説明

フォトクロミック液晶材料

【課題】室温で液晶状を呈するとともに、室温における光照射により光伸張−収縮応答挙動を発現できるフォトクロミック液晶材料を提供すること。
【解決手段】例えば下式で表されるフォトクロミック液晶材料が例示される。当該液晶材料は、室温(20℃)で液晶状を保つことができるため、室温における光照射によって、伸張ないし収縮する挙動を発現することから、各種光記録材料のほか様々な光学素子、に使用することができる。


(式中、RはH等、nは1〜20の整数、Xはそれぞれ水素原子、アルコキシ基等の置換基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトクロミック液晶材料に関する。さらに詳しくは、室温で液晶状を呈する(液晶相を保持する)とともに、室温での光の照射により液晶の光伸張−収縮応答挙動等を発現するフォトクロミック液晶材料に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶材料は、液体の流動性と結晶の配向性を兼ね備えた材料であり、電界によって配向を変えることが知られており、例えば、液晶ディスプレイ等の表示装置として広く用いられている。近年、光で光を制御する技術としてフォトクロミック技術が提案されており、また、液晶は電界以外に光等の外場によっても屈折率の大きな変化を誘起することができることから、液晶を基材として光で光を制御する素子が考案され、それに用いられる材料(フォトクロミック液晶材料)について検討されている。
【0003】
光で光を制御可能なフォトクロミック液晶材料は、例えば、光照射による刺激(光刺激)の効果が新たな刺激を与えるまで残存していれば光記録やホログラフィに利用でき、光刺激を極短パルスで与え、短い時間で出力が変調できれば光演算などに利用できることとなる。また、応答の時間スケールに応じて高速光スイッチングや光表示にも応用できる可能性がある。そして、光照射によって材料の形態が変化するので、光駆動モータやアクチュエータ等の力学運動の制御が可能となり、例えば、光照射によって屈曲−復元応答を示す液晶フィルムが提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2を参照。)。また、結晶の光駆動についても種々の報告がある(例えば、非特許文献1を参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−256031号公報
【特許文献2】特開2005−255805号公報
【非特許文献1】コバタケ(Kobatake)ら「光照射による分子結晶の高速かつ可逆的な形状変化(Rapid and reversible shape changes of molecular crystals on photoirradiation)」、Nature(英国)、Nature Publishing Group、2007年、Vol.446、No.7137、p778−781
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これまでの液晶材料は室温では固体であり、液晶挙動を発現させるためには、100℃以上といった加熱条件下で光照射を行う必要があるので、用途的にも制限があった。一方、流動性のある液晶を光で自在に変形させることができれば、多様な用途が見込まれるため、室温で液晶状を示し、材料の形態が液状となるフォトクロミック液晶材料が望まれていた。
【0006】
本発明は、前記の課題に鑑みてなされたものであり、室温で液晶状を呈する(液晶相を保持する)とともに、液晶材料として室温での光の照射により光伸張−収縮応答挙動を発現することができるフォトクロミック液晶材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するために、本発明の請求項1に係るフォトクロミック液晶材料は、下記式(I)で表され、室温で液晶状を呈することを特徴とする。
【0008】
【化1】

(式(I)中、Rは水素原子またはメチル基、nは1〜20の整数、Xはそれぞれ水素原子、アルコキシ基、またはフッ素基、Yは水素原子、アルコキシ基、フッ素基、シアノ基またはニトロ基、を示す。)
【0009】
本発明の請求項2に係るフォトクロミック液晶材料は、下記式(II)で表され、室温で液晶状を呈することを特徴とする。
【0010】
【化2】

(式(II)中、Rは水素原子またはメチル基、nは1〜20の整数、Xはそれぞれ水素原子、アルコキシ基、またはフッ素基、Yは水素原子、アルコキシ基、フッ素基、シアノ基またはニトロ基、を示す。)
【0011】
本発明の請求項3に係るフォトクロミック液晶材料は、前記請求項1または請求項2において、前記Yがフッ素基、シアノ基またはニトロ基であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
式(I)または式(II)で表される本発明の請求項1または請求項2に係るフォトクロミック液晶材料は、アゾベンゼンとフェニルエチニル基が結合した骨格に、アクリレート基あるいはメタクリレート基が付与された構造を基本構成としている。かかる構成からなる本材料の特徴として、室温(20℃)で液晶状を呈する(液晶相を保持する)ため、材料の形態が液状であることが挙げられ、本材料に光照射を行うことで伸張ないし収縮する挙動(光伸張−収縮応答挙動)を発現する。よって、かかる特徴を利用すれば、光学分野等において、記録素子等の書き換え可能な光記録材料のほか、光駆動型のモータ、光学素子、非線形光学素子、スイッチング素子、演算素子、表示素子、及び玩具等として有利に使用することができる。また、基材に塗布した場合に発現することができる光屈曲−復元挙動を利用して、汎用性プラスチック等を基板としたアクチュエータ等として使用することができる。
【0013】
本発明の請求項3に係るフォトクロミック液晶材料は、式(I)または式(II)において置換基Yとしてフッ素基、シアノ基またはニトロ基といった極性基を選択しているので、極性基に応じて液晶材料の応答速度や液晶性を調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一態様を説明する。本発明のフォトクロミック液晶材料は、下記式(I)、あるいは式(II)で表される。
【0015】
【化3】

【0016】
【化4】

【0017】
式(I)または式(II)において、Rは水素原子またはメチル基、nは1〜20の整数、Xはそれぞれ水素原子、アルコキシ基、またはフッ素基、Yは水素原子、アルコキシ基、フッ素基、シアノ基またはニトロ基、を示すものである。なお、式(I)または式(II)において、複数存在するXは、それぞれが同じ基である必要はない。
【0018】
式(I)または式(II)で表される本発明のフォトクロミック液晶材料は、光応答挙動を示すアゾベンゼンとフェニルエチニル基が結合した骨格に対して、アクリレート基(Rが水素原子の場合)あるいはメタクリレート基(Rがメチル基の場合)が付与された構造を基本構成としているので、室温(20℃)で液晶状を示す(液晶相を保持する)ため、室温でも材料の形態は固体状とならず液状であるとともに、室温における光照射によって伸張ないし収縮する挙動(光伸張−収縮応答挙動)を発現する。
【0019】
本発明のフォトクロミック液晶材料における照射光の波長(照射波長)は、導入する置換基によって左右されるが、例えば300〜400nmの範囲の波長の照射光を採用することができる。また、適当な増感剤を添加すれば、照射波長の範囲を広げることができるため、例えば250〜700nmの波長の光を用いることが可能である。
【0020】
照射光の照射光量としては、特に制限はなく、また、導入する置換基等によって適宜決定すればよいが、概ね1〜300mJ/cm程度の光量とすればよい。なお、照射光としては、例えば非偏光を使用することが好ましく、照射手段としては、例えば、ダイオードレーザ等の公知の照射手段を用いればよい。
【0021】
本発明のフォトクロミック液晶材料において、光伸張−収縮応答挙動を制御する方法としては、例えば、前記した特定範囲の波長光を照射することが挙げられ、これにより伸張挙動が誘起される。かかる挙動は光異性化によって誘起される分子の配向に起因する。例えば、式(I)または式(II)に示す液晶材料がトランス−シス光異性化しうる構造を有する場合には、特定波長はトランス体の有する吸収帯に属するものである。
【0022】
一方、本発明のフォトクロミック液晶材料において、ジメチルホルムアミド(DMF)、等の有機溶媒と混合し、波長として、例えば300〜400nmの光(適当な増感剤を添加すれば、例えば250〜700nm)の波長の光を照射すると収縮挙動が誘起される。これは、アゾベンゼンの異性化に伴う液晶−溶媒間のアンカリングエネルギーの低下によるものである。有機溶媒としては、例えば前記したジメチルホルムアミド(DMF)のほか、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジメトキシエタン、ジオキサン、アセトニトリル、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン等を使用することができ、フォトクロミック液晶材料と有機溶媒の混合比は、フォトクロミック液晶材料/有機溶媒=90/10〜40/60の範囲とすることが好ましい。
【0023】
得られる液晶材料の応答速度を調整ないし向上するためには、式(I)または式(II)において、極性基を導入する等の分子設計によりスメクチック相を呈するようにするのが好適である。例えば、式(I)または式(II)における末端部であるY基として、フッ素基、シアノ基またはニトロ基を導入するようにすればよく、かかる基の導入により、極性基に応じて液晶材料の応答速度や液晶性を調整することができる。
【0024】
また、得られる液晶材料の応答速度を向上させるための他の手段としては、式(I)または式(II)において、キラリティを付与することで、発現する強誘電液晶相によって応答速度を向上できる。キラリティを付与するためには、式(I)または式(II)のY基中に不斉炭素を存在させればよいが、例えば、(R)−(−)−2−オクタノールを不斉炭素とすればよい。
【0025】
式(I)で表される本発明のフォトクロミック液晶材料は、例えば、図1に示すスキームによって合成される。図1は、式(I)に示す本発明のフォトクロミック液晶材料の合成方法のスキームの一態様を示す。また、式(I)に表される本発明のフォトクロミック液晶材料の一例を下記式(I−a)に、及びかかる式(I−a)で表されるフォトクロミック液晶材料の合成方法のスキームの一例を図2に示す。
【0026】
【化5】

【0027】
同様に、式(II)で表される本発明のフォトクロミック液晶材料は、例えば、図3に示すスキームによって合成される。図3は、式(II)に示す本発明のフォトクロミック液晶材料の合成方法のスキームの一態様を示す。また、式(II)に表される本発明のフォトクロミック液晶材料の一例を下記式(II−a)に、及びかかる式(II−a)で表されるフォトクロミック液晶材料の合成方法のスキームの一例を図4に示す。
【0028】
【化6】

【0029】
なお、本発明にあっては、例えば前記した図1ないし図4で得られた生成物は針状の結晶である一方、かかる針状の結晶を等方相状態となるまで加熱した後、室温まで冷却することにより、室温においても液晶状を呈する液晶材料となる。かかる針状の結晶を等方相状態とするには、例えば、150〜200℃程度まで加熱すればよいが、かかる温度は本発明のフォトクロミック材料の構造により適宜決定することができ、特に制限はない。
【0030】
以上説明したように、本発明のフォトクロミック液晶材料は、室温で液晶状(液晶相状態)であり、室温で液状の形態を保持して流動性を備えた上で、前記のような光伸張−収縮応答挙動を室温領域で発現させることができるので、室温で光照射により形態を制御できる液晶材料として使用可能であり、例えば、光学分野等において、記録素子等の書き換え可能な光記録材料のほか、光駆動型のモータ、光学素子、非線形光学素子、スイッチング素子、演算素子、表示素子、及び玩具等として有利に使用することができる。
【0031】
本発明のフォトクロミック液晶材料を前記した用途に適用する場合には、通常、本材料をそのまま、あるいは、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジメトキシエタン、ジオキサン、アセトニトリル、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン等の有機溶媒と混合して、ガラス基板、ITO(Indium Tin Oxide)膜蒸着基板、シリコンウェハ等からなる基板上に塗布する。塗布方法としてはスピンコート法やキャスト法等の公知の製膜方法が一般的であるが、刷毛などを用いて直接基板に塗ることも可能である。塗布膜の厚さは、例えば0.1〜1.0μmとすることが好ましい。
【0032】
また、フォトクロミック液晶材料の薄膜を形成させる基板上には、液晶配向膜等の液晶基の配向を促進させるものをあらかじめ塗布しておいて、いわゆるラビング処理等の方法で基板面を配向し易い状態にしてもよく、あるいは薄膜形成後に外部から電場あるいは磁場を印加する、等の方法により液晶分子を一定方向に配向させる処理を行うようにしてもよい。
【0033】
本発明のフォトクロミック液晶材料を、既存の基材、デバイス、材料等に塗布すれば、当該基材等に対して、本発明のフォトクロミック液晶材料の形態制御を付与することができる。例えば、本発明のフォトクロミック液晶材料を、必要により前記した有機溶剤と前記した混合比により混合して、例えば1〜100μmの厚さのポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン等の汎用高分子材料からなるフィルム上に、厚さが、例えば0.1〜1.0μmとなるように塗布して、前記した特定範囲の波長の光を照射するとフィルムが屈曲する。そして、かかる光照射による光屈曲−復元挙動を利用して、汎用性プラスチックを基板としたアクチュエータとして使用することができる。
【0034】
なお、以上説明した態様は、本発明の一態様を示したものであって、本発明は、前記し
た実施形態に限定されるものではなく、本発明の構成を備え、目的及び効果を達成できる
範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。ま
た、本発明を実施する際における具体的な構造及び形状等は、本発明の目的及び効果を達
成できる範囲内において、他の構造や形状等としても問題はない。本発明は前記した各実
施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形や改良は、本
発明に含まれるものである。
【0035】
例えば、前記した実施形態では、式(I)で表されるフォトクロミック液晶材料を合成する方法として図1に示したスキームを、また、式(II)で表されるフォトクロミック液晶材料を合成する方法として図3に示したスキームをそれぞれ例として挙げたが、式(I)あるいは式(II)に表されるフォトクロミック液晶材料を合成する方法としては図1及び図3に示すスキームには限定されない。また、前記した実施形態では、式(I)で表されるフォトクロミック液晶材料の一例として式(I−a)を、式(II)で表されるフォトクロミック液晶材料の一例として式(II−a)をそれぞれ挙げたが、式(I−a)及び式(II−a)はあくまでも一例であり、式(I)及び式(II)はかかる式(I−a)及び式(II−a)には限定されない。
その他、本発明の実施の際の具体的な構造及び形状等は、本発明の目的を達成できる範
囲で他の構造としてもよい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例に何ら限定されるものではない。
【0037】
[実施例1]
フォトクロミック液晶材料の合成:
図2に示したスキームに従い、下記(1)〜(4)の方法を用いて、式(I−a)に表される本発明のフォトクロミック液晶材料を合成した。
【0038】
(1)2−メチル−4−ブロモ−4’ヒドロキシアゾベンゼンの合成:
容量が1000mlのビーカーに10.0gの4−ブロモ−2−メチルアニリン10.0gと22.0gのHBFを入れ、さらに550mlの氷水を加えて30分間撹拌した。50mlの水に溶解させた3.8gのNaNOと7.7gのフェノール、8.3gのKCOを加え、さらに10時間撹拌した。pH=4.0に調整した200mlの1N−HClを加え20分間撹拌した後、吸引濾過により固体状の物質を分離した。分離した固体状の物質をクロロホルムで2回抽出して、硫酸マグネシウムで乾燥した後、カラムクロマトグラフィ(溶媒:クロロホルム)で分離精製を行い、エバポレータで溶媒を除去して、2−メチル−4−ブロモ−4’ヒドロキシアゾベンゼン(収量:14g、収率:88%)を得た。H−NMRの測定結果を以下に示す。
【0039】
H−NMRの結果)
H−NMR(CDCl,δ,ppm):2.65(s,3H),5.07(s,1H),6.91−6.93(d,J=1.0Hz,2H),6.34−6.36(d,J=0.8Hz,1H),7.48−7.46(d,J=0.8Hz,2H),7.83(s,2H).
【0040】
(2)2−メチル−4−ブロモ−4’−(6−ヒドロキシへキシルオキシ)アゾベンゼンの合成:
(1)で得られた14g(4.7mmol)の2−メチル−4−ブロモ−4’ヒドロキシアゾベンゼンと6.4g(47.0mol)6−クロロ−1−ヘキサノール、6.5gのKCO、及び100mlのDMFをナスフラスコに投入し90℃で6時間加熱撹拌した。加熱撹拌後、放冷し、クロロホルムで有機相を抽出した。抽出した有機相に硫酸マグネシウムを加えて乾燥して、濾過後エバポレータでクロロホルムを除去してカラムクロマトグラフィ(溶媒:クロロホルム)で分離精製した。再びエバポレータで溶媒を除去し、減圧乾燥して2−メチル−4−ブロモ−4’−(6−ヒドロキシへキシルオキシ)アゾベンゼンの橙色結晶(収量:14g、収率:78%)を得た。H−NMRの測定結果を以下に示す。
【0041】
H−NMRの結果)
H−NMR(CDCl,δ,ppm):1.21(s,1H),1.58−1.63(t,J=1.0Hz,4H),1.78−1.85(m,1H),2.15(s,2H),2.65(s,3H),3.65−3.69(t,J=2.0Hz,2H),4.01−4.05(t,J=1.0Hz,2H),6.95−6.98(d,J=2.0Hz,2H),7.33−7.36(d,J=1.5Hz,1H),7.46−7.49(d,J=2.0Hz,2H),7.85−7.88(d,J=1.5Hz,2H).
【0042】
(3)2−メチル−4−(4−メトキシフェニルエチニル)−4’−(6−ヒドロキシエチルオキシ)アゾベンゼンの合成:
ナスフラスコに(2)で得た5.8g(15.0mmol)の2−メチル−4−ブロモ−4’−(6−ヒドロキシへキシルオキシ)アゾベンゼン、1.1g(1.5mmol)のPdCl(PPh、0.85g(4.5mmol)のCuI、30mlのトリエチルアミン、及び0.85g(8.6mmol)のトリメチルシリルアセチレンを投入し、窒素雰囲気下60℃で6時間加熱撹拌した。加熱撹拌後、放冷して濾過を行い、クロロホルムと1Nの塩酸を加えて撹拌し、有機相を抽出した。抽出した有機相に硫酸マグネシウムを加えて乾燥して、濾過後エバポレータで酢酸を除去し、カラムクロマトグラフィ(溶媒:クロロホルム)で分離精製した。エバポレータで溶媒を除去し、再結晶して2−メチル−4−(4−メトキシフェニルエチニル)−4’−(6−ヒドロキシエチルオキシ)アゾベンゼンの橙色結晶(収量:2.7g、収率:40%)を得た。H−NMRの測定結果を以下に示す。
【0043】
H−NMRの結果)
H−NMR(CDCl,δ,ppm):1.20(s,1H),1.61(s,2H),1.83(s,2H),2.67(s,3H),3.65(s,2H),3.82(s,3H),4.03(s,2H),6.98−6.86(d,J=7.0Hz,4H),7.59−7.36(t,J=6.5Hz,4H),7.89(s,3H).
【0044】
(4)(6−[4−[2−メチル−4−(4−メトキシフェニルエチニル)フェニルアゾ]フェノキシ]ヘキシルアクリレート)の合成:
(3)で得た1.5g(3.4mmol)の2−メチル−4−(4−メトキシフェニルエチニル)−4’−(6−ヒドロキシエチルオキシ)アゾベンゼン及び0.80g(8.0mmol)のトリエチルアミンを氷浴中の反応容器(容量:100ml)に移し、0.72g(8.0mmol)のアクリロリルクロライドをゆっくり滴下した。その後、反応容器を室温に保持して、24時間撹拌して反応を進行させた。反応終了後、酢酸エチル及び炭酸水素ナトリウム水溶液で分液操作を行い、カラムクロマトグラフィ(充填材:シリカゲル、溶媒:クロロホルム)によって精製した。最後にメタノール水溶液にて、再結晶を3回行うことにより、(6−[4−[2−メチル−4−(4−メトキシフェニルエチニル)フェニルアゾ]フェノキシ]ヘキシルアクリレート)の橙色の針状結晶(収量:0.70g、収率:40g)を得た。H−NMRの測定結果を以下に示す。
【0045】
H−NMRの結果)
H−NMR(CDCl,δ,ppm):1.44−1.84(m,8H),2.68(s,3H),3.82(t,3H),4.03(t,J=6.5Hz,3H),4.18(t,J=6.5Hz,3H),5.80(d,J=11Hz.1H),6.11(dd,J=11Hz,1H),6.39(d,J=11Hz.1H),6.87(d,J=8.5Hz,2H),6.98(d,J=8.5Hz,2H),7.36−7.48(m,3H),7.89(d,J=9.0Hz,2H).13C−NMR:17.35,25.72,28.53,29.06,29.68,55.29,64.47,68.10,88.23,91.33,114.02,114.67,115.24,115.42,124.17,124.87,125.37,128.55,129.57,130.54,133.00,133.11,134.04,137.66,147.39,149.93,159.73,161.57,166.31.MS(FAB):498(MH).Anal.Calcd for C3132:C,74.98;H,6.49;N,5.64.Found:C,74.67;H,6.97;N,5.70.
【0046】
実施例1で得られた本発明のフォトクロミック液晶材料について、示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimeter:DSC)を用いて熱分析を行った。図5は、本発明のフォトクロミック液晶材料の示差走査熱量計(DSC)による測定結果を示した図である(測定装置 DSC−60:(株)島津製作所製、昇温速度及び降温速度:2℃/分)。図5に示すように、昇温過程においては64℃で固体から液晶に、174℃で液晶から液体に転移した。また、降温過程においては170℃で液体から液晶に転移し、以降は室温(20℃)まで戻しても液晶状態を保持した。以上より、実施例1で得られた本発明のフォトクロミック液晶材料は、室温でも液晶状(液状)となり、室温での材料の形態が液状となる液晶材料として使用することができることが確認できた。
【0047】
また、図6は、前記した熱分析終了後(室温に戻した後)のフォトクロミック液晶材料の偏光顕微鏡における観察写真を示した図である。(測定装置:BX−51(オリンパス(株)製)、測定温度:160℃)。図6に示すように、実施例1で得られた本発明のフォトクロミック液晶材料はネマチック液晶相特有のシュリーレン組織を示し、材料の形態として室温でも液状となる液晶材料であることが確認できた。
【0048】
[試験例1]
光伸張−収縮応答挙動の確認(1):
実施例1で得られた本発明のフォトクロミック液晶材料をスパチェラに載せ、200℃に加熱し、放冷して室温まで戻した後、水面に落とした。次いで、水面上のフォトクロミック液晶材料に対して、ダイオードレーザ(UV−400((株)キーエンス製))で照射波長を365nm、照射量を150mW/cmとして非偏光を照射したところ、水面上のフォトクロミック液晶材料が伸張することを確認した。
【0049】
[試験例2]
光伸張−収縮応答挙動の確認(2):
実施例1で得られた本発明のフォトクロミック液晶材料とテトラヒドロフラン(THF)をフォトクロミック液晶材料/THF=40/60で混合して混合溶液を調製した。調製した混合溶液を150℃まで加熱し、放冷して室温まで戻した後、水面に落とした。次に、試験例1で使用したダイオードレーザで照射波長を365nm、照射量を150mW/cmとして非偏光を照射したところ、水面上の混合溶液(フォトクロミック液晶材料)が収縮することを確認した。
【0050】
[試験例3]
光伸張−収縮応答挙動の確認(3):
実施例1で得られた本発明のフォトクロミック液晶材料とジメチルホルムアミド(DMF)をフォトクロミック液晶材料/DMF=40/60で混合して混合溶液を調製した。調製した混合溶液を150℃まで加熱し、放冷して室温まで戻した後、水面に落とした。次に、試験例1で使用したダイオードレーザで照射波長を365nm、照射量を150mW/cmとして非偏光を照射したところ、水面上の混合溶液(フォトクロミック液晶材料)が収縮することを確認した。
【0051】
[試験例4]
光伸張−収縮応答挙動の確認(4):
実施例1で得られた本発明のフォトクロミック液晶材料とジメチルホルムアミド(DMF)をフォトクロミック液晶材料/DMF=40/60で混合して混合溶液を調製した。かかる混合溶液を150℃まで加熱し、放冷して室温まで戻した後、厚さが50μmのポリ塩化ビニリデンフィルムに、厚さが0.1μmとなるように塗布した。かかるフィルムに対して、試験例1で使用したダイオードレーザで照射波長を365nm、照射量を150mW/cmとして非偏光を照射したところ、フィルムが屈曲することを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のフォトクロミック液晶材料は、例えば、光学分野等において、記録素子等の書き換え型光記録材料のほか、光駆動型のモータ、光学素子、非線形光学素子、スイッチング素子、演算素子、表示素子、及び玩具等として有利に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】式(I)に示す本発明のフォトクロミック液晶材料の合成方法のスキームの一態様を示した図である。
【図2】式(I−a)に示す本発明のフォトクロミック液晶材料の合成方法のスキームの一態様を示した図である。
【図3】式(II)に示す本発明のフォトクロミック液晶材料の合成方法のスキームの一態様を示した図である。
【図4】式(II−a)に示す本発明のフォトクロミック液晶材料の合成方法のスキームの一態様を示した図である。
【図5】本発明のフォトクロミック液晶材料の示差走査熱量計(DSC)による測定結果を示した図である。
【図6】本発明のフォトクロミック液晶材料の偏光顕微鏡における観察写真を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表され、室温で液晶状を呈することを特徴とするフォトクロミック液晶材料。
【化1】

(式(I)中、Rは水素原子またはメチル基、nは1〜20の整数、Xはそれぞれ水素原子、アルコキシ基、またはフッ素基、Yは水素原子、アルコキシ基、フッ素基、シアノ基またはニトロ基、を示す。)
【請求項2】
下記式(II)で表され、室温で液晶状を呈することを特徴とするフォトクロミック液晶材料。
【化2】

(式(II)中、Rは水素原子またはメチル基、nは1〜20の整数、Xはそれぞれ水素原子、アルコキシ基、またはフッ素基、Yは水素原子、アルコキシ基、フッ素基、シアノ基またはニトロ基、を示す。)
【請求項3】
前記Yがフッ素基、シアノ基またはニトロ基であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフォトクロミック液晶材料。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−249406(P2009−249406A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−95506(P2008−95506)
【出願日】平成20年4月1日(2008.4.1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「平成19年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願」
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】