説明

フォトフェレシス処理用カラム、フォトフェレシス処理システム、フォトフェレシス処理方法

【課題】 複雑な処理を要することなくフォトフェレシス処理の実行を可能にするフォトフェレシス処理用カラムを提供する。
【解決手段】 励起光の照射目標となる細胞を含む体液が投入される投入口12と、投入された前記体液が排出される排出口13と、投入口12と排出口13の間を連通する貫通孔部、及び前記励起光を透過する性質を示す骨格部で構成された多孔質体11と、を備えてなり、前記貫通孔部の孔径が前記細胞の最大径より大きく、多孔質体11の外側から照射された前記励起光を前記骨格部内に受光可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆるフォトフェレシス処理に利用可能なカラムに関する。また、本発明は、当該カラムを含むフォトフェレシス処理システム、及び当該カラムを用いたフォトフェレシス処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人体の持つ免疫は、人体を細菌・ウイルス、癌、寄生虫等の外敵(寄生体)から防御する役割を担っており、免疫は人間が生きていく上で不可欠な機構であると言える。しかしながら、一方で免疫反応は、アトピー性皮膚炎や乾癬等の皮膚病、関節リュウマチや全身性エリテマトーデス等の膠原病等の自己免疫疾患を引き起こす原因ともなる。自己免疫疾患とは、本来は細菌・ウイルスや腫瘍などの自己と異なる異物を認識し排除するための役割を持つ免疫系が、自分自身の正常な細胞や組織に対してまで過剰に反応し、攻撃を加えることで発症する症状の総称である。
【0003】
昨今では、かかる免疫反応を適切に制御し、少ない副作用の下で免疫を抑制することが、現代の医学における最重要課題の一つとして挙げられている。臓器移植の分野においても、免疫反応の克服が最重要の課題であることはよく知られていることである。
【0004】
このような背景の下、近年、フォトフェレシスが免疫抑制の分野で注目を集めている。フォトフェレシスとは、一般的には、体外に取り出した血液にソラレン(psolaren)誘導体等の感光医薬を添加し、活性化したT細胞に吸収させた後、当該血液に紫外光を照射し、感光医薬を活性化してT細胞をアポトーシスさせ、あるいはダメージを与えて免疫寛容を誘導し、免疫を抑制する方法である。なお、実際には、感光医薬の添加は必要条件ではなく、紫外光の波長を選択することにより、もともと生体内に存在する生体内感光物質を励起することでも、同様の処置を行うことができることが分かっている。
【0005】
従来の免疫抑制方法としては、免疫抑制剤を投与する方法が一般的に利用されていたが、免疫抑制剤の投与による副作用が問題視されていた。これに対し、フォトフェレシスは、前記のとおり感光医薬の添加は必ずしも必要ではない。また、仮に感光医薬を添加してフォトフェレシス処理を行う場合であって、投与した感光医薬がもし体内に戻った場合であっても、紫外光が照射されなければ当該感光医薬は活性化されないため、免疫抑制剤による免疫抑制方法と比較して副作用の可能性が非常に低いという効果を有する。このため、フォトフェレシスは、免疫抑制剤を投与する場合と比べて副作用の少ない免疫抑制法として注目を集めている。また、欧米各国では、ステロイド等の免疫抑制剤の効かない自己免疫疾患の治療や骨髄移植等の移植治療時の免疫抑制に対するフォトフェレシスの臨床応用が急速に増大している。
【0006】
フォトフェレシス処理を実行するに際しては、前記のようにT細胞に紫外光を照射する必要がある。しかしながら、血液中には、白血球の一種であるT細胞の他に赤血球が含まれている。赤血球に含まれるヘモグロビンは、紫外光に対して大きな吸光度を示す性質を持つ。このため、赤血球を含んだ状態で血液に対して紫外光を照射した場合、赤血球中のヘモグロビンによって照射された紫外光が吸収される結果、真に照射したいT細胞に対して効果的に紫外光を照射できないという問題を有する。また、T細胞に対して必要なエネルギ量の紫外光を照射するためには、紫外光照射手段から高い強度の紫外光を照射する必要があり、このような高強度の紫外光が血中成分に照射されることで、赤血球の溶血や血漿蛋白の変成等の悪影響が生じる可能性がある。
【0007】
このため、従来のフォトフェレシス処理の実行に際しては、患者から採血した血液に感光医薬を添加後、当該血液を遠心分離して白血球のみを取り出した状態で厚さ数mm程度の平たい容器内に入れ、かかる容器を介して紫外光を照射する。その後、赤血球や血漿と再混合し、再び患者の体内に戻すという複雑な手順を必要とする。下記特許文献1には、かかる処理に要する時間の短縮化を可能にする血液分離装置が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2005−74234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のフォトフェレシス処理方法によれば、上記のような複雑な手順を必要とするため、患者の体力的負担の増大や、医療コストの高騰等の問題を有しており、フォトフェレシスそのものの普及の妨げとなっている。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑み、複雑な処理を要することなくフォトフェレシス処理の実行を可能にするフォトフェレシス処理用カラムを提供することを目的とし、ひいては、フォトフェレシスによる治療の普及を促進することを目的とするものである。また、本発明は、前記フォトフェレシス処理用カラムを含むフォトフェレシス処理システム、並びに前記フォトフェレシス処理用カラムを用いたフォトフェレシス処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明に係るフォトフェレシス処理用カラムは、励起光の照射目標となる細胞を含む体液が投入される投入口と、投入された前記体液が排出される排出口と、前記投入口と前記排出口の間を連通する貫通孔部、及び前記励起光を透過する性質を示す骨格部で構成された多孔質体と、を備えてなり、前記貫通孔部の孔径が前記細胞の最大径より大きく、前記多孔質体の外側から照射された前記励起光を前記骨格部内に受光可能に構成されていることを第1の特徴とする。
【0012】
本発明に係るフォトフェレシス処理用カラムの上記第1の特徴構成によれば、遠心分離を行うことなくフォトフェレシスを実現することができる。すなわち、本発明に係るフォトフェレシス処理用カラムの投入口から、照射目標となる細胞を含む体液を投入することで、貫通孔部内を前記体液が流動中において、孔部の内壁を構成する骨格部と照射目標となる細胞との間に、体液中の別の細胞等が入り込む可能性が低下する。従って、かかる状態下で、多孔質体の外側から励起光を照射することで、体液中の別の細胞によって励起光が吸収されることが少なく、多孔質体の骨格部を介して目標となる細胞に対して効率的に照射することができる。よって、遠心分離によって目標となる細胞のみを体液から取り出すことなく、従来のフォトフェレシス処理において遠心分離した照射目標の細胞に照射するのと同程度あるいはそれよりも少ないエネルギ量の励起光を照射することで、照射目標となる細胞に対して励起光を照射することができる。
【0013】
従って、本発明に係るフォトフェレシス処理用カラムを用いてフォトフェレシスを行う場合、予め体液を遠心分離する必要がないため、その後に分離された体液成分を再び混合する必要がなく、これによって処置に要する時間を大幅に短縮することができ、患者に対する負担を大幅に軽減することができる。また、従来は遠心分離を行うのに必要であった遠心分離装置が不要となるため、大がかりなシステムを必要とせず、大幅にコストを削減することができる。これによって、医療コストが削減されるとともに、フォトフェレシスによる治療法の普及の促進につながる。
【0014】
また、本発明に係るフォトフェレシス処理用カラムは、上記第1の特徴構成に加えて、前記多孔質体がケイ酸を主成分とすることを第2の特徴とする。
【0015】
また、本発明に係るフォトフェレシス処理用カラムは、上記第1または第2の特徴構成に加えて、前記骨格部が三次元網目構造を有することを第3の特徴とする。
【0016】
また、本発明に係るフォトフェレシス処理用カラムは、上記第3の特徴構成に加えて、前記多孔質体が、スピノーダル分解ゾル−ゲル法により製造されたものであることを第4の特徴とする。
【0017】
本発明に係るフォトフェレシス処理用カラムの上記第4の特徴構成によれば、簡易な方法によって所望の孔径を有する多孔質体を製造することができる。
【0018】
また、本発明に係るフォトフェレシス処理用カラムは、上記第1〜第4のいずれか一の特徴構成に加えて、前記励起光を透過する性質を示す筒状体によって前記多孔質体の周囲が覆われており、前記筒状体の外側から照射された前記励起光を前記骨格部内に受光可能に構成されていることを第5の特徴とする。
【0019】
本発明に係るフォトフェレシス処理用カラムの上記第5の特徴構成によれば、多孔質体の最も外側の表面にも孔部が形成されている場合であっても、励起光の照射効率を低下させることなく、投入口から投入された体液が当該孔部を介して外部に流出するのを防止することができる。
【0020】
また、本発明に係るフォトフェレシス処理用カラムは、上記第1〜第5のいずれか一の特徴構成に加えて、前記細胞が白血球であり、前記体液が血液であり、前記励起光が紫外光または波長500nm以下の可視光であり、前記多孔質体が、水銀圧入法による測定の下で平均孔径15〜50μmを示す貫通孔部を有することを第6の特徴とする。
【0021】
上記第6の特徴構成を有するフォトフェレシス処理用カラムを用いることにより、予め患者から採取した血液を遠心分離して白血球のみを採取することなく、白血球に含まれるT細胞に対して紫外光または波長500nm以下の可視光が照射されて免疫寛容を誘導することができる。
【0022】
また、上記目的を達成するための本発明に係るフォトフェレシス処理用システムは、上記第1〜第6のいずれか一の特徴構成のフォトフェレシス処理用カラムと、前記フォトフェレシス処理用カラムの外側から前記骨格部に対して前記励起光を照射可能な励起光照射手段と、を備えることを特徴とする。
【0023】
また、上記目的を達成するための本発明に係るフォトフェレシス処理方法は、上記第1〜第6のいずれか一の特徴構成のフォトフェレシス処理用カラムが有する前記投入口から前記体液を投入し、前記体液が前記貫通孔部内を流動中に、前記フォトフェレシス処理用カラムの外側から前記骨格部に対して前記励起光を照射することで、前記骨格部を介して前記体液中の前記細胞に対して前記励起光を照射することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るフォトフェレシス処理用カラム、フォトフェレシス処理システムを用いることで、複雑な処理を要することなくフォトフェレシス処理の実行を可能にすることができ、これによって、フォトフェレシスによる治療の普及の促進に貢献することができる。また、
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下において、本発明に係るフォトフェレシス処理用カラム、フォトフェレシス処理システム、並びにフォトフェレシス処理方法(以下、それぞれ適宜「本発明カラム」、「本発明システム」、並びに「本発明方法」と称する)の実施形態について図1〜図3の各図を参照して説明する。
【0026】
[本発明システム及び本発明方法の説明]
図1は、本発明システムの概略構成を示す概念的ブロック図である。図1に示される本発明システム10は、本発明カラム1及び紫外光照射手段2を備える。本発明カラム1は、後述するように、照射目標となる白血球を含む血液が投入される投入口12、投入口12より投入された血液が流動する多孔質体11、及び多孔質体11を通過した血液が排出される排出口13を備え、その外周は紫外光を透過する性質を示す筒状体16で覆われている。また、紫外光照射手段2は、多孔質体11に対して外部から紫外光21を照射可能に構成されている。
【0027】
図2は、本発明カラム1を構成する多孔質体11の概略構成を示すSEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)写真である。図2に示されるように、多孔質体11は、三次元網目構造の一体化した骨格部14で構成され、骨格部14の間隙において三次元網目状に連通する貫通孔部15を備える。
【0028】
骨格部14は、ケイ酸(シリカ)を主成分とする石英ガラス多孔質体で構成される。また、貫通孔部15は、水銀圧入法による測定の下で平均15〜50μmの孔径を有する。このような骨格部14と貫通孔部15とで構成される多孔質体11が、投入口12と排出口13の間に介装されており、貫通孔部15によって投入口12と排出口13の間が連通される。すなわち、貫通孔部15は多孔質体11内を網目状に貫通するように構成されている。このため、投入口12から投入された血液は、多孔質体11内の貫通孔部15を通って排出口13へ導かれる。
【0029】
図3は、多孔質体11に血液を投入した状態を示す概念図であり、多孔質体11内の2つの貫通孔部15とその周りの骨格部14を模式的に示している。図3(a)は、血液の通流方向に垂直な断面で切断したときの模式的概念図、図3(b)は、血液の通流方向に平行な断面で切断したときの模式的概念図である。
【0030】
多孔質体11に対して血液が投入された状態で紫外光照射手段2から紫外光21が照射されると、図3に示されるように、この紫外光21が、三次元網目構造を構成する骨格部14を介して貫通孔部15内を流動する血液に照射される。すなわち、骨格部14は紫外光21の導波路を構成する。そして、図3に示されるように、この貫通孔部15内を流動する血液30に含まれる白血球31に対してこの紫外光21が照射される。なお、図3では、説明の都合上、血液30に含まれる成分として、白血球31と赤血球32のみを図示しており、他の成分を省略している。
【0031】
一般的に赤血球32の径は8μm程度であるのに対し、白血球31の径は15μm程度の大きさを示す。このため、水銀圧入法による測定の下で平均孔径15〜50μmを示す貫通孔部15内を血液30が流動中に、貫通孔部15内において、貫通孔部15の内壁を構成する骨格部14と白血球31との間に赤血球32が入り込む確率は大きく低下する。特に、貫通孔部15の孔径が白血球31の径よりも大きく、且つ、白血球31の径と比べて大きく離れた値でない場合には、貫通孔部15の内壁を構成する骨格部14と白血球31との隙間が狭くなるため、かかる隙間内に赤血球32が入り込む可能性は大幅に減少する。
【0032】
かかる状態の下で、紫外光照射手段2が多孔質体11の外側から多孔質体11に向かって紫外光21を照射した場合について検討する。照射された紫外光21は、筒状体16を透過して多孔質体11に伝達される。多孔質体11を構成する骨格部14が上記のように石英ガラス多孔質体で形成される場合、石英ガラスは紫外光を透過する性質を有するため、上述のように骨格部14に対して照射された紫外光21は骨格部14内を透過して貫通孔部15内を流動する血液30内に伝達される。なお、骨格部14を構成する石英ガラス多孔質体が、ガラス中のヒドロキシル基の除去の為の熱処理を行っていない場合、レンズ用の石英ガラスに比べれば透過性は低くなるが、かかる場合であっても、体液に比べれば吸光度は非常に低く、紫外光に対する透過性は高い。
【0033】
また、前述したように貫通孔部15の内壁を構成する骨格部14と白血球31との隙間に赤血球32が入り込むこと可能性は低く、特に貫通孔部15の孔径と白血球31の径が近い場合には、白血球31は貫通孔部15の内壁に近接して貫通孔部15内を流動することとなる。このため、骨格部14を透過した紫外光の一部は、貫通孔部15内を流動する血液30中の赤血球32によって吸収されることなく白血球31に伝達され、照射される。これによって、白血球31、特にT細胞に紫外光が照射されることで免疫寛容が誘導される。紫外光照射処理が施された血液は、その後さらに多孔質体11内を流動後、排出口13から排出される。
【0034】
このように、本発明システム1によれば、患者から採取した血液を投入口12に投入し、多孔質体11内を流動中に紫外光照射手段2によって当該血液に対して紫外光照射が施されることで、血液中のT細胞に免疫寛容が誘導される。そして、紫外光照射後の血液を排出口13から採取して再度患者の体内に戻すことで、患者の免疫力を抑制することができる。
【0035】
つまり、本発明システム1によれば、血液中の白血球に対して紫外光を照射するに際し、当該血液に含まれる赤血球による紫外光の吸収による照射能力の低下を考慮する必要がないため、血液分離装置を用いて予め白血球のみを取り出す必要がなく、さらには分離された血液成分を処置後に再び混合する必要もない。このため、処置に要する時間を大幅に短縮することができ、患者に対する負担を大幅に軽減することができる。また、従来は遠心分離を行うのに必要であった血液分離装置が不要となるため、大がかりなシステムを必要とせず、大幅にコストを削減することができる。これによって、医療コストが削減されるとともに、フォトフェレシスによる治療法の普及の促進につながる。
【0036】
なお、本発明システム1を用いてフォトフェレシスを行う場合、血液30が多孔質体11内を流動中に、当該血液30に対して紫外光照射手段2から紫外光を照射するため、図3に示すように、現実的には白血球31のみならず赤血球32その他の血中成分にも紫外光が照射されることとなる。しかし、上述のように、白血球31に対して照射される紫外光は、骨格部14を介して直接照射される構成であり、紫外光の吸光度の高い赤血球32を介して照射される可能性が極めて低い。このため、赤血球32によって紫外光が吸光されることを考慮して予め紫外光照射強度を高める必要はなく、従来のように遠心分離により白血球のみを取り出して紫外光照射を行う場合と同等、あるいはそれ以下の強度で紫外光照射を行うことができる。このため、赤血球の溶血や血漿蛋白の変成等の問題を誘発することがない。
【0037】
[本発明カラムの説明]
次に、本発明カラム1の構成及びその製造方法について説明する。図2に示したように、本発明カラム1は、三次元網目構造を有した骨格部14と、その骨格部14によって囲まれた貫通孔部15とを有してなる多孔質体11、及び多孔質体11の外周を覆う筒状体16を備える。
【0038】
以下、多孔質体11のスピノーダル分解ゾル−ゲル法を用いた製造方法につき、説明を行う。
【0039】
1M(体積モル濃度)硝酸水溶液10mlに対して添加物としてd−ソルビトールを約0.35〜約1.0g加えたものにポリエチレングリコール(分子量100000)1.0gを溶かし、テトラエトキシシラン5mlを加え、均一になるまで攪拌し、40℃の恒温槽で一晩放置してゲル化させる。その後、得られたゲルを1Mアンモニア水に浸し、90℃の下で3日間反応させる。その後、ゲルを乾燥させ、加熱することで石英ガラスからなる多孔質体11が得られる。なお、この条件下で多孔質体11を製造した場合、当該多孔質体11が有する貫通孔部15の孔径は水銀圧入法により測定すると15〜50μm程度である。
【0040】
より具体的には、d−ソルビトールを添加しなかった場合、d−ソルビトールの添加量を0.2gとした場合、及びd−ソルビトールの添加量を1.0gとした場合において、他を同条件として多孔質体11を製造すると、各多孔質体11が備える貫通孔部15の孔径は、それぞれ2μm、10μm、50μmとなる。これにより、硝酸水溶液に添加するd−ソルビトールの添加量を調整することで、貫通孔部15の孔径を調整できることが分かる。
【0041】
上記の方法は、金属の有機及び無機化合物の溶液を混合して、アルコキシドの加水分解反応と脱水縮合反応によりゲル化を進行させ、かかるゲルを乾燥・加熱することで酸化物固体を作成するゾル−ゲル法を利用している。さらに、ゾル−ゲル法の出発溶液に有機高分子を混合することで、ゲル化の進行に伴って生成したシリカ重合体と有機高分子を含む溶媒とのスピノーダル分解により形成された分相構造がゲル化により固定されてμmオーダーの細孔を有する多孔質ゲルが形成される特徴を利用したものである。すなわち、上記方法によれば、ゾル−ゲル法を用いるとともにスピノーダル分解を生じさせることで、多孔質体11を製造することができる(スピノーダル分解ゾル−ゲル法)。
【0042】
なお、上記の例では、添加するd−ソルビトールの添加量によって孔部の孔径が調整可能であるとしたが、ゲル化時の温度によっても孔径の調整が可能である。
【0043】
このように構成された多孔質体11を、投入口12と排出口13の間に介装することで本発明カラム1を実現することができる。なお、筒状体16は、その内径が多孔質体11の外径よりは大きく、且つ、その多孔質体11の外径に近い値となるような範囲内の大きさであることが好ましい。筒状体16の内径が多孔質体11の外径より小さいと、筒状体によって多孔質体11を覆うことができず、一方、筒状体の内径が多孔質体の外径と比べて大きすぎると、筒状体の内壁と多孔質体の外壁との間に隙間ができてしまい、当該隙間から血液が漏れ出てしまうからである。
【0044】
また、多孔質体11を筒状体16内に装着する代わりに、多孔質体11の外側面を紫外光透過性を有する物質でコーティングする構成としても良い。
【0045】
[他の実施形態]
以下に、他の実施形態について説明する。
【0046】
〈1〉上述の実施形態では、本発明システム10は、紫外光照射手段2を備え、多孔質体11の貫通孔部15内を血液が流動中に、多孔質体11の外側から当該手段2より紫外光を照射する構成としたが、白血球に照射する励起光は紫外光に限定されるものではなく、例えば波長400〜500nm程度の可視光を照射する構成としても良い。すなわち、本発明システム10は、所定の励起光を照射する励起光照射手段2(紫外光照射手段2に相当)を備えるとともに、本発明カラム1が備える多孔質体11の骨格部14、並びに多孔質体11が筒状体によって覆われる場合には当該筒状体が、励起光照射手段2から照射される励起光を透過する性質を有している構成であれば良い。また、図1では、便宜上紫外光照射手段2からあたかも一方向に紫外光21が照射されるかのように図示されているが、本発明カラム1の外周部分に対して全方向から紫外光21が照射される構成としても良い。
【0047】
〈2〉上述の実施形態では、免疫抑制の目的で、白血球に対して紫外光(励起光)を照射することを目的としていたため、多孔質体11の貫通孔部15の孔径は白血球の径よりも大きいことが前提となっていた。しかし、例えば、他の体液中に含まれる所定の細胞に対してのみ励起光を照射することを目的とするような場合であっても、同様に応用することが可能である。すなわち、照射目標となる細胞の最大径よりも大きい貫通孔部15を有する多孔質体11を前記の方法によって製造するとともに、投入口12並びに排出口13を備えて本発明カラム1を実装し、投入口12から当該体液を投入し、貫通孔部15内を当該体液が流動中に、本発明カラム1の外側から励起光(紫外光)照射手段2によって本発明カラム1に向かって励起光を照射した後、照射後の体液を排出口13から採取する構成であれば、いかなる態様においても本発明が想定する範囲内である。
【0048】
〈3〉上述の実施形態では、本発明カラム1が備える多孔質体11がスピノーダル分解ゾル−ゲル法によって製造された場合を例に挙げて説明した。当該方法によって製造された場合、骨格部14は三次元網目構造となって構成される。しかしながら、本発明の目的を達成するに際しては、照射目標となる細胞の最大径よりも大きい貫通孔部15と、その貫通孔部15を取り囲む励起光を透過可能な骨格部14を有する多孔質体11でありさえすれば良く、骨格部14は必ずしも三次元網目構造である必要はない。例えば、投入口12から排出口13に向かうベクトルとほぼ平行方向に複数の貫通孔部15が連続的に複数の分岐路を有して形成される場合であっても本発明の目的を達成することができる。ただし、上述の実施形態のように三次元網目構造の骨格部14を有することで、圧力を抑えながら貫通孔部15内を体液を流動させることができ、体液に対して万遍なく励起光を照射することができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係るフォトフェレシス処理システムの概略構成を示す概念的ブロック図
【図2】本発明に係るフォトフェレシス処理用カラムを構成する多孔質体の構成を示すSEM写真
【図3】多孔質体に血液を投入した状態を示す概念図
【符号の説明】
【0050】
1: 本発明に係るフォトフェレシス処理用カラム
2: 紫外光照射手段
10: 本発明に係るフォトフェレシス処理システム
11: 多孔質体
12: 投入口
13: 排出口
14: 骨格部
15: 孔部
16: 筒状体
21: 紫外光
30: 血液
31: 白血球
32: 赤血球

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光の照射目標となる細胞を含む体液が投入される投入口と、
投入された前記体液が排出される排出口と、
前記投入口と前記排出口の間を連通する貫通孔部、及び前記励起光を透過する性質を示す骨格部で構成された多孔質体と、を備えてなり、
前記貫通孔部の孔径が前記細胞の最大径より大きく、
前記多孔質体の外側から照射された前記励起光を前記骨格部内に受光可能に構成されていることを特徴とするフォトフェレシス処理用カラム。
【請求項2】
前記多孔質体がケイ酸を主成分とすることを特徴とする請求項1に記載のフォトフェレシス処理用カラム。
【請求項3】
前記骨格部が三次元網目構造を有することを特徴とする請求項1または2に記載のフォトフェレシス処理用カラム。
【請求項4】
前記多孔質体が、スピノーダル分解ゾル−ゲル法により製造されたものであることを特徴とする請求項3に記載のフォトフェレシス処理用カラム。
【請求項5】
前記励起光を透過する性質を示す筒状体によって前記多孔質体の周囲が覆われており、
前記筒状体の外側から照射された前記励起光を前記骨格部内に受光可能に構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のフォトフェレシス処理用カラム。
【請求項6】
前記細胞が白血球であり、
前記体液が血液であり、
前記励起光が紫外光または波長500nm以下の可視光であり、
前記多孔質体が、水銀圧入法による測定の下で平均孔径15〜50μmを示す貫通孔部を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のフォトフェレシス処理用カラム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のフォトフェレシス処理用カラムと、
前記フォトフェレシス処理用カラムの外側から前記骨格部に対して前記励起光を照射可能な励起光照射手段と、を備えることを特徴とするフォトフェレシス処理システム。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のフォトフェレシス処理用カラムが有する前記投入口から前記体液を投入し、
前記体液が前記貫通孔部内を流動中に、前記フォトフェレシス処理用カラムの外側から前記骨格部に対して前記励起光を照射することで、前記骨格部を介して前記体液中の前記細胞に対して前記励起光を照射することを特徴とするフォトフェレシス処理方法。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図2】
image rotate