号の説明】
【0044】
1 安全制御システム
10 上位装置
20 制御バス
30 デジタル出力モジュール
40 制御部
50 短絡診断部
51 パルス出力手段
52 短絡診断手段
100 短絡検出値生成手段
101 電流基準値保持手段
102 フィルタ手段
103 オフセット値設定手段
104 加算手段
105、105´ 乗算手段
106 リミット処理手段
107 電源基準値保持手段
108 フィルタ手段
109 除算手段
200 更新停止手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタル出力モジュールにより操作されるスイッチ手段を介して電源電圧が供給されて動作するフィールド機器までの短絡異常を診断するための短絡診断部を備えるフィールド配線診断装置において、
前記短絡診断部は、
診断モード時に前記スイッチ手段を所定時間オンに操作するパルス出力手段と、
前記スイッチ手段がオンの期間に前記フィールド機器に流れる読み返し電流値を入力して短絡検出値を生成する短絡検出値生成手段と、
前記読み返し電流値と前記短絡検出値とを入力する短絡診断手段と、
を備えることを特徴とするフィールド機器配線装置。
【請求項2】
前記短絡検出値生成手段は、入力された前記読み返し電流値の所定期間の値を移動平均するフィルタ手段と、このフィルタ手段の出力を保持し前記短絡検出値を更新処理して出力する電流基準値保持手段を備えることを特徴とする請求項1に記載のフィールド配線診断装置。
【請求項3】
前記短絡検出値生成手段は、前記電流基準値保持手段の出力値に所定のオフセット値を付加するオフセット値設定手段を備え、前記オフセット値は前記電流基準値保持手段の出力に基づいて変更されることを特徴とする請求項2に記載のフィールド配線診断装置。
【請求項4】
前記短絡検出値生成手段は、前記電源電圧の読み返し電源電圧値を入力して移動平均するフィルタ手段と、このフィルタ手段の出力を更新して保持する電源基準値保持手段と、前記電源電圧の読み返し電源電圧値と前記電源基準値保持手段の出力値との比率を演算する除算手段とを備え、演算された前記比率により前記電流基準値保持手段の出力値または前記短絡診断手段に入力する前記読み返し電流値を補正することを特徴とする請求項2または3に記載のフィールド配線診断装置。
【請求項5】
前記短絡検出値生成手段は、前記電流基準値保持手段の出力値を所定値で制限するリミット処理手段を備えることを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載のフィールド配線診断装置。
【請求項6】
前記診断手段からの異常検出情報または他チャンネルの異常検出情報に基づいて前記電流基準値保持手段の更新処理を停止させる更新停止手段を備えることを特徴とする請求項2乃至5のいずれかに記載のフィールド配線診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−88859(P2013−88859A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225924(P2011−225924)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】