説明

フザリウム毒抵抗性形質転換植物

【課題】フザリウム属細菌が産生するフザリウム毒に対して抵抗性を示し、フザリウム毒によるPCDを生じないフザリウム毒抵抗性形質転換植物、および該植物の作製方法を提供すること。
【解決手段】液胞プロセシング酵素の機能を欠損したフザリウム毒抵抗性形質転換植物、並びに(1)液胞プロセシング酵素をコードする内因性遺伝子に改変をもたらし得るDNA、または液胞プロセシング酵素をコードする内因性遺伝子の発現抑制をもたらし得るRNAをコードするDNAを含有してなるベクターを得る工程、(2)工程(1)で得られたベクターを植物細胞に導入し、液胞プロセシング酵素の機能を欠損した植物細胞を得る工程、および(3)工程(2)で得られた植物細胞から形質転換植物を再生させる工程、を含む、液胞プロセシング酵素の機能を欠損したフザリウム毒抵抗性形質転換植物の作製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フザリウム毒抵抗性形質転換植物、および該植物の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マクロファージを欠く植物は、プログラム細胞死(PCD)において物質を独力で分解しなければならない。そこで、植物は、液胞崩壊によって誘発される独特な細胞死機構を進化させている(非特許文献1)。しかしながら、液胞を媒介する細胞死に関与する鍵分子は未だ同定されていない。
【0003】
一方、フザリウム(Fusarium)属細菌は植物病原菌として古くから有用植物への罹病性が問題となる菌類であり、穀物などの汚染、発ガン性の指摘、カビ被害穀物を摂取した人畜の中毒事故が契機となって注目されてきた。該細菌の1種であるフザリウム・モニリフォルメ(Fusarium moniliforme)はフモニシンB1(FB1)を産生するが、FB1はシロイヌナズナ〔アラビドプシス・サリアナ(Arabidopsisthaliana)〕の葉においてPCDを誘導することが知られている。
【非特許文献1】Lam, E., Controlled cell death, plant survival and development., Nat. Rev. Mol. Cell biol. 5, 305-315 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、フザリウム属細菌が産生するフザリウム毒に対して抵抗性を示し、フザリウム毒によるPCDを生じないフザリウム毒抵抗性形質転換植物、および該植物の作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、
〔1〕 液胞プロセシング酵素の機能を欠損したフザリウム毒抵抗性形質転換植物、
〔2〕 液胞プロセシング酵素の機能の欠損が、液胞プロセシング酵素をコードする内因性遺伝子の改変、または液胞プロセシング酵素をコードする内因性遺伝子の発現抑制によるものである、前記〔1〕記載の植物、
〔3〕 前記改変が、
(a)液胞プロセシング酵素をコードする内因性遺伝子の一部または全ての欠失、
(b)液胞プロセシング酵素をコードする内因性遺伝子の一部または全ての他のポリヌクレオチドによる置換、および
(c)液胞プロセシング酵素をコードする内因性遺伝子中への他のポリヌクレオチドの挿入、
からなる群より選ばれるものである、前記〔2〕記載の植物、
〔4〕 前記発現抑制が、
(l)液胞プロセシング酵素をコードする内因性遺伝子の転写産物の一部または全てと相補的なアンチセンスRNAをコードするDNAの導入、
(m)液胞プロセシング酵素をコードする内因性遺伝子の転写産物を切断するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNAの導入、
(n)発現時に、RNAi効果により、液胞プロセシング酵素をコードする内因性遺伝子の発現を抑制するRNAをコードするDNAの導入、および
(o)発現時に、共抑制効果により、液胞プロセシング酵素をコードする内因性遺伝子の発現を抑制するRNAをコードするDNAの導入、
からなる群より選ばれるものによるものである、前記〔2〕記載の植物、
〔5〕 (1)液胞プロセシング酵素をコードする内因性遺伝子に改変をもたらし得るDNA、または液胞プロセシング酵素をコードする内因性遺伝子の発現抑制をもたらし得るRNAをコードするDNAを含有してなるベクターを得る工程、
(2)工程(1)で得られたベクターを植物細胞に導入し、液胞プロセシング酵素の機能を欠損した植物細胞を得る工程、および
(3)工程(2)で得られた植物細胞から形質転換植物を再生させる工程、
を含む、液胞プロセシング酵素の機能を欠損したフザリウム毒抵抗性形質転換植物の作製方法、
〔6〕 (4)工程(3)で得られた形質転換植物を交雑する工程をさらに含む、前記〔5〕記載の方法、
〔7〕 (1)被験物質の存在下、液胞プロセシング酵素による酵素反応を基質Ac−ESEN−MCAまたはZ−AAN−MCAに対して行う工程、および
(2)酵素活性を測定し、被験物質の非存在下に比べて該活性を減少させる被験物質を植物に対するフザリウム毒抵抗性付与剤として選択する工程、
を含む、植物に対するフザリウム毒抵抗性付与剤のスクリーニング方法、ならびに
〔8〕 前記〔7〕に記載の方法で得られ得るフザリウム毒抵抗性付与剤で植物を処理する工程を含む、植物におけるフザリウム毒抵抗性の発現方法、
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、フザリウム属細菌が産生するフザリウム毒に対して抵抗性を示し、フザリウム毒によるPCDを生じないフザリウム毒抵抗性形質転換植物が得られる。該植物は、対応する一般の植物と比べて、収量増加が期待でき、また、フザリウム属細菌による被害が減少する等の利点を有する。従って、例えば、トウモロコシ、キビ、コムギ等の穀類、麦類等の有用植物に本発明を適用することにより、それらの生産効率を高めたり、フザリウム属細菌による人畜への悪影響を防いだりすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、植物のPCDにおける鍵分子が液胞プロセシング酵素(VPE)であるとの発見に基づいて完成されたものである。
【0008】
シロイヌナズナはαVPE、βVPE、γVPEおよびδVPEの4種のVPEを有するが、本発明者らは、それらの遺伝子を欠損した変異体植物を作製し、FB1誘導PCDとVPEとの関係について検討した結果、シロイヌナズナにおけるFB1誘導PCDにはVPEの関与が、中でもγVPEの関与が不可欠であること、VPEの発現はFB1により誘導されることを見出した。また、VPEは、動物での細胞死の鍵分子として知られるカスパーゼ−1と同様の酵素活性を示し、該活性はカスパーゼ−1の阻害剤により阻害されること、さらには該阻害剤でシロイヌナズナの葉を処理することによりFB1誘導PCDが阻止されることを見出した。
【0009】
なお、本明細書において「フザリウム毒」とは、フザリウム属細菌が産生するFB1またはVPEの発現誘導を介して植物のPCDを生起せしめるFB1類似物をいう。「フザリウム属細菌」としては、例えば、フザリウム・モニリフォルメ(Fusarium moniliforme)、フザリウム・プロリフェラツム(Fusarium proliferatum)等が挙げられる。
【0010】
本発明のフザリウム毒抵抗性形質転換植物はVPEの機能を欠損したものである。従って、フザリウム属細菌が産生するフザリウム毒に対して抵抗性を示し、フザリウム毒によるPCDを生じない。本明細書において「VPEの機能を欠損した」とは、植物がVPEの機能を完全に欠くか、またはPCDを誘導し得ない程度に該酵素の機能を実質的に欠くことをいう。
【0011】
植物がVPEの機能を欠損する態様としては、特に限定されないが、例えば、VPEをコードする内因性遺伝子の改変、またはVPEをコードする内因性遺伝子の発現抑制によるものが挙げられる。本明細書において「内因性遺伝子」とは、形質転換対象の植物に元より存在する遺伝子をいう。一方、単に「遺伝子」という場合、内因性または外因性の区別なく使用される。
【0012】
本明細書において「VPEをコードする内因性遺伝子の改変」とはVPEを発現するという本来の機能を失い得る遺伝的改変であればよく、例えば、VPEをコードする内因性遺伝子のオープンリーディングフレームの読み枠を破壊する遺伝的改変が挙げられる。オープンリーディングフレームの読み枠を破壊する遺伝的改変としては、例えば、フレームシフト変異を起こさせるような変異の導入が挙げられる。より具体的には、
(a)VPEをコードする内因性遺伝子の一部または全ての欠失、
(b)VPEをコードする内因性遺伝子の一部または全ての他のポリヌクレオチドによる置換、および
(c)VPEをコードする内因性遺伝子中への他のポリヌクレオチドの挿入、
からなる群より選ばれるものが挙げられる。
【0013】
ここで、前記「他のポリヌクレオチド」とは、VPEをコードする遺伝子に対して、VPEをコードするものでない点で異質なポリヌクレオチドをいう。
【0014】
VPEをコードする遺伝子としては、例えば、配列番号:1、3、5および7に記載の塩基配列からなる核酸が挙げられる。それらは、順にαVPE、βVPE、γVPEおよびδVPEをコードする遺伝子である。遺伝的改変は、VPEをコードする内因性遺伝子の全てにおいて存在してよいが、少なくともγVPEをコードする内因性遺伝子において存在すべきである。そこで、γVPEをコードする内因性遺伝子を例にとると、前記(a)〜(c)としては、例えば、それぞれ、
(a’)γVPEをコードする内因性遺伝子において、配列番号:5に記載の塩基配列中の2402〜2617位、2874〜3038位、3120〜3275位、3352〜3438位、3518〜3717位、3831〜3879位、3993〜4202位、4297〜4503位、および4812〜4991位からなる群より選ばれた少なくとも1つの領域に対応する領域の欠失、
(b’)γVPEをコードする内因性遺伝子において、配列番号:5に記載の塩基配列中の2402〜2617位、2874〜3038位、3120〜3275位、3352〜3438位、3518〜3717位、3831〜3879位、3993〜4202位、4297〜4503位、および4812〜4991位からなる群より選ばれた少なくとも1つの領域に対応する領域と他のポリヌクレオチドとの置換、
(c’)γVPEをコードする内因性遺伝子において、配列番号:5に記載の塩基配列中の2402〜2617位、2874〜3038位、3120〜3275位、3352〜3438位、3518〜3717位、3831〜3879位、3993〜4202位、4297〜4503位、および4812〜4991位からなる群より選ばれた少なくとも1つの領域に対応する領域への他のポリヌクレオチドの挿入、
であり得る。
【0015】
なお、(a’)〜(c’)においてはγVPEをコードする内因性遺伝子の場合について示したが、αVPEをコードする内因性遺伝子に関しては、前記配列番号:5の各領域に相当するものとして、配列番号:1に記載の塩基配列中の1663〜1845位、2261〜2425位、2505〜2661位、2748〜2833位、2908〜3156位、3271〜3480位、3576〜3779位、および4005〜4184位の各領域が、βVPEをコードする内因性遺伝子に関しては、前記配列番号:5の各領域に相当するものとして、配列番号:3に記載の塩基配列中の181〜384位、678〜842位、1327〜1483位、1590〜1675位、1768〜1967位、2045〜2093位、2187〜2390位、2496〜2696位、および2780〜2965位の各領域が、δVPEをコードする内因性遺伝子に関しては、前記配列番号:5の各領域に相当するものとして、配列番号:7に記載の塩基配列中の1700〜1888位、1985〜2149位、2239〜2395位、2489〜2574位、2661〜2860位、2970〜3228位、3306〜3512位、および3606〜3740位の各領域が、それぞれ挙げられる。
【0016】
本明細書において「VPEをコードする内因性遺伝子の一部」とは、VPEの機能発現を担う部分、好ましくは、活性中心や基質結合部位等をコードする遺伝子部分をいう。例えば、配列番号:1、3、5または7に記載の塩基配列中の塩基番号で示した前記各領域に対応する遺伝子部分を挙げることができる。
【0017】
前記「対応する領域」とは、例えば、HigginsらによるClustalW法によるマルチプルアライメント(例えば、Gap penalty 5、Fixed Gap penalty 10、windowssize 5、Floating Gap 10) 等により、配列番号:1、3、5または7に記載される塩基配列と最適な状態にアラインメントされたときに対応する領域をいう。
【0018】
前記(b’)および(c’)における他のポリヌクレオチドの塩基配列としては、γVPEをコードする内因性遺伝子のオープンリーディングフレームの読み枠を破壊することが可能なものであればよく、読み枠に合ったストップコドンを持つ塩基配列、3の倍数以外の塩基数からなる塩基配列、あるいはマーカーとなる薬剤耐性遺伝子などの独立した遺伝子等の塩基配列が挙げられる。αVPE、βVPEまたはδVPEをコードする内因性遺伝子についても同様である。
【0019】
VPEをコードする遺伝子としては前記配列番号:1、3、5または7に記載の塩基配列からなる核酸が挙げられるが、当該遺伝子としては、例えば、それらの塩基配列において少なくとも1つの塩基が置換された塩基配列からなり、かつVPEの酵素活性を有するポリペプチドをコードする核酸であってもよい。なお、本明細書中において「少なくとも1つ」とは、1または数個の意である。
【0020】
VPEをコードする遺伝子としては、その他、配列番号:2、4、6および8に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする核酸が挙げられる。それらのアミノ酸配列は、順にαVPE、βVPE、γVPE、およびδVPEのアミノ酸配列である。また、VPEをコードする遺伝子としては、それらのアミノ酸配列において少なくとも1つのアミノ酸が置換、欠失、付加、または挿入されたアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードし、かつ該ポリペプチドがVPEの酵素活性を有するものである核酸であってもよい。
【0021】
さらに、VPEをコードする遺伝子としては、配列番号:1、3、5若しくは7に記載される塩基配列からなる核酸、または配列番号:2、4、6または8に記載されるアミノ酸配列をコードする核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得、かつVPEの酵素活性を有するポリペプチドをコードする核酸であってもよい。
【0022】
すなわち、VPEをコードする遺伝子には、配列番号:1、3、5または7に記載の塩基配列からなる核酸、配列番号:2、4、6または8に記載されるアミノ酸配列をコードする核酸の変異体、誘導体、バリアントまたはホモログが含まれる。これらはいずれも同様にして本発明に用いられる。
【0023】
なお、前記「VPEの酵素活性」は、例えば、活性測定対象物(例えば、ポリペプチド、タンパク質)の水溶液中にAc−ESEN−MCAまたはZ−AAN−MCAを基質として加え、25℃で反応混合物の蛍光強度の増加を、蛍光分光光度計または蛍光プレートリーダーを用いて励起波長380nm、発光波長460nmで測定することにより評価することができる。上記基質は、例えば、ペプチド研究所から入手可能である。基質中、「Ac」はアセチル基を、「Z」はベンジルオキシカルボニル基を、「MCA」は4−メチルクマリル−7−アミドをそれぞれ示し、その他はアミノ酸を一文字コードで示したものである。
【0024】
本明細書において、前記「ストリンジェントな条件」とは、モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリーマニュアル第2版〔ザンブルーク(Sambrook)ら編、コールドスプリングハーバーラボラトリープレス刊、1989〕等に記載の条件が挙げられる。具体的には、例えば、
1) 6×SSC(1×SSCの組成:0.15M NaCl、0.015M クエン酸ナトリウム、pH7.0)と0.5% SDSと5×デンハルトと100μg/ml 変性断片化サケ精子DNAと50% ホルムアミドを含む溶液中、プローブとともに42℃で一晩保温するステップ、
2) 非特異的にハイブリダイズしたプローブを洗浄により除去するステップ、ここで、より精度を高める観点からより低イオン強度および/またはより高温の条件下での洗浄を行うこと等が挙げられる。
【0025】
なお、Tmは、例えば、下記式:
Tm=81.5+16.6 (log10[Na+ ])+0.41 (%G+C)−(600/N)
(式中、Nはオリゴヌクレオチドの鎖長であり、%G+Cはオリゴヌクレオチド中のグアニンおよびシトシン残基の含有量である)
により求められる。
【0026】
一方、本明細書において「VPEをコードする内因性遺伝子の発現抑制」とは、該遺伝子の転写の抑制およびタンパク質への翻訳の抑制、該遺伝子の発現の完全な停止および発現の減少をいい、さらに、翻訳されたタンパク質が植物細胞内で本来の機能を発揮しないことも含まれる。
【0027】
VPEをコードする内因性遺伝子の発現抑制の具体的な態様としては、
(l)VPEをコードする内因性遺伝子の転写産物の一部または全てと相補的なアンチセンスRNAをコードするDNAの導入、
(m)VPEをコードする内因性遺伝子の転写産物を切断するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNAの導入、
(n)発現時に、RNAi効果により、VPEをコードする内因性遺伝子の発現を抑制するRNAをコードするDNAの導入、および
(o)発現時に、共抑制効果により、VPEをコードする内因性遺伝子の発現を抑制するRNAをコードするDNAの導入、
からなる群より選ばれるものによるものが挙げられる。
【0028】
前記(l)は、植物におけるVPEをコードする内因性遺伝子(以下、標的遺伝子という場合がある)の発現を、該遺伝子の転写産物の一部または全てと相補的なアンチセンスRNAをコードするDNAを導入して抑制しようとするものである。
【0029】
アンチセンスRNAが標的遺伝子の発現を抑制する作用としては、三重鎖形成による転写開始阻害等、複数のものが知られており、転写、スプライシングまたは翻訳など様々な過程を阻害することで、標的遺伝子の発現を抑制する。
【0030】
本発明のアンチセンスRNAは、上記いずれの作用により標的遺伝子の発現を抑制してもよい。例えば、標的遺伝子の転写産物(mRNA)の一部または全てと相補的なアンチセンスRNAをコードするDNAとしては、標的遺伝子のmRNAの少なくとも一部、例えば、γVPEをコードする内因性遺伝子を例にとると、配列番号:5に記載の塩基配列中の2402〜2617位、2874〜3038位、3120〜3275位、3352〜3438位、3518〜3717位、3831〜3879位、3993〜4202位、4297〜4503位、および4812〜4991位からなる群より選ばれた少なくとも1つの領域に対応する領域からの該遺伝子の転写産物の一部に相補的なアンチセンスRNAをコードするDNAが挙げられる。アンチセンスRNAの塩基配列は、標的遺伝子の転写産物の一部または全てと相補的な配列であるのが好ましいが、標的遺伝子の発現を有効に抑制できる限り、完全に相補的でなくともよい。例えば、アンチセンスRNAをコードするDNAの相補的DNA鎖と標的遺伝子との配列同一性は好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。
【0031】
一方、αVPEをコードする内因性遺伝子に関しては、前記配列番号:5の各領域に相当するものとして、配列番号:1に記載の塩基配列中の1663〜1845位、2261〜2425位、2505〜2661位、2748〜2833位、2908〜3156位、3271〜3480位、3576〜3779位、および4005〜4184位の各領域が、βVPEをコードする内因性遺伝子に関しては、前記配列番号:5の各領域に相当するものとして、配列番号:3に記載の塩基配列中の181〜384位、678〜842位、1327〜1483位、1590〜1675位、1768〜1967位、2045〜2093位、2187〜2390位、2496〜2696位、および2780〜2965位の各領域が、δVPEをコードする内因性遺伝子に関しては、前記配列番号:5の各領域に相当するものとして、配列番号:7に記載の塩基配列中の1700〜1888位、1985〜2149位、2239〜2395位、2489〜2574位、2661〜2860位、2970〜3228位、3306〜3512位、および3606〜3740位の各領域が、それぞれ挙げられる。
【0032】
なお、本明細書において配列同一性とは、比較対象の少なくとも2つの配列について適切に整列化させ、それぞれの配列に存在する同一の残基を決定して、適合部位の数を決定し、次いで、比較対象の配列領域内の残基の総数で、前記適合部位の数を割り、得られた数値に100をかけることにより算出されうる値をいう。かかる配列同一性は、具体的には、例えば、ホームページアドレスhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/において、一般に利用可能であるBLASTアルゴリズムにより算出されうる。アンチセンスRNAをコードするDNAの長さは、特に限定はなく、所望により適宜決定すればよい。
【0033】
前記(m)は、植物におけるVPEをコードする内因性遺伝子の発現を該遺伝子の転写産物を切断するリボザイムをコードするDNAを導入して抑制しようとするものである。リボザイムとは触媒活性を有するRNA分子をいう。リボザイムには種々の活性を有するものが存在するが、公知の方法に従って、標的遺伝子のmRNAを部位特異的に切断するリボザイムをコードするDNAの設計が可能である。
【0034】
前記(n)は、植物におけるVPEをコードする内因性遺伝子の発現を該遺伝子の塩基配列と同一若しくは類似した配列を有する二本鎖RNAによるRNA interferance(RNAi)によって抑制しようとするものである。RNAiとは、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有する二本鎖RNAを細胞内に導入すると、導入した外来遺伝子および内因性の標的遺伝子の発現がいずれも抑制される現象をいう。発現時に、RNAi効果により、VPEをコードする内因性遺伝子の発現を抑制するRNAをコードするDNAとしては、例えば、上記したような、配列番号:1、3、5または7に記載の塩基配列からなるDNA、配列番号:2、4、6または8に記載されるアミノ酸配列をコードするDNA、それらのDNAの変異体、誘導体、バリアントまたはホモログが挙げられる。RNAiに用いるDNAの塩基配列は、標的遺伝子と完全に同一である必要はないが、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の配列の同一性を有する。配列の同一性は前記方法により求められる。
【0035】
また、前記(o)は、植物におけるVPEをコードする内因性遺伝子の発現を該遺伝子の塩基配列と同一もしくは類似した配列を有するDNAを植物に導入することによって生ずる共抑制によって抑制しようとするものである。「共抑制」とは、植物に内因性の標的遺伝子と同一もしくは類似した配列を有する遺伝子を形質転換により導入すると、導入した外来遺伝子および内因性の標的遺伝子の発現がいずれも抑制される現象のことをいう。発現時に、共抑制効果により、VPEをコードする内因性遺伝子の発現を抑制するRNAをコードするDNAとしては、例えば、上記したような、配列番号:1、3、5または7に記載の塩基配列からなるDNA、配列番号:2、4、6または8に記載されるアミノ酸配列をコードするDNA、それらのDNAの変異体、誘導体、バリアントまたはホモログが挙げられる。共抑制に用いるDNAの塩基配列は、標的遺伝子と完全に同一である必要はないが、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の配列の同一性を有する。配列の同一性は前記方法により求められる。
【0036】
本発明のフザリウム毒抵抗性形質転換植物は、例えば、上記するような態様で、VPEの機能を欠損せしめるポリヌクレオチドまたはDNA(以下、変異導入用DNAという)、すなわち、VPEをコードする内因性遺伝子に改変をもたらし得るDNA、またはVPEをコードする内因性遺伝子の発現抑制をもたらし得るRNAをコードするDNAを適当なベクターに挿入して、これを植物細胞に導入し、該細胞から形質転換植物を再生させることによって作製することができる。
【0037】
具体的には、
(1)変異導入用DNAを含有してなるベクターを得る工程、
(2)工程(1)で得られたベクターを植物細胞に導入し、VPEの機能を欠損した植物細胞を得る工程、および
(3)工程(2)で得られた植物細胞から形質転換植物を再生させる工程、
を含む方法により作製することができる。
【0038】
工程(1)においては、まず変異導入用DNAを作製する。VPEをコードする遺伝子は、例えば、配列番号:1、3、5または7の塩基配列に基づいて、PCRを利用してまたは植物由来の遺伝子ライブラリーのスクリーニング等の方法により単離することができる。また、その塩基配列の改変は、PCRによる増幅核酸の連結や部位特異的変異等の当該分野で慣用の組換え核酸技術により行うことができる。さらに、任意のポリヌクレオチド鎖も慣用の方法により合成することができる。
【0039】
なお、前記(a)〜(c)により遺伝的改変を行う場合、変異導入用DNAとしては、VPEをコードする遺伝子において、その一部を欠失してなるか、その一部を他のポリヌクレオチドで置換してなるか、若しくは他のポリヌクレオチドを挿入してなる核酸、またはVPEをコードする遺伝子中に置換若しくは挿入を生ぜしめる他のポリヌクレオチドであってよい。他のポリヌクレオチドとしてはアグロバクテリウム由来のTiプラスミド中の、腫瘍化遺伝子を除去したT−DNAそのものであってもよい。
【0040】
次いで、変異導入用DNAをベクターに挿入する。ここでベクターとは、植物に変異導入用DNAを導入し得るベクターであれば特に限定はない。例えば、大腸菌由来のプラスミドベクターや、pBI101、pBI121等のバイナリーベクターが挙げられる。変異導入用DNAのベクターへの挿入は、使用するベクターの制限酵素部位やマルチクローニングサイトを利用して行えばよい。
【0041】
変異導入用DNAは所望により、ベクター中、適当なプロモーターの制御下に発現されるように挿入してもよい。また、遺伝子の転写効率を高めるため、プロモーターや転写開始部位と協同する他の調節因子、例えば、エンハンサーやターミネーターがベクター中に存在してもよい。さらに、ベクターには選択マーカーとしてカナマイシン、ネオマイシン等の抗生物質に対する耐性遺伝子が含まれていてもよい。また、変異導入用DNAを相同組換えにより導入対象の植物のゲノム中に挿入することを目的として、ベクター中、例えば、該ゲノムにおける変異導入用DNAの所望の標的挿入部位の両側にある塩基配列に各々相同性を有する塩基配列からなるフランキング配列の間に変異導入用DNAを配置させてもよい。
【0042】
なお、変異導入用DNAが、VPEをコードする遺伝子において、その一部を欠失してなるか、その一部を他のポリヌクレオチドで置換してなるか、若しくは他のポリヌクレオチドを挿入してなる核酸、またはVPEをコードする遺伝子中に置換若しくは挿入を生ぜしめる他のポリヌクレオチドである場合、標的遺伝子の破壊効率を高める観点から、前者では、該核酸と植物のVPEをコードする内因性遺伝子との相同組換えを生じ得るベクターを、後者では、該ポリヌクレオチドと植物のVPEをコードする内因性遺伝子中の所望の部位との相同組換えを生じ得るベクターを、それぞれ用いるのが好ましい。
【0043】
工程(2)において工程(1)で得られたベクターを導入する植物細胞が由来する植物としては特に限定はない。当該植物としては、シロイヌナズナの他、例えば、トウモロコシ、キビ、コムギ等が挙げられる。植物細胞には、種々の形態の植物細胞、例えば、懸濁培養細胞、プロトプラストの他、葉の切片、カルス等も含まれる。
【0044】
植物細胞へのベクターの導入には、ポリエチレングリコール法、電気穿孔法(エレクトロポレーション法)、アグロバクテリウムを介する方法、パーティクルガン法など、公知の方法を用いることができる。ベクターが導入された植物細胞は、例えば、使用した選択マーカーに基づいて選抜することができる。
【0045】
選抜された植物細胞がVPEの機能を欠損したものであるか否かは、例えば、植物細胞抽出液について、ELISA法やウエスタンブロッティング法によりVPEの発現がないことを調べたり、VPEの酵素活性がないことを調べたりすることで確認することができる。
【0046】
変異導入用DNAが、VPEをコードする遺伝子において、その一部を欠失してなるか、その一部を他のポリヌクレオチドで置換してなるか、若しくは他のポリヌクレオチドを挿入してなる核酸、またはVPEをコードする遺伝子中に置換若しくは挿入を生ぜしめる他のポリヌクレオチドである場合、細胞内で所望の相同組換えが生じていれば植物細胞はVPEの機能を欠損したものであるといえるため、相同組換えが生じているか否かを、例えば、サザンブロッティング法やPCR法等の慣用の方法で確認することにより、植物細胞がVPEの機能を欠損したものであると確認できる。
【0047】
工程(3)では工程(2)で得られた植物細胞から形質転換植物を再生させる。形質転換植物細胞からの植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて公知の方法により行えばよい。形質転換植物の再生については、例えば、細胞工学別冊「モデル植物の実験プロトコール イネ・シロイヌナズナ編」〔初版、(株)秀潤社発行〕や、アドレスhttp://www.gene.mie−u.ac.jp/Protocol/Original/Transform−Nicoti(Agro).htmlを参照すればよい。
【0048】
植物への変異導入用DNAの導入はまた、前記のように所定のベクターを植物に導入する方法以外に、交雑を利用して行うこともできる。例えば、まず、ベクターの導入によりゲノム内に変異導入用DNAを保持する植物を作製し、次いで、該植物と、同種の天然の植物とを交雑させることにより、または前記ゲノム内に変異導入用DNAを保持する植物とは異なる変異導入用DNAを保持する植物とを交雑させることにより、植物への変異導入用DNAの導入を行うことができる。後者の例としては、例えば、ベクターを導入することにより、4種のVPEをコードする各遺伝子の少なくとも1つに関してヘテロ接合体またはホモ接合体の植物を得、それらの植物を互いに交雑させる態様を挙げることができる。かかる交雑を繰り返すことで、4種のVPEをコードする各遺伝子の全てが欠損したVPE−null変異体植物を作出することが可能である。よって、本発明のフザリウム毒抵抗性形質転換植物の作製方法は、工程(4)として、工程(3)で得られた形質転換植物を交雑する工程をさらに含んでもよい。
【0049】
一旦、ゲノム内に変異導入用DNAが導入された形質転換植物が得られれば、該植物から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることが可能である。また、該植物やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に該植物を量産することも可能である。このようにして得られる子孫等も全て本発明の形質転換植物に包含される。本発明の形質転換植物はVPEの機能を欠損しているため、フザリウム毒に対して抵抗性を示しPCDを生ずることがない。従って、例えば、本発明の形質転換植物は従来の対応する植物と比較して生産効率が高く、また、本発明の形質転換植物を従来の対応する植物に換えて摂取させることで、フザリウム属細菌による人畜への悪影響、例えば、ウマの大脳白質脳軟化症、ブタの肺水腫、ヒツジの肝臓および腎臓障害の発生を防いだりすることができる。
【0050】
本発明はまた一態様として植物に対するフザリウム毒抵抗性付与剤のスクリーニング方法を提供する。
【0051】
前記の通り、植物のフザリウム毒誘導PCDの原因分子はVPEであることから、当該酵素の酵素活性を阻害する物質は植物に対するフザリウム毒抵抗性付与剤として機能することができる。従って、被験物質がVPEの酵素活性を阻害するか否かを評価することにより、前記付与剤をスクリーニングすることができる。
【0052】
本発明のスクリーニング方法は、具体的には、
(1)被験物質の存在下、VPEによる酵素反応を基質Ac−ESEN−MCAまたはZ−AAN−MCAに対して行う工程、および
(2)酵素活性を測定し、被験物質の非存在下に比べて該活性を減少させる被験物質を植物に対するフザリウム毒抵抗性付与剤として選択する工程、
を含む。
【0053】
工程(1)におけるVPEによる酵素反応は、被験物質を適量存在させて反応を行う以外は前記「VPEの酵素活性」の評価方法と同様にして行えばよい。また、対照として、被験物質を存在させないこと以外は同様にして酵素反応を行う。
【0054】
工程(2)では、VPEの酵素活性を測定し、例えば、該活性を比活性(pmol/min/mg protein)として表し、被験物質の非存在下に比べてVPEの比活性の値がその存在下に減少する被験物質を植物に対するフザリウム毒抵抗性付与剤として選択する。
【0055】
前記の通り、植物のVPEは動物のカスパーゼ−1と同様の酵素活性を示し、カスパーゼ−1の阻害剤により該活性が阻害される。よって、本発明のスクリーニング方法で得られるフザリウム毒抵抗性付与剤としては、例えば、VPE阻害剤であるAc−ESEN−CHOの他、カスパーゼ−1の阻害剤である、Ac−YVAD−CHO、ビオチン−xVAD−fmk、ビオチン−YVAD−fmk、およびビオチン−YVAD−cmkが挙げられる。なお、「Ac」は前記の通り、「CHO」はアルデヒド基を、「x」は任意のアミノ酸を、「fmk」はフルオロメチルケトン基を、「cmk」はクロロメチルケトン基をそれぞれ示し、その他はアミノ酸を一文字コードで示したものである。
【0056】
また、本発明は一態様として、フザリウム毒抵抗性付与剤で植物を処理する工程を含む、植物におけるフザリウム毒抵抗性の発現方法を提供する。該付与剤としては、前記スクリーニング方法により得られ得る物質を挙げることができる。植物の処理方法は特に限定はないが、例えば、植物のフザリウム毒抵抗性付与剤による処理は、該付与剤の物性に応じて、粉末等の固体状態で、懸濁液等の液体状態で、または該液体の噴霧液やガス等の気体状態で、植物の葉、根、花、茎等に該付与剤を接触させることにより行うことができる。かかる付与剤により植物のVPEの酵素活性が阻害され、その結果、植物でフザリウム毒抵抗性が発現される。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例、参考例で使用した実験方法を、以下にまとめて示す。
【0058】
(1)VPE-null変異体の作製
アラビドプシス・サリアナ (Arabidopsis thaliana) エコタイプコロンビア (Columbia)(Col-0) の4つのホモ接合性単一変異体; αVPE -3/βVPE-5/γVPE-1およびδVPE-1からnull変異体を作製した(図1a)。αVPE-3γVPE-1と交雑し、βVPE-5δVPE-1と交雑した。2つの二重変異体 (αVPE-3/γVPE-1およびβVPE-5/δVPE-1) をF2子孫からPCRによる遺伝子型決定により単離した。二重変異体を互いに交雑させ、VPE-null変異体 (αVPE-3/βVPE-5/γVPE-1/δVPE-1) を単離した。
【0059】
(2)ホモ接合性単一VPE変異体の作製
アラビドプシス・サリアナエコタイプコロンビア (Columbia)(Col-0)の4つのホモ接合性単一変異体を得た。αVPE-3 はSyngenta Biotechnology社から入手し、γVPE-1はシマダ(Shimada)ら〔J. Biol. Chem. 278, 32292-32299 (2003)〕に従って作製した。両者はT-DNA挿入変異体である。βVPE-5は第1のエクソンにGA挿入を有しており、前記シマダらに従って作製した。δVPE-1もT-DNA挿入変異体であるが、かずさDNA研究所 (Kazusa DNA Institute) 提供の一群のアラビドプシス植物の中から、以下のプライマー:
δVPE-kFW:5'-TCATGCAAGGTGCTTATGTGTGA-3'(配列番号:9)
δVPE-kRV:5'-CGTCCGTACCGTACAGTTGGTA-3'(配列番号:10)
P06RB:5'-TTCCCTTAATTCTCCGCTCATGATC-3' (配列番号:11、T-DNAライトホ゛ータ゛ー用)
を用いたPCRによるスクリーニングにより単離した。
【0060】
(3)逆転写 (RT)-PCR
RNeasy Plant Mini Kit (Quiagen社製) を用いて葉から全RNAを抽出し、DNaseで処理した。このRNA (0.5μg) を、Oligo(dT)12-18プライマー (Invitrogen社製) を含む20μl反応容量において、SuperScriptII (Invitrogen社製) による逆転写に供した。この反応液 (0.4μl) をTakara Ex Taq ポリメラーゼ(タカラバイオ株式会社製)を含む40μl反応液中でのPCRに使用した。γVPEおよびACT2 (actin2) それぞれに対するプライマーセットを使用した(前者については前記シマダらを、後者についてはRatcliffe, O. J. et al., Plant Cell 15, 1159-1169 (2003)参照)。プライマーセットは以下の通り:
αVPE −フォワート゛フ゜ライマー:5'-TCTAGAATGACCACCGTCGTTTCCTTTCTCG-3'
(配列番号:12)
リハ゛ースフ゜ライマー :5'-AGATCTTCAAGCACTGAATCCAC-3'
(配列番号:13)
βVPE −フォワート゛フ゜ライマー:5'-TCTAGAATGGCTAAGTCTTGCTATTTCAGAC-3'
(配列番号:14)
リハ゛ースフ゜ライマー :5'-AGATCTTCAGGCGCTATAGCCTAAGAT-3'
(配列番号:15)
δVPE −フォワート゛フ゜ライマー:5'-ATGTCTAGTCCTCTTGGTCA-3'
(配列番号:16)
リハ゛ースフ゜ライマー :5'-GTTTTGCAAATCATTACATCGAACAAGCT-3'
(配列番号:17)
PCRは55℃ (VPE) または60℃ (ACT2) のアニーリング温度で25サイクル行った。
【0061】
(4)FB1処理
ムラシゲ-スクーグ (Murashige-Skoog) 培地および1%スクロースを含んだ0.4%アガー上に種子を播き、連続光の下、22℃で生育させた。5週間育てた植物から採取した葉を、細胞死を引き起こすための誘導因子として0.1%メタノールに溶解したFB1 (10μM)中 に浸潤させた。FB1の溶媒として使用したメタノールは、病班形成にほとんど影響を与えなかった (図1bおよびc)。この葉を、病班形成を誘導するため12時間明/12時間暗の条件下、7日間、22℃でインキュベートした。他方、RNAの調製、電子顕微鏡およびパルスフィールドゲル電気泳動のため、4週間育てた植物から採取した葉を使用した。プロテイナーゼ阻害剤の影響を調べるため、FB1と共にVPE阻害剤 (Ac-ESEN-CHO, ペプチド研究所製) およびカスパーゼ−1阻害剤 (ビオチン-YVAD-fmk) を葉に浸潤させた。
【0062】
(5)組換えアラビドプシスγVPE
γVPEを発現するSf21昆虫細胞を、クロヤナギ(Kuroyanagi, M.)ら〔Plant Cell Physiol. 43, 143-151 (2002)〕に記載されているようにして調製した。この細胞を、前記クロヤナギらに記載されているようにして、γVPEのプロタンパク質前駆体を得るために中性溶液〔20 mM Tris-HCl, pH 7.5, 50 mM NaCl, 1 mM EDTAおよび1 mM フェニルメチルスルホニルフルオライド (PMSF) 〕、またはγVPEの中間体および成熟型の両方を得るために酸性溶液 (50 mM 酢酸ナトリウム, pH5.5, 50 mM NaCl, 1 mM EDTA および1 mM PMSF)のいずれかにおいて、氷上で1時間インキュベートした。これらの型のγVPEを一部精製した。
【0063】
(6)酵素アッセイ
Ac-ESEN-MCA、Ac-ESED-MCA、Ac-YVAD-MCA、およびAc-DEVD-MCA(ペプチド研究所製)の各蛍光性基質を加える前に、組換えγVPE (1.6-4.0μg) を100 mM 酢酸ナトリウム、pH 5.5、および100 mM ジチオトレイトール内でプレインキュベートした。蛍光強度の増加を、蛍光分光光度計 (RF-5000, 島津製作所) を用い460 nmで測定した。Km値は80〜400μMの各基質を使用して決定した。
【0064】
各種の阻害剤の影響を決定するために、組換えγVPEおよび各阻害剤 (20μM) を使用した: 3つのカスパーゼ−1阻害剤〔ビオチン-xVAD-fmkおよびビオチン-YVAD-cmk (Calbiochem社製)、およびAc-YVAD-CHO (ペプチド研究所製) 〕 、1つのカスパーゼ−3阻害剤〔Ac-DEVD-CHO (ペプチド研究所製) 〕および3つのシステインプロテイナーゼ阻害剤 〔E64-d、アンチパインおよびロイペプチン (ペプチド研究所製) 〕。
【0065】
葉抽出液を、100 mM NaCl、1 mM EDTA、1 mM PMSFおよび100μM E64-d 〔(L-3-trans-エトキシカルボニルロキシレン (ethoxycarbonyloxirane) -2-カルボニル)-L-ロイシン (3-メチルブチル) アミド〕を含む100 mM 酢酸ナトリウム(pH5.5)を用いて調製し、Z-AAN-MCA (1 mM) に対するVPE活性を、蛍光マイクロプレートリーダー (fluorescence microplate reader) (GENios, TECAN社) を用いて測定した。
【0066】
(7)インヒビターブロットおよびウエスタンブロット
組換えγVPEを含む試料溶液を、20μM ビオチン-xVAD-fmkとインキュベートした。生じた酵素−阻害剤複合体をSDS-PAGEに供し、GVHPメンブレン(0.22μm; 日本ミリポア社製)に転写した。メンブレンをブロッキング溶液で、次いで20μMのストレプトアビジン結合西洋ワサビペルオキシダーゼ (Amersham Pharmacia Biotech社製) で1時間処理した。増幅化学発光キット (ECLシステム、Amersham Pharmacia Biotech社製) を用いて検出した。ウエスタンブロット法は原則的に前記クロヤナギらの方法に従った。
【0067】
(8)電子顕微鏡観察
野生型およびnull変異体植物のFB1浸潤葉を、マツシマ(Matsushima, R.)ら〔Plant Physiol. 130, 1807-1814 (2002)〕に記載のように、1時間真空浸潤し、固定し、乾燥し、エポン(Epon)膨脂内に包埋した。薄切片を4% 酢酸ウラニルおよびクエン酸鉛で染色し、透過性電子顕微鏡〔model 1200EX; 日本電子(JEOL)社製〕 を用いて観察した。
【0068】
(9)パルスフィールドゲル電気泳動
FB1処理葉からの抽出液を含むアガロースプラグを、55℃で18時間、10 mM Tris-HCl、pH8.0、0.5 M EDTA、1.0% サルコシルおよび1 mg/ml プロテイナーゼK中でインキュベートし、バルク(Balk, J.)ら〔Plant J. 34, 573-583 (2003) 〕に記載のようにして、パルスフィールドゲル電気泳動を実施した。
【0069】
実施例1
アラビドプシスゲノムは、αVPEβVPEγVPE、およびδVPEの 4つのVPE遺伝子を有する。VPEが植物PCDに不可欠であるかどうかを明らかにするために、4つのVPE遺伝子を全て欠く (αVPE-3/βVPE-5/γVPE-1/δVPE-1;図1a) アラビドプシス変異体 (VPE-null変異体) を作製した。野生型植物およびVPE-null変異体植物の葉を、植物PCDを引き起こす真菌毒素 (FB1) で処理した。PCDを示す典型的な病班が野生型葉においてFB1浸潤後5日目に形成されたが、VPE-null変異体葉では形成されなかった (図1a)。野生型葉における病班は5日目から7日目までさらに進行し、細胞死を導いた (図1b、左図)。一方、VPE-null変異体植物葉では、FB1浸潤後7日目でも病班は形成されなかった (図1b、右図)。4つのVPEホモログのうち、どのVPEがPCDに不可欠であるかを決定するため、それぞれのVPE単一変異体葉についてFB1誘導病班形成を調べた。3つの単一変異体、αVPE-3βVPE-5、およびδVPE-1は野生型植物と同様に病班を形成したのに対し、γVPE-1変異体ではVPE-null変異体と同様に病班形成が抑制された (図1c)。従って、γVPEはFB1誘導PCDにおいて主要に機能すると考えられる。
【0070】
そこで、FB1で処理した場合の4つのVPE遺伝子の発現誘導を調べた。FB1で処理した野生型葉ではγVPE mRNAのみが誘導され、他のVPE mRNAは誘導されなかった (図1d)。同様に、3つの単一VPE変異体 (αVPE-3βVPE-5、およびδVPE-1) でγVPE mRNAが誘導されたが (図1d)、δVPE-1においてはγVPE mRNAレベルは急速に減少した。対照的に、γVPE-1およびVPE-null変異体の葉では、いずれのVPE mRNAも誘導されなかった (図1cおよびd)。この結果から、FB1処理葉における病班形成はγVPE遺伝子発現に関連することが示唆された。γVPE mRNAはFB1浸潤後1日で急速に増加し (図1d)、葉における病班はFB1浸潤後約3日で現れ始めた (データ示さず)。γVPEの遺伝子発現は、葉における病班形成の前に生ずる。これらの結果は、液胞プロテイナーゼγVPEが、アラビドプシス葉におけるFB1誘導PCDに不可欠であることを示す。
【0071】
実施例2
FB1誘導されたPCD間の液胞の形態学的変化を調べた。FB1浸潤後3日目に、野生型葉において液胞は部分的に崩壊し、いくつかの膜水泡を形成した (矢印で示す、図2aおよびb)。一方、原形質膜、細胞壁および他の細胞小器官は完全なままであった (図2a)。様々な細胞小器官が原形質膜から離れ、細胞における膨圧の損失を示した。5日目には、液胞膜および原形質膜は完全に崩壊し、他の細胞小器官は細胞内に大まかに分布していた (図2c)。対照的に、VPE-null変異体葉においては、FB1浸潤後5日目においても、液胞および液胞膜は完全なままであり、完全な細胞小器官が膨圧により原形質膜に密接して位置していた (図2d)。これらの結果は、VPE欠損は、液胞を崩壊から防ぐことにより細胞死を抑制することを示す。野生型葉における核DNAは、FB1浸潤後7日目で50 kbの断片に切断されたが、非処理葉ではこの切断は起こらなかった (図2e)。対照的に、7日目のVPE-null変異体のFB1処理葉および非処理葉において、断片化は検出されなかった。FB1誘導細胞死は、DNAの断片化を伴う。この結果により、VPEがDNAの断片化に関与し、液胞崩壊による細胞死が起こることが示唆された。
【0072】
実施例3
カスパーゼ様活性は植物細胞死に関係するという報告がある〔Lam, E and del Pozo, O., Plant Mol. Biol. 44, 417-428 (2000)、Woltering, E. J. et al., Plant Physiol. 130, 1764-1769 (2002) 〕。しかしながら、植物においては未だカスパーゼ活性を示すプロテイナーゼの同定はなされていない。以前、本発明者らは、VPEはアスパラギニルエンドペプチダーゼであるにも関わらず、カスパーゼ同様、アスパラギン酸に対して活性を示すことを報告した〔Hiraiwa, N. et al, FEBS Lett. 447, 213-216 (1999)〕。
【0073】
図3aに要約されるように、組換えγVPEはカスパーゼ−1基質 (Ac-YVAD-MCA, Km=44.2μM) およびVPE基質 (Ac-ESEN-MCA, Km=30.3μM) に対して活性を示すが、カスパーゼ−3基質 (Ac-DEVD-MCA) またはVPE基質誘導体(Ac-ESED-MCA) に対しては活性を示さないことを見出した。カスパーゼ−1基質に対するKm値 (44.2μM) は、哺乳動物カスパーゼ−1に対して報告されている値 (11-23μM) に匹敵する。VPE活性およびカスパーゼ−1様活性は、カスパーゼ−1阻害剤、Ac-YVAD-CHO、ビオチン-xVAD-fmkおよびビオチン-YVAD-cmk のそれぞれにより同様に減少することを見出した (図3b)。VPE基質に対して決定されたビオチン-xVAD-fmkのKi値は0.1 nMであり、カスパーゼ−1基質に対する値は3.0 nMであった。これらの値は、ヒトおよびマウスカスパーゼ−1に対して報告されたKi値 (それぞれ0.76および3.0 nM) と一致する。システインプロテイナーゼ阻害剤 (E64-d、アンチパインまたはロイペプチン) はどれも、VPEまたはカスパーゼ−1様活性を阻害しなかった。
【0074】
以上より、アラビドプシス葉におけるFB1誘導PCDに不可欠であることが示されたγVPEの酵素活性がカスパーゼ−1阻害剤により阻害されることが明らかとなった。後述するようにカスパーゼ−1阻害剤はアラビドプシス葉におけるFB1誘導PCDを阻害することから、γVPEの酵素活性の阻害物質をスクリーニングすることで、植物のフザリウム毒抵抗性付与剤を得ることができる。従って、以上の内容は、被験物質の存在によるVPE酵素活性の減少に基づいて該物質を植物に対するフザリウム毒抵抗性付与剤として選択する、植物に対するフザリウム毒抵抗性付与剤のスクリーニングに相当する。
【0075】
参考例1
不活性なプロカスパーゼ−1は、自己触媒的に活性のある成熟した酵素に変換されることが示されている。同様に図3c (上図) に示されるように、γVPEの前駆体 (proVPE、レーン1) は自己触媒的に中間体 (iVPE、レーン3)、次いで成熟型 (mVPE、レーン5)に変換された。γVPEのそれぞれの型がビオチン-xVAD-fmkに結合するかどうかを明らかにするため、proVPE、iVPE、およびmVPEをインヒビターブロット法に供した。図3c (下図) に示されるように、iVPE (レーン10) およびmVPE (レーン12) の両方が阻害剤に結合した一方で、proVPE (レーン8) は結合しなかった。これは、proVPEが不活性型であり、iVPEおよびmVPEの両方が活性型であることを示す。従って、VPEはカスパーゼ−1と同様の特徴を有する。これはVPEが植物PCDにおいて、カスパーゼ−1の機能ホモログとして働くことを意味する。
【0076】
実施例4
VPEおよびカスパーゼ−1様活性がFB1誘導PCDに関連することをイン・ビボ(in vivo)で実証するために、葉の右半分に対し、FB1を各プロテイナーゼ阻害剤と共に浸潤させ、浸潤後4日目に葉における病班形成を調べた。プロテイナーゼ阻害剤で処理しなかった葉においては顕著な病班が形成された (図4a、左図)。VPE阻害剤は葉におけるこのようなFB1誘導病班形成を完全に抑制した (図4a、中央図)。これは、VPE-null変異体およびγVPE変異体の結果と一致する (図1aおよびc)。同様に、カスパーゼ−1阻害剤も病班形成を抑制した (図4a、右図)。これらの結果は、VPEおよびカスパーゼ−1様活性の両方が、FB1誘導PCDに関連していることを示す。
【0077】
また、FB1処理葉からの抽出液中にVPEおよびカスパーゼ−1様活性の両方を見出した。カスパーゼ−1阻害剤は10μMの濃度でVPE活性を67%まで減少させ、100μMの濃度でVPE活性を阻害した (図4b、左図)。カスパーゼ−1阻害剤もまた、100μMの濃度でカスパーゼ−1様活性を完全に阻害した (図4b、右図)。一方、VPE活性およびカスパーゼ−1様活性のどちらも、VPE-null変異体の葉においては検出されなかった (図4b)。これらの結果は、VPEがカスパーゼ−1様活性を示すプロテイナーゼであることを示す。
【0078】
以上の結果、植物VPEの阻害剤で植物を処理することにより、植物に対しフザリウム毒抵抗性を付与でき、植物のPCDを阻止できることが分かる。
【0079】
配列表フリーテキスト
配列番号:9は、実施例で使用したプライマーの塩基配列である。
配列番号:10は、実施例で使用したプライマーの塩基配列である。
配列番号:11は、実施例で使用したプライマーの塩基配列である。
配列番号:12は、実施例で使用したプライマーの塩基配列である。
配列番号:13は、実施例で使用したプライマーの塩基配列である。
配列番号:14は、実施例で使用したプライマーの塩基配列である。
配列番号:15は、実施例で使用したプライマーの塩基配列である。
配列番号:16は、実施例で使用したプライマーの塩基配列である。
配列番号:17は、実施例で使用したプライマーの塩基配列である。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、フザリウム属細菌が産生するフザリウム毒に対して抵抗性を示し、フザリウム毒によるPCDを生じないフザリウム毒抵抗性形質転換植物、および該植物の作製方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】γVPEがアラビドプシス葉におけるFB1誘導PCDに不可欠であることを示す図である。 a:FB1を、アガープレート上に生育した野生型 (WT) およびVPE-null変異体 (null) 植物の葉に浸潤させた。VPE-null変異体では、FB1誘導病班形成は見られなかった。浸潤後5日目に植物を写真撮影した。アスタリスクは、FB1浸潤部位である。 b:FB1を、野生型 (WT) およびVPE-null変異体 (null) 植物から採取した葉の右半分に浸潤させた。葉における病班の発生変化を、浸潤後5日目から7日目までモニターした。 c:FB1を野生型 (WT) ならびにαVPE-3βVPE-5γVPE-1δVPE-1およびVPE-null変異体 (null) を含む各種VPE変異体から採取した葉の右半分に浸潤させた。浸潤後6日目に植物を写真撮影した。 d:野生型 (WT) およびcに記載した各種VPE変異体のFB1浸潤葉における、αVPEβVPEγVPEδVPEおよびACT2(アクチン) の、mRNAレベルの変化を示すRT-PCR。3回の独立した実験において、同様の結果が得られた。
【図2】VPE欠損は、FB1誘導されたPCD間で液胞膜の崩壊およびDNA分解を抑制することを示す図である。 a-d:FB1浸潤後3および5日目における、野生型 (WT) およびVPE-null 変異体 (null) 葉の電子顕微鏡像。aおよびdの挿入画は、それぞれ囲まれた領域の高倍率像を示す。黒色矢印、液胞膜のインタクトな部分; 白色矢印、液胞膜の崩壊部分; V、液胞; V*、崩壊した液胞; アスタリスク、液胞膜の無い細胞; Ch、葉緑体; CW、細胞壁; PM、原形質膜。aとb のバーは2μm、cとdのバーは5μm、aとdの挿入画におけるバーは0.5μmを示す。 e:7日間FB1処理をした (+) または、処理をしない (-) 野生型 (WT) 葉およびVPE-null変異体 (null) 葉由来の、全DNAのパルスフィールドゲル電気泳動。
【図3】γVPEはカスパーゼ−1様活性を示すプロテイナーゼであることを示す図である。 a:Km値を決定するために、示された基質に対するプロテイナーゼ活性を、昆虫細胞において発現させた組換えアラビドプシスγVPE (方法参照) で測定した。n.d.は検出されなかったことを示す。 b:VPE活性 (上図) およびカスパーゼ−1様活性 (下図) における各種阻害剤の影響。上の数字は、使用したそれぞれの阻害剤 (20μM) を表す: 1、無し; 2、Ac-YVAD-CHO; 3、Ac-xVAD-fmk; 4、Ac-YVAD-cmk; 5、E64-d; 6、アンチパイン; 7、ロイペプチン。 c:カスパーゼ−1阻害剤とγVPEの各型とのインヒビターブロット。組換えγVPE前駆体 (proVPE) (レーン1、2、7および8) は、中間体 (iVPE) (レーン3、4、9および10)、次いで成熟型 (mVPE) (レーン5、6、11および12) に変換された。γVPEの各型を、カスパーゼ阻害剤 (ビオチン-xVAD-fmk) の非存在 (-) または存在 (+) 下でインキュベートし、SDS-PAGEに供した後、抗γVPE抗体とのウエスタンブロット (レーン1〜6、抗-γVPE) またはストレプトアビジン結合西洋ワサビペルオキシダーゼ (レーン7〜12、インヒビター) とのインヒビターブロットを行った。
【図4】VPE阻害剤およびカスパーゼ−1阻害剤はどちらも、FB1誘導病班形成を抑制することを示す図である。 a:1mMのシステインプロテイナーゼ阻害剤である、VPE阻害剤 (Ac-ESEN-CHO) またはカスパーゼ−1阻害剤 (ビオチン-YVAD-fmk) と共に、またはこれらの阻害剤無しに、FB1を野生型葉の右半分に浸潤させた。浸潤後4日目に葉を写真撮影した。 b:VPE-null変異体は、VPE活性およびカスパーゼ−1様活性を有さない。カスパーゼ−1阻害剤と共に、またはこの阻害剤無しで、野生型 (WT) またはVPE-null変異体 (null) のFB1浸潤葉におけるこれらプロテイナーゼ活性を測定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液胞プロセシング酵素の機能を欠損したフザリウム毒抵抗性形質転換植物。
【請求項2】
液胞プロセシング酵素の機能の欠損が、液胞プロセシング酵素をコードする内因性遺伝子の改変、または液胞プロセシング酵素をコードする内因性遺伝子の発現抑制によるものである、請求項1記載の植物。
【請求項3】
前記改変が、
(a)液胞プロセシング酵素をコードする内因性遺伝子の一部または全ての欠失、
(b)液胞プロセシング酵素をコードする内因性遺伝子の一部または全ての他のポリヌクレオチドによる置換、および
(c)液胞プロセシング酵素をコードする内因性遺伝子中への他のポリヌクレオチドの挿入、
からなる群より選ばれるものである、請求項2記載の植物。
【請求項4】
前記発現抑制が、
(l)液胞プロセシング酵素をコードする内因性遺伝子の転写産物の一部または全てと相補的なアンチセンスRNAをコードするDNAの導入、
(m)液胞プロセシング酵素をコードする内因性遺伝子の転写産物を切断するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNAの導入、
(n)発現時に、RNAi効果により、液胞プロセシング酵素をコードする内因性遺伝子の発現を抑制するRNAをコードするDNAの導入、および
(o)発現時に、共抑制効果により、液胞プロセシング酵素をコードする内因性遺伝子の発現を抑制するRNAをコードするDNAの導入、
からなる群より選ばれるものによるものである、請求項2記載の植物。
【請求項5】
(1)液胞プロセシング酵素をコードする内因性遺伝子に改変をもたらし得るDNA、または液胞プロセシング酵素をコードする内因性遺伝子の発現抑制をもたらし得るRNAをコードするDNAを含有してなるベクターを得る工程、
(2)工程(1)で得られたベクターを植物細胞に導入し、液胞プロセシング酵素の機能を欠損した植物細胞を得る工程、および
(3)工程(2)で得られた植物細胞から形質転換植物を再生させる工程、
を含む、液胞プロセシング酵素の機能を欠損したフザリウム毒抵抗性形質転換植物の作製方法。
【請求項6】
(4)工程(3)で得られた形質転換植物を交雑する工程をさらに含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
(1)被験物質の存在下、液胞プロセシング酵素による酵素反応を基質Ac−ESEN−MCAまたはZ−AAN−MCAに対して行う工程、および
(2)酵素活性を測定し、被験物質の非存在下に比べて該活性を減少させる被験物質を植物に対するフザリウム毒抵抗性付与剤として選択する工程、
を含む、植物に対するフザリウム毒抵抗性付与剤のスクリーニング方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法で得られ得るフザリウム毒抵抗性付与剤で植物を処理する工程を含む、植物におけるフザリウム毒抵抗性の発現方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−67601(P2008−67601A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−381952(P2004−381952)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(504261077)大学共同利用機関法人自然科学研究機構 (156)
【Fターム(参考)】