説明

フラットケーブルの製造方法およびフラットケーブル

【課題】現行のフラットケーブルの製造工程に新たな工程を追加することなく、平角導体表面のSnまたはSn系合金めっき表面からのウイスカの発生を抑制することができるフラットケーブルの製造方法およびフラットケーブルを提供することである。
【解決手段】SnまたはSn系合金めっきCu線2を圧延して平角導体4を形成し、該平角導体4をリフロー処理した後、前記平角導体4を複数本並べて絶縁体フィルム5でラミネートすることによりフラットケーブル1を製造する方法において、前記SnまたはSn系合金めっきCu線2を表面が粗化された圧延ローラ3にて圧延することにより、前記リフロー処理後も前記平角導体4およびそのめっき表面が粗化されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットケーブルの製造方法およびフラットケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、配線材、特に銅や銅合金の表面には、配線材の酸化を防ぐために、Sn、Ag、AuやNiのめっきが施される。例えば、図6に示すように、コネクタ10とフラットケーブル(フレキシブルフラットケーブルともいう)11の端末接続部においては、コネクタ(コネクタ部材)10のコネクタピン(金属端子)12や、フラットケーブル11の導体13の表面などにめっきが施されている。なかでも、Snはコストが安価であり、軟らかいため嵌合の圧力で容易に変形し表面酸化膜が破れ、また接触面積が増えるため、接触抵抗が低く抑えられることから、配線材の表面にSnめっきを施したものが広く一般的に使用されている。
【0003】
このSnめっき用合金として、従来は耐ウイスカ性が良好なSn−Pb合金が用いられてきたが、近年は環境面での対応の観点から、Pbフリー材(非鉛材)の使用が求められており、配線材に使用されるめっきや絶縁体等の各種材料に対してもPbフリー化が求められている。
【0004】
SnめっきのPbフリー化に伴って、特にSnまたはSn系合金めっきにおいては、図7に示すように、Snの針状結晶であるウイスカ14がめっきから発生し、ウイスカ14により隣接配線(導体13)間の短絡事故が問題となっている。
【0005】
ウイスカの発生原因の一つとして考えられているSnめっき中の応力を緩和させるため、電解めっきしたSnをリフロー処理(加熱して溶融し急冷する方法)することにより、ウイスカの発生を低減させることが可能であるとされている。しかし、コネクタとの嵌合など新たな外部応力がかかる場合は、リフロー処理を施してもウイスカの発生を抑えることができない。
【0006】
SnまたはSn系合金めっき表面を粗化し、細かい凹凸をつけることにより、外部応力を緩和させ、あるいはウイスカの発生を分散させ、ウイスカの成長を抑制する発明が既にいくつかなされている(例えば特許文献1〜3参照)。
【0007】
特許文献1にはSnめっきの下地金属にエッチング等の工程で凹凸をつけ、その上にSnまたはSn系合金めっきをすることで、粗化されためっき表面を得る方法が開示されている。特許文献2には、SnまたはSn系合金めっき後、バフ研磨やエミリークロス等を用いた研磨処理工程で、粗化されためっき表面を得る方法が開示されている。特許文献3には、SnまたはSn系合金めっき表面にレーザ光を移動させながら断続的に照射し、粗化されためっき表面を得る方法が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2006−124788号公報
【特許文献2】特開2006−156800号公報
【特許文献3】特開2006−216474号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記いずれの方法においても、フレキシブルフラットケーブルの製造に限らず、フレキシブルプリント配線板や他の配線体の製造に応用できるという汎用性を持つ反面、SnまたはSn系合金めっき工程の前、あるいは後に凹凸形成処理工程を追加することが必要となる。
【0010】
そこで、本発明は、前記事情を考慮してなされたものである。本発明の目的は、現行のフラットケーブルの製造工程に新たな工程を追加することなく、平角導体表面のSnまたはSn系合金めっき表面からのウイスカの発生を抑制することができるPbフリーのフラットケーブルの製造方法およびフラットケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、第1の発明は、SnまたはSn系合金めっきCu線を圧延して平角導体を形成し、該平角導体をリフロー処理した後、前記平角導体を複数本並べて絶縁体フィルムでラミネートすることによりフラットケーブルを製造する方法において、前記SnまたはSn系合金めっきCu線を表面が粗化された圧延ローラにて圧延することにより、前記リフロー処理後も前記平角導体およびそのめっき表面が粗化されていることを特徴とする。
【0012】
この場合、前記平角導体のSnめっきまたはSn合金めっきの厚さが2μm未満であることが好ましい。
【0013】
また、前記平角導体のめっき表面の平均粗さRaの値が0.1〜1.0μmであることが好ましい。
【0014】
さらに、前記平角導体のSn系合金めっきがSn以外の元素としてCu、Ag、Bi、Znの中から少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0015】
また、第2の発明は、前記フラットケーブルの製造方法により製造されたフラットケーブルであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、現行のフラットケーブルの製造工程に新たな工程を追加することなく、平角導体表面のSnまたはSn系合金めっき表面からウイスカが発生するおそれの少ない、あるいはほとんど発生しないPbフリーのフラットケーブルが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基いて詳述する。図1は本発明に係るフラットケーブルの製造工程で用いられる圧延ローラを概略的に示す斜視図、図2は平角導体の概略的拡大断面図、図3は本発明に係るフラットケーブルの製造方法で得られるフラットケーブルの概略的斜視図である。
【0018】
図1ないし図3に示すように、本実施形態におけるフラットケーブル1の製造方法は、SnまたはSn系合金めっきCu線2を圧延ローラ3により圧延して平角導体4を形成する第1工程(図1参照)と、この平角導体4をリフロー処理する第2工程(図示省略)と、前記平角導体4を複数本並べて絶縁体フィルム5でラミネートすることによりフラットケーブル1を得る第3工程(図3参照)とを有している。この場合、前記圧延ローラ3は、前記SnまたはSn系合金めっきCu線2を上下方向から加圧する上部圧延ローラ3aおよび下部圧延ローラ3bからなっている。また、前記第1工程で圧延と同時に前記平角導体4およびそのめっき表面を粗化するために、前記圧延ローラ3の表面3xは粗化されている。
【0019】
特に、前記第1工程においては、前記SnまたはSn系合金めっきCu線2をローラ表面3xが粗化された圧延ローラ(粗化ローラともいう)3にて圧延することにより、図2に示すように前記平角導体4の下地(Cu)4aおよびそのめっき表面(めっき層)4bが同時に粗化されて凹凸部6が形成され、前記リフロー処理後も前記平角導体4およびそのめっき表面4bが粗化されている。
【0020】
前記圧延ローラ3の表面3xを粗化する方法(工法)としては、例えばショットブラストあるいはショットピーニングと呼ばれる、金属例えば純鉄またはセラミックの粒子(粒子径は50μ程度)を金属製の圧延ローラ3の表面3xに投射して粗化(粗面化)することが好ましい。この工法によれば、投射する粒子の形状、密度、硬度や投射速度、投射角度、投射量を変えることで、圧延ローラ3の表面3xを任意な形状、粗さに粗化することができる。また、この工法によれば、圧延ローラ3の表面3x近傍に高い圧縮残留応力を与えて硬度が上昇するため、圧延ローラ3の耐久性が向上する(長寿命化が図れる)。
【0021】
粗化ローラによる圧延において、めっき部分のみが粗化された状態では、この後の熱処理工程(前記第2工程)でSnまたはSn系合金めっきが溶融し、平坦化するため、粗化しためっき表面形状を得ることができない。しかし、粗化ローラによる圧延工程でめっき下地のCuまで粗化できれば、熱処理後(リフロー処理後)においても粗化しためっき表面性状を得ることができる。
【0022】
このときSnまたはSn系合金めっきが厚いと、熱処理工程における溶融状態では下地が粗化されていても表面張力により平坦化してしまう。また、SnまたはSn系合金めっきが厚すぎると、粗化ローラによる変形が下地Cuまで達しない。そのため、SnまたはSn系合金めっきは適正な厚さにコントローラする必要がある。
【0023】
SnまたはSn系合金めっき厚が薄いと、はんだ濡れ性が低下するが、フラットケーブルの端末は、コネクタと接続することが多く、はんだ濡れ性は考慮しなくても良い。また、プリント基板等とはんだ接続する場合、そもそもコネクタとの嵌合接続部におけるような外部応力が働かないため、ウイスカが発生しにくく、従来のフラットケーブルを使用してもウイスカが問題となることはない。
【0024】
従って、SnまたはSn系合金めっき厚さtは平角導体に圧延された状態で2μm未満、より好ましくは1μm未満とすることが望ましい。このようにすれば、圧延工程で効果的に下地Cuを粗化することができ、またリフロー処理後(熱処理後)でもめっき表面を粗化した状態に維持することができる。
【0025】
Sn系合金としては、例えばSn−Cu、Sn−Ag、Sn−Bi、Sn−Znが好適である。
【0026】
このようにフラットケーブルを製造する方法によれば、SnまたはSn系合金めっきCu線2を圧延して平角導体4を形成し、該平角導体4をリフロー処理した後、前記平角導体4を複数本並べて絶縁体フィルム5でラミネートすることによりフラットケーブル1を製造する方法において、前記SnまたはSn系合金めっきCu線2を表面が粗化された圧延ローラ3にて圧延することにより、前記リフロー処理後も前記平角導体4およびそのめっき表面が粗化されているため、現行のフラットケーブルの製造工程に新たな工程を追加することなく、平角導体表面のSnまたはSn系合金めっき表面からのウイスカの発生を抑制することができる、Pbフリーのフラットケーブルが得られる。特に、従来の製造工程とほぼ同じ工程なので、特許文献1〜3に記載された技術よりも低コストで再現性良く、粗化(凹凸形成)が可能である。
【0027】
また、前記製造方法により得られたフラットケーブル1によれば、コネクタとの嵌合接続部における外部応力に起因する平角導体表面のSnまたはSn系合金めっき表面からのウイスカの発生を抑制することができ、ウイスカによる隣接配線間の短絡事故を防止することができる。
【実施例】
【0028】
SnめっきCu線2を伸線し、ショットピーニングにより任意に表面粗化された圧延ローラ3および従来の平滑な圧延ローラを用いて平角導体を圧延後、通電加熱により焼鈍(リフロー処理)したフラットケーブル用平角導体を試作し、更にその平角導体を用いてフラットケーブルを試作した。
【0029】
ついで、レーザ顕微鏡により平角導体表面の平均粗さを計測した。さらに、コネクタと嵌合させ室温で500時間放置した。そして、コネクタからフラットケーブルを外し、合計300pinの導体表面を電子顕微鏡で観察し、ウイスカの発生率、ウイスカの最大長を計測した。また、フラットケーブル用平角導体を屈曲試験(半径5mmの左右90°曲げ)により導体が破断するまでの屈曲回数を計測し、耐屈曲特性を評価した。表1にその結果を示す。なお、平角導体の幅wは0.3mm(図4参照)、厚さは0.035mmである。通電加熱による焼鈍は、錫の融点(232℃)以上の焼鈍である。図4は本発明に係るフラットケーブルの製造工程で表面が粗化されたSnめっき平角導体の表面を顕微鏡写真で示す図、図5は従来の製造工程による平滑なSnめっき平角導体の表面を顕微鏡写真で示す図である。
【0030】
【表1】

【0031】
表1から分かるように、Snめっき厚さおよび表面粗さが本発明の範囲内である導体No.(1)〜(3)を用いて試作したフレキシブルフラットケーブルは従来の工程で製造された導体No.(6)を用いたフレキシブルフラットケーブルよりもウイスカの発生が少なく、あるいはほとんどなく、良好な効果を得ることができた。
【0032】
また、導体の耐屈曲性も従来製造工程による導体と比較して遜色なく、良好であった。それに対し、表面粗さを本発明の範囲よりも粗くした導体No.(4)はウイスカの発生は見られなかったものの、屈曲特性に劣る結果となった。
【0033】
また、Snめっき厚さが本発明の範囲よりも厚い導体No.(5)は、焼鈍後表面の表面粗さが本発明の範囲より小さく、また従来よりもSnめっき厚さが厚いことにより、耐ウイスカ特性に劣る結果となった。
【0034】
本発明は前記実施の形態ないし実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲での変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係るフラットケーブルの製造工程で用いられる圧延ローラを概略的に示す斜視図である。
【図2】平角導体の概略的拡大断面図である。
【図3】本発明に係るフラットケーブルの製造方法で得られるフラットケーブルの概略的斜視図である。
【図4】本発明に係るフラットケーブルの製造工程で表面が粗化されたSnめっき平角導体の表面を顕微鏡写真で示す図である。
【図5】従来の製造工程による平滑なSnめっき平角導体の表面を顕微鏡写真で示す図である。
【図6】コネクタとフラットケーブルの嵌合例を示す斜視図である。
【図7】嵌合部におけるウイスカの発生と隣接配線間の短絡の様子を示す拡大斜視図である。
【符号の説明】
【0036】
1 フラットケーブル
2 SnまたはSn系合金めっきCu線
3 圧延ローラ
4 平角導体
5 絶縁フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SnまたはSn系合金めっきCu線を圧延して平角導体を形成し、該平角導体をリフロー処理した後、前記平角導体を複数本並べて絶縁体フィルムでラミネートすることによりフラットケーブルを製造する方法において、前記SnまたはSn系合金めっきCu線を表面が粗化された圧延ローラにて圧延することにより、前記リフロー処理後も前記平角導体およびそのめっき表面が粗化されていることを特徴とするフラットケーブルの製造方法。
【請求項2】
前記平角導体のSnめっきまたはSn系合金めっきの厚さが2μm未満であることを特徴とする請求項1に記載のフラットケーブルの製造方法。
【請求項3】
前記平角導体のめっき表面の平均粗さRaの値が0.1〜1.0μmであることを特徴とする請求項1に記載のフラットケーブルの製造方法。
【請求項4】
前記平角導体のSn系合金めっきがSn以外の元素としてCu、Ag、Bi、Znの中から少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載のフラットケーブルの製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れかに記載のフラットケーブルの製造方法により製造されたことを特徴とするフラットケーブル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−193771(P2009−193771A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31657(P2008−31657)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【出願人】(300055719)日立電線ファインテック株式会社 (96)
【Fターム(参考)】