説明

フライ用油脂組成物の製造方法

【課題】フライ中に生成する極性化合物量が抑制された、安定性の良いフライ用油脂組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】食用油脂に、総トコフェロールに対するd−α−トコフェロールの比率が3質量%以下である抽出トコフェロールを総トコフェロール量として800〜10000ppm添加することを特徴とするフライ用油脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライ用油脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フライ油は高温で加熱して使用されることから品質劣化が進み易く、着色、加水分解による酸価の上昇、酸化による過酸化脂質の生成などが問題となっている。とりわけ油脂の酸化によって生成する過酸化脂質は人体に悪影響を及ぼすと考えられていることから、安定性の良いフライ油が強く求められている。
【0003】
従来、品質劣化が抑制されたフライ油として、多価不飽和脂肪酸量に対する1価不飽和脂肪酸量の重量比が2.0以上、かつヨウ素価50−110の油脂を、酸価0.03以下、かつγ−トコフェノール含量300ppm以上に精製することを特徴とするフライ安定性の良い油脂(特許文献1参照)、トコフェロールを油脂に溶解し、このトコフェロール含有油脂100重量部に対して、融剤を加えて焼成したケイソウ土1〜100重量部を接触させることからなるトコフェロールの抗酸化性改良法によって処理されたトコフェロール含有する食用油脂(特許文献2参照)などが知られており、その安定性は酸価や過酸化物価を指標として評価されてきた。
【0004】
一方、EU主要国では、近年フライ油の劣化の指標として「極性化合物量」を基準にした法規制が実施されている。しかし、従来の技術は、フライ中に生成する極性化合物量を抑制する手段について何も教示していない。
【0005】
【特許文献1】特開2001−31985号公報
【特許文献2】特開平11−152491号公報、請求項7
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、フライ中に生成する極性化合物量が抑制された、安定性の良いフライ用油脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討を行った結果、食用油脂に対して、総トコフェロールに対するd−α−トコフェロールの比率が3質量%以下である抽出トコフェロールを、総トコフェロール量として高濃度で添加することにより目的に叶うフライ用油脂組成物が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を成すに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、食用油脂に、総トコフェロールに対するd−α−トコフェロールの比率が3質量%以下である抽出トコフェロールを総トコフェロール量として800〜10000ppm添加することを特徴とするフライ用油脂組成物の製造方法、から成っている。
【発明の効果】
【0009】
本発明のフライ用油脂組成物は劣化が遅く、従来のフライ油に比べて長時間使用することができる。
本発明のフライ用油脂組成物を使用することにより、フライ食品の製造コストを大幅に下げることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で用いられる食用油脂としては、食用可能な油脂であれば特に制限はなく、例えば、オリーブ油、ごま油、こめ油、サフラワー油、大豆油、とうもろこし油、なたね油、パーム油、パームオレイン、パーム核油、ひまわり油、ぶどう油、綿実油、やし油、落花生油などの植物油脂、牛脂、ラード、乳脂及び魚油などの動物油脂、さらに、これら動植物油脂を分別、水素添加またはエステル交換したもの等が挙げられる。
【0011】
本発明で用いられる抽出トコフェロールとしては、植物油が精製される過程で副生する脱臭留出物(例えば脱臭スカム、脱臭スラッジ又はホットウエル油など)から回収されるトコフェロールであれば特に制限はなく、例えば、キャノーラ油、ごま油、米ぬか油、サフラワー油、大豆油、とうもろこし油、なたね油、パーム油、ひまわり油、綿実油及び落花生油等の脱臭留出物から分離・精製して得られる、d−α−、d−β−、d−γ−及びd−δ−トコフェロール並びにトコフェロールの同族体であるd−α−、d−β−、d−γ−及びd−δ−トコトリエノール等を含む混合物が挙げられる。
【0012】
本発明で言うところの総トコフェロールとは、d−α−、d−β−、d−γ−及びd−δ−トコフェロールの4種類のトコフェロールを指す。また、総トコフェロール含量は、「第7版 食品添加物公定書」(日本食品添加物協会)の「d−α−トコフェロール」の純度試験に記載された定量法に準じて測定される。
【0013】
本発明で用いられる抽出トコフェロール中の総トコフェロール含量に特に制限はないが、約40質量%以上であることが好ましい。
【0014】
本発明で用いられる抽出トコフェロールの総トコフェロールに対するd−α−トコフェロールの比率は約3質量%以下であることが好ましい。該比率は、「第7版 食品添加物公定書」(日本食品添加物協会)の「d−α−トコフェロール」の純度試験に記載された定量法に準じて測定される。当該抽出トコフェロールとしては、例えば、理研Eオイルスーパー60、理研Eオイルスーパー80、理研Eオイルゴールド80−5(商品名;理研ビタミン社製)等が挙げられる。
【0015】
本発明のフライ用油脂組成物は、食用油脂に抽出トコフェロールを添加し、約60℃に加熱して溶解することより製造することができる。食用油脂に対する抽出トコフェロールの添加量は、総トコフェロール量として約800〜10000ppm、好ましくは約1200〜5000ppmである。総トコフェロール量として800ppmに満たない添加量では、高温加熱下での油脂の劣化を充分抑制することは出来ず、一方10000ppmを越える添加量では、高温加熱時に油脂の色調が悪くなり好ましくない。
【0016】
本発明のフライ用油脂組成物には、所望により、L−アスコルビン酸脂肪酸エステル、カテキンおよび没食子酸等の酸化防止剤、シリコーン樹脂等を併用しても良い。
【0017】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0018】
[フライ用油脂組成物の製造]
(1)フライ用油脂組成物の原材料
1)パーム油(商品名:食用パーム油;ミヨシ油脂社製)
2)抽出トコフェロールA(商品名:理研Eオイルスーパー60;理研ビタミン社製、総トコフェロール含量約54質量%、総トコフェロールに対するd−α−トコフェロールの比率約2質量%)
3)抽出トコフェロールB(商品名:理研Eオイル600;;理研ビタミン社製、総トコフェロール含量約58質量%、総トコフェロールに対するd−α−トコフェロールの比率約10質量%)
【0019】
(2)フライ用油脂組成物の配合
上記原材料を用いて作製したフライ用油脂組成物(試料1〜7)の配合組成を表1に示した。この内、試料1〜3は本発明に係る実施例、試料4〜6はそれらに対する比較例であり、試料7は対照(抽出トコフェロール無添加)である。
【0020】
【表1】

【0021】
(3)フライ用油脂組成物の作製
2L容ステンレス製ビーカーに、パーム油1200gと表1に示した配合に従い抽出トコフェロールを入れ、約60℃に加熱して溶解しフライ用油脂組成物(試料1〜6)を作製した。
【0022】
[フライ用油脂組成物の安定性評価]
(1)フライテスト
電気フライヤー(型式:EP−D692SI;ツインバード工業社製)にフライ用油脂組成物(試料1〜7)を1kg入れ、180〜190℃に加熱し、そこに市販の冷凍フライドポテト(商品名:シューストリング;ハインツ日本社製)50gを入れて約3分間フライした。最初のフライ終了後、油温の回復を待って2回目のフライを行い、以後この作業を1時間に8回のペースで、連続して8時間実施した。
【0023】
(2)極性化合物量の測定
フライテストに使用した油脂組成物を、加熱前並びにフライ開始から3時間後、5時間後及び8時間後に適量(約5g)サンプリングし、フライ油劣化測定器(商品名:PCテスター;住友スリーエム社製)を用いて極性化合物量を測定した。結果を表2に示した。
【0024】
【表2】

【0025】
EU主要国においては、フライ油の「極性化合物量」を概ね25%以下とする法規制が実施されている。これに照らすと、実施例の油脂組成物(試料1〜3)は、フライ開始後8時間でも「極性化合物量」は基準値以下であり、十分使用可能の状態であることが分かる。一方、比較例の油脂組成物(試料4〜6)は、フライ開始後8時間で「極性化合物量」は一応基準値以下であるが、恐らく後1時間程度で使用不可となるであろうことが十分予想される。また対照の油脂組成物(試料7)は、フライ開始後8時間で既に「極性化合物量」が基準値を超え、使用不可の状態となっている。
【実施例2】
【0026】
[フライ用油脂組成物の製造]
(1)フライ用油脂組成物の原材料
1)パーム油(商品名:食用パーム油;ミヨシ油脂社製)
2)抽出トコフェロールA(商品名:理研Eオイルスーパー60;理研ビタミン社製、総トコフェロール量約54質量%、総トコフェロールに対するd−α−トコフェロールの比率約2質量)
(2)フライ用油脂組成物の配合
上記原材料を用いて作製したフライ用油脂組成物(試料8〜12)の配合組成を表3に示した。この内、試料8〜10は本発明に係る実施例、試料11はそれらに対する比較例であり、試料12は対照(抽出トコフェロール無添加)である。
【0027】
【表3】

【0028】
(3)フライ用油脂組成物の作製
200ml容ビーカーに、パーム油100gと表3に示した配合に従い抽出トコフェロールを入れ、 約60℃に加熱して溶解しフライ用油脂組成物(試料8〜11)を作製した。

[フライ用油脂組成物の安定性評価]
(1)加熱着色テスト
油脂安定性試験装置(装置名:ランシマット743型;メトローム社製)使用。規定の試験管にフライ用油脂組成物(試料8〜12)各10gを入れ、温度180℃、通気量7L/hの条件で2時間加熱した。
(2)着色度測定
「基準油脂分析試験法2003年版」(日本油化学会)の「2.2.1.3_1996 色(ガードナー法)」に準じて、(1)で加熱処理したフライ用油脂組成物(試料8〜12)の色を測定した。結果を表4に示した。
【0029】
【表4】

【0030】
実施例の油脂組成物(試料8〜10)の色は対照(試料12)のそれと殆ど変わらなかった。これに対して、比較例の油脂組成物(試料11)は赤味が増し、明らかに着色が進んでいた。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のフライ用油脂組成物は、即席油揚げ麺、スナック菓子、ドーナツ、揚げパン、油揚げ、厚揚げ、がんもどき、さつま揚げ、はんぺん、とんかつ、コロッケ、鶏の唐揚げ、天ぷら等の揚げ油として好ましく用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用油脂に、総トコフェロールに対するd−α−トコフェロールの比率が3質量%以下である抽出トコフェロールを総トコフェロール量として800〜10000ppm添加することを特徴とするフライ用油脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2008−54669(P2008−54669A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−195864(P2007−195864)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(390010674)理研ビタミン株式会社 (236)
【Fターム(参考)】