説明

フラックス組成物及びブレージングシート

【課題】マグネシウムを含有するアルミニウム合金材のろう付けに用いた際、高融点化合物の形成を抑制し、少ない塗布量であっても濡れ性を向上させることで、ろう付け性を高めることができるフラックス組成物、及びこのフラックス組成物を用いたブレージングシートを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、マグネシウムを含有するアルミニウム合金材のろう付けに用いられるフラックス組成物であって、[A]フッ化物を主成分とするフラックス成分と、[B]CeF、BaF及びZnSOからなる群より選択される1種以上の添加剤とを含有することを特徴とする。上記[A]フラックス成分がKF及びAlFを含み、[A]フラックス成分中のKFの含有量が40質量%以上60質量%以下、AlFの含有量が40質量%以上60質量%以下であるとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウムを含有するアルミニウム合金材のろう付けに用いられるフラックス組成物、及びこのフラックス組成物を用いたブレージングシートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に対する関心が高まっており、例えば自動車業界においても燃費向上等を目的とした軽量化が進んでいる。この軽量化のニーズに対応し、自動車の熱交換器用アルミクラッド材(ブレージングシート)の薄肉化及び高強度化の検討が盛んに行われている。上記ブレージングシートとしては、犠性材(例えばAl−Zn系)、芯材(例えばAl−Si−Mn−Cu系)及びろう材(例えばAl−Si系)の順からなる三層構造を有するものが一般的であり、高強度化を図るべく、上記芯材へマグネシウム(Mg)添加、つまりMgSi析出による強化の検討が進められている。
【0003】
また、熱交換器等の組み立ての際のブレージングシートの接合には、フラックスろう付け法が広く採用されている。このフラックスとは、ろう付け性を高めるものであり、一般的にAlFとKFとを混合してなるものが用いられている。
【0004】
しかし、Mgを含有するアルミニウム合金からなる芯材を備えるブレージングシートは、上記フラックスを用いた場合、ろう付け性を阻害するという不都合がある。この原因はろう付けのための加熱時に、芯材中のMgがろう材表面のフラックス中へ拡散し、このMgとフラックス成分とが反応して高融点化合物(KMgF及びMgF等)が形成されることでフラックス成分が消費され、アルミニウム合金に対するフラックスの濡れ性(ろう付け時の拡がり性)が低下するためといわれている。このため、Mg含有Al合金用のフラックス組成物の開発が自動車用の熱交換器等の軽量化を進めるために必要とされている。
【0005】
このような中、Mg含有アルミニウム合金を芯材とするブレージングシートのろう付け性を向上させるフラックス組成物として、従来のフラックス成分に(1)CsFを添加したもの(特開昭61−162295号公報参照)や、(2)CaF、NaF又はLiFを添加したもの(特開昭61−99569号公報及び特開昭57−68297号公報参照)が検討されている。
【0006】
しかし、上記(1)のCsFが添加されたフラックス組成物は、Csが非常に高価であるため、大量生産等には不向きであり、実用性が低い。一方、上記(2)のCaF等が添加されたフラックス組成物によれば、フラックスを低融点化させ、フラックスの濡れ性が向上するとされているものの、フラックスの濡れ性はその塗布量に応じて変化するにもかかわらず、上記各公報においては、フラックスの塗布量についての検討は記載されていない。従ってCaF等が添加されたフラックス組成物を用いた場合、十分な濡れ性を発現させるために塗布量が増加し、コストアップとなることが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−162295号公報
【特許文献2】特開昭61−99569号公報
【特許文献3】特開昭57−68297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の事情に基づいてなされたものであり、マグネシウムを含有するアルミニウム合金材のろう付けに用いた際、高融点化合物の形成を抑制し、少ない塗布量であっても濡れ性を向上させることができ、その結果、ろう付け性を高めることができるフラックス組成物、及びこのフラックス組成物を用いたブレージングシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた発明は、
マグネシウムを含有するアルミニウム合金材のろう付けに用いられるフラックス組成物であって、
[A]フッ化物を主成分とするフラックス成分と、
[B]CeF、BaF及びZnSOからなる群より選択される1種以上の添加剤と
を含有することを特徴とする。
【0010】
当該フラックスによれば、少ない塗布量(付着量)によっても、[B]添加剤が高融点化合物の形成を抑制することができるため、濡れ性が向上し、その結果、ろう付け性を高めることができる。
【0011】
上記[A]フラックス成分がKF及びAlFを含み、[A]フラックス成分中のKFの含有量が40質量%以上60質量%以下、AlFの含有量が40質量%以上60質量%以下であるとよい。[A]フラックス成分を上記組成とすることで、当該フラックス組成物の融点を好ましい範囲に下げることができ、濡れ性を高めることができる。
【0012】
[B]添加剤の[A]フラックス成分100質量部に対する含有量が、1質量部以上300質量部以下であるとよい。[B]添加剤の含有量を上記範囲とすることで、より優れた濡れ性と接合後のろう付け部の強度とを両立させることができる。
【0013】
本発明のブレージングシートは、
マグネシウムを含有するアルミニウム合金からなる芯材と、
この芯材の少なくとも一方の面に積層されるろう材と、
このろう材の表面に積層され、上記フラックス組成物からなるフラックス層と
を備える。
【0014】
当該ブレージングシートは、ろう材の表面に上記フラックス組成物からなるフラックス層をさらに備えるため、ろう付けの際、芯材中のマグネシウムに由来する高融点化合物の形成を抑制することができる。従って、当該ブレージングシートによれば、ろう付け性を高めることができる。
【0015】
上記フラックス層におけるフラックス組成物の積層量としては、0.5g/m以上100g/m以下が好ましい。当該ブレージングシートによれば、フラックス組成物の使用量を上記範囲の少ない範囲としており、優れたろう付け性を発揮しつつ製造コストを抑えることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明のフラックス組成物によれば、高融点化合物の形成を抑制し、マグネシウムを含有するアルミニウム合金材上のフラックスの濡れ性を向上させることで、少ない塗布量であってもろう付け性を高めることができる。本発明のブレージングシートは、上記フラックス組成物が用いられているため、ろう付け性が高い。従って、本発明のブレージングシートによりろう付けされた構造体は、マグネシウムを含有するアルミニウム合金材を用いた構造体として、高い強度と軽量化とを両立させることができ、例えば自動車の熱交換器等として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例の評価結果をまとめたグラフである。
【図2】実施例12で得られたフラックス組成物をMg含有Al合金上で加熱した後の状態を写したSEM写真である。
【図3】比較例1のフラックス組成物をMg含有Al合金上で加熱した後の状態を写したSEM写真である。
【図4】実施例13で得られたフラックス組成物をMg含有Al合金上で加熱した前後の状態を重ねて写したEPMA写真である。
【図5】比較例1のフラックス組成物をMg含有Al合金上で加熱した前後の状態を重ねて写したEPMA写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のフラックス組成物、及びブレージングシートの実施の形態について、順に詳説する。
〔フラックス組成物〕
本発明のフラックス組成物は、マグネシウムを含有するアルミニウム合金材のろう付けに用いられる。当該フラックス組成物は、[A]フッ化物を主成分とするフラックス成分と、[B]CeF、BaF及びZnSOからなる群より選択される1種以上の添加剤とを含有する。当該フラックス組成物によれば、少ない塗布量(付着量)によっても、[B]添加剤が高融点化合物の形成を抑制することができるため、濡れ性が向上し、その結果、ろう付け性を高めることができる。以下、各成分について説明する。
【0019】
[A]フラックス成分
[A]フラックス成分は、フッ化物を主成分とする公知のろう付け用のフラックス成分であり、その組成は特に限定されない。上記[A]フラックス成分中のフッ化物としては、KF(フッ化カリウム)や、AlF(フッ化アルミニウム)、これらの化合物から形成されるKAlF(KF及びAlFからなる化合物)や、KAlF等を挙げることができる。この[A]フラックス成分は、ろう付け時の加熱昇温過程において、ろう材の成分より先に溶融し、アルミニウム合金材表面の酸化膜を除去し、また、アルミニウム合金材表面を覆ってアルミニウムの再酸化を防止する機能を発揮する。
【0020】
この[A]フラックス成分としては、KF及びAlFからなることが好ましい。[A]フラックス成分として、KF及びAlFからなり、所定の配合比にすることで、当該フラックス組成物の融点を好ましい範囲に下げることができる。
【0021】
[A]フラックス成分として、KF及びAlFを含む際、[A]フラックス成分中のKFの含有量が40質量%以上60質量%以下、AlFの含有量が40質量%以上60質量%以下であることがさらに好ましい。[A]フラックス成分を上記組成とすることで当該フラックス組成物の融点をより好ましい範囲に効果的に下げることができ、濡れ性を高めることができる。KF及びAlFの含有量が上記範囲外となると、融点が上昇し、その結果、ろう付け性が低下するおそれがある。
【0022】
[B]添加剤
[B]添加剤は、CeF(フッ化セリウム)、BaF(フッ化バリウム)及びZnSO(硫酸亜鉛)からなる群より選択される少なくとも1種である。これらの[B]添加剤は、アルミニウム合金材中のマグネシウムと[A]フラックス成分とが反応して生じる高融点化合物(KMgF及びMgF等)の形成を抑制する。従って、当該フラックス組成物によれば、ろう付けの際、マグネシウムを含有するアルミニウム合金材上のフラックスの濡れ性を向上させ、その結果、ろう付け性を高めることができる。
【0023】
この[B]添加剤が、上記高融点化合物の形成を抑制し、その結果、濡れ性を高めることができる理由は定かではないが、例えば以下のような理由が考えられる。[B]添加剤とマグネシウムとが優先的に反応し、上記高融点化合物以外の化合物を形成し、加えて、この反応のため、従来のフラックス成分([A]フラックス成分)の消費が抑えられ、濡れ性が向上することが考えられる。
【0024】
[B]添加剤の含有量の上限としては特に限定されないが、[A]フラックス成分100質量部に対して、300質量部が好ましく、100質量部がさらに好ましい。[B]添加剤の含有量が上記上限を超えると、相対的に[A]フラックス成分の含有量が低下し、濡れ性(拡がり性)が低下する場合がある。さらに、この上限としては[B]添加剤がCeFの場合は80質量部、BaFの場合は40質量部とすることが、ろう付け性及び経済性の両立を図ることができる点からより好ましい。
【0025】
一方、[B]添加剤の含有量の下限も特に限定されないが、十分な濡れ性(拡がり性)を発揮させる点から[A]フラックス成分100質量部に対して、1質量部が好ましく、10質量部がさらに好ましい。ここで、上記含有量は、[B]添加剤として複数の化合物を用いた場合は、複数の添加剤の合計の含有量である。
【0026】
なお、当該フラックス組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で[A]フラックス成分及び[B]添加剤以外の成分が含有されていてもよい。
【0027】
当該フラックス組成物の製造方法としては特に限定されず、[A]フラックス成分と[B]添加剤とを適当な割合で混合する方法を挙げることができる。この混合の方法としては、例えばそれぞれ粉末状の成分を混合し、ルツボ等で加熱溶融した後、冷却し固形状又は粉末状のフラックス組成物として得る方法や、それぞれ粉末状の成分を水等の溶媒中に懸濁させペースト状又はスラリー状のフラックス組成物として得る方法などを挙げることができる。
【0028】
当該フラックス組成物によってろう付けされるアルミニウム合金材は、マグネシウムを含有するアルミニウム合金であれば特に限定されず、アルミニウム合金のみからなる材料や、アルミニウム合金材からなる層と他の材料からなる層とを備える多層複合材料(ブレージングシート等)であってもよい。
【0029】
上記アルミニウム合金材(アルミニウム合金)中のマグネシウム含有量の上限としては、1.5質量%が好ましく、1.0質量%がさらに好ましく、0.5質量%が特に好ましい。マグネシウム含有量が上記上限を超えると、当該フラックス組成物のろう付け性を十分に発揮させることができない場合がある。なお、上記アルミニウム合金材(アルミニウム合金)中のマグネシウム含有量の下限としては特に限定されず、例えば0.01質量%である。
【0030】
なお、当該フラックス組成物は、マグネシウムを含有しないアルミニウム合金材のろう付けにも用いることができる。また、マグネシウムを含有しないアルミニウム合金を芯材とするブレージングシートのフラックス層にも用いることができる。
【0031】
〔ブレージングシート〕
本発明のブレージングシートは、マグネシウムを含有するアルミニウム合金からなる芯材と、この芯材の少なくとも一方の面に積層されるろう材と、このろう材の表面に積層され、上記フラックス組成物からなるフラックス層とを備えるブレージングシートである。なお、当該ブレージングシートにおける芯材とろう材との層構造としては、ろう材/芯材/ろう材(三層両面ろう材)や、ろう材/芯材/中間層/ろう材(四層材)などの三層以上の構造を有するものも含む。
【0032】
当該ブレージングシートは、ろう材の表面に上記フラックス組成物からなるフラックス層をさらに備えるため、ろう付けの際、芯材中のマグネシウムに由来する高融点化合物の形成を抑制することができる。従って、当該ブレージングシートによれば、ろう付け性を高めることができる。
【0033】
上記芯材は、マグネシウム含有アルミニウム合金であれば特に限定されない。この芯材中のマグネシウムの含有量としては、上記アルミニウム合金材として説明した範囲であることが好ましい。
【0034】
上記ろう材は特に限定されず、公知のものを用いることができる。好ましいろう材としては、[A]フラックス成分の融点より約10〜100℃高い融点を有するものが好ましく、例えばAl−Si合金を挙げることができ、より好適には、Si含有量が5質量部以上15質量部以下であるAl−Si合金を挙げることができる。これらのAl−Si合金(ろう材)には、ZnやCuなどの他の成分が含有されていてもよい。
【0035】
上記フラックス層は上記フラックス組成物からなる層である。このフラックス層の形成方法としては特に限定されないが、例えばフラックス組成物を水等の溶媒に懸濁させた懸濁液(スラリー状又はペースト状であってもよい)をろう材表面へ塗布する方法等を挙げることができる。
【0036】
上記フラックス層におけるフラックス組成物の積層量の下限としては特に限定されないが、0.5g/mが好ましく、1g/mがさらに好ましい。フラックス組成物の積層量を上記下限以上とすることで、十分な濡れ性(拡がり性)を発揮させることができる。一方、フラックス組成物の積層量の上限としては、100g/mが好ましく、60g/mがより好ましく、20g/mがさらに好ましく、10g/mが特に好ましい。フラックス組成物の積層量を上記上限以下とすることで、ろう付けに必要な濡れ性(拡がり性)を維持しつつ、フラックス組成物の使用量を抑え、コストの低減を達成することができる。
【0037】
当該ブレージングシートの芯材等、サイズは特に限定されず、公知のサイズを適用することができる。また、当該ブレージングシートの製造方法も特に限定されず、公知の方法で製造することができる。
【0038】
当該ブレージングシートは、上記芯材の他方の面に積層され、芯材より電位が卑な犠牲材をさらに備えるとよい。当該ブレージングシートが犠牲材を有する場合、耐食性をより高めることができる。
【0039】
上記犠牲材の材質としては、芯材より電位が卑であるものであれば特に限定されないが、例えば、Al含有量が1〜5質量%のAl−Zn系合金や、Si含有量が0.5〜1.1質量%、Mn含有量が2.0質量%以下、Zn含有量が0.6〜2.0質量%であるAl合金等を挙げることができる。
【0040】
〔ろう付け方法〕
本発明のフラックス組成物を用いたろう付け方法は、ろう材を用いたマグネシウムを含有するアルミニウム合金材のろう付け方法である。このろう付け方法と当該フラックス組成物を組み合わせることで、少ない塗布量(付着量)であってもろう付け性に優れ、その結果、経済性に優れたろう付けを行うことができる。
【0041】
当該ろう付け方法に用いられるろう材としては、上述したブレージングシートに積層されるろう材として例示したものを挙げることができる。
【0042】
上記フラックス組成物のろう付け部分への付着方法としては特に限定されず、フラックスを水等の溶媒に懸濁させた懸濁液(スラリー状又はペースト状であってもよい)をろう付け部分へ塗布したり、懸濁液にろう付け部分を浸漬したりする方法を挙げることができる。
【0043】
上記フラックス組成物のろう付け部分への付着量(固形分換算)の下限は、0.5g/mが好ましく、1g/mがさらに好ましい。フラックス組成物の付着量を上記下限以上とすることで、十分な濡れ性(拡がり性)を発揮させることができる。一方、フラックス組成物の付着量の上限は、100g/mが好ましく、60g/mがより好ましく、20g/mがさらに好ましく、10g/mが特に好ましい。フラックス組成物の付着量を上記上限以下とすることで、ろう付けに必要な濡れ性(拡がり性)を維持しつつ、フラックス組成物の使用量を抑え、コストの低減を達成することができる。
【0044】
ろう付け部分へ懸濁液としてのフラックス組成物を付着させた後は、通常ろう付け部分を乾燥させる。その後、芯材のアルミニウム合金の融点より低くかつフラックスの融点より高い温度(例えば580℃以上615℃以下)で加熱することにより、フラックス及びろう材を溶融させて、ろう付けを行うことができる。
【0045】
なお、加熱の際の昇温速度としては、10〜100℃/min程度である。また、加熱時間は、特に限定はされないが、ろう付け性を阻害するMgの拡散量を低減するためには短い方が好ましい。加熱時間は、例えば5〜20分程度である。
【0046】
また、上記加熱の際は公知の環境条件とすればよく、好ましくは不活性ガス雰囲気等の非酸化性雰囲気中で行うことが好ましい。この加熱の際の酸素濃度としては、酸化を抑制する観点から1,000ppm以下が好ましく、400ppm以下がさらに好ましい。また、この加熱の際の環境の露点としては、−35℃以下であることが好ましい。
【0047】
なお、本発明のフラックス組成物を用いたろう付け方法としては、上記ブレージングシートを公知の方法でろう付けする方法も挙げられる。このブレージングシートをろう付けする際の加熱条件(温度、昇温速度、酸素濃度等)等は、上述のろう付け方法として記載した条件を挙げることができる。
【0048】
〔構造体〕
上記ブレージングシートのろう付け、又は、上記ろう付け方法により形成される構造体は、マグネシウムを含有するアルミニウム合金材が、上記フラックス組成物を用い、一旦溶融・凝固してろう付けされているため、ろう付け部分が強固に接合されている。従って、当該構造体は、マグネシウムを含有するアルミニウム合金材を用いた構造体として高い強度と軽量化とを両立させることができる。
【0049】
なお、当該構造体は、全てが上記ブレージングシートから形成されていなくてもよく、他の材料が使用されている部分があってもよい。また、他のフラックス組成物を用いてろう付けされた部分があってもよい。
【0050】
当該構造体としては具体的には、ラジエータ、エバポレータ、コンデンサ等の自動車用熱交換器等を挙げることができる。このような熱交換器は、マグネシウムを含有するアルミニウム合金材(芯材)を備えるブレージングシートが用いられていることで高強度化及び薄肉化が図られており、また、本発明のフラックス組成物が用いられているため、ろう付け性に優れ、強固にろう付けされている。
【実施例】
【0051】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
〔実施例1〕
KFとAlFとを1:1の質量比で混合することで[A]フラックス組成物を得た。この[A]フラックス組成物100質量部に対し、[B]添加剤としてBaF20質量部を加えて、混合することで実施例1のフラックス組成物を得た。
【0053】
〔実施例2〜11〕
[B]添加剤を表1に示す種類及び含有量(質量部)としたこと以外は、実施例1と同様の調製を行い実施例2〜11のフラックス組成物を得た。
【0054】
〔評価〕
100mLのイオン交換水に、得られた各フラックス組成物を0.04g配合し、懸濁させることでフラックス組成物を含有する懸濁液とした。直径20mmの板状Al−Mg合金(Mg含有量0.6質量%)の中心部に、上記懸濁液をフラックス組成物が直径5mmとなるように滴下し、乾燥させた。なお、フラックス組成物の付着前後で板状合金の質量を測定し、フラックス組成物付着量(固形分)が1〜10g/mとなるように滴下量を調整した。その後、フラックス組成物を付着させた板状合金を、露点−40℃、酸素濃度100ppm以下の雰囲気下、600℃で10分加熱した。600℃に到達するまでの昇温速度は50℃/minとした。
加熱前後の各板状合金表面に対し電子線マイクロアナライザ(EPMA)にてフッ素の元素マッピングを行い、加熱によるフラックス組成物の拡がり性(濡れ性)の評価として下記式にて拡がり率を算出した。
拡がり率(%)=100×(加熱後のフッ素存在領域の直径)/(加熱前のフッ素存在領域の直径)−100
【0055】
なお、比較例1〜3として、[B]添加剤を含有しない[A]フラックス成分のみのフラックス組成物についても同様の評価を行った。拡がり率の結果を表1及び図1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
フラックス組成物の付着量(塗布量)を増加させると拡がり率が向上するため、[B]添加剤を含有させた効果については、同一の付着量によって拡がり性が向上したものが、効果があると判断することが適当である。表1及び図1に示されるように、実施例1〜11の本発明のフラックス組成物は、比較例1〜3のフラックス組成物と同一の付着量で比較すると、何れも拡がり性が向上していることがわかる。
【0058】
〔実施例12〕
[B]添加剤としてBaF30質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様の調整を行い、実施例12のフラックス組成物を得た。この実施例12で得られたフラックス組成物を用いて上記評価の方法と同様に板状合金の加熱を行い、冷却後、表面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察した。この観察画像を図2に示す。また、比較例1の[A]フラックス成分のみのフラックス組成物を用いた場合の加熱後の板状合金の表面観察画像を図3に示す。
【0059】
図2の写真からわかるように、実施例12で得られたフラックス組成物を用いた場合は、針状の高融点化合物の析出がほとんど見られないことがわかる。一方、図3の写真からわかるように、比較例1の[A]フラックス成分のみのフラックス組成物を用いた場合は、表面に針状の高融点化合物が多量に析出している。
【0060】
〔実施例13〕
[B]添加剤としてZnSO30質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様の調整を行い、実施例13のフラックス組成物を得た。この実施例13で得られたフラックス組成物を用いて上記評価の方法と同様に板状合金の加熱を行った。加熱前後のEPMA写真を図4に示す。また、比較例1の[A]フラックス成分のみのフラックス組成物を用いた場合の加熱前後のEPMA写真を図5に示す。図4及び図5のEPMA写真を比較してわかるように、本発明のフラックス組成物は加熱により十分に広がっている(拡がり率が高い)ことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のフラックス組成物は、マグネシウムを含有するアルミニウム合金のろう付けに好適に用いることができ、具体的には、アルミニウム合金製の自動車用熱交換器の製造等に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウムを含有するアルミニウム合金材のろう付けに用いられるフラックス組成物であって、
[A]フッ化物を主成分とするフラックス成分と、
[B]CeF、BaF及びZnSOからなる群より選択される1種以上の添加剤と
を含有することを特徴とするフラックス組成物。
【請求項2】
上記[A]フラックス成分がKF及びAlFを含み、
[A]フラックス成分中のKFの含有量が40質量%以上60質量%以下、AlFの含有量が40質量%以上60質量%以下である請求項1に記載のフラックス組成物。
【請求項3】
上記[B]添加剤の[A]フラックス成分100質量部に対する含有量が、1質量部以上300質量部以下である請求項1又は請求項2に記載のフラックス組成物。
【請求項4】
マグネシウムを含有するアルミニウム合金からなる芯材と、
この芯材の少なくとも一方の面に積層されるろう材と、
このろう材の表面に積層され、請求項1、請求項2又は請求項3に記載のフラックス組成物からなるフラックス層と
を備えるブレージングシート。
【請求項5】
上記フラックス層におけるフラックス組成物の積層量が、0.5g/m以上100g/m以下である請求項4に記載のブレージングシート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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