説明

フェルラ酸の製造方法

【課題】フェルラ酸含有物質を製造する方法の提供。
【解決手段】1)浸出工程、2)固液分離工程において米糠10から溶媒11により浸出して得られた米糠浸出液12から、3)吸着工程において糠臭原因物質である脂肪酸類を米糠吸着物質21として選択的かつ連続的にイオン交換樹脂20に吸着させるとともに、4)反応工程を設けることでフェルラ酸に転換し、さらに5)脱着工程を経てフェルラ酸含有物質40を得る簡便な方法を提供するため、たとえばイオン交換基にあらかじめ特定のイオンが吸着されたイオン交換樹脂20と接触させて、イオン交換樹脂20に米糠吸着物質21を吸着させ、次いでアルカリ性を示す溶液を流すなどして糠臭物質の一部を反応せしめ、米糠反応物質30としてフェルラ酸含有物質40に転換し、さらに塩を含む溶液を流すことで生成物を脱着させる脱着工程を有する製造方法とし、フェルラ酸含有物質40を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米糠浸出物からの簡便なフェルラ酸含有物質の製造方法、当該製造方法により得られたフェルラ酸含有物質に関する。
【背景技術】
【0002】
日本人の主食である米は、現在毎年1000万トン程度生産されているが、通常お米を食する際には精米することで糠層を除去してから食する。そのため、総量の約10%程度、すなわち年間100万トン程度の米糠が副産物として生成されている。しかし、米糠は米油を作る際の原料としての利用は比較的多く行われるが、その大部分は有効に利用されていない。
【0003】
そのなかで、近年米糠に含まれる酵素、アミノ酸などを利用し、付加価値の高い物質への転換を図る技術が考案され、幅広い裾野への展開が期待されている。しかし、米糠を利用したこれらの技術の普及はなかなか進まず、技術導入に関して大きな技術的課題が存在するものと考えられる。
【0004】
その一つとして、米糠が有する独特の糠臭、糠味という問題の存在があげられる。米糠は、米糠から米油が生成されるほどに脂質の含有量が多く、そのため精米してから時間が経過するにつれ脂肪酸類の酸化反応が進行し、いわゆる糠臭、糠味を生成する。また、これらの糠臭類は食品等との相性はきわめて悪く、そのまま用いると元の風味、食味に大きく影響を与えると考えられる。そのため、米糠、あるいは米糠を原料とする種々の物質を有効に利用する際には、糠臭、糠味の除去が重要な技術となる。
【0005】
この糠臭、糠味を取り除く技術として、近年乳酸発酵処理、超音波処理、または放射線照射処理を含む技術が提唱されている。しかし、これらの技術は基本的には分解処理であることから、分解過程で生成する物質の安全性を考えると、生成物は除去することが望ましい。これに対して活性炭処理など、吸着操作を伴う除去法も可能であるが、アミノ酸、酵素類、糖類ほか多成分が混在する系においては選択性が低く、除去対象である脂肪酸類の他、本来であれば必要とされる成分まで吸着してしまい、結果損失を生じる可能性がある。
【0006】
その中で最近、糠臭原因物質が主に脂肪酸の酸化により増加することから、脂肪酸を除去する方法としてイオン交換樹脂を用いて糠臭物質の除去を行う手法が本発明者により提案された(特願2009−09223号)。この方法によれば、たとえば塩化物イオンなど、特定の陰イオン吸着させた陰イオン交換樹脂をカラムに充填し、その後アミノ酸、酵素群等を含む米糠浸出物をカラム上部から流すと、塩化物イオンに対してイオン交換選択性が低いアミノ酸、酵素類はイオン交換をせずにカラムを流出するが、塩化物イオンよりも吸着の選択性が高い脂肪酸類はイオン交換樹脂に吸着されるため、結果、カラムから流出する溶液中の糠味、糠臭の濃度はかなり低下する。したがって、この方法の普及により糠臭、糠味の除去が可能となることから、今後米糠、あるいは米糠浸出物等の有効利用が進むと考える。しかし、イオン交換樹脂法が普及するためには、脱糠臭操作を行った後に、樹脂相に吸着した糠臭物質の類縁物質等を除去し、再び使用できる状態に戻すいわゆる“再生”の操作を必要とする。
【0007】
一般に、イオン交換樹脂の再生操作は、高濃度の塩を含む水溶液を用いて行われることが多いが、樹脂相にタンパク質等が存在する場合には、高濃度の塩を接触させることで塩析の効果により固形物が析出する。また、分子量の大きい炭化水素からなる化合物を吸着させる場合には、疎水性の分子鎖がイオン交換樹脂のマトリックスとの強い相互作用により吸着されるため、可逆的に脱着されにくくなる、いわゆる疎水性吸着の問題が生じる。よって、米糠浸出液などをイオン交換樹脂相に接触させた場合においても、糠臭原因物質の類縁化合物であるリノール酸、オレイン酸の他、米糠中に含有されているγ―オリザノール等のエステル類もイオン交換樹脂相に選択的に吸着していると推測される。
【0008】
ところで、上記のγ―オリザノールはフェルラ酸とトリテルペンアルコール類からなるエステル化合物として知られ、米油を製造した残渣すなわち米油ピッチあるいは米糠ピッチ中に濃縮されている。このγ−オリザノールの基本構造はエステルであることから、アルカリ加水分解によりフェルラ酸とシクロアルテノールを生成する。しかし、米糠ピッチは高分子化された物質いわゆる廃油からなることから、アルカリ水溶液との混和は必ずしも良好ではなく、そのためアルコール類を用いて相互に溶解させて反応を進行させるなどの反応工程の工夫も必要となる(非特許文献1)。よって、フェルラ酸は出発原料である米糠からすると実に多くの工程を経てから得られる物質である。
【0009】
このフェルラ酸というのは抗酸化作用や抗癌作用があるとの報告がなされており、有用な物質として米糠から抽出する技術が提案されている。たとえば前処理に付した米ぬか原油を、高温、真空下で水蒸気を吹込みながら脱酸及び脱臭処理を同時に行うことを特徴とするフェルラ酸エステルに富む食用油の製造法が提案されている(特許文献1)。また、γ−アミノ酪酸抽出液に生玄米表皮と、生玄米胚芽とを主材とした混合素材を浸し、膨潤させてから蒸す工程と、蒸しあがった混合素材に麹菌を混合して、前記各素材の細胞膜を構成するアラビノキシランの50%〜95%の範囲を、製麹中に麹菌の分泌する分解酵素で分解させて、フェルラ酸を分離させながら製麹を行う方法が提案されている(特許文献2)。
【0010】
また、米糠から米サラダ油、米脂肪酸を製造する過程で生じた廃棄物、副産物及びこれらの混合物の群から選択されたγ−オリザノールを含有する原料を用意する工程と、用意されたγ−オリザノールを含有する原料をアルカリの存在下で加水分解する工程とを具備し、この加水分解工程は、原料をアルカリと混合して、この混合物を加熱、攪拌し、加熱攪拌して生じた反応混合物を冷却し、冷却した反応混合物に溶媒を注いで溶媒溶解物を除去し、溶媒溶解物を除去した水溶液を酸性にしてフェルラ酸を析出させる方法が提案されている(特許文献3)。さらにオリザノール、レシチン、トコトリエノールなどを豊富に含む特異な食用油である糠油に着目し、米糠から糠油の生産及び糠油からγ-オリザノールの抽出及び精製についても提案されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7―216381号公報
【特許文献2】特開2004―65156公報
【特許文献3】特公平7―78032公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】谷口久次、野村英作、細田朝夫、「米糠から生産されるフェルラ酸の有用物質への展開」、有機合成化学協会誌、61巻、310―321頁、2003年
【非特許文献2】Patel M.,Naik S.N.,Gamma−oryzanol from rice bran oil −A review−,J. Sci. Ind. Res.,vol.63,569−578,2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前記のうち、食用油の製造法に関する特許文献1および製麹を行う特許文献2に記載の技術はいずれも最終製品を製造する方法であって、フェルラ酸そのものを得る具体的手法を詳らかにするものではなかった。
また、米油などを製造した残渣や廃棄物、副産物を利用してフェルラ酸を得ることを特徴とする非特許文献1、2および特許文献3の方法はいったん発生した残渣などを加工するため、溶解などの工程が増加して反応工程の工夫も必要となるきらいがあった。したがって、フェルラ酸の製造にあたり、工程数も少なく簡便な手法の開発が望まれる。
【0014】
その点、本発明者が提案している、イオン交換樹脂を用いて糠臭原因物質を吸着する手法では、米糠浸出物からの糠臭原因物質を除去したアミノ酸、酵素等含有溶液が得られる他、樹脂相にはγ―オリザノール等の物質も吸着していると推測される。よって、イオン交換樹脂を再利用するために再生操作を行う際、樹脂相に吸着しているγ―オリザノールを利用してフェルラ酸の製造が可能になれば、再生操作と付加価値の高い物質の生産が同時に行えることから非常に効率の良いプロセスの構築が可能になると考えられる。
【0015】
そこで本発明は、工程が簡略化されるとともに、有用酵素群の吸着を抑制しながら糠臭原因物質である脂肪酸群、さらにはフェルラ酸製造の原料となり得る物質を選択的に吸着させ、脱着操作時に化学反応を行いながら脱着するとともにフェルラ酸含有物質を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、イオン交換反応によりアミノ酸、有用酵素等を含む溶液から、選択的に脂肪酸等の有機物が除去でき、さらにイオン交換反応終了後の再生操作の際にアルカリ加水分解反応を行うことでイオン交換樹脂に吸着した物質からフェルラ酸を含む溶液を製造することができることを知見し、本発明を完成させた。
【0017】
すなわち、第一の本発明は、米糠に溶媒を含浸させて浸出してなる米糠浸出液を、イオン交換樹脂と接触させて該イオン交換樹脂に米糠吸着物質を吸着させるとともに、前記米糠吸着物質を反応させて米糠反応物質を生成することを特徴とするフェルラ酸含有物質の製造方法である。このことにより米糠を溶媒に含浸させ、米糠由来の浸出液を作製する浸出工程と、浸出工程により得られた米糠浸出液を固液分離する固液分離工程、固液分離後の米糠浸出液をイオン交換基にあらかじめ特定のイオンが吸着されたイオン交換樹脂と接触させて、当該イオン交換樹脂に米糠中に含まれる糠臭原因物質他の有機物、さらには無機物質からなる米糠吸着物質を吸着させる吸着工程と、イオン交換樹脂相に吸着した米糠吸着物質を原料として米糠吸着物質を反応させて米糠反応物質を生成する反応工程によって上記課題を解決するものである。
【0018】
ここで、「米糠浸出液」とは、米糠を水などの溶媒に含浸させ、米糠から浸出する成分を含む溶液のことであり、当該溶液にコロイド等の不溶物質が含まれても良い概念である。また、「特定のイオン」とは、イオン交換反応により糠臭原因物質他の有機物あるいは無機物質からなる米糠吸着物質を選択吸着可能なイオンのことを言う。たとえば、陰イオンであれば、水酸化物イオン、塩化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン等の無機性のイオン、または酢酸イオン、クエン酸イオン、酒石酸イオン等の有機酸由来の陰イオンのいずれかまたは混合物として用いることができる。
【0019】
このうち、食品他経口摂取を伴う分野、あるいはアルカリ性雰囲気において特性が変化する物質が含有され、後にその流出液を利用する場合には、塩化物イオン、硫酸イオンまたは有機酸由来の陰イオンを用いることが、流出液に対する悪影響が少ないので好ましい。また「米糠吸着物質」とは、イオン交換基に吸着した物質のみを指すのではなく、イオン交換樹脂母材あるいは樹脂マトリックスと吸着物質間の親和力の違いにより吸着した物質をも含み、吸着された結果、樹脂相に存在する物質そのものを表す。
【0020】
第二の発明は前記イオン交換樹脂が、陰イオン交換樹脂である、請求項1に記載のフェルラ酸含有物質の製造方法である。このことによって第一の発明において、米糠吸着物質の中でも特に脂肪酸の吸着を効率的に行うことができるので好ましい。
【0021】
第三の発明はイオン交換基にあらかじめ塩化物イオンが吸着されたイオン交換樹脂に米糠吸着物質を吸着させるとともに、吸着後のイオン交換樹脂にアルカリ性の水溶液を接触させて前記米糠吸着物質を反応させて米糠反応物質を生成することを特徴とする請求項1または2に記載のフェルラ酸含有物質の製造方法である。イオン交換樹脂のイオン交換基には、水酸化物陰イオン他様々な陰イオンを吸着させて用いることが可能であるが、イオン交換後の溶液がアルカリ性を示すと変性が生じやすい酵素類などを含む場合には、あらかじめ塩化物イオンが吸着されていることが好ましい。
【0022】
あらかじめイオン交換基に塩化物イオンを吸着させた後に、アミノ酸、粗酵素、脂肪酸等を含む米糠浸出液を通液すると、含有アミノ酸の吸着を抑制しながらイオン交換反応が効率的に行われること、および流出溶液のpHは米糠浸出液原液のpHと大きく変わらないことから酵素類、タンパク質等の変性が少ない状態で糠臭原因物質である脂肪酸等の米糠吸着物質を、より効率的に選択吸着により除去した状態でできるからである。
【0023】
そして、この塩化物イオンを吸着させた態様においては、イオン交換後の有用な溶液を変性が少ない状態で系から回収した後、吸着後のイオン交換樹脂にアルカリ性の水溶液を接触させて前記米糠吸着物質を反応させて米糠反応物質を生成する必要がある。ここで、糠臭物質等を吸着する工程を経たイオン交換樹脂を水酸化物イオン含有溶液などのアルカリ性の水溶液と接触させてイオン交換樹脂相に吸着した糠臭原因物質等の米糠吸着物質を加水分解反応、エステル交換反応等の化学反応により他の物質に変換する反応工程の前に洗浄等の前処理工程を有することが望ましい。「前処理」としては、例えば水による水洗をあげることができるが、吸着物質の一部を脱着させたい場合には、米糠吸着物質中の糠臭原因物質の脱着が進行しない程度の低濃度の電解質を含む塩類を含む溶液で洗浄することも可能である。この前処理工程によりフェルラ酸含有物質の純度をより上げて反応効率が向上する。
【0024】
第四の発明は前記イオン交換樹脂が、イオン交換基にあらかじめ水酸化物イオンが吸着されたものである、請求項1または2に記載のフェルラ酸含有物質の製造方法である。このことによりイオン交換樹脂に米糠吸着物質を吸着させるのと並行して、あらかじめ吸着してあった水酸化物イオンによって米糠吸着物質を反応させて米糠反応物質を生成することができ、流出溶液を回収してからアルカリ性の水溶液と接触させるという操作を簡略化することができる。その点、本態様における流出溶液のpHは米糠浸出液原液に比べてアルカリ側に変化する点は注意する必要がある。
【0025】
第五の発明は反応後のイオン交換樹脂に電解質を含む水溶液を接触させて前記米糠反応物質をイオン交換樹脂から溶出させることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のフェルラ酸含有物質の製造方法である。第一乃至四の発明によりイオン交換樹脂相において米糠吸着物質が反応してなる米糠反応物質を、樹脂相から脱着するために塩類を含む電解質溶液等の溶液と接触させることで流出させ、利用しやすい形で回収する方法を提供して、前記課題を解決するものである。
【0026】
水酸化物イオン含有溶液を用いる反応工程で糠臭原因物質などを含有する米糠吸着物質の反応処理を行った後、水などの純溶媒さらには塩類を含む溶液などとイオン交換樹脂を接触させ、反応生成物、未反応物質などをイオン交換樹脂から脱着させる脱着工程を有することが利用しやすい形で回収できるので望ましい。脱着工程において、純溶媒として水を用いた場合には、糖類を始め、イオン交換樹脂相内に吸着している非イオン性の物質などの脱着、溶出が可能となるが、第五の発明のように電解質を含む水溶液をもちいると、イオン交換基にイオン交換した無機塩類の他、有機酸などを脱着することが可能となりさらに好ましい。
【0027】
「水酸化物イオンを含む溶液と接触することにより生成した物質」とは米糠反応物質のことであり、上記第一乃至三の本発明によりイオン交換樹脂に吸着させた物質に対し、水酸化物イオンを含む溶液を接触させて得られる米糠反応物質の他、第四の発明によりあらかじめイオン交換樹脂を水酸化物イオン型に調整し、その後樹脂相に米糠浸出物を接触させて生成する米糠反応物質をも含む概念である。
【0028】
そして、第六の発明は米糠に溶媒を含浸させて浸出してなる米糠浸出液を、イオン交換樹脂と接触させて該イオン交換樹脂に米糠吸着物質を吸着させるとともに、前記米糠吸着物質を反応させて米糠反応物質を生成してなり、蛍光検出器を用いた逆相HPLCにより分析した結果、3〜5分の間に2つの大きなピークと8.6分にピークを有することを特徴とするフェルラ酸含有物質である。第一乃至第五の発明にかかる製造方法により製造された吸着物質が、イオン交換樹脂相において水酸化物イオンを含む溶液と接触することにより生成した物質を提供して前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0029】
以上のように第一乃至六の発明によれば、米糠浸出物中に含まれる有用物質の吸着を抑制しつつ、糠臭の原因物質である脂肪酸群等を選択的かつ連続的に除去しながら有用物質を含む溶液を製造するとともに、吸着した物質を原料として化学反応を行うことでフェルラ酸などを含む物質を製造することができるという効果がある。すなわち、これまで不要とされてきた米糠吸着物質をも反応させることにより得られたフェルラ酸含有物質を抗酸化作用や抗癌作用を各用途に適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明のフェルラ酸の製造方法を実施するための工程の一例を示す概略の側面図である。
【図2】イオン交換樹脂へ通液する前後における米糠浸出液に含まれる成分、及びアルカリ反応処理後にイオン交換樹脂より脱着した成分を示す図である。
【図3】フェルラ酸単成分溶液をHPLCにて分析を行った結果である。
【図4】塩化物イオン型に調整したイオン交換樹脂に米糠浸出液を通液して吸着させた後に再び塩化ナトリウム水溶液で脱着させ、その流出溶液をHPLCにて分析を行った結果である。
【図5】塩化物イオン型に調整したイオン交換樹脂に米糠浸出液を通液した後に水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、その後さらに塩化物イオンを含む溶液を滴下することで樹脂相に吸着した物質を流出し、その溶液をHPLCにより分析を行った結果である。
【図6】塩化物イオン型に調整したイオン交換樹脂に米糠浸出液を通液した後に水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、その後さらに塩化物イオンを含む溶液を滴下することで樹脂相に吸着した物質を流出し、その溶液をHPLCにより分析を行った結果の再現性を示す結果と、フェルラ酸単成分溶液を分析した結果を重ねたクロマトグラムである。
【図7】水酸化物イオン型に調整したイオン交換樹脂に米糠浸出液を通液した後に、樹脂相に存在する物質を、塩化物イオンを含む溶液で溶出し、流出液をHPLCにて分析を行った結果である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
第一の発明は図1に示すように、米糠10に溶媒11を含浸させて浸出してなる米糠浸出液12を、イオン交換樹脂20と接触させて該イオン交換樹脂20に米糠吸着物質21を吸着させるとともに、前記米糠吸着物質21を反応させて米糠反応物質30を生成することを特徴とするフェルラ酸含有物質40の製造方法である。
第二の発明は前記イオン交換樹脂20が、陰イオン交換樹脂である、請求項1に記載のフェルラ酸含有物質40の製造方法である。
第三の発明はイオン交換基にあらかじめ塩化物イオンが吸着されたイオン交換樹脂20に米糠吸着物質21を吸着させるとともに、吸着後のイオン交換樹脂20にアルカリ性の水溶液31を接触させて前記米糠吸着物質21を反応させて米糠反応物質30を生成することを特徴とする請求項1または2に記載のフェルラ酸含有物質40の製造方法である。
【0032】
第四の発明は前記イオン交換樹脂20が、イオン交換基にあらかじめ水酸化物イオンが吸着されたものである、請求項1または2に記載のフェルラ酸含有物質40の製造方法である。
第五の発明は反応後のイオン交換樹脂20に電解質を含む水溶液50を接触させて前記米糠反応物質30をイオン交換樹脂20から溶出させることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のフェルラ酸含有物質40の製造方法である。
そして、第六の発明は米糠10に溶媒11を含浸させて浸出してなる米糠浸出液12を、イオン交換樹脂20と接触させて該イオン交換樹脂20に米糠吸着物質21を吸着させるとともに、前記米糠吸着物質21を反応させて米糠反応物質30を生成してなり、蛍光検出器を用いた逆相HPLCにより分析した結果、3〜5分の間に2つの大きなピークと8.6分にピークを有することを特徴とするフェルラ酸含有物質40である。
【0033】
本発明を実施するためには、米糠浸出液12、およびイオン交換樹脂20を必須とし、任意にイオン交換基にあらかじめイオンが吸着されたイオン交換樹脂を調整するための溶液(以下、溶液Aという場合がある。)、及びイオン交換樹脂相で化学反応を促進させるための溶液(以下「溶液B」ということがある。)、さらにはイオン交換樹脂相から物質を脱着させ洗浄するための溶液(以下「溶液C」という場合がある。)を用いることが好ましい。
【0034】
以下、本発明の一実施形態についてさらに図1を用いて詳述する。
<1)浸出工程>
本実施形態に用いられる米糠浸出液12は、米糠10を溶媒11に含浸させ、所定時間静置した後、固液分離操作により浸出液を回収することによって得られる。米糠を含浸させる溶媒11としては特に限定されず、米糠中の有用物質を浸出させることができるものであれば良い。ただし食品や医薬品への応用する場合の安全性を考慮に入れると、水を用いることが好ましい。米糠10と溶媒11の比率、含浸温度、含浸時間等についてはそのパラメータの組み合わせによって適宜最適化されるが、酵素、タンパク質を利用することを想定した場合には、含浸温度については目的の酵素が失活しない程度の温度域となるように制御される。米糠の含浸によりアミノ酸、酵素等の有用成分を浸出させた後に米糠残渣を次の2)固液分離工程において分離することによって米糠浸出液12とされる。
【0035】
<2)固液分離工程>
固液分離操作については特に制限はなく、たとえば遠心分離操作や圧搾操作があげられる。上述の米糠10を溶媒に含浸する際に、あらかじめ米糠を網状の物質に内包させておくと、固液分離、抽出操作が容易となるため好ましい。網状の物質としては、例えば200メッシュのナイロン製網などがあげられる。溶媒11に溶解せず、米糠残渣がメッシュから漏れないような物であれば、材質、メッシュサイズはこれに限る物ではない。米糠を網状の物質に内包させている場合、溶媒含浸物から米糠残渣を分離することによって浸出液を得る操作は、2)固液分離工程に示すような遠心分離による脱水操作が簡便であるが、圧搾操作による溶液の回収も可能である。得られる米糠浸出液12は、米糠残渣の分離方法にもよるが、通常コロイド状態の微小固体物質が分散された白濁した溶液である。
【0036】
得られた米糠浸出液12は上記のようにコロイド状の物質が含有されていることから、その溶液の塩濃度あるいはpHを調整することにより、コロイド状物質の析出量を増加させ、または溶解させることで、コロイド状物質の濃度を低下させても良い。これによりタンパク質を除去する場合には、溶液のpHを除去の対象となるタンパク質の等電点に調整するとその除去効率が向上する。米由来のタンパク質濃度を低減することで、アレルギーのリスクを低下させ、最終製品の品質の向上させることができる。
【0037】
<イオン交換樹脂20>
本実施形態に用いられるイオン交換樹脂20は、米糠浸出液中に含まれるグルタミン酸脱炭酸酵素やアミラーゼ等の酵素を選択的に吸着せず、糠臭原因物質である脂肪酸類、有機物等を選択的に吸着するものであれば特に限定はされないが、陰イオン交換樹脂を用いることが望ましい。陰イオン交換樹脂としては、例えば、強塩基性イオン交換樹脂DIAION SA−10A、SA−11Aや樹脂の膨潤収縮性が高いポーラスタイプのPA−308(いずれも三菱化学社製)等を用いることができる。このようなイオン交換樹脂がカラム等の容器に充填され、上記米糠浸出液のイオン交換反応に供される。なお、このイオン交換樹脂20は、図示しない容器中で流動するようにしてその都度、処理すべき液体と混錬するやりかたでもよいが、図に示すようにカラム等に固定して一方から通液する方が3)吸着工程、4)反応工程、5)脱着工程において通液と回収が一連で処理でき、また吸着の状態が各位置における着色濃度の変化で観察しやすいという利点がある。なお、市販の陰イオン交換樹脂を購入する際にはあらかじめ塩化物イオン等の型に調整されて納品されることから、納品時のイオン交換樹脂をそのまま使用することも可能である。
【0038】
また、本実施形態において、イオン交換樹脂20は酵素群の細孔内への侵入を抑制し、イオン交換基に優先的に糠臭物質である脂肪酸群を吸着させる観点からは、ゲル型のイオン交換樹脂20であって比較的ミクロポアの発達したもの、あるいは塩濃度の変化による膨潤、収縮に対して高い抵抗力を有し、かつイオン交換反応速度が速いポーラス型の樹脂を用いることが好ましい。糖類あるいは分子量が高い有機酸の除去を行う場合、ハイポーラス型の吸着剤を用いることがあるが、酵素に対して細孔径が大きすぎる樹脂を用いると、条件によっては有用なアミノ酸群、酵素群の損失を生じる可能性がある。また、本実施形態において低架橋度の樹脂を用いると、塩濃度に応じてゲルの膨潤、収縮が生じるため、非イオン性物質(糖質、着色成分)の吸着・脱着が容易となる。
【0039】
<イオン交換樹脂を調整するための溶液(溶液A)>
本実施形態においては、上記イオン交換樹脂20は溶液Aにより調整されることで、あらかじめイオン交換基に特定のイオンが吸着された状態にある。当該特定のイオンとしては、吸着操作後の流出溶液のpHが高くなることにより酵素の活性あるいはタンパク質の性質に影響を与える場合には系内がアルカリ性の雰囲気とならないような陰イオンが好ましく、例えば、塩化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、または有機酸由来の陰イオンを用いることが好ましい。
【0040】
このことで米糠浸出液12をイオン交換樹脂相に通液した際のアミノ酸の吸着が抑制される。例えば、上記イオン交換樹脂20にあらかじめ塩化ナトリウム等の塩化物イオンを含む溶液Aを通液し、イオン交換基に塩化物イオンを吸着させておく。イオン交換樹脂20の樹脂相は、溶液A中に含まれる糠臭原因物質である脂肪酸類に起因するカルボキシル基が解離しやすく、かつ、当該脂肪酸類のアルカリ加水分解反応が生じない、弱酸性から中性付近のpH領域になるような物質をイオン交換させることが望ましい。ただし、カラムから流出した流出溶液13を利用しない場合には、溶液Aとしてあらかじめ水酸化物イオンを供給し、イオン交換樹脂20の型を水酸化物イオン型にすることも可能である。
【0041】
溶液Aの濃度、供給速度、供給時間については、イオン交換基にイオンが吸着する条件であれば特に限定されない。例えば、上記イオン交換樹脂20を充填したカラム等の容器に、1N塩化ナトリウム水溶液を、空間速度20で30分通液し、樹脂相を塩化物イオン型に調整した後、同程度の空間速度、時間で蒸留水を通液することで、容器内に存在する塩化ナトリウム水溶液を蒸留水で置換し、イオン交換樹脂20が調整される。
【0042】
<4)反応工程に用いるための溶液(溶液B)>
本発明に用いられる溶液Bとしては、加水分解反応や、エステル交換反応を促進する溶液Bであれば特に限定されない。例えば、タンパク質の一部を分解可能であり、かつ、エステル交換反応を生じさせやすいアルカリ溶液とすることが好ましい。アルカリ溶液の具体例としては、水酸化物イオンを含む溶液であることが好ましい。さらに具体的には水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属塩を含む溶液、または水酸化カルシウムや水酸化バリウム等のアルカリ土類金属塩を含む溶液とすることが好ましく、水酸化ナトリウム水溶液とすることが特に好ましい。また、経口摂取等を念頭に置く場合には、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウムなどの食品添加物から成るアルカリ溶液を用いても良い。なお、溶液Bの濃度としては、反応が十分に進行する程度の濃度であれば特に限定されない。
【0043】
<イオン交換樹脂を洗浄するための溶液(溶液C)>
本実施形態において用いられる溶液Cとしては、イオン交換樹脂20を洗浄することが可能な溶液であれば特に限定されない。例えば、水(イオン交換水、蒸留水等)とすることができる。また、イオン交換樹脂20を溶液B、C及び上記溶液Aに交互に繰り返し接触させることで、非イオン性物質の4)反応工程、5)脱着工程と溶液Aに含まれるイオンの3)吸着工程とをイオン交換樹脂20の活用と再生の際、より効率的なサイクルによって行うことができる。
【0044】
以下、本発明の一実施形態にかかる米糠浸出物を用いたフェルラ酸の製造方法について図1〜7を用いてさらに具体的に詳述する。
<1)浸出工程>および<2)固液分離工程>
本実施形態にかかるフェルラ酸含有物40の製造方法においては、まず米糠10を溶媒11に含浸させて米糠浸出液12を作製する工程を備える。米糠浸出液12の作り方については上述と同様であるため省略する。
【0045】
<3)吸着工程>
(糠臭物質除去工程)
得られた米糠浸出液12は、上記溶液A用いた操作の後、イオン交換樹脂20を充填したカラム等の容器に供給されて、固定層連続吸着操作が行われることで、糠臭物質などを含有する米糠吸着物質21としてイオン交換樹脂20に吸着され、米糠浸出液12から除去され流出溶液13が回収される。除去対象となる糠臭物質はおもに脂肪酸類であることから、これらの物質はカルボキシル基を有し、弱酸性からアルカリ性雰囲気においては陰イオンに解離する性質を有する。したがって、特に、陰イオン交換樹脂を充填し、あらかじめイオン交換基に塩化物イオンなどのイオンを吸着させた後に、米糠浸出液12を通液すると、脂肪酸類はイオン交換反応により樹脂相に選択的に吸着される一方、アミノ酸や有用酵素群はイオン交換樹脂にほとんど吸着せずに容器から白濁したコロイド状の流出溶液13として流出する。
【0046】
すなわち、当該溶液が糠臭物質である脂肪酸類が低減、除去された流出溶液13である。この糠臭除去された流出溶液13は、溶液のまま米糠浸出物として利用される他、これを乾燥させて粉体状の米糠浸出物とすることもでき、また、流出溶液13を凍結させて取り扱うこともできる。流出溶液13を乾燥する際には、凍結乾燥を行うことが好ましく、予備冷凍として寒剤による冷凍を行うことが望ましい。使用する寒剤は流出溶液13を凍結するのに十分な冷却能力を有していればどのような物を使用してもよく、メタノール−氷程度の冷却能力を有する寒剤でも十分利用可能である。これらの各形態の流出溶液13は米糠浸出物として、高い酵素活性を有するとともに、従来よりも糠臭が低減されたものであり、γ−アミノ酪酸等を生成するための、各種酵素反応に好適に用いられる。
【0047】
糠臭物質などの米糠吸着物質21の吸着操作時には、時間の経過とともにカラム中のイオン交換樹脂相に濃い黄色から茶色の吸着着色帯が樹脂層上部から下部に向かって徐々に出現するが、この吸着着色帯が糠臭原因物質等を含む米糠吸着物質21に相当する。なお、吸着操作時の通液量は、全体のイオン交換樹脂20層の長さに対する吸着着色帯の相対長さ等の指標により適宜判断され得る。
【0048】
イオン交換樹脂20に着目すると、イオン交換樹脂20に吸着した糠臭物質などの米糠吸着物質21は、上記溶液Aによるイオン交換樹脂20の調整、溶液Bを用いるなどによるアルカリ加水分解の4)反応工程を経て、C溶液で洗浄後、再びA溶液を用いることで脱着、前処理される5)脱着工程を経て、イオン交換樹脂20が再生される。以下、イオン交換樹脂20の樹脂相における4)反応工程について説明する。
【0049】
<4)反応工程>
まず、糠臭物質である脂肪酸類などの米糠吸着物質21を吸着したイオン交換樹脂20を、溶液Bすなわちアルカリ性の水溶液31を用いて反応処理を行う。イオン交換樹脂20に吸着した米糠吸着物質21の脱着の前に、溶液Bを先に通液することにより、イオン交換樹脂相で米糠吸着物質21を脱着しやすい形態へと変るとともに、オリザノール等のエステル類のエステル交換反応を促進して米糠反応物質30に変換し、この米糠反応物質30を樹脂層下部から処理溶液13として順に溶出させる。
【0050】
なお、第四の発明のように溶液Aとして水酸化ナトリウム水溶液など水酸化物イオンを含む溶液を用いてイオン交換樹脂20の調整を行った場合、上記糠臭除去の3)吸着工程の操作を行った際には、糠臭物質の吸着と糠臭物質の反応が同時に進行し、4)反応工程を兼ねることとなり樹脂層下部からは反応に伴う米糠反応物質30と未吸着物質の混合物が流出する。具体的には、例えば、糠臭除去工程における吸着操作後、水を供給することにより容器内を置換してから、1Nの水酸化ナトリウム水溶液を空間速度20程度の速度で供給する。そして、溶液Bの供給を続けることで、米糠反応物質30とともに米糠吸着物質21の一部も脱着し処理溶液13として徐々に容器から流出する。
【0051】
<5)脱着工程>
まず、反応操作終了後のカラムに水あるいは電解質溶液50からなる溶液Cを流入し、イオン交換樹脂20の系内を洗浄、置換し、未反応物質を洗浄、処理溶液13として溶出させる。そして、その後溶液Aをカラム内に通液することで、イオン交換樹脂20のイオン交換基に再度目的とするイオンが吸着された状態となる。この再生工程においては、イオン交換基に吸着した物質の他に、糖類他非イオン性を示す物質も収着していることから、溶液Cによる洗浄と溶液Aによる再生の工程を交互に繰り返すことによりその再生効率は向上する。この再生工程を経ることで、イオン交換樹脂20は再生され、繰り返し米糠浸出液12を処理することが可能となる。
【0052】
具体的には、例えば容器内を蒸留水で洗浄、置換した後、1Nの塩化ナトリウム水溶液を空間速度20で供給し、容器から流出する液を回収する。好ましくは蒸留水による洗浄操作と塩化ナトリウム水溶液による再生操作とを二回以上繰り返す。この際に得られる処理溶液13としては、糠臭原因物質などの米糠吸着物質21を含む溶液である。塩化ナトリウム水溶液を通液し、塩化物イオン型に再生されたイオン交換樹脂20は、蒸留水により系内を置換した後、米糠浸出液12の吸着処理に使用される。
【0053】
上記説明においては溶液Aを主に塩化物イオンを含む溶液を用いる場合について詳述したが、溶液Aとして水酸化ナトリウム水溶液など水酸化物イオンを含む溶液とした場合には、米糠浸出液の吸着過程において溶液Bによる反応工程も同時に進行することとなる。ただし、流出溶液13のpHは高くなることから、流出溶液13中の酵素、タンパク質等の変性をもたらす可能性がある。
【0054】
以下、上記図1に示す本発明の工程により得られる種々の物質の特性を示すデータを図2乃至7に示し、これらの図に基づき、本発明にかかる実施例について説明する。
図2に3)吸着工程の様子を示す。溶液Aとして1N塩化ナトリウム水溶液を、空間速度20で30分通液し、塩化物イオン型に調整した陰イオン交換樹脂20を充填したカラムに、米糠浸出液12を流して処理を行った流出溶液13、およびイオン交換樹脂20を充填したカラムを通さない未処理の米糠浸出液12のそれぞれを凍結乾燥して乾燥粉末とし、当該各乾燥粉末を水に溶解して、水溶性の物質について蛍光検出器を有する逆相HPLCにより分析を行った結果を示す。なお分析は、50mM酢酸ナトリウム/メタノール(90:10,pH6.0)、ならびに水/メタノール(10:90)を溶離液とした、グラジエント溶出型OPAプレカラム誘導体化法により、蛍光検出器を用いて行った。図中の線Aは、未処理の米糠浸出液12の測定結果、線Bはイオン交換処理を行った流出溶液13を測定した結果である。
【0055】
図2より、未処理の米糠浸出液12を示す線Aは3〜5分までの間に3つのピークが観測されているが、イオン交換樹脂による処理を行った流出溶液13の場合には線Bで表される様に5分までの全体ピーク面積が減少するとともに、未処理の米糠浸出液12に現れている最初の3分のピークに相当するピークが消失していることがわかる。また、7分以降のHPLCクロマトグラムには、イオン交換樹脂20による処理を行った流出溶液13と未処理の米糠浸出液12とで、大きな違いは見られない。そして、各溶液を蒸留水で希釈し味覚を確かめた結果、イオン交換樹脂による処理を行った物質由来の流出溶液13からは、糠臭、糠味をあまり感じることはなかった。このことから、イオン交換樹脂20による処理を行った流出溶液13について、7分程度までに現れる全体のピーク面積が減少したのは、イオン交換樹脂20による処理を行うことによってイオン交換樹脂相に糠臭物質が米糠吸着物質21として吸着されたためと考えられる。
【0056】
また、図2に、吸着操作の後、イオン交換樹脂20に溶液Bとして水酸化ナトリウム水溶液を滴下して加水分解反応を行った後、さらに塩化ナトリウム水溶液を用いてイオン交換樹脂20に吸着している物質を脱着させた際に得られる流出溶液13を、蛍光検出器を有する逆相HPLCにて分析を行った結果を示す。図2中の実線Cが水酸化ナトリウム水溶液による加水分解反応を行った後、すなわち4)反応工程の後に塩化ナトリウム水溶液により脱着した流出溶液13を分析した結果である。この場合、各時間における線Aと線Bのピーク面積差は、イオン交換樹脂相に吸着した物質量に相当する。また、水酸化ナトリウムによる化学変化が生じないと仮定すると、線Cの分析結果は、線A、線Bのピーク面積差に対応して増減するだけであるはずと考えられる。
【0057】
しかし、図2によれば、水酸化ナトリウム水溶液により反応処理を行った後に塩化ナトリウム水溶液で脱着した液においては、線Aの一つ目のピークに相当するピーク1(線Bにおいてイオン交換樹脂20による処理により消失したピーク)に相当する物質が確認された。また線Aの二つ目、三つ目のピーク2、3に相当する物質は明確には確認されなかったが、保持時間が短時間側と長時間側にシフトした物質が確認され、水酸化ナトリウムによる何らかの化学変化が生じたことが示された。
【0058】
図3に、標準物質としてLKT Laboratories 社製のフェルラ酸(純度99.4%)を水に溶解し、溶離液としてリン酸(0.1mol/l)とアセトニトリルの混合溶液(75:25)を、また、検出器として蛍光検出器を用いた逆相HPLCにより分析した結果を示す。図3より本分析法においては8.6分付近にフェルラ酸のピークが出現することがわかる。これより、本分析法において8.6分にピークが出現した場合には、フェルラ酸由来のピークであると同定できる。
【0059】
図4に、イオン交換樹脂20に溶液Aとして塩化ナトリウム水溶液を流してイオン交換樹脂20を塩化物イオン型に調整し、次いで米糠浸出液12を滴下して糠臭物質などの米糠吸着物質21を吸着させた後、すなわち3)吸着工程の後で4)反応工程の前の状態、における米糠吸着物質21を塩化ナトリウム水溶液で脱着させた場合の流出溶液13を図3と同様の条件でHPLCにて分析を行った結果を示す。図4より、3〜5分の間に糠臭原因物質に起因する物質のピークが確認できるが、8.6分付近にはピークがほとんど出現していない。この結果より、単に米糠浸出液から米糠吸着物質21を除去しただけの流出溶液13の中にはフェルラ酸は存在していないことがわかる。
【0060】
図5に、イオン交換樹脂20に溶液Aとして塩化ナトリウム水溶液を流して塩化物イオン型に調整した後、米糠浸出液12を滴下して糠臭物質を吸着させ、その後溶液Bとして水酸化ナトリウム水溶液を滴下して30分間放置、さらに溶液Cとして塩化ナトリウム水溶液を流して脱着させた流出溶液13を用いて図3と同様の条件でHPLCにより分析を行った結果を示す。図5より、この場合も3〜5分の間に糠臭原因物質に起因すると思われる物質のピークが確認できるが、溶液Bである水酸化ナトリウムによる反応を行うと、そのピークの相似性は失われることがわかる。また、そのほかに8.6分付近に図4には見られなかったピークが存在している。このことから、糠臭物質などの米糠吸着物質21の吸着操作後に反応操作を行うことで、吸着した米糠吸着物質21の一部からフェルラ酸が生成して米糠反応物質が得られたことがわかる。
【0061】
図6に、図5の実験の再現性を確認するため同じイオン交換樹脂20を用いて繰り返して同様の実験を行い、すなわち浸出工程から脱着工程に至る一連の操作を同じイオン交換樹脂を用いて繰り返して行い、その中の5回目の実験の脱着工程において流出する溶液13、40に関して、図3と同様の条件の下で分析を行うことで得られたクロマトグラムを図3のフェルラ酸のクロマトグラムと重ねて表した結果を示す。図6より、実線で表される流出溶液13、40に関するクロマトグラムの一部は、図3から写した点線で表されるフェルラ酸のみのピークの保持時間と完全に一致していることがわかる。このことから、8.6分付近に現れるピークはフェルラ酸であることがわかる。これにより、イオン交換樹脂20を繰り返し使用してもフェルラ酸が製造できることがわかる。
【0062】
図7に、第四の発明、すなわちあらかじめイオン交換樹脂20に水酸化ナトリウム水溶液を流してイオン交換樹脂20を水酸化物イオン型に調整した後、米糠浸出液12を滴下し、30分後に塩化ナトリウム水溶液で脱着した溶液を図3と同様の条件でHPLCにて分析を行った結果を示す。図7より、この場合においても3〜5分の間に糠臭原因物質、ならびにアルカリによる反応生成物に由来すると思われるピークが存在しているが、そのほかに8.6分付近においてもピークが確認できる。このピークの保持時間は図3のフェルラ酸の保持時間に一致していることから、流出溶液13中にはフェルラ酸が存在していることがわかる。このことより、糠臭物質などの米糠吸着物質21の吸着後に水酸化ナトリウムを滴下して反応する手法の他に、あらかじめ溶液Aとして反応を促進する水酸化物イオンをイオン交換樹脂20に吸着させておき、その後米糠浸出液12を流す、いわゆる吸着と反応を同時に行う手法によってもフェルラ酸が生成することがわかる。
【0063】
図5乃至7に示すように、米糠に溶媒を含浸させて浸出してなる米糠浸出液を、イオン交換樹脂と接触させて該イオン交換樹脂に米糠吸着物質を吸着させるとともに、前記米糠吸着物質を反応させて米糠反応物質を生成してなり、蛍光検出器を用いた逆相HPLCにより分析した結果、3〜5分の間に2つのピークとそれらに挟まれ低ピークのさらに半分以下まで落ち込む深い谷部が示され、さらに8.6分にピークを有することを特徴とするフェルラ酸含有物質が得られ、米糠を総合的に利用する新規産業、さらには食品分野、化粧品、医薬分野等において特に好適に用いられる。
【0064】
以上、現時点において、もっとも実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読みとれる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うフェルラ酸含有物質の製造方法、得られるフェルラ酸含有物質、イオン交換樹脂上に吸着した米糠反応物質、脱着後の米糠反応物質もまた本発明の技術的範囲に包含される物として理解されなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、米糠浸出物から糠臭を除去した浸出物を得ることができるとともに、糠臭原因物質からフェルラ酸を製造することができる。よって、本発明では米糠の有効利用を図る際の糠臭を除いたアミノ酸、粗酵素群含有溶液を生産することはもちろんのこと、その際に生成する廃棄物からフェルラ酸も生産できることから、米糠を総合的に利用する新規産業、さらには食品分野、化粧品、医薬分野等において特に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0066】
10 米糠
11 溶媒
12 米糠浸出液
13 流出溶液
20 イオン交換樹脂
21 米糠吸着物質
30 米糠反応物質
40 フェルラ酸含有物質
50 水あるいは電解質溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
米糠に溶媒を含浸させて浸出してなる米糠浸出液を、イオン交換樹脂と接触させて該イオン交換樹脂に米糠吸着物質を吸着させるとともに、前記米糠吸着物質を反応させて米糠反応物質を生成することを特徴とするフェルラ酸含有物質の製造方法。
【請求項2】
前記イオン交換樹脂が、陰イオン交換樹脂である、請求項1に記載のフェルラ酸含有物質の製造方法。
【請求項3】
イオン交換基にあらかじめ塩化物イオンが吸着されたイオン交換樹脂に米糠吸着物質を吸着させるとともに、吸着後のイオン交換樹脂にアルカリ性の水溶液を接触させて前記米糠吸着物質を反応させて米糠反応物質を生成することを特徴とする請求項1または2に記載のフェルラ酸含有物質の製造方法。
【請求項4】
前記イオン交換樹脂が、イオン交換基にあらかじめ水酸化物イオンが吸着されたものである、請求項1または2に記載のフェルラ酸含有物質の製造方法。
【請求項5】
反応後のイオン交換樹脂に電解質を含む水溶液を接触させて前記米糠反応物質をイオン交換樹脂から溶出させることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のフェルラ酸含有物質の製造方法。
【請求項6】
米糠に溶媒を含浸させて浸出してなる米糠浸出液を、イオン交換樹脂と接触させて該イオン交換樹脂に米糠吸着物質を吸着させるとともに、前記米糠吸着物質を反応させて米糠反応物質を生成してなり、蛍光検出器を用いた逆相HPLCにより分析した結果、3〜5分の間に2つの大きなピークと8.6分にピークを有することを特徴とするフェルラ酸含有物質。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−140443(P2011−140443A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−340(P2010−340)
【出願日】平成22年1月5日(2010.1.5)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【Fターム(参考)】