説明

フラッシュ溶接装置及びフラッシュ溶接方法

【課題】 前進及び停止のみを繰り返して放電及び火花の飛散を繰り返すことにより後退を行わずに溶接部を加熱して接合する。
【解決手段】 フラッシュ工程において制御部17は経過時間に対する移動側溶接部材3の位置を示す目標変位曲線に基づいて、一定周期で移動側溶接部材3の目標位置を算出し(ステップS20)、位置計測部15で計測された移動側溶接部材3の位置が算出された目標位置に達していないことを検出すると(ステップS21)、移動側溶接部材3を前進させ(ステップS22)、位置計測部15で計測された移動側溶接部材3の位置が算出された目標位置に達している場合には移動側溶接部材3を停止させる。最終的な目標位置に到達するまでフラッシュ工程を繰り返すことにより移動側溶接部材3の前進及び停止を繰り返す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電圧を印加した2つの溶接部材を接合するフラッシュ溶接装置及びフラッシュ溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管杭やH形鋼杭等の鋼杭は、打込貫通力が大きく、継手の施工が確実であるとともに水平荷重に対する曲げ抵抗が強いので深い基礎に用いられている。鋼管杭を接合するとき、特許文献1に示すように、接合強度が高い溶接継手を高能率で作成するフラッシュ溶接法が用いられている。特許文献1に示された接合方法は、接合する鋼管杭と地盤に圧入した鋼管杭の内周面をそれぞれクランプ装置で保持し、溶接用電極を、両鋼管杭の溶接部近傍の外周部にそれぞれ取り付け、溶接用トランスから溶接用電極に電力を供給しながら、接合する鋼管杭を上方から前後退させて溶接部の離接を繰り返して溶接部を加熱した後、溶接部を加圧して両鋼管杭を接合している。
【特許文献1】特開2004−176431号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1のように鋼管杭を重力に逆らって高速に前後退させるためには、高性能な油圧設備や制御装置が必要となる。また、レール材を水平な状態で溶接する場合、レール材を高速に前後退させると振動が発生するため、前後退するレール材を強固に固定する必要があり、固定するための設備及び油圧設備が大掛かりとなる。
【0004】
本発明は、高速な前後退を不要とし前進及び停止のみで溶接部材を接合するフラッシュ溶接装置及びフラッシュ溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明のフラッシュ溶接装置は、固定された溶接部材と移動可能な溶接部材とに電圧を印加しながら、経過時間に対する移動可能な溶接部材の位置を示す目標変位曲線に追従するように前進及び停止のみを繰り返すことにより放電及び火花の飛散を発生させて溶接部を加熱し、加熱した溶接部を圧接する。目標変位曲線は、溶接部において部分的な放電から徐々に均一な放電を発生させ、発生した均一な放電を保つように移動する移動可能な溶接部材の経過時間に対する位置を表すようにするとよい。溶接部が均一に放電するまであらかじめ加熱しておくとよい。
【0006】
この発明のフラッシュ溶接方法は、固定された溶接部材と移動可能な溶接部材とに電圧を印加しながら、経過時間に対する移動可能な溶接部材の位置を示す目標変位曲線に追従するように前進及び停止のみを繰り返すことにより放電及び火花の飛散を発生させて溶接部を加熱し、加熱した溶接部を圧接する。
【発明の効果】
【0007】
このフラッシュ溶接装置によれば、前進及び停止のみを繰り返すことで後退動作を行わずに溶接部材の放電及び火花の飛散を繰り返すことができ、前後退を高速で行うための高度な油圧設備や制御装置を不要とする。目標変位曲線を、溶接部において部分的な放電から徐々に均一な放電を発生させ、発生した均一な放電を保つように移動する移動可能な溶接部材の位置を表すようにするため、フリーズを防いでスムーズに接合することができる。あらかじめ加熱しておくことで、放電開始当所の不安定な動作を低減して早く接合することができる。このフラッシュ溶接方法によれば、前進及び停止のみを繰り返すことで後退動作を行わずに溶接部材の放電及び火花の飛散を繰り返すことができ、前後退を高速で行う必要が無い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
フラッシュ溶接装置1は、2つの溶接部材をフラッシュ溶接により接合して長い溶接部材を製造する。本実施形態では、固定側溶接部材に長手方向を鉛直方向に向けて埋設されたH形鋼杭を用い、移動側溶接部材に長手方向を鉛直方向に向けたH形鋼杭を用い、固定側溶接部材の後端部に移動側溶接部材の先端部を溶接する。
【0009】
フラッシュ溶接装置1は、図1(a)の正面図及び図1(b)の側面図に示すように、固定側クランプ10と移動側クランプ11と移動ユニット12と固定側電極13と移動側電極14と位置計測部15と電源16と制御部17とを備える。
【0010】
固定側クランプ10は固定側溶接部材2の後端部を固定し、移動側クランプ11は移動側溶接部材3の先端部に固定されている。移動ユニット12は、図2の機能ブロック図に示すように油圧シリンダ121と油圧インバータポンプ122と方向切替弁123とポンプ用インバータ124とを有する。移動側クランプ11と固定側クランプ10との間に接続された油圧シリンダ121に油圧インバータポンプ122からオイルを送るとともに、油圧シリンダ121と油圧インバータポンプ122との間に接続された方向切替弁123でオイルの流れを切り替えることにより、油圧シリンダ121を伸縮させて、移動側溶接部材3の固定側溶接部材2に対する位置を変動させる。オイル用インバータ124は、油圧インバータポンプ122にパルスを送ることにより、油圧インバータポンプ122の動作タイミングと一回の動作量とを制御し、移動側溶接部材3を移動させる。
【0011】
固定側溶接部材2の後端部には固定側電極13が接続され、移動側溶接部材3の先端部には移動側電極14が接続されている。固定側クランプ10と移動側クランプ11とに接続された位置計測部15は、固定側クランプ10と移動側クランプ11との距離に応じて可変するポテンショメータの抵抗値を測定することにより、移動側溶接部材3の位置を計測する。
【0012】
電源16は、三相交流発電機161と整流器162とインバータ駆動回路163と電源用インバータ164と変圧器165とダイオード整流器166とを有し、400Vの三相交流発電機161からの交流電圧を整流器162で整流し、インバータ駆動回路163で制御される電源用インバータ164により矩形波交流電圧に変換し、変圧器165で降圧してダイオード整流器166で直流電圧に変換し、直流電圧を固定側電極13と移動側電極14とを通じて固定側溶接部材2と移動側溶接部材3との間に印加する。
【0013】
制御部17は、電源16のインバータ駆動回路163を制御することにより、固定側電極13と移動側電極14とを通じた固定側溶接部材2と移動側溶接部材3との間の電圧の印加及び停止を制御するとともに、移動ユニット12のポンプ用インバータ124及び方向切替弁123を制御することにより、移動側溶接部材3を前進させて固定側溶接部材2に近づけたり、移動側溶接部材3を固定側溶接部材2に対して停止させることにより、図3のフロー図に示すように、溶接部となる固定側溶接部材2の後端部と移動側溶接部材2の先端部とを適温まで加熱するフラッシュ工程(ステップS10)と、加熱された溶接部を急激に圧接するアップセット工程(ステップS11)とを含むフラッシュ溶接方法を実行する。
【0014】
フラッシュ工程では、固定側溶接部材2の後端部と移動側溶接部材3の先端部との間に放電を起こして短絡することにより大電流を流し、放電した部分を集中的に加熱して溶融させる。加熱溶融した短絡した部分の部材が火花となって飛び散る(フラッシュする)と放電が弱まり、あるいは絶たれるため、さらに移動側溶接部材3を固定側溶接部材2に近づけて放電と火花の飛散とを繰り返す必要がある。制御部17は、経過時間に対する移動側溶接部材3の位置を表す目標変位曲線に追従するように、移動側溶接部材3を前進させる。
【0015】
フラッシュ工程では、移動側溶接部材3が固定側溶接部材2に近づくと、放電が発生し、短絡した溶接部が集中的に加熱、溶融される。加熱溶融した接合点の部材が火花となって飛び散ると放電が絶たれるが、移動側溶接部材3をさらに固定側溶接部材2に近づけることにより再度放電し、放電と火花飛散とが繰り返されて溶接部が加熱される。移動側溶接部材3と固定側溶接部材2との間を流れる電流は、例えば図4に示すように、フラッシュ工程の初期には、溶接部の粗さにより局部的に電流が流れて全体的にはあまり流れず、放電により火花の飛散を繰り返すことにより放電する部分が多くなり、徐々に電流が増加して最終的には溶接部の全面がほぼ均一に放電するようになる。
【0016】
経過時間に対する移動側溶接部材3の位置を表す目標変位曲線はあらかじめ実験により計測して求められる。フラッシュ工程の初期の段階では、移動側溶接部材3をわずかに前進させながら局部的な放電と火花の飛散とを連続的に発生させるように制御し、時間の経過に従って一回の動作で移動側溶接部材3が前進する距離を段階的に増加させ、溶接部の粗さがとれて放電が均一に発生するようになると、均一さを保ったままほぼ一定の速さで前進するように制御する。目標変位曲線は、移動側溶接部材3を移動させて計測された、経過時間t(秒)に対する移動側溶接部材3の位置y(mm)を1次式や2次式で近似して求められる。例えば、断面積約8000mm2の鋼材を、平均電力60kW、溶接時間170秒で溶接する場合、計測結果を最小二乗法で近似すると目標変位曲線は、図5(a)に示すように式1a〜式1dの4つの2次式の組み合わせ、図5(b)に示すように式2a〜式2eの5つの1次式の組み合わせ、あるいは、式3aの2次式と式3bの1次式との組み合わせ等により表される。
【0017】
【数1】

【0018】
フラッシュ溶接方法を実行する制御部17は、インバータ駆動回路163を制御して固定側溶接部材2と移動側溶接部材3との間に電圧を印加し、目標変位曲線の初期位置に移動側溶接部材3を配置し、方向切替弁123を前進に切り替え、まずフラッシュ工程を実行する。
【0019】
フラッシュ工程において制御部17は図6のフロー図に示すように、経過時間に対する移動側溶接部材3の位置を示す目標変位曲線に基づいて、一定の微小な時間周期、例えば0.1秒周期で経過時間に応じた移動側溶接部材3の目標位置を算出する(ステップS20)。目標変位曲線が図5(a)のような2次式の組み合わせで表される場合、約0秒以上約90秒未満では式1aに基づき、約90秒以上約115秒未満では式1bに基づき、約115秒以上約134秒未満では式1cに基づき、約134秒以上約170秒未満では式1dに基づいて目標位置を算出する。目標変位曲線が図5(b)のような1次式の組み合わせで表される場合、約0秒以上約43秒未満では式2aに基づき、約43秒以上約87秒未満では式2bに基づき、約87秒以上約125秒未満では式2cに基づき、約125秒以上約143秒未満では式2dに基づき、約143秒以上約170秒未満では式2eに基づいて目標位置を算出する。目標変位曲線が式3a及び式3bのように2次式と1次式との組み合わせで表される場合、約0秒以上約140秒未満では式3aに基づき、約140秒以上約170秒未満では式3bに基づいて目標位置を算出する。
【0020】
位置計測部15で計測された移動側溶接部材3の位置が算出された目標位置に達していないことを検出すると(ステップS21)、移動側溶接部材3を前進させ(ステップS22)、位置計測部15で計測された移動側溶接部材3の位置が算出された目標位置に達している場合には移動側溶接部材3を停止させる。最終的な目標位置に到達するまで移動側溶接部材3の前進及び停止のみを繰り返す。
【0021】
フラッシュ工程を終えると制御部17はアプセット工程を実行する。アプセット工程を実行する制御部17は、図7のフロー図に示すように、油圧インバータポンプ122を急激に作動させて移動側溶接部材3と固定側溶接部材2とを強い圧力で押し付けてアプセットを開始する(ステップS30)、アプセットの開始から設定時間経過後にインバータ駆動回路163を制御して電圧の印加を停止し(ステップS31)、所定の距離まで圧力を加えた後、所定の時間保持する(ステップS32)。電圧をしばらく印加することにより、固定側溶接部材2と移動側溶接部材3との境界面に残留する不純物や加熱金属を押し出して健全な高温金属で溶接することができる。アプセット工程を終えた後、必要に応じて移動側クランプ11を解放してバリ抜きバイトを前進させることにより、溶接箇所のバリ抜きを実行するとよい。
【0022】
このフラッシュ溶接装置1によれば、溶接部材の前進と停止のみを繰り返すことで、高速な前後退を行わずに溶接部材の放電及び火花の飛散を繰り返すことができ、高速に前後退を行うための高度な油圧設備を不要とする。特に、垂直に溶接部材を接合する場合には、重力に反して高速な前後退を行わないことにより油圧設備が複雑化することを防止できる。さらに電力制御方式における溶接部材の軌跡に近似した1次式または2次式で表される動作とすることにより、大面積でもフリージングを防止することができる。なお、本発明は、H形鋼杭に限らずシートパイル、鋼管、レール材等の溶接部材を溶接することができる。
【0023】
なお、フラッシュ工程の開始からしばらくは固定側溶接部材2及び移動側溶接部材3に十分に熱が入っておらず火花が飛び難いため、例えばフラッシュ工程の前に固定側溶接部材2と移動側溶接部材3とを短絡し、抵抗により溶接部をあらかじめ加熱して火花を飛びやすくしておくことが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】フラッシュ溶接装置の正面図及び側面図である。
【図2】電気系統の機能ブロック図である。
【図3】フラッシュ溶接方法のフロー図である。
【図4】電流値と時間との関係を示す図である。
【図5】経過時間に対する移動側溶接部材の位置の軌跡を示す図である。
【図6】フラッシュ工程のフロー図である。
【図7】アプセット工程のフロー図である。
【符号の説明】
【0025】
1;フラッシュ溶接装置、2;固定側溶接部材、3;移動側溶接部材、
10;固定側クランプ、11;移動側クランプ、12;移動ユニット、
13;固定側電極、14;移動側電極、15;位置計測部、16;電源、
17;制御部、121;油圧シリンダ、122;油圧インバータポンプ、
123;方向切替弁、124;ポンプ用インバータ、161;三相交流発電機、
162;整流部、163;インバータ駆動回路、164;電源用インバータ、
165;変圧器、166;ダイオード整流器。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定された溶接部材と移動可能な溶接部材とに電圧を印加しながら、経過時間に対する移動可能な溶接部材の位置を示す目標変位曲線に追従するように前進及び停止のみを繰り返すことにより放電及び火花の飛散を発生させて溶接部を加熱し、加熱した溶接部を圧接することを特徴とするフラッシュ溶接装置。
【請求項2】
前記目標変位曲線は、前記溶接部において部分的な放電から徐々に均一な放電を発生させ、発生した均一な放電を保つように移動する移動可能な溶接部材の経過時間に対する位置を表す請求項1に記載のフラッシュ溶接装置。
【請求項3】
前記溶接部が均一に放電するまであらかじめ加熱しておく請求項1または請求項2に記載のフラッシュ溶接装置。
【請求項4】
固定された溶接部材と移動可能な溶接部材とに電圧を印加しながら、経過時間に対する移動可能な溶接部材の位置を示す目標変位曲線に追従するように前進及び停止のみを繰り返すことにより放電及び火花の飛散を発生させて溶接部を加熱し、
加熱した溶接部を圧接することを特徴とするフラッシュ溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−55863(P2006−55863A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−237844(P2004−237844)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【出願人】(000231132)JFE工建株式会社 (54)