説明

フッ素化アルカンの製造方法

【課題】 アルキルスルホネートをアルカリ金属フッ化物による交換反応でフッ素化する際に、収率良くフッ素化アルカンを製造する。
【解決手段】 スクリュー式攪拌翼を備えた反応器、あるいはロータリーキルン式反応器を用いることにより、アルカリ金属フッ化物による交換反応において、大量の固形分を発生する反応形態においても、収率良く目的物のフッ素化アルカンを製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造分野において有用なエッチング、CVD等のプラズマ反応用ガス、あるいは、含フッ素医薬中間体、冷媒・熱媒等の媒体として有用なフッ素化アルカンの製造方法に関する。高純度化されたフッ素化アルカンは、特に、プラズマ反応を用いた半導体装置の製造分野において、プラズマエッチングガス、化学気相成長法(CVD)用ガス等に好適である。
【背景技術】
【0002】
構造式(2)で示されるフッ素化アルカンの製造方法としては幾つかの製造方法が開示されている。
特許文献1においては、低級アルキルスルホニル誘導体をアルカリ、あるいはアルカリ土類の金属フッ化物によりフッ素化する際、分子量400のポリエチレングリコールを溶媒に用いている。
非特許文献1においては、メタンスルホネート、ベンゼンスルホネート、トルエンスルホネートのヘキシル誘導体を、フッ化カリウムをフッ素化剤に用い、ジエチレングリコール溶媒下、減圧系で1−フルオロヘキサンを得ている。
非特許文献2においてもやはり、メタン、エタン、プロパンのp−トルエンスルホン酸エステルをフッ素化剤にフッ化カリウムを用い、無溶媒、あるいはジエチレングリコール溶媒下、減圧系で各種アルキルフルオリドを得ている。
非特許文献3においては、2−ブロモエチルトリフルオロメタンスルホネートをフッ素化剤にテトラフルオロブチルアンモニウムフルオリド用いて、収率良く1−ブロモ−2−フルオロエタンを得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表昭62−501974号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Canadian Journal of Chemisty,Vol.34、737(1956)
【非特許文献2】Journal of American Chemical Society,Vol.77、4899(1955)
【非特許文献3】Journal of Organic Chemistry,Vol.52,658(1987)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1実施例においては、メタンスルホネートやp−トルエンスルホネート類をポリエチレングリコール溶媒下、フッ化カリウムでフッ素化し、収率70%で1−フェニル−2−フルオロエタンが得られている。フッ化カリウムの使用量が原料のスルホン酸エステルに対して5倍当量と非常に多い。このようにフッ化カリウムの量が多いと、反応後の廃液中のフッ素イオンが非常に多くなる。廃液中のフッ素イオンは工業生産においては、除去処理する必要があり、多量のフッ化カリウムを使用することは生産性の低下につながる。
非特許文献1では、アルキルメタンスルホネートをジエチレングリコール溶媒下、フッ化カリウムでフッ素化し、最高収率75%でフッ素化体が得られているが、原料であるアルキルメタンスルホネート0.1モル当たり、200gという大量のジエチレングリコールを用いている。フッ化カリウム同様、溶媒を大量に用いることは、生産性の低下につながる。
【0006】
非特許文献2では、アルキルp−トルエンスルホネートをフッ化カリウムでフッ素化を行っており、最高89%でフッ素化体を得ているが、やはりフッ化カリウムの使用量が原料のアルキルp−トルエンスルホネートに対して5倍当量と非常に多く使用している。
非特許文献3については脱離能力の高いトリフルオロメタンスルホネートを用いていることと、裸のフッ素アニオンを発生し易いテトラブチルアンモニウムフルオリドを使用しているために収率良くフッ素化体が得られてはいるが、トリフルオロメタンスルホネートを製造するためのトリフルオロメタンスルホニル無水物や、トリフルオロメタンスルホニルクロリドなどのトリフルオロメタンスルホニル化剤、及び、フッ素化剤に用いているテトラブチルアンモニウムフルオリドが共に高価な薬剤であり、工業的には使い難い。また、テトラブチルアンモニウムフルオリドは分子量の大きなフッ素化剤であるため、原料に対する添加量が非常に大きくなるため、非常に大きな容積の反応設備が必要になることと、反応後に生成する廃棄物が大量になるので、これらの観点からも工業的には好ましくない。
【0007】
我々は、脱離能力の大きなアルキルスルホン酸エステルを原料にフッ素化を行うに際し、フッ素化剤である安価なフッ化金属の使用量を減らし、かつ簡便な廃液処理を実現し、工業的に有利なフッ素化アルカンの製造法を確立する必要に迫られた。
しかしながら、原料であるアルキルスルホン酸エステルが1Kg以上となるような工業生産のスケールでアルキルスルホン酸エステルを原料に、フッ素化剤にフッ化カリウムを用いる反応系を検討したところ、反応が進行するにつれてアルキルスルホン酸カリウムが大量に生成するため、溶媒下で反応を行っていても内容物が非常に粘ちょうになり、時にはシャーベット状の固体が析出する問題に直面した。更に粘ちょうな反応系や固体が析出した反応系では、攪拌羽による攪拌が非常に困難になる。このため、反応がある程度進行すると、途中から原料の転化率が著しく低下し、十分な収率を確保することが困難であった。
このことから、上記特許文献1及び非特許文献1〜3は、いずれも小スケールの反応であり、それ故、各文献で報告されたとおり、良好な収率が実現したことが判明した。
さらに、シャーベット状の固体は反応が進行するにつれて、反応器の内面に付着し、その後、固体が成長する傾向があることが反応の観察から分かった。そしてこの固体はパドル、タービン、あるいはアンカー型攪拌翼では容易に崩壊しないことが確認された。溶媒を大量に用いることにより攪拌を容易にすることは可能であるが、溶媒の大量使用は反応器の大型化、廃棄物の増加を招くことから、工業生産上、採用することのできる解決策とはならない。
こうして発明者は鋭意検討を重ねた結果、スクリュー式攪拌翼を備えた反応器又はロータリーキルン式反応器を用いることにより、フッ化金属の使用量を抑えても、収率良く目的物のフッ素化アルカンを製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かくして本発明によれば、溶媒中で、下記構造式(1)で示されるアルキルスルホン酸エステルをアルカリ金属フッ化物によりフッ素化する際に、アルカリ金属フッ化物がアルキルスルホン酸エステルに対して1.5〜3.5当量であり、スクリュー式攪拌翼を備えた反応器、又は、ロータリーキルン式反応器でフッ素化を行うことを特徴とする構造式(2)で示されるフッ素化アルカンの製造方法が提供される。
【0009】
【化1】

【0010】
(ただし、Rは炭素数3〜6の直鎖又は分岐状のアルキル基、Rは、炭素数1〜7のアルキル基又は置換基としてメチル基を有してもよい芳香族基を表す。)
【0011】
【化2】

【0012】
(ただし、Rは炭素数3〜6の直鎖又は分岐状のアルキル基を表す。)
前記アルカリ金属フッ化物は、フッ化カリウム又はフッ化セシウムであるのが好ましい。
また、原料であるアルキルスルホン酸エステル1重量部に対し、前記溶媒の使用量が3〜7重量部であるのが好ましい。
前記構造式(1)で示されるアルキルスルホン酸エステル及び前記構造式(2)で示されるフッ素化アルカンの、Rが炭素数4又は5であるのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るスクリュー式攪拌翼を備えた反応器の実施の形態を示す図である。
【図2】本発明に係るロータリーキルンしき反応器の実施の形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に用いられる原料には前記構造式(1)で示されるアルキルスルホン酸エステルが用いられる。前記構造式(1)中、Rは、メチル基又はp−メチルフェニル基が特に好ましい。
構造式(1)で示されるアルキルスルホン酸エステルとしては、1−プロピルメタンスルホネート、イソプロピルメタンスルホネート、1−ブチルメタンスルホネート、イソブチルメタンスルホネート、2−ブチルメタンスルホネート、1−ペンチルメタンスルホネート、2−ペンチルメタンスルホネート、3−ペンチルメタンスルホネート、1−(2−メチルブチル)メタンスルホネート、3−メチル−1−ブチルメタンスルホネート、1−ヘキシルメタンスルホネート、2−ヘキシルメタンスルホネート、3−ヘキシルメタンスルホネートなどのメタンスルホネート類;1−プロピルエタンスルホネート、イソプロピルエタンスルホネート、1−ブチルエタンスルホネート、イソブチルエタンスルホネート、2−ブチルエタンスルホネート、1−ペンチルエタンスルホネート、2−ペンチルエタンスルホネート、3−ペンチルエタンスルホネート、1−(2−メチルブチル)エタンスルホネート、3−メチル−1−ブチルエタンスルホネート、1−ヘキシルエタンスルホネート、2−ヘキシルエタンスルホネート、3−ヘキシルエタンスルホネートなどのエタンスルホネート類;1−プロピルベンゼンンスルホネート、イソプロピルベンゼンスルホネート、1−ブチルベンゼンスルホネート、イソブチルベンゼンスルホネート、2−ブチルベンゼンスルホネート、1−ペンチルベンゼンスルホネート、2−ペンチルベンゼンスルホネート、3−ペンチルベンゼンスルホネート、1−(2−メチルブチル)ベンゼンスルホネート、3−メチル−1−ブチルベンゼンスルホネート、1−ヘキシルベンゼンスルホネート、2−ヘキシルベンゼンスルホネート、3−ヘキシルベンゼンスルホネートなどのベンゼンスルホネート類;1−プロピルp−トルエンスルホネート、イソプロピルp−トルエンスルホネート、1−ブチルp−トルエンスルホネート、イソブチルp−トルエンスルホネート、2−ブチルp−トルエンスルホネート、1−ペンチルp−トルエンスルホネート、2−ペンチルp−トルエンスルホネート、3−ペンチルp−トルエンスルホネート、1−(2−メチルブチル)p−トルエンスルホネート、3−メチル−1−ブチルp−トルエンスルホネート、1−ヘキシルp−トルエンスルホネート、2−ヘキシルp−トルエンスルホネート、3−ヘキシルp−トルエンスルホネートなどのp−トルエンスルホネート類;などが挙げられる。
これらの中でも、1−プロピルメタンスルホネート、イソプロピルメタンスルホネート、1−ブチルメタンスルホネート、イソブチルメタンスルホネート、2−ブチルメタンスルホネート、1−ペンチルメタンスルホネート、2−ペンチルメタンスルホネート、3−ペンチルメタンスルホネート、1−(2−メチルブチル)メタンスルホネート、3−メチル−1−ブチルメタンスルホネート、1−ヘキシルメタンスルホネート、2−ヘキシルメタンスルホネート、3−ヘキシルメタンスルホネートなどのメタンスルホネート類;及び、1−プロピルp−トルエンスルホネート、イソプロピルp−トルエンスルホネート、1−ブチルp−トルエンスルホネート、イソブチルp−トルエンスルホネート、2−ブチルp−トルエンスルホネート、1−ペンチルp−トルエンスルホネート、2−ペンチルp−トルエンスルホネート、3−ペンチルp−トルエンスルホネート、1−(2−メチルブチル)p−トルエンスルホネート、3−メチル−1−ブチルp−トルエンスルホネート、1−ヘキシルp−トルエンスルホネート、2−ヘキシルp−トルエンスルホネート、3−ヘキシルp−トルエンスルホネートなどのp−トルエンスルホネート類;がより好ましい。
【0015】
本発明においてアルカリ金属フッ化物は、フッ化カリウム、フッ化ルビジウム、フッ化セシウムを用いることができる。これらの中でも、フッ化カリウム、フッ化セシウムが好ましく、特フッ化カリウムが好ましい。これらアルカリ金属フッ化物は粒状形態をしたものが使用できるが、より粒径の小さなスプレードライ処理、凍結乾燥処理されたものを使用する方が反応性を向上させる観点で好ましい。
アルカリ金属フッ化物の添加量は、原料であるアルキルスルホン酸エステルに対し1.5〜3.5当量であり、1.5〜3当量が好ましく、1.5〜2.5当量がより好ましい。アルカリ金属フッ化物の添加量が少なすぎると反応の転化率が低くなり、添加量が多すぎると溶媒に対する固形分の濃度が大きくなり、攪拌が困難になる。
【0016】
反応溶媒としてはアルコール類が好ましい。特に、多価アルコール類が好ましく、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等がアルカリ金属フッ化物を良く溶解させる観点で望ましい。これらの中でも、プロピレングリコール、ジエチエングリコールがより好ましく使用できる。
これら反応溶媒の使用量は、原料であるアルキルスルホン酸エステルに対し、重量比で3〜7の範囲であることが望ましい。反応溶媒の使用量が少ないと反応中に固形分の大量析出による攪拌不良が起こり易くなり、また、使用量が多いと反応終了後の処理が面倒になる。
【0017】
反応温度としては50〜120℃が好ましく、60〜110℃がより好ましい。反応温度が低いと、原料転化率が低くなったり、反応時間が非常に長くなる。
一方、反応温度が高すぎると反応が一挙に進行することにより固形分が一気に析出してしまい、攪拌機にダメージを与えると共に、反応制御が困難になる。
原料となるアルキルスルホン酸エステルの添加方法としては、アルカリ金属フッ化物と反応溶媒の混合物を任意の反応温度に設定した後に、アルキルスルホン酸エステルを滴下する方法が好ましい。
滴下速度としては、反応容器の単位容積、単位時間あたり、200〜2000モル/m/hrが好ましい。滴下速度が早すぎると反応が急激に進行し、反応制御が困難になり、滴下速度が遅すぎると反応時間が非常に長くなり、生産効率が悪くなる。
【0018】
本発明に用いる反応器の形態としては、スクリュー式攪拌機を備えた反応器、あるいはロータリーキルン式反応器を好適に用いることができる。
スクリュー式攪拌翼を備えた反応器は、図1に示すような反応容器内にスクリュー式の攪拌翼を備えた反応器であり、固形分を含んだ反応混合物を連続的に下から上へと流動させることができるので、小スケールでも用いることのできるパドル型やアンカー型の攪拌翼を備えた反応器を用いて大スケールの反応を行う場合に起こる、局所的な固形物の滞留による内容物の不均一な攪拌を低減できる。また、フッ素源である金属フッ化物表面をアルキルスルホン酸カリウム、セシウムなどによる被覆が原因で生じる求核性の大幅な低下を抑制することが可能である。
反応系からの生成物回収法については、生成物の沸点、反応温度にもよるが、通常は反応させながら反応系外に抜き出し、冷媒等で冷却したトラップ内に捕集する方法が適用できる。沸点の高い生成物については、反応停止後、減圧下に、やはり冷媒等で冷却したトラップ内に捕集するのが好ましい。
【0019】
ロータリーキルン型反応器の場合は、図2に示すような装置を使用することができる。回転する円筒型反応器内に、アルカリ金属フッ化物と反応溶媒が仕込まれ、円筒自体は適当な駆動手段により回転される。回転させながら、円筒全体を所定の温度に加温させ、円筒上部の原料投入口より送液ポンプ等を介して原料であるアルキルスルホン酸エステルが滴下される。なお、円筒の内側には内容物の攪拌を効率よく行うために、邪魔板等を設置するのが望ましい。
反応系からの生成物回収法については、スクリュー式攪拌翼を用いた反応と同様に、生成物の沸点、反応温度にもよるが、通常は反応させながら反応系外に抜き出し、冷媒等で冷却したトラップ内に捕集すればよい。沸点の高い生成物については、反応停止後、減圧下に、やはり冷媒等で冷却したトラップ内に捕集するのが好ましい。トラップ内に捕集された粗生成物は蒸留等の操作を行って精製し、さらに高純度化することができる。
【0020】
反応終了後の反応器内の内容物は、スクリュー式攪拌型反応器、ロータリーキルン型反応器を用いたいずれの場合も、加温した状態で水をゆっくりと投入し、攪拌を継続して内容物を溶解させる。溶液状になった内容物は底の排出口より排出される。
【0021】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によってその範囲を限定されるものではない。なお、特に断りがない限り、「部」及び「%」は、それぞれ「重量部」及び「重量%」を表す。
【0022】
以下において採用した分析条件は下記の通りである。
・ガスクロマトグラフィー分析(GC分析)
装置:GC−2010(島津製作所社製)
カラム:ジーエルサイエンス社製 TC−1、長さ60m、内径0.25mm、膜厚1.0μm
カラム温度:40℃で10分間保持後、20℃/分で昇温し、240℃で10分間保持。
インジェクション温度:200℃
キャリヤーガス:窒素ガス
スプリット比:100/1
検出器:FID
H、及び19F−NMR測定
装置:JNM−ECA−500(日本電子社製)
【0023】
[製造例1]1−ブチル−メタンスルホネート(分子量152.21)の合成
攪拌翼と滴下ロートを付したガラス製反応器に、1−ブタノール148部、メタンスルホニルクロリド260部、乾燥テトラヒドロフラン900部を仕込み、氷水にて冷却した。
滴下ロートからトリエチルアミン250部を3時間かけて滴下し、滴下終了後、1時間攪拌を継続し、室温にてさらに6時間攪拌させた。反応で生成するトリエチルアミン塩酸塩を減圧濾過にて除去し、濾液をエバポレーターにて濃縮した。残渣にジイソプロピルアミンを添加し、5%塩酸、飽和重曹水、飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥させた。再度、ロータリーエバポレータにて溶媒を留去し、残渣をポンプアップして、1−ブチル−メタンスルホネート270部(収率89%)を得た。
【0024】
[製造例2]1−ブチル−p−トルエンスルホネート(分子量228.31)の合成
攪拌翼と滴下ロートを付したガラス製反応器に、1−ブタノール74部、p−トルエンスルホニルクロリド187部、N,N−ジメチルアミノピリジン3部、乾燥テトラヒドロフラン550部を仕込み、氷水にて冷却した。
滴下ロートからピリジン82部を3時間かけて滴下し、滴下終了後、1時間攪拌を継続し、室温にてさらに5時間攪拌させた。反応液をエバポレーターにて濃縮し、残渣にジイソプロピルアミンを添加した。5%塩酸、飽和重曹水、飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥させた。再度、ロータリーエバポレータにて溶媒を留去し、残渣をポンプアップして、1−ブチル−p−トルエンスルホネート184部(収率81%)を得た。
【0025】
[製造例3]2−ペンチル−メタンスルホネート(分子量166.24)の合成
攪拌翼、滴下ロートを付したガラス製反応器に、2−ペンタノール176部、メタンスルホニルクロリド260部、乾燥テトラヒドロフラン900部を仕込み、氷水にて冷却した。
滴下ロートからトリエチルアミン250部を3時間かけて滴下し、滴下終了後、1時間攪拌を継続し、室温にてさらに5時間攪拌させた。反応で生成するトリエチルアミン塩酸塩を減圧濾過にて除去し、濾液をエバポレーターにて濃縮した。残渣にジイソプロピルアミンを添加し、5%塩酸、飽和重曹水、飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥させた。再度、ロータリーエバポレータにて溶媒を留去し、残渣をポンプアップして、2−ペンチル−メタンスルホネート278部(収率84%)を得た。
【0026】
[実施例1]
スクリュー型攪拌翼、原料送液ポンプ、及びヒーターを備えたステンレス製反応器内に、スプレードライフッ化カリウム1200g(20.7モル)、プロピレングリコール5000gを仕込んだ。反応器を、ヒーターを介して95℃に加温し、攪拌させながら30分間放置した。その後、送液ポンプを介して、製造例1で合成した1−ブチル−メタンスルホネート1522gを3時間かけて滴下した。
攪拌を継続している間、ステンレス製反応器の上部にある抜き出し口から生成物の抜き出しを継続し、ドライアイス/エタノール浴に浸したトラップに捕集した。原料滴下終了から3時間後、トラップ内に回収された有機物をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、1−フルオロブタンが652g(収率85%)含まれていた。
<1−フルオロブタンのスペクトルデータ>
H−NMR(CDCl,TMS)δ0.95ppm(t、3H)、1.43(m、2H),1.70(m、2H),4.45(dt、2H)
19F−NMR(CDCl、CFCl)δ−219ppm(m,F)
【0027】
[実施例2]
実施例1において、1−ブチル−メタンスルホネート1522gを1−ブチル−p−トルエンスルホネート2283g、及びプロピレングリコール8000gに変更して反応を行った以外は、実施例1と同様に反応を行った。原料滴下終了から4時間後、トラップ内に回収された有機物をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、1−フルオロブタンが610g(収率80%)含まれていた。
【0028】
[実施例3]
スクリュー型攪拌翼、原料送液ポンプ、及びヒーターを備えたステンレス製反応器内に、スプレードライフッ化カリウム12000g(207モル)、プロピレングリコール50000gを仕込んだ。反応器をヒーターを介して60℃に加温し、攪拌させながら1.5時間放置した。その後、送液ポンプを介して、製造例3で合成した2−ペンチル−メタンスルホネート16600gを4時間かけて滴下した。
攪拌を継続している間、ステンレス製反応器の上部にある抜き出し口から生成物の抜き出しを継続し、ドライアイス/エタノール浴に浸したトラップに捕集した。原料滴下終了から6時間後、トラップ内に回収された有機物をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、2−フルオロペンタンが5540g(収率61%)、及び1−ペンテンと2−ペンテンの混合物1710g(24%)が含まれていた。
<2−フルオロペンタンのスペクトルデータ>
H−NMR(CDCl,TMS)δ0.96ppm(t、3H)、1.26(d、2H),1.35(m、2H),1.56(m、2H),4.54−4.78(m、2H)
19F−NMR(CDCl、CFCl)δ−173ppm(m,F)
【0029】
[実施例4]
実施例1において、1−ブチル−メタンスルホネート1522gをイソプロピル−p−トルエンスルホネート(東京化成工業社製、分子量214.28)2143g、及びプロピレングリコール7000gに変更して反応を行った以外は、実施例1と同様に反応を行った。原料滴下終了から6時間後、トラップ内に回収された有機物をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、2−フルオロプロパンが496g(収率79%)及び、プロペン53g(12%)含まれていた。
<2−フルオロプロパンのスペクトルデータ>
H−NMR(CDCl,TMS)δ1.14ppm(d、3H×2)、4.47(m、H)
19F−NMR(CDCl、CFCl)δ−165ppm(m,F)
【0030】
[実施例5]
内径160mm、長さ570mmのステンレス製のロータリーキルン型反応器内に、スプレードライフッ化カリウム1200g(20.7モル)、プロピレングリコール5000gを仕込んだ。
反応器をヒーターを介して95℃に加温し、反応器を毎分120回転させながら30分間放置した。その後、送液ポンプを介して、製造例1で合成した1−ブチル−メタンスルホネート1520gを3時間かけて送液した。原料滴下終了後、原料滴下口にドライアイス/エタノール浴に浸したトラップラインを接続し、生成物を捕集した。原料滴下終了から5時間後、トラップ内に回収された有機物をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、1−フルオロブタンが590g(収率78%)含まれていた。
【0031】
[比較例1]
アンカー型攪拌翼、送液ポンプを備えたガラス製反応器内に、スプレードライフッ化カリウム1200g、プロピレングリコール5000gを仕込んだ。反応器をオイルバスにて95℃に加温し、攪拌させながら30分間放置した。その後、滴下ロートから製造例1で合成した1−ブチル−メタンスルホネート1522gを3時間かけて滴下した。
攪拌を継続している間、ガラス製反応器の上部にある抜き出し口から生成物の抜き出しを継続し、ドライアイス/エタノール浴に浸したトラップに捕集した。原料滴下終了から約1.5時間後、ガラス製反応器の内面にシャーベット上の固形分の析出が観察されるようになり、また、アンカー型攪拌翼の攪拌が不能になった。トラップ内に回収された有機物をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、1−フルオロブタンが343g(収率45%)含まれていたに過ぎなかった。
【0032】
[比較例2]
比較例1において、攪拌翼をアンカー型からパドル型に変更したこと以外は、比較例1と同様に反応を実施した。原料滴下終了から約1.2時間後、ガラス製反応器の内面にシャーベット上の固形分の析出が観察されるようになり、パドル型攪拌翼の上部にも固形物が一面に析出した。トラップ内に回収された有機物をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、1−フルオロブタンが254g(収率33%)含まれていたに過ぎなかった。
【0033】
以上のことから、スクリュー型攪拌翼を備えた反応器やロータリーキルン型反応器に変更することで、大量の固形分が発生するようなフッ素化反応においても、収率良く、大スケール(1Kg〜1000Kg程度)でフッ素化アルカンを製造することができることが分かる。
【符号の説明】
【0034】
1 攪拌モーター
2 原料滴下口
3 生成物回収口
4 スクリュー式攪拌羽
5 ヒーター
6 排出口
7 原料送液口/生成物回収口
8 ロータリージョイント
9 排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒中で、下記構造式(1)で示されるアルキルスルホン酸エステルをアルカリ金属フッ化物によりフッ素化する際に、アルカリ金属フッ化物がアルキルスルホン酸エステルに対して1.5〜3.5当量であり、スクリュー式攪拌翼を備えた反応器、又は、ロータリーキルン式反応器でフッ素化を行うことを特徴とする構造式(2)で示されるフッ素化アルカンの製造方法。
【化1】

(ただし、Rは炭素数3〜6の直鎖又は分岐状のアルキル基、Rは、炭素数1〜7のアルキル基又は置換基としてメチル基を有してもよい芳香族基を表す。)
【化2】

(ただし、Rは炭素数3〜6の直鎖又は分岐状のアルキル基を表す。)
【請求項2】
アルカリ金属フッ化物がフッ化カリウム又はフッ化セシウムであることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
原料であるアルキルスルホン酸エステル1重量部に対し、溶媒の使用量が3〜7重量部であることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記構造式(1)で示されるアルキルスルホン酸エステル及び前記構造式(2)で示されるフッ素化アルカンの、Rが炭素数4又は5であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−6786(P2013−6786A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139071(P2011−139071)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】