説明

フグ類養殖方法及び養殖装置

【課題】フグ類を短期間で飛躍的に成長させる。
【解決手段】フグ類の浸透圧調節機能にかかる負荷を海水のときよりも軽減する塩分濃度の養殖用水を用いて、体重250gに成長するまでフグ類を養殖するようにした。また、養殖用水の塩分濃度は、フグ類の体重が100g未満の場合には4〜20‰の範囲内、体重100g以上で180g未満の場合には4‰〜35‰未満の範囲内、体重180g以上で250g以下の場合には20‰〜35‰未満の範囲内に維持することが好ましい。体重250gを超えた後は、20‰超〜35‰の塩分濃度とした養殖用水を用いて養殖するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフグ類養殖方法及び養殖装置に関する。さらに詳述すると、本発明はトラフグに代表されるフグ類の養殖方法及び養殖装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
トラフグに代表されるフグ類は市場価値の高い所謂高級魚であり、漁獲量が不安定なことから、市場への安定供給が可能な養殖への期待が大きい。従来、魚介類を養殖する場合には、海中に設置した生け簀に稚魚を収容するという方法、あるいは、陸上に設置した養殖池や水槽に天然海水(以下、「海水」と称する)を常時汲み上げて供給するという方法が採用されており(例えば特許文献1参照)、フグ類を養殖するにあたっても従来採用されているこれらの養殖方法が考えられる。
【0003】
【特許文献1】特開2003−89号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したような従来の養殖方法でフグ類を出荷可能なサイズにまで成長させるには多くの手間と飼料代を要してしまう。また、陸上に設置した養殖池や水槽に海水を常時汲み上げて供給するという大量の海水を必要とする養殖方法では、費用が嵩んでしまうといった問題が生じる。
【0005】
そこで本発明は、フグ類を効率良く成長させることができるフグ類養殖方法および養殖装置を提供することを目的とする。加えて、水槽などへの海水の供給量を減らすことができるフグ類養殖方法および養殖装置を提供することを本発明のもう1つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、本発明者等は、様々な塩分濃度の養殖用水を用いてフグ類の養殖実験を行なったところ、フグ類の浸透圧調節機能にかかる負荷を海水のときよりも軽減する塩分濃度の養殖用水を用いてフグ類を養殖することで、海水そのものを養殖用水に用いる場合よりもフグ類の成長を促進させることが可能なことを知見し、特に、塩分濃度が4〜20‰、さらには7〜10‰の養殖用水を用いてフグ類を養殖することでフグ類の日間増重率、日間摂餌率、飼料効率が向上することを知見するに至った。また、この養殖実験において、養殖用水の塩分濃度が7‰を下回ると、フグ類の日間増重率及び飼料効率はいずれも下落し始めるが、養殖用水の塩分濃度が4‰にまで薄められた場合であっても塩分濃度を調整しない海水で養殖した場合の日間増重率及び飼料効率を依然として上回ることを知見した。また、日間摂餌率は、養殖用水の塩分濃度が4‰にまで薄められた場合に、塩分濃度を調整しない海水で養殖した場合の日間摂餌率とほぼ同一になることを知見した。また、塩分濃度が4‰を下回っていくにつれ、日間増重率、日間摂餌率及び飼料効率は徐々に下落して行く傾向が認められ、成長速度や成長率の向上に効果がなくなることを知見した。
【0007】
また、本発明者等がさらなる検討を行なったところ、体重が250gを超える成長段階にあるフグ類に関しては、20‰以下の塩分濃度とした養殖用水で養殖した場合するよりも、海水塩分濃度(33〜35‰)に近い塩分濃度とした養殖用水で養殖した方が成長の促進を図ることができることを知見した。即ち、フグ類の成長促進に最適な養殖用水の塩分濃度範囲が、フグ類の成長段階に応じて異なることを知見し、本願発明に至った。
【0008】
本発明のフグ類養殖方法は、かかる知見に基づくものであり、フグ類の浸透圧調節機能にかかる負荷を海水のときよりも軽減する塩分濃度の養殖用水を用いて、体重250gに成長するまでフグ類を養殖するようにしている。
【0009】
養殖用水の塩分濃度を海水よりも薄くすることによって、フグ類の浸透圧調節機能にかかる負荷が海水のときよりも軽減される。したがって、摂取した栄養分の中から浸透圧調節に費やされる分が体の成長のために効率的に利用され易い状態になり、塩分濃度を調整しない海水で養殖される場合に比べて成長速度が向上し、飼料効率も高くなる。また、本発明者等は、体重が250gを超えるフグ類を20‰以下の塩分濃度とした養殖用水で養殖した場合には、海水塩分濃度に近い濃度とした養殖用水で養殖した場合に比べて成長速度が低下することを知見しており、体重250gに成長するまでこの養殖方法を適用することで、確実にフグ類の成長が促進される。
【0010】
ここで、養殖用水の塩分濃度は、フグ類の体重が100g未満の場合には4〜20‰の範囲内、体重100g以上で180g未満の場合には4‰〜35‰未満の範囲内、体重180g以上で250g以下の場合には20‰〜35‰未満の範囲内に維持することが好ましい。また、養殖用水の塩分濃度は、フグ類の体重が100g未満の場合には7〜10‰の範囲内、体重100g以上で180g未満の場合には7〜30‰の範囲内、体重180g以上で250g以下の場合には20〜30‰の範囲内に維持することがさらに好ましい。
【0011】
また、本発明のフグ類養殖方法は、請求項1〜3のいずれかに記載の養殖方法によりフグ類を養殖した後、養殖用水の塩分濃度を20‰超〜35‰としてこのフグ類を養殖するようにしている。体重250gを超えるフグ類の場合、塩分濃度が20‰以下の養殖用水を用いて養殖するよりも、20‰超〜35‰の塩分濃度とした養殖用水を用いて養殖した方が成長速度の向上を図ることができる。したがって、体重250gに成長するまではフグ類の浸透圧調節機能にかかる負荷を海水のときよりも軽減する塩分濃度の養殖用水を用いて養殖し、体重250gを超えた後は、20‰超〜35‰の塩分濃度とした養殖用水を用いて養殖することで、フグ類の成長を効率よく促進することができる。
【0012】
また、本発明のフグ類養殖装置もかかる知見に基づくものであり、養殖用水を濾過・循環して水質を一定に維持する閉鎖循環系のフグ類養殖装置において、フグ類を養殖する水槽内の養殖用水の塩分濃度を4〜35‰の範囲に維持する塩分濃度維持装置を備えるようにしている。
【0013】
したがって、フグ類の成長段階に応じてその成長促進に最適な養殖用水の塩分濃度範囲に維持することができる。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載のフグ類養殖方法によれば、フグ類の浸透圧調節機能にかかる負荷を海水のときよりも軽減する塩分濃度の養殖用水を用いてフグ類を養殖するようにしたので、浸透圧調節に費やされていた栄養分のエネルギーを体の成長に利用することができ、その分だけフグ類の成長を早めることが可能となる。また、塩分濃度を調整しない海水で養殖した場合に比べて同じ飼料量でも大きな成長が期待できる。即ち、同じ大きさに成長させる場合には少ない飼料で済ませることができる。さらに、養殖用水の塩分濃度を下げることで、養殖で必要とする海水量を減らすことができる。したがって、フグ類を体重250gに成長するまで養殖するにあたって生育期間の短縮、飼料の削減、海水使用量の削減が可能となり、フグ類の養殖における経済性向上を図ることができる。
【0015】
請求項2記載のフグ類養殖方法によれば、フグ類の成長段階に応じて、その成長促進に最適な養殖用水の塩分濃度範囲でフグ類の養殖を行なうことができるので、フグ類の成長速度並びに飼料効率の向上を確実に実現することができる。
【0016】
請求項3記載のフグ類養殖方法によれば、フグ類の成長段階に応じて、その成長促進に更に最適な養殖用水の塩分濃度範囲でフグ類の養殖を行なうことができるので、成長速度及び飼料効率の更なる向上が実現される。
【0017】
請求項4記載のフグ類養殖方法によれば、体重250gを超える成長段階にあるフグ類の成長を促進するのに最適な塩分濃度範囲とした養殖用水でフグ類の養殖を行うことができるので、体重250gを超えるフグ類の成長速度及び飼料効率の向上が実現できる。したがって、養殖開始時から出荷までの生育期間におけるフグ類の成長速度及び飼料効率の向上を実現でき、更なる生育期間の短縮及び飼料の削減が可能となり、フグ類の養殖における経済性を更に向上を図ることができる。
【0018】
請求項5記載のフグ類養殖装置によれば、養殖用水を濾過・循環して水質を一定に維持する閉鎖循環系の養殖装置として、フグ類を養殖する水槽内の養殖用水の塩分濃度を4〜35‰の範囲に維持する塩分濃度維持装置を備えているので、フグ類の成長段階に応じて、その成長促進に最適な養殖用水の塩分濃度範囲に維持することができ、フグ類の成長速度及び飼料効率を向上させ、さらに、養殖で必要とする海水量を減らすこともできる。したがって、フグ類を養殖するにあたって生育期間の短縮、飼料の削減、海水使用量の削減が可能となり、フグ類の養殖における経済性向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の一形態に基づいて詳細に説明する。
【0020】
図1〜3に本発明にかかるフグ類養殖装置の一実施形態を示す。この実施形態のフグ類養殖装置17は、フグ類を養殖する水槽内の養殖用水の塩分濃度を一定濃度に維持する塩分濃度維持装置18を備えるようにしている。そして、本発明にかかるフグ類養殖方法は、フグ類養殖装置17を用いることにより、フグ類の成長段階に応じてその成長に最適な塩分濃度の養殖用水を用いてフグ類を養殖するようにしている。
【0021】
本実施形態のフグ類養殖装置17は、海域から分離されて構成された閉鎖循環系の装置であり、例えば海から汲み上げられた海水を一定期間交換することなく或いは適量を交換しながら更に濾過・循環して養殖用水を維持するものである。このような閉鎖循環系とすることにより、養殖用水槽1内の養殖用水の水質、温度、塩分濃度等を制御して一定の範囲内に維持できるようにしている。以下、図1〜3を参照しながらフグ類養殖装置17を詳細に説明する。
【0022】
図1においてフグ類養殖装置17における水槽1は、円形、または六角、八角などの多角形のものが用いられている。水槽1の底部は1/10から1/20程度の傾斜を有し、水槽1への注水の流れにより糞や残餌などが自動的に水槽中央部に集められて水槽底部の排出口2より養殖用水とともに排出されるようになっている。また、水槽1の周囲には効率よく断熱材を組み込むことにより断熱性の向上が図られている。排出口2には、養殖中のフグ類の迷入、吸い込みを防止するためのプラスチック製筒状をした網が取り付けられる。なお、フグ類のサイズに応じて網の目合いを換えるため脱着式とすることが好ましい。
【0023】
沈澱槽3は水槽1の水位調節槽を兼ねて設置されている。沈澱槽3の形状は図2に示すように円筒または下部に逆円錐形状の部分を有する円筒形状であり、水槽1からの養殖用水の排水注入口14は、前者の形状にあっては円筒体部3aの下部、後者の形状にあっては逆円錐形部分3bの直上の円筒体部3a下部に開口し、その位置は図3に示すように円筒体の中心から外側にずれ、注入水が円筒体の内壁に沿って流れることにより渦巻き流を生じる位置となっている。この渦巻き流によって排水中の糞や残餌を積極的に沈降させ捕集することができる。沈澱槽3の最下部には沈澱捕集された糞や残餌を水とともに排出できるように排出コック16が設けられている。沈澱物が除去された養殖用水は沈澱槽3の上部側壁に設けられた出水管15から排出される。この沈澱槽3の効果により、次に設置した浮遊懸濁物除去のためのフィルター装置4にかかる負荷を減少でき、フィルター装置4のスクリーン部分の洗浄回数を減じることができ、また、このための逆洗水の使用量も少なくできる。なお、このフィルター装置4は、水位センサーが取り付けられており、フィルター効率の低下を検知して自動逆洗を行うことができる。
【0024】
バイオフィルター5では、好気性バクテリアの働きにより毒性の高い排泄物のアンモニアが亜硝酸を経由して毒性の低い硝酸に酸化される。バイオフィルター5の容器の大きさおよび必要濾材量は、水槽1で養殖される魚介類の大きさと個体数により変化するため、アンモニアなどの窒素排泄量と濾材のアンモニア酸化速度に基づき決定される。この決定方法については、本発明者らが先に提案した特公平7−55116号公報(特許第2035885号)の方法を用いる。また、バイオフィルター5中の前方に堰板を設け、フィルター装置4からの水が滝落ちとなるようにする。これにより、養殖用水中の二酸化炭素の除去と養殖用水への空気を利用した酸素補給を行う。
【0025】
脱窒槽11は、養殖用水中に蓄積される硝酸を嫌気性バクテリアの働きにより養殖用水1中から除去するものである。また、浮遊懸濁物除去のためのフィルター装置4とバイオフィルター5との間には、養殖用水中のタンパク質などの溶存有機物を微細気泡とともに除去するための微細気泡発生装置12が組み込まれている。微細気泡の発生には空気を用い、小型のエアーブロワー13により給気する。
【0026】
バイオフィルター5からの養殖用水は循環ポンプ6により紫外線照射装置7に通流される。紫外線照射は養殖用水の殺菌にとどまらず、水中の有機物の分解つまり低分子化の効果をも有する。
【0027】
次に、養殖用水は酸素溶入器8に送られる。ここでは、酸素発生装置9から通気される純酸素を用いて養殖用水中の酸素濃度を高める。通気量はフグ類の種類にもよるが水槽1中で酸素飽和度100〜130%、排水口2から排出される養殖用水の酸素飽和度が70〜80%となるように調整する。この調整においては、対象魚介類の生理的要求量と養殖量から算定される酸素必要量に基づくものとする。
【0028】
酸素溶入器8で酸素濃度を調整された養殖用水(以下、「濾過済みの養殖用水」と称する)は混合槽20を経由して水槽1へと供給されるが、一部はヒートポンプ10に送られ、対象となるフグ類の生育に適した水温に調整されてから、水槽1内へ供給される。濾過済みの養殖用水は混合槽20に流入すると、そこで必要に応じて塩分濃度維持装置18によって淡水と海水の双方、あるいはそれらのうちのいずれか一方が加えられ、塩分濃度が調整されてから水槽1内へ供給される。勿論、混合槽20を設けずに、直接塩分濃度維持装置18によって制御された海水と淡水あるいはこれらの混合物が濾過済みの養殖用水若しくは濾過前の養殖用水に混入されて塩分濃度の調整が行なわれるようにしても良い。
【0029】
塩分濃度維持装置18は水槽1内の養殖用水の塩分濃度を一定の範囲内に維持するものである。本実施形態において一定の範囲内とは、フグ類の各成長段階における成長に最適な塩分濃度範囲である。例えば、フグ類の体重が100g未満の場合には4〜20‰、体重100g以上で180g未満の場合には4‰〜35‰未満、体重180g以上で250g以下の場合には20‰〜35‰未満であり、さらに好ましくは、フグ類の体重が100g未満の場合には7〜10‰、体重100g以上で180g未満の場合には7〜30‰、体重180g以上で250g以下の場合には20〜30‰である。そして、体重250gを超える場合には20‰超〜35‰である。塩分濃度維持装置18は、水槽1内に設置されて水槽1内の養殖用水の塩分濃度を測定する水槽用塩分濃度測定装置19と、濾過処理済みの養殖用水を水槽1に供給する直前の段階で一時的に滞留させ、必要に応じて海水や淡水が混合される混合槽20と、この混合槽20に海水を供給する海水供給装置21と、混合槽20に淡水を供給する淡水供給装置22と、混合槽20内に設置され、混合槽20内の水の塩分濃度を測定する混合槽用塩分濃度測定装置23と、塩分濃度測定装置19、23の測定結果に基づいて海水と淡水の混合槽20への供給量を決定するとともに、その決定した供給量に基づいて海水供給装置21と淡水供給装置22の動作を制御するCPUまたはMPUからなる制御装置24とを備えている。ここで、海水と淡水の混合槽20への供給量は、海水と淡水の双方、あるいはいずれか一方が混合槽20内において濾過済みの養殖用水と混合され、その混合水が水槽1内に供給されたときに水槽1内の養殖用水の塩分濃度が上記の一定の範囲内の濃度になるように制御される。また、水槽1に養殖用水を貯留する当初においては、混合槽20において予め調整された所定濃度の養殖用水が供給される。
【0030】
海水供給装置21と淡水供給装置22は、海水、淡水を汲み上げるポンプ21a、22aと、開閉動作によってポンプ21a、22aで汲み上げられた海水や淡水の混合槽20内への供給を制御するバルブ21b、22bとを備えている。バルブ21b、22bのそれぞれには、例えば制御装置24からの命令信号に応答して駆動するソレノイドが組み込まれており、ソレノイドの駆動に伴って開閉動作するように構成されている。なお、淡水としては、上水道をそのままあるいは塩素分などを除去してから供給するようにしても良い。
【0031】
以上のように構成されたフグ類養殖装置17においては、水槽1の養殖用水は水槽1と水質・塩分濃度調整手段との間を循環する間に水質並びに塩分濃度が一定幅内に調整されて維持される。即ち、養殖用水は、沈澱槽3、フィルター装置4、バイオフィルター5、循環ポンプ6、紫外線照射装置7、酸素溶入器8によって濾過されると、その濾過済みの養殖用水は混合槽20に流入する。制御装置24は、水槽1内の養殖用水の塩分濃度と混合槽20内の水の塩分濃度とを常時監視しており、水槽1内の養殖用水の塩分濃度が予め定められた範囲内にある場合、混合槽20に海水と淡水を供給せず、水槽1内の養殖用水の塩分濃度が上記の一定の範囲内になかった場合、バルブ21b、22bの開閉動作を制御することにより混合槽20に海水や淡水を適量供給する。例えば、水槽1内の養殖用水の塩分濃度を4〜20‰の範囲内に維持する場合で養殖用水が4‰を下回っていた場合にはバルブ22bを閉状態にしたままでバルブ21bを一定時間開状態にして海水を混合槽20に供給し、養殖用水が20‰を上回っていた場合にはバルブ21bを閉状態にしたままでバルブ22bを一定時間開状態にして淡水を混合槽20に供給する。
【0032】
混合槽20内における濾過済みの養殖用水と海水による混合水、濾過済みの養殖用水と淡水による混合水、あるいは濾過済みの養殖用水と海水と淡水とによる混合水が水槽1内に供給されることによって水槽1内の養殖用水の塩分濃度が上記の一定の範囲内に復帰すると、バルブ21b、22bは制御装置24の命令に従って閉じられる。そして、水槽1内の養殖用水の塩分濃度が再び上記の一定の範囲外になった場合には混合槽20内に海水と淡水の双方、あるいはいずれか一方が供給される。このように、槽内の養殖用水の塩分濃度を監視しつつ予め定められた範囲内の塩分濃度となるように海水や淡水を適宜に混合してから水槽1内に供給することによって水槽1内の養殖用水の塩分濃度は常に上記の一定の範囲内に維持される。したがって、フグ類の成長段階に応じてその成長に最適な塩分濃度範囲に維持してフグ類を養殖することが可能となる。
【0033】
このように閉鎖循環系のフグ類養殖装置17を用いて養殖用水を低塩分状態に維持し、そこでフグ類を養殖することによって、海水による養殖、例えば海水を用いる海面網イケス養殖に比べ、生育期間の短縮、飼料効率の向上、海水使用量の削減を図ることができるので、大幅なコスト削減を実現することができる。
【0034】
次に、フグ類の各成長段階における成長に最適な塩分濃度範囲について以下に詳細に説明する。
【0035】
体重が100gになる前の成長段階にあるフグ類の場合、養殖用水の塩分濃度は4〜20‰の範囲内に設定するのがよく、好ましくは7〜20‰、より好ましくは7〜19‰、最も好ましくは7〜10‰である。海水塩分濃度よりも低い塩分濃度とした養殖用水を用いることで、海水塩分濃度の養殖用水を用いた場合よりも成長速度は向上するが、より確実且つ効率的に成長速度を向上させるためには塩分濃度を20%以下とするのがよい。また、塩分濃度が4‰を下回っていくにつれ、日間増重率、日間摂餌率及び飼料効率は徐々に下落してしまい、フグ類の成長を効率的に促進することができない。
【0036】
つまり、フグ類の体液の塩分濃度が海水の塩分濃度の1/3程度であることを勘案すると、塩分濃度をフグ類の体液と同じレベルに維持した養殖用水でフグ類を養殖することによってフグ類の体内における体液の浸透圧と塩分組成を一定に保つ機能すなわちフグ類の浸透圧調節機能にかかる負荷が無くなるため、摂取した栄養分の中から浸透圧調節に費やされる分が体の成長のために効率的に利用され易い状態になり、その結果、体重が100gになる前の成長段階にあるフグ類は短期間で飛躍的に成長すると考えられる。したがって、養殖用水の塩分濃度をフグ類の浸透圧調節機能にかかる負荷を海水のときよりも軽減する塩分濃度すなわち4〜20‰の範囲内に維持することによりフグ類の成長速度を向上させることが可能になる。また、養殖用水の塩分濃度を上記の一定範囲内に維持することにより、塩分濃度を調整しない海水で養殖した場合に比べて同じ飼料量でも大きな成長が期待できる。即ち、同じ大きさに成長させる場合には少ない飼料で済ませることができる。
【0037】
体重180g以上で250g以下の成長段階にあるフグ類の場合、養殖用水の塩分濃度は20〜35‰未満の範囲内に設定するのがよく、好ましくは20‰〜30‰、最も好ましくは30‰である。海水の塩分濃度範囲に含まれる塩分濃度35‰の養殖用水を用いると、35‰未満の塩分濃度とした養殖用水を用いた場合よりも成長速度が低下してしまうことが本発明者等の実験により確認されている。したがって、塩分濃度が35‰の場合がある海水そのものを養殖用水として用いた場合、成長速度が低下してしまう虞がある。また、塩分濃度を20‰未満、特に10‰以下とした養殖用水を用いた場合にも成長速度が低下してしまうことが本発明者等の実験により確認されている。したがって、上記の塩分濃度範囲を逸脱する範囲でフグ類の養殖を行うことは、フグ類の成長を効率的に促進させる観点からは好ましいとは言えない。
【0038】
体重が100gになる前の成長段階と体重180g以上で250g以下の成長段階との間の成長段階、即ち、体重100g以上で180g未満の成長段階にあるフグ類の場合、養殖用水の塩分濃度は4〜35‰未満、好ましくは7〜30‰の範囲内に設定すればよい。例えば、体重が100gになる前の成長段階にあるフグ類の養殖用水の塩分濃度範囲をそのまま維持したり、あるいは体重180g以上で250g以下の成長段階にあるフグ類の養殖用水の塩分濃度範囲に設定して養殖をおこなってもよい。ここで、この養殖期間においては、初期段階では体重100gまでの成長段階にあるフグ類を養殖した養殖用水の塩分濃度を維持し、終期段階では体重180g以上で体重250g以下の成長段階にあるフグ類を養殖する養殖用水の塩分濃度に設定することが好ましい。さらに、初期段階から終期段階にかけて塩分濃度を段階的にあるいは連続的に変化させることが好ましい。例えば、体重が100gになる前の成長段階では養殖用水の塩分濃度を10‰とし、体重180g以上で250g以下の成長段階では塩分濃度を30‰として養殖をおこなう場合、体重100g以上で180g未満の成長段階では、塩分濃度を10%〜30%に徐々に変化させるようにする。具体的には、体重140g以下のときは10%の塩分濃度を維持し、体重140gを超えた後は20%の塩分濃度として2段階で塩分濃度を変化させたり、3段階以上として塩分濃度を変化させてもよい。また、塩分濃度を10%〜30%まで連続的に変化させてもよい。このように塩分濃度を段階的に変化させることで、環境の変化を緩やかなものとして、フグ類にかかるストレスを低減することもできる。
【0039】
体重250gを超える成長段階にあるフグ類の場合、20‰超〜35‰の範囲内に設定するのがよく、30〜35‰とすることがより好ましい。つまり、この成長段階にあるフグ類の場合、養殖用水として海水そのものを用いてもよい。塩分濃度を20‰以下とした場合には成長速度が低下してしまい、特に塩分濃度を10‰以下とした場合には、摂餌量が減少して体重が減少してしまうことが本発明者等の実験により確認されている。尚、この成長段階における成長促進効果は、塩分濃度だけでなく、海水中に含まれる塩類の量に依存している可能性もあり、養殖用水中の海水由来塩類が不足した場合に、成長速度が低下する可能性がある。したがって、塩分濃度を上記範囲に維持しているにもかかわらず、フグ類の成長速度の低下が見られた場合には、塩分濃度を維持しながら海水の補充を行ったり、あるいは海水中に含まれる塩類を養殖用水に添加するようにしてもよい。
【0040】
このように、フグ類の各成長段階においてその成長に最適な塩分濃度範囲に設定した養殖用水を用いて養殖を行うことで、養殖開始後から出荷までのフグ類の成長速度及び飼料効率の向上が実現でき、海水による養殖、例えば海水を用いる海面網イケス養殖のように生育の全期間を海水で行う従来の養殖方法と比較して、生育期間の短縮及び飼料の削減が可能となり、フグ類の養殖における経済性を大幅に向上させることができる。
【0041】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば上述した実施形態においては、塩分濃度維持装置18を用いることによって水槽1内の養殖用水の塩分濃度を一定の範囲内に維持するようにしているがこれは一例に過ぎない。例えば、海水と淡水を一定の割合で混合した汽水をタンクに予め用意しておき、そのタンクに溜められている汽水を水槽1内に供給するとともに、その供給に伴って水槽1内に供給される汽水の量と同等量の水を水槽1から抜くことによって養殖用水の塩分濃度を一定の範囲内に維持するようにしても良い。また、塩分濃度調整剤を水槽1に投与することによって水槽1内の養殖用水の塩分濃度を一定の範囲内に維持するようにしても良い。また、海水は天然海水には限られず、人工海水としてもよい。
【0042】
また、本実施形態では、混合槽20を酸素溶入器8と水槽1との間に設置し、そこに海水や淡水を適量加え、混合槽20内で作られた混合水を水槽1内に供給することによって水槽1内の養殖用水の塩分濃度を一定の範囲内に維持するようにしたが、混合槽20の設置箇所は本実施形態で示された箇所に限定されるものではなく、例えば、沈澱槽3とフィルター装置4との間に混合槽20を設置し、そこで沈殿槽3から流入してくる養殖用水に海水と淡水の双方、あるいはいずれか一方を適量加えて、塩分濃度の調整を行なうようにしても良く、フグ類養殖装置17において混合槽20の設置箇所は適宜に変更可能である。また、フグ類養殖装置17において複数の箇所に混合槽20を設け、それらの混合槽20で塩分濃度の調整を行なうようにしても良い。
【0043】
なお、本発明の効果を確実且つ効率的に発揮する観点からは、フグ類が孵化してからできるだけ早い段階で本発明の養殖方法を適用することが望ましいが、ある程度成長した段階のフグ類に適用しても良い。例えば、体重180g程度に成長したフグ類を本発明の養殖方法により養殖した場合にも、このフグ類の成長を促進させることができる。
【0044】
また、上述の実施形態ではフグ類の個体の体重により塩分濃度を切り替えるようにしているが、実際に本発明の養殖方法を適用して得られた結果や一般的なフグ類の成長速度に基づいてフグ類の個体が上述の成長段階に到達する期間を見極め、その期間によって塩分濃度を切り替えるようにしてもよい。
【実施例】
【0045】
(実施例1)
上記のフグ類養殖装置17を用いてトラフグの養殖実験を行なった。約100リットルの養殖用水が溜められた水槽1を4本用意した。養殖用水は塩分濃度が35‰、30‰、20‰、10‰の4種類とし、各塩分濃度区につき、初期体重3gのトラフグを容量20リットルの網イケスに10尾、3連で収容した。給餌は週6日、1日2回、トラフグ用配合飼料を毎回飽食量投与した。なお、この養殖実験で使用した塩分濃度が35‰の養殖用水は通常海水である。
【0046】
上記の条件で12週間の養殖を行い、上記4種類の養殖用水でのトラフグの体重の経時変化を調べた。その結果を表1、2及び図4に示す。表1は4週毎の平均体重を示し、表2は各塩分濃度における養殖開始時の体重、養殖終了時の体重、養殖開始時の体長、養殖終了時の体長、比成長率、日間摂餌率、増重率、飼料効率、生残率を示す。なお、表中の数値は3連(10尾/連)で行なった実験の平均と標準偏差で示されている。また、表2中の日間摂餌率(%)は数式1を、増重率(%)は数式2を、飼料効率(%)は数式3を、比成長率(%)は数式4を用いて算出される。また、図4のグラフはトラフグの平均体重の経時変化を示すものであり、◆のプロットは塩分濃度が35‰でのトラフグの体重の経時変化を示し、■のプロットは塩分濃度が30‰でのトラフグの体重の経時変化を示し、▲のプロットは塩分濃度が20‰でのトラフグの体重の経時変化を示し、●のプロットは塩分濃度が10‰でのトラフグの体重の経時変化を示す。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
<数式1>
(日間摂餌率)=(養殖終了時の体重−養殖開始時の体重)/{(養殖終了時の体重+養殖開始時の体重)/2×給餌日数}×100
<数式2>
(増重率)={(養殖終了時の体重−養殖開始時の体重)/養殖開始時の体重}×100
<数式3>
(飼料効率)=(増重量/摂餌量)×100
<数式4>
(比成長率)={(lnW−lnW)/84}×100
ln:自然対数
:養殖終了時の平均体重
:養殖開始時の平均体重
【0050】
図4に示される結果から、塩分濃度が10、20、30、35‰の養殖用水のうち、塩分濃度が35‰の養殖用水で養殖したトラフグの養殖終了時の体重が最も小さく、塩分濃度が10‰の養殖用水で養殖したトラフグの養殖終了時の体重が最も大きいことが分かる。また、トラフグの養殖終了時の体重は、35‰の塩分濃度を基準とした場合、この基準から塩分濃度が薄くなるほど大きくなることが分かる。つまり、10、20、30‰の養殖用水でフグ類を養殖すると、35‰の養殖用水を用いて養殖した場合に比べて同じ大きさになるのに時間がかからないことが分かる。また、12週目における各塩分濃度区の個体の平均体重は全て100g未満であり、この養殖期間では各塩分濃度区においてほぼ一定の割合で体重の増加が見られることから、少なくとも体重100g未満のトラフグでであれば、10、20、30‰の養殖用水でフグ類を養殖した場合には、35‰の養殖用水を用いて養殖した場合に比べて同じ大きさになるのに時間がかからないことが分かる。
【0051】
また、表2に示されている結果から、塩分濃度が10‰の養殖用水で養殖したトラフグは塩分濃度が20、30、35‰の養殖用水で養殖したトラフグに比べて日間摂餌率、増重率、飼料効率、比成長率の値が際立って大きいことが分かる。特に飼料効率は塩分濃度が35‰の養殖用水で養殖したトラフグが115%であるのに対して塩分濃度が10‰の養殖用水で養殖したトラフグは122%であることから、塩分濃度が10‰の養殖用水で養殖したトラフグは塩分濃度が35‰の養殖用水で養殖したトラフグに比べて同じ体重増加をもたらすのに餌が少なくて済むことが分かる。
【0052】
なお、この養殖実験において、閉鎖循環式のフグ類養殖装置17を用いて低塩分濃度状態でフグ類を養殖しても、アンモニアや亜硝酸の上昇は見られず、水質浄化作用には大きな問題は生じなかった。
【0053】
次に総水量が約45リットルの循環濾過システムを用いてトラフグの養殖実験を行なった。養殖用水の水温は約23℃に維持した。養殖用水は34‰、25‰、19‰、11‰、7‰、4‰の各一定塩分濃度に維持された6種類とし、各養殖用水に平均体重8gのトラフグをそれぞれ14尾ずつ収容した。餌は市販のトラフグ用配合飼料を週5日、1日2回、毎回飽食量を投与した。なお、この養殖実験で使用した塩分濃度が34‰の養殖用水は通常海水である。
【0054】
上記の条件で35日間の養殖を行い、上記の6種類の養殖用水について成長率を比較した。その結果を表3、4及び図5に示す。表3は各塩分濃度における養殖開始時の体重、養殖終了時の体重、浸透圧を示し、表4は各塩分濃度における日間増重率、日間摂餌率、飼料効率を示す。なお、図5の飼料効率は上記の数式3によって算出され、日間増重率(%)は下記の数式5によって算出される。
【0055】
【表3】

【0056】
【表4】

【0057】
<数式5>
(日間増重率)=(増重量/平均体重)/養殖日数×100
【0058】
表3、4及び図5に示される結果から、4、7、11、19、25、34‰の養殖用水のうち、4、7、11、19‰の養殖用水で養殖したトラフグの日間増重率は順に2.73%、2.96%、2.94%、2.99%であり、いずれも塩分濃度25、34‰の養殖用水で養殖したトラフグの日間増重率2.53%、2.50‰を大きく上回っていることが分かる。特に7、11、19‰の養殖用水で養殖したフグ類の日間増重率は際立って大きいことが分かる。また、飼料効率は塩分濃度が34‰の養殖用水で養殖したトラフグが135%であるのに対して塩分濃度が7‰の養殖用水で養殖したトラフグは147%であることから、塩分濃度が7‰の養殖用水で養殖したトラフグは塩分濃度が34‰の養殖用水で養殖したトラフグに比べて同じ体重増加をもたらすのに餌が少なくて済むことが分かる。
【0059】
また、図5に示される結果から、塩分濃度が7‰を下回ると日間増重率並びに飼料効率が下落し始めることが分かる。そして、養殖用水の塩分濃度が4‰にまで薄められた場合であっても塩分濃度が34‰の養殖用水すなわちほとんど塩分濃度を減らしていない海水で養殖した場合の日間増重率及び飼料効率を依然として上回ることが実験結果から明らかに分かる。また、日間摂餌率は、養殖用水の塩分濃度が4‰にまで薄められた場合に、塩分濃度を調整しない海水で養殖した場合の日間摂餌率とほぼ同一になることが分かる。また、塩分濃度が4‰を下回っていくにつれ、日間増重率、日間摂餌率及び飼料効率は徐々に下落していく傾向が認められたが、4〜34‰の塩分濃度の養殖用水で養殖した場合の生存率は100%であり、4〜34‰の塩分濃度の養殖用水で養殖してもフグ類の健康に何ら害を及ぼさないことが確認された。なお、養殖用水の塩分濃度が0‰になると生存率は0%になった。
【0060】
以上の結果から、体重が100gになる前の成長段階にあるトラフグを養殖するに際し、養殖用水の塩分濃度を4〜20‰の範囲内に維持することにより通常海水で養殖したときよりもトラフグを効率良く成長させることが可能になり、特に養殖用水の塩分濃度をトラフグの体液の塩分濃度とほぼ同等の7〜10‰に維持すれば、さらに効率的に成長させることができるだけでなく、海水による養殖に比べて同じ体重増加をもたらすのに餌が少なくて済むことが明らかになった。したがって、トラフグに限らずフグ類を養殖する場合、上記の実験結果とフグ類の体液の塩分濃度が海水の1/3程度であることとを勘案すると、フグ類の体液に近い塩分濃度、さらに換言するとフグ類の浸透圧調節機能にかかる負荷を海水のときよりも軽減する塩分濃度、具体的には養殖用水を4〜20‰、好ましくは7〜20‰、より好ましくは7〜19‰、最も好ましくは7〜10‰の範囲内の塩分濃度に維持するようにすればフグ類を短期間で飛躍的に成長させることができ、さらには海水使用量や飼料についてのコスト削減を図ることができるという結論が得られた。このように本発明のフグ類養殖方法及び養殖装置によれば、フグ類を養殖するにあたって、生育期間の短縮、飼料の削減、海水使用量の削減など、養殖コストの削減を可能にする。
【0061】
(実施例2)
体重が約180gのトラフグを養殖対象魚として、養殖用水の塩分濃度に対する成長促進効果を検討した。
【0062】
実施例1の養殖実験後に各塩分濃度区から一部の魚を取り出したため、各塩分濃度区の魚の数が不足した。そこで、各塩分濃度区に、塩分濃度35‰の養殖用水で別途飼育した魚を足して、全30尾/区とした後、8週間(12週目(実施例1の養殖実験終了後)〜20週目)予備飼育を実施した。次に、20週目に体重が類似の21尾(各区)を選び12週間(20週目〜32週目)養殖実験を実施した。なお、養殖条件は実施例1と同様とした。
【0063】
その結果を表5及び図6に示す。表5は各塩分濃度における養殖開始時(20週目)の体重と養殖終了時(32週目)の体重、養殖開始時(20週目)の体長と養殖終了時(32週目)の体長、比成長率、増重率、飼料効率、日間摂餌率、生残率を示す。なお、表5中の数値は21尾/区で行なった実験の平均と標準偏差で示されている。また、表5中の日間摂餌率(%)は数式1を、増重率(%)は数式2を、飼料効率(%)は数式3を、比成長率(%)は数式4を用いて算出した。
【0064】
【表5】

【0065】
図6のグラフはトラフグの平均体重の経時変化を示すものであり、○のプロットは塩分濃度が35‰でのトラフグの体重の経時変化を示し、▲のプロットは塩分濃度が30‰でのトラフグの体重の経時変化を示し、*のプロットは塩分濃度が20‰でのトラフグの体重の経時変化を示し、□のプロットが塩分濃度は10‰でのトラフグの体重の経時変化を示している。
【0066】
表5に示される結果から、塩分濃度30‰の養殖用水で養殖したトラフグは塩分濃度10、20、35‰の養殖用水で養殖したトラフグに比べて日間摂餌率、増重率、飼料効率、比成長率の値が際立って大きいことが分かる。特に飼料効率は塩分濃度が10‰の養殖用水で養殖したトラフグが48.5%であるのに対して塩分濃度が30‰の養殖用水で養殖したトラフグは79.4%であることから、塩分濃度が30‰の養殖用水で養殖したトラフグは塩分濃度が10‰の養殖用水で養殖したトラフグに比べて同じ体重増加をもたらすのに餌が少なくて済むことが分かる。また、塩分濃度が20‰、35‰の養殖用水で養殖したトラフグの飼料効率はそれぞれ68.7%、60.1%であることから、塩分濃度が20‰、35‰の養殖用水で養殖した場合にも、塩分濃度が10‰の養殖用水で養殖する場合と比べて同じ体重増加をもたらすのに餌が少なくて済むことが分かる。また、生残率については、塩分濃度が20‰、30‰の場合はそれぞれ100%であったことから、これらの塩分濃度では、トラフグの健康には何ら影響を及ぼさないことが分かった。また、塩分濃度が10‰の場合に関しても生残率が91%であったことから、10‰の塩分濃度ではトラフグの健康にほとんど影響を及ぼさないと考えられるが、塩分濃度を10‰未満とすると、生残率が低下してトラフグの健康状態に悪影響が及ぼされる可能性があると考えられる。
【0067】
次に、図6に示される結果から、塩分濃度10‰の養殖用水を用いた場合には、24週目以降の平均体重の増加率が減少し、28〜32週目にかけては、平均体重の減少が見られた。これは、主に餌を食べる量が少なくなったことに起因すると考えられる。また、摂取された餌が消化されずに糞として排出される割合が増えたことや、代謝活性(呼吸等)が上昇し、無駄にエネルギーが使われやすくなることにも起因している可能性があると考えられる。あるいは、海水濃度が低いことから養殖用水中に存在する塩類の量が少なく、これに起因してトラフグが成長に必要な塩類を十分に体内に取り込めなかったことが原因である可能性も考えられる。体重の減少が見られた個体は体重260g程度の成長段階にあるトラフグであったことから、250gを超える成長段階にあるトラフグを養殖する際に塩分濃度10‰の養殖用水を用いると、フグ類の成長が阻害される虞があることが明らかとなった。次に、塩分濃度20‰の養殖用水を用いた場合、養殖日数に対する平均体重の増加率が少しずつ減少する傾向が見られた。塩分濃度30‰の養殖用水を用いた場合は、養殖開始時(20週目)の体重が一番小さかったにもかかわらず、養殖終了時(32週目)には体重が最も大きくなり、養殖日数に対する平均体重の増加率が最も大きかった。塩分濃度35‰の場合は、20〜28週目までは養殖日数に対する平均体重の増加率が他の塩分濃度の養殖用水を用いた場合と比較して低かったが、28〜32週目までで急激な平均体重の増加が見られ、その増加率が塩分濃度30%の養殖用水を用いた場合と同程度であった。急激な体重の増加が見られたトラフグは220g程度の成長段階にある個体であったことから、250gを超える個体を塩分濃度35‰の養殖用水で養殖した場合も同様に十分に体重増加させて成長を促進することができると考えられる。
【0068】
以上の結果から、体重180g以上で250g以下の成長段階にあるトラフグ等のフグ類を養殖する場合、養殖用水の塩分濃度は20〜35‰未満の範囲内に設定するのがよく、20‰〜30‰とするのがより好ましく、30‰とするのが最も好ましいことがわかった。
【0069】
また、体重250gを超える成長段階にあるトラフグ等のフグ類を養殖する場合、20‰超〜35‰の範囲内に設定するのがよく、30‰〜35‰とすることがより好ましいことがわかった。つまり、体重250gを超える成長段階にあるトラフグ等のフグ類の場合には、海水塩分濃度と同じかあるいはそれよりも若干薄い塩分濃度の養殖用水により養殖を行うのがよいことが明らかとなった。
【0070】
なお、以上の結果から、体重180g以上で250g以下の成長段階にあるフグ類は、養殖用水の塩分濃度を10‰未満とした場合には生残率が低下する可能性が懸念されることから、体重100g以上で180g未満のフグ類を養殖する際に、養殖用水の塩分濃度を10‰未満とすると、フグ類の成長に伴って生残率が低下する可能性が少なからず生じるものと考えられる。したがって、体重100g以上で180g未満のフグ類を養殖する際の全期間において、特に成長が進んで体重が180gに近づくにつれて、養殖用水の塩分濃度を10‰未満とすることは好ましいとは言えない。一方で、体重100gに近い個体の場合、養殖用水の塩分濃度が高くなるにつれて成長が遅くなることが考えられる。したがって、体重100g以上で180g未満のフグ類を養殖する際の全期間、特にこの期間の初期段階において養殖用水の塩分濃度を20‰超とすることは好ましいとは言えない。つまり、体重100g以上で180g未満のフグ類を養殖する際、この成長段階にあるフグを全期間一定の塩分濃度で維持して養殖する場合には、10〜20‰とすることが好ましい。また、初期段階では体重100gまでの成長段階にあるフグ類を養殖した養殖用水の塩分濃度を維持し、終期段階では体重180g以上で250g以下の成長段階にあるフグ類を養殖する養殖用水の塩分濃度に設定することがさらに好ましい。そして、初期段階から終期段階にかけて塩分濃度を段階的にあるいは連続的に変化させることが好ましい。この場合は、環境の変化を緩やかにできるので、フグ類にかかるストレスを低減することができる。
【0071】
具体的には、体重100g以上で140g未満の成長段階では養殖用水の塩分濃度を4〜20‰の範囲内、好ましくは7〜20‰、より好ましくは7〜19‰、最も好ましくは7〜10‰の範囲内とし、体重140g以上で180g未満の成長段階では養殖用水の塩分濃度を20〜35‰未満の範囲内、好ましくは20‰〜30‰、最も好ましくは30‰の範囲内として養殖を行う。さらに好ましくは、体重120g未満の成長段階に到達するまでは養殖用水の塩分濃度を4〜20‰の範囲内、好ましくは7〜20‰、より好ましくは7〜19‰、最も好ましくは7〜10‰の範囲内とし、体重160g以上の成長段階では養殖用水の塩分濃度を20〜35‰未満の範囲内、好ましくは20‰〜30‰、最も好ましくは30‰の範囲内として養殖を行い、体重120g以上で160g未満の成長段階では、体重120g未満の成長段階の養殖用水の塩分濃度と体重160g以上の成長段階の養殖用水の塩分濃度の中間の塩分濃度として養殖する。最も好ましくは、体重100g未満の成長段階では、養殖用水の塩分濃度を7〜10‰とし、体重180g以上で250g以下の成長段階では、養殖用水の塩分濃度を30‰として、体重100g以上で180g未満の成長段階では、養殖用水の塩分濃度を10‰として、フグ類の体重が180gに到達するときまでに塩分濃度が30‰になるように段階的にあるいは連続的に塩分濃度を増加させて養殖を行う。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明に係るフグ類養殖装置の一実施形態を示す構成図である。
【図2】フグ類養殖装置の沈殿槽の側面概略図である。
【図3】フグ類養殖装置の沈殿槽の横断面概略図である。
【図4】初期体重3gのトラフグを異なる塩分濃度の養殖用水で養殖した際のトラフグの平均体重の経時変化を示すグラフである。
【図5】初期体重8gのトラフグを異なる塩分濃度の養殖用水で養殖した際の、養殖用水の塩分と日間増重率との関係、養殖用水の塩分と日間摂餌率との関係、及び養殖用水の塩分と飼料効率との関係を示すグラフである。
【図6】初期体重3gのトラフグを異なる塩分濃度の養殖用水で養殖した際のトラフグの平均体重の経時変化(0〜12週)と初期体重180g前後のトラフグを異なる塩分濃度の養殖用水で養殖した際のトラフグの平均体重の経時変化(20〜32週)とを示すグラフである。
【符号の説明】
【0073】
1 水槽
17 フグ類養殖装置
18 塩分濃度維持装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フグ類の浸透圧調節機能にかかる負荷を海水のときよりも軽減する塩分濃度の養殖用水を用いて、体重250gに成長するまでフグ類を養殖することを特徴とするフグ類養殖方法。
【請求項2】
前記養殖用水の塩分濃度を、前記フグ類の体重が100g未満の場合には4〜20‰の範囲内、体重100g以上で180g未満の場合には4‰〜35‰未満の範囲内、体重180g以上で250g以下の場合には20‰〜35‰未満の範囲内に維持することを特徴とする請求項1記載のフグ類養殖方法。
【請求項3】
前記養殖用水の塩分濃度を、前記フグ類の体重が100g未満の場合には7〜10‰の範囲内、体重100g以上で180g未満の場合には7〜30‰の範囲内、体重180g以上で250g以下の場合には20〜30‰の範囲内に維持することを特徴とする請求項2記載のフグ類養殖方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の養殖方法によりフグ類を養殖した後、養殖用水の塩分濃度を20‰超〜35‰として前記フグ類を養殖することを特徴とするフグ類養殖方法。
【請求項5】
養殖用水を濾過・循環して水質を一定に維持する閉鎖循環系のフグ類養殖装置において、フグ類を養殖する水槽内の前記養殖用水の塩分濃度を4〜35‰の範囲に維持する塩分濃度維持装置を備えていることを特徴とするフグ類養殖装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−215538(P2007−215538A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−306654(P2006−306654)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【出願人】(594149479)株式会社セレス (2)
【Fターム(参考)】