説明

フライアッシュの膨張抑制剤、それを用いた水硬性組成物、及びそのフライアッシュ硬化体の製造方法

【課題】 本発明は、遊離石灰含有量の多いフライアッシュの膨張を効果的に抑制することが可能なフライアッシュの膨張抑制剤、それを用いた水硬性組成物、そのフライアッシュ硬化体の製造方法、及びそのフライアッシュ硬化体を提供する。
【解決手段】 チオ硫酸塩を含有するフライアッシュの膨張抑制剤であり、遊離石灰含有量が2%以上のフライアッシュと、刺激剤と、該フライアッシュの膨張抑制剤を含有する水硬性組成物であり、該水硬性組成物を水と混練し、振動締め固めを行いながら型枠に充填し、成形するフライアッシュ硬化体の製造方法であり、さらに、該水硬性組成物を用いて製造されたフライアッシュ硬化体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、土木・建築業界において使用されるフライアッシュの膨張抑制剤、それを用いた水硬性組成物、及びそのフライアッシュ硬化体の製造方法に関する。
【0002】
なお、本発明における部や%は特に規定しない限り質量基準で示す。
【背景技術】
【0003】
近年、フライアッシュを主成分としたフライアッシュ硬化体が知られている(特許文献1〜特許文献5等)。
このフライアッシュ硬化体は、漁礁ブロックなど海洋分野で使用されている。
【0004】
このフライアッシュ硬化体は、産業副産物であるフライアッシュを粉体の主成分とし、少量のセメントと、塩化物系の促進剤あるいは海水を配合し、水粉体比が20%程度の少ない水量で調製されるものである。このような配合で調製されたフライアッシュ硬化体は、フライアッシュを主成分とするにもかかわらず、実用強度を発現する。このため、フライアッシュの有効利用の観点から大きな期待が寄せられている。
【0005】
フライアッシュには、石炭灰と称されるものも含め、様々な素性のものが存在する。例えば、フライアッシュはJISも制定されており、この中で、I種からIV種までの種別がなされている。
一方、フライアッシュには前記JISに適合しないものも多く存在する。JIS適合品はコンクリート分野への適用が広く見込まれているが、JIS外品は未だに充分な用途が見出されておらず、廃棄処分されている場合も多く見受けられる。
【0006】
殊に、遊離石灰が著しい膨張性を呈するため、遊離石灰を多く含むフライアッシュの用途は全く見出されていない現状にある。例えば、遊離石灰含有量の多いフライアッシュを用いて硬化体を製造すると、膨張破壊を起してしまうという課題があった。
【0007】
今日では、JIS外品を用いてフライアッシュ硬化体の製造を試みる研究が活発に行われるようになっており、遊離石灰含有量の高いフライアッシュを用いても膨張破壊を起さないような技術の開発が強く求められている現状にある。
【0008】
そこで、本発明者は、前記課題を解決すべく、種々の努力を重ねた結果、特定の物質がフライアッシュの膨張抑制剤となり得ることを見出し、これを用いることで、遊離石灰含有量の多いフライアッシュを用いても膨張破壊を起さないフライアッシュ硬化体が得られることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0009】
【特許文献1】特開平06−099420号公報
【特許文献2】特開平09−012348号公報
【特許文献3】特開平11−011993号公報
【特許文献4】特開2000−247719号公報
【特許文献5】特開2000−256052号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、例えば、遊離石灰含有量が2%以上と多いフライアッシュの膨張を効果的に抑制することが可能なフライアッシュの膨張抑制剤を、それを用いた水硬性組成物を、そのフライアッシュ硬化体の製造方法を、並びに、そのフライアッシュ硬化体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、チオ硫酸塩を含有するフライアッシュの膨張抑制剤であり、チオ硫酸塩が、カルシウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩から選ばれる一種又は二種以上である該フライアッシュの膨張抑制剤であり、遊離石灰含有量が2%以上のフライアッシュと、刺激剤と、該フライアッシュの膨張抑制剤とを含有する水硬性組成物であり、遊離石灰含有量が2%以上のフライアッシュ100部に対して、刺激剤が1〜20部であり、フライアッシュの膨張抑制剤が0.1〜5部である水硬性組成物であり、該水硬性組成物と水とを混練し、振動締め固めを行いながら型枠に充填し、成形するフライアッシュ硬化体の製造方法であり、さらに、蒸気養生を行う該フライアッシュ硬化体の製造方法であり、該水硬性組成物を用いて製造されたフライアッシュ硬化体である。
【0012】
本発明に係るフライアッシュは、フライアッシュ、石炭灰、及びボトムアッシュなどと称されるものを総称するものであり特に限定されるものではないが、本発明では、遊離石灰含有量の多いフライアッシュの利用を目的としている。
フライアッシュの粉末度は特に限定されるものではないが、通常、ブレーン比表面積値(以下、ブレーン値という)で2,000〜9,000cm2/gが好ましく、2,500〜7,000cm2/gがより好ましく、3,000〜6,000cm2/gが最も好ましい。2,000cm2/g未満では強度発現が充分でない場合があり、9,000cm2/gを超えると型詰め性が低下する場合がある。
【0013】
ここで、遊離石灰とは、化合物や非晶質物質を形成していない酸化カルシウム(free-lime)を意味する。遊離石灰はJISで定量方法が規定されており、その方法に準じて求めることができる。
本発明は、殊に、遊離石灰含有量が2%以上のフライアッシュ(以下、本フライアッシュという)に関わるものである。これは、フライアッシュの遊離石灰含有量が2%以上となると、著しい膨張性を示すことによる。
【0014】
本発明に係るチオ硫酸塩は特に限定されるものではないが、その具体例としては、例えば、チオ硫酸カルシウム、チオ硫酸マグネシウム、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、及びチオ硫酸アンモニウム等を挙げることができる。中でも、チオ硫酸カルシウムやチオ硫酸アンモニウムの使用が膨張抑制の観点から好ましい。
【0015】
チオ硫酸塩の使用量は特に限定されるものではないが、通常、本フライアッシュ100部に対して、0.1〜5部が好ましく、0.5〜3部がより好ましい。0.1部未満では本フライアッシュの膨張抑制効果が充分でない場合があり、5部を超えて使用してもさらなる効果の増進が期待できない。
【0016】
本発明の刺激剤とは、フライアッシュのポゾラン反応を誘発する物質を総称するものであり特に限定されるものではない。その具体例としては、例えば、水酸化カルシウムや水酸化ナトリウムなどのアルカリ性物質のほか、各種セメントが使用できる。
【0017】
ここで、セメントとしては、普通、早強、超早強、低熱、及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、又はシリカを混合した各種混合セメント、都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰などを原料として製造された廃棄物利用セメント、いわゆるエコセメント(R)、並びに、石灰石粉末や高炉徐冷スラグ微粉末等を混合した各種フィラーセメントなどが挙げられ、これらのうちの一種又は二種以上が使用可能である。中でも、高炉セメントを使用することが、膨張抑制の観点から好ましく、特に、高炉スラグ配合量が多い、高炉セメントB種や高炉セメントC種がより好ましい。
【0018】
刺激剤の使用量は特に限定されるものではないが、通常、本フライアッシュ100部に対して、1〜20部が好ましく、3〜15部がより好ましい。1部未満では強度発現性が良好とならない場合があり、20部を超えて配合することは、フライアッシュを多量に利用するという本発明の目的から外れるので好ましくない。また、初期強度を確保しやすい反面、長期強度の伸びが小さくなる場合もある。
【0019】
水の使用量は特に限定されるものではないが、通常、本フライアッシュ、刺激剤、及びフライアッシュの膨張抑制剤からなる水硬性組成物と水との割合である水/水硬性組成物比で20〜30%が好ましく、20〜25%がより好ましい。20%未満では型枠への充填性を得ることが難しい場合があり、逆に30%を超えると強度発現性を確保することが困難になる場合がある。
【0020】
また、本発明では、水は真水のほかに、海水を利用することができ、強度発現性の観点から、また、漁礁ブロック等の海洋で利用するフライアッシュ硬化体を製造するにあたり、現場での製造が可能となる観点からも海水を利用することがむしろ好ましい。
【0021】
本発明では、本発明の水硬性組成物の他に、石灰石微粉末、高炉徐冷スラグ微粉末、下水汚泥焼却灰やその溶融スラグ、都市ゴミ焼却灰やその溶融スラグ、及びパルプスラッジ焼却灰等の混和材料、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤、防凍剤、収縮低減剤、ポリマー、各種の繊維物質、凝結調整剤、ベントナイト等の粘土鉱物、並びに、ハイドロタルサイトなどのアニオン交換体等のうちの一種又は二種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することが可能である。
【0022】
本発明において、各材料の混合方法は特に限定されるものではなく、それぞれの材料を施工時に混合しても良いし、あらかじめ一部を、あるいは全部を混合しておいても差し支えない。
【0023】
本発明の水硬性組成物と水の混練方法は特に限定されるものではないが、水/水硬性組成物比が小さいことより、水と水硬性組成物を攪拌機で混合した後、振動機によって強い振動を与えながら型枠に充填させることが好ましい。この方法により、水硬性組成物と混練する水とのなじみが良好となり、充分に攪拌したものと同等の混合効果が得られる。
【0024】
水硬性組成物と水の混練物を型枠に充填した後の養生方法は特に限定されるものではないが、蒸気養生を行うことが初期強度発現性を良好にして生産性を高める観点から好ましい。
蒸気養生条件は特に限定されるものではないが、所定の前置き時間を確保した後、10〜30℃/hrの昇温速度で蒸気をかけ、最高到達温度は50〜90℃が好ましく、最高到達温度での保持時間は1〜12時間が好ましい。各条件がこれらの範囲にないと、蒸気養生による初期強度発現性を良好にして生産性を高める効果が得られない場合や、得られるフライアッシュ硬化体の品質が悪くなる場合がある。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、遊離石灰含有量の多いフライアッシュの膨張を効果的に抑制することが可能なフライアッシュの膨張抑制剤を、それを用いた水硬性組成物を、そのフライアッシュ硬化体の製造方法、及びそのフライアッシュ硬化体を提供する。
【実施例1】
【0026】
表1に示す本フライアッシュ100部に対して、刺激剤a10部とチオ硫酸塩イ1部とを配合して水硬性組成物を調製した。
この水硬性組成物100部に対して、海水20部を配合して練り混ぜ、振動させながら型枠に充填した。型枠に充填してから2時間後から蒸気養生を行い、圧縮強度と膨張率を測定した。結果を表1に併記する。
蒸気養生条件は、昇温速度15℃/hr、最高到達温度65℃、及び最高到達温度での保持時間は4時間とした。
比較のために、チオ硫酸塩を使用しなかった場合についても同様に行った。結果を表1に併記する。
【0027】
<使用材料>
本フライアッシュA:遊離石灰含有量2%、ブレーン値4,000cm2/g
本フライアッシュB:遊離石灰含有量5%、ブレーン値4,000cm2/g
本フライアッシュC:遊離石灰含有量8%、ブレーン値4,000cm2/g
刺激剤a :普通ポルトランドセメント、市販品
チオ硫酸塩イ:チオ硫酸カルシウム、市販品
海水 :新潟県青海町姫川漁港から汲んだもの
【0028】
<測定方法>
圧縮強度 :5cmφ×10cmの円筒供試体を作製して測定
膨張率 :5cmφ×10cmの円筒供試体を作製し、上面に白マジックで失透させたガラス板を置き、レーザーセンサーにて上面の浮き沈みを計測することによって膨張率を測定。膨張反応が収束した材齢5日の膨張率で表した。
【0029】
【表1】

【実施例2】
【0030】
本フライアッシュCを使用し、フライアッシュ100部に対して、表2に示すチオ硫酸塩を用いたこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表2に併記する。
【0031】
<使用材料>
チオ硫酸塩ロ:チオ硫酸ナトリウム、市販品
チオ硫酸塩ハ:チオ硫酸カリウム、市販品
チオ硫酸塩ニ:チオ硫酸アンモニウム、市販品
チオ硫酸塩ホ:チオ硫酸マグネシウム、市販品
チオ硫酸塩ヘ:チオ硫酸塩イとチオ硫酸塩ニの等量混合物
【0032】
【表2】

【実施例3】
【0033】
本フライアッシュCを使用し、表3に示す刺激剤を使用したこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表3に併記する。
【0034】
<使用材料>
刺激剤b :水酸化カルシウム、市販品
刺激剤c :高炉セメントB種、市販品
刺激剤d :高炉セメントC種、市販品
【0035】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のフライアッシュの膨張抑制剤は、遊離石灰含有量の高いフライアッシュの膨張を効果的に抑制することができるので、遊離石灰含有量の高いフライアッシュを用いても、膨張を示さない、品質の高いフライアッシュ硬化体を製造可能な水硬性組成物を得ることができる。このため、遊離石灰含有量の高いフライアシュの有効利用にもつながり、フライアッシュ硬化体やその製造方法に広範に適用でき、漁礁ブロックなどの海洋で利用されるフライアッシュ硬化体に適する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオ硫酸塩を含有するフライアッシュの膨張抑制剤。
【請求項2】
チオ硫酸塩が、カルシウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、及びアンモニウム塩からなる群より選ばれる一種又は二種以上であることを特徴とする請求項1に記載のフライアッシュの膨張抑制剤。
【請求項3】
遊離石灰含有量が2%以上のフライアッシュ、刺激剤、及び請求項1又は請求項2に記載のフライアッシュの膨張抑制剤を含有する水硬性組成物。
【請求項4】
遊離石灰含有量が2%以上のフライアッシュ100部に対して、刺激剤が1〜20部、フライアッシュの膨張抑制剤が0.1〜5部であることを特徴とする請求項3に記載の水硬性組成物。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載の水硬性組成物と水とを混練し、振動締め固めを行いながら型枠に充填し、成形することを特徴とするフライアッシュ硬化体の製造方法。
【請求項6】
混練する水として海水を用いることを特徴とする請求項5に記載のフライアッシュ硬化体の製造方法。
【請求項7】
蒸気養生を行うことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のフライアッシュ硬化体の製造方法。
【請求項8】
請求項5〜請求項7のうちの一項に記載のフライアッシュ硬化体の製造方法で製造されたフライアッシュ硬化体。

【公開番号】特開2006−104019(P2006−104019A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−293200(P2004−293200)
【出願日】平成16年10月6日(2004.10.6)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】