説明

フラットケーブル、その製造方法

【課題】FFC(フラットケーブル叉はフレキシブルフラットケーブル)のファインピッチ化はケーブル形状の悪化と、それに伴う屈曲性の低下が課題である。本発明はこの課題を克服し、屈曲性に優れるファインピッチのFFCを提供することを目的とする。
【解決手段】複数本の平角導体を平行に配設し、該平角導体全てに、或いは特定の数本に、{(導体厚さ)×(フィルム基材厚さ)×(3×106)/(導体隙間部の幅)}N(式1)
以上の張力Tを加えながら上下面からフィルム基材で挟みラミネートしたフラットケーブルである。なお式1において、「導体厚さ」、「導体隙間部の幅」、「フィルム基材厚さ」の単位はmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複数本の導体を同一平面上に平行に配設しフィルム基材(絶縁体)で被覆したフラットケーブルとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数本の導体を同一平面上に平行に配設し絶縁体で被覆したフラットケーブル(フレキシブルフラットケーブルを含み、以下FFCということがある)において、小型、軽量化、軽量化に伴う材料費低減、FFC一枚あたりの導体本数増加によるFFC使用枚数の低減によるコストダウンを目的にFFCのファインピッチ化が行われている。
しかしながら、使用導体の細線化と導体配設間隔の狭幅化によりFFCのファインピッチ化を行う時に、ラミネート行程におけるラミネートフィルムの単位幅あたりの幅方向の伸びが大きくなり、例えば、{(導体厚さ)/(導体隙間部の幅)}の値が0.08を超えるようなファインピッチ化を行う場合に、ラミネート中のフィルムに大きな幅方向の歪や応力が発生し、完成後のFFC形状に狂いが生じ、屈曲特性の低下が発生する。
これらの対策として、FFC作製時に導体を整列させることを目的として、導体の抗張力を増加させる提案がなされている。
【0003】
例えば特許文献1(特開平11−120841)には、テープ状絶縁体で平角導体を挟み、導体と絶縁体を一体化したフラットケーブルが記載されている。
この発明では、ラミネート時に導体を整列させることを目的として、抗張力に優れる硬銅からなる導体を用い、導体を高張力で引張りながらラミネートを行い、その後にフラットケーブル全体を180℃以上240℃以下の雰囲気中に曝すことで、硬銅導体のアニールを行いフラットケーブルの柔軟性を実現している。
しかしながら、上記の方法では、フラットケーブルを構成する樹脂等からなる絶縁体部分が180℃以上240℃の高温雰囲気に曝されてしまい、樹脂シートや接着剤からなるテープ状絶縁体の性質や寸法が変化してしまう可能性が高く、また絶縁テープの材質選定に大きな制限が加えられてしまう課題があった。
【0004】
また、特許文献2(特開平11−111070)にはテープ状絶縁体で平角導体を挟み、導体と絶縁体を一体化するフラットケーブルについて記載されている。
この発明では、ラミネート時に導体を整列させることを目的として、伸びと抗張力に優れる導体材料を用い、該導体を、導体を整列させるのに必要な38kgf/mm2以上の張力で引張りながらラミネートを行い、高密度実装が可能なフラットケーブルを実現したとしている。
しかしながら上記の方法では、各導体に張力を付与するために、FFCの幅方向の導体数密度(幅あたりの導体本数)が増加した場合に、導体を整列させるのに必要な張力が増加することについては考慮されていない。
このため、導体の抗張力(応力)が高いとしても導体断面積が小さく導体の許容張力(荷重)が小さい場合には、導体幅方向の導体数の密度を増加させることができない場合があった。
【0005】
一方、特許文献3(特開平7−014436)では、フラットケーブル内での広幅導体の配置もしくはダミー線の採用によって屈曲性能を向上させる発明が記載されている。しかし、この発明はフラットケーブルのファインピッチ化に伴い発生するフラットケーブル形状の乱れとその屈曲性能の低下に関する発明ではなく、ファインピッチ化したFFCの形状問題に関する対策については十分に開示されていない。
また、ダミー線を使用することは、コストの増加、FFCの幅増加を伴うため、FFCのファインピッチ化の目的とは技術課題を異にする発明である。
【0006】
さらに特許文献4(実開昭54−135480)の実施例には、フラットケーブルの両外側より導体を広幅とする実施例が記載されているが、本発明が解決しようとする課題とは異なり、また対策も不十分である。
【0007】
さらに特許文献5(特開2006−179399)では、フレキシブルフラットケーブル全体の可撓性を確保しながら屈曲性能を維持する目的で、部分的に引張り強度を向上させた導線材料を混在させることを提案している。しかし、該発明は可撓性と屈曲性の維持が目的であり、FFCのファインピッチ化を目的としていない。また一部の導体の引張り強度向上方法として導線材料の材質選定について述べてはいるが、強度基準などについては開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−120841
【特許文献2】特開平11−111070
【特許文献3】特開平07−014436
【特許文献4】実開昭54−135480
【特許文献5】特開2006−179399
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、FFCのファインピッチ化はケーブル形状の悪化と、それに伴う屈曲性の低下という課題がある。
本発明はかかる課題を解決し、屈曲性に優れるファインピッチのフラットケーブル叉はフレキシブルフラットケーブルを提供することを目的とする。
【0010】
本発明者は、ファインピッチFFCの形状悪化とそれによる屈曲性能の低下は、導体隙間部分でのフィルムの伸びによる残留応力が原因していることを突き止めた。即ち、導体とフィルムとをラミネートする時に、導体隙間に入り込むフィルムの幅方向の伸びが、FFCの幅方向にどの程度含まれるかにより、FFCの仕上がり形状(形状悪化)とそれによる屈曲性能が影響されていることがわかった。
上記の現象は、フラットケーブル内の{(導体厚さ)×(フィルム基材厚さ)×(3×106)/(導体隙間部の幅)}の値が大きく、導体のラミネート張力が小さい時に発生することがわかり、フラットケーブル中の少なくとも両端の導体に、{(導体厚さ)×(フィルム基材厚さ)×(3×106)/(導体隙間部の幅)}以上の張力(単位はN:導体厚さ、フィルム基材厚さ、導体隙間部の幅の単位はm)を加えながらラミネートすることにより、ファインピッチFFCの形状の乱れによる屈曲性能の低下を回避できることを突き止め、本発明を完成した。
【0011】
本発明は、複数本の平角導体を同一平面上に平行に配設し絶縁体フィルムで被覆したFFCにおいて、FFCの幅方向の導体の配置本数密度が増加した場合でもラミネート中の導体張力(荷重)を規定することにより屈曲に優れるFFCを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のFFCの製造方法は、複数本の平角導体を平行に配設し、該平角導体1本につき、{(導体厚さ)×(フィルム基材厚さ)×(3×106)/(導体隙間部の幅)}N以上の張力Tを加えながら上下面からフィルム基材で挟みラミネートすることを特徴とする。
なお、「導体厚さ」、「導体隙間部の幅」、「フィルム基材厚さ」の単位はmである。
【0013】
本発明のFFCの製造方法は、複数本の平角導体を平行に配設し、該平角導体の少なくとも幅方向両側のそれぞれの導体に、{(導体厚さ)×(フィルム基材厚さ)×(3×106)/(導体隙間部の幅)}N以上の張力Tを加えながら上下面から絶縁フィルム基材で挟みラミネートすることを特徴とする。
なお、「導体厚さ」、「導体隙間部の幅」、「フィルム基材厚さ」の単位はmである。
【0014】
本発明のFFCは、複数本の平角導体を平行に配設し、上下面から絶縁フィルム基材で挟みラミネートしたFFCであって、前記平角導体が{(導体厚さ)×(フィルム基材厚さ)×(3×106)/(導体隙間部の幅)}N以上の許容張力Tを有することを特徴とする。
なお、「導体厚さ」、「導体隙間部の幅」、「フィルム基材厚さ」の単位はmである。
【0015】
本発明のFFCは、複数本の平角導体を平行に配設し、上下面から絶縁フィルムで挟みラミネートしたFFCであって、少なくとも幅方向両端の平角導体が{(導体厚さ)×(フィルム基材厚さ)×(3×106)/(導体隙間部の幅)}N以上の許容張力Tを有することを特徴とする。
なお、「導体厚さ」、「導体隙間部の幅」、「フィルム基材厚さ」の単位はmである。
【0016】
本発明のFFCは、平行に配設される複数本の平角導体が、{(導体厚さ)×(フィルム基材厚さ)×(3×106)/(導体隙間部の幅)}N以上の許容張力Tを有する平角導体と、該平角導体とは板厚が同等で、調質が異なる平角導体とであることを特徴とする。
なお、「導体厚さ」、「導体隙間部の幅」、「フィルム基材厚さ」の単位はmである。
【0017】
本発明のFFCは、平行に配設される複数本の平角導体が、{(導体厚さ)×(フィルム基材厚さ)×(3×106)/(導体隙間部の幅)}N以上の許容張力Tを有する平角導体と、該平角導体とは板厚が同等で材質が異なる平角導体とであることを特徴とする。
なお、「導体厚さ」、「導体隙間部の幅」、「フィルム基材厚さ」の単位はmである。
【0018】
本発明のFFCは、平行に配設される複数本の平角導体が、{(導体厚さ)×(フィルム基材厚さ)×(3×106)/(導体隙間部の幅)}N以上の許容張力Tを有する平角導体と、該平角導体とは板厚が同等で板幅が異なる平角導体とであることを特徴とする。
なお、「導体厚さ」、「導体隙間部の幅」、「フィルム基材厚さ」の単位はmである。
【0019】
本発明のFFCは、平行に配設される複数本の平角導体はすべて銅系材料であることが好ましい。
また、本発明のFFCは、平行に配設される複数本の平角導体は厚さが30〜40μmであることが好ましく、幅が0.5mm以下であることが望ましい。
【0020】
本発明のFFCは、平行に配設される複数本の平角導体を挟むフィルム基材がPETからなることが好ましい。
また、前記フィルム基材の厚さが20〜60μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、フラットケーブル中の少なくとも両端の導体に{(導体厚さ)×(フィルム基材厚さ)×(3×106)/(導体隙間部の幅)}N(「導体厚さ」、「導体隙間部の幅」、「フィルム基材厚さ」の単位はm)以上の張力Tを加えながらラミネートすることより、導体隙間が狭細化し、FFCのファインピッチ化と、FFCの形状の乱れによる屈曲性能の低下を回避したFFCを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明FFCの一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明FFCを説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は従来のFFCと本発明のFFCとを説明するための断面図である。
図1(A)は従来のFFCで、平角導体は均等に配置され、上下からフィルムでラミネートされている。
図1(B)は本発明FFCの一実施形態で、従来のFFCよりも導体の幅、各導体間の間隔が大幅に縮小されファインピッチ化されている。
図1(C)は本発明の他の実施形態で、複数本の平角導体の内、幅方向両端の導体が他の導体より広幅に構成されたものである。
【0024】
本発明のFFCの製造方法は、複数本の平角導体を平行に配設し、該平角導体1本につき、式1に示す張力T以上の張力Tを加えながら上下面からフィルム基材で挟みラミネートする。
[式1]
≧T={(導体厚さ)×(フィルム基材厚さ)×(3×106)/(導体隙間部の幅)}
なお、「導体厚さ」、「導体隙間部の幅」、「フィルム基材厚さ」の単位はmである。
【0025】
前記式1において「導体厚さ」は図2に示すように平角導体の厚さ(m)である。また、「導体隙間部の幅」は平角導体と平角導体との間の幅(m)である。また、「フィルム基材厚さ」はフィルム基材の厚さ(m)である。
【0026】
また、本発明のFFCの製造方法は、複数本の平角導体を平行に配設し、該平角導体の少なくとも幅方向両端の導体に、式1に示す張力Tを加えながら上下面からフィルム基材で挟みラミネートする。
本発明において式1に示す張力Tを付加される平角導体は当然ながら式1に示す張力T以上の許容張力Tをもつ部材を使用する。すなわち、T≧T≧Tの関係を満たす。このような許容張力Tを持つ導体は、FFCを構成するすべての平角導体に使用する必要はなく、ラミネート時に前記の張力Tを付与する導体にのみ用いることが可能である。
なお、前記許容張力Tとは、(導体断面積)×(降伏応力)(材料によっては0.2%耐力)もしくは(導体断面積)×(引張強度)で、ラミネート時の張力Tに耐えられる張力である。T≧T≧Tの関係を満たさない場合は、ラミネート中の導体破断やFFCの屈曲性の低下などが発生するため、T≧T≧Tの関係を満たす必要がある。
【0027】
本発明のFFCは上記のように式1に示す張力Tを付加される平角導体は、上記式1に示す張力T上の許容張力Tをもち、式1に示す張力Tを付加しつつフィルム基材でラミネートすることで、ファインピッチで耐屈曲性を有するFFCを製造することができる。
【0028】
前記許容張力を平角導体で実現するために、導体材料の調質を純銅系もしくは純アルミニウム系材料の最終加工率や冷間加工率または熱処理条件を変更させることで実現できる。
また、前記許容張力を実現するために、純銅系もしくは純アルミニウム系材料で構成されるFFCの材質を銅合金やアルミニウム合金としても良く、純銅系もしくは純アルミニウム系材料のまま元素を添加する方法で許容張力を調整することも可能である。
【0029】
平角導体の許容張力Tは、前記のように材質、或いは調質により調整することも可能であるが、平角導体の断面積を増加(または減少)させて調整してもよい。なお断面積の増減は、導体の厚さが増減すると屈曲寿命が変化するので、これを避けるために導体幅を増減させて調整することが望ましい。このとき、FFCの全幅に大きな影響を与えないように考慮しながら導体幅を増減させることがさらに好ましい。
【0030】
ラミネートを行うフィルム基材は、平角導体の絶縁や保護および一体化のために使用するもので、少なくとも一方の片面に接着剤を塗布してあるものを使用する。
フィルム基材は、PETやPEN、ポリアミド、ポリイミドアミドなどの高分子系樹脂材料が使用環境や条件により好ましく選択され、入手性などの点からPET系基材を使用したフィルムが望ましい。
本発明のFFCは特に屈曲R8.5mm以下の厳しい要求に対して好ましく使用できる。屈曲R8.5mmを超える屈曲Rでも本発明FFCを使用できるのは勿論であるが、大きな曲率Rで使用するFFCの仕上がり形状への要求は高くなるため、必ずしも本製造方法で製造する必要はない。しかし、屈曲R8.5mm以下で使用するFFCへの要求品質は厳しく、本発明FFCはこの厳しい品質を達成している。
【0031】
本発明のFFCは平角導体に屈曲性を付与することからその厚さを40μm以下とすることが好ましい。平角導体の厚さを40μm以下としても屈曲R8.5mm以下の通常の製品使用上問題のない800万回以上の屈曲寿命が得られる。
しかし、平角導体の厚さを30μm未満とすると、信号回線以外の用途に使用する場合に、導体抵抗が上昇するため、平角導体の広幅化を行う必要が生じる場合があり、本発明の前提であるFFCの小型化を十分に実現することができない。
従って、本発明FFCの平角導体の厚さは、30〜40μmであることが望ましい。
【0032】
またPETフィルム基材の厚さは、20μm未満では平角導体の保護機能が十分に得られない場合があり、また、60μmを超える場合は、PETフィルム自体の屈曲性能が低下することから、本発明のPETフィルム基材の厚さは、20〜60μmであることが望ましい。
0.5mm幅を超える平角導体で構成されるFFCでは、ケーブル中の導体強度が大きく、ラミネート仕上がり形状が問題になることが少ない。本発明の効果は、0.5mm幅以下の平角導体が使用されているFFCに大きな効果を発揮する。
本発明で得られるFFCは、その得られたファインピッチ効果や屈曲性能から、自動車のステアリングに内蔵されて使用されるFFC、複写機または印刷機などの事務機器内で使用されるFFC、携帯電話またはノート型パソコンなどのヒンジ部で使用されるFFC、スライド機構を持った扉部の電気的接続に用いられるFFC、スライド機構を持った携帯電話またはコンピュータ機器などの前記機構部の電気的接続に使用されるFFCとして使用できる。
【実施例】
【0033】
(実施例1)
厚さ0.035mmで幅0.5mmの平角銅導体を10本平行に配設し、厚さ0.025mmのPETフィルムの片面に接着剤を塗布した幅13.8mmのフィルムで170℃の熱ロールにより、平角導体1本あたり3.5Nの張力を与えてラミネートしFFCとした。このFFCの式1で示す張力Tは、3.28Nである。
なお、このときのそれぞれの導体に作用する引張り応力は、200MPaであった。
このFFCにつきIPC屈曲試験評価を実施したところ、R7.5mmで断線判定基準を500Ω×5μsecとしたときの屈曲回数は800万回以上であり、実用上問題のない結果となった。
【0034】
(実施例2)
厚さ0.035mmで幅0.8mmの平角銅導体を10本平行に配設し、厚さ0.025mmのPETフィルムの片面に接着剤を塗布した幅11.3mmのフィルムで170℃の熱ロールにより、平角導体1本あたり10Nの張力を与えラミネートしFFCとした。
このFFCの式1で示す張力Tは、8.75Nである。
なお、このときのそれぞれの導体に作用する引張り応力は、357MPaであった。
このFFCにつきIPC屈曲試験評価を実施したところ、R7.5mmで断線判定基準を500Ω×5μsecとしたときの屈曲回数は800万回以上であり、実用上問題のない結果となった。
【0035】
(実施例3)
厚さ0.035mmで幅0.5mmの平角銅導体を8本平行に配設し、その幅方向両端に厚さが同一で幅0.8mmの平角銅導体を追加した状態で、厚さ0.025mmのPETフィルムの片面に接着剤を塗布した幅8.9mmのフィルムで170℃の熱ロールにより、幅方向両端の平角導体1本あたり10Nの張力を与え、両端以外の平角導体には1本あたり6.25Nの張力を与えてラミネートしFFCとした。
このFFCの式1で示す張力Tは、8.75Nである。
なお、このときのそれぞれの導体に作用する引張り応力は、357MPaであった。
このFFCにつきIPC屈曲試験評価を実施したところ、R7.5mmで断線判定基準を500Ω×5μsecとしたときの屈曲回数は800万回以上であり、実用上問題のない結果となった。
【0036】
(実施例4)
厚さ0.035mmで幅0.5mmの平角銅導体を8本平行に配設し、その幅方向両端に厚さが同一で幅1.6mmの平角銅導体を追加した状態で、厚さ0.050mmのPETフィルムの片面に接着剤を塗布した幅10.5mmのフィルムで170℃の熱ロールにより、幅方向両端の平角導体1本あたり18Nの張力を与え、両端以外の平角導体には1本あたり5.625Nの張力を与えてラミネートしFFCとした。
このFFCの式1で示す張力Tは、17.5Nである。
なお、このときのそれぞれの導体に作用する引張り応力は、321MPaであった。
このFFCにつきIPC屈曲試験評価を実施したところ、R7.5mmで断線判定基準を500Ω×5μsecとしたときの屈曲回数は800万回以上であり、実用上問題のない結果となった。
【0037】
(比較例1)
厚さ0.035mmで幅0.5mmの平角銅導体を10本平行に配設し、厚さ0.025mmのPETフィルムの片面に接着剤を塗布した幅8.3mmのフィルムで170℃の熱ロールにより平角導体1本あたり5Nの張力を与えてラミネートしFFCとした。
なお、このときのそれぞれの導体に作用する引張り応力は、285MPaであった。
このFFCにつきIPC屈曲試験評価を実施したところ、R7.5mmで断線判定基準を500Ω×5μsecとしたときの屈曲回数は300万回程度であり、実用上問題ないレベルには達しなかった。
参考までに、比較例1のFFCの式1で示す張力Tは、8.75Nであるが、この比較例1で使用した平角導体の1本あたりの許容張力Tが、7N(引張強度は400MPa)以下であったため、本発明で規定している張力では、ラミネート中の導体破断によりサンプルの作成ができなかった。
【0038】
(比較例2)
厚さ0.035mmで幅0.8mmの平角銅導体を10本平行に配設し、厚さ0.025mmのPETフィルムの片面に接着剤を塗布した幅11.3mmのフィルムで170℃の熱ロールにより平角導体1本あたり7Nの張力を与えてラミネートしFFCとした。
このFFCの式1で示す張力Tは、8.75Nである。
なお、このときのそれぞれの導体に作用する引張り応力は、250MPaであった。
このFFCにつきIPC屈曲試験評価を実施したところ、R7.5mmで断線判定基準を500Ω×5μsecとしたときの屈曲回数は400万回程度であり、実用上問題ないレベルには達しなかった。
【0039】
(比較例3)
厚さ0.035mmで幅0.5mmの平角銅導体を8本平行に配設し、その両側に厚さが同一で幅0.8mmの導体を追加した状態で、厚さ0.025mmのPETフィルムの片面に接着剤を塗布した幅8.9mmのフィルムで170℃の熱ロールにより、全ての平角導体1本あたり5Nの張力を与えてラミネートしFFCとした。
このFFCの式1で示す張力Tは、8.75Nである。
なお、このときのそれぞれの導体に作用する引張り応力は、286MPaであった。
このFFCにつきIPC屈曲試験評価を実施したところ、R7.5mmで断線判定基準を500Ω×5μsecとしたときの屈曲回数は300万回程度であり、実用上問題ないレベルには達しなかった。
【0040】
(比較例4)
厚さ0.035mmで幅0.5mmの平角銅導体を8本平行に配設し、その幅方向両端に厚さが同一で幅1.6mmの導体を追加した状態で、厚さ0.050mmのPETフィルムの片面に接着剤を塗布した幅10.5mmのフィルムで170℃の熱ロールにより全ての平角導体1本あたり6Nの張力を与えてラミネートしFFCとした。
このFFCの式1で示す張力Tは、17.5Nである。
なお、このときのそれぞれの導体に作用する引張り応力は、中間の平角導体で343MPa、両端の平角導体で107MPaであった。
このFFCにつきIPC屈曲試験評価を実施したところ、R7.5mmで断線判定基準を500Ω×5μsecとしたときの屈曲回数は300万回程度であり、実用上問題ないレベルには達しなかった。
【0041】
(比較例5)
FFCの幅方向両端からそれぞれ厚さ0.035mmで幅0.5mmの平角銅導体を4本ずつ平行に配設し、フラットケーブルの幅中央の位置に厚さが同一で幅0.8mmの導体を2本追加した状態で、厚さ0.025mmのPETフィルムの片面に接着剤を塗布した幅8.9mmのフィルムで170℃の熱ロールにより、中央の広幅導体2本を10N、狭幅導体8本については5Nの張力を与えてラミネートしFFCとした。
このFFCの式1で示す張力Tは、8.75Nである。
なお、このときのそれぞれの導体に作用する引張り応力は、広幅平角導体で357MPa、狭幅平角導体で286MPaであった。
このFFCにつきIPC屈曲試験評価を実施したところ、R7.5mmで断線判定基準を500Ω×5μsecとしたときの屈曲回数は300万回程度であり、実用上問題ないレベルには達しなかった。
参考までに、比較例5のFFCの式1で示す張力Tは、8.75Nであるが、この比較例5で使用した平角導体のうち、狭幅導体8本について1本あたりの許容張力Tが、7N(引張強度は400MPa)以下であったため、本発明で規定している張力を平角導体全部に与えた場合、狭幅導体8本についてラミネート中の導体破断によりサンプルの作成ができなかった。
【0042】
以上のように、フラットケーブル中の少なくとも両端の導体の張力が式1に示す張力T以上の張力Tを加えながらラミネートすることにより、導体隙間の狭細化したファインピッチフラットケーブルの形状の乱れによる屈曲性能の低下を回避することができた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のFFCは、自動車のステアリングに内蔵された状態で、複写機または印刷機などの事務機器で、携帯電話またはノート型パソコンなどのヒンジ部で、スライド機構を持った扉部の電気的接続部で、スライド機構を持った携帯電話またはコンピュータ機器などの前記機構部の電気的接続部で、好ましく使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の平角導体を平行に配設し、該平角導体1本につき、{(導体厚さ)×(フィルム基材厚さ)×(3×106)/(導体隙間部の幅)}N以上の張力Tを加えながら上下面からフィルム基材で挟みラミネートするフラットケーブルの製造方法。
なお、「導体厚さ」、「導体隙間部の幅」、「フィルム基材厚さ」の単位はmである。
【請求項2】
複数本の平角導体を平行に配設し、該平角導体の少なくとも幅方向両端の導体に、{(導体厚さ)×(フィルム基材厚さ)×(3×106)/(導体隙間部の幅)}N以上の張力Tを加えながら上下面からフィルム基材で挟みラミネートするフラットケーブルの製造方法。
なお、「導体厚さ」、「導体隙間部の幅」、「フィルム基材厚さ」の単位はmである。
【請求項3】
複数本の平角導体を平行に配設し、上下面からフィルムで挟みラミネートしたフラットケーブルであって、前記平角導体が{(導体厚さ)×(フィルム基材厚さ)×(3×106)/(導体隙間部の幅)}N以上の許容張力Tを有するフラットケーブル。
なお、「導体厚さ」、「導体隙間部の幅」、「フィルム基材厚さ」の単位はmである。
【請求項4】
複数本の平角導体を平行に配設し、上下面からフィルムで挟みラミネートしたフラットケーブルで、少なくとも幅方向両端の導体が{(導体厚さ)×(フィルム基材厚さ)×(3×106)/(導体隙間部の幅)}N以上の許容張力Tを有することを特徴とするフラットケーブル。
なお、「導体厚さ」、「導体隙間部の幅」、「フィルム基材厚さ」の単位はmである。
【請求項5】
前記複数本の平角導体が、{(導体厚さ)×(フィルム基材厚さ)×(3×106)/(導体隙間部の幅)}N以上の許容張力Tを有する平角導体と、該平角導体とは板厚が同等で調質が異なる平角導体とであることを特徴とする請求項3又は4に記載のフラットケーブル。
【請求項6】
前記複数本の平角導体が、{(導体厚さ)×(フィルム基材厚さ)×(3×106)/(導体隙間部の幅)}N以上の許容張力Tを有する平角導体と、該平角導体とは板厚が同等で材質が異なる平角導体とであることを特徴とする請求項3又は4に記載のフラットケーブル。
【請求項7】
前記複数本の平角導体が、{(導体厚さ)×(フィルム基材厚さ)×(3×106)/(導体隙間部の幅)}N以上の許容張力Tを有する平角導体と、該平角導体とは板厚が同等で板幅が異なる平角導体とであることを特徴とする請求項3又は4に記載のフラットケーブル。
【請求項8】
前記平角導体が銅系材料である請求項3〜7のいずれかに記載のフラットケーブル。
【請求項9】
前記フィルム基材がPETである請求項3〜7のいずれかに記載のフラットケーブル。
【請求項10】
前記フィルム基材の厚さが20〜60μmである請求項3〜7のいずれかに記載のフラットケーブル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−54065(P2012−54065A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194806(P2010−194806)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】