説明

フェニルジアジリン誘導体とその製造方法

【課題】光反応性の誘導体を提供する。
【解決手段】
下記式(1)で表される化合物およびその製造方法,並びに中間体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェニルジアジリン誘導体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸は生命の基本物質であり、生命現象の多くの機能をつかさどる。単体の核酸およびその派生物は、生体内の様々な情報伝達、エネルギー伝達などを担う。また核酸の複合体、つまりDNAやRNAは生命の設計図とタンパク質生産の機能をもち、生命を支える基本的な化合物である。このように核酸とその派生物および複合体が様々な機能を発揮できるのは、それらに結合して働くタンパク質が存在するからである。(「細胞の分子生物学 第4版」Bruce Alberts著、中村桂子、松原謙一翻訳、ニュートンプレス発行(非特許文献1))
【0003】
核酸およびその派生物に結合するタンパク質を解析する方法として良く用いられているのが、タンパク質のモチーフ解析である。核酸およびその派生物に結合するタンパク質の部位はある程度互いに似ており、この性質を利用しタンパク質が核酸およびその派生物に結合するか否かを予想するものである。
【0004】
核酸複合体、DNAまたはRNAに結合するタンパク質の解析法として、電気的移動度シフトアッセイ(以下、EMSA)が良く用いられる。EMSAは、特定配列をもつDNAまたはRNA断片に結合するタンパク質を以下の方法で検出する。DNAまたはRNA結合タンパク質を多量に含む核抽出液などと、検出用にラベルされた特定配列を有するDNAまたはRNA断片とを混和し、一定時間清置させる間に相互の親和性で複合体を形成させる。その後、DNAまたはRNA−タンパク質複合体と結合しなかったDNAまたはRNAとを非変性条件電気泳動で分離し、適切な検出法でラベルされたDNAまたはRNAを視覚化する。このとき、一般的に複合体はDNAまたはRNAのみに比べ、電気泳動中での移動度が遅くなる。(「Molecular Cloning A Laboratory Manual 第3版」Sambrook J、Russell DW著 17-13 〜 17-22頁 Cold Spring Harbor Laboratory Press発行(非特許文献2))
【0005】
本発明者らは、これまでジアジリン誘導体を光反応基として、独自の高速光アフィニティー法の開発を行ってきた。光アフィニティー法は光反応を利用して特異的なリガンドと相手のタンパク質を非可逆的につなぎとめる技術である。ジアジリンは、他の光反応基に比べ、この非可逆的結合を有利に起こす特徴を持つ。(Y. Sadakane, Y. Hatanaka (2004) Multifunctional photoprobes for rapid protein identification. In F. Darvas, A. Guttman and G. Dorman eds., Chemical Genomics, Marcel Dekker Inc., New York. Pp199-214(非特許文献3)、Y. Hatanaka, Y. Sadakane (2002) Photoaffinity labeling in drug discovery and developments: Chemical gateway for entering proteomic frontier. Curr. Top. Med. Chem. 2, 271-288(非特許文献4)、畑中保丸 構造生物学的有機化学:光アフィニティラベルによる蛋白質機能構造のプロービング、有機合成化学会誌,56(7),581-590, 1998(非特許文献5)、M. Kaneda, Y. Sadakane, Y. Hatanaka, (2003) A Novel Approach for Affinity-Based Screening of Target Specific Ligands: Application of Photoreactive D-Glyceraldehyde-3-phosphate Dehydrogenase. Bioconjugate Chem. 14, 849-852.(非特許文献6)、M. Hashimoto, J. Yang, Y. Hatanaka, Y. Sadakane, K. Nakagomi, G. D. Holman (2002) Improvement in the properties of 3-phenyl-3-trifluoromethyldiazirine based photoreactive bis-glucose probes for GLUT4 following substitution on the phenyl ring. Chem. Pharm. Bull. 50, 1004-1006(非特許文献7)、Hatanaka, Y., Kempin, U., Park, JJ. One-step synthesis of biotinyl photoprobes from unprotected carbohydrates. J. Org. Chem. 65, 5639-5643, 2000(非特許文献8)、Hatanaka, Y., Hashimoto, H., Kanaoka, Y. A rapid and efficient method for identifying photoaffinity biotinylated sites within proteins. J. Am. Chem. Soc. 120, 453-454, 1998(非特許文献9)、特開2000-319262号公報(特許文献1))
【0006】
核酸とその派生物およびその複合体を解析、分離精製する上で以下の課題が未解決である。
(1)核酸およびその派生物が結合するタンパク質を相同性のあるモチーフから解析する方法は、直接的な確認法ではなく、アミノ酸配列が未知である新規結合タンパク質を探す方法として用いることはできない。
(2)DNAまたはRNAの結合タンパク質の解析に多用されるEMSAは、非変性条件電気泳動という制約から、分離能が非常に悪く、結合タンパク質の有無を確認するのみの解析方法となる。例えば、解析系に複数の結合タンパク質が存在している場合でも、EMSAでは結合タンパク質の有無のみの情報しか得られなく、タンパク質の数を知ることができない。複数のタンパク質が高次の複合体を形成し、DNAまたはRNAに結合していることは良く知られており、その解析法としてはEMSAの限界が指摘されていた。
(3)核酸とその派生物およびその複合体に結合するタンパク質を、タンパク質混合液から分離精製する一般的な方法は未だ確立されていない。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題を解決することを目的として、光反応性の誘導体およびその製造法を提供することを目的とする。
【発明の開示】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は以下のとおりである。
[1]
下記式(1)で表される化合物。
【化1】

[2]
下記式(11)で表される化合物にルイス酸の存在下でCl2CHOCH3を反応させて、下記式(12)で表される化合物を調製し、下記式(12)で表される化合物にNaBH4の存在下でエタノールを反応させて、下記式(13)で表される化合物を調製し、下記式(13)で表される化合物に、トリフェニルホスフィンの存在下でマレイミドを反応させて、下記式(1)で表される化合物を調製することを含む、下記式(1)で表される化合物の製造方法。
【化2】

[3]
下記式(11)で表される化合物にルイス酸とトリスルオロメタンスルホン酸の存在下でCl2CHOCH3を反応させて、下記式(12)で表される化合物を調製することを含む、下記式(12)で表される化合物の製造方法。
【化3】

【0009】
本発明により、光反応性の誘導体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
フェニルジアジリン化合物は、例えば、一般式(C)で示される化合物であることができる。
【化4】

【0011】
一般式(C)中、R5
【化5】

【0012】
上記式中、R6は、ハロゲン原子(例えば、Cl、Br、I)、またはスルホン酸エステル残基である。スルホン酸エステル残基は、具体的には、メタンスルホニル基あるいはトルエンスルホニル基であることができる。R7は、炭素数1〜6のアルキルチオスルホニル基または炭素数1〜6のアルキルチオ基である。アルキルチオスルホニル基は、RSO2−で示され、Rは例えば、メチル、エチル、プロピルまたはブチルであることができる。アルキルチオ基は、RS−で示され、Rは例えば、メチル、エチル、プロピルまたはブチルであることができる。R8は、Hまたは炭素数1〜6のアルキル基であることができ、アルキル基は、例えば、メチル、エチル、プロピルまたはブチルであることができる。nは1〜6の整数であり、好ましくは1〜4の整数であり、より好ましくは1である。
【0013】
前記一般式(C)で示されるフェニルジアジリン化合物は、例えば、下記式(1)で表される化合物であることができる。
【化6】

【0014】
式(1)で表される化合物は、反応性の官能基としてマレイミド基とジアジリンをもつ。マレイミド基は、チオリン酸基を有する核酸誘導体のチオリン酸基のチオール基と反応する。式(1)で表される化合物は、式(2)または式(7)のフェニルジアジリン化合物との反応により製造することができる。
【0015】
前記一般式(C)で示されるフェニルジアジリン化合物は、例えば、下記式(2)で表される化合物であることができる。
【化7】

【0016】
式(2)で表される化合物は、反応性の官能基としてハロゲン(Hal)とジアジリンをもつ。ハロゲン(Hal)は、チオリン酸基を有する核酸誘導体のチオリン酸基のチオール基と反応する。ハロゲン(Hal)としては、例えば、Cl、BrおよびIを挙げることができる。式(2)で表される化合物は、文献に記載の方法により製造することができる[M.Nassal, J. Am. Chem. Soc., 106, 7540-7545 (1984) ; L. B. Shih, and H. Bayley, Anal. Biochem., 1985, 144, 132-141]。
【0017】
既存の合成法は、フェニル骨格上にリガンドへの導入時に鍵となる官能基を前もって組み込んでおき、光反応基部分であるジアジリン骨格の構築が行われる。例えば、下記スキーム1に示したフェニルジアジリンのハロゲン化誘導体(2a)および(2b)は、種々の光反応性プローブの合成に極めて有用な中間体である。従来報告されている合成法では、ハロゲン化に必要な官能基を、ジアジリン骨格構築の前にあらかじめ組み組む方法のため、いずれも多段階で合成されている
【0018】
【化8】

【0019】
前記一般式(C)で示されるフェニルジアジリン化合物は、例えば、下記式(3)で表される化合物であることができる。
【化9】

【0020】
式(3)で表される化合物は、非特許文献6、M. Kaneda, Y. Sadakane, Y. Hatanaka, (2003) A Novel Approach for Affinity-Based Screening of Target Specific Ligands: Application of Photoreactive D-Glyceraldehyde-3-phosphate Dehydrogenase. Bioconjugate Chem. 14, 849-852の記載の方法により製造することができる。
【0021】
前記一般式(C)で示されるフェニルジアジリン化合物は、例えば、下記式(4)〜(10)で表される化合物であることができる。
【0022】
【化10】

【0023】
式(4)、(5)、(6)、および(9)中、Rは、水素(H)、炭素数1〜6の無置換または置換アルキル基であり、式(10)中、Rは、水素(H)、炭素数1〜6の無置換または置換アルキル基であり、R’はH;アセチル基などの炭素数2〜6の無置換または置換アルキルカルボニル基;tert-ブトキシカルボニル(Boc)基、9-フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)基などの炭素数2〜6の無置換または置換アルキルカルボニルオキシ基;またはベンゾイル基などのアリールカルボニルオキシ基であり、式(8)中、Xは、メタンスルホニルなどのアルカンスルホニル基またはp-トルエンスルホニルなどのベンゼンスルホニル基である。Rで表される炭素数1〜6の無置換アルキル基は、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、t-ブチルであり、置換アルキル基は、例えば、ベンジルである。
【0024】
式(4)〜(10)で示されるフェニルジアジリン誘導体は、下記スキーム2に示すように、現在最も簡単かつ大量に合成できる、無置換のフェニルジアジリン(11)を出発原料にして、(11)にアルデヒド基を直接修飾した中間体(12)を合成し、この中間体(12)のアルデヒド基をさらに修飾することで、式(4)〜(10)で示されるフェニルジアジリン誘導体を合成できる。
【0025】
【化11】

【0026】
[フェニルジアジリンの直接修飾法]
フェニルジアジリンは、種々の合成条件に安定である一方、光反応で速やかに分解して安定なクロスリンクを形成できるため、優れた光反応基として知られている。しかし、これを化学物質や生体分子に導入するためには適当な官能基が必要であり、その段階における合成的煩雑さが問題であった。大量合成が可能な(11)を原料に、有用中間体のアルデヒド(12)を簡単に合成する方法をまず開発し、これを経て様々な有用ジアジリンが簡単に誘導できる新しいルートを開拓した。(12)は、これまで7段階を経る収率の悪い合成法が報告されていた[J. M. Delfino, S. L. Schreiber, and F. M. Richards, J. Am. Chem. Soc., 1993, 115, 3458-3474]。しかし、本発明では、この合成法に代えて、フェニルジアジリン (11)を直接修飾することにより、一段階でアルデヒド(12)を得るまったく新しいアプローチを用いる (スキーム3)。
【0027】
【化12】

【0028】
これまで、フェニルジアジリンにCl2CHOCH3をGaCl3存在下TFA-CH2Cl2中で反応させることで、わずか収率5%ではあったがアルデヒド体 (12) を得ることに成功していた[U. Kempin, Y. Kanaoka, and Y. Hatanaka, Heterocycles, 1988, 49, 465-468.]。この実験の際、原料のCl2CHOCH3が反応を始めて直ぐに分解してしまうことがわかった。原因を検討した結果TFA中にCl2CHOCH3を加えると分解が起こることから、TFAに代わる有機酸を検討した結果、Cl2CHOCH3はトリフルオロメタンスルホン酸(TfOH)中で安定であることが分かった。この条件で、Lewis酸としてAlCl3, ZnCl2, SbCl3, SbCl5, SnCl2, SnCl4, Zn(OTf)2, AgOTf, Gd(OTf)3, Pr(OTf)3, Sm(OTf)3, Y(OTf)3, Yb(OTf)3,などの種々のLewis酸を検討したところ、TLC上で目的のアルデヒド体 (12) の生成が確認された。これらのうち、GaCl3, FeCl3, SbF5, TiCl4 についての収率を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
この方法は、これまで直接修飾が困難であったフェニルジアジリンの芳香環上に、合成上有用な官能基を簡単に導入できるようになったこと、得られたアルデヒド体はさらに様々な官能基に容易に変換できること、の二点において特に重要であると考えられる。
【0031】
[ジアジリン基を持つフェニルアラニン誘導体の簡易不斉合成への応用]
Friedel-Crafts反応で簡便に得られるようになったアルデヒド体(12)は、さらにアルデヒド基を還元しベンジルアルコール体(13)、ヒドロキシ基をハロゲン化し化合物(14)などの、様々な有用合成中間体に簡単に変換できる。このハロゲン体は、光反応性のペプチドやタンパク質の合成に有用な、p-位にジアジリン基を持つフェニルアラニン(Tmd(Phe))(15)の合成に利用されている[例えば、M.Nassal, J. Am. Chem. Soc., 106, 7540-7545 (1984) ; L. B. Shih, and H. Bayley, Anal. Biochem., 1985, 144, 132-141C ; W. G. Fishwick, J. M. Sanderson, and J. B. C. Findlay, Tetrahedron Lett., 1994, 35, 4611-4614.]ジアジリン合成を含む非常に多段階の合成法である。ここでは、アルデヒド体(12)から出発し、還元により(13)を得、次いでハロゲン化により(14) を得る。(14)から(15)が数工程の反応で簡便に不斉合成できる(スキーム4)。尚、下記スキーム4中、(13)は前記化合物(7)と同一化合物であり、(14)は、前記化合物(2)においてHalがBrである化合物であり、(15)は、前記(10)において、RおよびR’が水素原子(H)である化合物である。
【0032】
【化13】

【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0034】
実施例1
式(1)の化合物の合成方法
【化14】

【0035】
N-[4-[3-(trifluoromethyl)-3H-diazirin-3-yl]benzyl] maleimide (1)
4-[3-(Trifluoromethyl)-3H-diazirin-3-yl]benzyl alcohol (13) (750 mg, 3.45 mmol)をTHF 28 mLに溶かし、Triphenylphosphine (1.05 g, 3.9 mmol)、maleimide (389 mg, 3.97 mmol)を加え0℃に冷却した。窒素気流下、撹拌しながらDiisoproylazodicarboxylate(789 mg, 4.35 mmol)をゆっくりと加えた。加え終わると黄色の液体となった。0℃で1時間置いた後、反応混合物を減圧溜去し、Hezane : Ether = 1:1を30 mL 加える。沈殿してきた反応物のTriphenylphosphine oxideを濾過で取り除いた。溶媒を減圧溜去し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(Hexane : AcOEt = 4 : 1)により精製して、無色の固体物質を得た。
収率 539 mg (68%)
1H-NMR (CDCl3)
:7.37 (d, 2H, J = 7.3 Hz) 7.19 (d, 2H, J = 7.3 Hz) 6.72 (s, 2H) 4.67 (s, 2H).
【0036】
実施例2−1
【化15】

【0037】
4-[3-(Trifluoromethyl)-3H-diazirin-3-yl]benzaldehyde (12)
3-(Phenyl)-3-(trifluoromethyl)-3H-diazirine (11) (1.86 g, 0.01 mol)を0℃でCl2CHOCH3 (3.45 g, 0.03 mol)に溶かした。アルゴン気流下、0℃で、撹拌しながらTfOH (1.77 mL, 0.02 mol)とTiCl4 (2.85 g, 0.015 mol)から得られた黄色の個体をゆっくり加えた。塩化水素が発生するのが収まるとオレンジ色の液体となった。室温で1時間置いた後、反応混合物にヘキサン500 mLを加え、撹拌しながら砕いた氷を氷零下ゆっくり加えて過剰の試薬を分解した後、固体の炭酸ナトリウムをゆっくり加えて中和した。得られたヘキサン層を分離後、飽和食塩水で洗い、硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過で乾燥剤を除いた後に溶媒を減圧溜去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (Hexane:CH2Cl2 = 2:1) により精製して、黄色の油状物質 (12)を得た。
【0038】
収量 1.71 g (80%)
1H-NMR (CDCl3)
σ:10.04 (s, 1H), 7.91 (d, 2H, J = 8.3 Hz) 7.35 (d, 2H, J = 8.3 Hz).
【0039】
実施例2−2
【化16】

【0040】
尚、上述したように、上記スキーム中、(13)は前記化合物(7)と同一化合物であり、(14)は、前記化合物(2)においてHalがBrである化合物であり、(15)は、前記(10)において、RおよびR’が水素原子(H)である化合物である。
【0041】
4-[3-(Trifluoromethyl)-3H-diazirin-3-yl]benzyl alcohol (13)
化合物(12) (3.3 g, 15.4 mmol)をEtOH 7 mLに溶かし0℃で撹拌しながらNaBH4 (0.626 g, 16.5 mmol)をEtOH 7 mL中に懸濁したものを加えた。加え終わったのち室温に戻し4時間撹拌した。これに氷上で1M HClをゆっくり加えて過剰の試薬を分解した後、Etherで抽出し、Ether層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過で乾燥剤を除いた後に溶媒を減圧溜去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (Hexane:Ether = 1:1)により精製して、淡黄色の油状物質(13)を得た。
【0042】
収量 3.21g (96%)
1H-NMR (CDCl3)
σ:7.39 (d, 2H, J = 8.5 Hz), 7.19 (d, 2H, J = 8.5 Hz), 4.71 (s, 2H), 1.87(bs, 1H)
【0043】
参考例2−3
3-[4-(Bromomethyl)phenyl]-3-(trifluoromethyl)-3H-diazirine (14)
化合物 (13) (344.0 mg, 1.59 mmol)をCH2Cl2 2 mLに溶かし、CBr4 (658.2 mg, 1.985 mmol)を加えた。0℃に冷やしPh3P (474 mg, 1.807 mmol)をゆっくりと加えた。室温まで戻し1時間撹拌した後で、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(Hexane)で精製して、無色の油状物質(14)を得た。
【0044】
収量 401.8mg (90%)
1H-NMR (CDCl3)
σ:7.42 (d, 2H, J = 8.5 Hz), 7.17 (d, 2H, J = 8.5 Hz), 4.46 (s, 2H).
【0045】
参考例2−4
L-4'-[3-(Trifluoromethyl)-3H-diazirin-3-yl]phenylalanine (15)
tert-Butylglycinate benzophenone imine (1.136 g, 3.839 mmol)と、不斉触媒のO(9)-Allyl-N-9-anthracenylmethylcinchonidium bromide[9] (0.2127 g, 0.351 mmol, 0.1 eq)をCH2Cl2 9 mLに溶かした。化合物 (14) (1.419 g, 5.085 mmol, 1.5 eq.)を加えアルゴンガス雰囲気下、室温で撹拌した。反応混合液を-78 ℃に冷却しながら2-tert-Butylimino-2-diethylamino-1,3-dimethylperhirdo-1,3,2-diazaphosphorine (1.41 g, 5.139 mmol, Aldrich)を数秒間で滴下し、-78 ℃で7時間反応させた。室温に戻し減圧蒸留した後、残査をEtherで希釈し蒸留水で2回、飽和食塩水で1回洗った。油層を硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過で乾燥剤を除いた後に溶媒を減圧溜去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー (Hexane:EtOAc = 7:1) で精製し、黄色の油状物質を得た。
【0046】
収量 1.89g (95%)
1H-NMR (CDCl3)
σ:7.57 (d, 2H, J = 6.9 Hz ), 7.39-7.27 (m, 6H), 7.06 (q, 4H, J = 8.4 Hz )
6.59 (d, 2H, J = 6.9 Hz), 4.09 (q, 1H, J = 8.6, 4.6 Hz), 3.26-3.11 (m, 2H)
1.44 (s, 9H).
【0047】
得られた黄色の油状物質 (75 mg, 0.152 mmol)を0 ℃でTFA 1mLに溶かし、室温で2時間撹拌した。(TLC, Hexane:AcOEt = 7:1)で反応終了を確認後、TFAを減圧溜去し、残渣をCH2Cl2で希釈し水で3回抽出した。水層を凍結乾燥して白色の固体(15)を得た。
【0048】
収量 (TFA塩として) 53.4 mg (91%)
1H-NMR (CD3OD)
σ:7.46 (d, 2H, J = 7.9 Hz ), 7.27 (d, 2H, J = 7.9 Hz), 3.84 (dd, 1H, J = 8.2, 4.5 Hz), 3.38 (m,1H), 3.10 (d, 1H, J = 4.5, 8.2 Hz).
光学純度 (e.e.)
(5)をFmoc体に誘導し、HPLCによりその光学純度を確認した。適量をMeOHに溶かした後、キラルカラム (Sumichiral OA-3300 2.5μm 4.6 mmφ×25 cm)を用いて0.01 M Ammonium Acetate/MeOH、流速1 mL/minで溶出させ、360 nmのジアジリン由来のUV吸収により検出した。
e.e. = 98%
[α]D+22.4°(c = 0.52, EtOH)
【0049】
参考例1
【化17】

【0050】
5'末端をチオリン酸化した21merのRNA(A2)と式(1)で表されるフェニルジアジリン化合物を、それぞれ最終濃度が0.025mMと20mMになるように、ジチルスルオキシド中に調製した。さらに最終濃度が20mMになるようにジイソプロピルエチルアミンを混合し、37℃で2時間静置した。反応後の試料を高速液体クロマトグラフィーで解析した。結果を図1に示す。
【0051】
図1に示すチャート(1)は、原料である(A2)の高速液体クロマトグラフィーによる解析結果である。チャート内の(a)にあたるピークが、原料の5'末端をチオリン酸化した21merのRNA(A2)を示す。上記チャート(2)は産物である(D4)を同様に解析したものである。チャート内の(b)のピークが新たに出現したピークで、質量分析の結果、(D4)であることを確認した。
【0052】
参考例2
[GTP-γ-S, ADP-β-Sへのジアジリンの導入]
【0053】
以下に示したGTP-γ-SおよびADP-β-Sのホスホロチオエートにジアジリンを導入した。
【化18】

【0054】
<操作>
・光反応性GTP-γ-Sの作成
サンプルを終濃度が1 mM GTP-γ-S, 100 mM リン酸バッファー(pH 7.0), 50 mM 4-[3H-[3-trifluoromethyl]diazine-3-yl]benzyl maleimideとなるように調製し、37℃で20時間置いておく。反応後、HPLCにより分析、単離を行いMASSにより分子量を測定した。
【0055】
・光反応性ADP-β-Sの作成
サンプルを終濃度が1 mM ADP-β-S, 100 mM リン酸バッファー (pH 7.0), 50 mM 4-[3H-[3-trifluoromethyl]diazine-3-yl]benzyl maleimideとなるように調製し、37℃で18時間置いた。反応後、HPLCにより分析、単離を行いMASSにより分子量を測定した。結果を図2に示す。
【0056】
HPLCの結果より、ジアジリン導入反応で、GTPγ-Sでは14.2 min、ADP-β-Sでは14.0 minに新たな生成物ピークが確認された。このピークを分取し、MASSにより分子量の測定を行った。
【0057】
【表2】

【0058】
分子量測定の結果より、GTP-γ-SおよびADP-β-Sへのジアジリンの導入が確認できた。各収率はGTP-γ-Sが94.1 %、ADP-β-Sが87 %であった。上記GTP-γ-SおよびADP-β-Sへのジアジリンの導入と同様に、各種ホスホロチオエートへの光反応基の導入が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、核酸およびタンパク質が関連する広範な分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】高速液体クロマトグラフィーでの解析例を示す。
【図2−1】HPLCによるGTP-γ-Sへのジアジリンの導入反応の分析。
【図2−2】HPLCによるADP-β-Sへのジアジリンの導入反応の分析。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物。
【化1】

【請求項2】
下記式(11)で表される化合物にルイス酸の存在下でCl2CHOCH3を反応させて、下記式(12)で表される化合物を調製し、下記式(12)で表される化合物にNaBH4の存在下でエタノールを反応させて、下記式(13)で表される化合物を調製し、下記式(13)で表される化合物に、トリフェニルホスフィンの存在下でマレイミドを反応させて、下記式(1)で表される化合物を調製することを含む、下記式(1)で表される化合物の製造方法。
【化2】

【請求項3】
下記式(11)で表される化合物にルイス酸とトリスルオロメタンスルホン酸の存在下でCl2CHOCH3を反応させて、下記式(12)で表される化合物を調製することを含む、下記式(12)で表される化合物の製造方法。
【化3】


【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【公開番号】特開2008−88177(P2008−88177A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−275032(P2007−275032)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【分割の表示】特願2007−528262(P2007−528262)の分割
【原出願日】平成18年5月8日(2006.5.8)
【特許番号】特許第4067114号(P4067114)
【特許公報発行日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)
【Fターム(参考)】