説明

フェノール樹脂繊維及びその製造方法

【目的】本発明は、高度な耐熱性、難燃性、耐薬品性を有し、優れて良好な紡績性を具有することから織物、フェルトなどへの機能性付与のための加工が可能な高性能のフェノール樹脂繊維を提供することを目的の一つとする。
【構成】本発明に係るフェノール樹脂繊維は、塩基性触媒の存在下にフェノール類とアルデヒド類とを反応させて得られる常温で固形状のレゾール型フェノール樹脂を熱溶融させ紡糸ノズルより加熱空気流の牽引力により繊維化し、該繊維を酸性ガスに接触させた後、加熱し不溶不融化して得られるものである。得られた当該フェノール樹脂繊維は、高度な耐熱性、難燃性、耐薬品性を有し、優れて良好な紡績性を具有するので、織物、フェルトなどへの機能性付与のための加工が可能な高性能なものである。

【発明の詳細な説明】
【発明の属する技術分野】本発明はフェノール樹脂繊維及びその製造方法に関し、詳しくは耐熱性、難燃性、耐薬品性に優れ、航空宇宙分野から一般産業資材分野まで幅広く利用されるレゾール型フェノール樹脂を原料とする新規なフェノール樹脂繊維及びその製造方法に関する。
【従来の技術】レゾール型フェノール樹脂繊維の製造法は従来いくつか知られている。例えば特公昭48−43570号及び特開昭50−29817号には一定の粘度に調製された液状レゾール型フェノール樹脂を、加熱された流動するポリプロピレングリコールなどの特定の媒体中に投入して攪拌を続行し繊維化する方法が開示されている。しかしながら、この製法では、繊維化するために媒体の温度を狭い範囲に正確に制御する必要があると同時に流動を層流に保持しなければならず、工程上の煩雑さが避けられない欠点を有する。また、原料のレゾール型フェノール樹脂に対し、使用する媒体が大量に必要であることに加えて、不溶、不融で耐熱性、難燃性、耐薬品性の優れたフェノール樹脂繊維が本来保有する性能を得るためには長時間媒体中に保持し硬化反応を継続することが不可欠であり、生産性が悪い欠点を有する。また、実質的にバッチ運転にせざるを得ないため、これも生産性を悪くする要因となっている。更にまた、媒体中へのレゾール型フェノール樹脂の溶出が避けられず、フェノール樹脂繊維の収率が低くなりコスト高の要因となると共に、媒体の廃棄、更新を頻繁に行う必要が生じる。この不要の媒体を廃棄すれば環境問題に発展する危険性があり、これを避けるために処理設備あるいは再生設備等を設置すれば、これも結果としてコストの高い繊維となる欠点を有する。更に、得られるフェノール樹脂繊維中に相当量の媒体が含有されるため、耐熱性、難燃性、耐薬品性の性能低下が避けられない欠点も有する。また、従来知られている技術に、一定粘度に調製された液状レゾール型フェノール樹脂に塩酸や硫酸のような硬化速度を速める酸を混合し、これを特定の加熱された流動する媒体中に投入して繊維化し、硬化反応の短縮、収率の向上を図った製法が特開昭55−163212号に開示されている。しかしながら、この製法においても、加熱された流動する媒体を使用することによる工程上の煩雑さ、生産性の低さ、コスト高、得られる繊維の性能低下の欠点を本質的に有している。更にまた、得られる繊維中に酸が残留し、製品利用時に周囲の設備を腐食させる等の危険性が増加する欠点も有する。また、従来知られている技術に、上述した従来技術のような媒体を使用しないで、フェノール樹脂繊維を製造する方法が提案されている。例えば特開昭49−47613号には3官能性フェノールと2官能性フェノールの混合物を原料として一定の粘度の液状レゾール型フェノール樹脂を製造し、これをいわゆる湿式法で、例えばアセトンのような溶剤と水の混合凝固液に紡出して巻き取った後、乾燥、熱処理により不溶、不融化を行いレゾール型フェノール樹脂繊維を得る方法が開示されている。しかしながら、上記製造方法は、凝固液に紡出された糸の強度が弱いこと及び糸の融着が避けられないことから、巻き取り速度を速くすることができないことに加え、2官能性フェノールを使用するため硬化速度の低下が避けられず、不溶、不融化のために長時間の硬化反応時間を要し、生産性が低い欠点を有している。また、上記特開昭49−47613号には、3官能性フェノールと2官能性フェノールの混合物を原料として一定の粘度の液状レゾール型フェノール樹脂を製造し、これを例えばアセトンのような溶剤に溶解し、これを紡糸原液として、いわゆる乾式法により紡糸する方法も開示されている。しかしながら、上記製造方法においては使用した溶剤の揮散がおこり人体への毒性の問題や火災の危険性が増す欠点を有する。これを避けるために、回収装置を設置すると、多大の費用がかかり、結果的にコスト高となる欠点を有する。また、2官能性フェノール樹脂を使用するため不溶、不融化が不十分になりやすく、耐熱性、難燃性、耐薬品性に劣るフェノール樹脂繊維になってしまう欠点も有する。更にまた、前述した従来技術のような媒体を使用しない製法として、特公平5−9525号には、一定の粘度に調製された常温で液状のレゾール型フェノール樹脂に硬化触媒として酸を混合し、酸による硬化反応を進めつつ紡糸部のディスク上に導き、このディスクの回転による遠心力を利用した、いわゆる遠心紡糸により高温エアー雰囲気中に紡出して繊維化し、必要に応じて熱硬化を継続させレゾール型フェノール樹脂繊維を得る方法が開示されている。しかしながら、上記製造方法は、紡糸部に混合樹脂が至る間に硬化が進むため、混合樹脂の粘性の変化が大きく、安定した繊維形状のものを得ることが困難であり、ときには粒状の樹脂が混入する。このような繊維は、例えば織物やフェルトに加工することができず繊維としての機能、性能低下が避けられない。また、混合樹脂の通過部や紡糸部、ディスクに残留した混合樹脂は短時間でゲル化し、更に硬化するために、長時間の連続運転ができず、頻繁に部品の交換、洗浄が必要となり工程が煩雑で作業性が悪い欠点を有する。更にまた、大量生産する場合にはディスクの直径を大きくする必要があるが、直径の増大には材質に起因する物理的な制限があり、生産性にも限度があるという欠点を有する。
【発明が解決しようとする課題】本発明は上述の如く従来の実情に鑑み開発されたものであり、その目的とするところは、高度な耐熱性、難燃性、耐薬品性を有し、優れて良好な紡績性を具有することから織物、フェルトなどへの機能性付与のための加工が可能な高性能のフェノール樹脂繊維を提供するとともに、人体への毒性の悪影響や火災の危険性、環境汚染の問題がなく、工程上の煩雑さもない良好な作業性を有し、しかも、低コストで生産性良く製造できる上記高性能のフェノール樹脂繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】本発明は、従来知られている液状のレゾール型フェノール樹脂を原料とするものではなく、本来架橋反応の遅い常温で固形状のレゾール型フェノール樹脂を原料として、これを熱溶融させ、紡糸ノズルより、加熱空気流の牽引力により繊維化を行うものである。この紡糸方法はいわゆるメルトブローン法と呼ばれる方法であり、従来熱可塑性樹脂の紡糸方法としては既に公知のものである。しかしながら、本発明の如く熱硬化性樹脂をメルトブローン法により長時間にわたって紡糸する方法は従来知られておらず、本発明がはじめてである。本発明者らは、熱硬化性である常温で固形状のレゾール型フェノール樹脂をメルトブローン法により紡糸すべく鋭意検討した結果、塩基性触媒の存在下にフェノール類とアルデヒド類とを反応させて得られる常温で固形状のレゾール型フェノール樹脂を熱溶融させ紡糸ノズルより加熱空気流の牽引力により繊維化し、該繊維を酸性ガスに接触させた後、加熱して不溶不融化する方法が、人体への毒性の悪影響や火災の危険性、環境汚染の問題がなく、工程上の煩雑さもない良好な作業性を有し、長時間安定して紡糸でき、更に得られる繊維が高度な耐熱性、難燃性、耐薬品性を有し、織物、フェルトなどへの機能性付与のための加工が容易な高性能のフェノール樹脂繊維となることを見出し本発明に到達した。即ち、本発明は、塩基性触媒の存在下にフェノール類とアルデヒド類とを反応させて得られる常温で固形状のレゾール型フェノール樹脂を熱溶融させ紡糸ノズルより加熱空気流の牽引力により繊維化し、この繊維を酸性ガスに接触させた後、加熱し不溶不融化して得られたものであることを特徴とする新規なフェノール樹脂繊維及びその製造方法を提供するものである。また、本発明は、上記固形状のレゾール型フェノール樹脂のJIS K−6910.4.6に規定される方法による融点が30℃乃至80℃であり、且つJIS K−6910.4.8に規定される方法による150℃におけるゲル化時間が60秒以上であることを特徴とし、また、上記酸性ガスが塩化水素ガス又は三ふっ化ホウ素ガスであることを特徴とするものであり、更にまた不溶不融化のための加熱が110℃以下で開始されることを特徴とするものであり、高度な耐熱性、難燃性、耐薬品性を有し、織物、フェルトなどへの機能性付与のための加工が容易な高性能のフェノール樹脂繊維及びその製造方法を提供するものである。以下本発明の詳細を説明する。本発明の常温で固形状のレゾール型フェノール樹脂を得るために使用されるフェノール類としては、例えばフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、ビスフェノールA、2,3−キシレノール、3,5−キシレノール、p−ターシャリブチルフェノール、p−フェニルフェノール、p−オクチルフェノール、レゾルシノールなどがあるが、アルデヒド類と塩基性触媒下で反応させて熱硬化性の樹脂が得られるフェノール類であれば単独でも混合物でも良く、特に限定されない。また、アルデヒド類としては、例えばホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、クロトンアルデヒド、トリオキサン、フルフラール及びこれらの混合物などが挙げられる。また、本発明の固形状レゾール型フェノール樹脂を得るために使用される塩基性触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムのようなアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物や水酸化アンモニウム、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンテトラミンのようなアミン類などが挙げられる。ホルマリンを代表とする前記アルデヒド類(F)とフェノール類(P)とのモル比(以下F/Pと略記する)は1.1:1乃至2.8:1が望ましい。F/Pが1.1:1未満だと、得られる固形状のレゾール型フェノール樹脂の硬化速度が著しく遅くなり、紡糸後の不溶不融化に時間を要し生産性の低下を招き、F/Pが2.8:1を越えると、得られる樹脂のゲル化時間が短くなり、紡糸の連続運転が不可能となり、これも生産性を低下させる。前記塩基性触媒の使用量、反応温度、反応時間は、特に制限はなく、得られる固形状のレゾール型フェノール樹脂のJIS K−6910.4.6に規定される方法による融点が30℃乃至80℃で、且つ、JIS K−6910.4.8に規定される方法による150℃におけるゲル化時間が60秒以上に調製できれば良い。融点が30℃未満だと、紡糸ノズルから加熱空気流の牽引力により繊維化した後の繊維同士の融着が多く、また、その後の酸性ガスによる接触処理、更にまた、その後の不溶不融化のための加熱処理においても融着が生じ易く、繊維形状が保持できなくなり、織物、フェルトなどへの加工が困難になる。また、融点が80℃を越えると、完全溶融させるのに時間がかかり、従って熱溶融させて紡糸ノズルに導く間の時間も長時間を要し、紡糸原料の熱変化が避けられなくなる。これにより、連続紡糸が困難になり好ましくない。また、前記ゲル化時間が60秒未満だと、熱溶融させて紡糸ノズルに導く間に硬化反応が進行し、紡糸の連続運転が困難になる。次に、以上のようにして調製された紡糸原料を、例えば単軸又は2軸押し出し機により搬送、溶融させギアポンプで計量した後、直径0.15乃至0.5mmの口金から吐出させ、口金の周囲に設けたスリットからの加熱された空気流により牽引して繊維化する。当該口金の直径は、得られる繊維の直径に影響するために繊維用途を考慮して選択される。また、吐出量も繊維直径に影響するが、0.05g/min・Hole乃至2.0g/min・Holeの範囲が良い。0.05g/min・Hole未満だと、生産性が低下し、2.0g/min・Holeを越えると、繊維の直径が太くなりすぎて織物やフェルトへの加工ができなくなる。口金の断面形状は円形以外のものを用いてもさしつかえない。また、加熱空気流の流速は、2Nリットル/min・Hole乃至50Nリットル/min・Holeが好ましい。2Nリットル/min・Hole未満だと、繊維直径が太くなりすぎ前記したと同様に、織物やフェルトへの加工が困難になり、50Nリットル/min・Holeを越えると、膨大な量の加熱空気が必要になり、結果としてコスト高の繊維となる。口金の周囲に設けるスリットの形状やスリットの幅は特に限定されるものではなく、空気流の流速と流量を適宜調整できれば良い。加熱空気の流量は最も繊維直径に影響する因子であるので、この制御は重要である。以上のようにして得られた繊維は酸性ガスに接触させられる。酸性ガスは塩化水素ガス又は三ふっ化ホウ素ガスが使用される。接触時間は、接触処理される繊維の平均繊維径と処理される量及び酸性ガスの種類や温度により変えることができるが特に限定されない。極めて短時間の接触処理でもその効果が十分発揮される。例えば平均繊維径が24μmの繊維1kgを接触処理する場合、25℃、常圧において、100%の三ふっ化ホウ素ガスを使用すると、5秒乃至20分間程度という極めて短時間の接触処理で、その後の不溶不融化のための加熱を極めて短時間にすることができる。前記接触処理によって繊維中に含有される三ふっ化ホウ素の量は、数百乃至数千ppmと少量である。このように、常温、常圧で短時間の酸性ガス接触で十分な効果があるため、また、繊維中に含有される酸性ガスも少量で十分の効果があるため、設備上の問題がなく極めて安全に処理が可能である。安全が確保された特殊設備を用いて加熱下で処理しても一向にさしつかえないことは勿論である。酸性ガスの接触処理によりその後の不溶不融化のための加熱が短時間になるのは、接触処理により繊維表面の硬化反応が進行し、繊維同士の融着が防止できることによる。また、酸性ガスを接触させることにより不溶不融化のための加熱が短時間となって容易にフェノール樹脂繊維が得られるのは、本発明が、原料として新規に常温で固形状のレゾール型フェノール樹脂を使用したことにおおいに起因している。即ち、原料がレゾール型フェノール樹脂であるため酸性ガスとの接触による硬化反応が非常に速いこと、更にまた、その原料が固形状であるため、不溶不融化前にメルトブローン法による紡糸により、前もって接触処理操作性の優れる繊維形態が確保できることの二つの優位性に依っている。固形状のレゾール型フェノール樹脂を使用せずに、前述の如く従来知られている液状のレゾール型フェノール樹脂を原料にした場合には、本発明のような酸性ガス処理は物理的に極めて困難か不可能であり、固形状であってもノボラック型フェノール樹脂を原料とした場合には、本発明のような酸性ガスによる接触処理の効果はほとんど期待できない。次に、酸性ガスで接触処理された後の繊維は、不溶不融化のための加熱処理が行われる。処理は110℃以下に設定した加熱炉で開始される。加熱処理は一定温度で行っても良いが、不溶不融化の速度を考慮して段階的或は指数関数的に温度を上昇させても良い。加熱処理温度が高いほど不溶不融化の速度は速くなるが、繊維の軟化による繊維同士の融着も同時に進行する。酸性ガスによる接触処理により繊維表面の硬化が進んでいるとは言え、繊維内部は未硬化であり、従って加熱処理温度の制御は重要である。不溶不融化反応が進行するに従い融点が上昇するが、この上昇する融点の前後の温度に加熱処理温度を制御することにより効率の良い短時間の不溶不融化が可能になり、エネルギーが少なくて済み、低コストの繊維が得られる。加熱処理の開始温度を110℃を越えて高く設定すると、得られる繊維に融着が生じやすく織物やフェルト等への機能性付与のための加工が困難な繊維となってしまう。本発明の製造方法によれば、以上の工程が連続的に長時間運転でき、且つ、媒体や溶剤なども使用しないため、人体への毒性の悪影響や火災の危険性、環境汚染の問題がなく、工程上の煩雑さもない良好な作業性を有し、しかも、低コストで生産性良く新規なフェノール樹脂繊維を製造することができる。そして、このような本発明の製造方法により得られた新規なフェノール樹脂繊維は、高度な耐熱性、難燃性、耐薬品性を有し、織物、フェルト等への機能性付与のための加工が容易な高性能のフェノール樹脂繊維である。
【実施例】以下に本発明の実施態様を実施例により説明する。なお、以下、特に断りのない場合、%は重量により、融点はJIS K−6910.4.6に規定される方法により、150℃におけるゲル化時間はJIS K−6910.4.8に規定される方法による。
[実施例1]フェノール40kg、50%ホルマリン44kgを反応容器に仕込み、25%アンモニア水5.6kgを加えて60℃にて3時間反応させた後、80mmHgの減圧下にて反応混合物内温が80℃に上昇するまで脱水濃縮反応を行い、更にそのまま80℃、80mmHg下に保持して融点42℃、150℃におけるゲル化時間が210秒の、常温で固形状のレゾール型フェノール樹脂を得た。これを粗粉砕した紡糸原料を単軸押し出し機により搬送、溶融させ、ギアポンプで計量した後、0.2mmφ、ホール数100の口金から吐出量0.4g/min・Holeで吐出させ、110℃の加熱空気流を30Nリットル/min・Holeの流量で幅0.3mmのスリットより流して繊維化した。3時間連続して紡糸した後も、安定した一定形状の繊維が得られた。この繊維1kgをビニール袋に入れ、100%三ふっ化ホウ素ガス2gをガスボンベより導いて、25℃、常圧において1分間接触させた後にビニール袋より取り出し、加熱炉に入れ、加熱開始温度を70℃とし、40分で70℃から150℃まで直線的に昇温加熱処理して平均繊維径18μmの不溶不融のフェノール樹脂繊維を得た。
[実施例2]フェノール60kg、50%ホルマリン58kg、ヘキサメチレンテトラミン5kg、25%アンモニア水3kg、水酸化カルシウム0.5kgを反応容器に仕込み60℃にて2時間半反応させた後、10mmHgの減圧下にて脱水濃縮反応を行い融点51℃、150℃におけるゲル化時間が188秒の、常温で固形状のレゾール型フェノール樹脂を得た。この樹脂を2軸押し出し機により搬送、溶融させ、0.2 mmφ、ホール数100の口金から吐出量0.5g/min・Holeで吐出させ、120℃の加熱空気流を30Nリットル/min・Holeの流量で幅0.3mmのスリットより流して繊維化した。3時間連続して紡糸した後も安定した一定形状の繊維が得られた。この繊維1kgをビニール袋に入れ、100%塩化水素ガス5gをガスボンベより導いて、25℃、常圧において10分間接触させた後、ビニール袋より取り出し、加熱炉に入れ、加熱開始温度を50℃とし1時間で50℃から150℃まで直線的に昇温加熱処理して平均繊維径20μmの不溶不融のフェノール樹脂繊維を得た。
[実施例3]p−ターシャリブチルフェノール10kg、フェノール50kg、50%ホルマリン36kg、ヘキサメチレンテトラミン5kg、25%アンモニア水1kgを反応容器に仕込み60℃にて3時間反応させた後、10mmHgの減圧下にて反応混合物内温が70℃に上昇するまで脱水濃縮反応を行った。更にそのまま70℃、10mmHgの減圧下に保持して融点49℃、150℃におけるゲル化時間が260秒の、常温で固形状のレゾール型フェノール樹脂を得た。これを粗粉砕し、単軸押し出し機により搬送、溶融させ、ギアポンプで計量した後、0.2mmφ、ホール数100の口金から吐出量0.4g/min・Holeで吐出させ、110℃の加熱空気流を30Nリットル/min・Holeの流量で幅0.3mmのスリットより流して繊維化した。3時間連続して紡糸した後も安定した一定形状の繊維が得られた。この繊維1kgをビニール袋に入れ、100%三ふっ化ホウ素ガス8gをガスボンベより導き、25℃、常圧において5分間接触させた後、ビニール袋より取り出し、加熱炉に入れ、加熱開始温度を65℃とし1時間で65℃から90℃まで、更に次の1時間で90℃から180℃まで加熱処理して平均繊維径20μmの不溶不融のフェノール樹脂繊維を得た。
[実施例4]フェノール40kg、50%ホルマリン44kg、25%アンモニア水7.4kgを反応容器に仕込み、60℃にて3時間反応させた後、80mmHgの減圧下にて反応混合物内温が80℃に上昇するまで脱水濃縮反応を行い、更にそのまま80℃、80mmHgの減圧下に保持して融点42℃、150℃におけるゲル化時間が173秒の、常温で固形状のレゾール型フェノール樹脂を得た。これを粗粉砕し、単軸押し出し機により搬送、溶融させて、ギアポンプで計量した後、0.2mmφ、ホール数100の口金から吐出量0.4g/min・Holeで吐出させ、110℃の加熱空気流を30Nリットル/min・Holeの流量で幅0.3mmのスリットより流して繊維化した。3時間連続して紡糸した後も安定した一定形状の繊維が得られた。この繊維1kgをビニール袋に入れ、100%三ふっ化ホウ素ガス3gをガスボンベより導いて25℃、常圧にて30秒間接触させた後、ビニール袋より取り出し、加熱炉に入れ、加熱開始温度を25℃とし、40分で50℃まで、次の20分間で90℃まで、更に次の10分間で170℃まで昇温加熱処理して平均繊維径18μmの不溶不融のフェノール樹脂繊維を得た。
[実施例5]フェノール60kg、50%ホルマリン58kg、ヘキサメチレンテトラミン5kg、25%アンモニア水2kgを反応容器に仕込み60℃にて2時間半反応させた後、80mmHgの減圧下にて反応混合物内温が70℃に上昇するまで脱水濃縮反応を行い、更に80mmHgの減圧下に保持して融点32℃、150℃におけるゲル化時間が220秒の、常温で固形状のレゾール型フェノール樹脂を得た。この樹脂を単軸押し出し機により搬送、溶融させ、0.2mmφ、ホール数100の口金から吐出量0.5g/min・Holeで吐出させ、110℃の加熱空気流を30Nリットル/min・Holeの流量で幅0.3mmのスリットより流して繊維化した。3時間連続して紡糸した後も安定した一定形状の繊維が得られた。この繊維1kgをビニール袋に入れ、100%三ふっ化ホウ素ガス6gをガスボンベより導いて、30℃、常圧において20分間接触させた後、ビニール袋より取り出し、加熱炉に入れ、加熱開始温度を80℃とし30分で80℃から160℃まで直線的に昇温加熱処理して平均繊維径24μmの不溶不融のフェノール樹脂繊維を得た。
[実施例6]フェノール60kg、50%ホルマリン58kg、ヘキサメチレンテトラミン5kg、25%アンモニア水2kgを反応容器に仕込み60℃にて2時間半反応させた後、80mmHgの減圧下にて反応混合物内温を70℃に上昇させる脱水濃縮反応を行うところまでは前述した実施例5に示したと同じ反応を行い、その後80mmHgの減圧下に保持して融点56℃、150℃におけるゲル化時間が184秒の、常温で固形状のレゾール型フェノール樹脂を得た。この樹脂を単軸押し出し機により搬送、溶融させ、0.2mmφ、ホール数100の口金から吐出量0.5g/min・Holeで吐出させ、110℃の加熱空気流を30Nリットル/min・Holeの流量で幅0.3mmのスリットより流して繊維化した。3時間連続して紡糸した後も安定した一定形状の繊維が得られた。この繊維1kgをビニール袋に入れ、100%三ふっ化ホウ素ガス6gをガスボンベより導いて、25℃、常圧において10秒間接触させた後、ビニール袋より取り出した。そのまま大気中に24時間放置後、加熱炉に入れ、加熱開始温度を105℃とし40分で105℃から160℃まで直線的に昇温加熱処理して平均繊維径24μmの不溶不融のフェノール樹脂繊維を得た。
[比較例1]フェノール40kg、50%ホルマリン44kgを反応容器に仕込み、25%アンモニア水7.4kgを加えて60℃にて3時間反応させた後、80mmHgの減圧下にて反応混合物内温が80℃に上昇するまで脱水濃縮反応を行い、更にそのまま80℃、80mmHg下に保持して融点28℃、150℃におけるゲル化時間が197秒の、常温で固形のフェノール樹脂を得た。この紡糸原料を単軸押し出し機により搬送、溶融させギアポンプで計量した後、0.2mmφ、ホール数100の口金から吐出量0.4g/min・Holeで吐出させ、110℃の加熱空気流を30Nリットル/min・Holeの流速で幅0.3mmのスリットより流して繊維化した。3時間連続して紡糸したが紡出された繊維は融着部分の多いものであった。この繊維1kgをビニール袋に入れ、100%三ふっ化ホウ素ガス2gをガスボンベより導き25℃、常圧において1分間接触させた後、ビニール袋より取り出し、加熱炉に入れ、5時間で30℃から150℃まで長時間かけて徐々に処理したが、得られた繊維は融着部分が多く、良好な繊維形状が保持できなかった。
[比較例2]フェノール60kg、50%ホルマリン58kg、ヘキサメチレンテトラミン5kg、25%アンモニア水3kgを反応容器に仕込み60℃にて2時間半反応させた後、10mmHgの減圧下にて反応混合物内温が80℃に上昇するまで脱水濃縮反応を行い融点53℃、150℃におけるゲル化時間が180秒の、常温で固形状のレゾール型フェノール樹脂を得た。これを粗粉砕し、2軸押し出し機により搬送、溶融させ、0.2mmφ、ホール数100の口金から吐出量0.5g/min・Holeで吐出させ、120℃の加熱空気流を30Nリットル/min・Holeの流量で幅0.3mmのスリットより流して繊維化した。3時間連続して紡糸した後も安定した一定形状の繊維が得られたが、この繊維1kgをビニール袋に入れ、100%塩化水素ガス5gをガスボンベより導き、25℃、常圧において15分間接触させた後、ビニール袋より取り出し、加熱炉に入れ、加熱開始温度を112℃とし3時間で150℃まで連続処理したところ融着し、良好な繊維形状が保持できず、紡績が不可能なことから、織物、フェルト等への加工のできないものになった。
[比較例3]フェノール60kg、50%ホルマリン58kg、ヘキサメチレンテトラミン5kg、25%アンモニア水5kg、水酸化カルシウム0.5kgを反応容器に仕込み60℃にて3時間半反応させた後、10mmHgの減圧下にて反応混合物内温が90℃に上昇するまで脱水濃縮反応を行い、その後90℃、10mmHg下に保持して融点81℃、150℃におけるゲルタイムが57秒の常温で固形状のレゾール型フェノール樹脂を得た。これを粗粉砕し、2軸押し出し機により搬送、溶融させ、0.2mmφ、ホール数100の口金から吐出させ、繊維化を試みたが安定した紡糸はできなかった。下記表1に、本発明の前記実施例1乃至6により得られたフェノール樹脂繊維の耐熱性、難燃性、耐薬品性、紡績性の結果を、前記比較例1乃至3と併示した。なお、耐熱性(TG)は、空気中において1分間に20℃の速度で昇温した時の熱減量開始温度(℃)、難燃性は限界酸素指数(LOI)、耐薬品性は25℃、18%塩酸中に24時間つけた後の強度保持率(%)、紡績性はテストカード機による外観で評価した。紡績性が良好なものは、織物、フェルト等への加工が容易となる。表1から明らかなように、本発明の前記実施例1乃至6により得られたフェノール樹脂繊維は、各比較例のものと対比するに、高度な耐熱性を有し、特に優れた難燃性及び耐薬品性を有すると共に、優れて良好な紡績性を具有することから、織物、フェルト等への機能性付与のための加工が容易であることがわかる。
【表1】


表1中※は融着し繊維形状が保持されていないため、或いは安定した紡糸ができず繊維化が困難なため、測定することができないものを示す。紡績性における○はテストカード機による紡績性が良好であるもの、△は融着し繊維形状が保持されていないためテストカード機による外観が悪く紡績不可能と判断されたもの、×は融着部分がさらに多く、繊維形状が保持されていないためテストカード機による外観がさらに悪く、紡績不可能と判断されたものを示す。
【発明の効果】以上詳述した本発明によれば、高度な耐熱性、難燃性、耐薬品性を有し、優れて良好な紡績性を具有することから織物、フェルト等への機能性付与のための加工が容易な高性能のフェノール樹脂繊維を提供することができるとともに、人体への毒性や火災の危険性、環境汚染の問題がなく、工程上の煩雑さもない良好な作業性を有し、低コストで生産性の良い上記高性能のフェノール樹脂繊維の製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】塩基性触媒の存在下にフェノール類とアルデヒド類とを反応させて得られる常温で固形状のレゾール型フェノール樹脂を熱溶融させ紡糸ノズルより加熱空気流の牽引力により繊維化し、該繊維を酸性ガスに接触させた後、加熱して不溶不融化することを特徴とするフェノール樹脂繊維の製造方法。
【請求項2】前記固形状のレゾール型フェノール樹脂は、JIS K−6910.4.6に規定される方法による融点が30℃乃至80℃で、且つJISK−6910.4.8に規定される方法による150℃におけるゲル化時間が60秒以上であることを特徴とする請求項1記載のフェノール樹脂繊維の製造方法。
【請求項3】前記酸性ガスは、塩化水素ガス又は三ふっ化ホウ素ガスであることを特徴とする請求項1又は2のいずれか1項に記載のフェノール樹脂繊維の製造方法。
【請求項4】前記不溶不融化のための加熱は、110℃以下で開始されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のフェノール樹脂繊維の製造方法。
【請求項5】塩基性触媒の存在下にフェノール類とアルデヒド類とを反応させて得られる常温で固形状のレゾール型フェノール樹脂を熱溶融させ紡糸ノズルより加熱空気流の牽引力により繊維化し、該繊維を酸性ガスに接触させた後、加熱し不溶不融化して得られることを特徴とするフェノール樹脂繊維。
【請求項6】前記固形状のレゾ−ル型フェノ−ル樹脂は、JIS K−6910.4 .6に規定される方法による融点が30℃乃至80℃で、且つJISK−6910.4.8に規定される方法による150℃におけるゲル化時間が60秒以上であることを特徴とする請求項5記載のフェノール樹脂繊維。
【請求項7】前記酸性ガスは、塩化水素ガス又は三ふっ化ホウ素ガスであることを特徴とする請求項5又は6のいずれか1項に記載のフェノール樹脂繊維。
【請求項8】前記不溶不融化のための加熱は、110℃以下で開始されることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項に記載のフェノール樹脂繊維。

【公開番号】特開平9−132819
【公開日】平成9年(1997)5月20日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−304988
【出願日】平成7年(1995)10月30日
【出願人】(000165000)群栄化学工業株式会社 (108)