説明

フッ化水素の分離方法

【課題】フルオロオレフィン、クロロフルオロオレフィン、ヒドロフルオロカーボン、塩化水素とフッ化水素の混合物から効率よくフッ化水素を分離する方法を提供する。
【解決手段】
フルオロオレフィン、クロロフルオロオレフィン、ヒドロフルオロカーボン、塩化水素とフッ化水素を含む混合物からフッ化水素を分離する方法であって、
(A)フルオロオレフィン、クロロフルオロオレフィン、ヒドロフルオロカーボン、塩化水素とフッ化水素を含む混合物を硫酸と接触させて、実質的にフルオロオレフィン、クロロフルオロオレフィンヒドロフルオロカーボン、塩化水素からなる第1相とフッ化水素及び硫酸を含んでなる第2相を形成する工程、並びに
(B)上記第1相を上記第2相から分ける工程、を含み、
硫酸のフッ化水素に対する質量比が2:1〜500:1であることを特徴とする分離方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロロオレフィンのフッ素化によるフルオロオレフィンとフッ化水素の混合物からのフッ化水素の分離に関し、より詳しくは、フルオロオレフィン、クロロフルオロオレフィン、ヒドロフルオロカーボン、塩化水素とフッ化水素の混合物からフッ化水素を分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロフルオロカーボン類は、溶剤、冷媒、発泡剤及びエアゾール噴射剤として使用されている。しかし、ヒドロフルオロカーボン類は地球温暖化係数(GWP)が高く環境の面で問題を抱えている。これに対し、フルオロオレフィン類は、ヒドロフルオロカーボン類に比べて環境の点では有利であると考えられる。それらは、ヒドロフルオロカーボン類と比較して、GWPが極端に低く、各種用途への応用が期待される。具体的には例えば、フルオロオレフィンである1,3,3,3−テトラフルオロプロペンは、マグネシウム合金の鋳造を行う際の溶融マグネシウムの防燃ガスとして有用である。
【0003】
フルオロオレフィン類を製造する方法としては、例えば、ヒドロフルオロカーボンを触媒存在下で熱分解する方法がある(特許文献1)。そのときの生成物には副生フッ化水素、目的とするフルオロオレフィンとその異性体、原料のヒドロフルオロカーボンを含有する。また、ヒドロクロロフルオロカーボンの塩素原子をフッ素原子で置換して製造することも可能である(特許文献2)。
【0004】
これの生成物は種々の公知の方法で分離することができる。例えば、蒸留等を適用すると、酸性物質などの一定の副生成物を、フルオロオレフィンや出発原料から分離できる。しかし、フルオロオレフィン類、例えば、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンは共沸組成を示すことがあり、フッ化水素を除くのは困難である。
【0005】
フルオロカーボン類については、フッ化水素との共沸混合物を分離する方法が種々提案されている。ヨーロッパ公開特許公報EP0467531には、HFC−134aとフッ化水素の混合物から共沸組成物の成分としてフッ化水素を除去して高沸留分を集めることにより、HFC−134aを分離する方法を開示している(特許文献3)。また、主蒸留塔のサイドカットを取出し、コンデンサーを装備しかつ高い還流比で運転される精留塔に導入することによる、フッ化水素との共沸混合物からフルオロカーボン類を分離する方法が開示されている(特許文献4)。
【0006】
その他の方法として、硫酸を抽出剤として使ったフッ化水素の吸収によるフルオロカーボン類の分離方法が、ヒドロクロロフルオロカーボンであるHCFC−22とフッ化水素のガス状混合物からHCFC−22を分離するために用いられてきた(特許文献5)。また、ヒドロフルオロカーボンであるHFC−245faとフッ化水素のガス状混合物からHFC−245faを分離するために用いられてきた(特許文献6)。また、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン、cis/trans−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよびフッ化水素の混合物から硫酸を用いてフッ化水素を回収する方法が開示されている(特許文献7)。
【0007】
しかしながら、硫酸は、クロロオレフィン類、例えば塩素ビニリデンと接触させると反応又は分解することが知られている(特許文献8)。これまで、硫酸は、クロロフルオロオレフィン類を含む混合物からフッ化水素を分離するための抽出剤としては用いられなかった。
【特許文献1】特開平11−140002号公報
【特許文献2】特開平10−007604号公報
【特許文献3】特開平4−261126号公報
【特許文献4】米国特許第5,211,817号明細書
【特許文献5】米国特許第3,873,629号明細書
【特許文献6】特表2000−513723号公報
【特許文献7】特開2008−150356号公報
【特許文献8】特開平6−271487号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、フルオロオレフィン、クロロフルオロオレフィン、ヒドロフルオロカーボン、塩化水素とフッ化水素の混合物から効率よくフッ化水素を分離する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、クロロフルオロオレフィンをフッ化水素でフッ素化する工程において生成したフルオロオレフィンとフッ化水素の混合物に、抽出剤として硫酸を用いることにより、当該混合物よりフッ化水素の分離する方法が提供される。
【0010】
本発明は、次の通りである。
[1]フルオロオレフィン、クロロフルオロオレフィン、ヒドロフルオロカーボン、塩化水素とフッ化水素を含む混合物からフルオロオレフィン又はフッ化水素を分離する方法であって、
(A)フルオロオレフィン、クロロフルオロオレフィン、ヒドロフルオロカーボン、塩化水素とフッ化水素を含む混合物を硫酸と接触させて、実質的にフルオロオレフィンからなる第1相とフッ化水素及び硫酸を含んでなる第2相を形成する工程、並びに
(B)上記第1相を上記第2相から分ける工程を含み、
硫酸のフッ化水素に対する質量比が2:1〜500:1であることを特徴とする分離方法。
[2]フルオロオレフィンが1,3,3,3−テトラフルオロプロペンである、[1]に記載の方法。
[3]クロロフルオロオレフィンが1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンである[1]に記載の方法。
[4]ヒドロフルオロカーボンが1,1、3,3,3−ペンタフルオロプロパンである[1]に記載の方法。
[5]フルオロオレフィン、クロロフルオロオレフィン、ヒドロフルオロカーボン、塩化水素とフッ化水素を含む混合物が、クロロフルオロオレフィンをフッ化水素でフッ素化する工程において生成した混合物である 上記[1]に記載の方法。
[6]フルオロオレフィン、クロロフルオロオレフィン、ヒドロフルオロカーボン、塩化水素とフッ化水素を含む混合物が共沸または擬共沸混合物である上記[1]乃至[5]のいずれかに記載の方法
[7]フルオロオレフィン、クロロフルオロオレフィン、ヒドロフルオロカーボン、塩化水素とフッ化水素を含む混合物が、更に、ヒドロクロロフルオロカーボンを含む[1]乃至[6]のいずれか1項に記載の方法。
【0011】
また、本発明は、フルオロオレフィン、クロロフルオロオレフィン、塩化水素とフッ化水素のガス状混合物を流通状態において硫酸に接触させることを含み、硫酸のフッ化水素に対する質量比が2:1〜500:1である方法も提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法によると、フルオロオレフィン、クロロフルオロオレフィン、 ヒドロフルオロカーボン、塩化水素とフッ化水素の混合物から効率よくフッ 化水素を分離することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
この発明で用いられるフルオロオレフィンという用語は、二重結合を有する脂肪族化合物であって、炭素、水素及びフッ素から構成され、且つ、他のハロゲン原子を含有しない化合物を意味する。また、クロロフルオロオレフィンは、二重結合を有する脂肪族化合物であって、炭素、水素、塩素及びフッ素から構成され、且つ、他のハロゲン原子を含有しない化合物を意味する。
【0014】
本発明の方法の対象はフルオロオレフィン、クロロフルオロオレフィン、ヒドロフルオロカーボン、塩化水素とフッ化水素の混合物である。他の炭素化合物を含むこともできるが、炭素化合物のうちフルオロオレフィンおよびクロロフルオロオレフィンを主に含む混合物に適用するのが好ましい。「主に」とは炭素化合物のうち概ね50質量%以上であることをいうが、発明の趣旨に悖らない限り特に限定するには及ばない。この混合物はフルオロオレフィン、クロロフルオロオレフィンとフッ化水素の共沸混合物もしくは擬共沸混合物又は非共沸混合物である。
【0015】
フルオロオレフィンは、特に限定されないが、炭素数2〜5のものであり、炭素数3のものが好ましい。炭素数3以上のフルオロオレフィン類には、通常は異性体が存在するが、本発明はそれらの単独異性体またはそれらの混合物についても適用できる。フルオロオレフィンとしては、トリフルオロメチル基を含むものが好ましい。このようなフルオロオレフィンとしては、例えば、1,1,1−トリフルオロプロペン、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペンなどのフルオロプロペン、2,4,4,4−テトラフルオロブテン、1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテンなどのフルオロブテンであることができ、フルオロプロペンが好ましく、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンが最も好ましい。
【0016】
フルオロオレフィン、クロロフルオロオレフィン、ヒドロフルオロカーボン、塩化水素とフッ化水素の混合物は気体状態又は液体状態であってよいが、気体状態が操作上好ましい。フルオロオレフィン、クロロフルオロオレフィン、ヒドロフルオロカーボン、塩化水素とフッ化水素の混合物を得る方法は、例えばクロロフルオロオレフィンのフッ化水素によるフッ素化反応、クロロフルオロオレフィンの水素化反応、ヒドロクロロフルオロプロパンのフッ化水素によるフッ素化反応またはこれらを複合した反応を挙げることができる。混合物としては、塩化水素等の反応により生成した副生成物、さらに、触媒の安定性や寿命の調節のために反応系にフッ化水素を共存させた際の反応器流出物が含まれる。
【0017】
すなわち、フルオロオレフィンの製造工程に依存して原料や副生成物等が残存する場合、混合物中には、フルオロオレフィンとフッ化水素他に、更にヒドロフルオロカーボン、ヒドロクロロフルオロカーボン、クロロフルオロオレフィン、塩化水素よりなる群より選らばれる少なくとも一つが混合する場合がある。
【0018】
フルオロオレフィンが、クロロフルオロオレフィンのフッ化水素によるフッ素化反応により製造される場合、例えば、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンをフッ素化触媒として活性炭担持クロム触媒(Cr/C)の存在下、フッ化水素によりフッ素化する反応が知られている(特開平10−007604号)。
【0019】
この場合、混合物としては、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、1,1、3,3,3−ペンタフルオロプロパン、塩化水素とフッ化水素が含まれる。
【0020】
本発明の方法を適用するフルオロオレフィン、クロロフルオロオレフィン、ヒドロフルオロカーボン、塩化水素とフッ化水素の混合物は、これらの反応により生成したそのままの混合物を用いる。
【0021】
分離に必要とされる硫酸の量は、フルオロオレフィン、クロロフルオロオレフィン、ヒドロフルオロカーボン、塩化水素とフッ化水素の混合物中に存在するフッ化水素の量に依存する。溶解度の温度に対するグラフを用いて、例えば100%硫酸中のフッ化水素の溶解度から、必要とされる硫酸の最小量を決めることができる。この発明で使用される硫酸の純度は特に限定されないが、好ましくは、50%以上の純度が好ましく、約98〜100%の純度を有するものがさらに好ましく、通常は市販されている工業用硫酸(98%)が使用できる。
【0022】
また、後述する回収された硫酸の再利用の点からは、硫酸の純度は80〜100%であり、90〜100%であることも好ましい。好ましい態様においては、硫酸のフッ化水素に対する質量比は、2:1〜500:1である。より好ましくは、その質量比は、2:1〜300:1であり、最も好ましくは2:1〜200:1である。
【0023】
本発明の方法は、0.1〜10MPa程度の圧力下で行うが、大気圧下でおこなうのが便利である。より高いか又はより低い圧力下も当業者の選択により用いられる。
【0024】
本発明のこの処理は、反応生成物が液化しない温度が望ましく、非凝縮性の塩化水素が含まれるため比較的低温で操作することができる。低温での操作は、クロロフルオロオレフィンの分解反応を抑制するために好ましい。操作温度は、好ましくは約0〜約60℃、より好ましくは約0〜約50℃、最も好ましくは約0〜約40℃で行われる。
【0025】
本発明の方法は、フルオロオレフィン、クロロフルオロオレフィン、ヒドロフルオロカーボン、塩化水素とフッ化水素を含む混合物からフッ化水素を分離する方法であって、以下の工程(A)、工程(B)の工程よりなる。
【0026】
フルオロオレフィン、クロロフルオロオレフィン、ヒドロフルオロカーボン、塩化水素とフッ化水素の混合物に硫酸を加えると、フルオロオレフィン、クロロフルオロオレフィン、ヒドロフルオロカーボン、塩化水素が豊富な第1相とフッ化水素と硫酸が豊富な第2相が形成される(工程(A))。「第1相」又は「第2相」という用語は、本発明の理解を助けるために使用するものであり、「第1相」又は「第2相」はそれぞれ上の層(気相)又は下の層(液相)を形成することができる。しかる後に、「第1相」を「第2相」から分ける工程(工程(B))により分離する。このとき、前述のように硫酸のフッ化水素に対する質量比は2:1〜500:1が好適に用いられる。
【0027】
場合により、更に第1相に硫酸を加えて形成された新たな第2相を分けることで、フルオロオレフィンフッ化水素の抽出を繰り返してもよい。
【0028】
硫酸のフッ化水素に対する質量比が約3:1質量比で、1回の操作で90%以上の抽出効率を得ることができる。硫酸による抽出を繰り返すことにより、後段の塩化水素中のフッ化水素を100ppm以下にして、フッ化水素含量を低減した塩酸として回収することができる。塩酸は微量のフッ化水素を更に吸着、反応などの処理により使用可能な品質となる。
【0029】
第1相と第2相を分けた後、分取した第2相をフッ化水素と硫酸とに分ける。温度による硫酸中へのフッ化水素溶解度の差を利用して、第2相の硫酸からフッ化水素を回収することができる。例えば、30℃で約34gのフッ化水素が100gの100%硫酸に溶解するが、同じ硫酸に140℃では4gしか溶解しないので、加熱によりその溶解度の差(30g)だけ回収できることになる。 このようにして回収されたフッ化水素と硫酸は、その後に再利用することができる。すなわち、このフッ化水素を別の反応の出発原料として利用し、硫酸を抽出工程での使用に再利用することができる。
【0030】
また、分離されたフルオロオレフィン、クロロフルオロオレフィン、ヒドロフルオロカーボンおよび塩化水素の混合ガスは、水洗して塩化水素を分離し、有機物は乾燥、蒸留してそれぞれ回収することができ、目的物以外のクロロフルオロオレフィンなどは再度反応に供することができる。
【0031】
本発明の分離方法は、フルオロオレフィン、クロロフルオロオレフィン、ヒドロフルオロカーボン、塩化水素とフッ化水素の他に、更にヒドロクロロフルオロカーボンが混合する場合においても適用できる。
【0032】
以下に、フルオロオレフィンが1,3,3,3−テトラフルオロプロペンであり、フッ化水素の他に更に含まれる混合物が、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンおよび塩化水素が含まれる場合について例示する。
【0033】
本発明を適用する1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(トランス/シス混合物)、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(トランス/シス混合物)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン、塩化水素およびフッ化水素から実質的になる混合物は、例えば、ヒドロクロロフルオロプロペンとして1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンをフッ化水素でフッ素化して1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを製造する場合に反応器流出物として得られるものである。
【0034】
反応方法、反応条件により組成は異なるが、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン1モルに対し、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン1モル、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン0.2モル、塩化水素1モルであり、フッ化水素は5〜20モル程度である。
【0035】
ここで、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンとフッ化水素、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンとフッ化水素、および1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンは共沸組成を形成する。1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの共沸組成はさらにフッ化水素と共沸体を形成すると考えられる。硫酸はこれらの複雑な共沸組成の混合物からフッ化水素を分離することができる。
【0036】
上記混合組成物と硫酸と接触させ、フッ化水素と硫酸を主とする液相区分と、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン等の有機物と塩化水素を主とする気相区分とに分割し、液相区分からフッ化水素を分離することによりフッ化水素を分離することができる。
【0037】
塩化水素は各成分の分圧を低下し、気体状態を安定化するので、常温または常温以下の比較的低温で操作することができ、硫酸中のフッ化水素の溶解度を高めることができる。低温で操作することは、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの分解反応を抑制するために好ましい。
【0038】
本発明においては、塩素原子を含むオレフィンであるクロロオレフィンを含むので、硫酸との接触により酸分解を起こす可能性がある。したがって、温度が低い条件で処理できることは望ましい態様である。
【0039】
これらの混合組成物についても、硫酸のフッ化水素に対する質量比は、2:1〜500:1である。より好ましくは、その質量比は、2:1〜300:1であり、最も好ましくは2:1〜200:1である。系内に塩化水素が混在する系において、2:1よりも硫酸の割合が少ないと、フッ化水素の溶解が充分でなくなり、気相区分にフッ化水素がともなわれやすくなるため、気相中の有機物および塩化水素中のフッ化水素が増加し、有機物および塩化水素の精製が困難になるので好ましくない。500:1よりも硫酸の割合が多いと、装置が過大となり経済的に不利となる。
【0040】
本発明の方法は、どの様な装置形態、操作方法をとってもかまわないが、反応生成物は気体状態で硫酸に接触させるのが好ましい。硫酸を槽に張り込みそこへ反応生成物を吹き込む方法、硫酸スクラバーへ吹き込み向流接触させる方法などがとれるが、これらに限らない。
【0041】
本発明の方法により得られたフッ化水素と硫酸を主とする液相区分は、加熱することでフッ化水素を気化させ、次いでそれを凝縮させてフッ化水素を分離・回収することができる。
【0042】
本発明のもう一つの態様においては、フルオロオレフィン、クロロフルオロオレフィン、ヒドロフルオロカーボン、塩化水素とフッ化水素の混合物あるいは、更にヒドロクロロフルオロカーボンを含む混合物をガス状で、充填物を充填し、硫酸を循環している中に導入する連続式方法により、気相で処理することができる。これは、フルオロオレフィン、クロロフルオロオレフィン、ヒドロフルオロカーボン、塩化水素とフッ化水素の混合物の流れに対して向流に硫酸を流すことによって、一般的な洗浄塔内で行うことができる。
【0043】
以下の実施例は、本発明を例示するものであるが、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0044】
[調製例1]
東洋カルゴン製椰子殻破砕炭100g(PCB 4×10メッシュ)を純水150gに浸漬し、別途40gの特級試薬CrCl3・6H2Oを100gの純水に溶かし調製した溶液と混合攪拌し、一昼夜放置した。次に濾過して活性炭を取り出し、電気炉中で200℃に保ち、2時間焼成した。
[調製例2]
シースヒーターにより加熱ができるSUS−316製反応管(内径28mm、長さ500mm)に、調製例1に示すクロム担持活性炭(Cr/C)を100ml充填し、窒素ガスを流しながら200℃まで昇温し、水の流出が見られなくなった時点で、窒素ガスにフッ化水素を同伴させその濃度を徐々に高めた。充填されたクロム担持活性炭へのフッ化水素の吸着によるホットスポットが反応管出口端に達したところで反応器温度を400℃に上げ、その状態を2時間保ち触媒の活性化を行った。その後、350℃に温度調整し、フッ化水素(HF)を0.48g/min、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを0.30g/minの割合で反応器に連続導入し反応した。
【0045】
生成したガスを酸吸収用水トラップにて未反応HF並びに生成した塩化水素(HCl)を吸収除去した後にガスクロマトグラフィーにて分析を行ったところ、表1の結果を得た。
【0046】
【表1】

【0047】
続いて酸吸収用水トラップの水をN/2−水酸化ナトリウム溶液で全酸分、N/2−硝酸銀溶液で塩素分を滴定により得られた結果から計算したところ、HF/HCl=94/6(重量比)であった。
[実施例1]
ステンレス製ヘリパック(2.5×5.0×5.0mm)を高さ320mmまで充填した塔径19mmφのPFA充填塔に上記調製例1で生成した混合ガスを2.8g/minで直接塔下段に導入し、塔上段から98%工業用硫酸を28g/minで2時間導入して、塔内で硫酸とガスを向流で接触させた。
【0048】
硫酸温度は25℃、塔内で接触する液/ガスの重量比を10とした。塔頂からは有機物と塩化水素を主とする気体成分を、塔底からは硫酸とフッ化水素を主とする液体成分を回収した。
【0049】
気体成分を通じた水をイオンクロマトグラフで測定したところ、フッ化水素の硫酸への吸収率は95.0%であった。また、塔頂より回収した全有機物の回収率は98.5%であった。
【0050】
[実施例2]
実施例1と同様の装置、条件を用い、実施例1の排出ガスを硫酸と向流で接触させた。
【0051】
塔頂からは有機物と塩化水素を主とする気体成分を、塔底からは硫酸とフッ化水素を主とする液体成分を回収した。
【0052】
気体成分を通じた水をイオンクロマトグラフで測定したところ、全ハロゲン化水素(フッ化水素と塩化水素)中のフッ化水素は85ppmであった。また、塔頂より回収した全有機物中の1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの実施例1の原料に基づく回収率は97.5%であった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の方法は、フルオロオレフィンの製造工程においてフッ化水素を除去する方法として有用であるのに加えて、回収した硫酸を再使用できることから、資源の有効利用、環境へ影響の少ない点でも利用する価値を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオロオレフィン、クロロフルオロオレフィン、ヒドロフルオロカーボン、塩化水素とフッ化水素を含む混合物からフッ化水素を分離する方法であって、
(A)フルオロオレフィン、クロロフルオロオレフィン、ヒドロフルオロカーボン、塩化水素とフッ化水素を含む混合物を硫酸と接触させて、実質的にフルオロオレフィン、クロロフルオロオレフィンヒドロフルオロカーボン、塩化水素からなる第1相とフッ化水素及び硫酸を含んでなる第2相を形成する工程、並びに
(B)上記第1相を上記第2相から分ける工程、を含み、
硫酸のフッ化水素に対する質量比が2:1〜500:1であることを特徴とする分離方法。
【請求項2】
フルオロオレフィンが1,3,3,3−テトラフルオロプロペンである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
クロロフルオロオレフィンが1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンである請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ヒドロフルオロカーボンが1,1、3,3,3−ペンタフルオロプロパンである請求項1に記載の方法。
【請求項5】
フルオロオレフィン、クロロフルオロオレフィン、ヒドロフルオロカーボン、塩化水素とフッ化水素を含む混合物が、クロロフルオロオレフィンをフッ化水素でフッ素化する工程において生成した混合物である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
フルオロオレフィン、クロロフルオロオレフィン、ヒドロフルオロカーボンとフッ化水素を含む混合物が共沸または擬共沸混合物である請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
フルオロオレフィン、クロロフルオロオレフィン、ヒドロフルオロカーボン、塩化水素とフッ化水素を含む混合物が、更に、ヒドロクロロフルオロカーボンを含む請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の方法。