フェノール樹脂粒子の製造方法及びフェノール樹脂粒子
【課題】粒子径のばらつきが小さく、しかも表面が平滑でより真球に近い形態のフェノール樹脂粒子を製造する。
【解決手段】フェノール類とアルデヒド類とを溶液中で分散剤及び核物質の存在下にて縮合反応させることによって、核物質の回りにフェノール類とアルデヒド類の縮合物が付着して形成されるフェノール樹脂粒子を製造する。この際に、核物質として、フェノール類の溶液に対して溶解性あるいは膨潤性を有する樹脂を用いる。
【解決手段】フェノール類とアルデヒド類とを溶液中で分散剤及び核物質の存在下にて縮合反応させることによって、核物質の回りにフェノール類とアルデヒド類の縮合物が付着して形成されるフェノール樹脂粒子を製造する。この際に、核物質として、フェノール類の溶液に対して溶解性あるいは膨潤性を有する樹脂を用いる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状のフェノール樹脂粒子及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
常温で固形のフェノール樹脂粒子は従来より一般に次のようにして製造されている。すなわち、フェノール類とアルデヒド類に酸やアルカリ等の触媒を添加して、反応釜中で付加縮合反応させ、白濁化させた後に常圧下あるいは減圧下で脱水を行ない、所定の軟化点まで脱水濃縮を継続して透明樹脂を得る。そしてこの樹脂を冷却して粉砕あるいは造粒することによって、フェノール樹脂の粉粒体を得ることができるものである。しかしこの方法では、濃縮脱水、冷却、粉砕あるいは造粒という各種の工程を必要とし、製造工数が増加すると共に多量のエネルギーを必要とする問題があった。またフェノール樹脂粒子は粉砕や造粒によって粉粒状に形成されるため、球状のフェノール樹脂粒子を得ることができないものであり、さらに粒子径が数μmから数mmと大きくばらつくものであった。
【0003】
そこでこのような各種の工程を必要とすることなく球状のフェノール樹脂粒子を製造する方法が、本出願人によって特許文献1等で提案されている。
【0004】
すなわち特許文献1では、フェノール類とアルデヒド類とを分散剤及び核物質の存在下で付加縮合反応させることによって、核物質の回りにフェノール樹脂の縮合物が凝集された粉粒体を生成させ、これを脱水乾燥することによって、フェノール樹脂粒子を製造するようにしている。
【0005】
この特許文献1の方法によれば、濃縮脱水、冷却、粉砕あるいは造粒というエネルギーを多量に要する工程を必要とすることなく、フェノール樹脂粒子を得ることができるものである。そしてフェノール樹脂粒子は、核物質の回りにフェノール樹脂の縮合物が付着することによって形成されるため、核物質がフェノール樹脂縮合物で包み込まれて、球形の粉粒体として得ることができるものであり、また粉砕や造粒する場合に比べて粒子径のばらつきを抑えることができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2549365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1において、核物質としては、反応に使用するモノマーや反応に使用するポリマーに溶解されず反応の前後を通じて常に固形の形態を保持するものが使用されるものであり(特許文献1の第2頁右欄第19行〜第23行)、このような核物質として雲母、珪砂、アルミナ粉、炭化ケイ素粉、ガラス粉、樹脂粉などが挙げられている(特許文献1の第2頁左欄第7行〜第10行)。
【0008】
そして上記のように、核物質の回りにフェノール類とアルデヒド類の付加縮合物であるフェノール樹脂縮合物が付着して、核物質がフェノール樹脂縮合物で包み込まれることによって、球形のフェノール樹脂粒子を得ることができるものであるが、フェノール樹脂粒子の表面に凹凸があり、表面の平滑性に欠けて真球に近いものを得ることが難しいものであった(後述の比較例の顕微鏡写真参照)。また引用文献1の発明では、核物質として雲母等の無機物が主として使用されており、フェノール樹脂粒子中にこのような無機物が含まれることになると、用途によっては無機物が不純物になって使用が制限されることになるという問題もある。
【0009】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、粒子径のばらつきが小さく、しかも表面が平滑でより真球に近い形態でフェノール樹脂粒子を製造できるフェノール樹脂粒子の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るフェノール樹脂粒子の製造方法は、フェノール類とアルデヒド類とを溶液中で分散剤及び核物質の存在下にて縮合反応させることによって、核物質の回りにフェノール類とアルデヒド類の縮合物が付着して形成されるフェノール樹脂粒子を製造するにあたって、核物質として、フェノール類の溶液に対して溶解性あるいは膨潤性を有する樹脂を用いることを特徴とするものである。
【0011】
核物質として、このようにフェノール類の溶液に対して溶解性あるいは膨潤性を有する樹脂を用いることによって、表面が平滑でより真球に近い形態でフェノール樹脂粒子を得ることができるものである(後述の実施例の顕微鏡写真参照)。その理由はあきらかではないが、フェノール類とアルデヒド類の付加縮合により核物質の回りにフェノール樹脂縮合物が付着する際に、核物質を構成する樹脂の高分子の一部がフェノール類の反応溶液に溶け出したり、フェノール類の反応溶液が核物質を構成する樹脂の高分子中に浸透したりして、核物質を構成する樹脂ポリマーの網状分子構造と、核物質の回りに形成されるフェノール樹脂縮合物の網状分子構造とが互いに絡み合う相互貫入高分子網目(IPN)を形成し、また核物質を構成する樹脂ポリマーとフェノール類モノマーが反応したりして、核物質の回りにフェノール樹脂縮合物が緻密な層として付着し、この結果、核物質の回りに凝集付着するフェノール樹脂縮合物の層で形成される表面が平滑になり、全体としてより真球に近い形態にフェノール樹脂粒子を製造することができると考えられる。
【0012】
また本発明は、核物質として熱硬化性樹脂を用いることを特徴とするものである。
【0013】
核物質が熱硬化性樹脂であることによって、核物質とその回りに付着するフェノール樹脂縮合物との馴染みが良好であり、より表面平滑で真球に近い形態にフェノール樹脂粒子を製造することができるものである。
【0014】
また本発明は、この熱硬化性樹脂がフェノール樹脂であることを特徴とするものである。
【0015】
核物質がフェノール樹脂であることによって、核物質とその回りに付着するフェノール樹脂縮合物との馴染みが良好であり、より表面平滑で真球に近い形態にフェノール樹脂粒子を製造することができるものである。
【0016】
また本発明は、フェノール樹脂がレゾール型フェノール樹脂であること、フェノール樹脂がノボラック型フェノール樹脂であること、フェノール樹脂がレゾール型フェノール樹脂とノボラック樹脂の混合フェノール樹脂であることを特徴とするものである。
【0017】
核物質がこれらのフェノール樹脂であることによって、核物質とその回りに付着するフェノール樹脂縮合物との馴染みが良好であり、より表面平滑で真球に近い形態にフェノール樹脂粒子を製造することができるものである。
【0018】
また本発明において、上記の核物質は常温(25℃)で固体であることを特徴とするものである。
【0019】
核物質が固体であることによって、この核物質の回りにフェノール樹脂縮合物を付着させて、球形のフェノール樹脂粒子を製造することができるものである。
【0020】
また本発明は、核物質として、フェノール類の溶液に対して溶解性あるいは膨潤性を有する樹脂と、フェノール類の溶液に不溶性・不膨潤性の樹脂とを併用することを特徴とするものである。
【0021】
この発明によれば、核物質として使用できる樹脂材料の選択枝を広げることができるものである。
【0022】
また本発明は、フェノール類とアルデヒド類とを分散剤及び核物質の存在下で縮合反応させることによって、核物質の回りにフェノール類とアルデヒド類の縮合物が付着して形成されるフェノール樹脂粒子を製造するにあたって、フェノール樹脂縮合物が熱硬化性を有する状態で縮合反応を停止させることを特徴とするものである。
【0023】
この発明によれば、成形材料などに使用できる未硬化状態のフェノール樹脂粒子を製造することができるものである。
【0024】
また本発明は、フェノール類とアルデヒド類とを分散剤及び核物質の存在下で縮合反応させることによって、核物質の回りにフェノール類とアルデヒド類の縮合物が付着して形成されるフェノール樹脂粒子を製造するにあたって、フェノール樹脂縮合物が不溶不融状態になるまで縮合反応を持続させることを特徴とするものである。
【0025】
この発明によれば、フィラー等に使用できる完全硬化状態のフェノール樹脂粒子を製造することができるものである。
【0026】
また本発明は、フェノール類とアルデヒド類の縮合反応の最初から、反応系に上記分散剤を存在させて、この縮合反応をさせることを特徴とするものである。
【0027】
このように最初から分散剤の存在する条件下でフェノール類とアルデヒド類の縮合反応を行わせることによって、粒径が小さめのフェノール樹脂粒子を製造することができるものである。
【0028】
また本発明は、フェノール類とアルデヒド類の縮合反応の途中から、上記分散剤を存在させて、この縮合反応をさせることを特徴とするものである。
【0029】
このようにフェノール類とアルデヒド類の縮合反応の途中から、分散剤を存在させて縮合反応を進めることによって、粒径が大きめのフェノール樹脂粒子を製造することができるものである。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、フェノール類とアルデヒド類とを分散剤及び核物質の存在下で縮合反応させることによって、核物質の回りにフェノール類とアルデヒド類の縮合物が付着して形成されるフェノール樹脂粒子を製造するようにしたので、濃縮脱水、冷却、粉砕あるいは造粒というエネルギーを多量に要する工程を必要とすることなく、フェノール樹脂粒子を製造することができるものであり、またフェノール樹脂粒子は核物質がフェノール樹脂縮合物で包み込まれて形成されるため、球形の粉粒体として得ることができると共に、粒子径のばらつきを小さく抑えることができるものである。
【0031】
しかも核物質として、フェノール類の溶液に対して溶解性あるいは膨潤性を有する樹脂を用いるようにしたので、表面が平滑で全体としてより真球に近い形態にフェノール樹脂粒子を製造することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施例2で得たフェノール樹脂粒子の顕微鏡写真である。
【図2】実施例4で得たフェノール樹脂粒子の顕微鏡写真である。
【図3】実施例9で得たフェノール樹脂粒子の顕微鏡写真である。
【図4】比較例3で得たフェノール樹脂粒子の顕微鏡写真である。
【図5】比較例4で得たフェノール樹脂粒子の顕微鏡写真である。
【図6】比較例5で得たフェノール樹脂粒子の顕微鏡写真である。
【図7】比較例6で得たフェノール樹脂粒子の顕微鏡写真である。
【図8】比較例7で得たフェノール樹脂粒子の顕微鏡写真である。
【図9】比較例8で得たフェノール樹脂粒子の顕微鏡写真である。
【図10】比較例9で得たフェノール樹脂粒子の顕微鏡写真である。
【図11】比較例10で得たフェノール樹脂粒子の顕微鏡写真である。
【図12】比較例11で得たフェノール樹脂粒子の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0034】
本発明においてフェノール類としては、フェノールの他にフェノールの誘導体を用いることができる。フェノール誘導体としては、例えばm−クレゾール、レゾルシノール、3,5−キシレノールなど3官能性のもの、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ジヒドロキシジフェニルメタンなどの4官能性のもの、o−クレゾール、p−クレゾール、p−ter−ブチルフェノール、p−フェニルフェノール、p−クミルフェノール、p−ノニルフェノール、2,4−又は2,6−キシレノールなどの2官能性のo−又はp−置換のフェノール類などを挙げることができ、さらに塩素又は臭素で置換されたハロゲン化フェノールなどを用いることもできる。フェノール類としてはこれらから1種を選択して用いる他、複数種のものを混合して用いることもできる。
【0035】
また本発明においてアルデヒド類としては、ホルムアルデヒドの水溶液の形態であるホルマリンが最適であるが、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、トリオキサン、テトラオキサンのような形態のものを用いることもできる。
【0036】
フェノール類とアルデヒド類との反応にあたって用いる触媒としては、フェノール類とアルデヒド類を反応させ、ベンゼン核とベンゼン核の間に−NCH2結合を生成するような塩基性触媒、例えばヘキサメチレンテトラミン、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン等の第1級や第2級のアミン類などを用いることができる。また、ナトリウム、カリウム、リチウムなどアルカリ金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、あるいはカルシウム、マグネシウム、バリウムなどアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、あるいは第3級アミン化合物などを挙げることもできる。これらの具体例を挙げると、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、1,8−ジアザビシクロ〔5,4,0〕ウンデセン−7などがある。
【0037】
また酸触媒を用いることもでき、例えば塩酸、硫酸、リン酸などの無機酸、キシレンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸などの有機スルホン酸、シュウ酸、マレイン酸、無水マレイン酸などのカルボン酸を挙げることができる。
【0038】
そして上記のフェノール類とアルデヒド類、反応触媒、核物質を反応容器にとり、フェノール類とアルデヒド類を付加縮合反応させるものであるが、このときさらに分散剤を反応容器に投入し、また必要に応じてカップリング剤などの添加剤を反応容器に投入し、これらの存在下でフェノール類とアルデヒド類の反応を行なわせるものである。
【0039】
ここで、フェノール類に対するアルデヒド類の配合量は、フェノール類1モルに対してアルデヒド類0.8〜3.0モルの範囲が好ましい。また反応触媒の配合量は、反応触媒の種類によって大きく異なるが、フェノール類に対して0.05〜10質量%の範囲が好ましい。
【0040】
また上記のように反応系に添加する分散剤は、一種の乳化剤としても作用するものであり、例えばアラビアゴム、ポリビニルアルコール、ニカワ、グアーゴム、ガッテガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、可溶化でんぷん、寒天、アルギン酸ソーダなどを挙げることができる。これらのうちから一種単独で、あるいは複数種を併用して使用することができるが、これらの中でも、アラビアゴムやポリビニルアルコールを好ましく用いることができる。分散剤の添加量は、分散剤が有する乳化効果によって大きく異なり、特に限定されるものではないが、フェノール類に対して0.1〜10.0質量%の範囲が好ましく、特に0.5〜7.0質量%の範囲が好ましい。
【0041】
そして上記の反応は、フェノール類とアルデヒド類を溶解した液中、例えば水中で行なわれるものであり、反応系を攪拌するに足る量の溶液中に分散剤と核物質を添加して、これらの分散剤と核物質の存在下、反応系を撹拌しながら、フェノール類とアルデヒド類とを付加縮合反応させるようにしたものである。
【0042】
ここで、反応系を攪拌するに足る量の液とは、反応系の溶液が大きな抵抗なく流動しながら撹拌される量であればよく、特に限定されるものではないが、反応系の溶液中に含まれる固形分が10〜50質量%の範囲になるように、反応系の液の量を設定するのが望ましい。
【0043】
また攪拌とは、反応系の溶液に強制的な流動を生じさせて系中で混合が発生するようにすることを意味するものであり、例えば一方向あるいは往復の両方向に回転する二枚羽根、三枚羽根、スクリューなどを用いて反応系の溶液を攪拌することができる。
【0044】
反応の初期では、反応系の溶液は透明に近いが、反応の進行とともに乳白濁になり、付加縮合反応で生成されるフェノール類とアルデヒド類の付加縮合物が反応系の溶液中に析出される。そしてこのフェノール類とアルデヒド類の付加縮合物は分散剤の作用で反応溶液中に分散され、さらに核物質の表面に析出して、核物質を中心にして凝集されることになり、核物質の表面にフェノール類とアルデヒド類の付加縮合物であるフェノール樹脂縮合物が付着して、核物質の表面がフェノール樹脂縮合物で被覆された粒子が生成される。
【0045】
上記のように付加縮合反応を所望の程度に進めた後に反応系の液を冷却し、攪拌を停止すると、核物質の表面がフェノール樹脂縮合物で被覆された粒子は反応系の溶液中から分離してくる。この粒子は含水粒状物となっているので、傾斜法で反応系の溶液を分離した後に濾過するなどして反応系から取り出し、必要に応じて水洗した後、乾燥することによって、球状粒子としてフェノール樹脂粒子を得ることができるものである。
【0046】
本発明は、このようにフェノール類とアルデヒド類とを溶液中で分散剤及び核物質の存在下にて縮合反応させることによって、フェノール樹脂粒子を製造するにあたって、核物質として、フェノール類の溶液に対して溶解性あるいは膨潤性を有する樹脂を使用するものである。すなわち、反応系に使用する液と、縮合反応に使用するフェノール類とを用い、このフェノール類を溶解した溶液に対して溶解性あるいは膨潤性を有する樹脂を核物質として使用するものである。例えばフェノール類としてフェノールを、反応系の液として水を用いる場合、フェノール水溶液に対して溶解性あるいは膨潤性を有する樹脂を核物質として使用するものである。
【0047】
このように核物質として、フェノール類の溶液に対して溶解性あるいは膨潤性を有する樹脂を使用すると、表面が平滑で全体としてより真球に近い形態にフェノール樹脂粒子を製造することができるものである。既述の特許文献1の方法では、核物質として、反応に使用するモノマーや反応に使用するポリマーに溶解されず反応の前後を通じて常に固形の形態を保持するものを使用しているため、フェノール樹脂粒子の外周表面に凹凸が生じ、完全な真球に近いものを製造することが難しい。これに対して、核物質としてフェノール類の溶液に対して溶解性あるいは膨潤性を有する樹脂を使用することによって、表面が平滑でより真球に近い形態のフェノール樹脂粒子を製造することができる理由は明確ではないが、次のように考えられる。
【0048】
すなわち、フェノール類とアルデヒド類の付加縮合により核物質の回りにフェノール樹脂縮合物が付着する際に、核物質を構成する樹脂の高分子の一部がフェノール類の反応溶液に溶け出したり、フェノール類の反応溶液が核物質を構成する樹脂の高分子中に浸透したりして、核物質を構成する樹脂の網状分子構造と、核物質の回りに形成されるフェノール樹脂縮合物の網状分子構造とが互いに絡み合う相互貫入高分子網目(IPN)を形成し、また核物質を構成する樹脂ポリマーとフェノール類モノマーが反応したりして、核物質の回りにフェノール樹脂縮合物が緻密な層として付着する。この結果、核物質の回りに凝集付着するフェノール樹脂縮合物の層で形成される表面が平滑になり、全体としてより真球に近い形態にフェノール樹脂粒子を製造することができると考えられる。
【0049】
本発明で得られるフェノール樹脂粒子はこのように、表面が平滑で真球性の高い球形粒子であるので、流動性が高く輸送性等に優れるものである。また粉砕や造粒する場合に比べて、フェノール樹脂粒子の粒子径のばらつきを小さくすることができるものである。
【0050】
本発明において、核物質を形成する樹脂は、フェノール類の溶液に対して溶解性あるいは膨潤性を有するものであればよく、特に限定されるものではない。また膨潤性と溶解性を同時に示す樹脂であってもよく、膨潤性を示した後に溶解性を示す樹脂であってもよい。
【0051】
ここで、本発明において、核物質として用いる樹脂として好ましいものを容易に選定するために、フェノール類の溶液に対して溶解性を有する樹脂としては、上記の縮合反応に使用するフェノール類100質量部を反応系の液50質量部に溶解した溶液を反応温度を想定して85℃に加熱し、この溶液に核物質とする樹脂20質量部を10分間浸漬したときに、溶液中に0.5〜95質量%が溶解するものであることが望ましい。溶解する質量が0.5%未満の樹脂では溶解性があるとはいえず、このような樹脂を核物質として用いる場合には、フェノール樹脂粒子をより表面平滑に製造することが難しい。逆に、溶解する質量が95質量%を超えると、樹脂の殆どが反応溶液中に溶けてしまうことになるので、核物質としての機能を果たせなくなるおそれがある。
【0052】
またフェノール類の溶液に対して膨潤性を有する樹脂としては、上記の縮合反応に使用するフェノール類100質量部を反応系の液50質量部に溶解した溶液を反応温度を想定して85℃に加熱し、この溶液に核物質とする樹脂20質量部を10分間浸漬したときに、核物質の樹脂の粒径が1.1倍以上になるよう体積膨張するものであることが望ましい。粒径が1.1倍未満の体積膨張では膨潤性があるとはいえず、このような樹脂を核物質として用いる場合には、フェノール樹脂粒子をより表面平滑に製造することが難しい。体積膨潤の上限は特に設定されないが、粒径が3.0倍程度に体積膨張するものが実用上の上限である。
【0053】
上記のような核物質に適した樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリアセタール、ポリエチレンオキシド、ポリフェニレンオキシド、ポリアミド(6ナイロン、11ナイロン、66ナイロン等)などを挙げることができる。核物質はこれらの樹脂から形成される一種単独を用いるようにしてもよく、複数種のものを併用するようにしてもよい。さらに複数種の樹脂を混合して核物質を形成するようにしてもよい。
【0054】
これらの中でも、核物質としては熱硬化性樹脂が好ましく、さらに熱硬化性樹脂のなかでもフェノール樹脂が特に好ましい。そしてフェノール樹脂としては、レゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂のいずれでもよく、さらにレゾール型フェノール樹脂とノボラック樹脂を任意の割合で混合した混合フェノール樹脂であってもよい。
【0055】
核物質としてこのように熱硬化性樹脂を用いる場合、完全に硬化した熱硬化性樹脂はフェノール類の溶液に対して溶解性や膨潤性を示さず、不溶性・不膨潤性の樹脂であるので、核物質として用いることができる熱硬化性樹脂は、未硬化の樹脂である。
【0056】
また核物質を構成する樹脂は、フェノール樹脂縮合物が表面に付着する核となるために、常温(25℃)で固形であることが望ましい。さらに核物質の形態は特に限定されるものではないが、フェノール類とアルデヒド類の反応溶液への分散性を考慮すると、粉末状であることが好ましい。核物質の粒径は特に限定されるものではないが、1〜200μm程度の範囲が好ましい。
【0057】
そして核物質として、上記のようなフェノール類の溶液に対して溶解性あるいは膨潤性を有する樹脂で形成したものを用いる他に、フェノール類の溶液に対して溶解性及び膨潤性を示さない不溶性・不膨潤性の樹脂で形成した核物質を併用することもできる。ここで本発明において、フェノール類の溶液に対して不溶性の樹脂とは、既述と同様にフェノール類100質量部を反応系の液50質量部に溶解した溶液を85℃に加熱し、この溶液に核物質の樹脂20質量部を10分間浸漬したときに、溶液中への溶解が0.5質量%未満である樹脂を意味する。またフェノール類の溶液に対して不膨潤性の樹脂とは、既述と同様にフェノール類100質量部を反応系の液50質量部に溶解した溶液を85℃に加熱し、この溶液に核物質の樹脂20質量部を10分間浸漬したときに、粒径の膨張が1.1倍未満である樹脂を意味する。
【0058】
このようにフェノール類の溶液に対して溶解性あるいは膨潤性を有する樹脂で形成した核物質と、フェノール類の溶液に対して不溶性・不膨潤性の樹脂で形成した核物質を併用する場合、併用の割合は、溶解性あるいは膨潤性の核物質100質量部に対して、不溶性・不膨潤性の核物質1〜50質量部の範囲が好ましい。不溶性・不膨潤性の核物質が50質量部を超えて多くなると、製造されるフェノール樹脂粒子の表面の平滑が損なわれ、真球に近い形態にフェノール樹脂粒子を製造することが難しくなる。
【0059】
フェノール類とアルデヒド類の反応溶液への核物質の混合割合は、フェノール類100質量部に対して核物質1〜60質量部の範囲が好ましい。核物質の量が多くなると、1個のフェノール樹脂粒子を形成する核物質の集合個数が増えるので、フェノール樹脂粒子の粒子径を大きくすることができる。従って、フェノール類とアルデヒド類の反応溶液への核物質の混合割合を調整することによって、フェノール樹脂粒子の粒子径を調整することができるものである。
【0060】
また本発明では、フェノール類とアルデヒド類とを溶液中で分散剤及び核物質の存在下にて縮合反応させるようにしているが、フェノール類とアルデヒド類を縮合反応させる最初から、反応溶液に分散剤を添加して、最初から最後まで分散剤の存在下でフェノール類とアルデヒド類を縮合反応をさせるようにしてもよく、あるいは最初は分散剤を添加せずにフェノール類とアルデヒド類の縮合反応を開始した後、縮合反応をしている途中から反応溶液に分散剤を添加して、途中から分散剤の存在下で縮合反応を継続させるようにしてもよい。
【0061】
フェノール類とアルデヒド類を最初から分散剤の存在下で縮合反応させるようにすると、フェノール類とアルデヒド類が縮合反応して生成されるフェノール樹脂縮合物は、反応の当初から分散剤で分散されて小さな粒子として生成されるものであり、このフェノール樹脂縮合物が核物質に凝集して付着することによって製造されるフェノール樹脂粒子は粒径が比較的小さなものとして得られる。
【0062】
一方、フェノール類とアルデヒド類の縮合反応を開始した後、途中から分散剤を添加して分散剤の存在下で縮合反応を継続させるようにすると、フェノール類とアルデヒド類が縮合反応して生成されるフェノール樹脂縮合物は、反応の当初は分散作用を受けないので比較的大きな粒子として生成されるものであり、このフェノール樹脂縮合物が核物質に凝集して付着することによって製造されるフェノール樹脂粒子は粒径が比較的大きなものとして得られる。
【0063】
このように分散剤の添加時期を調整することによって、得られるフェノール樹脂粒子の粒径を調整することが可能であるが、分散剤の添加時期が遅すぎるとフェノール樹脂粒子の表面平滑性が損なわれたり、粒子にならずに団子状に凝集したりするおそれがあるので、フェノール類とアルデヒド類の縮合反応の途中で分散剤を添加する場合、縮合反応を開始してから、全反応時間の1/10〜1/2の時間が経過した時間範囲内に設定するのが望ましい。
【0064】
そして上記のように、フェノール類とアルデヒド類とを分散剤及び核物質の存在下で縮合反応させることによって、核物質の回りにフェノール類とアルデヒド類の縮合物が付着して形成されるフェノール樹脂粒子を製造するにあたって、フェノール樹脂縮合物が熱硬化性を有する状態でフェノール類とアルデヒド類の縮合反応を停止させることによって、未硬化のフェノール樹脂粒子を得ることができるものである。この未硬化のフェノール樹脂粒子は、成形材料のバインダーなどとして用いることができる。
【0065】
また、フェノール類とアルデヒド類の縮合反応を進めて、生成されるフェノール樹脂縮合物が不溶不融性になるまで持続させることによって、完全硬化状態のフェノール樹脂粒子を得ることができるものである。このように完全硬化した状態のフェノール樹脂粒子は、例えば有機フィラーなどとして使用することができる。ここで、フェノール樹脂縮合物が不溶不融状態とは、共立出版株式会社発行「化学大辞典」、(株)工業調査会発行「プラスチック大辞典」、株式会社岩波書店発行「理化学辞典」、株式会社プラスチック・エージ発行「実用プラスチック用語辞典」、株式会社日刊工業新聞社発行「理工学辞典」、技報堂出版株式会社発行「化学用語辞典」などにおいて、「熱硬化性」や「熱硬化性樹脂」の項目で記載されているように、フェノール樹脂が橋架け反応して硬化した状態をいうものである。例えば、メタノールにフェノール樹脂を溶解させたときの溶解量が、5質量%以下であるとき、フェノール樹脂は不溶不融状態であるとすることができる。
【0066】
そしてこのフェノール樹脂粒子を焼成して炭化させることによって、炭素材料として使用することができるものであり、例えば、乾電池、鉛蓄電池、リチウムイオン二次電池などの各種の二次電池の電極や、電気二重層キャパシタなどの電極材料として用いることができるものである。また炭化させたものをそのまま、あるいは賦活して、水の浄化や医療用などに用いられる活性炭として利用することができるものである。
【0067】
ここで、本発明では核物質として樹脂を用いるため、核物質として雲母等の無機物を使用する引用文献1の発明のようにフェノール樹脂粒子中に無機物が含まれることがない。そしてフェノール樹脂粒子中に無機物が含まれると、例えばフェノール樹脂粒子を焼成して炭化した場合に無機物が不純物として残ることになり、炭素材料として問題がある。これに対して、無機物を含まない本発明のフェノール樹脂粒子ではこのような問題は生じない。
【0068】
本発明の方法で得られるフェノール樹脂粒子の粒子径は、核物質の粒径や、反応系中のフェノール類やアルデヒド類の濃度、反応系中の核物質の割合、分散剤の種類や量、縮合反応の進め具合等で、任意に調整することが可能であるが、一般的には平均粒径(レーザ回折法)として3〜1000μm程度の範囲である。
【実施例】
【0069】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0070】
核物質として、次の樹脂1〜樹脂8を用いた。
【0071】
(樹脂1)
エポキシ樹脂(大日本インキ工業(株)製「EPICLON4050」:エポキシ当量900〜1000、軟化点96〜104℃)を粒径30μm以下の粉末に粉砕して使用した。
【0072】
(樹脂2)
ノボラック型フェノール樹脂(リグナイト(株)製「L−2022」:軟化点100℃、数平均分子量850)を粒径30μm以下の粉末に粉砕して使用した。
【0073】
(樹脂3)
レゾール型フェノール樹脂(リグナイト(株)製「LT−09G」:軟化点88.4℃、数平均分子量1051、150℃におけるゲル化時間113秒)を粒径30μm以下の粉末に粉砕して使用した。
【0074】
(樹脂4)
レゾール型フェノール樹脂(リグナイト(株)製「LT−SIG」:軟化点91.3℃、数平均分子量1086、150℃におけるゲル化時間112秒)を粒径30μm以下の粉末に粉砕して使用した。
【0075】
(樹脂5)
ポリアセタール(ポリプラスチック(株)製「ジュラコンM90−02」)を冷凍粉砕し、105μm以下の粉末にして使用した。
【0076】
(樹脂6)
球状フェノール樹脂硬化品(リグナイト(株)製「LPS−20C」:平均粒径20μm)を使用した。
【0077】
(樹脂7)
球状フェノール樹脂硬化品(リグナイト(株)製「LPS−50C」:平均粒径45μm)を使用した。
【0078】
(樹脂8)
フェノール樹脂(リグナイト(株)製「LT−09G」)をステンレス製バットに広げ、150℃に設定した乾燥器に入れて3時間加熱することによって、硬化させた。そして冷却後、これを30μm以下の粉末に粉砕して使用した。
【0079】
(樹脂9)
フェノール樹脂の球状硬化粒子(エア・ウォーター・ベルパール社製「ベルパールR−800」(旧鐘紡株式会社製「ベルパールR−800」):平均粒径10μm)を使用した。
【0080】
尚、樹脂2〜4の数平均分子量の測定は、東ソー(株)製液体クロマトグラフ「型式HLC−802A」により、カラムとして「TSKgel G3000HXL」「TSKgel G2000HXL」「TSKgel G1000HXL」を用いて行なった。
【0081】
上記の樹脂1〜9について、フェノール水溶液に対する溶解性や膨潤性を測定した。結果を表1に示す。
【0082】
ここで、フェノール水溶液に対する溶解性の測定は次のようにして行なった。水50質量部にフェノール100質量部を溶解したフェノール水溶液を85℃に加熱し、このフェノール水溶液に核物質樹脂20質量部を添加して、10分間浸漬した。そして核物質樹脂をろ過して回収し、その質量を測定して質量減を算出することによって、核物質樹脂がフェノール水溶液に溶解した質量%を求めた。
【0083】
またフェノール水溶液に対する膨潤性の測定は、フェノール水溶液に溶解する質量%が0.5%未満の核物質樹脂に行なうものであり、測定は次のようにして行なった。水50質量部にフェノール100質量部を溶解したフェノール水溶液を85℃に加熱し、このフェノール水溶液に核物質樹脂20質量部を添加して、10分間浸漬した。そして核物質樹脂をろ過して回収し、その粒径を測定して、浸漬前の粒径との差から粒径の拡大倍率を求めた。この核物質樹脂の粒径の測定は、レーザ回折法により行なった。
【0084】
【表1】
【0085】
(実施例1〜9)
5Lの四つ口フラスコに、表1に示す仕込み量で、フェノール、37質量%ホルマリン、アラビアゴム(分散剤)、水、ヘキサメチレンテトラミン、核物質を仕込んだ。そして、フラスコに付けた撹拌装置の撹拌速度を8m/分にセットし、約90分を要して85℃まで昇温させ、そのまま6時間反応を行なった。この後、水で冷却して内温を30℃まで低下させた。
【0086】
次に、フラスコの内容物を濾別して、ポリエチレンシートの上に薄く広げ、1日間風乾した後、105℃の熱風循環式乾燥器中で5時間乾燥させることによって、球状のフェノール樹脂粒子を得た。このフェノール樹脂粒子を40℃のメタノールに1時間浸漬する試験を行なったところ、いずれも1質量%以下であり、完全硬化しているものであった。
【0087】
上記のようにして得た実施例1〜9のフェノール樹脂粒子について、収量を計測し、また外観を観察すると共に粒度を測定した。外観は顕微鏡観察によって観察し、粒度の測定はJIS Z 2601(1993)「鋳物砂の試験方法」に準拠して行なった。結果を表2に示す。尚、外観の項目において「A」は真球状に近く表面に凹凸がみられない、「B」は球状ではあるが表面に凹凸が無数にある、を意味する。
【0088】
【表2】
【0089】
(実施例10〜18)
反応時間6時間を2時間に変更し、また乾燥方法を、濾別して1日間風乾した後、流動層乾燥機にかけて含有水分が2質量%以下になるように乾燥するよう変更した他は、上記の実施例1〜9と同様にして、球状のフェノール樹脂粒子を得た。
【0090】
このようにして得た実施例10〜18のフェノール樹脂粒子は未硬化であって熱硬化性を有するものであり、軟化点とゲル化時間を、JIS K 6910(1999)に準拠して測定した。また上記と同様にして、収量、外観、粒度の測定・観察をした。これらの結果を表3に示す。
【0091】
【表3】
【0092】
(実施例19〜21)
フェノールとホルムアルデヒドを縮合反応させる触媒として、ヘキサメチレンテトラミンの替りにリン酸の85質量%水溶液を表4に示す仕込み量で使用するようにした他は、上記の実施例2〜4と同様にして、完全硬化した球状のフェノール樹脂粒子を得た。
【0093】
(実施例22〜24)
フェノールとホルムアルデヒドを縮合反応させる触媒として、ヘキサメチレンテトラミンの替りにキシレンスルホン酸を表4に示す仕込み量で使用するようにした他は、上記の実施例2〜4と同様にして、完全硬化した球状のフェノール樹脂粒子を得た。
【0094】
上記のようにして得た実施例19〜24のフェノール樹脂粒子について、上記と同様にして、収量、外観、粒度の測定・観察をした。これらの結果を表4に示す。
【0095】
【表4】
【0096】
(実施例25〜27)
分散剤のアラビアゴムを最初からフラスコに仕込む替りに、フラスコ内が85℃に昇温した後、30分後にアラビアゴムをフラスコ内に添加するようにした。その他は上記の実施例2〜4と同様にして、完全硬化した球状のフェノール樹脂粒子を得た。このようにして得た実施例25〜27のフェノール樹脂粒子について、上記と同様にして、収量、外観、粒度の測定・観察をした。これらの結果を表5に示す。
【0097】
【表5】
【0098】
(比較例1)
核物質を使用しないようにした他は、上記実施例1と同様にして、球状のフェノール樹脂粒子を得た。
【0099】
(比較例2〜4)
核物質として、不溶性・不膨潤性の樹脂6〜8を用いるようにした他は、上記実施例1と同様にして、球状のフェノール樹脂粒子を得た。
【0100】
(比較例5)
核物質として、珪砂(三河珪砂株式会社製8号珪砂:平均粒径75μm)を用いるようにした他は、上記実施例1と同様にして、球状のフェノール樹脂粒子を得た。
【0101】
(比較例6)
核物質として、アルミナ(昭和電工株式会社製「RモランダムW RW−92 220F」:平均粒径500μm)を、30μm以下の粉末に粉砕して用いるようにした他は、上記実施例1と同様にして、球状のフェノール樹脂粒子を得た。
【0102】
(比較例7)
核物質として、金雲母(株式会社クラレ社製「スズライトマイカ200S」:平均粒径80μm)を用いるようにした他は、上記実施例1と同様にして、球状のフェノール樹脂粒子を得た。
【0103】
(比較例8)
核物質として、SiC試薬1級を用いるようにした他は、上記実施例1と同様にして、球状のフェノール樹脂粒子を得た。
【0104】
(比較例9)
核物質として、不溶性・不膨潤性の樹脂9を用いるようにした他は、上記実施例1と同様にして、球状のフェノール樹脂粒子を得た。
【0105】
(比較例10)
核物質として、メソフェース(ピッチの小球体、川鉄化学株式会社製「KMFC」:平均粒径300μm)を、30μm以下の粉末に粉砕して用いるようにした他は、上記実施例1と同様にして、球状のフェノール樹脂粒子を得た。
【0106】
(比較例11)
核物質として、Qセル(中空ガラス粒子、旭硝子株式会社製「Q−CEL300」:平均粒径300μm)を、30μm以下の粉末に粉砕して用いるようにした他は、上記実施例1と同様にして、球状のフェノール樹脂粒子を得た。
【0107】
このようにして得た比較例1〜11のフェノール樹脂粒子について、上記と同様にして、収量、外観、粒度の測定・観察をした。またJIS K 6910(1999)に準拠して灰分を測定した。これらの結果を表6に示す。
【0108】
【表6】
【0109】
上記の各実施例及び比較例のうち、実施例2,4,9と比較例3〜11の顕微鏡写真を図1〜図12に示す。図4〜図12の写真にみられるように、比較例3〜11で得たフェノール樹脂粒子は、表面に無数の凹凸があり、真球度も低いが、図1〜図3の写真にみられるように、各実施例で得たフェノール樹脂粒子は、表面が平滑であり、真球の形態を有するものであった。
【0110】
また上記の表2〜5の「外観」の欄の評価のように、フェノール溶液に溶解性・膨潤性を有する樹脂を核物質として用いた実施例1〜27のフェノール樹脂粒子は、いずれも、真球状に近く表面に凹凸がみられないものであった。これに対して表6の「外観」の欄の評価のように、フェノール溶液に不溶解性・不膨潤性の樹脂や無機物を核物質として用いた比較例2〜11のフェノール樹脂粒子は、いずれも表面に無数の凹凸を有するものであった。
【0111】
一方、比較例1では核物質を用いないでフェノール樹脂粒子を調製するようにしたものであり、その粒度の欄にみられるように、粒径が小さく、比較的大きな粒径のフェノール樹脂粒子を得ることができない。これに対して、核物質を用いてフェノール樹脂粒子を調製するようにした各実施例のものは、比較的大きな粒径のフェノール樹脂粒子を得ることができるものであった。
【0112】
また表6の「灰分」の欄にみられるように、核物質として無機質の珪砂、アルミナ、金雲母、SiC、Qセル(ガラス)を用いる比較例5,6,7,8,11では灰分が不純物として残留することが確認される。
【0113】
また、表2の実施例2〜4と、表5の実施例25〜27の粒度の欄の結果にみられるように、アラビアゴム(分散剤)を反応の最初から反応系に添加した実施例2〜4のフェノール樹脂粒子よりも、反応の途中からアラビアゴムを反応系に添加するようにした実施例25〜27のほうが、粒径の大きなフェノール樹脂粒子を得ることができるものであった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状のフェノール樹脂粒子及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
常温で固形のフェノール樹脂粒子は従来より一般に次のようにして製造されている。すなわち、フェノール類とアルデヒド類に酸やアルカリ等の触媒を添加して、反応釜中で付加縮合反応させ、白濁化させた後に常圧下あるいは減圧下で脱水を行ない、所定の軟化点まで脱水濃縮を継続して透明樹脂を得る。そしてこの樹脂を冷却して粉砕あるいは造粒することによって、フェノール樹脂の粉粒体を得ることができるものである。しかしこの方法では、濃縮脱水、冷却、粉砕あるいは造粒という各種の工程を必要とし、製造工数が増加すると共に多量のエネルギーを必要とする問題があった。またフェノール樹脂粒子は粉砕や造粒によって粉粒状に形成されるため、球状のフェノール樹脂粒子を得ることができないものであり、さらに粒子径が数μmから数mmと大きくばらつくものであった。
【0003】
そこでこのような各種の工程を必要とすることなく球状のフェノール樹脂粒子を製造する方法が、本出願人によって特許文献1等で提案されている。
【0004】
すなわち特許文献1では、フェノール類とアルデヒド類とを分散剤及び核物質の存在下で付加縮合反応させることによって、核物質の回りにフェノール樹脂の縮合物が凝集された粉粒体を生成させ、これを脱水乾燥することによって、フェノール樹脂粒子を製造するようにしている。
【0005】
この特許文献1の方法によれば、濃縮脱水、冷却、粉砕あるいは造粒というエネルギーを多量に要する工程を必要とすることなく、フェノール樹脂粒子を得ることができるものである。そしてフェノール樹脂粒子は、核物質の回りにフェノール樹脂の縮合物が付着することによって形成されるため、核物質がフェノール樹脂縮合物で包み込まれて、球形の粉粒体として得ることができるものであり、また粉砕や造粒する場合に比べて粒子径のばらつきを抑えることができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2549365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1において、核物質としては、反応に使用するモノマーや反応に使用するポリマーに溶解されず反応の前後を通じて常に固形の形態を保持するものが使用されるものであり(特許文献1の第2頁右欄第19行〜第23行)、このような核物質として雲母、珪砂、アルミナ粉、炭化ケイ素粉、ガラス粉、樹脂粉などが挙げられている(特許文献1の第2頁左欄第7行〜第10行)。
【0008】
そして上記のように、核物質の回りにフェノール類とアルデヒド類の付加縮合物であるフェノール樹脂縮合物が付着して、核物質がフェノール樹脂縮合物で包み込まれることによって、球形のフェノール樹脂粒子を得ることができるものであるが、フェノール樹脂粒子の表面に凹凸があり、表面の平滑性に欠けて真球に近いものを得ることが難しいものであった(後述の比較例の顕微鏡写真参照)。また引用文献1の発明では、核物質として雲母等の無機物が主として使用されており、フェノール樹脂粒子中にこのような無機物が含まれることになると、用途によっては無機物が不純物になって使用が制限されることになるという問題もある。
【0009】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、粒子径のばらつきが小さく、しかも表面が平滑でより真球に近い形態でフェノール樹脂粒子を製造できるフェノール樹脂粒子の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るフェノール樹脂粒子の製造方法は、フェノール類とアルデヒド類とを溶液中で分散剤及び核物質の存在下にて縮合反応させることによって、核物質の回りにフェノール類とアルデヒド類の縮合物が付着して形成されるフェノール樹脂粒子を製造するにあたって、核物質として、フェノール類の溶液に対して溶解性あるいは膨潤性を有する樹脂を用いることを特徴とするものである。
【0011】
核物質として、このようにフェノール類の溶液に対して溶解性あるいは膨潤性を有する樹脂を用いることによって、表面が平滑でより真球に近い形態でフェノール樹脂粒子を得ることができるものである(後述の実施例の顕微鏡写真参照)。その理由はあきらかではないが、フェノール類とアルデヒド類の付加縮合により核物質の回りにフェノール樹脂縮合物が付着する際に、核物質を構成する樹脂の高分子の一部がフェノール類の反応溶液に溶け出したり、フェノール類の反応溶液が核物質を構成する樹脂の高分子中に浸透したりして、核物質を構成する樹脂ポリマーの網状分子構造と、核物質の回りに形成されるフェノール樹脂縮合物の網状分子構造とが互いに絡み合う相互貫入高分子網目(IPN)を形成し、また核物質を構成する樹脂ポリマーとフェノール類モノマーが反応したりして、核物質の回りにフェノール樹脂縮合物が緻密な層として付着し、この結果、核物質の回りに凝集付着するフェノール樹脂縮合物の層で形成される表面が平滑になり、全体としてより真球に近い形態にフェノール樹脂粒子を製造することができると考えられる。
【0012】
また本発明は、核物質として熱硬化性樹脂を用いることを特徴とするものである。
【0013】
核物質が熱硬化性樹脂であることによって、核物質とその回りに付着するフェノール樹脂縮合物との馴染みが良好であり、より表面平滑で真球に近い形態にフェノール樹脂粒子を製造することができるものである。
【0014】
また本発明は、この熱硬化性樹脂がフェノール樹脂であることを特徴とするものである。
【0015】
核物質がフェノール樹脂であることによって、核物質とその回りに付着するフェノール樹脂縮合物との馴染みが良好であり、より表面平滑で真球に近い形態にフェノール樹脂粒子を製造することができるものである。
【0016】
また本発明は、フェノール樹脂がレゾール型フェノール樹脂であること、フェノール樹脂がノボラック型フェノール樹脂であること、フェノール樹脂がレゾール型フェノール樹脂とノボラック樹脂の混合フェノール樹脂であることを特徴とするものである。
【0017】
核物質がこれらのフェノール樹脂であることによって、核物質とその回りに付着するフェノール樹脂縮合物との馴染みが良好であり、より表面平滑で真球に近い形態にフェノール樹脂粒子を製造することができるものである。
【0018】
また本発明において、上記の核物質は常温(25℃)で固体であることを特徴とするものである。
【0019】
核物質が固体であることによって、この核物質の回りにフェノール樹脂縮合物を付着させて、球形のフェノール樹脂粒子を製造することができるものである。
【0020】
また本発明は、核物質として、フェノール類の溶液に対して溶解性あるいは膨潤性を有する樹脂と、フェノール類の溶液に不溶性・不膨潤性の樹脂とを併用することを特徴とするものである。
【0021】
この発明によれば、核物質として使用できる樹脂材料の選択枝を広げることができるものである。
【0022】
また本発明は、フェノール類とアルデヒド類とを分散剤及び核物質の存在下で縮合反応させることによって、核物質の回りにフェノール類とアルデヒド類の縮合物が付着して形成されるフェノール樹脂粒子を製造するにあたって、フェノール樹脂縮合物が熱硬化性を有する状態で縮合反応を停止させることを特徴とするものである。
【0023】
この発明によれば、成形材料などに使用できる未硬化状態のフェノール樹脂粒子を製造することができるものである。
【0024】
また本発明は、フェノール類とアルデヒド類とを分散剤及び核物質の存在下で縮合反応させることによって、核物質の回りにフェノール類とアルデヒド類の縮合物が付着して形成されるフェノール樹脂粒子を製造するにあたって、フェノール樹脂縮合物が不溶不融状態になるまで縮合反応を持続させることを特徴とするものである。
【0025】
この発明によれば、フィラー等に使用できる完全硬化状態のフェノール樹脂粒子を製造することができるものである。
【0026】
また本発明は、フェノール類とアルデヒド類の縮合反応の最初から、反応系に上記分散剤を存在させて、この縮合反応をさせることを特徴とするものである。
【0027】
このように最初から分散剤の存在する条件下でフェノール類とアルデヒド類の縮合反応を行わせることによって、粒径が小さめのフェノール樹脂粒子を製造することができるものである。
【0028】
また本発明は、フェノール類とアルデヒド類の縮合反応の途中から、上記分散剤を存在させて、この縮合反応をさせることを特徴とするものである。
【0029】
このようにフェノール類とアルデヒド類の縮合反応の途中から、分散剤を存在させて縮合反応を進めることによって、粒径が大きめのフェノール樹脂粒子を製造することができるものである。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、フェノール類とアルデヒド類とを分散剤及び核物質の存在下で縮合反応させることによって、核物質の回りにフェノール類とアルデヒド類の縮合物が付着して形成されるフェノール樹脂粒子を製造するようにしたので、濃縮脱水、冷却、粉砕あるいは造粒というエネルギーを多量に要する工程を必要とすることなく、フェノール樹脂粒子を製造することができるものであり、またフェノール樹脂粒子は核物質がフェノール樹脂縮合物で包み込まれて形成されるため、球形の粉粒体として得ることができると共に、粒子径のばらつきを小さく抑えることができるものである。
【0031】
しかも核物質として、フェノール類の溶液に対して溶解性あるいは膨潤性を有する樹脂を用いるようにしたので、表面が平滑で全体としてより真球に近い形態にフェノール樹脂粒子を製造することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施例2で得たフェノール樹脂粒子の顕微鏡写真である。
【図2】実施例4で得たフェノール樹脂粒子の顕微鏡写真である。
【図3】実施例9で得たフェノール樹脂粒子の顕微鏡写真である。
【図4】比較例3で得たフェノール樹脂粒子の顕微鏡写真である。
【図5】比較例4で得たフェノール樹脂粒子の顕微鏡写真である。
【図6】比較例5で得たフェノール樹脂粒子の顕微鏡写真である。
【図7】比較例6で得たフェノール樹脂粒子の顕微鏡写真である。
【図8】比較例7で得たフェノール樹脂粒子の顕微鏡写真である。
【図9】比較例8で得たフェノール樹脂粒子の顕微鏡写真である。
【図10】比較例9で得たフェノール樹脂粒子の顕微鏡写真である。
【図11】比較例10で得たフェノール樹脂粒子の顕微鏡写真である。
【図12】比較例11で得たフェノール樹脂粒子の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0034】
本発明においてフェノール類としては、フェノールの他にフェノールの誘導体を用いることができる。フェノール誘導体としては、例えばm−クレゾール、レゾルシノール、3,5−キシレノールなど3官能性のもの、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ジヒドロキシジフェニルメタンなどの4官能性のもの、o−クレゾール、p−クレゾール、p−ter−ブチルフェノール、p−フェニルフェノール、p−クミルフェノール、p−ノニルフェノール、2,4−又は2,6−キシレノールなどの2官能性のo−又はp−置換のフェノール類などを挙げることができ、さらに塩素又は臭素で置換されたハロゲン化フェノールなどを用いることもできる。フェノール類としてはこれらから1種を選択して用いる他、複数種のものを混合して用いることもできる。
【0035】
また本発明においてアルデヒド類としては、ホルムアルデヒドの水溶液の形態であるホルマリンが最適であるが、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、トリオキサン、テトラオキサンのような形態のものを用いることもできる。
【0036】
フェノール類とアルデヒド類との反応にあたって用いる触媒としては、フェノール類とアルデヒド類を反応させ、ベンゼン核とベンゼン核の間に−NCH2結合を生成するような塩基性触媒、例えばヘキサメチレンテトラミン、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン等の第1級や第2級のアミン類などを用いることができる。また、ナトリウム、カリウム、リチウムなどアルカリ金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、あるいはカルシウム、マグネシウム、バリウムなどアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、あるいは第3級アミン化合物などを挙げることもできる。これらの具体例を挙げると、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、1,8−ジアザビシクロ〔5,4,0〕ウンデセン−7などがある。
【0037】
また酸触媒を用いることもでき、例えば塩酸、硫酸、リン酸などの無機酸、キシレンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸などの有機スルホン酸、シュウ酸、マレイン酸、無水マレイン酸などのカルボン酸を挙げることができる。
【0038】
そして上記のフェノール類とアルデヒド類、反応触媒、核物質を反応容器にとり、フェノール類とアルデヒド類を付加縮合反応させるものであるが、このときさらに分散剤を反応容器に投入し、また必要に応じてカップリング剤などの添加剤を反応容器に投入し、これらの存在下でフェノール類とアルデヒド類の反応を行なわせるものである。
【0039】
ここで、フェノール類に対するアルデヒド類の配合量は、フェノール類1モルに対してアルデヒド類0.8〜3.0モルの範囲が好ましい。また反応触媒の配合量は、反応触媒の種類によって大きく異なるが、フェノール類に対して0.05〜10質量%の範囲が好ましい。
【0040】
また上記のように反応系に添加する分散剤は、一種の乳化剤としても作用するものであり、例えばアラビアゴム、ポリビニルアルコール、ニカワ、グアーゴム、ガッテガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、可溶化でんぷん、寒天、アルギン酸ソーダなどを挙げることができる。これらのうちから一種単独で、あるいは複数種を併用して使用することができるが、これらの中でも、アラビアゴムやポリビニルアルコールを好ましく用いることができる。分散剤の添加量は、分散剤が有する乳化効果によって大きく異なり、特に限定されるものではないが、フェノール類に対して0.1〜10.0質量%の範囲が好ましく、特に0.5〜7.0質量%の範囲が好ましい。
【0041】
そして上記の反応は、フェノール類とアルデヒド類を溶解した液中、例えば水中で行なわれるものであり、反応系を攪拌するに足る量の溶液中に分散剤と核物質を添加して、これらの分散剤と核物質の存在下、反応系を撹拌しながら、フェノール類とアルデヒド類とを付加縮合反応させるようにしたものである。
【0042】
ここで、反応系を攪拌するに足る量の液とは、反応系の溶液が大きな抵抗なく流動しながら撹拌される量であればよく、特に限定されるものではないが、反応系の溶液中に含まれる固形分が10〜50質量%の範囲になるように、反応系の液の量を設定するのが望ましい。
【0043】
また攪拌とは、反応系の溶液に強制的な流動を生じさせて系中で混合が発生するようにすることを意味するものであり、例えば一方向あるいは往復の両方向に回転する二枚羽根、三枚羽根、スクリューなどを用いて反応系の溶液を攪拌することができる。
【0044】
反応の初期では、反応系の溶液は透明に近いが、反応の進行とともに乳白濁になり、付加縮合反応で生成されるフェノール類とアルデヒド類の付加縮合物が反応系の溶液中に析出される。そしてこのフェノール類とアルデヒド類の付加縮合物は分散剤の作用で反応溶液中に分散され、さらに核物質の表面に析出して、核物質を中心にして凝集されることになり、核物質の表面にフェノール類とアルデヒド類の付加縮合物であるフェノール樹脂縮合物が付着して、核物質の表面がフェノール樹脂縮合物で被覆された粒子が生成される。
【0045】
上記のように付加縮合反応を所望の程度に進めた後に反応系の液を冷却し、攪拌を停止すると、核物質の表面がフェノール樹脂縮合物で被覆された粒子は反応系の溶液中から分離してくる。この粒子は含水粒状物となっているので、傾斜法で反応系の溶液を分離した後に濾過するなどして反応系から取り出し、必要に応じて水洗した後、乾燥することによって、球状粒子としてフェノール樹脂粒子を得ることができるものである。
【0046】
本発明は、このようにフェノール類とアルデヒド類とを溶液中で分散剤及び核物質の存在下にて縮合反応させることによって、フェノール樹脂粒子を製造するにあたって、核物質として、フェノール類の溶液に対して溶解性あるいは膨潤性を有する樹脂を使用するものである。すなわち、反応系に使用する液と、縮合反応に使用するフェノール類とを用い、このフェノール類を溶解した溶液に対して溶解性あるいは膨潤性を有する樹脂を核物質として使用するものである。例えばフェノール類としてフェノールを、反応系の液として水を用いる場合、フェノール水溶液に対して溶解性あるいは膨潤性を有する樹脂を核物質として使用するものである。
【0047】
このように核物質として、フェノール類の溶液に対して溶解性あるいは膨潤性を有する樹脂を使用すると、表面が平滑で全体としてより真球に近い形態にフェノール樹脂粒子を製造することができるものである。既述の特許文献1の方法では、核物質として、反応に使用するモノマーや反応に使用するポリマーに溶解されず反応の前後を通じて常に固形の形態を保持するものを使用しているため、フェノール樹脂粒子の外周表面に凹凸が生じ、完全な真球に近いものを製造することが難しい。これに対して、核物質としてフェノール類の溶液に対して溶解性あるいは膨潤性を有する樹脂を使用することによって、表面が平滑でより真球に近い形態のフェノール樹脂粒子を製造することができる理由は明確ではないが、次のように考えられる。
【0048】
すなわち、フェノール類とアルデヒド類の付加縮合により核物質の回りにフェノール樹脂縮合物が付着する際に、核物質を構成する樹脂の高分子の一部がフェノール類の反応溶液に溶け出したり、フェノール類の反応溶液が核物質を構成する樹脂の高分子中に浸透したりして、核物質を構成する樹脂の網状分子構造と、核物質の回りに形成されるフェノール樹脂縮合物の網状分子構造とが互いに絡み合う相互貫入高分子網目(IPN)を形成し、また核物質を構成する樹脂ポリマーとフェノール類モノマーが反応したりして、核物質の回りにフェノール樹脂縮合物が緻密な層として付着する。この結果、核物質の回りに凝集付着するフェノール樹脂縮合物の層で形成される表面が平滑になり、全体としてより真球に近い形態にフェノール樹脂粒子を製造することができると考えられる。
【0049】
本発明で得られるフェノール樹脂粒子はこのように、表面が平滑で真球性の高い球形粒子であるので、流動性が高く輸送性等に優れるものである。また粉砕や造粒する場合に比べて、フェノール樹脂粒子の粒子径のばらつきを小さくすることができるものである。
【0050】
本発明において、核物質を形成する樹脂は、フェノール類の溶液に対して溶解性あるいは膨潤性を有するものであればよく、特に限定されるものではない。また膨潤性と溶解性を同時に示す樹脂であってもよく、膨潤性を示した後に溶解性を示す樹脂であってもよい。
【0051】
ここで、本発明において、核物質として用いる樹脂として好ましいものを容易に選定するために、フェノール類の溶液に対して溶解性を有する樹脂としては、上記の縮合反応に使用するフェノール類100質量部を反応系の液50質量部に溶解した溶液を反応温度を想定して85℃に加熱し、この溶液に核物質とする樹脂20質量部を10分間浸漬したときに、溶液中に0.5〜95質量%が溶解するものであることが望ましい。溶解する質量が0.5%未満の樹脂では溶解性があるとはいえず、このような樹脂を核物質として用いる場合には、フェノール樹脂粒子をより表面平滑に製造することが難しい。逆に、溶解する質量が95質量%を超えると、樹脂の殆どが反応溶液中に溶けてしまうことになるので、核物質としての機能を果たせなくなるおそれがある。
【0052】
またフェノール類の溶液に対して膨潤性を有する樹脂としては、上記の縮合反応に使用するフェノール類100質量部を反応系の液50質量部に溶解した溶液を反応温度を想定して85℃に加熱し、この溶液に核物質とする樹脂20質量部を10分間浸漬したときに、核物質の樹脂の粒径が1.1倍以上になるよう体積膨張するものであることが望ましい。粒径が1.1倍未満の体積膨張では膨潤性があるとはいえず、このような樹脂を核物質として用いる場合には、フェノール樹脂粒子をより表面平滑に製造することが難しい。体積膨潤の上限は特に設定されないが、粒径が3.0倍程度に体積膨張するものが実用上の上限である。
【0053】
上記のような核物質に適した樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリアセタール、ポリエチレンオキシド、ポリフェニレンオキシド、ポリアミド(6ナイロン、11ナイロン、66ナイロン等)などを挙げることができる。核物質はこれらの樹脂から形成される一種単独を用いるようにしてもよく、複数種のものを併用するようにしてもよい。さらに複数種の樹脂を混合して核物質を形成するようにしてもよい。
【0054】
これらの中でも、核物質としては熱硬化性樹脂が好ましく、さらに熱硬化性樹脂のなかでもフェノール樹脂が特に好ましい。そしてフェノール樹脂としては、レゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂のいずれでもよく、さらにレゾール型フェノール樹脂とノボラック樹脂を任意の割合で混合した混合フェノール樹脂であってもよい。
【0055】
核物質としてこのように熱硬化性樹脂を用いる場合、完全に硬化した熱硬化性樹脂はフェノール類の溶液に対して溶解性や膨潤性を示さず、不溶性・不膨潤性の樹脂であるので、核物質として用いることができる熱硬化性樹脂は、未硬化の樹脂である。
【0056】
また核物質を構成する樹脂は、フェノール樹脂縮合物が表面に付着する核となるために、常温(25℃)で固形であることが望ましい。さらに核物質の形態は特に限定されるものではないが、フェノール類とアルデヒド類の反応溶液への分散性を考慮すると、粉末状であることが好ましい。核物質の粒径は特に限定されるものではないが、1〜200μm程度の範囲が好ましい。
【0057】
そして核物質として、上記のようなフェノール類の溶液に対して溶解性あるいは膨潤性を有する樹脂で形成したものを用いる他に、フェノール類の溶液に対して溶解性及び膨潤性を示さない不溶性・不膨潤性の樹脂で形成した核物質を併用することもできる。ここで本発明において、フェノール類の溶液に対して不溶性の樹脂とは、既述と同様にフェノール類100質量部を反応系の液50質量部に溶解した溶液を85℃に加熱し、この溶液に核物質の樹脂20質量部を10分間浸漬したときに、溶液中への溶解が0.5質量%未満である樹脂を意味する。またフェノール類の溶液に対して不膨潤性の樹脂とは、既述と同様にフェノール類100質量部を反応系の液50質量部に溶解した溶液を85℃に加熱し、この溶液に核物質の樹脂20質量部を10分間浸漬したときに、粒径の膨張が1.1倍未満である樹脂を意味する。
【0058】
このようにフェノール類の溶液に対して溶解性あるいは膨潤性を有する樹脂で形成した核物質と、フェノール類の溶液に対して不溶性・不膨潤性の樹脂で形成した核物質を併用する場合、併用の割合は、溶解性あるいは膨潤性の核物質100質量部に対して、不溶性・不膨潤性の核物質1〜50質量部の範囲が好ましい。不溶性・不膨潤性の核物質が50質量部を超えて多くなると、製造されるフェノール樹脂粒子の表面の平滑が損なわれ、真球に近い形態にフェノール樹脂粒子を製造することが難しくなる。
【0059】
フェノール類とアルデヒド類の反応溶液への核物質の混合割合は、フェノール類100質量部に対して核物質1〜60質量部の範囲が好ましい。核物質の量が多くなると、1個のフェノール樹脂粒子を形成する核物質の集合個数が増えるので、フェノール樹脂粒子の粒子径を大きくすることができる。従って、フェノール類とアルデヒド類の反応溶液への核物質の混合割合を調整することによって、フェノール樹脂粒子の粒子径を調整することができるものである。
【0060】
また本発明では、フェノール類とアルデヒド類とを溶液中で分散剤及び核物質の存在下にて縮合反応させるようにしているが、フェノール類とアルデヒド類を縮合反応させる最初から、反応溶液に分散剤を添加して、最初から最後まで分散剤の存在下でフェノール類とアルデヒド類を縮合反応をさせるようにしてもよく、あるいは最初は分散剤を添加せずにフェノール類とアルデヒド類の縮合反応を開始した後、縮合反応をしている途中から反応溶液に分散剤を添加して、途中から分散剤の存在下で縮合反応を継続させるようにしてもよい。
【0061】
フェノール類とアルデヒド類を最初から分散剤の存在下で縮合反応させるようにすると、フェノール類とアルデヒド類が縮合反応して生成されるフェノール樹脂縮合物は、反応の当初から分散剤で分散されて小さな粒子として生成されるものであり、このフェノール樹脂縮合物が核物質に凝集して付着することによって製造されるフェノール樹脂粒子は粒径が比較的小さなものとして得られる。
【0062】
一方、フェノール類とアルデヒド類の縮合反応を開始した後、途中から分散剤を添加して分散剤の存在下で縮合反応を継続させるようにすると、フェノール類とアルデヒド類が縮合反応して生成されるフェノール樹脂縮合物は、反応の当初は分散作用を受けないので比較的大きな粒子として生成されるものであり、このフェノール樹脂縮合物が核物質に凝集して付着することによって製造されるフェノール樹脂粒子は粒径が比較的大きなものとして得られる。
【0063】
このように分散剤の添加時期を調整することによって、得られるフェノール樹脂粒子の粒径を調整することが可能であるが、分散剤の添加時期が遅すぎるとフェノール樹脂粒子の表面平滑性が損なわれたり、粒子にならずに団子状に凝集したりするおそれがあるので、フェノール類とアルデヒド類の縮合反応の途中で分散剤を添加する場合、縮合反応を開始してから、全反応時間の1/10〜1/2の時間が経過した時間範囲内に設定するのが望ましい。
【0064】
そして上記のように、フェノール類とアルデヒド類とを分散剤及び核物質の存在下で縮合反応させることによって、核物質の回りにフェノール類とアルデヒド類の縮合物が付着して形成されるフェノール樹脂粒子を製造するにあたって、フェノール樹脂縮合物が熱硬化性を有する状態でフェノール類とアルデヒド類の縮合反応を停止させることによって、未硬化のフェノール樹脂粒子を得ることができるものである。この未硬化のフェノール樹脂粒子は、成形材料のバインダーなどとして用いることができる。
【0065】
また、フェノール類とアルデヒド類の縮合反応を進めて、生成されるフェノール樹脂縮合物が不溶不融性になるまで持続させることによって、完全硬化状態のフェノール樹脂粒子を得ることができるものである。このように完全硬化した状態のフェノール樹脂粒子は、例えば有機フィラーなどとして使用することができる。ここで、フェノール樹脂縮合物が不溶不融状態とは、共立出版株式会社発行「化学大辞典」、(株)工業調査会発行「プラスチック大辞典」、株式会社岩波書店発行「理化学辞典」、株式会社プラスチック・エージ発行「実用プラスチック用語辞典」、株式会社日刊工業新聞社発行「理工学辞典」、技報堂出版株式会社発行「化学用語辞典」などにおいて、「熱硬化性」や「熱硬化性樹脂」の項目で記載されているように、フェノール樹脂が橋架け反応して硬化した状態をいうものである。例えば、メタノールにフェノール樹脂を溶解させたときの溶解量が、5質量%以下であるとき、フェノール樹脂は不溶不融状態であるとすることができる。
【0066】
そしてこのフェノール樹脂粒子を焼成して炭化させることによって、炭素材料として使用することができるものであり、例えば、乾電池、鉛蓄電池、リチウムイオン二次電池などの各種の二次電池の電極や、電気二重層キャパシタなどの電極材料として用いることができるものである。また炭化させたものをそのまま、あるいは賦活して、水の浄化や医療用などに用いられる活性炭として利用することができるものである。
【0067】
ここで、本発明では核物質として樹脂を用いるため、核物質として雲母等の無機物を使用する引用文献1の発明のようにフェノール樹脂粒子中に無機物が含まれることがない。そしてフェノール樹脂粒子中に無機物が含まれると、例えばフェノール樹脂粒子を焼成して炭化した場合に無機物が不純物として残ることになり、炭素材料として問題がある。これに対して、無機物を含まない本発明のフェノール樹脂粒子ではこのような問題は生じない。
【0068】
本発明の方法で得られるフェノール樹脂粒子の粒子径は、核物質の粒径や、反応系中のフェノール類やアルデヒド類の濃度、反応系中の核物質の割合、分散剤の種類や量、縮合反応の進め具合等で、任意に調整することが可能であるが、一般的には平均粒径(レーザ回折法)として3〜1000μm程度の範囲である。
【実施例】
【0069】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0070】
核物質として、次の樹脂1〜樹脂8を用いた。
【0071】
(樹脂1)
エポキシ樹脂(大日本インキ工業(株)製「EPICLON4050」:エポキシ当量900〜1000、軟化点96〜104℃)を粒径30μm以下の粉末に粉砕して使用した。
【0072】
(樹脂2)
ノボラック型フェノール樹脂(リグナイト(株)製「L−2022」:軟化点100℃、数平均分子量850)を粒径30μm以下の粉末に粉砕して使用した。
【0073】
(樹脂3)
レゾール型フェノール樹脂(リグナイト(株)製「LT−09G」:軟化点88.4℃、数平均分子量1051、150℃におけるゲル化時間113秒)を粒径30μm以下の粉末に粉砕して使用した。
【0074】
(樹脂4)
レゾール型フェノール樹脂(リグナイト(株)製「LT−SIG」:軟化点91.3℃、数平均分子量1086、150℃におけるゲル化時間112秒)を粒径30μm以下の粉末に粉砕して使用した。
【0075】
(樹脂5)
ポリアセタール(ポリプラスチック(株)製「ジュラコンM90−02」)を冷凍粉砕し、105μm以下の粉末にして使用した。
【0076】
(樹脂6)
球状フェノール樹脂硬化品(リグナイト(株)製「LPS−20C」:平均粒径20μm)を使用した。
【0077】
(樹脂7)
球状フェノール樹脂硬化品(リグナイト(株)製「LPS−50C」:平均粒径45μm)を使用した。
【0078】
(樹脂8)
フェノール樹脂(リグナイト(株)製「LT−09G」)をステンレス製バットに広げ、150℃に設定した乾燥器に入れて3時間加熱することによって、硬化させた。そして冷却後、これを30μm以下の粉末に粉砕して使用した。
【0079】
(樹脂9)
フェノール樹脂の球状硬化粒子(エア・ウォーター・ベルパール社製「ベルパールR−800」(旧鐘紡株式会社製「ベルパールR−800」):平均粒径10μm)を使用した。
【0080】
尚、樹脂2〜4の数平均分子量の測定は、東ソー(株)製液体クロマトグラフ「型式HLC−802A」により、カラムとして「TSKgel G3000HXL」「TSKgel G2000HXL」「TSKgel G1000HXL」を用いて行なった。
【0081】
上記の樹脂1〜9について、フェノール水溶液に対する溶解性や膨潤性を測定した。結果を表1に示す。
【0082】
ここで、フェノール水溶液に対する溶解性の測定は次のようにして行なった。水50質量部にフェノール100質量部を溶解したフェノール水溶液を85℃に加熱し、このフェノール水溶液に核物質樹脂20質量部を添加して、10分間浸漬した。そして核物質樹脂をろ過して回収し、その質量を測定して質量減を算出することによって、核物質樹脂がフェノール水溶液に溶解した質量%を求めた。
【0083】
またフェノール水溶液に対する膨潤性の測定は、フェノール水溶液に溶解する質量%が0.5%未満の核物質樹脂に行なうものであり、測定は次のようにして行なった。水50質量部にフェノール100質量部を溶解したフェノール水溶液を85℃に加熱し、このフェノール水溶液に核物質樹脂20質量部を添加して、10分間浸漬した。そして核物質樹脂をろ過して回収し、その粒径を測定して、浸漬前の粒径との差から粒径の拡大倍率を求めた。この核物質樹脂の粒径の測定は、レーザ回折法により行なった。
【0084】
【表1】
【0085】
(実施例1〜9)
5Lの四つ口フラスコに、表1に示す仕込み量で、フェノール、37質量%ホルマリン、アラビアゴム(分散剤)、水、ヘキサメチレンテトラミン、核物質を仕込んだ。そして、フラスコに付けた撹拌装置の撹拌速度を8m/分にセットし、約90分を要して85℃まで昇温させ、そのまま6時間反応を行なった。この後、水で冷却して内温を30℃まで低下させた。
【0086】
次に、フラスコの内容物を濾別して、ポリエチレンシートの上に薄く広げ、1日間風乾した後、105℃の熱風循環式乾燥器中で5時間乾燥させることによって、球状のフェノール樹脂粒子を得た。このフェノール樹脂粒子を40℃のメタノールに1時間浸漬する試験を行なったところ、いずれも1質量%以下であり、完全硬化しているものであった。
【0087】
上記のようにして得た実施例1〜9のフェノール樹脂粒子について、収量を計測し、また外観を観察すると共に粒度を測定した。外観は顕微鏡観察によって観察し、粒度の測定はJIS Z 2601(1993)「鋳物砂の試験方法」に準拠して行なった。結果を表2に示す。尚、外観の項目において「A」は真球状に近く表面に凹凸がみられない、「B」は球状ではあるが表面に凹凸が無数にある、を意味する。
【0088】
【表2】
【0089】
(実施例10〜18)
反応時間6時間を2時間に変更し、また乾燥方法を、濾別して1日間風乾した後、流動層乾燥機にかけて含有水分が2質量%以下になるように乾燥するよう変更した他は、上記の実施例1〜9と同様にして、球状のフェノール樹脂粒子を得た。
【0090】
このようにして得た実施例10〜18のフェノール樹脂粒子は未硬化であって熱硬化性を有するものであり、軟化点とゲル化時間を、JIS K 6910(1999)に準拠して測定した。また上記と同様にして、収量、外観、粒度の測定・観察をした。これらの結果を表3に示す。
【0091】
【表3】
【0092】
(実施例19〜21)
フェノールとホルムアルデヒドを縮合反応させる触媒として、ヘキサメチレンテトラミンの替りにリン酸の85質量%水溶液を表4に示す仕込み量で使用するようにした他は、上記の実施例2〜4と同様にして、完全硬化した球状のフェノール樹脂粒子を得た。
【0093】
(実施例22〜24)
フェノールとホルムアルデヒドを縮合反応させる触媒として、ヘキサメチレンテトラミンの替りにキシレンスルホン酸を表4に示す仕込み量で使用するようにした他は、上記の実施例2〜4と同様にして、完全硬化した球状のフェノール樹脂粒子を得た。
【0094】
上記のようにして得た実施例19〜24のフェノール樹脂粒子について、上記と同様にして、収量、外観、粒度の測定・観察をした。これらの結果を表4に示す。
【0095】
【表4】
【0096】
(実施例25〜27)
分散剤のアラビアゴムを最初からフラスコに仕込む替りに、フラスコ内が85℃に昇温した後、30分後にアラビアゴムをフラスコ内に添加するようにした。その他は上記の実施例2〜4と同様にして、完全硬化した球状のフェノール樹脂粒子を得た。このようにして得た実施例25〜27のフェノール樹脂粒子について、上記と同様にして、収量、外観、粒度の測定・観察をした。これらの結果を表5に示す。
【0097】
【表5】
【0098】
(比較例1)
核物質を使用しないようにした他は、上記実施例1と同様にして、球状のフェノール樹脂粒子を得た。
【0099】
(比較例2〜4)
核物質として、不溶性・不膨潤性の樹脂6〜8を用いるようにした他は、上記実施例1と同様にして、球状のフェノール樹脂粒子を得た。
【0100】
(比較例5)
核物質として、珪砂(三河珪砂株式会社製8号珪砂:平均粒径75μm)を用いるようにした他は、上記実施例1と同様にして、球状のフェノール樹脂粒子を得た。
【0101】
(比較例6)
核物質として、アルミナ(昭和電工株式会社製「RモランダムW RW−92 220F」:平均粒径500μm)を、30μm以下の粉末に粉砕して用いるようにした他は、上記実施例1と同様にして、球状のフェノール樹脂粒子を得た。
【0102】
(比較例7)
核物質として、金雲母(株式会社クラレ社製「スズライトマイカ200S」:平均粒径80μm)を用いるようにした他は、上記実施例1と同様にして、球状のフェノール樹脂粒子を得た。
【0103】
(比較例8)
核物質として、SiC試薬1級を用いるようにした他は、上記実施例1と同様にして、球状のフェノール樹脂粒子を得た。
【0104】
(比較例9)
核物質として、不溶性・不膨潤性の樹脂9を用いるようにした他は、上記実施例1と同様にして、球状のフェノール樹脂粒子を得た。
【0105】
(比較例10)
核物質として、メソフェース(ピッチの小球体、川鉄化学株式会社製「KMFC」:平均粒径300μm)を、30μm以下の粉末に粉砕して用いるようにした他は、上記実施例1と同様にして、球状のフェノール樹脂粒子を得た。
【0106】
(比較例11)
核物質として、Qセル(中空ガラス粒子、旭硝子株式会社製「Q−CEL300」:平均粒径300μm)を、30μm以下の粉末に粉砕して用いるようにした他は、上記実施例1と同様にして、球状のフェノール樹脂粒子を得た。
【0107】
このようにして得た比較例1〜11のフェノール樹脂粒子について、上記と同様にして、収量、外観、粒度の測定・観察をした。またJIS K 6910(1999)に準拠して灰分を測定した。これらの結果を表6に示す。
【0108】
【表6】
【0109】
上記の各実施例及び比較例のうち、実施例2,4,9と比較例3〜11の顕微鏡写真を図1〜図12に示す。図4〜図12の写真にみられるように、比較例3〜11で得たフェノール樹脂粒子は、表面に無数の凹凸があり、真球度も低いが、図1〜図3の写真にみられるように、各実施例で得たフェノール樹脂粒子は、表面が平滑であり、真球の形態を有するものであった。
【0110】
また上記の表2〜5の「外観」の欄の評価のように、フェノール溶液に溶解性・膨潤性を有する樹脂を核物質として用いた実施例1〜27のフェノール樹脂粒子は、いずれも、真球状に近く表面に凹凸がみられないものであった。これに対して表6の「外観」の欄の評価のように、フェノール溶液に不溶解性・不膨潤性の樹脂や無機物を核物質として用いた比較例2〜11のフェノール樹脂粒子は、いずれも表面に無数の凹凸を有するものであった。
【0111】
一方、比較例1では核物質を用いないでフェノール樹脂粒子を調製するようにしたものであり、その粒度の欄にみられるように、粒径が小さく、比較的大きな粒径のフェノール樹脂粒子を得ることができない。これに対して、核物質を用いてフェノール樹脂粒子を調製するようにした各実施例のものは、比較的大きな粒径のフェノール樹脂粒子を得ることができるものであった。
【0112】
また表6の「灰分」の欄にみられるように、核物質として無機質の珪砂、アルミナ、金雲母、SiC、Qセル(ガラス)を用いる比較例5,6,7,8,11では灰分が不純物として残留することが確認される。
【0113】
また、表2の実施例2〜4と、表5の実施例25〜27の粒度の欄の結果にみられるように、アラビアゴム(分散剤)を反応の最初から反応系に添加した実施例2〜4のフェノール樹脂粒子よりも、反応の途中からアラビアゴムを反応系に添加するようにした実施例25〜27のほうが、粒径の大きなフェノール樹脂粒子を得ることができるものであった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール類とアルデヒド類とを溶液中で分散剤及び核物質の存在下にて縮合反応させることによって、核物質の回りにフェノール類とアルデヒド類の縮合物が付着して形成されるフェノール樹脂粒子を製造するにあたって、核物質として、上記フェノール類の溶液に対して溶解性あるいは膨潤性を有する樹脂を用いることを特徴とするフェノール樹脂粒子の製造方法。
【請求項2】
上記核物質として熱硬化性樹脂を用いることを特徴とする請求項1に記載のフェノール樹脂粒子の製造方法。
【請求項3】
上記熱硬化性樹脂がフェノール樹脂であることを特徴とする請求項2に記載のフェノール樹脂粒子の製造方法。
【請求項4】
上記フェノール樹脂がレゾール型フェノール樹脂であることを特徴とする請求項3に記載のフェノール樹脂粒子の製造方法。
【請求項5】
上記フェノール樹脂がノボラック型フェノール樹脂であることを特徴とする請求項3に記載のフェノール樹脂粒子の製造方法。
【請求項6】
上記フェノール樹脂がレゾール型フェノール樹脂とノボラック樹脂の混合フェノール樹脂であることを特徴とする請求項3に記載のフェノール樹脂粒子の製造方法。
【請求項7】
上記核物質は常温(25℃)で固体であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のフェノール樹脂粒子の製造方法。
【請求項8】
上記核物質として、フェノール類の溶液に対して溶解性あるいは膨潤性を有する樹脂と、フェノール類の溶液に不溶性・不膨潤性の樹脂とを併用することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のフェノール樹脂粒子の製造方法。
【請求項9】
フェノール類とアルデヒド類とを分散剤及び核物質の存在下で縮合反応させることによって、核物質の回りにフェノール類とアルデヒド類の縮合物が付着して形成されるフェノール樹脂粒子を製造するにあたって、フェノール樹脂縮合物が熱硬化性を有する状態で縮合反応を停止させることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載のフェノール樹脂粒子の製造方法。
【請求項10】
フェノール類とアルデヒド類とを分散剤及び核物質の存在下で縮合反応させることによって、核物質の回りにフェノール類とアルデヒド類の縮合物が付着して形成されるフェノール樹脂粒子を製造するにあたって、フェノール樹脂縮合物が不溶不融状態になるまで縮合反応を持続させることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載のフェノール樹脂粒子の製造方法。
【請求項11】
フェノール類とアルデヒド類の縮合反応の最初から、反応系に上記分散剤を存在させて、この縮合反応をさせることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載のフェノール樹脂粒子の製造方法。
【請求項12】
フェノール類とアルデヒド類の縮合反応の途中から、上記分散剤を存在させて、この縮合反応をさせることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載のフェノール樹脂粒子の製造方法。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれかに記載の方法で製造されたものであることを特徴とするフェノール樹脂粒子。
【請求項1】
フェノール類とアルデヒド類とを溶液中で分散剤及び核物質の存在下にて縮合反応させることによって、核物質の回りにフェノール類とアルデヒド類の縮合物が付着して形成されるフェノール樹脂粒子を製造するにあたって、核物質として、上記フェノール類の溶液に対して溶解性あるいは膨潤性を有する樹脂を用いることを特徴とするフェノール樹脂粒子の製造方法。
【請求項2】
上記核物質として熱硬化性樹脂を用いることを特徴とする請求項1に記載のフェノール樹脂粒子の製造方法。
【請求項3】
上記熱硬化性樹脂がフェノール樹脂であることを特徴とする請求項2に記載のフェノール樹脂粒子の製造方法。
【請求項4】
上記フェノール樹脂がレゾール型フェノール樹脂であることを特徴とする請求項3に記載のフェノール樹脂粒子の製造方法。
【請求項5】
上記フェノール樹脂がノボラック型フェノール樹脂であることを特徴とする請求項3に記載のフェノール樹脂粒子の製造方法。
【請求項6】
上記フェノール樹脂がレゾール型フェノール樹脂とノボラック樹脂の混合フェノール樹脂であることを特徴とする請求項3に記載のフェノール樹脂粒子の製造方法。
【請求項7】
上記核物質は常温(25℃)で固体であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のフェノール樹脂粒子の製造方法。
【請求項8】
上記核物質として、フェノール類の溶液に対して溶解性あるいは膨潤性を有する樹脂と、フェノール類の溶液に不溶性・不膨潤性の樹脂とを併用することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のフェノール樹脂粒子の製造方法。
【請求項9】
フェノール類とアルデヒド類とを分散剤及び核物質の存在下で縮合反応させることによって、核物質の回りにフェノール類とアルデヒド類の縮合物が付着して形成されるフェノール樹脂粒子を製造するにあたって、フェノール樹脂縮合物が熱硬化性を有する状態で縮合反応を停止させることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載のフェノール樹脂粒子の製造方法。
【請求項10】
フェノール類とアルデヒド類とを分散剤及び核物質の存在下で縮合反応させることによって、核物質の回りにフェノール類とアルデヒド類の縮合物が付着して形成されるフェノール樹脂粒子を製造するにあたって、フェノール樹脂縮合物が不溶不融状態になるまで縮合反応を持続させることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載のフェノール樹脂粒子の製造方法。
【請求項11】
フェノール類とアルデヒド類の縮合反応の最初から、反応系に上記分散剤を存在させて、この縮合反応をさせることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載のフェノール樹脂粒子の製造方法。
【請求項12】
フェノール類とアルデヒド類の縮合反応の途中から、上記分散剤を存在させて、この縮合反応をさせることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載のフェノール樹脂粒子の製造方法。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれかに記載の方法で製造されたものであることを特徴とするフェノール樹脂粒子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−23616(P2013−23616A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160891(P2011−160891)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(312005186)リグナイト株式会社 (7)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(312005186)リグナイト株式会社 (7)
【Fターム(参考)】
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