説明

フェノール樹脂成形材料

【構成】 フェノール核に結合するメチレン結合において、オルソ結合対パラ結合の比が1.2であるノボラック型フェノール樹脂と、この比が0.8であるノボラック型フェノール樹脂をフェノール樹脂成分とし、有機質充填材として木粉70%と熱硬化性樹脂硬化物の粉末20%とを、無機質充填材として炭酸カルシウム10%を含有し、更にトルエンやプロパノールなどの沸点が80℃〜150℃である物質を含有するフェノール樹脂成形材料。
【効果】 速硬化性に優れ、射出シリンダー内での熱安定性及び成形金型内への充填性に優れているので、成形サイクルを短縮することができ、連続成形も可能となる。更に、良好な曲げ強さを保持しながら、摩耗特性の優れた成形品を得ることができる。電気特性、寸法精度も良好である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、成形材料の熱安定性及び充填性が良好であり、かつ速硬化性に優れ、得られた成形品のドリル加工等における摩耗特性及び機械的強度の向上したフェノール樹脂成形材料に関する。
【0002】
【従来の技術】一般にフェノール樹脂成形材料の多くは、樹脂成分としてノボラック型フェノール樹脂を用い、硬化剤としてヘキサメチレンテトラミン(ヘキサミン)を添加することにより、硬化反応をせしめるものである。このようなノボラック型フェノール樹脂を用いたフェノール樹脂成形材料は、射出成形において、硬化性は比較的良好であるものの、成形時射出シリンダー内の熱安定性が不十分で、成形金型内への充填性も良好であるとはいえず、従って、連続成形性の点で改良が求められていた。一方、硬化性については、フェノールに対するメチレン結合において、オルソ結合の割合の多いハイオルソノボラック型フェノール樹脂を使用することにより改良することが検討され、実用化もされているが、射出成形時の熱安定性などが不十分であり、更に改良が望まれていた。
【0003】更に、充填材についてみると、有機質充填材は、主として木粉が使用され、その他、パルプ、有機繊維、布細片、熱可塑性樹脂粉末などが用途に応じて使用されている。有機質充填材の中で木粉など通常のものでは、機械的強度や電気特性(特に煮沸後の特性)において十分とはいえず、熱可塑性樹脂粉末や熱硬化性樹脂硬化物の粉末あるいは無機質充填材を配合することにより上記特性の改良がある程度達成されている。しかしながら、熱可塑性樹脂粉末では一般的には耐熱性が低下するので、その配合に限界がある。更に、熱硬化性樹脂硬化物の粉末あるいはこれに木粉などを併用して成形収縮や電気特性を改良することも試みられている(特開昭57−78444号公報、特開昭59−105049号公報など)が、熱硬化性樹脂硬化物の粉末では多量に使用すると、成形品が硬く脆くなり、他の特性も余り向上しない。
【0004】一方、無機質充填材においては、炭酸カルシウム、クレー、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、ガラスなどの粉末、ガラス繊維などが使用されている。無機質充填材はシリカ、アルミナ、ガラスなどの硬質のもの、炭酸カルシウム、クレーなど比較的軟質のものがあり、用途や要求特性に応じて選択使用されているが、一般的には、機械的強度、電気特性等において優れた性能を発揮する。無機質充填材は有機質充填材に比較すれば硬く、ドリル加工や摺動時において、相手材(ドリルや金属材料)を摩耗させることが問題となっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、ノボラック型フェノール樹脂を用いたフェノール樹脂成形材料における上記のような欠点を改良することを目的として種々検討した結果、射出成形時の熱安定性及び充填性に優れ、速硬化性であり、機械的強度が優れ、摩耗特性、即ち成形品自体の摩耗が小さく、相手材を摩耗させない成形材料を開発するに至ったものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、フェノール樹脂、及び充填材として有機質充填材と無機質充填材とを含有するフェノール樹脂成形材料であって、フェノール樹脂は、フェノール核に結合するメチレン結合のオルソ結合対パラ結合比が1.0〜2.5であるノボラック型フェノール樹脂を主成分とし、有機質充填材の一部が熱硬化性樹脂硬化物の粉末であり、更に沸点が80℃〜150℃である物質を含有することを特徴とするフェノール樹脂成形材料を要旨とするものである。本発明のフェノール樹脂成形材料において、主成分として用いるノボラック型フェノール樹脂は、フェノール核に結合するメチレン結合において、オルソ結合対パラ結合の比が1.0〜2.5である。このノボラック型フェノール樹脂は成形材料に速硬化性を付与するものである。従って、このオルソ結合対パラ結合比が1.0より小さいと速硬化性を十分に付与することができず、2.5より大きくすることは反応上困難である。好ましい範囲は1.0〜1.8であり、速硬化性のみならず、得られた成形品の機械的電気的特性を向上させる。
【0007】かかるフェノール樹脂の分子量は一般的には、数平均分子量で600〜900である。600より小さいと、樹脂の融点が低く、取扱いが不便であり、硬化性も低下する。一方900より大きいと、樹脂の製造安定性が不十分である。なお、上記のような、いわゆるハイオルソノボラック型フェノール樹脂は公知の方法により得ることができる。フェノール樹脂として、上記のハイオルソノボラック型フェノール樹脂とともに通常のノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂(メチロール型、ジメチレンエーテル型)を併用することができる。この配合割合は、成形材料の要求特性にもよるが、一般的にはフェノール樹脂全体の50重量%以下、好ましくは、10〜40重量%である。かかる樹脂の配合により、機械的強度の向上、電気特性の向上、低コスト化などを図ることも可能である。
【0008】次に充填材について説明する。本発明の特徴のひとつは、有機質充填材と無機質充填材とを併用し、有機質充填材の一部として熱硬化性樹脂硬化物の粉末を使用することである。熱硬化性樹脂硬化物の粉末としては樹脂単独の硬化物粉末は勿論、熱硬化性樹脂成形材料の硬化物、熱硬化性樹脂積層板あるいは化粧板を粉砕したものも含まれる。熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などであるが、フェノール樹脂、メラミン樹脂及びエポキシ樹脂が一般的である。
【0009】木粉など通常の有機質充填材の使用のみでは成形品の硬度が十分でなく、寸法精度が良くなく、強度、摩耗の点で満足なものが得られにくい。そこで、有機質充填材の一部として熱硬化性樹脂硬化物の粉末を一定量配合することによりこれらの欠点を大幅に改良することができる。熱硬化性樹脂硬化物の粉末は他の有機質充填材に比較して硬いが、鉄、アルミニウムなどの金属よりは軟質であるので、ドリル加工や摺動時に相手材であるドリルや金属を摩耗させることがない。熱硬化性樹脂硬化物の粉末の配合割合は、有機質充填材中10〜40重量%である。10重量%未満ではその配合の効果が小さく、40重量%を越えると成形品が硬く脆くなり好ましくない。
【0010】有機質充填材は、熱硬化性樹脂硬化物の粉末とともに、木粉の他、パルプ、有機繊維、布細片、熱可塑性樹脂粉末などを用途に応じて使用する。次に、上記のような有機質充填材とともに無機質充填材を併用する。無機質充填材を併用することにより強度、寸法精度、電気特性などが向上する。無機質充填材としては、炭酸カルシウム、タルク、クレー、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、ガラスなどを使用することができるが、その種類及び使用量によっては、成形品が硬くなり、ドリル加工や摺動時に相手材であるドリルや金属を摩耗させることがある。このため、本発明においては、特に摩耗特性を重視する観点から、軟質の炭酸カルシウム、タルク、クレーが好ましく、その配合量も充填材全体に対して20〜40重量%が好ましい。
【0011】本発明のフェノール樹脂成形材料は、シリンダー内の熱安定性を向上させ、成形金型内への充填性も良好にし、成形品特性を安定向上させるために、沸点が80℃〜150℃である物質を含有せしめる。このような物質としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、水、プロパノール、エチレングリコール等の各種液状物質が挙げられる。特に、メチルエチルケトン、トルエン、水、プロパノールが好ましい。
【0012】上記のような物質は射出シリンダー内で熔融した成形材料の温度をその物質の沸点以下に抑える作用をするとともに、成形材料のフローを大きくし、かつ溶融トルクを高くする。従って、成形材料の射出シリンダー内での熱安定性が向上し、成形金型への充填性が向上する。この物質の配合量は、成形材料全体中0.5〜4重量%が適当である。0.5重量%未満では上記の効果が十分に現れず、4重量%を越えてもこれ以上は効果の向上は期待されず、逆に得られた成形品の収縮率が大きくなるなどの問題が生じてくる。特に好ましい配合量は0.5〜2.5重量%である。成形材料化の方法は、樹脂、充填材、添加剤等のブレンド物をロール、コニーダ、押出し機等を利用して、加熱溶融混練した後、ペレット化あるいは冷却粉砕して材料化する方法が一般的である。上記のようにして得られたフェノール樹脂成形材料は、射出成形など通常の成形方法で成形される。
【0013】
【作用】本発明のフェノール樹脂成形材料は、フェノール樹脂の主成分としてハイオルソノボラック型フェノール樹脂を用いることにより、成形時の速硬化性を達成し、更に、沸点が80℃〜150℃である物質を含有することにより射出シリンダー内で熱安定性の向上と成形金型内への充填性の向上とを達成する。これにより、フェノール樹脂成形材料の射出成形において、成形サイクルを短縮すると同時に、連続成形を可能とするものであり、得られた成形品の特性を安定向上させる。更に、充填材として、有機質充填材と無機質充填材を併用し、有機質充填材の一部として熱硬化性樹脂硬化物の粉末を使用しているので、機械的強度及び摩耗特性を向上させる。無機質充填材として、軟質の炭酸カルシウム、タルク、クレーを使用すれば摩耗特性がより向上する。
【0014】
【実施例】次に本発明を実施例及び比較例に基づいて説明する。ここで、「部」は「重量部」を示す。表1に示す材料及び配合にて、加熱ロールにより混練してフェノール樹脂成形材料を得た。比較例1はフェノール樹脂としてランダムノボラックを使用し、木粉を充填材とし、更にトルエンを配合したものである。比較例2は、フェノール樹脂として前記ランダムノボラックを使用し、充填材として木粉と炭酸カルシウムを使用した場合である。比較例1及び2は、実施例と同様に硬化促進剤である酸化マグネシウムを除いたものである。比較例3はハイオルソノボラックを主成分として使用し、充填材として木粉及び炭酸カルシウムとともに通常どおり酸化マグネシウムを配合した場合である。比較例2、3ともに沸点80〜150℃の物質を配合していない。各実施例及び比較例で得られた成形材料について、硬化性(フクレの出ない最小硬化時間)、熱安定性(シリンダー内熱安定性)、成形性(充填性)、耐摩耗性(ドリル摩耗指数)及び曲げ強さを測定した。得られた結果を表2に示す。
【0015】
【表1】


【0016】
【表2】


なお、衝撃強さ及び絶縁抵抗を測定したが、差はみられなかった
【0017】[測定方法]
(1) フクレの出ない最小硬化時間:金型温度を180℃とし、射出成形により60φ×4mm厚の試験片を成形し、硬化時間を20秒から1秒ずつ短縮する。フクレの発生した硬化時間の1秒前の硬化時間をフクレの出ない最小硬化時間とする。フクレはマイクロメータで成形品の厚みを測定し、0.05mm を越えたときをフクレとした。
(2) シリンダー内熱安定性:シリンダー内温度を85℃とし、射出成形により170gの評価用成形品を成形するときに、シリンダー内に成形材料を計量後から射出開始するまでの時間をシリンダー内滞留時間とし、これを30秒、60秒、90秒と順次長くして、射出可能なシリンダー内滞留時間をシリンダー内熱安定性とした。
【0018】(3) 充填性:100×5×2mmの評価用金型を180℃とし、長さ(100mm)方向から射出成形(射出圧力 1250kgf/cm2)し、充填性の良否を判定した。
(4) 曲げ強さ、シャルピー衝撃強さ、絶縁抵抗:JIS K 6911に準じて測定した(5) ドリル摩耗指数:ドリル刃回転数を 500rpm 、ドリル刃下降速度を1mm/分とし、2mm厚のアルミニウム板の穴あけ時におけるドリル刃の応力波形(A)を測定し、このドリル刃を用いて同じ条件で3mm厚の実施例で得られた成形材料からの試験片に10回穴をあける。再び2mm厚のアルミニウム板に穴をあけ、この時のドリル刃の応力波形(B)を測定する。ドリル摩耗指数は、ドリル刃の応力波形(A)と(B)の比(A/B)で求めた。
【0019】実施例1〜3で得られた成形材料については、速硬化姓であり、熱安定性及び成形性が良好であり、高い曲げ強度を保持しながら、非常に優れた摩耗特性を有する成形品が得られる。比較例1及び2は、フェノール樹脂がランダムノボラックのみであるので、硬化が遅く、曲げ強さが劣っている。比較例3は、ハイオルソノボラックを使用しているので比較的速硬化姓であるが、熱安定性及び成形性が劣り、酸化マグネシウムを加えているので、曲げ強さは良好であるが、摩耗特性が低下している。
【0020】
【発明の効果】以上の実施例からも明らかなように、本発明のフェノール樹脂成形材料は、速硬化性に優れ、射出シリンダー内での熱安定性及び成形金型内への充填性に優れているので、成形サイクルを短縮することができ、連続成形も可能となる。更に、良好な機械的強度を保持しながら、摩耗特性の優れた成形品を得ることができるので、ドリル加工性が良好であり、摺動時における摩耗特性、成形時の金型摩耗などにおいても優れた性能を発揮する。更に、電気特性、寸法精度も従来の成形材料と同等以上である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 フェノール樹脂、及び充填材として有機質充填材と無機質充填材とを含有するフェノール樹脂成形材料であって、フェノール樹脂は、フェノール核に結合するメチレン結合におけるオルソ結合対パラ結合比が1.0〜2.5であるノボラック型フェノール樹脂を主成分とし、有機質充填材の一部が熱硬化性樹脂硬化物の粉末であり、更に沸点が80℃〜150℃である物質を含有することを特徴とするフェノール樹脂成形材料。
【請求項2】 フェノール樹脂が、フェノール核に結合するメチレン結合において、オルソ結合対パラ結合の比が1.0〜2.5であるノボラック型フェノール樹脂とオルソ結合対パラ結合の比が 1.0未満であるノボラック型フェノール樹脂を成分とするフェノール樹脂であることを特徴とする請求項1記載のフェノール樹脂成形材料。
【請求項3】 無機質充填材が炭酸カルシウム、タルク又はクレーであることを特徴とする請求項1記載のフェノール樹脂成形材料。
【請求項4】 有機質充填材と無機質充填材との割合が、60〜80重量%対40〜20重量%であり、有機質充填材中の熱硬化性樹脂硬化物の粉末の割合が10〜40重量%であることを特徴とする請求項1記載のフェノール樹脂成形材料。