説明

フォトエレクトロクロミック素子、並びに調光ガラス、透過率調整ガラス、熱線カットガラス及び画像表示デバイス

【課題】
外部電源が無くても、任意に着色又は消色を切り換えることができるフォトエレクトロクロミック素子を提供すること。
【解決手段】
透明基板、その上に積層された透明電極膜、エレクトロクロミック膜、及び有機色素を吸着した金属酸化物半導体電極膜を含む電極フィルム、透明基板、その上に積層された透明電極膜及び触媒薄膜を含む対向電極フィルム、及びこれらの両電極フィルム間に狭持された電解質を含むフォトエレクトロクロミック素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調光ガラス、透過率調整ガラス及び熱線カットガラス、並びに画像表示デバイスに有利に使用することができるフォトエレクトロクロミック素子に関する。
【背景技術】
【0002】
ビルディング等の建物においては、窓が大量の熱の出入り場所となっていることはよく知られている。例えば、冬の暖房時の熱が窓から流出する割合は48%程度であり、夏の冷房時に窓から熱が入る割合は71%にも達するとの報告もある。従って、このような窓において、光、熱の流出入コントロールを適当に行うことができれば、膨大な省エネルギーがもたらされることは明らかである。
【0003】
このような光、熱の流出入コントロールを行うことのできるガラスは、調光ガラスとして知られている。電流の印加により可逆的に透過率が変化するエレクトロクロミック材料を用いたものが代表的な例で、例えば、酸化タングステンの薄膜を用いたエレクトロクロミック型ガラスが知られている。
【0004】
このようなエレクトロクロミック型の調光ガラスは、ガラス板上に付着させた透明電極膜(ITO(インジウム/スズ−酸化物)、SnO2 が一般的に知られている)を互いに対向配置させた2枚のガラス板の内側面(透明電極膜の付着面)の周辺に、電極(銀、銅などの導体性ペースト、箔、板が一般的に知られている)が設置されている。2枚のガラス板のうち1枚のガラス板の透明電極膜の上に更に酸化タングステンを付着させ、これら2枚のガラス板間の周辺をシール剤で密封し、シール剤の内周側に電解質を封入している。この電解質に、それぞれのガラス板に設置された電極を介して通電することにより、電解質と酸化タングステンの間における反応により、電解質及び酸化タングステンの着色及び消色がなされる。このようなエレクトロクロミック型調光ガラスは、例えば特許公報1(特開2003−344876号)に記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−344876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようにエレクトロクロミック型調光ガラス は、駆動させるために外部電源から電線を通じて電気の供給が受けられるように、電線と電極との接合がなされている。電極に用いられる導体は、銀、銅など電気的に低抵抗値材料であり、その抵抗値はガラス板ほぼ全面に付着している透明電極膜の抵抗値より低いため、電極全周に容易に通電でき、電極全周から透明電極膜に通電できるようになっている。このように、エレクトロクロミック型調光ガラスにおいては、着色・消色のために外部の電源を必要とするため、使用上の制約がある、或いは電気料金が嵩む等の問題がある。
【0007】
一方、光により色等が変化する材料であるフォトクロミック材料も知られているが、適度な明るさに透過率をコントロールすることができるような実用的な材料は知られていない。また、任意に着色・消色の切り換えをすることもできない。
【0008】
従って、本発明は、外部電源が無くても、任意に着色又は消色を切り換えることができるフォトエレクトロクロミック素子を提供することをその目的とするものである。
【0009】
また、本発明は、外部電源が無くても、任意に着色又は消色を切り換えることができる調光ガラスを提供することをその目的とするものである。
【0010】
さらに、本発明は、外部電源が無くても、任意に着色又は消色を切り換えることができる透過率調整ガラスを提供することをその目的とするものである。
【0011】
また、本発明は、外部電源が無くても、任意に着色又は消色を切り換えることができる熱線カットガラスを提供することをその目的とするものである。
【0012】
さらに、本発明は、外部電源が無くても、任意に着色又は消色を切り換えることができる画像表示デバイスを提供することをその目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、
透明基板と、その上に積層された透明電極膜、エレクトロクロミック膜、及び金属酸化物半導体に有機色素(分光増感色素)とが吸着されてなる金属酸化物半導体電極膜を含む電極フィルム、
透明基板と、その上に積層された透明電極膜及び触媒薄膜とを含む対向電極フィルム、及び
これらの両電極フィルム間に狭持された電解質、
を含むフォトエレクトロクロミック素子にある。
【0014】
上記本発明のフォトエレクトロクロミック素子において、好ましい態様は下記の通りである。
【0015】
1)両透明電極間にスイッチング素子が設けられている。
【0016】
2)両透明電極間に、外部電源に接続され得るスイッチングが可能な外部回路が設けられている。太陽電池で駆動が不可能になった場合、或いは外部電源で駆動させたい場合に、便宜である。
【0017】
3)外部回路により直流電流が印加される。
【0018】
4)透明基板が、透明樹脂フィルムである。可撓性があるので、種々な形状に貼付が可能となる。透明樹脂フィルムの材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルサルファイド(PES)又はフッ素樹脂が好ましい。
【0019】
5)透明電極膜、エレクトロクロミック膜、金属酸化物半導体膜及び触媒薄膜の少なくとも1つの膜が、気相成膜法により形成されている。全ての膜を気相成膜法で形成することが好ましい。
【0020】
6)上記気相成膜法としては、物理蒸着法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、CVD法またはプラズマCVD法等を挙げることができ、特に反応性スパッタリング法、プラズマ発光フィードバック又はインピーダンスフィードバックを用いた高速成膜法、又はデュアルカソード型スパッタリング法が好ましい。
【0021】
7)金属酸化物半導体膜が、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化ニオブ、酸化タングステン又は酸化インジウム、或いはこれらの金属酸化物に他の金属若しくは他の金属酸化物をドーピングしたものから形成されている。特に、酸化チタン、酸化亜鉛又は酸化スズから形成されていることが好ましい。少量の色素量でも効率良く発電できること、及び光量が少なくても効率良く発電できること等の点で有利である。
【0022】
8)エレクトロクロミック膜が、酸化タングステン、酸化タンタル、酸化モリブデン、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化ロジウム、酸化ニオブ、酸化ニッケル、酸化イリジウム又はこれらの酸化物に水素又はリチウム、ナトリウム若しくはカリウムがドーピングされたものから形成されている。これらの材料、特に酸化タングステン、又はアルカリ金属(好ましくはLi又はK)若しくは水素をドーピングした酸化タングステンの使用が、着色時と消色時の透過率の変化が大きいので有利である。
【0023】
また、本発明は、
上記のフォトエレクトロクロミック素子を含む調光ガラス;
上記のフォトエレクトロクロミック素子を含む透過率調整ガラス;
上記のフォトエレクトロクロミック素子を含む画像表示デバイス;及び
上記のフォトエレクトロクロミック素子を含む熱線カットガラス、にもある。
【0024】
上記画像表示デバイスは、本発明の素子に、例えばさらにパターニングされた透明電極を設けることにより作製され得る。また熱線カットガラスは、エレクトロクロミック膜が熱線(IR)を吸収及び反射するので、エレクトロクロミック膜の材料、厚さを適宜変更することにより得られる。
【発明の効果】
【0025】
本発明のフォトエレクトロクロミック素子は、従来の有機色素増感型太陽電池にエレクトロクロミック膜が組み込まれている。このため、外部電源が無くても電流を素子内に導入することができるので、外部電源を供給するための外部回路を設けなくても任意にエレクトロクロミック素子の着色又は消色を切り換えることができる。また、外部回路を設けた場合は、夜間等光のない状態での着色・消色の制御が容易になり、また着色・消色の程度等についても大幅に向上させることできるとの利点を有する。従って、外部電極を設けることにより素子の用途が大幅に拡大する。
【0026】
特に、本発明の素子の各層(膜)を、スパッタリング等の気相成膜法を利用することにより、低温で全ての膜を形成することができることから、ポリマー基板を用いたフレキシブルな素子の作製が可能となる。また、気相成膜法として、プラズマ発光フィードバック又はインピーダンスフィードバックを用いた高速成膜法、或いはデュアルカソード型スパッタリング法を用いた場合は、特に高速での膜形成が可能となり、素子の生産性が格段に向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下図面を参照して、本発明のフォトエレクトロクロミック素子の実施の形態を詳細に説明する。
【0028】
図1は本発明のフォトエレクトロクロミック素子の実施形態の一例を示す断面図である。
【0029】
図1において、透明基板11A、その表面に透明電極膜12Aが設けられ、透明電極膜表面に触媒薄層13が形成され、これにより電極フィルム1Aが構成され、その下方に、透明基板11B、その表面に透明電極膜12B、その透明電極膜表面にエレクトロクロミック膜16、その上に金属酸化物半導体に分光増感色素が吸着された金属酸化物半導体電極膜15が形成され、これにより対向電極フィルム1Bが構成されている。そして、これらの両電極フィルム1Aと1Bは透明電極膜同士を対向させて重ねられ、これらの間には電解質14が封入されている。さらに、透明電極膜12Aと透明電極膜12Bとは、一方の側で連結され、途中に電気を通すためのスイッチSw1が設けられている。これにより、スイッチSw1をオンにすると両電極膜間の電位差が0になる。また透明電極膜12Aは透明電極膜12Bとは、他方の側でも連結され、途中に、外部電源に接続された外部回路17及び電気を通すためのスイッチSw2が設けられている。回路17は無くても良いが、光のないところでは素子の制御が制限される。スイッチSw1は一般に設けられるが、無くても着色・消色は光照射、電気を逃がすことにより可能である。
【0030】
スイッチSw1あるいは外部電源に接続された外部回路17を含むスイッチSw2と、透明電極膜との接続は、一般に下記のようになされている。透明基板ほぼ全面に付着している透明電極膜の周囲に、外部電源等から電線を通じて電気の供給(或いは電気の遮断)が受けられるように銀、銅など電気的に低抵抗値材料の配線(電極)が設けられている。配線の材料は、上記のように銀、銅など電気的に低抵抗値材料であり、その抵抗値は透明電極膜の抵抗値より低いため、電極全周に容易に通電でき、或いは電気を容易に逃がすことができる。
【0031】
尚、本発明のフォトエレクトロクロミック素子は、上記のような順序で各層(膜)が積層されることが好ましいが、順序を多少変更しても(例えば、エレクトロクロミック層が対向電極の透明電極膜上に設けても良い)使用可能な場合がある。またこれらの各層(膜)の間に接着剤層等の補助層を設けても良い。
【0032】
上記図1で示される本発明のフォトエレクトロクロミック素子において、外部電源を使用しない場合、通常、太陽電池が働くように、外部電源に接続された外部回路17のスイッチSw2はオフにして使用される。詳細には、外部電源を使用しない場合において、太陽光等の光が照射される条件で、スイッチSw1をオフにした場合、半導体電極膜の分光増感色素の光吸収による励起に起因して、透明電極膜12Aと透明電極膜12Bとの間は電解質14により電気が流れ、従ってエレクトロクロミック膜16にも電気が流れて、エレクトロクロミック材料に電荷とイオンが注入されて着色する(透過率が低下する)。同様に、太陽光等の光が照射された条件で、スイッチSw1をオンにした場合、エレクトロクロミック膜16に注入された電荷は、Sw1を経由して外部回路(Sw1を含む外部回路)を通って透明電極膜12Aに流れ出す。このためエレクトロクロミック膜16は電荷及びイオンを失い消色する(透過率が向上する)。
【0033】
一方、太陽光等の光が照射されない条件で、スイッチSw1をオフにした場合、エレクトロクロミック膜16に注入された電荷及びイオンは、膜16内に保持されるので、エレクトロクロミック膜16は前の状態、即ち着色状態であった場合は着色、消色であった場合は消色を維持する。そして光無照射で、スイッチSw1をオンにした場合、透明電極膜12Aと透明電極膜12Bとの間の電位差は0になるため、エレクトロクロミック膜16は消色する(透過率が向上する)。
【0034】
従って、上記本発明のフォトエレクトロクロミック素子では、電源を有する外部回路が無くても、エレクトロクロミック膜16の着色・消色を、特に光照射時には自由に選択することができる。また、例えば、夜になって太陽光が照射しなくなってからは、通常、エレクトロクロミック膜16を着色・消色を変更させる必要は余りないので、上記本発明のフォトエレクトロクロミック素子は外部回路が無くても十分に実用性のあるものであるということができる。
【0035】
光照射の無い条件で外部電源に接続された外部回路17を使用した場合(電気が逃げないようにSw1はオフとする)、スイッチSw2をオンの時、透明電極膜12Aと透明電極膜12Bとの間、そしてエレクトロクロミック膜16に電気が流れ、着色する(透過率が低下する)。スイッチSw2をオフにし、スイッチSw1をオンにした場合、透明電極12Aと透明電極12Bとの間の電位差が無くなるところまでエレクトロクロミック膜16から電荷とイオンが流出するため、エレクトロクロミック膜16は消色する(透過率が向上する)。
【0036】
このように、上記本発明のフォトエレクトロクロミック素子では、上記外部回路を有する場合は、夜等の光が照射されない条件でも、着色・消色を自由に制御することができ、広範な用途に使用することができる。
【0037】
本発明のフォトエレクトロクロミック素子は、透明基板に可撓性のある透明樹脂フィルムを用いて作製し、これを必要に応じてガラス板等に貼付して、調光ガラス、透過率調整ガラス、画像表示デバイス或いは熱線カットガラスとして使用しても良いし、或いは透明基板の一方又は両方にガラス板を使用し、得られた素子をそのまま調光ガラス、透過率調整ガラス、画像表示デバイス或いは熱線カットガラスとして使用しても良い。
【0038】
また、2枚の透明基板の内側面には、それぞれの周辺に、黒色セラミックペースト等の暗色隠蔽層が設けられていても良い。さらに、2枚の透明基板間の周辺に、周辺接着シール剤が設けられていてもよい。一般に、周辺接着シール剤の内周側に電解質が封入される。黒色セラミックペーストは、駆動を担う構成の一部である電解質の周辺末端と、周辺電極とが外観視にて見えないようにそれらを隠蔽している。
【0039】
本発明のフォトエレクトロクロミック素子に使用される各材料について説明する。
【0040】
上記透明基板11A、11Bとしては、可視光線の透過性を確保できる、透明な種々の有機樹脂基板或いはガラス基板を使用することができる。有機樹脂基板の場合、その厚さは、25μm〜10mmが一般的であり、0.1〜10mmが好ましい。有機樹脂の例としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリカーボネート、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)及びETFE(エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体)等のフッ素樹脂等を挙げることができる。ガラス基板の場合、その厚さは、25μm〜10mmが一般的であり、0.5〜5mmが好ましい。
【0041】
上記有機樹脂基板上には、他の素材に接着させるための接着剤層を設けることが好ましく、その際、接着剤層上に保護するために剥離フィルムを設けることが好ましい。剥離フィルムとしては、ポリカーボネートフィルム、PETフィルム等が利用される。その厚さは、一般に1〜1000μm、10〜500μmが好ましい。接着剤層に使用される樹脂としては、エチレン/酢酸ビニル共重合体、粘着性アクリル樹脂(例、ブチルアクリレート重合体)を挙げることができる。これらの樹脂は加熱等により架橋されても良い。その厚さは、一般に1〜1000μm、10〜500μmが好ましい。
【0042】
上記透明電極膜12A、12Bとしては、In23やSnO2の導電性金属酸化物薄膜を形成したもの、あるいは金属等の導電性材料からなる基板が用いられる。導電性金属酸化物の好ましい例としては、In23:Sn(ITO)、SnO2:Sb(ATO)、SnO2:F(FTO)、ZnO:Al、ZnO:F、CdSnO4を挙げることができる。ITO、ATO、FTOが特に好ましい。
【0043】
上記透明電極膜の一方12A上には触媒薄膜13が設けられる。触媒薄膜は、後述するようにI3-イオン等の酸化型のレドックスイオンの還元反応を充分な速さで行わせる機能を有する。その材料としては、例えば、白金、金、銀、銅、ロジウム、ルテニウム等の金属、酸化ルテニウム、カーボン等が挙げることができる。特に、白金が好ましい。その厚さは、一般に0.1〜1000nm、特に0.5〜10nmが好ましい。
上記透明電極の他方12B上にはエレクトロクロミック膜16が設けられる。エレクトロクロミック膜には、通電により、色の変化等を含む透過率の変化を示す材料が一般に使用される。従来の調色ガラス等に使用される材料を用いることが好ましい。その材料としては、例えば、酸化タングステン、酸化タンタル、酸化モリブデン、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化ニッケル、酸化イリジウム又はこれらの酸化物に水素又はリチウム、ナトリウム若しくはカリウムがドーピングされたものを挙げることができる。これらの材料(特に酸化タングステン、或いは水素又はリチウム、ナトリウム若しくはカリウム(好ましくはLi又はK)をドーピングした酸化タングステンが好ましく、中でも酸化タングステンが好ましい)は、着色時と消色時の透過率の変化が大きいので有利である。その厚さは、一般に10〜5000nm、50〜1000nmが好ましい。
【0044】
上記エレクトロクロミック膜16上には、光電変換材料用半導体である、金属酸化物半導体に分光増感色素が吸着した金属酸化物半導体電極膜15が形成される。本発明の金属酸化物半導体としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化アンチモン、酸化ニオブ、酸化インジウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、硫化カドミウムなどの公知の半導体の一種または二種以上を用いることができる。特に、酸化チタン、酸化亜鉛又は酸化スズが好ましい。中でも、安定性、安全性の点から酸化チタンが好ましい。酸化チタンとしてはアナタース型酸化チタン、ルチル型酸化チタン、無定形酸化チタン、メタチタン酸、オルソチタン酸などの各種の酸化チタンあるいは水酸化チタン、含水酸化チタンが含まれる。本発明ではアナタース型酸化チタンが好ましい。金属酸化物半導体の膜厚が、10nm以上であることが一般的であり、100〜10000nmが好ましい。
【0045】
本発明の金属酸化物半導体の膜は、従来の発電目的の色素増感型太陽電池と異なり、膜に大きな空隙率を必要とせず、むしろ空隙率が大きすぎて余り大量の色素を吸着すると、色素により透過率が低下し、消色時に十分な透過率が得られなくなる。このため膜の空隙率が大きいときは膜厚を薄くし、空隙率が小さいときは膜厚を厚くし、最適な色素量が得られるように調節することが好ましい。従って、金属酸化物半導体の膜の空隙率は5〜20%、特に5〜15%が好ましく、膜厚は前記のように100〜5000nm、特に500〜2000nmが好ましい。特に、空隙率(%)×膜厚(nm)の値が、1000〜20000、さらに3000〜15000の範囲が好ましい。
【0046】
このような構造を有する金属酸化物半導体膜は、一般に、種々の気相成膜の形成方法により得ることができる。
【0047】
この上記金属酸化物半導体の膜は、例えば、上記材料に対応する金属及び/又は金属酸化物をターゲットとして用いて、気相成膜法、例えば、物理蒸着法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、CVD法またはプラズマCVD法により形成することができる。本発明の金属酸化物半導体膜3を形成するための好ましい方法は、特に反応性スパッタリング法、プラズマ発光フィードバック又はインピーダンスフィードバックを用いた高速成膜法、又はデュアルカソード型スパッタリング法を採用することが好ましい。
【0048】
上記金属酸化物半導体膜を形成するための特に好ましい方法としては、スパッタリング法を用い、1.3W/cm2以上、さらに2.6W/cm2以上、特に11W/cm2以上のターゲット投入電力密度、及び0.6Pa以上、さらに2.0Pa以上、特に2.6Pa以上の圧力の条件下に行うことであり、スパッタリング法としては、特にデュアルカソード型スパッタリング法が好適であり、また反応性スパッタリング法も好ましい。
【0049】
デュアルカソード型スパッタリング法は、反応性スパッタリング法、即ち酸素ガス等の反応性のガスを導入しながら金属又は金属酸化物をスパッタリングすることが好ましい。特にターゲットとして金属チタン、酸化チタン、とりわけ導電性酸化チタンを用いて、酸素ガスを供給しながらスパッタリングを行うことが好ましい。
【0050】
また、デュアルカソード型スパッタリング法、反応性スパッタリング法に代えて、プラズマ発光フィードバック又はインピーダンスフィードバックを用いた高速成膜法を用いることも好ましい。この方法は、プラズマ発光強度又はプラズマインピーダンスをフィードバックするシステムを用いてスパッタリングする方法で、スパッタリングとしてはデュアルカソード型反応性スパッタリング法或いはデュアルカソード型マグネトロンスパッタリング法を採用することが好ましい。
【0051】
上記のように、通常のスパッタリング条件より、過激な条件でスパッタリングを行うことにより、半導体膜を急速に形成することができ、これにより前記特定の形状、構造を有する金属酸化物半導体膜を得ることができる。これにより有機色素の吸着量を大幅に増加させることが可能で、高いエネルギー変換効率を有し、高効率の太陽電池を得ることができる。
【0052】
尚、透明電極膜12A、12B、触媒薄層13及びエレクトロクロミック膜16も、金属酸化物半導体膜の形成と同様にして、一般にスパッタリングにより形成することができる。特に反応性スパッタリング、デュアルカソード型スパッタリング法、反応性スパッタリング法、プラズマ発光フィードバック又はインピーダンスフィードバックを用いた高速成膜法が好ましい。
【0053】
分光増感色素は、可視光領域および/または赤外光領域に吸収を持つものであり、本発明では、種々の金属錯体や有機色素の一種または二種以上を用いることができる。分光増感色素の分子中にカルボキシル基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシル基、スルホン基、カルボキシアルキル基の官能基を有するものが半導体への吸着が早いため、本発明では好ましい。また、分光増感の効果や耐久性に優れているため、金属錯体が好ましい。金属錯体としては、銅フタロシアニン、チタニルフタロシアニンなどの金属フタロシアニン、クロロフィル、ヘミン、特開平1−220380号公報、特許出願公表平5−504023号公報に記載のルテニウム、オスミウム、鉄、亜鉛の錯体を用いることができる。有機色素としては、メタルフリーフタロシアニン、シアニン系色素、メロシアニン系色素、キサンテン系色素、トリフェニルメタン色素を用いることができる。シアニン系色素としては、具体的には、NK1194、NK3422(いずれも日本感光色素研究所(株)製)が挙げられる。メロシアニン系色素としては、具体的には、NK2426、NK2501(いずれも日本感光色素研究所(株)製)が挙げられる。キサンテン系色素としては、具体的には、ウラニン、エオシン、ローズベンガル、ローダミンB、ジブロムフルオレセインが挙げられる。トリフェニルメタン色素としては、具体的には、マラカイトグリーン、クリスタルバイオレットが挙げられる。
【0054】
有機色素(分光増感色素)を導電体膜に吸着させるこのためには、有機色素を有機溶媒に溶解させて形成した有機色素溶液中に、常温又は加熱下に酸化物半導体膜を基板ととも浸漬すればよい。前記の溶液の溶媒としては、使用する分光増感色素を溶解するものであればよく、具体的には、水、アルコール、トルエン、ジメチルホルムアミドを用いることができる。
【0055】
このようにして、有機色素増感型金属酸化物半導体電極膜(光電変換材料用半導体)を得る。
【0056】
このようにして得られた、基板上に透明電極及び有機色素吸着金属酸化物半導体が形成された有機色素増感型金属酸化物半導体電極を用いて、本発明の太陽電池付きエレクトリッククロミック素子(フォトエレクトロクロミック素子)を作製する。例えば、一方の、透明電極(透明性導電膜)をコートした透明有機樹脂基板上に、触媒薄層を形成して一方の電極フィルム(1A)とし、次に透明電極(透明性導電膜)をコートした透明有機樹脂基板上に、エレクトロクロミック膜16及び光電変換材料用半導体電極膜15を形成して色素を吸着させ、他方の電極フィルム(1B)とし、これらの電極フィルムを封止剤により接合させ、これらの電極間に電解質を封入して本発明の素子とすることができる。これにスイッチを、及び外部電源(外部回路)が一般に取り付けられる。
【0057】
本発明の半導体膜に吸着した分光増感色素に太陽光を照射すると、分光増感色素は可視領域の光を吸収して励起する。この励起によって発生する電子は半導体に移動し、次いで、エレクトロクロミック膜に移動する。エレクトロクロミック膜に移動した電子は、電解質中イオンをエレクトロクロミック膜に引き込む。一方、半導体に電子を移動させた分光増感色素は、酸化体の状態になっているが、この酸化体は電解質中の酸化還元系によって還元され、元の状態に戻る。膜中に取り込まれた電子(電荷)とイオンによりエレクトロクロミック膜は着色する。このようにして、本発明のフォトエレクトロクロミック素子は機能することができる。
【0058】
上記電解質(レドックス電解質)としては、I-/I3-系や、Br-/Br3-系、キノン/ハイドロキノン系等が挙げられる。このようなレドックス電解質は、従来公知の方法によって得ることができ、例えば、I-/I3-系の電解質は、ヨウ素のリチウム塩とヨウ素を混合することによって得ることができる。電解質は、液体電解質又はこれを高分子物質中に含有させた固体高分子電解質であることができる。液体電解質において、その溶媒としては、電気化学的に不活性なものが用いられ、例えば、アセトニトリル、炭酸プロピレン、エチレンカーボネート等が用いられる。対極としては、導電性を有するものであればよく、任意の導電性材料が用いられるが、本発明では、I3-イオン等の酸化型のレドックスイオンの還元反応を充分な速さで行わせる触媒能を持った前記触媒薄層13が形成された透明電極12Bが使用される。
【実施例】
【0059】
以下に実施例を示し、本発明についてさらに詳述する。
【0060】
[実施例1]
(A)触媒薄膜及び透明電極膜付き透明有機樹脂基板(電極フィルム(図1の1Aに対応))の作製
スパッタリング装置を用いて、透明有機樹脂基板上に透明電極膜を形成した。
【0061】
5×5cmのポリエチレンテレフタレート基板(厚さ:188μm)上に、100mmφのITO(インジウム−スズ酸化物)のセラミックターゲットを用い、アルゴンガスを10cc/分、酸素ガスを1.5cc/分で供給しながら、装置内の圧力を5ミリトール(mTorr)に設定し、供給電力500Wの条件で5分間スパッタリングを行い、厚さ300nmのITO膜を形成した。表面抵抗は10Ω/□であった。
【0062】
得られた透明電極膜上に、100mmφのPtターゲットを用い、アルゴンガスを10cc/分で供給しながら、装置内の圧力を5ミリトール(mTorr)に設定し、供給電力200Wの条件で20秒間スパッタリングを行い、厚さ3nmのPtの触媒薄膜を形成した。
【0063】
(B)金属酸化物半導体膜、エレクトロクロミック膜及び透明電極膜付き透明有機樹脂基板(電極フィルム(図1の1Bに対応))の作製
(1)透明電極付き透明有機樹脂基板の作製
スパッタリング装置を用いて、透明有機樹脂基板上に透明電極膜を形成した。
【0064】
5×5cmのポリエチレンテレフタレート基板(厚さ:188μm)上に、100mmφのITO(インジウム−スズ酸化物)のセラミックターゲットを用い、アルゴンガスを10cc/分、酸素ガスを1.5cc/分で供給しながら、装置内の圧力を5ミリトール(mTorr)に設定し、供給電力500Wの条件で5分間スパッタリングを行い、厚さ3000ÅのITO膜を形成した。表面抵抗は10Ω/□であった。
【0065】
(2)エレクトロクロミック膜の作製
プラズマ発光フィードバック付きデュアルカソードマグネトロンスパッタリング装置を用いて、上記のITO透明電極上に、直径100mmの金属タングステン(W)ターゲットを2枚配置し、アルゴンガスを100cc/分で供給した。酸素ガスは、プラズマの発光強度が一定になるようにフィードバックを行いながら導入した。成膜中の酸素流量は10〜15cc/分であった。供給電力3kW(電力密度19W/cm2)の条件で32分間スパッタリングを行い、厚さ300nmの酸化タングステンのエレクトロクロミック膜を形成した。
【0066】
(3)金属酸化物半導体膜の作製
プラズマ発光フィードバック付きデュアルカソードマグネトロンスパッタリング装置を用いて、上記のエレクトロクロミック膜上に、直径100mmの金属チタンターゲットを2枚配置し、酸素ガスを5cc/分で供給した後、装置内の圧力を5ミリトール(0.7Pa)に設定した。酸素ガスは、プラズマの発光強度が一定になるようにフィードバックを行いながら導入した。成膜中の酸素流量は10〜15cc/分であった。供給電力3kW(電力密度19W/cm2)の条件で60分間スパッタリングを行い、厚さ800nmの酸化チタン膜を形成した。
【0067】
得られた半導体膜の空隙率を測定した。
【0068】
空隙率の測定方法:
下記の重量をそれぞれ測定し、下記式より求めた(測定はJISZ8807に準じて行った):
w1:水を充分に含ませた試料質量(g)
w2:試料の絶乾質量(g)
w3:試料の浮力(g)
空隙率=(w1−w2)/w3×100
上記測定により、上記半導体膜の空隙率は17%であった。
【0069】
(4)分光増感色素の吸着
シス−ジ(チオシアナト)−ビス(2,2’−ビピリジル−4−ジカルボキシレート−4’−テトラブチルアンモニウムカルボキシレート)ルテニウム(II)で表される分光増感色素をエタノール液に溶解した。この分光増感色素の濃度は3×10-4モル/lであった。次に、このエタノールの液体に、膜状の酸化チタンを形成した前記の基板を入れ、室温で18時間浸漬して、本発明の金属酸化物半導体電極を得た。
【0070】
(5)太陽電池付きフォトエレクトロクロミック素子の作製
得られた2つの電極フィルムの間に電解質を入れ、この側面を樹脂で封入した後、リード線及びスイッチ(Sw1)を取付けて、本発明の素子(図1のSw2を持たないタイプ)を作製した。なお、電解質は、アセトニトリルの溶媒に、ヨウ化リチウム、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムアイオダイド、ヨウ素及びt−ブチルピリジンを、それぞれの濃度が0.1モル/l、0.3モル/l、0.05モル/l、0.5モル/lとなるように溶解したものを用いた。
【0071】
得られた素子に、ソーラーシュミレーターで100W/m2 の強度の光を照射したところ、Swオフ状態では着色し、透過率は12%(分光光度計を用いて測定し、視覚補正を行った)であった。またSwオン状態では消色し、透過率は72%であった。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明のフォトエレクトロクロミック素子における実施形態の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0073】
1A 電極フィルム
1B 対向電極フィルム
11A、11B 透明基板
12A、12B 透明電極膜
13 触媒薄層
14 電解質
15 分光増感色素が吸着した金属酸化物半導体電極膜
16 エレクトロクロミック膜
17 外部電源に接続された外部回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と、その上に積層された透明電極膜、エレクトロクロミック膜、及び金属酸化物半導体に有機色素が吸着されてなる金属酸化物半導体電極膜とを含む電極フィルム、
透明基板と、その上に積層された透明電極膜及び触媒薄膜とを含む対向電極フィルム、及び
これらの両電極フィルム間に狭持された電解質、
を含むフォトエレクトロクロミック素子。
【請求項2】
両透明電極間にスイッチング素子が設けられている請求項1に記載のフォトエレクトロクロミック素子。
【請求項3】
両透明電極間に、外部電源に接続され得るスイッチングが可能な外部回路が設けられている請求項1又は2に記載のフォトエレクトロクロミック素子。
【請求項4】
外部回路により直流電流が印加され得る請求項3に記載のフォトエレクトロクロミック素子。
【請求項5】
透明基板が、透明樹脂フィルムである請求項1〜4のいずれか1項に記載のフォトエレクトロクロミック素子。
【請求項6】
透明樹脂フィルムの材料が、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルサルファイド又はフッ素樹脂である請求項5に記載のフォトエレクトロクロミック素子。
【請求項7】
透明電極膜、エレクトロクロミック膜、金属酸化物半導体膜及び触媒薄膜の少なくとも1つの膜が、気相成膜法により形成されている請求項1〜6のいずれか1項に記載のフォトエレクトロクロミック素子。
【請求項8】
透明電極膜、エレクトロクロミック膜、金属酸化物半導体膜及び触媒薄膜の全て膜が、気相成膜法により形成されている請求項7に記載のフォトエレクトロクロミック素子。
【請求項9】
気相成膜法が、物理蒸着法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、CVD法またはプラズマCVD法である請求項7又は8に記載のフォトエレクトロクロミック素子。
【請求項10】
気相成膜法が、反応性スパッタリング法、プラズマ発光フィードバック又はインピーダンスフィードバックを用いた高速成膜法、又はデュアルカソード型スパッタリング法である請求項8又は9に記載のフォトエレクトロクロミック素子。
【請求項11】
金属酸化物半導体膜が、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化ニオブ、酸化タングステン又は酸化インジウム、或いはこれらの金属酸化物に他の金属若しくは他の金属酸化物をドーピングしたものから形成されている請求項1〜10のいずれか1項に記載のフォトエレクトロクロミック素子。
【請求項12】
金属酸化物半導体膜が、酸化チタン、酸化亜鉛又は酸化スズから形成されている請求項1〜11のいずれか1項に記載のフォトエレクトロクロミック素子。
【請求項13】
エレクトロクロミック膜が、酸化タングステン、酸化タンタル、酸化モリブデン、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化ロジウム、酸化ニオブ、酸化ニッケル、酸化イリジウム、又はこれらの酸化物に水素又はリチウム、ナトリウム若しくはカリウムがドーピングされたものから形成されている請求項1〜12のいずれか1項に記載のフォトエレクトロクロミック素子。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載のフォトエレクトロクロミック素子を含む調光ガラス。
【請求項15】
請求項1〜13のいずれか1項に記載のフォトエレクトロクロミック素子を含む透過率調整ガラス。
【請求項16】
請求項1〜13のいずれか1項に記載のフォトエレクトロクロミック素子を含む画像表示デバイス。
【請求項17】
請求項1〜13のいずれか1項に記載のフォトエレクトロクロミック素子を含む熱線カットガラス。

【図1】
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