説明

フェノールノボラック型オキセタン組成物

【課題】硬化して、優れた熱特性を有する硬化物を生成する熱硬化型組成物を提供する。
【解決手段】(A)フェノールノボラック型オキセタン化合物、
(B)ビスオキセタンビフェニル化合物、
(C)フェノール化合物、活性エステル化合物、及び、カルボン酸無水物からなる群から選択された少なくとも1種の硬化剤、及び、
(D)熱重合開始剤
を含んでなる熱硬化型組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノールノボラック型オキセタン組成物およびその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
三員環状エーテル化合物であるオキシラン類は様々な求核や求電子試薬と容易に反応することから、有機合成、高分子合成の分野において幅広く研究されている。エポキシ樹脂は、その優れた諸特性から、塗料、接着剤、複合材料および電気絶縁材料として様々な分野で使用されている。しかし、オキシラン類は高い反応性を有するため、アルカリ存在下や硬化剤存在下において不安定である。さらに皮膚刺激性や変異原性があるという問題点を有するため、今後その利用が制限される可能性がある。
一方、四員環状エーテル化合物であるオキセタン類は、オキシラン類と同程度の歪みエネルギーと高い塩基性を有する化合物であるにもかかわらず、オキシラン類と比較すると、アルカリ条件下においても安定であり、体積収縮が小さく、皮膚刺激性がなく、変異原性は認められていない。さらに、オキセタン類はオキシラン類より炭素数が1個多いため、硬化物に強靭性を持たせることができる。これらのことから、オキセタン類はオキシラン類に代わる有用な原材料化合物として期待できる。
【0003】
オキセタン類に関して、カチオン触媒や配位アニオン触媒などの触媒(重合開始剤)を用いたオキセタン類に関する開環重合に関する研究が盛んに行われてきた。オキセタン類はカチオン重合が進行しやすく、また開環プロセスによってポリエーテルを生成する事が知られている。カチオン重合は、使用する開始剤や溶媒の種類によって反応速度や得られるポリマーの構造を規制することが比較的容易であるという興味深い特徴を有している。
適切な触媒を選択することでオキセタン類はオキシラン類と同様に良好な反応性を示す。
しかし、満足な熱硬化システム、特に、低温、短時間の加熱で重合する反応性を持ち、且つ、高い耐熱性を持つ硬化物を与える熱硬化システムは現在のところ得られていない。
【0004】
Polymer Journal, Vol. 40, No. 4, pp. 310-316, 2008(非特許文献1)は、ノボラック型オキセタンと活性エステルを含む組成物を開示している。しかし、硬化には高温度で長時間の加熱が必要で有り、改善が望まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Polymer Journal, Vol. 40, No. 4, pp. 310-316, 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、良好な熱特性、特に高いガラス転移温度(Tg)を有する硬化物を与える新規な熱硬化性オキセタン組成物を提供する。
本発明の他の目的は、新たな熱硬化システム(加熱温度、加熱時間)を有する組成物を与えることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
(A)一般式(I)


[式中、Rは、水素原子、又は、C−Cのアルキル基を示す。]、又は、
一般式(II)


[式中、Rは、水素原子、又は、C−Cのアルキル基を示す。]
で表されるフェノールノボラック型オキセタン化合物
(B)一般式(III)


[式中、Rは、水素原子、又は、C−Cのアルキル基を示す。]
で表されるビスオキセタンビフェニル化合物、
(C)フェノール化合物、活性エステル化合物、及び、カルボン酸無水物からなる群から選択された少なくとも1種の硬化剤、及び、
(D)熱重合開始剤
からなる、熱硬化型組成物を提供する。
【0008】
加えて、本発明は、上記熱硬化型組成物を加熱し硬化させて得られた熱硬化重合物をも提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、熱硬化型組成物を硬化して得られた硬化物は、良好な熱特性、特に高いガラス転移温度(Tg)を有している。
さらには、新規な熱硬化システムを持ち、電気、電子材料分野で工業化への応用が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の硬化性組成物は、
(A)フェノールノボラック型オキセタン化合物、
(B)ビスオキセタンビフェニル化合物、
(C)フェノール化合物、活性エステル化合物、及び、カルボン酸無水物からなる群から選択された少なくとも1種の硬化剤、及び、
(D)熱重合開始剤
を含んでなる。
【0011】
フェノールノボラック型オキセタン化合物(A)は、一般式(I)



[式中、Rは、水素原子、又は、C−Cのアルキル基を示す。]、又は、
一般式(II)


[式中、Rは、水素原子、又は、C−Cのアルキル基を示す。]
で表される。
およびRの具体例は、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基(n-プロピル基およびi-プロピル基)、ブチル基(n-ブチル基、sec-ブチル基およびter-ブチル基)である。
【0012】
フェノールノボラック型オキセタン化合物(A)の具体例において、RおよびRの具体例は次のとおりである。
およびR:水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル、n-ブチル基、sec-ブチル基またはter-ブチル基。
フェノールノボラック型オキセタン化合物(A)は、1種類の化合物、または2種類以上の化合物の組合せ、例えば、式(I)の化合物の2種類以上の組合せ、式(II)の化合物の2種類以上の組合せ、式(I)の化合物の1種類以上と式(II)の化合物の1種類以上の組合せであってよい。
【0013】
ビスオキセタンビフェニル化合物(B)は、一般式(III):


[式中、Rは、水素原子、又は、C−Cのアルキル基を示す。]
で表される。
の具体例は、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基(n-プロピル基およびi-プロピル基)、ブチル基(n-ブチル基、sec-ブチル基およびter-ブチル基)である。
【0014】
ビスオキセタンビフェニル化合物(B)の具体例において、Rの具体例は次のとおりである。
:水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル、n-ブチル基、sec-ブチル基またはter-ブチル基。
【0015】
ビスオキセタンビフェニル化合物(B)の量は、フェノールノボラック型オキセタン化合物(A)とビスオキセタンビフェニル化合物(B)との重量比が99.9:0.1〜0.1:99.9、例えば99:1〜1:99、特に90:10〜10:90となる量であってよい。
【0016】
硬化剤(C)は、フェノール化合物、活性エステル化合物、カルボン酸無水物、またはこれらの組合せである。
【0017】
フェノール化合物は、2〜6個のヒドロキシル基と少なくとも1つの(例えば2〜5の)ベンゼン環を有する化合物である。少なくとも2つのベンゼン環を有する場合に、ベンゼン環とベンゼン環は1つの炭素原子を介して(例えば、メチレン鎖によって)結合されていることが好ましい。
フェノール化合物の例としては、ビスフェノール化合物、ビフェノール化合物、トリスフェノール化合物、テトラフェノール化合物、ヘキサフェノール化合物が挙げられる。
ビスフェノールの具体例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、テトラフルオロビスフェノールA、フルオレンビスフェノールが挙げられる。トリスフェノール化合物の具体例としては、直鎖状トリスフェノール、メタン型トリスフェノールが挙げられる。テトラフェノール化合物の具体例は、直鎖状テトラキスフェノールである。ヘキサフェノール化合物の具体例は、放射状六核体化合物である。
【0018】
フェノール化合物は、一般式(IV)


[式中、Rは、水素原子、又は、ハロゲン原子を示し、R5は、ハロゲン原子で置換されていても良いC−Cアルキル基を示す。]、又は、一般式(V)


[式中、Rは、水素原子、又は、C−Cアルキル基を示す。]
で表されるフェノール化合物であることが好ましい。
【0019】
活性エステル化合物としては、ジエステルが好ましい。
活性エステル化合物は、一般式(VI)


[式中、Rは、水素原子、又は、C1−C4アルキル基を示し、Rは、水素原子、又は、ハロゲン原子を示し、Zは、−C(CH−、又は、−SO−を示す。]
で表される活性エステル化合物であることが好ましい。
【0020】
カルボン酸無水物は、1〜3個の無水カルボン酸基を有する炭素数2〜30の化合物である。カルボン酸無水物は、脂肪族酸無水物または芳香族酸無水物であってよく、環状カルボン酸無水物が望ましい。
カルボン酸無水物は、1個〜5個(例えば、1個または2個)の芳香環(例えば、ベンゼン環、ナフタレン環)を有していてもよい。
【0021】
カルボン酸無水物の具体例としては、無水フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水テトラクロロフタル酸、無水エンドメチレンテトラヒドロフタル酸、無水グルタル酸、および無水マレイン酸、コハク酸無水物、ジフェン酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0022】
カルボン酸無水物は、一般式(VII)


[式中、Rは、水素原子、又は、C−Cアルキル基を示し、また、互いと一緒になって環を形成しても良い。]
で表されるカルボン酸無水物であるか、


から選択されるカルボン酸無水物であることが好ましい。
【0023】
硬化剤(C)の量は、オキセンタン化合物(フェノールノボラック型オキセタン化合物(A)とビスオキセタンビフェニル化合物(B)との合計)と硬化剤(C)の重量比が、1:0.02〜1:20、例えば1:0.1〜1:5、好ましくは1:0.3〜1:1.3となるような量であってよい。
【0024】
熱重合開始剤(D)の例は、以下のとおりである。
本発明で使用される熱重合開始剤(特に、カチオン重合用開始剤)としては、加熱によりオキセタン環の開環及びカチオン重合を開始させることができる化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物が挙げられる。このような化合物としては、オニウム塩、例えば、第四級アンモニウム塩、ホスホニウム塩、スルホニウム塩などを挙げることができる。
【0025】
第四級アンモニウム塩の例は次のとおりである。



(式中、R3〜R6は、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基、炭素数3〜12のアルケニル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数7〜12のアラルキル基、叉は炭素数1〜20のアルコキシ基であり、互いに同一でも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい。また、R3〜R6のうちの2個が互いに結合して、N、P、O、叉はS原子を含む複素環を形成していてもよい。X-は対イオンを表し、BF4-、AsF6-、SbF6-、SbCl6-、(C654-、SbF5(OH)-、HSO4-、p−CH364SO3-、HCO3-、H2PO4-、CH3CO2-、ハロゲンイオン(Cl-、Br-、I-等)などから選ばれる。)
【0026】
ホスホニウム塩の例は次のとおりである。



(式中、R3〜R6、X-は前記と同様である。)
【0027】
スルホニウム塩の例は次のとおりである。



(式中、R3〜R5、X-は、それぞれ、前記のR3〜R6、X-と同様である。また、Arは置換基を有していてもよいアリール基を表す。)
【0028】




(式中、R3〜R4、X-、Arは、それぞれ、前記のR3〜R6、X-、Arと同様である。)
【0029】



(式中、R3〜R6、X-、Arはそれぞれ前記と同様である。)
【0030】
前記第四級アンモニウム塩としては、例えば、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラブチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、テトラブチルアンモニウムハイドロジェンサルフェート、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラエチルアンモニウムp−トルエンスルホネート、N,N−ジメチル−N−ベンジルアニリニウムヘキサフルオロアンチモネート、N,N−ジメチル−N−ベンジルアニリニウムテトラフルオロボレート、N,N−ジメチル−N−ベンジルピリジニウムヘキサフルオロアンチモネート、N,N−ジエチル−N−ベンジルトリフルオロメタンスルホネート、N,N−ジメチル−N−(4−メトキシベンジル)ピリジニウムヘキサフルオロアンチモネート、N,N−ジエチル−N−(4−メトキシベンジル)トルイジニウムヘキサフルオロアンチモネートなどが具体的に挙げられる。
【0031】
また、前記ホスホニウム塩としては、例えば、エチルトリフェニルホスホニウムヘキサフルオロアンチモネート、テトラブチルホスホニウムヘキサフルオロアンチモネートなどが具体的に挙げられる。
【0032】
そして、前記スルホニウム塩としては、例えば、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボレート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアルシネート、トリス(4−メトキシフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアルシネート、ジフェニル(4−フェニルチオフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアルシネートや、アデカオプトンSP−150(以下、旭電化製)、アデカオプトンSP−170、アデカオプトンCP−66、アデカオプトンCP−77や、サンエイドSI−60L(以下、三新化学製)、サンエイドSI−80L、サンエイドSI−100Lや、CYRACURE UVI−6970(以下、ユニオン・カーバイド製)、CYRACURE UVI−6974、CYRACURE UVI−6990や、UVI−508(以下、ゼネラル・エレクトリック製)、UVI−509や、FC−508(以下、ミネソタ・マイニング・アンド・マニュファクチュアリング製)、FC−509や、CD−1010(以下、サーストマー製)、CD−1011や、CIシリーズの製品(日本曹達製)などが具体的に挙げられる。
【0033】
更に、本発明では、ジアゾニウム塩や、ヨードニウム塩も熱カチオン重合開始剤として使用できる。
【0034】
ジアゾニウム塩の例は次のとおりである。



(式中、Ar、Xはそれぞれ前記と同様である。)
【0035】
ヨードニウム塩の例は次のとおりである。



(式中、R3〜R4、X-はそれぞれ前記と同様である。)
【0036】
前記ジアゾニウム塩としては、AMERICURE(アメリカン・キャン製)、ULTRASET(旭電化製)などが挙げられる。
【0037】
また、前記ヨードニウム塩としては、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアルシネート、ビス(4−クロロフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロアルシネート、ビス(4−ブロモフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロアルシネート、フェニル(4−メトキシフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロアルシネート、UV−9310C(東芝シリコーン製)、Photoinitiator2074(ローヌ・プーラン製)、UVEシリーズの製品(ゼネラル・エレクトリック製)、FCシリーズの製品(ミネソタ・マイニング・アンド・マニュファクチュアリング製)などが挙げられる。
【0038】
熱重合開始剤(D)の量は、フェノールノボラック型オキセタン化合物(A)とビスオキセタンビフェニル化合物(B)の合計(または成分(A)〜(C)の合計)100重量部に対して、0.1〜20重量部、例えば、0.2〜10重量部、特に0.5〜5重量部であってよい。
【0039】
熱硬化型組成物は各成分を配合して調製されるが、このときの温度は重合を誘発しない温度、例えば、50℃未満、更には10〜30℃であることが好ましい。通常は常温で調製される。また、調製時の圧力や雰囲気は特に制限されず、通常は空気中にて常圧でよい。
【0040】
熱硬化型組成物は、加熱により硬化して、硬化物を与える。
加熱温度は、50℃以上、更には100〜320℃、例えば120〜280℃、特に150〜250℃の範囲であることが好ましい。
加熱時間は前記組成物の組成や加熱温度によって異なるが、通常は1分間〜50時間、好ましくは5分間〜25時間、更に好ましくは3時間〜10時間程度であればよい。また、加熱時の圧力は前記の溶融状態が維持できれば特に制限されず、常圧、加圧、減圧のいずれでもよい。
【0041】
本発明の熱硬化型組成物は、種々の用途に使用できる。用途の例は、塗料、接着剤、複合材料、電気絶縁材料である。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明する。本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0043】
使用した主な化合物およびその略号は次のとおりである。
(A)フェノールノボラック型オキセタン化合物
フェノールノボラック型オキセタン(PNOX)
【0044】
(B)ビスオキセタンビフェニル化合物
ビス ((3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ)ビフェニル(2,2'-BPOX)
【0045】
(C)硬化剤
(C1)フェノール化合物
トリヒドロキシフェニルメタン (THPM)
テトラクロロビスフェノールA (TCBPA)
ビスフェノールA (BPA)
ビスフェノールS (BPS)
【0046】
(C2)活性エステル化合物
テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)
テトラクロロビスフェノールAジアセテート (TCBPA-Ac)
ビスフェノールAアセテード (BPA-Ac)
ビスフェノールSアセテード (BPS-Ac)
【0047】
(C3)カルボン酸無水物
テトラヒドロ無水フタル酸(THPA)
コハク酸無水物(SA)
ヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA)
ジフェン酸無水物(DPA)
ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)
【0048】
(D)熱重合開始剤
テトラブチルホスホニウムクロリド (TBPC)
テトラブチルホスホニウムブロミド (TBPB)
テトラフェニルホスホニウムクロリド (TPPC)
テトラフェニルホスホニウムブロミド (TPPB)
テトラフェニルホスホニウムイオダイド (TPPI)、
ジメチルアミノピリジン(DMAP)
【0049】
(E)他の化合物
臭化カリウム (KBr)
アセチルクロリド (AC)、
トリエチルアミン (NEt3
N-メチルピロリドン (NMP)
テトラヒドロフラン (THF)
【0050】
物性は以下のようにして測定した。
熱硬化物の熱特性
(1)ガラス転移温度 (Tg)の測定
硬化物のサンプル約5 mgをアルミニウムパンに秤取り、窒素雰囲気下、昇温速度10 ℃/minで室温から250 ℃まで昇温しTg測定を行った。得られたDSC曲線から変曲点を読み取り、Tgを求めた。
【0051】
(2)分解温度(Td)の測定
得られた硬化物のサンプル約5 mgをアルミニウムパンに秤取りし、窒素雰囲気下、昇温速度10 ℃/minで室温から600 ℃まで昇温しTG/DTA測定を行った。得られたTGA曲線の重量減少より、Tdを求めた。
【0052】
合成例1
テトラクロロビスフェノールAジアセテート (TCBPAc)の合成:


【0053】
300 mL三口フラスコにテトラクロロビスフェノールA 3.66 g (10 mmol)、THF 100 mL、トリエチルアミン(NEt3)2.22 g (22 mmol)を量り取り、氷冷しながらアセチルクロリド (AC)1.72 g(22 mmol)をゆっくり滴下し、室温で8時間撹拌した。反応終了後、生成した塩をろ別し、エバポレーターを用いて有機層を濃縮し、メタノール300 mLを加えて冷蔵庫で一晩放置し、無色の結晶を得た。その後、得られた結晶をメタノールで洗浄し、酢酸エチルを用いて再結晶を行った。構造確認はIRおよび1H NMRによって行った。
収率:73 %
mp:137.8 ℃ (by DSC)
【0054】



1H NMR(500 MHz, CDCl3, TMS)δ(ppm):
7.18(s, 4.0 H, Ha
2.38(s, 6.0 H, Hb
1.63(s, 6.0 H, Hc
IR(KBr, cm-1):
1776(νC=O),1471(νC=C), 1186(νC-O-C),810(νC-Cl)
【0055】
合成例2
ビスフェノールAジアセテート (BPAc)の合成:


【0056】
300 mL三口フラスコにビスフェノールA (BPA) 2.14 g (10 mmol)、THF 100mL、トリエチルアミン (NEt3)2.63 g (22 mmol)を量り取り、氷冷しながらアセチルクロリド (AC) 1.73 g (22 mmol)をゆっくり滴下し、室温で8時間撹拌した。反応終了後、生成した塩をろ別し、エバポレーターを用いて有機層を濃縮し、メタノール300mLを加えて冷蔵庫で一晩放置し、無色の結晶を得た。その後、得られた結晶をn-ヘキサンで洗浄し、酢酸エチルを用いて再結晶を行った。構造確認はIRおよび1H NMRによって行った。
収率:73 %
mp:93.5 ℃
【0057】




1H NMR(500 MHz, DMSO, TMS)δ(PPM):
3.95(s, 6.0 H, Ha
8.90(d, J=7.5 Hz, 4.0 H, Hb
8.66(d, J=7.5 Hz, 4.0 H, Hc
3.44(s, 6.0 H, Hd
IR(KBr, cm-1):
1776(νC=O),1471(νC=C), 1186(νC-O-C)
【0058】
合成例3
ビスフェノールSジアセテード (BPSAc)の合成:


【0059】
300 mL三口フラスコにビスフェノールS (BPS) 2.50 g (10 mmol)、THF 100mL、トリエチルアミン (NEt3)2.63 g (22 mmol)を量り取り、氷冷しながらアセチルクロリド1.73 g (22 mmol)をゆっくり滴下し、室温で8時間撹拌した。反応終了後、生成した塩をろ別し、エバポレーターを用いて有機層を濃縮し、メタノール300mLを加えて冷蔵庫で一晩放置し、無色の結晶が得られた。その後、得られた結晶をn-ヘキサンで洗浄し、酢酸エチルを用いて再結晶を行った。構造確認はIR及び1H NMRによって行った。
収率:68 %
mp:170.8 ℃ (by DSC)
【0060】



1H NMR(500 MHz, CDCl3, TMS)δ(ppm):
5.97(s, 3.0 H, Ha
10.92(d, J=11.5 Hz, 2.0 H, Hb
11.63(d, J=14.5 Hz, 2.0 H, Hc
IR(KBr, cm-1):
1776(νC=O),1471(νC=C), 1186(νC-O-C), 1321, 1151(νSO2
【0061】
合成例4
{4-[(1-ethyl-3-oxetanyl) methoxy] phenyl}methane (THPMOX)の合成:


【0062】
回転子を入れた100 mL三つ口フラスコにトリヒドロキシフェニルメタン(THPM) 2.92 g (10 mmol)、KOH 3.37g (60 mmol)、TBAB 0.43 g (8.8 mmol)を量り取った後、数分間脱気を行い、乾燥高純度窒素で置換した。さらに窒素置換を2回行った後、シリンジを用いてNMP 30 mLを加え溶解させた。その後、70 ℃で1時間撹拌させた後、激しく撹拌しながら、クロロエチルオキセタン(CEO)8.08 g (60 mmol)を滴下ロートを用いてゆっくり滴下した。その後、90 ℃で7時間撹拌した。反応終了後、反応溶液を100 mL分液ロートに移し、水50 mlで3回、飽和食塩水50 mLで1回洗浄した。有機層を無水硫酸マグシウムで乾燥させ、無水硫酸マグネシウムをろ別し、ろ液にメタノール500 mL加えて冷蔵庫中で一晩放置し、白色固体が析出した。得られた白色個体を酢酸エチルで再結晶を行った。H NMRおよびIRを用いて構造解析を行った。
収率:71 %
融点:134.0 ℃ (by DSC)
【0063】



1H NMR (500 MHz, CDCl3, TMS):δ (ppm)
0.93 (t, J=7.6 Hz, 9.0 H, Ha)
1.87 (q, J=7.8 Hz, 6.0 H, Hb)
4.05 (s, 6.0 H, Hc)
4.51(dd, J=6.2, 18.4 Hz, 12.0 H, Hd)
5.41(s, 1.0 H, He)
6.83 (d, J=8.8 Hz, 6.0 H, Hf)
7.02(d, J=8.8 Hz, 6.0 H, Hg)
IR(KBr, cm-1):
2964, 2936, 2870(νC-H),1606, 1508, 1471(νC=C, aromatic),1289, 1027 (νC-O-C ether), 981 (νC-O-C, cyclic ether)
【0064】
以下、種々の熱硬化型組成物を製造した。
実施例1
フェノールノボラック型オキセタン (PNOX)/ビス ((3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ)ビフェニル (2,2'-BPOX)と種々のフェノール類との熱硬化反応:


【0065】
アンプル管にPNOX 0.4 g(0.4 mmol)、2,2'-BPOX 0.1 g(0.3 mmol)(weight ratio : PNOX/2,2'-BPOX=8/2)をそれぞれ量り取り、オキセタンとフェノール類との官能基比が1:1の割合となるように硬化剤としてビスフェノールA(BPA) 0.286 g(1.3 mmol)を加えた。次に、それぞれのサンプルに熱重合開始剤としてDMAP、TPPBまたはTPPC 10 mol%を加えた。小型恒温槽を用いて190 ℃、24 h、バルク条件下で反応を行った。反応終了後、原料を取り除くために硬化物をTHF中で24 h攪拌洗浄した。さらに、熱重合開始剤を取り除くためにメタノールで5回洗浄した。遠心分離によりゲル生成物を回収した。得られたゲル生成物を60 ℃で24時間減圧乾燥し、ゲル収率及びTg、Tdを求めた。
結果を以下の表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
実施例2
PNOX/2,2'-BPOXとフェノール類と種々の硬化剤との熱硬化反応:
アンプル管にPNOX 0.4 g(0.4 mmol)、2,2'-BPOX 0.1 g(0.3 mmol)(weight ratio : PNOX/2,2'-BPOX=8/2)をそれぞれ量り取り、オキセタンとフェノール類との官能基比が1:1の割合となるように硬化剤としてビスフェノールA(BPA)、ビスフェノールF(BPF)、テトラクロロビスフェノールA(TCBPA)、トリヒドロキシメタン(THPM)またはトリヒドロキシエタン(THPE)を加えた。次に、熱重合開始剤としてTPPB7 mol%をそれぞれのサンプルに加えた。小型恒温槽を用いて200 ℃、24 h、バルク条件下で反応を行った。反応終了後、原料を取り除くために硬化物をTHF中で24 h攪拌洗浄した。さらに、熱重合開始剤を取り除くためにメタノールで5回洗浄した。遠心分離によりゲル生成物を回収した。得られたゲル生成物を60 ℃で24時間減圧乾燥し、ゲル収率及びTg、Tdを求めた。
結果を以下の表2に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
実施例3
トリヒドロキシメタン型オキセタン (THPMOX)/ビス ((3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ)ビフェニル (2,2'-BPOX)と種々のフェノール類との熱硬化反応:


【0070】
アンプル管にTHPMOX 0.4 g(0.7 mmol)、2,2'-BPOX 0.1 g(0.3 mmol)(weight ratio : THPMOX/2,2'-BPOX=8/2)をそれぞれ量り取り、オキセタンとフェノール類との官能基比が1:1の割合となるように硬化剤としてビスフェノールA(BPA)、ビスフェノールF(BPF)、テトラクロロビスフェノールA(TCBPA)、トリヒドロキシメタン(THPM)またはトリヒドロキシエタン(THPE)を加えた。次に、熱重合開始剤としてTPPB7 mol%をそれぞれのサンプルに加えた。小型恒温槽を用いて200 ℃、24 h、バルク条件下で反応を行った。反応終了後、原料を取り除くために硬化物をTHF中で24 h攪拌洗浄した。さらに、熱重合開始剤を取り除くためにメタノールで5回洗浄した。遠心分離によりゲル生成物を回収した。得られたゲル生成物を60 ℃で24時間減圧乾燥し、ゲル収率及びTg、Tdを求めた。
結果を以下の表3に示す。
【0071】
【表3】

【0072】
実施例4
PNOX/2,2'-BPOXと活性ジエステルとの熱硬化反応:


【0073】
アンプル管にPNOX 0.4 g(0.4 mmol)、2,2'-BPOX 0.1 g(0.3 mmol)(weight ratio : PNOX/2,2'-BPOX=8/2)をそれぞれ量り取り、オキセタン化合物と活性ジエステルとの官能基比が1:1の割合となるように硬化剤としてTCBPAc 0.564 g(1.25 mmol)を加えた。次に、それぞれのサンプルに熱重合開始剤としてTBPB、TBPC、TPPI、TPPBあるいはTPPCを10 mol%加えた。小型恒温槽を用いて180 ℃、18 h、バルク条件下で反応を行った。反応終了後、原料を取り除くために硬化物をTHF中で24 h攪拌洗浄した。さらに、熱重合開始剤を取り除くためにメタノールで5回洗浄した。遠心分離によりゲル生成物を回収した。得られたゲル生成物を60 ℃で24時間減圧乾燥し、ゲル収率及びTg、Tdを求めた。
結果を以下の表4に示す。
【0074】
【表4】

【0075】
実施例5
PNOX/2,2'-BPOXと種々のジエステル類との熱硬化反応:


【0076】
アンプル管にPNOX 0.4 g(0.4 mmol)、2,2'-BPOX 0.1 g(0.3 mmol)(weight ratio : PNOX/2,2'-BPOX=8/2)をそれぞれ量り取り、オキセタンとジエステル類との官能基比が1:1の割合となるように硬化剤としてテトラクロロビスフェノールAアセテート(TCBPAc)またはビスフェノールSアセテート(BPSAc)を加えた。次に、熱重合開始剤としてTPPC7 mol%をそれぞれのサンプルに加えた。小型恒温槽を用いて190 ℃、9 hまたは18 h、バルク条件下で反応を行った。反応終了後、原料を取り除くために硬化物をTHF中で24 h攪拌洗浄した。さらに、熱重合開始剤を取り除くためにメタノールで5回洗浄した。遠心分離によりゲル生成物を回収した。得られたゲル生成物を60 ℃で24時間減圧乾燥し、ゲル収率及びTg、Tdを求めた。
結果を以下の表5に示す。
【0077】
【表5】

【0078】
実施例6
フェノールノボラック型オキセタン (PNOX)/ビス((3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ)ビフェニル (2,2'-BPOX)とカルボン酸無水物類との熱硬化反応:


【0079】
アンプル管にPNOX 0.4 g(0.4 mmol)、2,2'-BPOX 0.1 g(0.3 mmol)(weight ratio : PNOX/2,2'-BPOX=8/2)をそれぞれ量り取り、オキセタンとカルボン酸無水物との官能基比が1:1の割合となるように硬化剤としてテトラヒドロフタル酸無水物(THPA) 0.382 g(2.6 mmol)を加えた。次に、それぞれのサンプルに熱重合開始剤としてDMAP、TBAB, TBPB、TPPBまたはTPPC 5 mol%を加えた。小型恒温槽を用いて150 ℃、6 h、バルク条件下で反応を行った。反応終了後、原料を取り除くために硬化物をTHF中で24 h攪拌洗浄した。さらに、熱重合開始剤を取り除くためにメタノールで5回洗浄した。遠心分離によりゲル生成物を回収した。得られたゲル生成物を60 ℃で24時間減圧乾燥し、ゲル収率及びTg、Tdを求めた。
結果を以下の表6に示す。
【0080】
【表6】

【0081】
実施例7
PNOX/2,2'-BPOXとカルボン酸無水物類との熱硬化反応(Ox/An=1/0.5):


【0082】
アンプル管にPNOX 0.4 g(0.4 mmol)、2,2'-BPOX 0.1 g(0.3 mmol)(weight ratio : PNOX/2,2'-BPOX=8/2)をそれぞれ量り取り、オキセタンとカルボン酸無水物との官能基比が1:0.5の割合となるように(芳香環を含むカルボン酸無水物類〔DPA及びBTDA〕はオキセタン化合物との相溶性が悪いため)硬化剤としてテトラヒドロ無水フタル酸(THPA)、コハク酸無水物(SA)、ヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA)、ジフェン酸無水物(DPA)またはベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)を加えた。次に、熱重合開始剤としてTPPB3 mol%をそれぞれのサンプルに加えた。小型恒温槽を用いて150 ℃、6 h、バルク条件下で反応を行った。反応終了後、原料を取り除くために硬化物をTHF中で24 h攪拌洗浄した。さらに、熱重合開始剤を取り除くためにメタノールで5回洗浄した。遠心分離によりゲル生成物を回収した。得られたゲル生成物を60 ℃で24時間減圧乾燥し、ゲル収率及びTg、Tdを求めた。
結果を以下の表7に示す。
【0083】
【表7】

【0084】
実施例8
THPMOX/2,2'-BPOXとカルボン酸無水物類との熱硬化反応:

【0085】
アンプル管にTHPMOX 0.4 g(0.7 mmol)、2,2'-BPOX 0.1 g(0.3 mmol)(weight ratio : PNOX/2,2'-BPOX=8/2)をそれぞれ量り取り、オキセタンとカルボン酸無水物との官能基比が1:0.5の割合となるように(芳香環を含むカルボン酸無水物類〔DPA及びBTDA〕はオキセタン化合物との相溶性が悪いため)硬化剤としてテトラヒドロ無水フタル酸(THPA)、コハク酸無水物(SA)、ヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA)、ジフェン酸無水物(DPA)またはベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)を加えた。次に、熱重合開始剤としてTPPB3 mol%をそれぞれのサンプルに加えた。小型恒温槽を用いて150 ℃、6 h、バルク条件下で反応を行った。反応終了後、原料を取り除くために硬化物をTHF中で24 h攪拌洗浄した。さらに、熱重合開始剤を取り除くためにメタノールで5回洗浄した。遠心分離によりゲル生成物を回収した。得られたゲル生成物を60 ℃で24時間減圧乾燥し、ゲル収率及びTg、Tdを求めた。
結果を以下の表8に示す。
【0086】
【表8】

【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の熱硬化型組成物は、塗料、接着剤、複合材料および電気絶縁材料として使用できる。また、熱硬化型組成物から得られた硬化物は、優れた特性、例えば、強度などの機械的特性、例えば、高いガラス転移点、耐熱性などの熱的特性、例えば、透明性などの光学的特性、例えば、絶縁性などの電気的特性などを有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)一般式(I)


[式中、Rは、水素原子、又は、C−Cのアルキル基を示す。]、又は、
一般式(II)


[式中、Rは、水素原子、又は、C−Cのアルキル基を示す。]
で表されるフェノールノボラック型オキセタン化合物
(B)一般式(III)


[式中、Rは、水素原子、又は、C−Cのアルキル基を示す。]
で表されるビスオキセタンビフェニル化合物、
(C)フェノール化合物、活性エステル化合物、及び、カルボン酸無水物からなる群から選択された少なくとも1種の硬化剤、及び、
(D)熱重合開始剤
からなる、熱硬化型組成物。
【請求項2】
硬化剤がフェノール化合物である、請求項1記載の熱硬化型組成物。
【請求項3】
フェノール化合物が、一般式(IV)


[式中、Rは、水素原子、又は、ハロゲン原子を示し、R5は、ハロゲン原子で置換されていても良いC−Cアルキル基を示す。]、又は、一般式(V)


[式中、Rは、水素原子、又は、C−Cアルキル基を示す。]
で表されるフェノール化合物である請求項2記載の熱硬化型組成物。
【請求項4】
硬化剤が活性エステル化合物である、請求項1記載の熱硬化型組成物。
【請求項5】
活性エステル化合物が、一般式(VI)


[式中、Rは、水素原子、又は、C1−C4アルキル基を示し、Rは、水素原子、又は、ハロゲン原子を示し、Zは、−C(CH−、又は、−SO−を示す。]
で表される活性エステル化合物である請求項4記載の熱硬化型組成物。
【請求項6】
硬化剤がカルボン酸無水物である、請求項1記載の熱硬化型組成物。
【請求項7】
カルボン酸無水物が、一般式(VII)


[式中、Rは、水素原子、又は、C−Cアルキル基を示し、また、互いと一緒になって環を形成しても良い。]
で表されるカルボン酸無水物であるか、


から選択されるカルボン酸無水物である、請求項6記載の熱硬化型組成物。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の熱硬化型組成物を加熱し硬化させて得られた熱硬化重合物。