説明

フタロシアニン系化合物及びその用途

【課題】新規なフタロシアニン系化合物及びこれを含有する近赤外線吸収剤の提供。
【解決手段】下記式(1)−1を含有する近赤外線吸収剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なフタロシアニン系化合物及びそれを用いた近赤外線吸収剤に関する。
【背景技術】
【0002】
フタロシアニン系化合物のある種のものは近赤外線吸収能力に優れるため、光カード、近赤外線吸収フィルター、保護眼鏡、レーザーダイレクト製版、レーザー熱転写記録、レーザープリンターの有機光導電体、プラスチックのレーザー溶着用の近赤外線吸収剤などへの応用が近年注目されている。特に最近、プラスチックのレーザー溶着用の近赤外線吸収剤として808nm〜940nmにピークを有するレーザー光に対して高感度で、かつ汎用の有機溶剤、例えばトルエン等の芳香族系溶剤及びメチルエチルケトン等のケトン系の溶剤に対し良好な溶解性を有し、かつ樹脂との相溶性が良好なフタロシアニン化合物の要求が高まっている。
【0003】
フタロシアニン化合物としては、特開平8−225752号公報、特開平8−253693号公報、特開平9−157536号公報に、ハロゲン化フタロシアニンと2−アミノチオフェノール誘導体を塩基の存在下に反応させて得られる、高耐久性で幅広い吸収領域を持つフタロシアニン化合物が開示されている。
【0004】
例えば、特開平8−225752号公報の実施例1に下記化合物(A)が、実施例3に下記化合物(B)が開示されている。
【化1】



【0005】
また、特開平9−157536号公報には、下記化合物(C)が開示されている。
【化2】

【0006】
しかしながらこれらの化合物は、有機溶剤に対する溶解性や、樹脂との相溶性が未だ不十分である。
このため有機溶剤に対する溶解性や樹脂との相溶性が十分高く、溶液として塗布することに適し、また樹脂と混合した際に曇りを生じる心配のないフタロシアニン化合物が求められている。
【特許文献1】特開平8−225752号公報
【特許文献2】特開平8−253693号公報
【特許文献3】特開平9−157536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、808nm〜940nmにピークを有するレーザー光に対して高感度であり、かつ有機溶剤に対し良好な溶解性を有し、樹脂との相溶性に優れる新規なフタロシアニン系化合物及びこれを含有する近赤外線吸収剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記した課題を解決するために種々検討した結果、本発明者らは、特定のチオアルキルカルボン酸アルキルエステル基を含有する新規なフタロシアニン系化合物が、808nm〜940nmにピークを有するレーザー光、特に940nm付近にピークを有するレーザー光に対して高感度であり、かつ有機溶剤、例えばトルエン等の芳香族系溶剤やメチルエチルケトン等のケトン系の溶剤に対し良好な溶解性を有し、樹脂との相溶性に優れることを見い出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
本願の第一の発明は下記一般式(1)で表される新規なフタロシアニン系化合物である。
【化3】

(式中、Xは水素原子またはハロゲン原子を表し、Rはアルキル基またはアリール基を表し、Rはアルキル基を表し、Rは水素原子またはCORを表す。lは1〜7、mは0〜13、nは1〜8、pは1〜14、zは0〜13の整数を表し、2l+m+z+p=16である。Mは2価の金属原子、3価あるいは4価の置換金属またはオキシ金属を表す。)
【0010】
本願の第二の発明は、下記一般式(2)で表されるパーハロゲノフタロシアニン化合物に(i)2−アミノチオフェノールを反応させる工程、及び(ii)下記一般式(3)で表されるチオアルキルカルボン酸アルキルエステル化合物を反応させる工程を含み、(iii)最後に下記一般式(4)で表される酸クロライド化合物を反応させる工程を行うフタロシアニン系化合物の製造方法である。
【化4】

(式中、Xはハロゲン原子を表し、z’は14〜16の整数を表し、Mは2価の金属原子、3価あるいは4価の置換金属またはオキシ金属を表す。)
OOC(CH)SH (3)
(Rはアルキル基を表し、nは1〜8の整数を表す。)
COCl (4)
(Rはアルキル基またはアリール基を表す。)
【0011】
本願の第三の発明は、式(1)で表されるフタロシアニン系化合物を含有する近赤外線吸剤である。
【0012】
本願の第四の発明は、前記第二の発明により得られるフタロシアニン系化合物の混合物である。
【0013】
本願の第五の発明は、上記第四の発明の混合物を含有する近赤外線吸収剤である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の新規なフタロシアニン化合物は、750〜1100nmの広い近赤外域にわたって強い吸収を有する。このため808〜940nmにピークを有するレーザー光、特にレーザー溶着のために使用される940nmのレーザー光に対して高感度である。また有機溶剤、例えばトルエン等の芳香族系溶剤及びメチルエチルケトン等のケトン系溶剤に対し良好な溶解性を有し、樹脂との相溶性に優れ、近赤外線吸収剤の用途、特にプラスチックのレーザー溶着用の近赤外線吸収剤として好適に使用できる。さらにレーザーマーキングが可能で電気伝導性が小さいため半導体封止材料用黒色着色剤として非常に有用である。
【発明の詳細な記述】
【0015】
[フタロシアニン系化合物]
本発明の上記フタロシアニン系化合物において、Xがハロゲン原子であるものとしては、塩素原子、臭素原子、フッ素原子、ヨウ素原子が挙げられるが、塩素原子、臭素原子、フッ素原子が好ましく、特に塩素原子が好ましい。
Xとしては水素原子、塩素原子、臭素原子、フッ素原子が好ましく、水素原子または塩素原子が特に好ましい。
【0016】
がアルキル基であるものとしては、炭素数1〜18の直鎖あるいは分岐アルキル基が好ましく、炭素数1〜16の直鎖あるいは分岐アルキル基が特に好ましい。例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、2−ヘキシルノナニル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基等が挙げられる。
【0017】
がアリール基であるものとしてはフェニル基、ナフチル基が好ましく、フェニル基が特に好ましい。
としては、炭素数1〜12の直鎖あるいは分岐のアルキル基が好ましく、炭素数1〜10の直鎖あるいは分岐のアルキル基が特に好ましい。例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ドデシル基等が挙げられる。
【0018】
nは1〜8の整数であるが、1〜5が好ましく、1〜3が特に好ましい。
は水素原子またはCORであるが、好ましくは水素原子である。
Mが2価の金属であるものの例としては、Cu(II)、Zn(II)、Fe(II)、Ni(II)、Ru(II)、Rh(II)、Pd(II)、Mn(II)、Mg(II)、Ti(II)、Be(II)、Ca(II)、Ba(II)、Cd(II)、Hg(II)、Pd(II)、Sn(II)などが挙げられる。
【0019】
Mが1置換の3価金属であるものの例としては、Al−Cl、Al−Br、Al−F、Al−I、Ga−Cl、Ga−I、Ga−Br、In−Cl、In−Br、In−I、In−F、Tl−Cl、Tl−Br、Tl−I、Tl−F、Al−C、Al−C(CH)、In−C、In−C(CH)、Mn(OH)、Mn(OC)、Mn[OSi(CH]、Fe−Cl、Ru−Cl等が挙げられる。
【0020】
Mが2置換の4価金属であるものの例としては、CrCl、SiCl、SiBr、SiF、SiI、ZrCl、GeCl、GeBr、GeF、GeBr、GeF、TiCl、TiBr、TiF、Si(OH)、Ge(OH)、Zr(OH)、Mn(OH)、Sn(OH)、TiR、CrR、SnR、GeR[Rはアルキル基、フェニル基、ナフチル基、およびその誘導体を表す]、Si(OR、Sn(OR、Ge(OR、Ti(OR、Cr(OR[Rはアルキル基、フェニル基、ナフチル基、トリアルキルシリル基、ジアルキルアルコキシシリル基およびその誘導体を表す]、Sn(SR’’、Ge(SR’’[R’’はアルキル基、フェニル基、ナフチル基、およびその誘導体を表す]などが挙げられる。
【0021】
Mがオキシ金属であるものの例としては、VO、MnO、TiOなどが挙げられる。
MとしてはCu、AlCl、TiO、あるいはVOが好ましく、特に好ましいのはCuである。
lは1〜7の整数であるが、2〜6が好ましく、3〜5が特に好ましい。mは0〜13の整数であるが、0〜8が好ましく、2〜6が特に好ましい。pは1〜14の整数であるが、1〜8が好ましく、2〜6が特に好ましい。zは0〜13の整数であるが、好ましくは0〜4であり、より好ましくは0〜2である。2l+m+z+p=16である。
【0022】
[フタロシアニン系化合物の製造方法]
本発明の前記一般式(1)で表されるフタロシアニン系化合物は、例えば下記の製造法によって製造することができる。
下記一般式(2)で表されるパーハロゲノフタロシアニン化合物:
【化5】

(式中、Xはハロゲン原子を表し、z’は14〜16の整数を表し、Mは2価の金属原子、3価あるいは4価の置換金属またはオキシ金属を表す。)
に(i)2−アミノチオフェノールを反応させる工程、(ii)下記一般式(3)で表されるチオアルキルカルボン酸アルキルエステル化合物を反応させる工程、
OOC(CH)SH (3)
(Rはアルキル基を表し、nは1〜8の整数を表す。)
(iii)下記一般式(4)で表される酸クロライド化合物を反応させる工程
COCl (4)
(Rはアルキル基またはアリール基を表す。)
を、この順序で実施することにより製造できる。上記(i)の工程と(ii)の工程は順序が入れ替わっても本発明のフタロシアニン系化合物を製造することは可能であるが、(i)の工程を先に行う方が、目的とする化合物を安定して得ることができる。
以下に、上記各工程ごとに製造法を詳しく説明する。
上記(i)の工程の反応は、塩基の存在下、好ましくは溶媒を使用して行われる。
一般式(2)のパーハロゲノフタロシアニン化合物と反応させる2−アミノチオフェノールの量は、パーハロゲノフタロシアニン化合物に対して5〜10倍モル量、好ましくは7〜9倍モル量である。
【0023】
塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水素化ナトリウム、t−ブトキシカリウム、酢酸ナトリム、酢酸カリウム等が使用できるが、好ましくは炭酸カリウムである。
【0024】
塩基の使用量は、2−アミノチオフェノールの使用量と等モル量程度が好ましい。
溶媒としては、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、スルホラン等の極性溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶媒、トルエン、キシレン、モノクロルベンゼン、ジクロルベンゼン等の芳香族系炭化水素溶媒が用いられるが、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAC)が好ましい。
【0025】
溶媒の使用量は、パーハロゲノフタロシアニン化合物に対して1〜50倍重量、好ましくは5〜20倍重量である。
反応温度は、50〜130℃であり、好ましくは100〜120℃である。
反応時間は、1〜30時間であり、好ましくは5〜20時間である。
【0026】
上記(ii)の工程の反応は、上記(i)の工程で得られた反応物を単離せずに、反応混合物にチオアルキルカルボン酸アルキルエステルと塩基を追加して行って良い。
反応物を単離しない場合は、上記(i)の工程の反応液をそのまま溶媒として使用できる。
反応物を単離した場合は、上記(i)の工程の同様の溶媒を同様の量使用する。
【0027】
チオアルキルカルボン酸アルキルエステルの使用量は、パーハロゲノフタロシアニン化合物に対して1〜14倍モル量、好ましくは1〜8倍モル量である。
塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水素化ナトリウム、t−ブトキシカリウム、酢酸ナトリム、酢酸カリウム等が使用できるが、炭酸カリウムが好ましい。
塩基の使用量は、チオアルキルカルボン酸アルキルエステルの使用量と等モル量程度が好ましい。
反応温度は30〜100℃であり、好ましくは40〜60℃である。
反応時間は、1〜30時間であり、好ましくは5〜20時間である。
反応冷却後反応溶媒量の1〜5倍重量の水に排出、析出物を濾取、アルコール洗浄、乾燥して中間体のフタロシアニン化合物を取出す。
【0028】
上記(iii)の工程の反応は、塩基の存在下、好ましくは溶媒を使用して行われる。
中間体のフタロシアニン系化合物と反応させる酸クロライド化合物の使用量は、上記(ii)の工程の反応で得られた中間体のフタロシアニン系化合物に対して1〜13倍モル量、好ましくは1〜8倍モル量である。
溶媒としては、トルエン、キシレン、モノクロルベンゼン、ジクロルベンゼン等の芳香族系炭化水素溶媒が使用できるが、トルエンが好ましい。
溶媒の使用量は、中間体のフタロシアニン系の化合物に対して1〜50倍重量、好ましくは3〜30倍重量である。
塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水素化ナトリウム、t−ブトキシカリウム、酢酸ナトリム、酢酸カリウム等が使用できるが、酢酸ナトリウムが好ましい。
塩基の使用量は、酸クロライド化合物の使用量と等モル量程度が好ましい。
反応温度は、50〜150℃であり、好ましくは80〜100℃である。
反応時間は、1〜10時間であり、好ましくは2〜5時間である。
反応終了後、冷却、濾過、濾液から溶媒層を分取し、湯洗、濃縮、残渣に25〜30倍重量のアルコールを添加し、還流下攪拌後冷却、析出物を濾取、アルコール洗浄、乾燥して目的物を得ることができる。
【0029】
上記反応工程に従って製造したものは式(1)で表されるフタロシアニン系化合物の混合物であり、このままでも近赤外線吸収剤として使用可能であるが、必要に応じてシリカゲルカラムクロマトグラフィー等の公知の精製により更に精製できる。
本発明の一般式(1)で表されるフタロシアニン系化合物の具体例を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
[近赤外線吸収剤]
本発明の近赤外線吸収剤は、本発明の式(1)で表されるフタロシアニン系化合物を単独で用いてもよく、また必要に応じて適宜バインダー樹脂、他の近赤外線吸収物質、発色成分及び着色成分等を配合してもよい。
バインダー樹脂としては、特に制限はないが、例えば、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等のアクリル酸系モノマーの単独重合体または共重合体、メチルセルロース、エチルセルロース、セルロースアセテートのようなセルロース系ポリマー、ポリスチレン、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコールのようなビニル系ポリマー及びビニル化合物の共重合体、ポリエステル、ポリアミドのような縮合系ポリマー、ブタジエン−スチレン共重合体のようなゴム系熱可塑性ポリマー、エポキシ化合物などの光重合性などの光重合性化合物を重合・架橋させたポリマーなどを挙げることができる。
近赤外線吸収剤に使用される近赤外線吸収物質としては一般式(1)のフタロシアニン系化合物以外に、本発明の目的を逸脱しない範囲で、公知の種々の近赤外線吸収物質が併用できる。
併用できる近赤外線吸収物質としては、カーボンブラック、アニリンブラック等の顔料や『化学工業(1986年、5月号)』の「近赤外吸収色素」(p45〜51)や『90年代 機能性色素の開発と市場動向』シーエムシー(1990)第2章2.3に記載されているポリメチン系色素(シアニン色素)、フタロシアニン系色素、ジチオール金属錯塩系色素、ナフトキノン、アントラキノン系色素、トリフェニルメタン(類似)系色素、アミニウム、ジインモニウム系色素等、またアゾ系色素、インドアニリン金属錯体色素、分子間型CT色素等の顔料、染料系の色素が挙げられる。
本発明の近赤外線吸収剤を近赤外線吸収フィルター、熱線遮断材、農業用フィルム等に用いる場合は、近赤外線吸収剤をプラスチック樹脂及び場合により有機溶剤と混合し、射出成形法やキャスト法等の従来から種々検討されている方法で板状若しくはフィルム状にすることにより作製できる。使用できる樹脂としては、特に制限はないが、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、メラミン、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリビニルブチラール、エチレン−酢酸ビニル共重合体の樹脂等が挙げられるが、特にポリエステル、ポリメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート等の透明樹脂が好ましい。
用いられる有機溶剤としては特に制限はない。例えば炭化水素類、エーテル類、芳香族類、ケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、ジメチルホルムアミド等が挙げられるが、特に芳香族類やケトン類の有機溶剤が好ましい。
また、本発明フタロシアニン化合物を半導体封止材料用の黒色着色剤として用いる場合は、エポキシ樹脂など封止材料として公知の樹脂に本発明フタロシアニン化合物のほか、フェノール樹脂硬化剤、硬化促進剤、無機充填剤など半導体封止剤の成分として公知の成分を適宜配合し調製することができる。
【実施例】
【0032】
以下本発明を実施例により更に説明するが、本発明は、これになんら制限されるものではない。
【0033】
[実施例1]
C.I.ピグメントグリーン7(フタロシアニングリーン)10.0g(8.9mmol)、2−アミノチオフェノール9.4g(75.4mmol、8.5倍当量)、炭酸カリウム10.4g(75.4mmol、8.5倍当量)をN,N−ジメチルアセトアミド200g中、110℃で10時間反応させた。50℃に冷却後、チオグリコール酸2−エチルヘキシル9.1g(44.4mmol、5倍当量)を滴下、次に炭酸カリウム6.1g(44.4mmol、5倍当量)を添加して同温で15時間反応させた。
【0034】
反応混合物を水400ml中へ排出し、析出物を濾過、水洗、メタノール洗浄後、乾燥して中間体のフタロシアニン化合物15.4gを単離した。該フタロシアニン化合物中間体10.5gと酢酸ナトリウム2.0g(24.4mmol)を、トルエン75ml及び水75mlの分散液に添加し、これに2−ヘキシルデカノイルクロライド6.3g(22.9mmol)を滴下して80℃で2時間反応させた。
【0035】
冷却後、トルエン層を分液し、中性になるまで湯洗した後トルエンを減圧下留去し、残渣にメタノール250mlを添加して還流下0.5時間撹拌後冷却した。析出物を濾取し、下記式(1)−1で表されるフタロシアニン系化合物を主成分とする混合物14.0gを黒緑色粉末として得た。この混合化合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶剤;トルエン)により、精製して下記化合物を単離した。
【化6】


このフタロシアニン系化合物の分析結果を下記に示す。
MS(m/z):3316(M+
元素分析値(C184H240CuN16O12S12
C H N
実測値(%) 66.80 7.42 6.35
理論値(%) 66.64 7.29 6.76
このフタロシアニン系化合物の溶解度、トルエン中におけるλmaxを表2に示す。
またIRスペクトルを図1に、トルエン溶液の吸収スペクトルを図2に示す。
このフタロシアニン系化合物は、アクリル系樹脂に対して優れた相溶性を示した。
【0036】
[実施例2]
C.I.ピグメントグリーン7(フタロシアニングリーン)10.0g(8.9mmol)、2−アミノチオフェノール9.4g(75.4mmol、8.5倍当量)、炭酸カリウム10.4g(75.4mmol、8.5倍当量)をN,N−ジメチルアセトアミド200g中、110℃で10時間反応させた。50℃に冷却後、3−メルカプトプロピオン酸エチルエステル6.0g(44.4mmol、5倍当量)を滴下、次に炭酸カリウム6.1g(44.4mmol、5倍当量)を添加して同温で15時間反応させた。
【0037】
反応混合物を水400ml中へ排出した。析出物を濾過、水洗、メタノール洗浄後、乾燥して中間体のフタロシアニン化合物8.8gを単離した。該フタロシアニン化合物中間体8.5gと酢酸ナトリウム2.0g、24.4mmolを、トルエン75ml及び水75mlの分散液に添加し、これにベンゾイルクロライド3.2g(22.9mmol)を滴下して80℃で2時間反応させた。
【0038】
冷却後、トルエン層を分液し、中性になるまで湯洗した後トルエンを減圧下留去し、残渣にメタノール250mlを添加して還流下0.5時間撹拌後冷却した。析出物を濾取し、下記式(1)−2で表されるフタロシアニン系化合物を主成分とする混合物9.6gを黒緑色粉末として得た。この混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶剤;トルエン)により、精製して下記化合物を単離した。
【化7】


このフタロシアニン系化合物の分析結果を下記に示す。
MS(m/z):2534(M+
元素分析値(C131H96CuN16O12S12
C H N
実測値(%) 62.25 3.98 8.44
理論値(%) 62.08 3.82 8.84
このフタロシアニン系化合物の溶解度、トルエン中におけるλmaxを表2に示す
またトルエン溶液の吸収スペクトルを図3に示す。
このフタロシアニン系化合物は、アクリル系樹脂に対して優れた相溶性を示した。
【0039】
[実施例3]
C.I.ピグメントグリーン7(フタロシアニングリーン)10.0g(8.9mmol)、2−アミノチオフェノール9.4g(75.4mmol、8.5倍当量)、炭酸カリウム10.4g(75.4mmol、8.5倍当量)をN,N−ジメチルアセトアミド200g中、110℃で10時間反応させた。50℃に冷却後、チオグリコール酸n−ブチルエステル6.6g(44.4mmol、5倍当量)を滴下、次に炭酸カリウム6.1g(44.4mmol、5倍当量)を添加して同温で15時間反応させた。
【0040】
反応混合物を水400ml中へ排出し、析出物を濾過、水洗、メタノール洗浄後、乾燥して中間体のフタロシアニン化合物13.3gを単離した。該フタロシアニン化合物中間体9.4gと酢酸ナトリウム2.0g(24.4mmol)を、トルエン75ml及び水75mlの分散液に添加し、これにn−ヘキサノイルクロライド3.1g(22.9mmol)を滴下して80℃で2時間反応させた。
【0041】
冷却後、トルエン層を分液し、中性になるまで湯洗した後トルエンを減圧下留去し、残渣にメタノール250mlを添加して還流下0.5時間撹拌後冷却した。析出物を濾取し、下記式(1)−3で表されるフタロシアニン系化合物を主成分とする混合物10.6gを黒緑色粉末として得た。
【0042】
この混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶剤;トルエン)により、精製して下記化合物を単離した。
【化8】

このフタロシアニン系化合物の分析結果を下記に示す。
MS(m/z):2530(M+
元素分析値(C128H128CuN16O12S12
C H N
実測値(%) 60.96 5.25 9.21
理論値(%) 60.75 5.10 8.86
このフタロシアニン系化合物の溶解度、トルエン中におけるλmaxを表2に示す。
またトルエン溶液の吸収スペクトル図4に示す。
このフタロシアニン系化合物は、アクリル系樹脂に対して優れた相溶性を示した。
【0043】
[実施例4]
C.I.ピグメントグリーン7(フタロシアニングリーン)10.0g(8.9mmol)、2−アミノチオフェノール6.7g(53.4mmol、6倍当量)、炭酸カリウム7.4g(53.4mmol、6倍当量)をN,N−ジメチルアセトアミド200g中、110℃で10時間反応させた。50℃に冷却後、チオグリコール酸ペンチル2.9g(17.8mmol、2倍当量)を滴下、次に炭酸カリウム2.5g(17.8mmol、2倍当量)を添加して同温で15時間反応させた。
【0044】
反応混合物を水400ml中へ排出し、析出物を濾過、水洗、メタノール洗浄後、乾燥して中間体のフタロシアニン化合物16.8gを単離した。該フタロシアニン化合物中間体10.5gと酢酸ナトリウム2.6g(31.6mmol)を、トルエン75ml及び水75mlの分散液に添加し、これに2−ヘキシル−デカノイルクロライド8.2g(29.7mmol)を滴下して80℃で2時間反応させた。
【0045】
冷却後、トルエン層を分液し、中性になるまで湯洗した後トルエンを減圧下留去し、残渣にメタノール250mlを添加して還流下0.5時間撹拌後冷却した。析出物を濾取し、下記式(1)−4で表されるフタロシアニン系化合物を主成分とする混合物14.9gを黒緑色粉末として得た。
【0046】
この混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶剤;トルエン)により、精製して下記化合物を単離した。
【化9】

このフタロシアニン系化合物の分析結果を下記に示す。
MS(m/z):2680(M+
元素分析値(C146H182ClCuN16OS
C H N
実測値(%) 65.70 6.98 8.16
理論値(%) 65.43 6.84 8.36
このフタロシアニン系化合物の溶解度、トルエン中におけるλmaxを表2に示す。
またトルエン溶液の吸収スペクトル図5に示す。
このフタロシアニン系化合物は、アクリル系樹脂に対して優れた相溶性を示した。
【0047】
【表2】

比較例1〜3の化合物(A)〜(C)は前記特許文献に開示の公知化合物(A)〜(C)を示す。
【0048】
[溶解度試験法]
サンプル管にフタロシアニン系化合物の各試料のトルエンまたはメチルエチルケトンの5%、10%及び15%の3種類の分散液を調整し、密栓後ミックスローターで12時間攪拌した後、目視により溶け残りの有無で溶解度を判断した。
【0049】
[実施例5]近赤外線吸収剤の製造
バインダーとしてデルペット80N(旭化成工業(株)製:アクリル系樹脂):10g、及び実施例1で合成したフタロシアニン系化合物(1)−1:0.2gをトルエン/メチルエチルケトン/(1/1)混合溶媒90gに溶解した液を調整し、ワイヤーバーにて乾燥後の膜厚が約5μmとなるよう平均厚さ5μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに塗布して、近赤外線吸収剤の試料を作製した。得られたフィルムは薄い灰緑色で特性吸収波長領域は750〜1100nmであり、この波長の近赤外線をよく吸収した。
この近赤外線吸収剤の透過スペクトルを図6に示す。
【0050】
[実施例6]近赤外線吸収剤の製造
実施例5において使用したフタロシアニン系化合物(1)−1の代わりに、実施例2で合成したフタロシアニン系化合物(1)−2を用いた以外は実施例5と同様な操作を行って、近赤外線吸収剤の試料を作製した。得られたフィルムは薄い灰緑色で特性吸収波長領域は750〜1100nmであり、この波長の近赤外線をよく吸収した。
この近赤外線吸収剤の透過スペクトルを図7に示す。
【0051】
[実施例7]近赤外線吸収剤の製造
実施例5において使用したフタロシアニン系化合物(1)−1の代わりに、実施例3で合成したフタロシアニン系化合物(1)−3を用いた以外は実施例5と同様な操作を行って、近赤外線吸収材剤の試料を作製した。得られたフィルムは薄い灰緑色で特性吸収波長領域は750〜1100nmであり、この波長の近赤外線をよく吸収した。
この近赤外線吸収剤の透過スペクトルを図8に示す。
【0052】
[実施例8]近赤外線吸収材料の製造
実施例5において使用したフタロシアニン系化合物(1)−1の代わりに、実施例4で合成したフタロシアニン系化合物(1)−4を用いた以外は実施例5と同様な操作を行って、近赤外線吸収材剤の試料を作製した。得られたフィルムは薄い灰緑色で特性吸収波長領域は750〜1100nmであり、この波長の近赤外線をよく吸収した。
この近赤外線吸収剤の透過スペクトルを図9に示す。
【0053】
[産業上の利用可能性]
本発明の新規なフタロシアニン化合物は、808nm〜940nmにピークを有するレーザー光、特に940nm付近にピークを有するレーザー光に対して高感度であり、かつ有機溶剤、例えばトルエン等の芳香族系溶剤及びメチルエチルケトン等のケトン系の溶剤に対し良好な溶解性を有し、樹脂との相溶性に優れ、近赤外線吸収剤の用途、特にプラスチックのレーザー溶着用の近赤外線吸収剤、レーザーマーキング可能な半導体封止材料用の黒色着色剤として好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施例1で合成したフタロシアニン系化合物(1)−1のIR吸収スペクトルである。
【図2】実施例1で合成したフタロシアニン系化合物(1)−1のトルエン溶液の吸収スペクトルである。
【図3】実施例2で合成したフタロシアニン系化合物(1)−2のトルエン溶液の吸収スペクトルである。
【図4】実施例3で合成したフタロシアニン系化合物(1)−3のトルエン溶液の吸収スペクトルである。
【図5】実施例4で合成したフタロシアニン系化合物(1)−4のトルエン溶液の吸収スペクトルである。
【図6】実施例5で作製した近赤外線吸収剤の透過スペクトルである。
【図7】実施例6で作製した近赤外線吸収剤の透過スペクトルである。
【図8】実施例7で作製した近赤外線吸収剤の透過スペクトルである。
【図9】実施例8で作製した近赤外線吸収剤の透過スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるフタロシアニン系化合物。
【化1】

(式中、Xは水素原子またはハロゲン原子を表し、Rはアルキル基またはアリール基を表し、Rはアルキル基を表し、Rは水素原子またはC0Rを表す。lは1〜7、mは0〜13、nは1〜8、pは1〜14、zは0〜13の整数を表し、2l+m+z+p=16である。Mは2価の金属原子、3価あるいは4価の置換金属またはオキシ金属を表す。)
【請求項2】
が炭素数1〜18のアルキル基、フェニル基またはナフチル基であり、Rが炭素数1〜12のアルキル基であり、Rが水素原子であり、Xが水素原子、塩素原子、臭素原子またはフッ素原子である請求項1のフタロシアニン系化合物。
【請求項3】
lが2〜6、mが0〜8、nが1〜5、zが0〜4、pが1〜8の整数である請求項1または請求項2記載のフタロシアニン系化合物。
【請求項4】
MがCu、AlCl、TiO、あるいはVOである請求項1〜請求項3記載のフタロシアニン系化合物。
【請求項5】
請求項1〜4記載のフタロシアニン系化合物を含有することを特徴とする近赤外線吸収剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−31176(P2012−31176A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180437(P2011−180437)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【分割の表示】特願2005−109414(P2005−109414)の分割
【原出願日】平成17年4月6日(2005.4.6)
【出願人】(000179904)山本化成株式会社 (70)
【Fターム(参考)】