説明

フェライト含有充填材の製造方法、電磁波加熱材料、電磁波遮蔽材料

【課題】電磁波加熱材料や電磁波遮蔽材料として有用で安価なフェライト含有充填材を提供する。
【解決手段】鉄を含有するスラグ粒状体または破砕物を酸素富化状態で加熱攪拌した後に急冷処理することによって充填材中のFe23およびFe34の含有率を高める。当該スラグ粒状体および当該破砕物は電気炉酸化スラグまたは銅スラグまたは電気炉ダスト処理スラグである。当該充填材はプラスチック、ゴム、コンクリート、陶磁器、セラミックなどに添加されて用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電磁波加熱材料や電磁波遮蔽材料として有用なフェライト含有充填材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば電磁波加熱材料や電磁波遮蔽材料としては合成樹脂、ゴム、アスファルト、コンクリート、陶磁器等に金属粉を混合するか、金属網や金属薄膜挿入あるいは埋設あるいは貼着したものが提供されている(例えば特許文献1〜5参照)。
【0003】
【特許文献1】特公昭42−11249号公報
【特許文献2】特公昭61−47247号公報
【特許文献3】特開2001−20210号公報
【特許文献4】特開2001−352193号公報
【特許文献5】特開平10−163675号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし金属粉、金属網あるいは金属薄膜は非常に高価であるし、また腐食され易く、更に金属網や金属薄膜は機械的強度が小さく破損し易いと云う問題点がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記従来の課題を解決するための手段として、鉄を含有するスラグ粒状体または破砕物を酸素富化状態で加熱攪拌した後急冷処理することを特徴とするフェライト含有充填材の製造方法を提供するものである。
該鉄を含有するスラグ粒状体または破砕物は、電気炉酸化スラグまたは銅スラグまたは電気炉ダスト処理スラグであることが望ましい。上記フェライト含有充填材は例えば電磁波加熱材料や電磁波遮蔽材料として使用される。
【発明の効果】
【0006】
〔作用〕
鉄を含有するスラグ粒状体または破砕物を酸素富化状態で加熱すると、スラグ粒状体に含まれるFeOがFe23やFe34に酸化され、フェライト含有率が高められ、電磁波加熱性や電磁波遮蔽性が向上する。フェライトは耐化学性を有するので腐食されにくゝ、耐久性のある電磁波加熱材料や電磁波遮蔽材料になる。
該鉄を含有するスラグ粒状体または破砕物として、電気炉酸化スラグまたは銅スラグまたは電気炉ダスト処理スラグを選択すると、上記気炉酸化スラグ、銅スラグあるいは電気炉ダスト処理スラグは産業廃棄物であり、安価な電磁波加熱材料や電磁波遮蔽材料が提供出来る。
【0007】
〔効果〕
本発明においては、安価でかつ耐久性がある電磁波加熱材料や電磁波遮蔽材料として有用なフェライト含有充填材が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明を以下に詳細に説明する。
〔鉄を含有するスラグ〕
本発明において、鉄を含有するスラグとは、主としてFeO、Fe23、Fe34等の鉄酸化物を含有するスラグであり、例えば電気炉酸化スラグ、銅スラグ、電気炉ダスト処理スラグ等が例示される。
【0009】
電気炉酸化スラグは、通常CaO10〜26質量%、SiO2 8〜22質量%、MnO4〜7質量%、MgO2〜8質量%、FeO13〜32質量%、Fe239〜45質量%、Al234〜16質量%、Cr231〜4質量%程度含み、更に微量成分としてBaO0.05〜0.20質量%、TiO2 0.25〜0.70質量%、P250.15〜0.50質量%、S0.005〜0.085質量%程度含み、安定な鉱物組成を得るためのFeを20〜45質量%程度含むものであり、天然骨材成分に含まれる粘土、有機不純物、塩分を全く含まず、不安定な遊離石灰、遊離マグネシアあるいは鉱物も殆ど含まない。該電気炉酸化スラグは粒状物または破砕物として提供される。
銅スラグは銅精錬工程で得られるスラグであり、通常CaO1〜10質量%、SiO225〜40質量%、FeはFeO換算15〜55質量%程度含み、上記電気炉酸化スラグと同様天然骨材に含まれる粘土、有機不純物、塩分は全く含まない。
電気炉ダストは電気炉による製鋼過程において発生する集塵ダストであり、該ダストを加熱溶融することによって亜鉛、カドミウム、鉛等の有害物質を蒸発除去され、電気炉ダスト処理スラグになる。該ダスト処理スラグは、通常CaO5〜20質量%、FeはFeO換算35〜55質量%程度含み、上記電気炉酸化スラグと同様天然骨材に含まれる粘土、有機不純物、塩分は全く含まない。
上記銅スラグ、電気炉ダスト処理スラグも上記電気炉酸化スラグと同様に粒状物または破砕物として提供される。
【0010】
〔電気炉酸化スラグ粒化法〕
上記電気炉酸化スラグを粒化して粒状物を製造するには、該電気炉酸化スラグの溶融物を高速回転する羽根付きドラムに注入し、該溶融物を該羽根付きドラムによって破砕粒状化し、粒状化した該溶融物を水ミスト雰囲気中で急冷処理する方法が採られる。該羽根付きドラムは複数個配置して複数段の破砕粒状化を行なってもよい。
このようにして得られる電気炉酸化スラグの粒状物は、再酸化が促進されるので、Fe23系の鉱物およびFe34系の鉱物(マグネタイト)を多く含み、かつ急冷により、極微細な粒状物になるため、電磁波吸収性が非常に良好なものとなる。また通常5mm以下の粒径を有し、粒径2.5mm以下のものは略球状であり、比重は3.3〜4.1の範囲にあり、表面にはひび割れ等の欠陥はなく、微細な凹凸を有しまた中空構造のものからなるかまたは中空構造のものを含んでいる。
【0011】
〔電気炉酸化スラグ破砕法〕
上記電気炉酸化スラグ破砕物を製造するには、上記電気炉酸化スラグを溶融状態で耐熱容器中に所定の厚みに流し出し、上から水をかけることによって急冷改質処理が施される。この場合、耐熱容器中のスラグ溶融物の厚さが小さすぎると、水をかける前に自然冷却(徐冷)によって硬化し易くなり、所望の硬度が得られなくなるおそれがあり、また厚さが大きくなり過ぎると、水をかけた場合に水が急激に水蒸気となり、水蒸気爆発の危険がある。望ましいスラグ溶融物の厚さは80mm〜120mmである。
【0012】
水をかける場合には耐熱容器中のスラグ溶融物のスラグ溶融物の表面に水が溜まらないようにすることが望ましく、水をかける量が多過ぎてスラグ溶融物の表面に水が溜まって水の蒸発潜熱による急冷効果が期待出来なくなる。
上記水をかける量は、スラグ溶融物1トン当たり毎秒200〜400リットル程度が望ましい。
上記急冷によってスラグ溶融物は急速に硬化するが、この際自己破砕によって容器中のスラグ溶融物の厚さ程度の径を有するスラグ原塊が得られる。
【0013】
該スラグ原塊は粗砕機で粗砕され、更に細砕機で細砕される。上記粉砕によって、スラグ塊はスラグ成分のマトリクスと鉱物相との境界で破断し、表面に微細な凹凸が形成される。所望なれば上記破砕物は粗篩機等によって粗分級され、更に細砕機等によって細分級して5〜25mm望ましくは5〜20mmの粗骨材、粒径5〜13mm望ましくは5〜10mmの粗骨材、および5mm以下の細骨材に分ける。
【0014】
上記粗砕および細砕はスラグ原塊が水で濡れたまゝで行ってもよいし、またスラグ原塊を乾燥して粗砕以後の工程を行ってもよいし、あるいはスラグ原塊を粗砕した後に乾燥して細砕以後の工程を行ってもよい。また上記分級工程において、篩を通過しない残分は破砕工程に戻されることが望ましい。
このようにして得られる破砕物は徐冷スラグに較べ、再酸化が促進されるので、Fe23系の鉱物を多く含み、かつ急冷により、微細な粒状物になるため、電磁波吸収性が非常に良好なものとなり、その比重は水砕品と同様3.3〜4.1の範囲にある。
【0015】
〔改質電気炉酸化スラグ〕
更に本発明にあっては、電気炉酸化スラグに電磁波吸収性を向上させるための添加物を添加してもよい。
上記電磁波吸収性を向上させるための添加物としては、Fe,Ba,Co,Ni,Cr,Cu,Mn,Sr,Zn等の金属あるいはこれら金属を含む合金あるいはこれらの金属の酸化物、水酸化物、塩化物、硫酸塩等の加熱により酸化物を与える化合物およびシリカ粉、ケイ砂、ケイ石の粉末、水ガラス、ケイ藻土、ドロマイト、シリカヒューム、高炉スラグ、フライアッシュ、シラスバルーン、パーライト等のケイ酸含有物質がある。望ましい添加物としては鉄スクラップ、スケール、BaO屑、硫酸バリウムを含む重晶石等がある。
上記添加物は前記粒化法あるいは破砕法において、電気炉酸化スラグ溶融物に添加されるかあるいは電気炉酸化スラグに混合されて共に溶融される。上記溶融は通常電気溶解炉で行われるが、この時溶融物に空気または酸素を吹込み強制酸化処理を施す。上記強制酸化処理は特にFeO比率が高い破砕法によるスラグに対して有効であり、上記強制酸化処理によってFe23やFe34の含有率を高めて電磁波吸収性を向上せしめることが出来る。
該改質電気炉酸化スラグも粒状物または破砕物として提供される。
【0016】
銅スラグは上記電気炉酸化スラグと同様に、上記銅スラグの溶融物を急冷処理して粒化あるいは破砕して分級する。電気炉ダスト処理スラグは前記したようにダストを溶融して有害物質を蒸発除去後、該溶融物を急冷処理して粒化あるいは破砕して分級する。
上記電気炉酸化スラグと同様に、上記銅スラグおよび電気炉ダスト処理スラグには上記電磁波吸収性を向上させるための添加物が添加されてもよいし、また強制酸化処理が行なわれてもよい。
上記銅スラグ粒状物および電気炉ダスト処理スラグ粒状物は上記電気炉酸化スラグ粒状物と同様に通常5mm以下の粒径を有し、粒径2.5mm以下のものは略球状であり、比重は銅スラグ粒状物で3.2〜3.7、電気炉ダスト処理スラグで3.5〜4.5の範囲にあり、表面にはひび割れ等の欠陥はなく、微細な凹凸を有し、また中空構造のものからなるかまたは中空構造のものを含んでいる。
【0017】
〔加熱処理〕
上記鉄を含有するスラグは酸素富化状態で加熱攪拌される。上記加熱攪拌は通常LPG等の燃料を使用したロータリーキルン内で行なわれる。加熱温度は通常700℃〜1100℃程度の範囲に設定される。上記加熱攪拌によってスラグに含まれるFeOがFe23やFe34に酸化され、フェライト含有率が高くなり、電磁波加熱性や電磁波遮蔽性が向上する。
【0018】
以下に本発明を具体的に説明するための実施例を示す。
【0019】
〔実施例1〕(電気炉酸化スラグ粒状物の製造)
図1に本発明の電気炉酸化スラグ粒状物(以下スラグ粒状物と略す)8を製造する装置を示す。
即ち1500℃前後の電気炉酸化スラグ溶融物1は電気溶解炉から取鍋2に移され、該取鍋2からシューター3に移し、該シューター3から高速回転する羽根付きドラム4,5に注入する。該製鋼スラグ溶融物1は該羽根付きドラム4,5によって細破砕されて粒状化し、該電気炉酸化スラグ溶融物の粒化物1Aは急冷チャンバー6内にスプレー装置7からスプレーされる水ミストによって急冷される。そしてこのようにして得られたスラグ粒状物8は備蓄容器9内に備蓄される。
該スラグ粒状物8は略球状の中空体であり、表面にはひび割れ等の欠陥はなく、微細な凹凸が有り、高硬度(モース硬さでマトリックスが6程度、鉱物相が8程度であった。)を有し耐摩耗性に優れており、真比重は3.84、絶乾比重は3.52、耐火度は1100℃で、電磁波吸収性、透磁性、誘電性、耐酸性、耐アルカリ性等にも優れている。
該スラグ粒状物8の粒度分布を図2に示す。
【0020】
〔実施例2〕(電気炉酸化スラグ破砕物の製造)
実施例1において電気溶解炉から取鍋2に移された上記スラグ溶融物は約1350℃に加熱されているが、取鍋2から耐熱容器(皿型鋼鉄製)に約100mmの厚さに流し出され、直ちにスラグ溶融物1トン当たり毎秒300リットル、スプレーにより散水する。
【0021】
このようにして約100mm径のスラグ原塊が得られ、該スラグ原塊のモース硬さはマトリクスで6、鉱物相で8であった。該スラグ原塊は粗砕機で粗砕され、乾燥機で乾燥後細砕機で細砕される。細砕されたスラグ原塊は次いで粗篩機で粗分級され、更に細篩機で細分級されて、5〜20mm粒径の粗骨材または5〜13mm粒径の粗骨材、5mm以下の細骨材に分けられる。
【0022】
〔実施例3〕(銅スラグ、電気炉ダスト処理スラグ粒状物の製造)
銅スラグおよび電気炉ダスト処理スラグ粒状物は、電気炉酸化スラグと同様図1に示す装置によって製造される。銅スラグまたは電気炉ダストはあらかじめ図3に示すような電気溶解炉10中で溶融され、ランス管12から圧縮空気を吹精して強制酸化処理を行ない、電気炉ダストの場合には同時に有害物質を蒸発除去され、上記強制酸化処理を施された銅スラグまたは電気炉ダスト処理スラグ溶融物は1400℃前後の温度であり、該電気溶解炉10から取鍋2に移され、以後実施例1と同様な方法によって粒化される。
得られた銅スラグ粒状物または電気炉ダスト処理スラグ粒状物は略球状の中空体であり、表面にはひび割れ等の欠陥はなく、微細な凹凸があり、高硬度(モース硬さでマトリックスが6程度、鉱物相が8程度であった)を有し、耐摩耗性に優れており、耐火度は1100℃程度であって、比重は銅スラグ粒状物で3.50、電気炉ダスト処理スラグ粒状物で4.1であり、電磁波吸収性、透磁性、誘電性、耐酸性、耐アルカリ性に優れている。上記銅スラグ粒状物および電気炉ダスト処理スラグ粒状物の粒度分布は図2に示す電気炉酸化スラグ粒状物の粒度分布と略同様である。
【0023】
〔実施例4〕(加熱攪拌処理)
実施例1、実施例3において製造した電気炉酸化スラグ粒状物、銅スラグ粒状物、電気炉ダスト粒状物の主要化学成分を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
上記スラグ粒状物の種々の粒度の試料をLPGを燃料とするロータリーキルン内に投入して酸素富化状態で所定温度に加熱し攪拌しその後ロータリーキルンから排出したスラグ粒状物を例えば撒水または水槽中に投入することによって急冷する。上記加熱攪拌によるFe23+Fe34含有率の変化を表2に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
表2に示すように、いずれの材料も加熱攪拌処理によって経時的にFe23+Fe34の含有率が増大するが、粒度が小さい試料の方がFe23+Fe34含有率の増大が顕著になる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明では、電磁波加熱性あるいは電磁波遮蔽性に富むフェライト含有充填材が極めて安価に提供出来、該充填材はプラスチック、ゴム、コンクリート、陶磁器、セラミック等に添加されて優れた電磁波加熱材や電磁波遮蔽材を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】電気炉スラグ粒状物製造装置の説明図
【図2】電気炉スラグ粒状物の粒度分布を示すグラフ
【図3】電気溶解炉説明図
【符号の説明】
【0030】
1 電気炉酸化スラグ溶融物
8 電気炉スラグ粒状物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄を含有するスラグ粒状体または破砕物を酸素富化状態で加熱攪拌した後急冷処理することを特徴とするフェライト含有充填材の製造方法。
【請求項2】
該鉄を含有するスラグ粒状体または破砕物は、電気炉酸化スラグまたは銅スラグまたは電気炉ダスト処理スラグである請求項1に記載のフェライト含有充填材の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のフェライト含有充填材からなる電磁波加熱材料。
【請求項4】
請求項1または2に記載のフェライト含有充填材からなる電磁波遮蔽材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−222105(P2006−222105A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−31178(P2005−31178)
【出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【出願人】(394026079)株式会社星野産商 (12)
【Fターム(参考)】