説明

フッ素樹脂組成物

【課題】 摩擦帯電電位を低下した、電気絶縁性が良好なフッ素樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 フッ素樹脂とトリフルオロメタンスルホン酸リチウム、パーフルオロブタンスルホン酸リチウム、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム等のフルオロアルキルスルホン酸塩とを含有し、導電性固体粒子を含有しないフッ素樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂組成物に関し、特に摩擦帯電性が小さなフッ素樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は、表面抵抗、及び静電気の帯電性が大きな物質である。フッ素樹脂組成物のフィルムを袋状の包装用部材とした場合には、摩擦帯電によってフィルムが付着して包装用部材相互あるいは包装される部材との間での引きはがしが困難となることが起こる。
また、複写機、プリンターの熱定着部用ロールにロールカバーとしてフッ素樹脂組成物の薄肉チューブを使用すると、紙との摩擦帯電によって紙がロールから離れなくなるという問題があった。
あるいは、フッ素樹脂組成物製の部材によって半導体装置を収容した場合には、帯電した電位によって半導体装置が破壊されるという問題があった。
【0003】
フッ素樹脂製組成物の摩擦帯電特性を改善するめに、フッ素樹脂組成物中にカーボンブラック等の導電性粒子を配合することが提案されている。
導電性粒子として、カーボンブラック等を配合した場合には、フッ素樹脂組成物が着色するために、内容物が見えなくなるという問題があった。また、使用中のフッ素樹脂組成物からの抜け落ちの問題を解決するためにカーボンナノチューブを配合することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−146081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、フッ素樹脂が備えた透明性、あるいは表面抵抗を保持した摩擦帯電性が小さなフッ素樹脂組成物を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、フッ素樹脂とフルオロアルキルスルホン酸塩とを含有し、導電性粒子を含有しないフッ素樹脂組成物である。
また、フルオロアルキルスルホン酸塩が、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、パーフルオロブタンスルホン酸リチウム、パーフルオロブタンスルホン酸カリウムからなる群から選ばれる少なくも一種である前記の組成物である。
フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン−フルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレンコポリマー(ECTFE)から選ばれる樹脂である前記の組成物である。
【発明の効果】
【0006】
本発明のフッ素樹脂組成物は、フッ素樹脂にフルオロアルキルスルホン酸塩を配合したことによって、導電性粒子等を配合することなくフッ素樹脂組成物の表面抵抗を低下させることなく摩擦帯電特性のみを減少させることが可能であるので、摩擦帯電によって相互に密着することがなく着色のないフッ素樹脂製フイルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、フッ素樹脂組成物の摩擦帯電性をフッ素樹脂組成物の表面抵抗とは無関係に減少させることが可能であることを見いだしたものである。
すなわち、本発明のフッ素樹脂組成物は、フッ素樹脂組成物中にフルオロアルキルスルホン酸塩を配合することによって表面抵抗を小さくすることなく摩擦帯電性のみを減少することが可能であることを見いだしたものである。
その結果、フッ素樹脂にカーボンブラック、ナノカーボンチューブ等の導電性粒子を添加した時のようにフッ素樹脂を着色したり、あるいは光透過性を阻害することなく摩擦帯電性を減少することが可能となる。
【0008】
フッ素樹脂は、耐薬品性等が他の合成樹脂に比べて優れた樹脂であり、耐薬品性が要求される分野、あるいはプラスチックからの溶出物による液体の汚染等がないことが要求される分野において広く利用されている。
本発明のフッ素樹脂組成物は、フッ素樹脂組成物中にフルオロアルキルスルホン酸塩を含有するものの導電性粒子を含まないので、表面抵抗はフルオロアルキルスルホン酸塩を含まないものと変わりはなく、電気絶縁性が良好で摩擦帯電性が小さいフッ素樹脂組成物を提供することができる。
その結果、本発明のフッ素樹脂組成物をフィルムに加工した場合には、摩擦帯電性が小さいので取扱が良好となり、フィルムを袋状に加工した袋にあっては、摩擦帯電によって袋が付着して袋を開くことが困難となるという問題は生じることがない。また、半導体装置の収納用の容器等として使用した場合にも、摩擦帯電した電気の放電による絶縁破壊等の問題も生じることがなく、フッ素樹脂としての優れた特性を充分に発揮することができる。
【0009】
本発明のフッ素樹脂組成物に添加するフルオロアルキルスルホン酸塩としては、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、パーフルオロブタンスルホン酸リチウム、パーフルオロブタンスルホン酸カリウムのからなる群から選ばれる少なくも一種を挙げることができる。
フルオロアルキルスルホン酸塩の添加量は、フッ素樹脂100質量部に対して、0.001質量部以上であることが好ましく、より好ましくは0.003質量部以上、5質量部以下であり、0.005質量部以上、2質量部以下とすることがより好ましい。なお、添加量は、溶剤を含まない量である。
添加量が0.001質量部よりも少ないと良好な導電性が得られず、また5質量部よりも多いとフッ素樹脂組成物の加工性が低下する。
【0010】
本発明のフッ素樹脂組成物として使用可能なフッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン−フルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレンコポリマー(ECTFE)の少なくともいずれか一種を選ぶことができる。これらのなかでもテトラフルオロエチレン−フルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)を挙げることができる。、
またフッ素樹脂としては、重合によって得られたフッ素樹脂をフッ素化剤によって末端基のフッ素化処理を行った末端基安定化処理フッ素樹脂、あるいは末端基安定化処理フッ素樹脂とともに末端基安定化処理をしていないフッ素樹脂の両者を配合することができる。
【0011】
本発明のフッ素樹脂組成物は、フッ素樹脂とフルオロアルキルスルホン酸塩とを所定の割合で混合した後に、押出成形法、ロール成形法、射出成形法等の方法によって所望の形状に成形することができる。
以下に実施例、比較例を示し本発明を説明する。
【実施例】
【0012】
実施例1
テトラフルオロエチレン−フルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA:三井デュポンフロロケミカル製PFA451HP−J)100質量部とトリフルオロメタンスルホン酸リチウム(CF3SO3Li)0.01質量部とを、ローラミキサ型混練装置(東洋精機製作所製 ラボプラストミルモデル30C150)に投入し、ローラ回転数20rpm、380℃10分間で溶融させ、20rpm、380℃において15分間混合した後、混練装置から取り出し、350℃の熱プレスで厚さ2mmのシートを作製し、縦横各40mmの試料と、縦横各100mmの試料を作製した。
各試料を以下の評価方法によって評価をし、その結果を表1に示す。
【0013】
摩擦帯電電位の測定
縦横100mm試料を水平な台に固定し、静電気除去機(アズワン製SF−1000)を使って除電した後、鉄製の重さ280g、底面40mm×50mmの角型重しの底面に電子写真式複写機用上質紙を貼り付け、紙が試料に接するようにして、毎秒1メートルの速さでシートの上を滑らせた。この操作を5回繰り返した後、試料中央部の摩擦帯電電位を静電気電位測定器(シシド静電気製スタチロン DZ3)を用いて測定した。
【0014】
表面抵抗および帯電電圧の減衰の測定
縦横40mmの試料を抵抗率計(ダイアインスツルメント製ハイレスタIP)によって、HRSプローブを使って表面抵抗を測定した後、静電気減衰測定器(シシド静電気製 スタチック・オネストメータ)を使い、印加電圧−10kVでコロナ放電させて発生した空気イオンを照射して帯電させた後に、30分後に減衰した帯電電圧を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0015】
実施例2−11
フルオロアルキルスルホン酸塩の添加量、および種類を変化させて実施例1と同様にして試料を調製し、実施例1と同様に、摩擦帯電電位、表面抵抗、減衰した帯電電圧を測定し、その結果を表1に示す。
【0016】
比較例1
フルオロアルキルスルホン酸塩を添加しなかった点を除き実施例1と同様の操作で摩擦帯電電位、表面抵抗、減衰した帯電電圧を測定し、その結果を表1に示す。
【0017】
実施例12および13
フッ素樹脂をテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(三井フロロデュポン製FEP5100J)に変えて、溶融、混合温度を350℃に変え、フルオロアルキルスルホン酸塩の添加量を表1の添加率に変えた以外の点は実施例1と同様の操作で摩擦帯電電位、表面抵抗、帯電電圧の減衰を測定し、その結果を表1に示す。
【0018】
比較例2
フルオロアルキルスルホン酸塩を添加しなかった点を除き実施例12と同様の操作で摩擦帯電電位、表面抵抗、帯電電圧の減衰を測定し、その結果を表1に示す。
【0019】
実施例14
フッ素樹脂をテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE:旭硝子製C−88AX)75gに変えて、溶融、混合温度を300℃に変え、フルオロアルキルスルホン酸塩の添加量を表1の添加率に変えた以外の点は実施例1と同様の操作で摩擦帯電電位、表面抵抗、帯電電圧の減衰を測定し、その結果を表1に示す。
【0020】
比較例3
フルオロアルキルスルホン酸塩を添加しなかった点を除き実施例14と同様の操作で摩擦帯電電位、表面抵抗、帯電電圧の減衰を測定し、その結果を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
実施例15
フッ素樹脂をテトラフルオロエチレン−フルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA:三井デュポンフロロケミカル製PFA450HP−J)100質量部とトリフルオロメタンスルホン酸リチウム0.2質量部とを、2軸押出機(池貝製PCM45)を使って、ニーディングディスクによる混練部温度380℃、スクリュー回転数70prmで混練した。
次いで、850mm幅のTダイを先端に取り付けた直径40mm押出機で、ダイの温度390℃で、厚さ50μm、幅600mmのフィルムを成形した。
【0023】
評価方法
得られたフィルムを縦横40mmの試料と、縦横110mmの試料に切断し、縦横110mmの試料を、実施例1に記載の測定方法とは、鉄製の錘を1kgの質量のものに変えた点を除いて同様にして摩擦帯電電位を測定し、その結果を表2に示す。
また、縦横40mmの試料は、実施例1に記載の測定方法と同様にして、帯電電圧の減衰を測定し、その結果を表2に示す。
縦10mm、横40mmに切断したフィルムを、分光光度計(島津製作所製 UV−1200)を使って500nmの光の透過率を測定し、その結果を表2に示す。
【0024】
実施例16および17
フルオロアルキルスルホン酸塩の添加量、および種類を変化させて実施例15と同様にして試料を調製し、実施例15と同様に、摩擦帯電電位、表面抵抗、減衰した帯電電圧、および光の透過率を測定し、その結果を表2に示す。
【0025】
比較例4
フルオロアルキルスルホン酸塩を添加しない点を除き実施例15と同様にフィルムを成形し、実施例15と同様にして、摩擦帯電電位、表面抵抗、帯電電圧減衰、光の透過率を測定した。
実施例15〜17、比較例4の結果を表2に記す。
【0026】
【表2】

【0027】
実施例18−21
テトラフルオロエチレン−フルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA:三井デュポンフロロケミカル製PFA451HP−J)100質量部に表3に記載のフルオロアルキルスルホン酸塩を混合して、2軸押出機(池貝製PCM45)によってニーディングディスクによる混練部温度380℃、スクリュー回転数70prmで混練し、このフッ素樹脂組成物を外層とし、熱可塑性フッ素樹脂(ダイキン工業製ネオフロンRAP)を内層に、外層の厚さが20μm、内層の厚さが10μmからなる2層で、外径が40mmのチューブを作製した。
【0028】
評価方法
得られたチューブを引き裂いてフィルム状にして、縦横40mmの試料と、縦横110mmの試料に切断した。縦横110mmの試料は、鉄製の錘を1kgの質量のものに変えた点以外は実施例1に記載の測定方法と同様にして摩擦帯電電位を測定し、その結果を表3に示す。
また、縦横40mmの試料は、実施例1に記載の測定方法と同様にして、帯電電圧の減衰を測定し、その結果を表3に示す。
【0029】
比較例5
フルオロアルキルスルホン酸塩を配合しなかった点を除いて実施例18と同様に試料を作製して実施例18に記載の評価方法と同様に評価をしその結果を表3に示す。
【0030】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のフッ素樹脂組成物は、表面抵抗、あるいは光の透過率を維持しつつ、摩擦帯電列を変化させ、摩擦帯電電位を減少させることができるので、摩擦帯電電位を低下した製品が求められる様々な分野においての使用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂とフルオロアルキルスルホン酸塩とを含有し、導電性粒子を含有しないことを特徴とするフッ素樹脂組成物。
【請求項2】
フルオロアルキルスルホン酸塩が、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、パーフルオロブタンスルホン酸リチウム、パーフルオロブタンスルホン酸カリウムからなる群から選ばれる少なくも一種であることを特徴とする請求項1記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項3】
フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン−フルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレンコポリマー(ECTFE)から選ばれる少なくとも一種の樹脂であることを特徴とする請求項1または2記載のフッ素樹脂組成物。

【公開番号】特開2008−222942(P2008−222942A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−66251(P2007−66251)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(000145530)株式会社潤工社 (71)
【Fターム(参考)】