フラボバクテリウム・オケアノコイテス(FOKI)制限エンドヌクレアーゼにおける機能ドメイン
【課題】ゲノムのマッピングおよび配列決定に有用なハイブリッド制限酵素を得ることができる、DNAセグメントおよびこのDNAセグメントを有するDNA構築物の提供。
【解決手段】FokI制限エンドヌクレアーゼの開裂活性を含むFokI制限エンドヌクレアーゼの触媒ドメインをコードする第一のDNAセグメントと、FokI制限エンドヌクレアーゼの認識ドメイン以外の配列特異的認識ドメインをコードする第二のDNAセグメント。これらのDNAセグメントをベクターに対して動作可能に連結してDNA構築物を得る。前記認識ドメインは、Ubxのホメオドメインである。
【解決手段】FokI制限エンドヌクレアーゼの開裂活性を含むFokI制限エンドヌクレアーゼの触媒ドメインをコードする第一のDNAセグメントと、FokI制限エンドヌクレアーゼの認識ドメイン以外の配列特異的認識ドメインをコードする第二のDNAセグメント。これらのDNAセグメントをベクターに対して動作可能に連結してDNA構築物を得る。前記認識ドメインは、Ubxのホメオドメインである。
【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
〔発明の背景〕
1.発明の技術分野
本発明はFokI制限エンドヌクレアーゼ系に関する。特に、本発明はこの制限エンドヌクレアーゼ系の分離した機能ドメインをコードするDNAセグメントに関する。
【0002】
本発明はまた、FokIエンドヌクレアーゼの二種類の挿入変異体の構築に関する。
【0003】
加えて、本発明は超双胸系(Ultrabithorax)UbxホメオドメインをFokIの開裂ドメイン(FN)に連結することによって製造されるハイブリッド酵素(Ubx−FN)に関する。
【0004】
2.従来技術
II型エンドヌクレアーゼおよび修飾メチラーゼ(modification methylase)は、二本鎖DNA中の特定の配列を認識するバクテリア酵素である。このエンドヌクレアーゼはDNAを開裂するのに対し、該メチラーゼはアデニン残基またはシトシン残基をメチル化して宿主ゲノムを開裂から保護する[II型制限酵素および修飾酵素;「ヌクレアーゼ」(Mordrich and Roberts編);ニューヨーク、コールドスプリングハーバーラボラトリーズ社刊;第109〜154頁;1982年]。これらの制限−修飾(R−M)系は、この系がなければ細胞を破壊するようなファージおよびプラスミドによる感染から、細胞を保護するように機能する。
【0005】
200以上の特異性を有する2500もの制限酵素が検出され、生成されている(Wilson and Murray, Annu. Rev. Genet. 25:585-627, 1991)。これら殆どの酵素の認識部位は、4〜6塩基対の長さである。ファージゲノムは通常は小さく、またファージにはこれらの小さい認識部位が高頻度で存在するから、認識部位の大きさがこのように小さいことは有益である。
【0006】
IIS型のクラスに属する、35以上の特異性をもった80の異なるR−M系が同定されている。このクラスは、酵素の開裂部位が認識配列から離れている点において特徴的である。通常、認識部位と開裂部部位との間の距離は極めて正確である(Szybalski et al., Gene, 100:13-26, 1991)。これら全ての酵素のうち、FokI制限エンドヌクレアーゼは、最も良く特徴が調べられているIIS型クラスの酵素である。このFokIエンドヌクレアーゼ(RFokI)は、二本鎖DNAにおける非対称なペンタヌクレオチド、即ち、一方の鎖の5′−GGATG−3′(配列番号1)および他方の鎖の3′−CCTAC−5′(配列番号2)を認識し、該認識部位から離間した部位に千鳥状(段違い)の開裂を導入する(Sugisaki et al., Gene 16:73-78; 1981)。これとは対照的に、 FokIメチラーゼ(MFokI)はDNAを修飾することにより、該DNAを、FokIエンドヌクレアーゼによる消化に対して耐性にする。このFokI制限遺伝子およびFokI修飾遺伝子はクローン化され、そのヌクレオチド配列が推定されている(Kita et al., J. of Biol. Chem., 264:575-5756, 1989)。にもかかわらず、FokI制限エンドヌクレアーゼのドメイン構造は、3ドメイン構造が示唆されてはいるが(Wilson and Murray, Annu. Rev. Genet. 25:585-627)、未だ未知のままである。
【0007】
〔発明の概要〕
従って、本発明の一つの目的は、IIS型制限エンドヌクレアーゼの単離されたドメインを提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は、ゲノムのマッピングおよび配列決定に有用なハイブリッド制限酵素を提供することである。
【0009】
本発明の更なる目的は、野生型酵素に比較して、認識部位から開裂部位までの距離が増大された、FokIの二つの挿入変異体を提供することである。この二つの変異体を構築するために、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が利用される。
【0010】
本発明の他の種々の目的および利点は、添付の図面および以下の説明から明らかになるであろう。
【0011】
一つの態様において、本発明は、IIS型エンドヌクレアーゼの配列特異的認識活性を含んだIIS型エンドヌクレアーゼの認識ドメインをコードするDNAセグメント;並びにIIS型エンドヌクレアーゼの開裂活性を含んだIIS型エンドヌクレアーゼの触媒ドメインをコードするDNAセグメントに関する。
【0012】
他の態様において、本発明は、実質的にFokI制限エンドヌクレアーゼのN末端または認識ドメインからなり、且つ前記エンドヌクレアーゼの配列特異的認識活性を有する単離されたタンパク;または実質的にFokI制限エンドヌクレアーゼのC末端または触媒ドメインからなり、且つ前記エンドヌクレアーゼのヌクレアーゼ活性を有する単離されたタンパクに関する。
【0013】
更なる態様において、本発明はDNA構築物であって、IIS型エンドヌクレアーゼの開裂活性を含むIIS型エンドヌクレアーゼの触媒ドメインをコードする第一のDNAセグメントと;前記IIS型エンドヌクレアーゼの認識ドメイン以外の配列特異的認識ドメインをコードする第二のDNAセグメントと;ベクターとを含んだDNA構築物に関する。この構築物において、第一のDNAセグメントおよび第二のDNAセグメントは動作可能にベクターに連結されて、ハイブリッド制限酵素を産生するようになる。上記の連結は共有結合を介して行われる。
【0014】
本発明のもう一つの態様は、原核細胞であって、IIS型エンドヌクレアーゼの開裂活性を含んだIIS型エンドヌクレアーゼの触媒ドメインをコードする第一のDNAセグメントと;前記IIS型エンドヌクレアーゼの認識ドメイン以外の配列特異的認識ドメインをコードする第二のDNAセグメントと;ベクターとを含む原核細胞に関する。第一のDNAセグメントおよび第二のDNAセグメントは、単一のタンパクが産生されるように、動作可能に前記ベクターに連結される。第一のDNAセグメントは、例えばFokIの触媒ドメイン(FN)をコードしてもよく、また第二のDNAセグメントは、例えばUbxのホメオドメインをコードしてもよい。
【0015】
他の態様において、本発明は、ハイブリッド制限酵素であって、IIS型エンドヌクレアーゼの開裂活性を含むIIS型エンドヌクレアーゼの触媒ドメインを含んでおり、該触媒ドメインは、この触媒ドメインの取得源であるIIS型エンドヌクレアーゼ以外の酵素またはタンパクの認識ドメインに連結されているハイブリッド制限酵素に関する。
【0016】
更に別の態様において、本発明はDNA構築物であって、IIS型エンドヌクレアーゼの開裂活性を含んだIIS型エンドヌクレアーゼの触媒ドメインをコードする第一のDNAセグメントと;前記IIS型エンドヌクレアーゼの認識ドメイン以外の配列特異的認識ドメインをコードする第二のDNAセグメントと;前記第一のDNAセグメントおよび前記第二のDNAセグメントの間に挿入された、1以上のコドンを含む第三のDNAセグメントと;ベクターとを含んだDNA構築物に関する。好ましくは、前記第三のセグメントは4または7のコドンを含んでいる。
【0017】
他の態様において、本発明は原核細胞であって、IIS型エンドヌクレアーゼの開裂活性を含んだIIS型エンドヌクレアーゼの触媒ドメインをコードする第一のDNAセグメントと;前記IIS型エンドヌクレアーゼの認識ドメイン以外の配列特異的認識ドメインをコードする第二のDNAセグメントと;前記第一のDNAセグメントおよび前記第二のDNAセグメントの間に挿入された、1以上のコドンを含む第三のDNAセグメントと;ベクターとを含んだ原核細胞に関する。
【0018】
〔発明の詳細な説明〕
本発明は、FokI制限エンドヌクレアーゼの機能ドメインの同定および特徴付けに基づいている。本発明に至る実験において、FokI制限エンドヌクレアーゼは2ドメイン系であり、その一つのドメインは配列特異的認識活性を有するのに対して、他方のドメインはヌクレアーゼ開裂活性を含んでいることが見出された。
【0019】
このFokI制限エンドヌクレアーゼは、二本鎖DNA中の非パリンドローム配列である5′−GGATG−3′(配列番号1):5′−CATCC−3′(配列番号2)を認識し、該認識部位から9/13ヌクレオチド下流を開裂させる。このDNAヘリックスの1回転には10塩基対を必要とするので、発明者は、該酵素は一点で結合することによってDNA面と相互作用し、該ヘリックスの次の回転の他点で切断するのあろうと仮定した。これは、離間した二つのタンパクドメイン(即ち、一つはDNAの配列特異的認識のためのドメイン、他の一つはエンドヌクレアーゼ活性のためのドメイン)の存在を示唆している。この仮定された2ドメイン構造は、本発明に至る研究によって、 FokIエンドヌクレアーゼ系の正しい構造であることが示された。
【0020】
従って、一態様において、本発明は、FokI制限エンドヌクレアーゼのN末端(好ましくは、該タンパクの2/3に当たるN末端部分)をコードするDNAセグメントに関する。このセグメントは、当該エンドヌクレアーゼの配列特異的認識活性を有するタンパクをコードする。即ち、このコードされたタンパクは、二本鎖DNA中の非パリンドローム配列であるd−5′−GGATG−3′(配列番号1):5′−CATCC−3′(配列番号2)を認識する。好ましくは、本発明のこのDNAセグメントとは、FokIエンドヌクレアーゼのアミノ酸1-382をコードする。
【0021】
更なる態様において、本発明はFokI制限エンドヌクレアーゼのC末端をコードするDNAセグメントに関する。本発明のこのDNAセグメントによってコードされるタンパクは、 FokI制限エンドヌクレアーゼのヌクレアーゼ開裂活性を有している。好ましくは、本発明のDNAセグメントはFokIエンドヌクレアーゼのアミノ酸383-578をコードする。本発明のDNAセグメントは、当該技術において公知の方法、例えばゲル電気泳動、アフィニティークロマトグラフィー、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、またはこれらの組合せを用いて、生物学的サンプルから容易に単離することができる。更に、本発明のDNAセグメントは、当該技術において標準的な方法を用いて、化学的に合成することができる。
【0022】
本発明はまた、本発明のDNAセグメントによってコードされるタンパクに関する。従って、他の態様において、本発明は実質的にFokIエンドヌクレアーゼのN末端からなり、当該酵素の配列特異的認識活性を保持しているタンパクに関する。本発明のこのタンパクは、2-メルカプトエタノールの存在下でのSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動で測定された約41キロドルトンの分子量を有している。
【0023】
更なる態様において、本発明は、実質的にFokI制限エンドヌクレアーゼのC末端(好ましくは該タンパクのC末端部分1/3)からなるタンパクに関する。2-メルカプトエタノールの存在下でのSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動で測定したとき、このタンパクの分子量は約25キロドルトンである。
【0024】
本発明のタンパクは、当該技術分野において周知の方法によって、生物学的サンプルから単離または精製することができる。例えば、このタンパクはFokI制限エンドヌクレアーゼを単離し、開裂することによって得ることができる。或いは、本発明のタンパクは化学的に合成し、または組換えDNA技術を用いて製造し、精製することができる。
【0025】
本発明のDNAセグメントは、他のDNA結合性タンパクドメインをFokIのヌクレアーゼ若しくは開裂ドメインと結合することにより、「ハイブリッド」タンパクを作製するために使用することができる。これは組換えDNA技術によると同様、化学的にも達成することができる。このようなキメラハイブリッド酵素は新規な配列特異性を有し、ヒト、マウスおよび植物のような様々な種におけるゲノムの生理的マッピングおよび配列決定のために有用である。例えば、このような酵素はヒトゲノムのマッピングにおける使用に適しているであろう。また、これらの加工されたハイブリッドエンドヌクレアーゼは、ゲノムDNAの取り扱いを容易にし、タンパク構造およびタンパク設計に関して価値のある情報を提供するであろう。
【0026】
このようなキメラ酵素はまた、組換えDNA技術および分子生物学において価値のある研究手段である。現在のところ、4〜6塩基対のカッターおよび幾つかの8塩基対カッターが商業的に入手可能であるに過ぎない。(>6塩基対を切断する商業的に入手可能な約10種類のエンドヌクレアーゼが存在している。) 他のDNA結合性タンパクをFokIのヌクレアーゼドメインに結合させることによって、DNA中の7塩基対以上を認識する新規な酵素を作製することができる。
【0027】
従って、更なる態様においては、本発明はDNA構築物と、その中に暗号化されているハイブリッド制限酵素に関する。本発明のDNA構築物は、FokI制限エンドヌクレアーゼのヌクレアーゼドメインをコードする第一のDNAセグメントと、配列特異的認識ドメインをコードする第二のDNAセグメントと、ベクターとを含んでいる。第一のDNAセグメントおよび第二のDNAセグメントは、これらセグメントを発現してキメラ制限酵素を生じることができるように、動作可能にベクターに連結される。この構築物は、プロモータ(例えば、T7、tac、trpおよびlac・UV5プロモータ)、転写ターミネータまたはレトロ調節因子類(retroregulators)(例えば、ステムループ(stem loop))のような調節因子を含むことができる。ホスト細胞(E. coliのような原核細胞)は、本発明のDNA構築物で形質転換して、キメラ制限酵素の製造に用いることができる。
【0028】
本発明のハイブリッド酵素は、他の酵素またはDNA結合性タンパク(例えば6塩基対を認識する、天然に存在するDNA結合性タンパク)に結合されたFokIのヌクレアーゼドメインから構成されている。適切な認識ドメインとしては、ジンクフィンガーモチーフの認識ドメイン;ホメオドメインモチーフ;POUドメイン(真核転写レギュレータ、例えば、Pit1、Oct2およびunc86);ラムダリプレッサ、lacリプレッサ、cro、gal4の他のDNA結合性タンパクドメイン;myc、junのような発癌遺伝子のDNA結合性タンパクドメイン;および>6塩基対を認識する他の天然に存在する配列特異的なDNA結合性タンパクが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
本発明のハイブリッド制限酵素は、当業者が公知の方法論を用いて製造することができる。例えば、該酵素は化学的に合成することができ、或いは当該技術において周知の組換えDNA技術を用いて製造することができる。本発明のハイブリッド酵素は、本発明のDNA構築物を含むホスト細胞(HB101、RR1、RB791およびMM294を培養し、当該タンパクを単離することによって製造することができる。更に、当該ハイブリッド酵素は、当該技術で公知の普通の連結技術、例えばEDC/NHS、DSP等のようなタンパク架橋剤を用いて、例えばFokIのヌクレアーゼドメインを認識ドメインに連結することによって、化学的に合成することができる。
【0030】
本発明に従って作製することができ、従って本発明の一つの態様である特別なハイブリッド酵素は、Ubx−FNである。このキメラ制限エンドヌクレアーゼは、UbxホメオドメインをFokIの開裂ドメイン(FN)に連結することによって製造することができる。精製に続いて、当該ハイブリッド酵素の特性を分析した。
【0031】
FokI制限エンドヌクレアーゼは以下の実験において研究された酵素であるが、他のタイプのIISエンドヌクレアーゼ類(例えば表2に掲載したもの)は、本発明に基づいて当業者が容易に測定できるであろう同様の2ドメイン構造を用いて機能するであろうことが期待される。
【0032】
最近、ストレプトコッカス・サングイス(Streptococcus sanguis)から、StsI、即ちFokIのヘテロ分裂体(heteroschizomer)が単離された(Kita et al., Nucleic Acid Research 20 (3),618, 1992)。このStsIは、FokIと同じ非パリンドロームのペンタデオキシリボヌクレオチド、即ち、5′−GGATG−3′:5′−CATCC−3′を認識するが、該認識部位の10/14ヌクレオチド下流を開裂する。このStsI・RM系はクローニングされ、配列決定されている(Kita et al., Nucleic Acid Research 20 (16) 4167-72, 1992)。二つのエンドヌクレアーゼであるFokIとStsIの間に、顕著なアミノ酸配列の相同性(略30%)が検出された。
【0033】
本発明の他の態様は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いた、FokIエンドヌクレアーゼの二つの挿入変異体の構築に関する。特に、この態様にはDNA構築物であって、IIS型エンドヌクレアーゼの開裂活性を含んだIIS型エンドヌクレアーゼの触媒ドメインをコードする第一のDNAセグメントと;前記IIS型エンドヌクレアーゼの認識ドメイン以外の配列特異的認識ドメインをコードする第二のDNAセグメントと;1以上のコドンを含む第三のDNAセグメントとを含んだDNA構築物に関する。第三のDNAセグメントは、第一のDNAセグメントおよび第二のDNAセグメントの間に挿入される。この構築物はベクターをも含んでいる。上記のIIS型エンドヌクレアーゼは、FokI制限エンドヌクレアーゼである。
【0034】
適切な認識ドメインとしては、ジンクフィンガーモチーフ;ホメオドメインモチーフ;POUドメイン;リプレッサのDNA結合性ドメイン;発癌遺伝子のDNA結合性メイン;および>6塩基対を認識する他の天然に存在する配列特異的なDNA結合性タンパクが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
上記で述べたように、FokI制限エンドヌクレアーゼの認識ドメインはFokIエンドヌクレアーゼのアミノ末端に存在するのに対して、開裂ドメインは、おそらくは該分子のカルボキシ末端側1/3(the carboxyl terminal third of the molecule)に存在する。上記のドメインはリンカー領域によって結合され、これによってDNA基質の認識部位と開裂部位との間の距離が決定される。このFokIのリンカー領域は、DNA基質の存在下においてトリプシンにより開裂し、41kDaのアミノ末端フラグメント(DNA結合性ドメイン)および25kDaのカルボキシ末端フラグメント(開裂ドメイン)を生じ易い。一次アミノ酸配列に基づくFokIの二次構造予測はこの仮説を支持している(図10参照)。この予測された構造は、認識ドメインと開裂ドメインとの連結部における、長く伸びたアルファヘリックス領域を明らかにしている。このヘリックスは多分、該酵素の二つのドメインを結合するリンカーを構成している。こうして、認識部位からのFokIの開裂距離はこのスペーサ(アルファヘリックス)の長さを変化させることによって変更できるであろうことが教示された。アルファヘリックスの1回転(one turn)には3.6のアミノ酸が必要とされるから、この領域に4コドンまたは7コドンを挿入することによって、天然の酵素に存在しているヘリックスは夫々1回転または2回転だけ延長されるであろう。このヘリックス領域のアミノ酸配列を詳細に検査することによって、アミノ酸EEKで離間された二つのKSEL反復の存在(図10)が明らかになった(配列番号21参照)。KSELセグメント(4コドン)(配列番号22参照)およびKSELEEK(7コドン)(配列番号23参照)は、このヘリックスを夫々1回転および2回転だけ延長するためにヘリックス中に挿入するための良好な選択であると思われる。 (実施例XおよびXIを参照のこと) こうして、変異体酵素を作製するために遺伝子工学が利用された。
【0036】
特に、これらの変異体は1以上、好ましくは4または7のコドンをFokIの認識ドメインと開裂ドメインとの間に挿入することによって得られる。より特定的には、当該エンドヌクレアーゼをコードする遺伝子のヌクレオチド1152に4コドンおよび7コドンが挿入される。この変異体は、野生型酵素と同様のDNA配列特異性を有している。しかしながら、野生型酵素と比較すると、これらは、DNA基質の両鎖の認識部位から更に離間した一つのヌクレオチドを開裂する。
【0037】
100bpフラグメントの開裂に基づくFokIおよび変異体の切断部位の分析が、図15に纏めてある。FokIの認識部位と開裂部位との間に4(または7)コドンを挿入すると、認識部位から開裂部位までの距離の増加が伴う。この情報は、FokIエンドヌクレアーゼ内に、二つの離間したタンパクドメイン(一つは配列特異的認識部位であり、他方はエンドヌクレアーゼ活性である)が存在することを更に支持する。この二つのドメインは、DNA基質の認識部位と開裂部位との間の距離を決定するリンカー領域によって結合される。この酵素のモジュール構造は、他のDNA結合性タンパクをFokIエンドヌクレアーゼの開裂ドメインに連結することによって、異なった配列特異性のキメラエンドヌクレアーゼを構築することが容易であろうことを示唆している。
【0038】
上述した情報の観点から、本発明の他の態様には、原核細胞であって、IIS型エンドヌクレアーゼの開裂活性を含んだIIS型エンドヌクレアーゼの触媒ドメインをコードする第一のDNAセグメントと;前記IIS型エンドヌクレアーゼの認識ドメイン以外の配列特異的認識ドメインをコードする第二のDNAセグメントと;1以上のコドンを含む第三のDNAセグメントとを含んだ原核細胞が含まれる。第三のDNAセグメントは、第一のDNAセグメントおよび第二のDNAセグメントの間に挿入される。また、この細胞はベクターをも含んでいる。加えて、前記第一のDNAセグメント、前記第二のDNAセグメントおよび前記第三のDNAセグメントは、単一のタンパクが産生されるように前記ベクターに対して動作可能に連結される。前記第三のセグメントは、実質的に4または7のコドンからなっていてもよい。
【0039】
また、本発明には上記で述べた原核細胞によって産生されるタンパクが含まれる。特に、この単離されたタンパクは実質的に、FokI制限エンドヌクレアーゼの認識ドメインと、FokI制限エンドヌクレアーゼの触媒ドメインと、前記第三のDNAセグメントに存在するコドンによってコードされるアミノ酸とからなっている。
【0040】
以下の制限的でない実施例は、本発明をより詳細に説明するために与えられるものである。
【0041】
〔実施例〕
実施例I
FokIRM系のクローニング
FokI系を、変更表現型を選択する事によってクローンした。フラボバクテリウム・オケアノコイテス(Flavobacterium okeanokoites) 株DNAを、カゼルタら(Caserta et al., J. Biol. Chem., 262:4770-4777, 1987) によって記載された方法によって単離した。 数個のフラボバクテリウム・オケアノコイテスのゲノムライブラリーを、プラスミドpBR322及びpUC13中に、クローニング酵素PstI、BamHI及びBglIIを使用して構築した。プラスミド・ライブラリーDNA(10μg)を、100ユニットのFokIエンドヌークレアーゼで消化し、FokIM+表現型を発現するプラスミドを選択した。
【0042】
生存プラスミドをRRI細胞にトランスフォーム(形質転換)し,形質転換物細胞を適切な抗生物質を含むプレート上で選択した。生化学的濃縮を二回行なった後、fokIM+表現型を発現する数個のプラスミドをこれらのライブラリーから同定した。これらのクローン由来のプラスミドは、FokIによる消化に対して完全に抵抗性を示した。
【0043】
F.オケアノコイテスのpBR322 PstIライブラリーから分析して得られた8つの形質転換物の内、二つは,fokIM遺伝子を担持していたようであり、これらに由来するプラスミドは、5.5kbのPstI断片を含んでいた。F.オケアノコイテスのpBR322 BamHIライブラリーからピックアップされた8つの形質転換物の内、二つは,fokIM遺伝子を担持していたようであり、これらに由来するプラスミドは、18kbのBamHI断片を含んでいた。pUC13中のF.オケアノコイテスのゲノムBglIIライブラリーから分析された8つの形質転換物の内、6つが、fokIM遺伝子を担持していたようであり、これらのクローンの内3つが、8kbのBglII挿入物を担持し、残りは16kbのBglII断片を担持していた。
【0044】
これらのクローンについてのファージλのプレーテイング効率から、これらのクローンもまた、fokIR遺伝子を担時している事が示唆される。8kb のBglII挿入物を担持するクローンは、ファージ感染に一番抵抗性を示したようだ。更に,FokIエンドヌクレアーゼ活性が、ホスホセルロース・カラムで、部分精製を行った後のこのクローンの粗抽出物中で検出された。このクローン由来のプラスミド、pUCfokIRMを選んで、更に特徴付けを行った。
【0045】
5.5kb PstI断片を、M13ファージにトランスファーし、この挿入物の部分的ヌクレオチド配列を、サンガーのシークエンス法 (Sanger et al., PNAS USA, 74:5463-5467, 1977)を使用して決定した。FokIRM系の完全なヌクレオチド配列は、別の研究室(Looney et al., Gene, 80:193-208, 1989; Kita et al., Nucleic Acid Res., 17:8741-8753, 1989; Kita et al., J. Biol. Chem. 264:5751-5756, 1989)によって公表されている。
【0046】
実施例II
ポリメラーゼ・チエイン・リアクションを使用したFokIエンドヌクレアーゼの効率的過剰生産者クローンの構築
PCRテクニックを使用してfokIR遺伝子を囲む転写及び翻訳信号を変更し、大腸菌における過剰発現を遂行した(Skoglund et al., Gene, 88:1-5, 1990)。fokIR及びfokIM遺伝子に先行するリボソーム結合部位を変更し、共通する大腸菌信号に適合させる。
【0047】
PCR反応において、BamHIで直線化されたプラスミドpUCfokIRM DNAが、テンプレートとして使用された。PCR反応物(100μl)には、0.25 nmolの各プライマー 、50 μMの各dNTP、10 mM Tris.HCl(pH8.3、25℃)、50 mM KCl, 1.5 mM MgCl2, 0.01%(w/v)ゼラチン、1 ngのテンプレートDNA、5ユニットのTaq DNAポリメラーゼが含まれていた。fokIR及びfokIM遺伝子の増幅に使用されるオリゴプライマーを、図1に示す。反応混合物(4重に行なう)上に鉱物油を載置し、パーキン・エルマー・シータス(Perkin-Elmer-Cetus)熱サイクラーを使用して反応を実施した。
【0048】
最初のテンプレート変性は2分間とプログラムされた。その後、サイクルプロフィルは、37℃で2分(アニーリング)、72℃で5分(伸張)、94℃で1分(変性)というようにプログラムされた。このプロフィルを25サイクル繰り返し、最後の72℃伸張を10分まで延長した。反応混合物の水層をプールし、1:1フェノール/クロロフォルムで一回、クロロフォルムで二回、抽出した。DNAをエタノールで沈澱させ、20μlのTE緩衝液[10mM Tris.HCl(pH7.5)、1mM EDTA]で再懸濁した。次に、DNAを適切な制限酵素で切断して付着末端を生成し、ゲル精製を行なった。
【0049】
過剰生産者クローンの構築は、二段階で行なわれた。はじめに、fokIM遺伝子を含むPCR産生DNAをNcoIで消化し、ゲル精製を行った。次に、該DNAをNcoI切断し、脱リン酸化されたpACYC184に連結し、該組替DNAは、マニアチス(Maniatis et al., Molecular Cloning. A laboratory manual Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY, 1982). 等に記載の様に受容可能状態(コンピテント)にした大腸菌PB791igまたはRRI細胞にトランスフェクトされた。 Tc選択後、数個のクローンをピックアップし、プラスミドDNAを制限分析にかけ、fokIM遺伝子断片がベクターのクロラムフェニコールのプロモーターに対して正しい方向で存在しているかどうかについて調べた(図2参照)。該プラスミドは、FokIメチラーゼを構成的に発現する。これは、fokIR遺伝子を、適合性プラスミドのホスト中に導入する際のホストの染色体切断を防ぐ。それ故、これらのクローン由来のプラスミドDNAは、FoKI消化に対して、抵抗性がある。
【0050】
次に、PCRで産生されたfokIR断片は、BamHIに切断され、脱リン酸化された高発現ベクターpRRSまたはpCBに連結された。pRRSは、lac UV5 プロモータ及び強tacプロモータを含むpCBを担持している。加えて、これらのベクターは、挿入されたfokIR遺伝子のバチルス・サーリンジェンシス(Bacillus Thuringiensis) 下流の結晶タンパク質をコードする遺伝子に由来する陽性レトロ調節ステップループ配列を含んでいる。
【0051】
該組替DNAを受容可能な大腸菌RB791ig[pACYCfokIM]または、RR1[pACYCfokIM]細胞にトランスフェクトした。Tc及びAp抗生物質選択をした後、数個のクローンをピックアップして、プラスミドDNAを制限分析にかけ、fokIR遺伝子がベクター・プロモータからの発現について正しい配向にあるかどうかについて調べた。次に、これらの構築物の酵素産生について調べた。
【0052】
酵素を産生するために、プラスミド含有RB791igまたは、RR1細胞を、37℃で、20μgTc/ml(pUCfokIRMプラスミド以外)及び50μg Ap/mlを補給した2倍濃縮のTY培地[1.6%トリプトン、1%酵素抽出物、0.5%NaCl(pH7.2)]中で、振盪しながら生育させた。細胞密度がO.D.600=0.8に達した時、IPTGを濃度1mMまで加えた。該細胞を、振盪しながら一晩(12時間)インキュベートした。 図2に示すように、両構築物はFokIを全細胞蛋白の5−8%のレベルまで産生した。
【0053】
実施例III
FoKIエンドヌクレアーゼの精製
シンプルな3段階精製法を使用して、電気泳動法的に均質なFokIエンドヌクレアーゼを得た。RR1[pACYCfokIM、pRRSfokIR]を、37℃で、20 μg Tc/ml及び50 μg/Ap mlを含む2倍濃縮のTY6l中で、A600=0.8まで生育させ、1mM IPTGで、一晩誘導した。遠心分離によって細胞を収穫し、50 mM NaClを含む250mlの緩衝液A[10 mM Tris燐酸(pH8.0)、7 mM 2ーメルカプトメタノール、1mM EDTA、10% グリセロール]中に再懸濁した。
【0054】
該細胞を、ブランソン(Branson)超音波器で、最高強度、一時間4℃で破砕した。超音波破砕された細胞は12、000g、2時間、4℃で、遠心分離された。上澄液を、50 mM NaClを含む緩衝液Aで、1Lまで希釈した。上澄液を、50 mM NaClを含む緩衝液Aで予め平衡化された10mlのホスホセルロース(Whatman)カラムに充填した。該カラムを、50mlのローデイグ緩衝液で洗浄し、蛋白を緩衝液中、0.05Mから0.5MのNaClの80ml全勾配で抽出した。各画分は、A280吸光でモニターされ、SDS(0.1%)ポリアクリルアミド(12%)ゲル(Laemmli, Nature 222,:680-685, 1970)上の電気泳動法で分析された。蛋白は、クマシー・ブルーで染色された。
【0055】
各分画の制限エンドヌクレアーゼ活性を、pTZ19Rを基質として使用して分析した。FokIを含む各分画はプールされ、燐酸アルミニウムで分画された。50−70%の硫酸アルミニウム分画は、FokIエンドヌクレアーゼを含有していた。沈澱物は、25 mM NaClを含む緩衝液50ml中に再懸濁され、DEAEカラムに充填された。多くの不純蛋白はDEAEに結合するのに対して、FokI結合しない。流出液は燐酸セルロースカラムで濃縮した。ゲルろ過(AcA44)カラムを使用して精製が更になされた。FokIは、本方法を使用して、電気泳動的に均質になるまで、精製された。
【0056】
各精製段階に存在する蛋白種のSDS(0.1%)ポリアクリルアミド(12%)ゲル電気泳動プロフィルを、図3に示す。精製された酵素の最初の10アミノ酸の配列が、蛋白のシークエンスにより決定された。決定された配列は、ヌクレオチド配列から推定されたものと同じであった。精製された酵素の結晶を、PEG4000を沈澱剤として使用して、成長させた。FokIエンドヌクレアーゼは、AcA44ゲルろ過カラムを使用して、さらに精製された。
【0057】
実施例IV
DNA基質の存在下におけるトリプシン開裂によるFokIRエンドヌクレアーゼの分析
トリプシンはセリン・プロテアーゼであり、リジン及びアルギニン残基のC末端で開裂する。これは、蛋白及び酵素のドメイン構造を研究するのに大変有用な酵素である。FokIのトリプリン消化は、その基質、d-5'-CCTCTGGATGCTCTC-3'(配列認識番号10): 5'-GAGAGCATCCAGAGG-3'(配列認識番号11)の存在下で、オリゴヌクレオチド二量体:FokI分子比 =2.5:1で、実施された。FokI(200μg)をオリゴヌクレオチド二量体と一緒に、10 mM Tris・HCl、50 mM NaCl、10 % グリセロール、10 mM MgCl2、を含む容積180μl中で、室温にて1時間インキュベートした。トリプシン(20 μl、0.2 mg/ml)を、混合物中に添加した。反応混合物からアリコット(28μl)を別々の時間間隔をおいてとり、過剰のトリプシン阻害剤、アンチパインでクエンチングした。該トリプシン断片を、逆相HPLCで精製し、そのN末端配列を、Applied Biosystemの自動蛋白シークエンサーを使用して決定した。
【0058】
2.5モル過剰オリゴヌクレオチド基質、10mg MgCl2、存在下におけるFokIエンドヌクレアーゼのトリプシン消化の時間経過が、図4に示される。2.5分時点で、完全なFokI以外、わずか二つの主要断片、41kDa,25kDa断片のみが存在していた。さらにトリプシンで消化すると、41kDa断片は、30kDa、11kDa断片に分解される。この25kDaの断片は、更にこれ以上のトリプシン消化に対して抵抗性があるようだ。この断片は、もしFokIーオリゴ複合体のトリプシン消化をMgCl2非存在下で実施したとしたら、もっと不安定であっただろう。
【0059】
160分時点では、わずか3つの主要断片(30、25、および11kDa)が存在していた。これらの断片(41、30、25、11kDaの各々は、逆相HPLCで精製され、そのN末端のアミノ酸配列が決定された(表1)。これらのN末端配列を、FokIの推定配列と比較する事によって、41kDa及び25kDa断片は、それぞれN末端及びC末端の断片と同定された。加えて、30kDaは、N末端であると同定された。
【0060】
実施例V
オリゴdTセルロース親和性カラムを使用したFokIエンドヌクレアーゼのDNA結合トリプシン断片の単離
トリプシン断片のDNA結合性を、オリゴdTセルロース・カラムを使用して分析した。FokI(160μg)を2.5モル過剰オリゴヌクレチド二量体[d-5'-CCTCTGGATGCTCTC(A)15-3'(配列認識番号14):5'-GAGAGCATCCAGAGG(A)15-3'( 配列認識番号15)と一緒に、10 mM Tris・HCl(pH8)、50 mM NaCl、10% グリセロール、10mM MgCl2を含む容積90 μl中で、室温にて1時間インキュベートした。トリプシン(10 μl、0.2mg/ml)を該溶液に添加して消化を開始した。トリプシンとFokIの割合は、重量で1:80であった。消化を10分間実施し、反応液中に41 kDa N末端断片及び25 kDa C末端断片を優占的に得た。反応物を大過剰のアンチパイン(10μg)で、クエンチングし、ローデイング緩衝液[10 mM Tris・HCl(pH8.0)、1 mM EDTA、10 mM MgCl2、]で、最終容積が400 μlとなるまで希釈した。
【0061】
該溶液を、オリゴdTセルロース・カラム(0.5 ml、Sigma, カタログ#0-7751)に充填し、ローデイング緩衝液で前平衡化した。該ブレイクスルーを、オリゴdTセルロース・カラムに6回通した。該カラムを5mlカラムローデイング緩衝液で洗浄し、次に、0.4mlの 10mM Tris.HCl(pH8.0)、1 ml EDTAで二回抽出した。これらの各分画は、オリゴヌクレオチドDNA基質に結合しているトリプシン断片を含んでいた。オリゴdTセルロースカラムに結合しているトリプシン断片は、SDSポリアクリルアミド・ゲル電気泳動で分析された。
【0062】
別個の反応で、トリプシン消化を160分間実施し、反応混合物中に30kDa,25kDa、および11kDa断片を優占的に得た。
【0063】
FokIエンドヌクレアーゼのトリプシン消化10分では、反応混合物中に、41kDaのN末端断片および25kDaのC末端断片が優先種として産生された(図5、レーン3)。該混合物をオリゴdTセルロースカラムに通し、41kDaN末端断片のみが該カラムに保持された。これは、FokIエンドヌクレアーゼのDNA結合性が、該酵素のN末端2/3にある事を示唆している。25kDa断片はオリゴdTセルロースカラムに保持されない。
【0064】
FokI−オリゴ複合体のトリプシン消化160分では、30、25、11kDaの断片が優占的に産生された(図5、レーン5)。この反応混合物をオリゴdTセルロースカラムに通すと、 30および11kDa断片のみがカラムに保持された。これらの種類は共に、DNAと結合しているようであり、41kDa N末端断片を更に分解する事により生じる。25 kDa断片は、オリゴdTセルロースカラムに保持されなかった。25 kDaもまたDEAEに結合しないので、DEAEカラムを通過し、ブレイクスルー容液中で回収する事により精製され得る。
【0065】
FokI(390 μg)を2.5モル過剰オリゴヌクレオチド二量体 d-5'-CTCTGGATGCTCTC-3'(配列認識番号第10):5'-GAGAGCATCCAGAGG-3'(配列認識番号第11)と一緒に、10mM Tris・HCl(pH8.0)、50 mM NaCl、10% グリセロールを含む容積170 μl中で、室温にて1時間インキュベートした。41kDaN末端断片の生産が最大となるのは、MgCl2非存在下でのトリプシン(3μl;0.2 mg/ml)による消化では、室温で10分であった。 反応物は、過剰のアンチパイン(200μl)で、クエンチングした。 トリプシンの消化物は、DEAEカラムを通した。25kDaのC末端断片を、ブレイクスルー中にて回収した。他の全トリプシン断片(41kDa,30kDaおよび11kDaは、カラムに保持され、0.5MのNaCl緩衝液(3x200μl)で抽出した。
【0066】
別個の実験で、10mM MgCl2存在下、室温60分で、FokIーオリゴ複合物のトリプシン消化を行なったところ、30kDaおよび11kDa断片の産生が最高となった。この精製された断片は、非メチル化DNA基質(pTZ19R、図6)と、メチル化DNA基質(pACYCforkIM)もともに、MgCl2存在下で非特異的に開裂した。これらの産生物は、小さく、開裂は比較的非特異的である事が示される。該生産物は、牛小腸ホスファターゼを使用して脱リン酸化されるかまたはポリヌクレオチド・キナーゼおよび[γー32P]ATPを使用して、再リン酸化された。32P標識された産生物はDNaseIおよび蛇毒ホスホジエステラーゼを使用して消化されてモノヌクレオチドにされた。PEIセルロース・クロマトグラフィによるモノヌクレオチドの分析では、25kDa断片が、優先的にホスホジエステルのボンド5’をG>A>>T−Cに開裂した事がわかる。このように、該25kDaのC末端の断片は、FokIエンドヌクレアーゼの開裂ドメインを構成している。41kDa N末端断片ーオリゴ複合体は、アガロース・ゲル電気泳動によって精製された。FokIエンドヌクレアーゼ(200μg)は、2.5モル過剰のオリゴヌクレオチド二量体 d-5'-CCTCTGGATGCTCTC-3' (配列認識番号第10):5'-GAGAGCATCCAGAGG-3'(配列認識番号第11)と一緒に、10mM Tris・HCl(pH8.0)、50mM NaCl、10% グリセロールを含む容積180μl中で、室温にて1時間インキュベートされた。わずかな量の32Pで標識されたオリゴヌクレオチド二量体が複合体中に組み入れられ、ゲル電気泳動中にそれをモニターした。41 kDa N末端断片の産生を最高にする、トリプシン消化(20μl;0.2mg/ml)は、室温12分であった。反応物は、過剰のアンチパインでクエンチングされた。41 kDa N末端断片ーオリゴ複合体は、アガロース・ゲル電気泳動で精製された。該複合体に対応するバンドが切り出され、透析バッグ(〜600μl)中で、電気抽出によって回収された。SDS−PAGEによる複合体の分析では、41kDa N末端が主要構成物である事が解明された。30 kDa N末端断片及び11 kDa C末端断片は、副成分として存在していた。これらは一緒にDNAに結合し、41 kDa N末端断片ーオリゴ複合物とともに移動するようにみえる。
【0067】
41 kDa N末端断片の結合特異性は、ゲル・モビリテイシフト分析によって決定された。
【0068】
実施例VI
ゲル・モビリテイ・シフト分析
特異的オリゴ(d-5'-CCTCTGGATGCTCTC-3' (配列認識番号第10), 5'-GAGAGCATCCAGAGG-3'(配列認識番号第11))は、40 mM Tris.HCl(pH7.5)、20 mM MgCl2、50mM NaCl、10 mM DTT、10ユニットのT4ポリヌクレオチド・キナーゼ(New England Biolabsより入手)、及び20μCi[γ−32P]ATP(3000Ci/mmol)を含む25 μlの反応混合物中で32P標識された。該混合物は、37℃で、30分インキュベートされた。キナーゼは、反応混合物を70℃15分加熱する事により失活させた。200μlの水を加えた後、溶液をセファデックスG−25(Superfine) カラム(Phamacia)を通過させて未反応[γ−32P]ATPを除いた。標識された単鎖オリゴの最終濃度は27μMであった。
【0069】
次に、単鎖をアニールして、10 mM Tris.HCl(pH8.0)、50 mM NaCl中 に二量体を12μMの濃度まで形成した。 1 μlの溶液は、オリゴ二量体を〜12ピコモル及び〜50x103cpm含んでいた。非特異的オリゴ類、即ちd-5'-TAATTGATTCTTAA-3'(配列認識番号12)及びd-5'-ATTAAGAATCAATT-3'(配列認識番号13)は、ここに記載したように[γ−32P]ATPとポリヌクレオチド・キナーゼで標識された。単鎖オリゴはアニールされ、二量体を濃度12μMで産生した。該溶液は、オリゴ二量体を〜12ピコモル及び〜25x103cpm含んでいた。該非特異的オリゴ(d-5'-TAATTGATTCTTAA-3')(配列認識番号12)及びd-5'-ATTAAGAATCAATT-3'(配列認識番号13)は、ここに記載したように[γ−32P]ATPとポリヌクレオチド・キナーゼで標識された。単鎖オリゴはアニールされ、二量体を濃度12μMで産生した。該溶液は、オリゴ二量体を〜42ピコモル及び〜25x103cpm含んでいた。10 mM Tris.HCl(pH8.0)、50 mM NaClおよび10mM MgCl2中に41kDaN末端断片ーオリゴ複合体(〜2pモル)を含む溶液10μlを、32Pで標識した特異的なオリゴヌクレオチド二量体(または32Pで標識した非特異的なオリゴヌクレオチド二量体)とともに37℃で夫々30分および120分インキュベートした。75%のグリセロール5μlを各サンプルに加え、8%の非変性ポリアクリル・アミド・ゲル上に充填した。電気泳動を、ブロモフェノールがゲルの頂部より6cm移動するまでTBE緩衝液中300ボルトでおこなった。該ゲルを乾燥し、オートラジオグラフを行なった。ゲル・モビリテイ・シフト分析(図7)から理解できるように、複合体は、FokI認識部位を含んだ、32P標識された特異的オリゴヌクレオチド二量体と簡単に置き変わったが、FokI認識部位を含まない、32P標識された非特異的オリゴヌクレオチド二量体とは置き変わらなかった。これらの結果から、DNAの配列特異的認識に必要な全ての情報が, FokIの41 kDa N末端断片内にコードされている事がわかる。
【0070】
実施例VII
DNA基質の非存在下でのトリプシン開裂によるFokI分析
DNA基質非存在下でのFokIエンドヌクレアーゼのトリプシンの時間経過を図8に示す。はじめに、FokIが、58kDa断片と8kDa断片に切断された。該58kDa断片はDNA基質に結合せず、オリゴdTセルロースカラムに保持されない。更に消化が進むと、58kDa断片は、数個の中間トリプシン消化断片に分解される。 しかしトリプシン消化が完了すると25kDa断片のみとなる(二つの重複バンドとして見える)。 これらの種(58kDa,25kDa、及び8kDa)は、逆相HPLCで精製され、そのアミノ末端配列が決定された(表I)。N末端配列と推定されるFokI配列を比較すると、8kDa断片がN末端で、58kDa断片がC末端である事がわかる。これは、さらにFokIのN末端が認識ドメインに関与しているという結論を支持している。 25kDa断片のN末端をシークエンスすると、二つの異なる成分が存在している事がわかる。非特異的DNA基質の存在下でのFokIエンドヌクレアーゼのトリプシン消化の時間経過では、非特異的DNA基質の非存在下でFokIのトリプシン消化で得られたプロフィルと類似していた。
【0071】
実施例VIII
FokIの25kDaC末端のトリプシン分解断片の開裂特異性
FokIの25kDa C末端トリプシン断片は、pTZ19Rを小さな産物に切断し、非特異的な開裂をしめす。分解産物は、牛小腸ホスファターゼによって脱リン酸化され、ポリヌクレオチド・キナーゼおよび[γ−32P]ATPによって32P標識された。過剰の標識は、セファデックスG25を使用して除去された。次に、標識された産物は、50 mM Tris.Hcl(pH7.6)、10 mM MgCl2を含む緩衝液中で、1ユニットの膵臓DNaseI(Boehringer-Mannheim)によって37℃、1時間で消化された。次に、0.02ユニットの蛇毒ホスホジエステラーゼを、反応混合物に添加し、37℃、1時間で消化した。
【0072】
実施例IX
FokI制限エンドヌクレアーゼにおける機能的ドメイン
トリプシンを使用したFokIの機能的ドメインの分析(基質の存在下、非存在下における)を図9に要約した。FokIがDNA基質と結合すると、該酵素構造の変換が伴なった。この研究は、配列特異的認識用とエンドヌクレアーゼ活性用の二つの別個の蛋白ドメインが該酵素中に存在していることを裏付けている。この結果により、認識ドメインがFokIエンドヌクレアーゼのN末端にあるのに対して、開裂ドメインが、該分子のC末端に存在しているであろうことが示される。
【0073】
挿入変異物の構築に関する実施例(X−XIV)
FokI RM 系の完全なヌクレオチド配列は、多くの研究所によって公表されている(Looney et al., Gene 80: 193-208, 1989 & Kita et al., J. Biol. Chem. 264: 5751-56, 1989)。
例えば、PCRの実験プロトコールは、Skoglund et al., Gene 88:1-5, 1990 Bassing et al., Gene 113:83-88, 1992に、記載されている。細胞生育の方法及び変異酵素の精製は、野生型FokI(Li et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 89:4275-79, 1992)用に使用された物と同じである。さらに、セファデックスG−75ゲルろ過およびヘパリンーセファロースCL−6Bカラムクロマトグラフィーが変異酵素を均質になるまで精製するステップが必要であった。
【0074】
実施例X
fokIR遺伝子内ヌクレオチド162におけるSpeI部位の変異
fokIR遺伝子内のSpeI部位89のひとつを変位させるのに使用される二段階PCR技法は、Landt et al., Gene 96:125-28, 1990)に記載されている。このプロトコール用の3つの合成プライマーは、1)SpeI部位内にひとつの不適性塩基を含む変異プライマー(5'- TCATAATAGCAACTAATTCTTTTTGGATCTT-3')(配列認識番号24参照)、2)制限部位ClaI部位(5'-CCATCGATATAGCCTTTTTTATT-3')(配列認識番号25)及びXbaI部位(5'-GCTCTAGAGGATCCGGAGGT-3')(配列認識番号26)でそれぞれフランキングされるプライマーである。第一段階では、XbaIプライマー及び変異プライマーを使用して中間断片が増幅された。次に、第2段階PCRで、ClaIプライマーが該中間物に添加された。0.3 kb PCR最終産物をXbaI/ClaIで消化し、付着末端を精製し、ゲル精製した。発現ベクター(pRRSfokIR)は、XbaI/ClaIで消化された。次に、4.2kbの大断片は、ゲル精製され、PCR断片に連結された。組替DNAは、受容可能な大腸菌RR1[pACYCfokIM]細胞にトランスフェクトされた。テトラサイクリン及びアンピシリン抗生物質による選択の後、数個のクローンを取り上げ、そのプラスミドDNAを、制限分析によって調べた。SpeI部位変異は、プラスミドDNAをサンガーのシークエンシング法(Sanger et al. Proc. Natl. Acd. Sci, USA 74:5463-67, 1977)使用したシークエンシングにより確認された。
【0075】
実施例XI
4(または7)コドン挿入変異物の構築
4(または7)コドン挿入物を含むPCR産生DNAは、SpeI/XmaIで消化され、ゲル精製された。実施例Xで得られたプラスミドpRRSfokIRをSpeI/XmaIで切断し、3、9kbの大断片をゲル精製し、PCR産生物に連結した。該組替DNAは、受容可能なRRI[pACYCfokIM]細胞にトランスフェクトされ、所望のクローンが、実施例Xで記載されたように同定された。これらのクローン由来のプラスミドは単離されシークエンスされて、fokIR遺伝子の4(または7)コドン挿入物が確認された。
【0076】
特に、変異物の構築は、下記の様になされた:
(1)fokIR遺伝子配列内には、ヌクレオチド162及び1152の夫々に2つのSpeI部位がある。1152の部位は、FokIのトリプシン開裂部位近隣に位置し、認識ドメインと開裂ドメインを分離している。この領域の周囲に、4(または7)のコドンを挿入するために、もう一方の162のSpeI部位を2段階PCR法(Landt et al. Gene 96:125-28, 1990) を使用して変異させた。このSpeI部位変異をfokIR遺伝子へ導入しても、過剰生産者クローンの発現レベルに影響をあたえない。
【0077】
(2)4(または7)のコドンの挿入は、PCR法を使用して行われた。PCR増殖で使用された変異プライマーは、図11に示される。各プライマーは、fokIR遺伝子と相補的な21ベースペア配列をもつ。これらのプライマーの5’末端は、SpeI部位でフランクされる。KSEL及びKSELEEKの繰り返しに対するコドンは、SpeI部位と21相補ベースペアの間に取り込まれる。縮重コドンをこれらの繰り返し中に使用し、増幅中に起こり得る問題を回避した。
【0078】
他のプライマーは、fokIR遺伝子の3’末端と相補的であり、XmaI部位によってフランクされる。4(または7)コドン挿入物を含む0.6kbPCR産生断片は、SpeI/XmaIによって消化され、ゲル精製された。これらの断片は、高発現ベクターpRRSfokIRに代替し、変異物を精製する。各変異物の数個のクローンが同定され、そのDNA配列がサンガーのジデオキシ・チェイン・ターミネーション法(Sanger et al., Proc. Natl. Acad. Sci, USA 74.5463-67 1977)によって確認された。
【0079】
1mMのイソプロピルβーD−チオガラクトシド(IPTG)で誘導して、これらクローン中での変異酵素の発現をSDS/PAGEで測定したところ、3時間でもっとも顕著となった。これは、酵素活性についての分析によって、更に裏付けられた。これらのクローン中における変異酵素の発現レベルは、野生型FokIと比較してはるかに低かった。IPTGでもっと長く誘導すると、より低い酵素レベルとなり、変異酵素が、これらのクローン中で積極的に分解される事が示唆された。これによって、FokIの認識ドメインと開裂ドメインの間の4(または7)のコドン挿入物が蛋白構造を不安定にし、細胞内における分解をし易くする事が示唆される。変異酵素のSDS/PAGEプロフィルは、図12に示される。
【0080】
実施例XII
単一FokI部位をもつDNA基質の調製
それぞれ単一FokI認識部位をもつ2つの基質は、pTZ19Rをテンプレートとして使用したPCRによって調製された。オリゴヌクレオチド・プライマー:5'-CGCAGTGTTATCACTCAT-3' 及び 5'-CTTGGTTGAGTACTCACC-3'(夫々、配列認識番号27及び28)を使用して、100ベースペア断片を合成した。プライマー:5'-ACCGAGCTCGAATTCACT-3'及び 5'-GATTTCGGCCTATTGGTT-3'(夫々、配列認識番号29及び30)を使用して256ベース断片を調製した。これらの基質内の個々のストランドは、対応する32P標識されリン酸化されたプライマーを使用して、PCR中に放射線標識された。産生物を、低溶融アガロース・ゲルで精製し、エタノールで沈澱させTE緩衝液に再懸濁した。
【0081】
実施例XIII
変異酵素の配列特異性の分析
図13に、pTZ19R DNAのFokIおよび変異体酵素による開裂産生物のアガロース・ゲル電気泳動プロフィルが示される。それらが非常に類似している事は、認識ドメイン及び開裂ドメインの間のリンカー領域における4(または7)コドン挿入物がそのDNA配列の特異性を変えない事を示唆している。この事は、更に、各々単一のFokI部位を含む32P標識DNA基質(100bp及び256bp)を使用する事により確認された。32Pで標識された個々のストランドを含む基質は、実施例XIIに記載された様に調製された。FokIは、256ベースペアの基質を二つの断片、180bp及び72bpにそれぞれ切断する(図13B)。断片の長さは、各ストランドの32Pで標識された5’末端から計算された。アガロース・ゲルのオートラジオグラフが、図13Cに示される。基質中で32P標識を担持するストランドに依存して、72bp断片または180bp断片が、オートラジオグラフィーにバンドとして現われる。該変異酵素は、同一のアガロース・ゲル・プロフィル及びオートラジオグラフィーを現わす。それ故、認識ドメインと開裂ドメインの間の4(または7)コドン挿入物は、FokIエンドヌクレアーゼのDNA認識機構を変えない。
【0082】
実施例XIV
変異酵素による認識部位からの開裂距離の分析
変異酵素による開裂の距離を決定するために、32Pで標識された基質の開裂産物をPAGEで分析した(図14)。消化物は、これらの基質を合成するためのPCRで使用されたと同じプライマーで行われたpTZ19Rのシークエンシング反応に沿って分析された。100bp断片のFokIによる開裂パターンおよび変異物が、図14Aに示される。野生型酵素と比較すると、変異物の場合は、切断部位が基質の両ストランド上の認識部位からずれている。シークエンシング・ゲルおよび開裂産物の間の観測可能な小さなずれは、シークエンシング反応に使用される非リン酸化プライマーに起因する。
【0083】
5'-GGATG-3'ストランド上で、両変異物は、DNAの認識部位から10ヌクレオチド離れて切断するのに対して、5'-CATCC-3'ストランド上では、14のヌクレオチド離れて切断する。これらは両変異物にとって、主要な切断部位であると思われる。また、野生型酵素と同量の開裂が観察された。
【0084】
256bp断片の開裂パターンは、図14Bに示される。開裂パターンは、図14Bに示される。開裂パターンは、100bp断片と類似している。変異物の場合、5'-CATCC-3'ストランド上の認識部位から15ヌクレオチド離れたところに、ある開裂が見られる。変異酵素の多数の切断部位は、これらの蛋白に異なる構造がある事に起因するのであろう。さもなければ、二つのドメイン間の空間領域の柔軟性が増加する事に起因する。DNA基質に依存して、これらの部位における開裂の強さには、あるばらつきが見られた。これは、これらの切断部位の回りのヌクレオチド配列に起因するのかも知れない。多数の切断部位を持つ自然発生型IIS酵素は、Szybalski et al., Gene 100: 13-26, 1991)に報告されている。
【0085】
ハイブリッド酵素Ubx−FN(XV−XVII)の構築に関する実施例
上記に言及したように、FokI制限ー変更システムの完全なヌクレオチド配列は、別の研究所から公表されている(Kita et al., J. Biol Chem. 264:5751-56 (1989); Looney et al., Gene 80: 193-208 (1989))。PCRの実験プロトコールは、いたるところに記載されている(Skoglund et al., Gene 88:1-5 (1990))。細胞生育およびHisbindTm樹脂を使用した蛋白の精製は、ノバジェン(Novagen)pETシステムマニュアルに、概説された通りである。さらに、ハイブリッド蛋白Ubx−FNをほぼ均質になるまで精製するためには、ホスホセルロースおよびDEAEカラム・クロマトグラフィーのステップを付加する事が必要である。SDS/PAGEのプロトコールは、Laemmli (Nature 222:680-685 (1970))によって記載された通りである。
【0086】
pUC13派生基質の調製
pUC13派生DNA基質は、SmaI切断pUC13プラスミドの平滑末端と既知のUbx部位を含む10倍過剰量の30bp挿入物との連結によって調製された。数個のクローンを取り出し、そのプラスミドDNAを、30bp挿入物の有無について分析した。夫々、1、2、および3の挿入物を担持するpUC13(1),pUC13(2)、pUC13(3)を含クローンが同定された。そのDNA配列は、サンガーのジデオキシシークエンシング法によって確認された(Proc. Natl. Acd. Sci, USA 74: 5463-67 (1977))。
【0087】
単一Ubx部位を持つDNA基質の調製
単一の30bp挿入物を保持するpUC13(1)のポリリンカー領域をEcoRI/HindIIIを使用して切り出し、ゲル精製した。この基質の各々のストランドは、32P−dATPまたは32P−dCTPを使用して放射線標識され、クレノー酵素で該断片の付着末端を充填した。該産生物を低溶融アガロース・ゲルで精製し、エタノールで沈澱させ、緩衝液(10mM Tris.HCl/1mM EDTA、pH8.0)中に再懸濁した。
【0088】
実施例XV
ハイブリッド酵素Ubx−FNをPCRを使用して産生するクローンの構築
UbxのホメオボックスによってコードされるUbxのホメオ・ドメイン、61アミノ酸蛋白配列は、細菌性DNA結合蛋白中に見られるヘリックス・ターン・ヘリックスのモチーフに関係した構造を備えた配列特異的DNA結合ドメインである。(Hayashi et al., Cell 63:883-94 (1992); Wolberger et al., Cell 67:517-28 (1991)。Ubxホメオ・ドメインは、9bpのコンセンサスDNA部位、5'-TTAAT (G/T)(G/T) cc-3' (Ekker et al., The EMBO Journal 10:1179-86 (1991); Ekker et al., The EMBO Journal 11:4059-4702 (1992))を認識する。本発明者は、PCR法を使用して、Ubxホメオ・ドメインとFokIの開裂ドメイン(FN)を結合させ、また大腸菌中でUbx−FN酵素を発現させた。製作されたUbx−FNハイブリッド蛋白の概略代表例を図16に示す。ハイブリッド遺伝子を構築するために使用したオリゴヌクレオチド・プライマーを図17Aに示す。
【0089】
ハイブリッド蛋白を発現するクローンは下記の様に構築された。まず、PCRで産生されたUbxホメオ・ドメインをPstI/SpeI消化し、ゲル精製した。次に、この断片をベクターpRRSfokIR中に代替し、FokIDNA結合ドメインをコードするDNAセグメントと置換し、よって、Ubx−FNハイブリッド遺伝子を(図17B)を作成した。
【0090】
受容可能なRR1細胞に結合用混合物をトランスフェクションした後、数個のクローンを制限分析によって同定し、そのDNA配列を、サンガー等のジデオキシ・チェイン・テーミネーション法により確認した(Proc. Natl. Acd. Sci. USA 74:5463-67 (1977))。次に、ハイブリッド遺伝子をUbx−FNプライマーを使用して増幅した。PCR産生されたDNAをNdeI/BamHIで消化し、ゲル精製した。次に、この断片をNdeI/BamHIで切断したpET−15bベクターに連結した。この構築物は、6つの連続したヒスチジン残基によって、ハイブリッド蛋白のそのN末端にタグを付ける事になる。これらは、ノバジェン(Novagen)のhis−bindTM樹脂を使用したメチル・キレーション・クロマトグラフィーによるこの蛋白の精製用の親和性タグとして働く。このHisタグは、その後、トロンビンによって除去できる。受容可能なBL21(DE3)細胞は、結合用混合物でトランスフォームされ、組替DNA(図17B)を含む数個のクローンが同定された。これらのコロニーは健全でなく、培地での生育も、ダブリング時間が45分と、悪い。1mMのイソプロピルーβーD−チアガラクトシド(IPTG)で誘導した後、ハイブリッド酵素をHis−bindTM樹脂、ホスホセルロース、及びゲル・クロマトグラフィーを使用して均質になるまで精製した。精製されたハイブリッド酵素のSDS/PAGEプロフィルを、図18に示す。ハイブリッド蛋白の同定は更に、ウエスタン・ブロットで、FokIエンドヌクレアーゼに対して惹起されたラビットの抗血清によってプロービングする事により確認された(データ記載せず)。
【0091】
実施例XVI
Ubx−FNハイブリッド酵素のDNA配列選択性の分析
Ubx−FNの特性を調べるのに使用される、基質より派生し直線化したpUC13を図19に示す。既知のUbx認識配列5'- TTAATGGTT-3'を含む30bp DNA断片を、pUC13のSmaI部位に挿入する事によって誘導体が構築される。挿入されたUbx部位で切断されると、1.8kb及び0.95kbの断片が産物として生じる。Ubx−FNによる基質の部分消化物のアガロース・ゲル電気泳動プロフィルが図19に示される。これらの反応において、DNAのモル数は、蛋白のモル数に比較して著しく過剰である。反応条件を至適化して、基質分子あたり単一の二本鎖開裂を得るようにした。直線化したpUC13DNAは、4つの断片に切断される。アガロース・ゲル電気泳動プロフィルに4つの異なったバンドが現れた事は、Ubx−FNが配列特異性をもってDNAと結合した事、及び直線化したpUC13中にハイブリッド蛋白に対する2つの結合部位があることを示している。このことは、単一のUbx部位を含む直線化されたpUC13DNA基質が6つの断片に切断されるという事実によって、更に裏付けられる。2つの付加的な断片(夫々、〜1.8kb及び〜0.95kb)は、pUC13の新規に挿入されたUbx部位でハイブリッド蛋白の結合が行われた事及びこの部位付近で開裂が起きた結果であると説明できよう。予測されたように、バンドの強度は、pUC13中における30bp挿入物の数に伴って増加する。pUC13の2つの推定UbX結合部位、及び挿入されたUbx部位が下記表3に示される。これら全ての部位は、5'-TAAT - 3'をその核配列として担持し、それら好ましい部位はUbxホメオ・ドメインに付いて報告された物と一致する。これら部位に対するUbxホメオ・ドメインの親和性は、該核部位を囲むヌクレオチド塩基によって変更される。完全な消化が長期にわたって見られ、或いは蛋白濃度を増やす事によって見られるので、ハイブリッド蛋白はターンオーバー(代謝回転)するようだ(データ記載せず)。高温での開裂はより特異的である。
【0092】
実施例XVII
ハイブリッド酵素による認識部位からの開裂距離の分析
Ubx−FNによる認識部位からの開裂距離を決定するために、単一Ubx部位を含む32P標識されたDNA基質の開裂産物が、PAGE(図20)によって分析された。消化産物は、基質のマキサム・ギルバート(G+A)シークエンシング反応にそって分析された。予想されたように、切断部位は、認識部位からはずれた。5'-TAAT-3'ストランドでは、Ubx−FNは、DNAを認識部位から3ヌクレオチド離れて切断するのに対して、5'-ATTA- 3'ストランドでは、認識部位から8、9、または10ヌクレオチド離れて切断する。単一のUbx部位を含んだDNA基質の開裂に基づくUbx−FNの切断部位の分析は、図20に要約されている。この開裂によって5’からTAATまでの配列が生じ、この開裂はUbx−FNハイブリッド蛋白を作成した場合(図16)と一致する。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2−1】
【0095】
【表2−2】
【0096】
【表2−3】
【0097】
【表2−4】
【0098】
【表2−5】
【0099】
【表2−6】
【0100】
【表3】
【0101】
上記で述べた全ての刊行物は参照として本願明細書に組み込まれ、その一部をなす。
上記においては、明瞭な理解を助けるために幾らか詳細に説明してきたが、本発明の真実の範囲を逸脱することなく、形態およびその詳細において種々の変更をなし得ることが、当業者には容易に承認されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】図1は、PCR増幅の際に、fokIMおよびfokIR遺伝子への新しい翻訳信号の導入のために用いられる、5′プライマーおよび3′プライマーの配列(配列番号3−9)を示している。SDは、大腸菌(E. coli)のためのシャイン−ダルガノコンセンサス配列RBSを示しており、該RBSは7塩基対のスペーサによってATG開始コドンから離間されている。fokIMプライマーはBamHI部位に隣接している。開始コドンおよび停止コドンは太字で示されている。18塩基対の完全な配列は、MfokI遺伝子の停止コドンの直後に続く配列に対して相補的である。
【図2】図2は、プラスミドpACYCMfokIM、pRRSRfokIRおよびpCBfokIRの構造を示している。PCR修飾されたfokIM遺伝子がpRRSおよびpCBのBamHI部位に挿入されて、それぞれpRRSRfokIRおよびpCBfokIRが形成された。pRRSはlacUV5プロモータを有しており、またpCBは強力なtacプロモータを含んでいる。加えて、これらのベクター類は、挿入されたfokIR遺伝子の下流に陽性レトロ調節配列を含んでいる。
【図3】図3は、FokIエンドヌクレアーゼを精製する際の各工程における、SDS(0.1%)−ポリアクリルアミド(12%)ゲル電気泳動のプロファイルを示している。レーン1はタンパク標準;レーン2は非誘発細胞からの粗抽出物;レーン3は1mMのIPTGで誘発された細胞からの粗抽出物;レーン4はホスホセルロースのプール;レーン5は、50-70%の(NH4)2SO4分画プール;レーン6はDEAEプールである。
【図4】図4は、オリゴヌクレオチドDNA基質、d-5'-CCTCTGGATGCTCTC-3'(配列番号10):5'-GAGAGCATCCAGAGG-3'(配列番号11)の存在下でFokIエンドヌクレアーゼをトリプシン消化した際の、種々の時点におけるトリプシン分解フラグメントのSDS(0.1%)−ポリアクリルアミド(12%)ゲル電気泳動プロファイルを示している。レーン1はタンパク標準、レーン2はFokIエンドヌクレアーゼであり、またレーン3は2.5分、レーン4は5分、レーン5は10分、レーン6は20分、レーン7は40分、レーン8は80分、レーン9は160分のトリプシン消化後のプロファイルを示している。レーン10〜13は、HPLC精製されたトリプシン分解フラグメントであり、レーン10は41 kDaのフラグメント、レーン11は30 kDaのフラグメント、レーン12は11 kKaのフラグメント、レーン13は25k Daのフラグメントである。
【図5】図5は、オリゴdT-セルロースカラムを用いた、DNA結合性トリプシン分解フラグメントの同定を示している。レーン1はタンパク標準;レーン2はFokIエンドヌクレアーゼ;レーン3は、FokI−オリゴ複合体の10分間のトリプシン分解混合物;レーン4は、オリゴdT-セルロースカラムに結合したトリプシン分解フラグメント;レーン5は、FokI−オリゴ複合体の160分間のトリプシン分解混合物;レーン6は、オリゴdT-セルロースカラムに結合したトリプシン分解フラグメントである。
【図6】図6は、FokIエンドヌクレアーゼのトリプシン分解フラグメントの開裂特性分析を示している。 (A)トリプシン分解フラグメントの開裂特性を、アガロースゲル電気泳動によって分析した。10mMのトリスHCl(pH8)、50mMのNaCl、1mMのDTTおよび10mMのMgCl2の中の1μgのpTZ19Rを、当該フラグメント(夫々トリプシン消化物、ブレークスルーおよび溶出物)と共に、37℃で1時間、10μlの反応容量で消化した。レーン4〜6は、MgCl2の不存在下におけるFokI−オリゴ複合体のトリプシン消化に対応する。レーン7〜9は、MgCl2の存在下におけるFokI−オリゴ複合体のトリプシン消化に対応する。レーン1は1kbのラダー(梯子);レーン2はpTZ19R;レーン3はFokIエンドヌクレアーゼで消化されたpTZ19R;レーン4および6は、FokI−オリゴ複合体のトリプシン消化物の反応混合物;レーン5および7は、ブレークスルー容積中の25 kDaのC末端フラグメント;レーン6および9は、DEAEカラムに結合したFokIのトリプシン分解フラグメントである。ゲル底部における強いバンドは、過剰のオリゴヌクレオチドに対応する。 (B)DEAEカラムからのフラグメントのSDS(0.1%)−ポリアクリルアミド(12%)ゲル電気泳動のプロファイル。レーン3〜5は、MgCl2の不存在下におけるFokI−オリゴ複合体のトリプシン消化に対応している。レーン6〜8は、10mMのMgCl2の存在下におけるFokI−オリゴ複合体のトリプシン消化に対応している。レーン1はタンパク標準;レーン2はFokIエンドヌクレアーゼ;レーン3および6はFokI−オリゴ複合体のトリプシン消化物の反応混合物;レーン4および7はブレークスルー容積中の25kDaのC末端フラグメント;レーン5および8はDEAEカラムに結合したFokIのトリプシン分解フラグメントである。
【図7】図7は、41kDaのN末端DNAによるDNAの配列特異的結合の、ゲル移動度シフト試験を用いた分析を示している。交換反応のために、この複合体(10μl)を、10mMのトリスHCl(pH8)、50mMのNaCl、および10mMのMgCl2を含む20μl容量において、1μlの32Pで標識された特異的(または非特異的)なオリゴヌクレオチド二本鎖と共に、時間を種々に変化させて37℃でインキュベートした。32Pでラベルされた1μlの特異的プローブ[d-5'-CCTCTGGATGCTCTC-3'(配列番号10):5'-GAGAGCATCCAGAGG-3'(配列番号11)]は、12ピコモルの二本鎖および略50×103cpmを含んでいた。また、32Pで標識された1μlの特異的プローブ[d-5'-CCTCTGGATGCTCTC-3'(配列番号10):5'-GAGAGCATCCAGAGG-3'(配列番号11)]には、12ピコモルの二本鎖および略25×103cpmが含まれていた。 (A)レーン1は特異的なオリゴヌクレオチド二本鎖;レーン2は41 kDaのN末端フラグメント−オリゴ複合体;レーン3および4は、当該複合体とともに夫々30分間および120分間インキュベートされた特異的プローブである。 (B)レーン1は非特異的なオリゴヌクレオチド二本鎖;レーン2は41 kDaのN末端フラグメント−オリゴ複合体;レーン3および4は、当該複合体とともに夫々30分間および120分間インキュベートされた非特異的プローブである。
【図8】図8は、FokIエンドヌクレアーゼのトリプシン分解の種々の時点における、トリプシン分解物のSDS(0.1%)−ポリアクリルアミド(12%)ゲル電気泳動プロファイルを示している。10mMのトリスHCl(pH8)、50mMのNaCl、および10mMのMgCl2を含む最終容量200μl中の酵素(200μg)を、室温においてトリプシンで消化した。 FokIに対するトリプシンの比率は、重量比で1:50であった。一部分(28μl)を異なった時間間隔で反応混合物から取り出し、過剰のアンチペイン(antipain)で急冷した。レーン1はタンパク標準;レーン2はFokIエンドヌクレアーゼである。また、それぞれレーン3は2.5分;レーン4は5.0分;レーン5は10分;レーン6は20分;レーン7は40分;レーン8は80分;レーン9は160分のトリプシン消化である。
【図9】図9は、FokIエンドヌクレアーゼのトリプシン分解地図を示している。(A)オリゴヌクレオチド基質の不存在下におけるFokIエンドヌクレアーゼの断片形成パターン。(B)オリゴヌクレオチド基質の存在下におけるFokIエンドヌクレアーゼの断片形成パターン。
【図10】図10は、PREDICTプログラムを用いた一次配列決定(配列番号31)に基づく、FokIの推定二次構造を示している。DNA基質の存在下におけるFokIのトリプシン開裂部位が矢印で示されている。KSELEEKKSEL配列が強調されている。図中の記号は次の通りである:hはヘリックス;sはシート;黒丸はランダムコイル。
【図11】図11は、FokIの挿入変異体の構築に用いた5′および3′オリゴヌクレオチドプライマーの配列(それぞれ配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38および配列番号39)を示している。4コドン挿入物および7コドン挿入物が太字で示されている。アミノ酸配列がヌクレオチド配列の上に示されている。両挿入変異体のPCR増幅において、同一の3′プライマーが用いられた。
【図12】図12は、均一に精製された変異体酵素のSDS/PAGEプロファイルを示している。レーン1はタンパク標準;レーン2はFokI;レーン3は4コドン挿入物を含む変異体FokI;レーン4は7コドン挿入物を含む変異体FokIである。
【図13】図13は、上記変異体酵素におけるDNA配列特異性の分析を示している。DNA基質を、37℃で2時間、10mMトリスHCl pH8.0/50mM NaCl/1mM DTT/10mM MgCl2の中で消化した。 (A)1%アガロースゲル電気泳動による、pTZ19RDNA基質の開裂パターン。夫々の反応において、2μgのpTZ19RDNAを用いた。レーン1は、1キロ塩基(kb)のラダー;レーン2はpTZ19R;レーン3は、FokIで消化したpTZ19R;レーン4は、4コドン挿入物を含む変異体FokIで消化したpTZ19R;レーン5は、7コドン挿入物を含む変異体FokIで消化したpTZ19Rである。 (B)1.5%アガロースゲル電気泳動によって分析された、単一のFokI部位を含む256kbのDNA基質の開裂パターン。1μgの放射能ラベルした基質(ここの鎖に32Pラベルを施した)を、上記のようにして消化した。アガロースゲルを臭化エチジウムで染色し、UV光で可視化した。レーン2〜6は、5′−CATCC−3′鎖が32Pでラベルされた32Pラベル基質に対応する。レーン7〜11は、5′−GGATG−3′鎖が32Pでラベルされた32Pラベル基質に対応する。レーン1は、1キロ塩基(kb)のラダー;レーン2および7は、32Pでラベルした250kbのDNA基質;レーン3および8は、FokIで開裂された32Pラベル化基質;レーン4および9は、精製された実験室的野生型(laboratory wild-type)のFokI;レーン5および10は、4コドン挿入物を含む変異体FokI;レーン6および11は、7コドン挿入物を含む変異体FokIである。 (C)上記で得たアガロースゲルのオートラジオグラフ。レーン2〜11は、上記の(B)と同じである。
【図14】図14は、FokIおよび上記変異体酵素による認識部位から開裂部位までの距離の分析を示している。pTZ19RをテンプレートとしたDNA配列決定のために、非燐酸化オリゴヌクレオチドが用いられた。そのシーケンシング生成物(G,A,T,C)を7M尿素を含む6%アクリルアミドゲル上で電気泳動させ、該ゲルを乾燥させた。次いで、その生成物をX線フィルムに2時間露光させた。100bpおよび256bpのDNA基質からの開裂生成物が、AおよびBにそれぞれ示されている。Iは、5′−GGATG−3′鎖における32Pラベルを含む基質に対応している。また、IIは5′−CATCC−3′鎖における32Pでラベルを含む基質に対応している。レーン1はFokI;レーン2はFokI;レーン3は4コドン挿入を含む変異体FokI;レーン4は7コドン挿入を含む変異体FokIである。
【図15】図15は、単一のFokI部位を含む100bpのDNA基質に基づく、 FokIおよび変異体酵素の開裂部位の地図を示している。(A)は野生型FokI;(B)は4コドン挿入を含む変異体FokI;(C)は7コドン挿入を含む変異体FokI(配列番号40参照)である。開裂部位は矢印で示されている。主要な開裂部位は大きな矢印で示してある。
【図16】図16は、DNA基質に関連させた、FokIヌクレアーゼドメイン(FN)に対するUbxホメオドメインの向きを示す図を表している。尖った波形に縁取りされた(engrailed)ホメオドメイン−DNA複合体の結晶構造が、Kissinger et al. (Cell 63:579-90 (1990))によって報告されている。
【図17】図17は、Ubx−FNハイブリッド酵素の発現ベクターの構築を示している。 (A)ハイブリッド遺伝子のUbx−FNの構築に用いた5′プライマーおよび3′プライマーの配列。このUbxプライマーは、PstIおよびSpeIに隣接している(配列番号41および配列番号42を参照のこと)。Ubx−FNプライマーは、NdeIおよびBamHI部位に隣接している(配列番号43および配列番号44を参照のこと)。開始コドンおよび終止コドンは太字で示されている。 (B)プラスミドpRRS・Ubx−FNおよびpET−15b・Ubx−FNの構造。pRRSfokIRのPstI/SpeIフラグメントを、PCR修飾されたUbxホメオボックスで置換して、pRRS・Ubx−FNを作製した。Ubx−FNプライマーを用いたPCRで作製されたフラグメントをpET−15bのBamHI/NdeI部位に挿入して、pET−15b・Ubx−FNを形成した。
【図18】図18は、Ubx−FNハイブリッド酵素の精製における各工程でのSDS/PAGEプロファイルを表している。レーン1はタンパク標準;レーン2は誘発された細胞からの粗抽出物;レーン3はHis−bindTM樹脂プール;レーン4はホスホセルロースのプール;レーン5はDEAEプールである。
【図19】図19は、Ubx部位を含む線形化したpUC13・DNA基質を用いた、Ubx−FNハイブリッドタンパクの特徴付けを示している。 (A)pUC由来のDNA基質。□は、Ubx部位、即ち5′−TTAATGGTT−3′を含む30bpの挿入物である。これらの基質における30bp挿入物のタンデムリピート(tandem repeats)の数が、括弧内に示されている。Ubx部位の向きは矢印で示されている。 (B)20mM Tris.HCl (pH7.6), 75mM KCl, 1mM DTT, 50μg/ml tRNAおよび2mM MgCl2を含む緩衝溶液中において、31℃で4〜5時間、上記のDNA基質(1μg)を部分的に消化した。生成物を1%アガロースゲル電気泳動によって分析した。基質は、Ubx−FNハイブリッドタンパクに比較して大過剰(略100:1)で存在した。反応条件は、基質分子当たり一つの二本鎖開裂を生じるように最適化された。この反応は酵素濃度を増大させて進行させるか、或いは31℃で一晩消化することによって完結される(データは示していない)。新たに挿入されたpUC13のUbx部位でのハイブリッド酵素の結合と、該部位の近傍での開裂によって生じた二つのフラグメント、即ち略1.8kbおよび略0.95kbのフラグメントが矢印で示されている。
【図20】図20は、Ubx−FNによる認識部位から開裂部位までの距離の分析を示している。(G+A)マクサム−ギルバートの配列決定反応(Maxam-Gilbert sequencing reaction)に従った、単一のUbx部位を含む32PでラベルされたDNA基質のUbx−FNによる開裂生成物を、6M尿素を含む6%ポリアクリルアミドゲル上での電気泳動により分離し、乾燥し、X線フィルムに対して6時間露光させた。 (A)は、5′−TAAT−3′鎖(配列番号45を参照のこと)での32Pラベルを含む基質からの開裂生成物に対応している。レーン1は(G+A)配列決定反応;レーン2はUbx−FNである。 (B)は相補鎖、即ち5′−ATTA−3′(配列番号46を参照のこと)での32Pラベルを含む基質に対応している。レーン1は(G+A)配列決定反応であり;レーン2はUbx−FNである。 (C)は、単一のUbx部位を含むDNA基質に基づく、Ubx−FN開裂部位の地図である。認識部位は白抜き文字によって示されている。プリン残基は黒星印によって示されている(配列番号47および配列番号48を参照のこと)。
【発明の開示】
【0001】
〔発明の背景〕
1.発明の技術分野
本発明はFokI制限エンドヌクレアーゼ系に関する。特に、本発明はこの制限エンドヌクレアーゼ系の分離した機能ドメインをコードするDNAセグメントに関する。
【0002】
本発明はまた、FokIエンドヌクレアーゼの二種類の挿入変異体の構築に関する。
【0003】
加えて、本発明は超双胸系(Ultrabithorax)UbxホメオドメインをFokIの開裂ドメイン(FN)に連結することによって製造されるハイブリッド酵素(Ubx−FN)に関する。
【0004】
2.従来技術
II型エンドヌクレアーゼおよび修飾メチラーゼ(modification methylase)は、二本鎖DNA中の特定の配列を認識するバクテリア酵素である。このエンドヌクレアーゼはDNAを開裂するのに対し、該メチラーゼはアデニン残基またはシトシン残基をメチル化して宿主ゲノムを開裂から保護する[II型制限酵素および修飾酵素;「ヌクレアーゼ」(Mordrich and Roberts編);ニューヨーク、コールドスプリングハーバーラボラトリーズ社刊;第109〜154頁;1982年]。これらの制限−修飾(R−M)系は、この系がなければ細胞を破壊するようなファージおよびプラスミドによる感染から、細胞を保護するように機能する。
【0005】
200以上の特異性を有する2500もの制限酵素が検出され、生成されている(Wilson and Murray, Annu. Rev. Genet. 25:585-627, 1991)。これら殆どの酵素の認識部位は、4〜6塩基対の長さである。ファージゲノムは通常は小さく、またファージにはこれらの小さい認識部位が高頻度で存在するから、認識部位の大きさがこのように小さいことは有益である。
【0006】
IIS型のクラスに属する、35以上の特異性をもった80の異なるR−M系が同定されている。このクラスは、酵素の開裂部位が認識配列から離れている点において特徴的である。通常、認識部位と開裂部部位との間の距離は極めて正確である(Szybalski et al., Gene, 100:13-26, 1991)。これら全ての酵素のうち、FokI制限エンドヌクレアーゼは、最も良く特徴が調べられているIIS型クラスの酵素である。このFokIエンドヌクレアーゼ(RFokI)は、二本鎖DNAにおける非対称なペンタヌクレオチド、即ち、一方の鎖の5′−GGATG−3′(配列番号1)および他方の鎖の3′−CCTAC−5′(配列番号2)を認識し、該認識部位から離間した部位に千鳥状(段違い)の開裂を導入する(Sugisaki et al., Gene 16:73-78; 1981)。これとは対照的に、 FokIメチラーゼ(MFokI)はDNAを修飾することにより、該DNAを、FokIエンドヌクレアーゼによる消化に対して耐性にする。このFokI制限遺伝子およびFokI修飾遺伝子はクローン化され、そのヌクレオチド配列が推定されている(Kita et al., J. of Biol. Chem., 264:575-5756, 1989)。にもかかわらず、FokI制限エンドヌクレアーゼのドメイン構造は、3ドメイン構造が示唆されてはいるが(Wilson and Murray, Annu. Rev. Genet. 25:585-627)、未だ未知のままである。
【0007】
〔発明の概要〕
従って、本発明の一つの目的は、IIS型制限エンドヌクレアーゼの単離されたドメインを提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は、ゲノムのマッピングおよび配列決定に有用なハイブリッド制限酵素を提供することである。
【0009】
本発明の更なる目的は、野生型酵素に比較して、認識部位から開裂部位までの距離が増大された、FokIの二つの挿入変異体を提供することである。この二つの変異体を構築するために、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が利用される。
【0010】
本発明の他の種々の目的および利点は、添付の図面および以下の説明から明らかになるであろう。
【0011】
一つの態様において、本発明は、IIS型エンドヌクレアーゼの配列特異的認識活性を含んだIIS型エンドヌクレアーゼの認識ドメインをコードするDNAセグメント;並びにIIS型エンドヌクレアーゼの開裂活性を含んだIIS型エンドヌクレアーゼの触媒ドメインをコードするDNAセグメントに関する。
【0012】
他の態様において、本発明は、実質的にFokI制限エンドヌクレアーゼのN末端または認識ドメインからなり、且つ前記エンドヌクレアーゼの配列特異的認識活性を有する単離されたタンパク;または実質的にFokI制限エンドヌクレアーゼのC末端または触媒ドメインからなり、且つ前記エンドヌクレアーゼのヌクレアーゼ活性を有する単離されたタンパクに関する。
【0013】
更なる態様において、本発明はDNA構築物であって、IIS型エンドヌクレアーゼの開裂活性を含むIIS型エンドヌクレアーゼの触媒ドメインをコードする第一のDNAセグメントと;前記IIS型エンドヌクレアーゼの認識ドメイン以外の配列特異的認識ドメインをコードする第二のDNAセグメントと;ベクターとを含んだDNA構築物に関する。この構築物において、第一のDNAセグメントおよび第二のDNAセグメントは動作可能にベクターに連結されて、ハイブリッド制限酵素を産生するようになる。上記の連結は共有結合を介して行われる。
【0014】
本発明のもう一つの態様は、原核細胞であって、IIS型エンドヌクレアーゼの開裂活性を含んだIIS型エンドヌクレアーゼの触媒ドメインをコードする第一のDNAセグメントと;前記IIS型エンドヌクレアーゼの認識ドメイン以外の配列特異的認識ドメインをコードする第二のDNAセグメントと;ベクターとを含む原核細胞に関する。第一のDNAセグメントおよび第二のDNAセグメントは、単一のタンパクが産生されるように、動作可能に前記ベクターに連結される。第一のDNAセグメントは、例えばFokIの触媒ドメイン(FN)をコードしてもよく、また第二のDNAセグメントは、例えばUbxのホメオドメインをコードしてもよい。
【0015】
他の態様において、本発明は、ハイブリッド制限酵素であって、IIS型エンドヌクレアーゼの開裂活性を含むIIS型エンドヌクレアーゼの触媒ドメインを含んでおり、該触媒ドメインは、この触媒ドメインの取得源であるIIS型エンドヌクレアーゼ以外の酵素またはタンパクの認識ドメインに連結されているハイブリッド制限酵素に関する。
【0016】
更に別の態様において、本発明はDNA構築物であって、IIS型エンドヌクレアーゼの開裂活性を含んだIIS型エンドヌクレアーゼの触媒ドメインをコードする第一のDNAセグメントと;前記IIS型エンドヌクレアーゼの認識ドメイン以外の配列特異的認識ドメインをコードする第二のDNAセグメントと;前記第一のDNAセグメントおよび前記第二のDNAセグメントの間に挿入された、1以上のコドンを含む第三のDNAセグメントと;ベクターとを含んだDNA構築物に関する。好ましくは、前記第三のセグメントは4または7のコドンを含んでいる。
【0017】
他の態様において、本発明は原核細胞であって、IIS型エンドヌクレアーゼの開裂活性を含んだIIS型エンドヌクレアーゼの触媒ドメインをコードする第一のDNAセグメントと;前記IIS型エンドヌクレアーゼの認識ドメイン以外の配列特異的認識ドメインをコードする第二のDNAセグメントと;前記第一のDNAセグメントおよび前記第二のDNAセグメントの間に挿入された、1以上のコドンを含む第三のDNAセグメントと;ベクターとを含んだ原核細胞に関する。
【0018】
〔発明の詳細な説明〕
本発明は、FokI制限エンドヌクレアーゼの機能ドメインの同定および特徴付けに基づいている。本発明に至る実験において、FokI制限エンドヌクレアーゼは2ドメイン系であり、その一つのドメインは配列特異的認識活性を有するのに対して、他方のドメインはヌクレアーゼ開裂活性を含んでいることが見出された。
【0019】
このFokI制限エンドヌクレアーゼは、二本鎖DNA中の非パリンドローム配列である5′−GGATG−3′(配列番号1):5′−CATCC−3′(配列番号2)を認識し、該認識部位から9/13ヌクレオチド下流を開裂させる。このDNAヘリックスの1回転には10塩基対を必要とするので、発明者は、該酵素は一点で結合することによってDNA面と相互作用し、該ヘリックスの次の回転の他点で切断するのあろうと仮定した。これは、離間した二つのタンパクドメイン(即ち、一つはDNAの配列特異的認識のためのドメイン、他の一つはエンドヌクレアーゼ活性のためのドメイン)の存在を示唆している。この仮定された2ドメイン構造は、本発明に至る研究によって、 FokIエンドヌクレアーゼ系の正しい構造であることが示された。
【0020】
従って、一態様において、本発明は、FokI制限エンドヌクレアーゼのN末端(好ましくは、該タンパクの2/3に当たるN末端部分)をコードするDNAセグメントに関する。このセグメントは、当該エンドヌクレアーゼの配列特異的認識活性を有するタンパクをコードする。即ち、このコードされたタンパクは、二本鎖DNA中の非パリンドローム配列であるd−5′−GGATG−3′(配列番号1):5′−CATCC−3′(配列番号2)を認識する。好ましくは、本発明のこのDNAセグメントとは、FokIエンドヌクレアーゼのアミノ酸1-382をコードする。
【0021】
更なる態様において、本発明はFokI制限エンドヌクレアーゼのC末端をコードするDNAセグメントに関する。本発明のこのDNAセグメントによってコードされるタンパクは、 FokI制限エンドヌクレアーゼのヌクレアーゼ開裂活性を有している。好ましくは、本発明のDNAセグメントはFokIエンドヌクレアーゼのアミノ酸383-578をコードする。本発明のDNAセグメントは、当該技術において公知の方法、例えばゲル電気泳動、アフィニティークロマトグラフィー、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、またはこれらの組合せを用いて、生物学的サンプルから容易に単離することができる。更に、本発明のDNAセグメントは、当該技術において標準的な方法を用いて、化学的に合成することができる。
【0022】
本発明はまた、本発明のDNAセグメントによってコードされるタンパクに関する。従って、他の態様において、本発明は実質的にFokIエンドヌクレアーゼのN末端からなり、当該酵素の配列特異的認識活性を保持しているタンパクに関する。本発明のこのタンパクは、2-メルカプトエタノールの存在下でのSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動で測定された約41キロドルトンの分子量を有している。
【0023】
更なる態様において、本発明は、実質的にFokI制限エンドヌクレアーゼのC末端(好ましくは該タンパクのC末端部分1/3)からなるタンパクに関する。2-メルカプトエタノールの存在下でのSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動で測定したとき、このタンパクの分子量は約25キロドルトンである。
【0024】
本発明のタンパクは、当該技術分野において周知の方法によって、生物学的サンプルから単離または精製することができる。例えば、このタンパクはFokI制限エンドヌクレアーゼを単離し、開裂することによって得ることができる。或いは、本発明のタンパクは化学的に合成し、または組換えDNA技術を用いて製造し、精製することができる。
【0025】
本発明のDNAセグメントは、他のDNA結合性タンパクドメインをFokIのヌクレアーゼ若しくは開裂ドメインと結合することにより、「ハイブリッド」タンパクを作製するために使用することができる。これは組換えDNA技術によると同様、化学的にも達成することができる。このようなキメラハイブリッド酵素は新規な配列特異性を有し、ヒト、マウスおよび植物のような様々な種におけるゲノムの生理的マッピングおよび配列決定のために有用である。例えば、このような酵素はヒトゲノムのマッピングにおける使用に適しているであろう。また、これらの加工されたハイブリッドエンドヌクレアーゼは、ゲノムDNAの取り扱いを容易にし、タンパク構造およびタンパク設計に関して価値のある情報を提供するであろう。
【0026】
このようなキメラ酵素はまた、組換えDNA技術および分子生物学において価値のある研究手段である。現在のところ、4〜6塩基対のカッターおよび幾つかの8塩基対カッターが商業的に入手可能であるに過ぎない。(>6塩基対を切断する商業的に入手可能な約10種類のエンドヌクレアーゼが存在している。) 他のDNA結合性タンパクをFokIのヌクレアーゼドメインに結合させることによって、DNA中の7塩基対以上を認識する新規な酵素を作製することができる。
【0027】
従って、更なる態様においては、本発明はDNA構築物と、その中に暗号化されているハイブリッド制限酵素に関する。本発明のDNA構築物は、FokI制限エンドヌクレアーゼのヌクレアーゼドメインをコードする第一のDNAセグメントと、配列特異的認識ドメインをコードする第二のDNAセグメントと、ベクターとを含んでいる。第一のDNAセグメントおよび第二のDNAセグメントは、これらセグメントを発現してキメラ制限酵素を生じることができるように、動作可能にベクターに連結される。この構築物は、プロモータ(例えば、T7、tac、trpおよびlac・UV5プロモータ)、転写ターミネータまたはレトロ調節因子類(retroregulators)(例えば、ステムループ(stem loop))のような調節因子を含むことができる。ホスト細胞(E. coliのような原核細胞)は、本発明のDNA構築物で形質転換して、キメラ制限酵素の製造に用いることができる。
【0028】
本発明のハイブリッド酵素は、他の酵素またはDNA結合性タンパク(例えば6塩基対を認識する、天然に存在するDNA結合性タンパク)に結合されたFokIのヌクレアーゼドメインから構成されている。適切な認識ドメインとしては、ジンクフィンガーモチーフの認識ドメイン;ホメオドメインモチーフ;POUドメイン(真核転写レギュレータ、例えば、Pit1、Oct2およびunc86);ラムダリプレッサ、lacリプレッサ、cro、gal4の他のDNA結合性タンパクドメイン;myc、junのような発癌遺伝子のDNA結合性タンパクドメイン;および>6塩基対を認識する他の天然に存在する配列特異的なDNA結合性タンパクが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
本発明のハイブリッド制限酵素は、当業者が公知の方法論を用いて製造することができる。例えば、該酵素は化学的に合成することができ、或いは当該技術において周知の組換えDNA技術を用いて製造することができる。本発明のハイブリッド酵素は、本発明のDNA構築物を含むホスト細胞(HB101、RR1、RB791およびMM294を培養し、当該タンパクを単離することによって製造することができる。更に、当該ハイブリッド酵素は、当該技術で公知の普通の連結技術、例えばEDC/NHS、DSP等のようなタンパク架橋剤を用いて、例えばFokIのヌクレアーゼドメインを認識ドメインに連結することによって、化学的に合成することができる。
【0030】
本発明に従って作製することができ、従って本発明の一つの態様である特別なハイブリッド酵素は、Ubx−FNである。このキメラ制限エンドヌクレアーゼは、UbxホメオドメインをFokIの開裂ドメイン(FN)に連結することによって製造することができる。精製に続いて、当該ハイブリッド酵素の特性を分析した。
【0031】
FokI制限エンドヌクレアーゼは以下の実験において研究された酵素であるが、他のタイプのIISエンドヌクレアーゼ類(例えば表2に掲載したもの)は、本発明に基づいて当業者が容易に測定できるであろう同様の2ドメイン構造を用いて機能するであろうことが期待される。
【0032】
最近、ストレプトコッカス・サングイス(Streptococcus sanguis)から、StsI、即ちFokIのヘテロ分裂体(heteroschizomer)が単離された(Kita et al., Nucleic Acid Research 20 (3),618, 1992)。このStsIは、FokIと同じ非パリンドロームのペンタデオキシリボヌクレオチド、即ち、5′−GGATG−3′:5′−CATCC−3′を認識するが、該認識部位の10/14ヌクレオチド下流を開裂する。このStsI・RM系はクローニングされ、配列決定されている(Kita et al., Nucleic Acid Research 20 (16) 4167-72, 1992)。二つのエンドヌクレアーゼであるFokIとStsIの間に、顕著なアミノ酸配列の相同性(略30%)が検出された。
【0033】
本発明の他の態様は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いた、FokIエンドヌクレアーゼの二つの挿入変異体の構築に関する。特に、この態様にはDNA構築物であって、IIS型エンドヌクレアーゼの開裂活性を含んだIIS型エンドヌクレアーゼの触媒ドメインをコードする第一のDNAセグメントと;前記IIS型エンドヌクレアーゼの認識ドメイン以外の配列特異的認識ドメインをコードする第二のDNAセグメントと;1以上のコドンを含む第三のDNAセグメントとを含んだDNA構築物に関する。第三のDNAセグメントは、第一のDNAセグメントおよび第二のDNAセグメントの間に挿入される。この構築物はベクターをも含んでいる。上記のIIS型エンドヌクレアーゼは、FokI制限エンドヌクレアーゼである。
【0034】
適切な認識ドメインとしては、ジンクフィンガーモチーフ;ホメオドメインモチーフ;POUドメイン;リプレッサのDNA結合性ドメイン;発癌遺伝子のDNA結合性メイン;および>6塩基対を認識する他の天然に存在する配列特異的なDNA結合性タンパクが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
上記で述べたように、FokI制限エンドヌクレアーゼの認識ドメインはFokIエンドヌクレアーゼのアミノ末端に存在するのに対して、開裂ドメインは、おそらくは該分子のカルボキシ末端側1/3(the carboxyl terminal third of the molecule)に存在する。上記のドメインはリンカー領域によって結合され、これによってDNA基質の認識部位と開裂部位との間の距離が決定される。このFokIのリンカー領域は、DNA基質の存在下においてトリプシンにより開裂し、41kDaのアミノ末端フラグメント(DNA結合性ドメイン)および25kDaのカルボキシ末端フラグメント(開裂ドメイン)を生じ易い。一次アミノ酸配列に基づくFokIの二次構造予測はこの仮説を支持している(図10参照)。この予測された構造は、認識ドメインと開裂ドメインとの連結部における、長く伸びたアルファヘリックス領域を明らかにしている。このヘリックスは多分、該酵素の二つのドメインを結合するリンカーを構成している。こうして、認識部位からのFokIの開裂距離はこのスペーサ(アルファヘリックス)の長さを変化させることによって変更できるであろうことが教示された。アルファヘリックスの1回転(one turn)には3.6のアミノ酸が必要とされるから、この領域に4コドンまたは7コドンを挿入することによって、天然の酵素に存在しているヘリックスは夫々1回転または2回転だけ延長されるであろう。このヘリックス領域のアミノ酸配列を詳細に検査することによって、アミノ酸EEKで離間された二つのKSEL反復の存在(図10)が明らかになった(配列番号21参照)。KSELセグメント(4コドン)(配列番号22参照)およびKSELEEK(7コドン)(配列番号23参照)は、このヘリックスを夫々1回転および2回転だけ延長するためにヘリックス中に挿入するための良好な選択であると思われる。 (実施例XおよびXIを参照のこと) こうして、変異体酵素を作製するために遺伝子工学が利用された。
【0036】
特に、これらの変異体は1以上、好ましくは4または7のコドンをFokIの認識ドメインと開裂ドメインとの間に挿入することによって得られる。より特定的には、当該エンドヌクレアーゼをコードする遺伝子のヌクレオチド1152に4コドンおよび7コドンが挿入される。この変異体は、野生型酵素と同様のDNA配列特異性を有している。しかしながら、野生型酵素と比較すると、これらは、DNA基質の両鎖の認識部位から更に離間した一つのヌクレオチドを開裂する。
【0037】
100bpフラグメントの開裂に基づくFokIおよび変異体の切断部位の分析が、図15に纏めてある。FokIの認識部位と開裂部位との間に4(または7)コドンを挿入すると、認識部位から開裂部位までの距離の増加が伴う。この情報は、FokIエンドヌクレアーゼ内に、二つの離間したタンパクドメイン(一つは配列特異的認識部位であり、他方はエンドヌクレアーゼ活性である)が存在することを更に支持する。この二つのドメインは、DNA基質の認識部位と開裂部位との間の距離を決定するリンカー領域によって結合される。この酵素のモジュール構造は、他のDNA結合性タンパクをFokIエンドヌクレアーゼの開裂ドメインに連結することによって、異なった配列特異性のキメラエンドヌクレアーゼを構築することが容易であろうことを示唆している。
【0038】
上述した情報の観点から、本発明の他の態様には、原核細胞であって、IIS型エンドヌクレアーゼの開裂活性を含んだIIS型エンドヌクレアーゼの触媒ドメインをコードする第一のDNAセグメントと;前記IIS型エンドヌクレアーゼの認識ドメイン以外の配列特異的認識ドメインをコードする第二のDNAセグメントと;1以上のコドンを含む第三のDNAセグメントとを含んだ原核細胞が含まれる。第三のDNAセグメントは、第一のDNAセグメントおよび第二のDNAセグメントの間に挿入される。また、この細胞はベクターをも含んでいる。加えて、前記第一のDNAセグメント、前記第二のDNAセグメントおよび前記第三のDNAセグメントは、単一のタンパクが産生されるように前記ベクターに対して動作可能に連結される。前記第三のセグメントは、実質的に4または7のコドンからなっていてもよい。
【0039】
また、本発明には上記で述べた原核細胞によって産生されるタンパクが含まれる。特に、この単離されたタンパクは実質的に、FokI制限エンドヌクレアーゼの認識ドメインと、FokI制限エンドヌクレアーゼの触媒ドメインと、前記第三のDNAセグメントに存在するコドンによってコードされるアミノ酸とからなっている。
【0040】
以下の制限的でない実施例は、本発明をより詳細に説明するために与えられるものである。
【0041】
〔実施例〕
実施例I
FokIRM系のクローニング
FokI系を、変更表現型を選択する事によってクローンした。フラボバクテリウム・オケアノコイテス(Flavobacterium okeanokoites) 株DNAを、カゼルタら(Caserta et al., J. Biol. Chem., 262:4770-4777, 1987) によって記載された方法によって単離した。 数個のフラボバクテリウム・オケアノコイテスのゲノムライブラリーを、プラスミドpBR322及びpUC13中に、クローニング酵素PstI、BamHI及びBglIIを使用して構築した。プラスミド・ライブラリーDNA(10μg)を、100ユニットのFokIエンドヌークレアーゼで消化し、FokIM+表現型を発現するプラスミドを選択した。
【0042】
生存プラスミドをRRI細胞にトランスフォーム(形質転換)し,形質転換物細胞を適切な抗生物質を含むプレート上で選択した。生化学的濃縮を二回行なった後、fokIM+表現型を発現する数個のプラスミドをこれらのライブラリーから同定した。これらのクローン由来のプラスミドは、FokIによる消化に対して完全に抵抗性を示した。
【0043】
F.オケアノコイテスのpBR322 PstIライブラリーから分析して得られた8つの形質転換物の内、二つは,fokIM遺伝子を担持していたようであり、これらに由来するプラスミドは、5.5kbのPstI断片を含んでいた。F.オケアノコイテスのpBR322 BamHIライブラリーからピックアップされた8つの形質転換物の内、二つは,fokIM遺伝子を担持していたようであり、これらに由来するプラスミドは、18kbのBamHI断片を含んでいた。pUC13中のF.オケアノコイテスのゲノムBglIIライブラリーから分析された8つの形質転換物の内、6つが、fokIM遺伝子を担持していたようであり、これらのクローンの内3つが、8kbのBglII挿入物を担持し、残りは16kbのBglII断片を担持していた。
【0044】
これらのクローンについてのファージλのプレーテイング効率から、これらのクローンもまた、fokIR遺伝子を担時している事が示唆される。8kb のBglII挿入物を担持するクローンは、ファージ感染に一番抵抗性を示したようだ。更に,FokIエンドヌクレアーゼ活性が、ホスホセルロース・カラムで、部分精製を行った後のこのクローンの粗抽出物中で検出された。このクローン由来のプラスミド、pUCfokIRMを選んで、更に特徴付けを行った。
【0045】
5.5kb PstI断片を、M13ファージにトランスファーし、この挿入物の部分的ヌクレオチド配列を、サンガーのシークエンス法 (Sanger et al., PNAS USA, 74:5463-5467, 1977)を使用して決定した。FokIRM系の完全なヌクレオチド配列は、別の研究室(Looney et al., Gene, 80:193-208, 1989; Kita et al., Nucleic Acid Res., 17:8741-8753, 1989; Kita et al., J. Biol. Chem. 264:5751-5756, 1989)によって公表されている。
【0046】
実施例II
ポリメラーゼ・チエイン・リアクションを使用したFokIエンドヌクレアーゼの効率的過剰生産者クローンの構築
PCRテクニックを使用してfokIR遺伝子を囲む転写及び翻訳信号を変更し、大腸菌における過剰発現を遂行した(Skoglund et al., Gene, 88:1-5, 1990)。fokIR及びfokIM遺伝子に先行するリボソーム結合部位を変更し、共通する大腸菌信号に適合させる。
【0047】
PCR反応において、BamHIで直線化されたプラスミドpUCfokIRM DNAが、テンプレートとして使用された。PCR反応物(100μl)には、0.25 nmolの各プライマー 、50 μMの各dNTP、10 mM Tris.HCl(pH8.3、25℃)、50 mM KCl, 1.5 mM MgCl2, 0.01%(w/v)ゼラチン、1 ngのテンプレートDNA、5ユニットのTaq DNAポリメラーゼが含まれていた。fokIR及びfokIM遺伝子の増幅に使用されるオリゴプライマーを、図1に示す。反応混合物(4重に行なう)上に鉱物油を載置し、パーキン・エルマー・シータス(Perkin-Elmer-Cetus)熱サイクラーを使用して反応を実施した。
【0048】
最初のテンプレート変性は2分間とプログラムされた。その後、サイクルプロフィルは、37℃で2分(アニーリング)、72℃で5分(伸張)、94℃で1分(変性)というようにプログラムされた。このプロフィルを25サイクル繰り返し、最後の72℃伸張を10分まで延長した。反応混合物の水層をプールし、1:1フェノール/クロロフォルムで一回、クロロフォルムで二回、抽出した。DNAをエタノールで沈澱させ、20μlのTE緩衝液[10mM Tris.HCl(pH7.5)、1mM EDTA]で再懸濁した。次に、DNAを適切な制限酵素で切断して付着末端を生成し、ゲル精製を行なった。
【0049】
過剰生産者クローンの構築は、二段階で行なわれた。はじめに、fokIM遺伝子を含むPCR産生DNAをNcoIで消化し、ゲル精製を行った。次に、該DNAをNcoI切断し、脱リン酸化されたpACYC184に連結し、該組替DNAは、マニアチス(Maniatis et al., Molecular Cloning. A laboratory manual Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY, 1982). 等に記載の様に受容可能状態(コンピテント)にした大腸菌PB791igまたはRRI細胞にトランスフェクトされた。 Tc選択後、数個のクローンをピックアップし、プラスミドDNAを制限分析にかけ、fokIM遺伝子断片がベクターのクロラムフェニコールのプロモーターに対して正しい方向で存在しているかどうかについて調べた(図2参照)。該プラスミドは、FokIメチラーゼを構成的に発現する。これは、fokIR遺伝子を、適合性プラスミドのホスト中に導入する際のホストの染色体切断を防ぐ。それ故、これらのクローン由来のプラスミドDNAは、FoKI消化に対して、抵抗性がある。
【0050】
次に、PCRで産生されたfokIR断片は、BamHIに切断され、脱リン酸化された高発現ベクターpRRSまたはpCBに連結された。pRRSは、lac UV5 プロモータ及び強tacプロモータを含むpCBを担持している。加えて、これらのベクターは、挿入されたfokIR遺伝子のバチルス・サーリンジェンシス(Bacillus Thuringiensis) 下流の結晶タンパク質をコードする遺伝子に由来する陽性レトロ調節ステップループ配列を含んでいる。
【0051】
該組替DNAを受容可能な大腸菌RB791ig[pACYCfokIM]または、RR1[pACYCfokIM]細胞にトランスフェクトした。Tc及びAp抗生物質選択をした後、数個のクローンをピックアップして、プラスミドDNAを制限分析にかけ、fokIR遺伝子がベクター・プロモータからの発現について正しい配向にあるかどうかについて調べた。次に、これらの構築物の酵素産生について調べた。
【0052】
酵素を産生するために、プラスミド含有RB791igまたは、RR1細胞を、37℃で、20μgTc/ml(pUCfokIRMプラスミド以外)及び50μg Ap/mlを補給した2倍濃縮のTY培地[1.6%トリプトン、1%酵素抽出物、0.5%NaCl(pH7.2)]中で、振盪しながら生育させた。細胞密度がO.D.600=0.8に達した時、IPTGを濃度1mMまで加えた。該細胞を、振盪しながら一晩(12時間)インキュベートした。 図2に示すように、両構築物はFokIを全細胞蛋白の5−8%のレベルまで産生した。
【0053】
実施例III
FoKIエンドヌクレアーゼの精製
シンプルな3段階精製法を使用して、電気泳動法的に均質なFokIエンドヌクレアーゼを得た。RR1[pACYCfokIM、pRRSfokIR]を、37℃で、20 μg Tc/ml及び50 μg/Ap mlを含む2倍濃縮のTY6l中で、A600=0.8まで生育させ、1mM IPTGで、一晩誘導した。遠心分離によって細胞を収穫し、50 mM NaClを含む250mlの緩衝液A[10 mM Tris燐酸(pH8.0)、7 mM 2ーメルカプトメタノール、1mM EDTA、10% グリセロール]中に再懸濁した。
【0054】
該細胞を、ブランソン(Branson)超音波器で、最高強度、一時間4℃で破砕した。超音波破砕された細胞は12、000g、2時間、4℃で、遠心分離された。上澄液を、50 mM NaClを含む緩衝液Aで、1Lまで希釈した。上澄液を、50 mM NaClを含む緩衝液Aで予め平衡化された10mlのホスホセルロース(Whatman)カラムに充填した。該カラムを、50mlのローデイグ緩衝液で洗浄し、蛋白を緩衝液中、0.05Mから0.5MのNaClの80ml全勾配で抽出した。各画分は、A280吸光でモニターされ、SDS(0.1%)ポリアクリルアミド(12%)ゲル(Laemmli, Nature 222,:680-685, 1970)上の電気泳動法で分析された。蛋白は、クマシー・ブルーで染色された。
【0055】
各分画の制限エンドヌクレアーゼ活性を、pTZ19Rを基質として使用して分析した。FokIを含む各分画はプールされ、燐酸アルミニウムで分画された。50−70%の硫酸アルミニウム分画は、FokIエンドヌクレアーゼを含有していた。沈澱物は、25 mM NaClを含む緩衝液50ml中に再懸濁され、DEAEカラムに充填された。多くの不純蛋白はDEAEに結合するのに対して、FokI結合しない。流出液は燐酸セルロースカラムで濃縮した。ゲルろ過(AcA44)カラムを使用して精製が更になされた。FokIは、本方法を使用して、電気泳動的に均質になるまで、精製された。
【0056】
各精製段階に存在する蛋白種のSDS(0.1%)ポリアクリルアミド(12%)ゲル電気泳動プロフィルを、図3に示す。精製された酵素の最初の10アミノ酸の配列が、蛋白のシークエンスにより決定された。決定された配列は、ヌクレオチド配列から推定されたものと同じであった。精製された酵素の結晶を、PEG4000を沈澱剤として使用して、成長させた。FokIエンドヌクレアーゼは、AcA44ゲルろ過カラムを使用して、さらに精製された。
【0057】
実施例IV
DNA基質の存在下におけるトリプシン開裂によるFokIRエンドヌクレアーゼの分析
トリプシンはセリン・プロテアーゼであり、リジン及びアルギニン残基のC末端で開裂する。これは、蛋白及び酵素のドメイン構造を研究するのに大変有用な酵素である。FokIのトリプリン消化は、その基質、d-5'-CCTCTGGATGCTCTC-3'(配列認識番号10): 5'-GAGAGCATCCAGAGG-3'(配列認識番号11)の存在下で、オリゴヌクレオチド二量体:FokI分子比 =2.5:1で、実施された。FokI(200μg)をオリゴヌクレオチド二量体と一緒に、10 mM Tris・HCl、50 mM NaCl、10 % グリセロール、10 mM MgCl2、を含む容積180μl中で、室温にて1時間インキュベートした。トリプシン(20 μl、0.2 mg/ml)を、混合物中に添加した。反応混合物からアリコット(28μl)を別々の時間間隔をおいてとり、過剰のトリプシン阻害剤、アンチパインでクエンチングした。該トリプシン断片を、逆相HPLCで精製し、そのN末端配列を、Applied Biosystemの自動蛋白シークエンサーを使用して決定した。
【0058】
2.5モル過剰オリゴヌクレオチド基質、10mg MgCl2、存在下におけるFokIエンドヌクレアーゼのトリプシン消化の時間経過が、図4に示される。2.5分時点で、完全なFokI以外、わずか二つの主要断片、41kDa,25kDa断片のみが存在していた。さらにトリプシンで消化すると、41kDa断片は、30kDa、11kDa断片に分解される。この25kDaの断片は、更にこれ以上のトリプシン消化に対して抵抗性があるようだ。この断片は、もしFokIーオリゴ複合体のトリプシン消化をMgCl2非存在下で実施したとしたら、もっと不安定であっただろう。
【0059】
160分時点では、わずか3つの主要断片(30、25、および11kDa)が存在していた。これらの断片(41、30、25、11kDaの各々は、逆相HPLCで精製され、そのN末端のアミノ酸配列が決定された(表1)。これらのN末端配列を、FokIの推定配列と比較する事によって、41kDa及び25kDa断片は、それぞれN末端及びC末端の断片と同定された。加えて、30kDaは、N末端であると同定された。
【0060】
実施例V
オリゴdTセルロース親和性カラムを使用したFokIエンドヌクレアーゼのDNA結合トリプシン断片の単離
トリプシン断片のDNA結合性を、オリゴdTセルロース・カラムを使用して分析した。FokI(160μg)を2.5モル過剰オリゴヌクレチド二量体[d-5'-CCTCTGGATGCTCTC(A)15-3'(配列認識番号14):5'-GAGAGCATCCAGAGG(A)15-3'( 配列認識番号15)と一緒に、10 mM Tris・HCl(pH8)、50 mM NaCl、10% グリセロール、10mM MgCl2を含む容積90 μl中で、室温にて1時間インキュベートした。トリプシン(10 μl、0.2mg/ml)を該溶液に添加して消化を開始した。トリプシンとFokIの割合は、重量で1:80であった。消化を10分間実施し、反応液中に41 kDa N末端断片及び25 kDa C末端断片を優占的に得た。反応物を大過剰のアンチパイン(10μg)で、クエンチングし、ローデイング緩衝液[10 mM Tris・HCl(pH8.0)、1 mM EDTA、10 mM MgCl2、]で、最終容積が400 μlとなるまで希釈した。
【0061】
該溶液を、オリゴdTセルロース・カラム(0.5 ml、Sigma, カタログ#0-7751)に充填し、ローデイング緩衝液で前平衡化した。該ブレイクスルーを、オリゴdTセルロース・カラムに6回通した。該カラムを5mlカラムローデイング緩衝液で洗浄し、次に、0.4mlの 10mM Tris.HCl(pH8.0)、1 ml EDTAで二回抽出した。これらの各分画は、オリゴヌクレオチドDNA基質に結合しているトリプシン断片を含んでいた。オリゴdTセルロースカラムに結合しているトリプシン断片は、SDSポリアクリルアミド・ゲル電気泳動で分析された。
【0062】
別個の反応で、トリプシン消化を160分間実施し、反応混合物中に30kDa,25kDa、および11kDa断片を優占的に得た。
【0063】
FokIエンドヌクレアーゼのトリプシン消化10分では、反応混合物中に、41kDaのN末端断片および25kDaのC末端断片が優先種として産生された(図5、レーン3)。該混合物をオリゴdTセルロースカラムに通し、41kDaN末端断片のみが該カラムに保持された。これは、FokIエンドヌクレアーゼのDNA結合性が、該酵素のN末端2/3にある事を示唆している。25kDa断片はオリゴdTセルロースカラムに保持されない。
【0064】
FokI−オリゴ複合体のトリプシン消化160分では、30、25、11kDaの断片が優占的に産生された(図5、レーン5)。この反応混合物をオリゴdTセルロースカラムに通すと、 30および11kDa断片のみがカラムに保持された。これらの種類は共に、DNAと結合しているようであり、41kDa N末端断片を更に分解する事により生じる。25 kDa断片は、オリゴdTセルロースカラムに保持されなかった。25 kDaもまたDEAEに結合しないので、DEAEカラムを通過し、ブレイクスルー容液中で回収する事により精製され得る。
【0065】
FokI(390 μg)を2.5モル過剰オリゴヌクレオチド二量体 d-5'-CTCTGGATGCTCTC-3'(配列認識番号第10):5'-GAGAGCATCCAGAGG-3'(配列認識番号第11)と一緒に、10mM Tris・HCl(pH8.0)、50 mM NaCl、10% グリセロールを含む容積170 μl中で、室温にて1時間インキュベートした。41kDaN末端断片の生産が最大となるのは、MgCl2非存在下でのトリプシン(3μl;0.2 mg/ml)による消化では、室温で10分であった。 反応物は、過剰のアンチパイン(200μl)で、クエンチングした。 トリプシンの消化物は、DEAEカラムを通した。25kDaのC末端断片を、ブレイクスルー中にて回収した。他の全トリプシン断片(41kDa,30kDaおよび11kDaは、カラムに保持され、0.5MのNaCl緩衝液(3x200μl)で抽出した。
【0066】
別個の実験で、10mM MgCl2存在下、室温60分で、FokIーオリゴ複合物のトリプシン消化を行なったところ、30kDaおよび11kDa断片の産生が最高となった。この精製された断片は、非メチル化DNA基質(pTZ19R、図6)と、メチル化DNA基質(pACYCforkIM)もともに、MgCl2存在下で非特異的に開裂した。これらの産生物は、小さく、開裂は比較的非特異的である事が示される。該生産物は、牛小腸ホスファターゼを使用して脱リン酸化されるかまたはポリヌクレオチド・キナーゼおよび[γー32P]ATPを使用して、再リン酸化された。32P標識された産生物はDNaseIおよび蛇毒ホスホジエステラーゼを使用して消化されてモノヌクレオチドにされた。PEIセルロース・クロマトグラフィによるモノヌクレオチドの分析では、25kDa断片が、優先的にホスホジエステルのボンド5’をG>A>>T−Cに開裂した事がわかる。このように、該25kDaのC末端の断片は、FokIエンドヌクレアーゼの開裂ドメインを構成している。41kDa N末端断片ーオリゴ複合体は、アガロース・ゲル電気泳動によって精製された。FokIエンドヌクレアーゼ(200μg)は、2.5モル過剰のオリゴヌクレオチド二量体 d-5'-CCTCTGGATGCTCTC-3' (配列認識番号第10):5'-GAGAGCATCCAGAGG-3'(配列認識番号第11)と一緒に、10mM Tris・HCl(pH8.0)、50mM NaCl、10% グリセロールを含む容積180μl中で、室温にて1時間インキュベートされた。わずかな量の32Pで標識されたオリゴヌクレオチド二量体が複合体中に組み入れられ、ゲル電気泳動中にそれをモニターした。41 kDa N末端断片の産生を最高にする、トリプシン消化(20μl;0.2mg/ml)は、室温12分であった。反応物は、過剰のアンチパインでクエンチングされた。41 kDa N末端断片ーオリゴ複合体は、アガロース・ゲル電気泳動で精製された。該複合体に対応するバンドが切り出され、透析バッグ(〜600μl)中で、電気抽出によって回収された。SDS−PAGEによる複合体の分析では、41kDa N末端が主要構成物である事が解明された。30 kDa N末端断片及び11 kDa C末端断片は、副成分として存在していた。これらは一緒にDNAに結合し、41 kDa N末端断片ーオリゴ複合物とともに移動するようにみえる。
【0067】
41 kDa N末端断片の結合特異性は、ゲル・モビリテイシフト分析によって決定された。
【0068】
実施例VI
ゲル・モビリテイ・シフト分析
特異的オリゴ(d-5'-CCTCTGGATGCTCTC-3' (配列認識番号第10), 5'-GAGAGCATCCAGAGG-3'(配列認識番号第11))は、40 mM Tris.HCl(pH7.5)、20 mM MgCl2、50mM NaCl、10 mM DTT、10ユニットのT4ポリヌクレオチド・キナーゼ(New England Biolabsより入手)、及び20μCi[γ−32P]ATP(3000Ci/mmol)を含む25 μlの反応混合物中で32P標識された。該混合物は、37℃で、30分インキュベートされた。キナーゼは、反応混合物を70℃15分加熱する事により失活させた。200μlの水を加えた後、溶液をセファデックスG−25(Superfine) カラム(Phamacia)を通過させて未反応[γ−32P]ATPを除いた。標識された単鎖オリゴの最終濃度は27μMであった。
【0069】
次に、単鎖をアニールして、10 mM Tris.HCl(pH8.0)、50 mM NaCl中 に二量体を12μMの濃度まで形成した。 1 μlの溶液は、オリゴ二量体を〜12ピコモル及び〜50x103cpm含んでいた。非特異的オリゴ類、即ちd-5'-TAATTGATTCTTAA-3'(配列認識番号12)及びd-5'-ATTAAGAATCAATT-3'(配列認識番号13)は、ここに記載したように[γ−32P]ATPとポリヌクレオチド・キナーゼで標識された。単鎖オリゴはアニールされ、二量体を濃度12μMで産生した。該溶液は、オリゴ二量体を〜12ピコモル及び〜25x103cpm含んでいた。該非特異的オリゴ(d-5'-TAATTGATTCTTAA-3')(配列認識番号12)及びd-5'-ATTAAGAATCAATT-3'(配列認識番号13)は、ここに記載したように[γ−32P]ATPとポリヌクレオチド・キナーゼで標識された。単鎖オリゴはアニールされ、二量体を濃度12μMで産生した。該溶液は、オリゴ二量体を〜42ピコモル及び〜25x103cpm含んでいた。10 mM Tris.HCl(pH8.0)、50 mM NaClおよび10mM MgCl2中に41kDaN末端断片ーオリゴ複合体(〜2pモル)を含む溶液10μlを、32Pで標識した特異的なオリゴヌクレオチド二量体(または32Pで標識した非特異的なオリゴヌクレオチド二量体)とともに37℃で夫々30分および120分インキュベートした。75%のグリセロール5μlを各サンプルに加え、8%の非変性ポリアクリル・アミド・ゲル上に充填した。電気泳動を、ブロモフェノールがゲルの頂部より6cm移動するまでTBE緩衝液中300ボルトでおこなった。該ゲルを乾燥し、オートラジオグラフを行なった。ゲル・モビリテイ・シフト分析(図7)から理解できるように、複合体は、FokI認識部位を含んだ、32P標識された特異的オリゴヌクレオチド二量体と簡単に置き変わったが、FokI認識部位を含まない、32P標識された非特異的オリゴヌクレオチド二量体とは置き変わらなかった。これらの結果から、DNAの配列特異的認識に必要な全ての情報が, FokIの41 kDa N末端断片内にコードされている事がわかる。
【0070】
実施例VII
DNA基質の非存在下でのトリプシン開裂によるFokI分析
DNA基質非存在下でのFokIエンドヌクレアーゼのトリプシンの時間経過を図8に示す。はじめに、FokIが、58kDa断片と8kDa断片に切断された。該58kDa断片はDNA基質に結合せず、オリゴdTセルロースカラムに保持されない。更に消化が進むと、58kDa断片は、数個の中間トリプシン消化断片に分解される。 しかしトリプシン消化が完了すると25kDa断片のみとなる(二つの重複バンドとして見える)。 これらの種(58kDa,25kDa、及び8kDa)は、逆相HPLCで精製され、そのアミノ末端配列が決定された(表I)。N末端配列と推定されるFokI配列を比較すると、8kDa断片がN末端で、58kDa断片がC末端である事がわかる。これは、さらにFokIのN末端が認識ドメインに関与しているという結論を支持している。 25kDa断片のN末端をシークエンスすると、二つの異なる成分が存在している事がわかる。非特異的DNA基質の存在下でのFokIエンドヌクレアーゼのトリプシン消化の時間経過では、非特異的DNA基質の非存在下でFokIのトリプシン消化で得られたプロフィルと類似していた。
【0071】
実施例VIII
FokIの25kDaC末端のトリプシン分解断片の開裂特異性
FokIの25kDa C末端トリプシン断片は、pTZ19Rを小さな産物に切断し、非特異的な開裂をしめす。分解産物は、牛小腸ホスファターゼによって脱リン酸化され、ポリヌクレオチド・キナーゼおよび[γ−32P]ATPによって32P標識された。過剰の標識は、セファデックスG25を使用して除去された。次に、標識された産物は、50 mM Tris.Hcl(pH7.6)、10 mM MgCl2を含む緩衝液中で、1ユニットの膵臓DNaseI(Boehringer-Mannheim)によって37℃、1時間で消化された。次に、0.02ユニットの蛇毒ホスホジエステラーゼを、反応混合物に添加し、37℃、1時間で消化した。
【0072】
実施例IX
FokI制限エンドヌクレアーゼにおける機能的ドメイン
トリプシンを使用したFokIの機能的ドメインの分析(基質の存在下、非存在下における)を図9に要約した。FokIがDNA基質と結合すると、該酵素構造の変換が伴なった。この研究は、配列特異的認識用とエンドヌクレアーゼ活性用の二つの別個の蛋白ドメインが該酵素中に存在していることを裏付けている。この結果により、認識ドメインがFokIエンドヌクレアーゼのN末端にあるのに対して、開裂ドメインが、該分子のC末端に存在しているであろうことが示される。
【0073】
挿入変異物の構築に関する実施例(X−XIV)
FokI RM 系の完全なヌクレオチド配列は、多くの研究所によって公表されている(Looney et al., Gene 80: 193-208, 1989 & Kita et al., J. Biol. Chem. 264: 5751-56, 1989)。
例えば、PCRの実験プロトコールは、Skoglund et al., Gene 88:1-5, 1990 Bassing et al., Gene 113:83-88, 1992に、記載されている。細胞生育の方法及び変異酵素の精製は、野生型FokI(Li et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 89:4275-79, 1992)用に使用された物と同じである。さらに、セファデックスG−75ゲルろ過およびヘパリンーセファロースCL−6Bカラムクロマトグラフィーが変異酵素を均質になるまで精製するステップが必要であった。
【0074】
実施例X
fokIR遺伝子内ヌクレオチド162におけるSpeI部位の変異
fokIR遺伝子内のSpeI部位89のひとつを変位させるのに使用される二段階PCR技法は、Landt et al., Gene 96:125-28, 1990)に記載されている。このプロトコール用の3つの合成プライマーは、1)SpeI部位内にひとつの不適性塩基を含む変異プライマー(5'- TCATAATAGCAACTAATTCTTTTTGGATCTT-3')(配列認識番号24参照)、2)制限部位ClaI部位(5'-CCATCGATATAGCCTTTTTTATT-3')(配列認識番号25)及びXbaI部位(5'-GCTCTAGAGGATCCGGAGGT-3')(配列認識番号26)でそれぞれフランキングされるプライマーである。第一段階では、XbaIプライマー及び変異プライマーを使用して中間断片が増幅された。次に、第2段階PCRで、ClaIプライマーが該中間物に添加された。0.3 kb PCR最終産物をXbaI/ClaIで消化し、付着末端を精製し、ゲル精製した。発現ベクター(pRRSfokIR)は、XbaI/ClaIで消化された。次に、4.2kbの大断片は、ゲル精製され、PCR断片に連結された。組替DNAは、受容可能な大腸菌RR1[pACYCfokIM]細胞にトランスフェクトされた。テトラサイクリン及びアンピシリン抗生物質による選択の後、数個のクローンを取り上げ、そのプラスミドDNAを、制限分析によって調べた。SpeI部位変異は、プラスミドDNAをサンガーのシークエンシング法(Sanger et al. Proc. Natl. Acd. Sci, USA 74:5463-67, 1977)使用したシークエンシングにより確認された。
【0075】
実施例XI
4(または7)コドン挿入変異物の構築
4(または7)コドン挿入物を含むPCR産生DNAは、SpeI/XmaIで消化され、ゲル精製された。実施例Xで得られたプラスミドpRRSfokIRをSpeI/XmaIで切断し、3、9kbの大断片をゲル精製し、PCR産生物に連結した。該組替DNAは、受容可能なRRI[pACYCfokIM]細胞にトランスフェクトされ、所望のクローンが、実施例Xで記載されたように同定された。これらのクローン由来のプラスミドは単離されシークエンスされて、fokIR遺伝子の4(または7)コドン挿入物が確認された。
【0076】
特に、変異物の構築は、下記の様になされた:
(1)fokIR遺伝子配列内には、ヌクレオチド162及び1152の夫々に2つのSpeI部位がある。1152の部位は、FokIのトリプシン開裂部位近隣に位置し、認識ドメインと開裂ドメインを分離している。この領域の周囲に、4(または7)のコドンを挿入するために、もう一方の162のSpeI部位を2段階PCR法(Landt et al. Gene 96:125-28, 1990) を使用して変異させた。このSpeI部位変異をfokIR遺伝子へ導入しても、過剰生産者クローンの発現レベルに影響をあたえない。
【0077】
(2)4(または7)のコドンの挿入は、PCR法を使用して行われた。PCR増殖で使用された変異プライマーは、図11に示される。各プライマーは、fokIR遺伝子と相補的な21ベースペア配列をもつ。これらのプライマーの5’末端は、SpeI部位でフランクされる。KSEL及びKSELEEKの繰り返しに対するコドンは、SpeI部位と21相補ベースペアの間に取り込まれる。縮重コドンをこれらの繰り返し中に使用し、増幅中に起こり得る問題を回避した。
【0078】
他のプライマーは、fokIR遺伝子の3’末端と相補的であり、XmaI部位によってフランクされる。4(または7)コドン挿入物を含む0.6kbPCR産生断片は、SpeI/XmaIによって消化され、ゲル精製された。これらの断片は、高発現ベクターpRRSfokIRに代替し、変異物を精製する。各変異物の数個のクローンが同定され、そのDNA配列がサンガーのジデオキシ・チェイン・ターミネーション法(Sanger et al., Proc. Natl. Acad. Sci, USA 74.5463-67 1977)によって確認された。
【0079】
1mMのイソプロピルβーD−チオガラクトシド(IPTG)で誘導して、これらクローン中での変異酵素の発現をSDS/PAGEで測定したところ、3時間でもっとも顕著となった。これは、酵素活性についての分析によって、更に裏付けられた。これらのクローン中における変異酵素の発現レベルは、野生型FokIと比較してはるかに低かった。IPTGでもっと長く誘導すると、より低い酵素レベルとなり、変異酵素が、これらのクローン中で積極的に分解される事が示唆された。これによって、FokIの認識ドメインと開裂ドメインの間の4(または7)のコドン挿入物が蛋白構造を不安定にし、細胞内における分解をし易くする事が示唆される。変異酵素のSDS/PAGEプロフィルは、図12に示される。
【0080】
実施例XII
単一FokI部位をもつDNA基質の調製
それぞれ単一FokI認識部位をもつ2つの基質は、pTZ19Rをテンプレートとして使用したPCRによって調製された。オリゴヌクレオチド・プライマー:5'-CGCAGTGTTATCACTCAT-3' 及び 5'-CTTGGTTGAGTACTCACC-3'(夫々、配列認識番号27及び28)を使用して、100ベースペア断片を合成した。プライマー:5'-ACCGAGCTCGAATTCACT-3'及び 5'-GATTTCGGCCTATTGGTT-3'(夫々、配列認識番号29及び30)を使用して256ベース断片を調製した。これらの基質内の個々のストランドは、対応する32P標識されリン酸化されたプライマーを使用して、PCR中に放射線標識された。産生物を、低溶融アガロース・ゲルで精製し、エタノールで沈澱させTE緩衝液に再懸濁した。
【0081】
実施例XIII
変異酵素の配列特異性の分析
図13に、pTZ19R DNAのFokIおよび変異体酵素による開裂産生物のアガロース・ゲル電気泳動プロフィルが示される。それらが非常に類似している事は、認識ドメイン及び開裂ドメインの間のリンカー領域における4(または7)コドン挿入物がそのDNA配列の特異性を変えない事を示唆している。この事は、更に、各々単一のFokI部位を含む32P標識DNA基質(100bp及び256bp)を使用する事により確認された。32Pで標識された個々のストランドを含む基質は、実施例XIIに記載された様に調製された。FokIは、256ベースペアの基質を二つの断片、180bp及び72bpにそれぞれ切断する(図13B)。断片の長さは、各ストランドの32Pで標識された5’末端から計算された。アガロース・ゲルのオートラジオグラフが、図13Cに示される。基質中で32P標識を担持するストランドに依存して、72bp断片または180bp断片が、オートラジオグラフィーにバンドとして現われる。該変異酵素は、同一のアガロース・ゲル・プロフィル及びオートラジオグラフィーを現わす。それ故、認識ドメインと開裂ドメインの間の4(または7)コドン挿入物は、FokIエンドヌクレアーゼのDNA認識機構を変えない。
【0082】
実施例XIV
変異酵素による認識部位からの開裂距離の分析
変異酵素による開裂の距離を決定するために、32Pで標識された基質の開裂産物をPAGEで分析した(図14)。消化物は、これらの基質を合成するためのPCRで使用されたと同じプライマーで行われたpTZ19Rのシークエンシング反応に沿って分析された。100bp断片のFokIによる開裂パターンおよび変異物が、図14Aに示される。野生型酵素と比較すると、変異物の場合は、切断部位が基質の両ストランド上の認識部位からずれている。シークエンシング・ゲルおよび開裂産物の間の観測可能な小さなずれは、シークエンシング反応に使用される非リン酸化プライマーに起因する。
【0083】
5'-GGATG-3'ストランド上で、両変異物は、DNAの認識部位から10ヌクレオチド離れて切断するのに対して、5'-CATCC-3'ストランド上では、14のヌクレオチド離れて切断する。これらは両変異物にとって、主要な切断部位であると思われる。また、野生型酵素と同量の開裂が観察された。
【0084】
256bp断片の開裂パターンは、図14Bに示される。開裂パターンは、図14Bに示される。開裂パターンは、100bp断片と類似している。変異物の場合、5'-CATCC-3'ストランド上の認識部位から15ヌクレオチド離れたところに、ある開裂が見られる。変異酵素の多数の切断部位は、これらの蛋白に異なる構造がある事に起因するのであろう。さもなければ、二つのドメイン間の空間領域の柔軟性が増加する事に起因する。DNA基質に依存して、これらの部位における開裂の強さには、あるばらつきが見られた。これは、これらの切断部位の回りのヌクレオチド配列に起因するのかも知れない。多数の切断部位を持つ自然発生型IIS酵素は、Szybalski et al., Gene 100: 13-26, 1991)に報告されている。
【0085】
ハイブリッド酵素Ubx−FN(XV−XVII)の構築に関する実施例
上記に言及したように、FokI制限ー変更システムの完全なヌクレオチド配列は、別の研究所から公表されている(Kita et al., J. Biol Chem. 264:5751-56 (1989); Looney et al., Gene 80: 193-208 (1989))。PCRの実験プロトコールは、いたるところに記載されている(Skoglund et al., Gene 88:1-5 (1990))。細胞生育およびHisbindTm樹脂を使用した蛋白の精製は、ノバジェン(Novagen)pETシステムマニュアルに、概説された通りである。さらに、ハイブリッド蛋白Ubx−FNをほぼ均質になるまで精製するためには、ホスホセルロースおよびDEAEカラム・クロマトグラフィーのステップを付加する事が必要である。SDS/PAGEのプロトコールは、Laemmli (Nature 222:680-685 (1970))によって記載された通りである。
【0086】
pUC13派生基質の調製
pUC13派生DNA基質は、SmaI切断pUC13プラスミドの平滑末端と既知のUbx部位を含む10倍過剰量の30bp挿入物との連結によって調製された。数個のクローンを取り出し、そのプラスミドDNAを、30bp挿入物の有無について分析した。夫々、1、2、および3の挿入物を担持するpUC13(1),pUC13(2)、pUC13(3)を含クローンが同定された。そのDNA配列は、サンガーのジデオキシシークエンシング法によって確認された(Proc. Natl. Acd. Sci, USA 74: 5463-67 (1977))。
【0087】
単一Ubx部位を持つDNA基質の調製
単一の30bp挿入物を保持するpUC13(1)のポリリンカー領域をEcoRI/HindIIIを使用して切り出し、ゲル精製した。この基質の各々のストランドは、32P−dATPまたは32P−dCTPを使用して放射線標識され、クレノー酵素で該断片の付着末端を充填した。該産生物を低溶融アガロース・ゲルで精製し、エタノールで沈澱させ、緩衝液(10mM Tris.HCl/1mM EDTA、pH8.0)中に再懸濁した。
【0088】
実施例XV
ハイブリッド酵素Ubx−FNをPCRを使用して産生するクローンの構築
UbxのホメオボックスによってコードされるUbxのホメオ・ドメイン、61アミノ酸蛋白配列は、細菌性DNA結合蛋白中に見られるヘリックス・ターン・ヘリックスのモチーフに関係した構造を備えた配列特異的DNA結合ドメインである。(Hayashi et al., Cell 63:883-94 (1992); Wolberger et al., Cell 67:517-28 (1991)。Ubxホメオ・ドメインは、9bpのコンセンサスDNA部位、5'-TTAAT (G/T)(G/T) cc-3' (Ekker et al., The EMBO Journal 10:1179-86 (1991); Ekker et al., The EMBO Journal 11:4059-4702 (1992))を認識する。本発明者は、PCR法を使用して、Ubxホメオ・ドメインとFokIの開裂ドメイン(FN)を結合させ、また大腸菌中でUbx−FN酵素を発現させた。製作されたUbx−FNハイブリッド蛋白の概略代表例を図16に示す。ハイブリッド遺伝子を構築するために使用したオリゴヌクレオチド・プライマーを図17Aに示す。
【0089】
ハイブリッド蛋白を発現するクローンは下記の様に構築された。まず、PCRで産生されたUbxホメオ・ドメインをPstI/SpeI消化し、ゲル精製した。次に、この断片をベクターpRRSfokIR中に代替し、FokIDNA結合ドメインをコードするDNAセグメントと置換し、よって、Ubx−FNハイブリッド遺伝子を(図17B)を作成した。
【0090】
受容可能なRR1細胞に結合用混合物をトランスフェクションした後、数個のクローンを制限分析によって同定し、そのDNA配列を、サンガー等のジデオキシ・チェイン・テーミネーション法により確認した(Proc. Natl. Acd. Sci. USA 74:5463-67 (1977))。次に、ハイブリッド遺伝子をUbx−FNプライマーを使用して増幅した。PCR産生されたDNAをNdeI/BamHIで消化し、ゲル精製した。次に、この断片をNdeI/BamHIで切断したpET−15bベクターに連結した。この構築物は、6つの連続したヒスチジン残基によって、ハイブリッド蛋白のそのN末端にタグを付ける事になる。これらは、ノバジェン(Novagen)のhis−bindTM樹脂を使用したメチル・キレーション・クロマトグラフィーによるこの蛋白の精製用の親和性タグとして働く。このHisタグは、その後、トロンビンによって除去できる。受容可能なBL21(DE3)細胞は、結合用混合物でトランスフォームされ、組替DNA(図17B)を含む数個のクローンが同定された。これらのコロニーは健全でなく、培地での生育も、ダブリング時間が45分と、悪い。1mMのイソプロピルーβーD−チアガラクトシド(IPTG)で誘導した後、ハイブリッド酵素をHis−bindTM樹脂、ホスホセルロース、及びゲル・クロマトグラフィーを使用して均質になるまで精製した。精製されたハイブリッド酵素のSDS/PAGEプロフィルを、図18に示す。ハイブリッド蛋白の同定は更に、ウエスタン・ブロットで、FokIエンドヌクレアーゼに対して惹起されたラビットの抗血清によってプロービングする事により確認された(データ記載せず)。
【0091】
実施例XVI
Ubx−FNハイブリッド酵素のDNA配列選択性の分析
Ubx−FNの特性を調べるのに使用される、基質より派生し直線化したpUC13を図19に示す。既知のUbx認識配列5'- TTAATGGTT-3'を含む30bp DNA断片を、pUC13のSmaI部位に挿入する事によって誘導体が構築される。挿入されたUbx部位で切断されると、1.8kb及び0.95kbの断片が産物として生じる。Ubx−FNによる基質の部分消化物のアガロース・ゲル電気泳動プロフィルが図19に示される。これらの反応において、DNAのモル数は、蛋白のモル数に比較して著しく過剰である。反応条件を至適化して、基質分子あたり単一の二本鎖開裂を得るようにした。直線化したpUC13DNAは、4つの断片に切断される。アガロース・ゲル電気泳動プロフィルに4つの異なったバンドが現れた事は、Ubx−FNが配列特異性をもってDNAと結合した事、及び直線化したpUC13中にハイブリッド蛋白に対する2つの結合部位があることを示している。このことは、単一のUbx部位を含む直線化されたpUC13DNA基質が6つの断片に切断されるという事実によって、更に裏付けられる。2つの付加的な断片(夫々、〜1.8kb及び〜0.95kb)は、pUC13の新規に挿入されたUbx部位でハイブリッド蛋白の結合が行われた事及びこの部位付近で開裂が起きた結果であると説明できよう。予測されたように、バンドの強度は、pUC13中における30bp挿入物の数に伴って増加する。pUC13の2つの推定UbX結合部位、及び挿入されたUbx部位が下記表3に示される。これら全ての部位は、5'-TAAT - 3'をその核配列として担持し、それら好ましい部位はUbxホメオ・ドメインに付いて報告された物と一致する。これら部位に対するUbxホメオ・ドメインの親和性は、該核部位を囲むヌクレオチド塩基によって変更される。完全な消化が長期にわたって見られ、或いは蛋白濃度を増やす事によって見られるので、ハイブリッド蛋白はターンオーバー(代謝回転)するようだ(データ記載せず)。高温での開裂はより特異的である。
【0092】
実施例XVII
ハイブリッド酵素による認識部位からの開裂距離の分析
Ubx−FNによる認識部位からの開裂距離を決定するために、単一Ubx部位を含む32P標識されたDNA基質の開裂産物が、PAGE(図20)によって分析された。消化産物は、基質のマキサム・ギルバート(G+A)シークエンシング反応にそって分析された。予想されたように、切断部位は、認識部位からはずれた。5'-TAAT-3'ストランドでは、Ubx−FNは、DNAを認識部位から3ヌクレオチド離れて切断するのに対して、5'-ATTA- 3'ストランドでは、認識部位から8、9、または10ヌクレオチド離れて切断する。単一のUbx部位を含んだDNA基質の開裂に基づくUbx−FNの切断部位の分析は、図20に要約されている。この開裂によって5’からTAATまでの配列が生じ、この開裂はUbx−FNハイブリッド蛋白を作成した場合(図16)と一致する。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2−1】
【0095】
【表2−2】
【0096】
【表2−3】
【0097】
【表2−4】
【0098】
【表2−5】
【0099】
【表2−6】
【0100】
【表3】
【0101】
上記で述べた全ての刊行物は参照として本願明細書に組み込まれ、その一部をなす。
上記においては、明瞭な理解を助けるために幾らか詳細に説明してきたが、本発明の真実の範囲を逸脱することなく、形態およびその詳細において種々の変更をなし得ることが、当業者には容易に承認されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】図1は、PCR増幅の際に、fokIMおよびfokIR遺伝子への新しい翻訳信号の導入のために用いられる、5′プライマーおよび3′プライマーの配列(配列番号3−9)を示している。SDは、大腸菌(E. coli)のためのシャイン−ダルガノコンセンサス配列RBSを示しており、該RBSは7塩基対のスペーサによってATG開始コドンから離間されている。fokIMプライマーはBamHI部位に隣接している。開始コドンおよび停止コドンは太字で示されている。18塩基対の完全な配列は、MfokI遺伝子の停止コドンの直後に続く配列に対して相補的である。
【図2】図2は、プラスミドpACYCMfokIM、pRRSRfokIRおよびpCBfokIRの構造を示している。PCR修飾されたfokIM遺伝子がpRRSおよびpCBのBamHI部位に挿入されて、それぞれpRRSRfokIRおよびpCBfokIRが形成された。pRRSはlacUV5プロモータを有しており、またpCBは強力なtacプロモータを含んでいる。加えて、これらのベクター類は、挿入されたfokIR遺伝子の下流に陽性レトロ調節配列を含んでいる。
【図3】図3は、FokIエンドヌクレアーゼを精製する際の各工程における、SDS(0.1%)−ポリアクリルアミド(12%)ゲル電気泳動のプロファイルを示している。レーン1はタンパク標準;レーン2は非誘発細胞からの粗抽出物;レーン3は1mMのIPTGで誘発された細胞からの粗抽出物;レーン4はホスホセルロースのプール;レーン5は、50-70%の(NH4)2SO4分画プール;レーン6はDEAEプールである。
【図4】図4は、オリゴヌクレオチドDNA基質、d-5'-CCTCTGGATGCTCTC-3'(配列番号10):5'-GAGAGCATCCAGAGG-3'(配列番号11)の存在下でFokIエンドヌクレアーゼをトリプシン消化した際の、種々の時点におけるトリプシン分解フラグメントのSDS(0.1%)−ポリアクリルアミド(12%)ゲル電気泳動プロファイルを示している。レーン1はタンパク標準、レーン2はFokIエンドヌクレアーゼであり、またレーン3は2.5分、レーン4は5分、レーン5は10分、レーン6は20分、レーン7は40分、レーン8は80分、レーン9は160分のトリプシン消化後のプロファイルを示している。レーン10〜13は、HPLC精製されたトリプシン分解フラグメントであり、レーン10は41 kDaのフラグメント、レーン11は30 kDaのフラグメント、レーン12は11 kKaのフラグメント、レーン13は25k Daのフラグメントである。
【図5】図5は、オリゴdT-セルロースカラムを用いた、DNA結合性トリプシン分解フラグメントの同定を示している。レーン1はタンパク標準;レーン2はFokIエンドヌクレアーゼ;レーン3は、FokI−オリゴ複合体の10分間のトリプシン分解混合物;レーン4は、オリゴdT-セルロースカラムに結合したトリプシン分解フラグメント;レーン5は、FokI−オリゴ複合体の160分間のトリプシン分解混合物;レーン6は、オリゴdT-セルロースカラムに結合したトリプシン分解フラグメントである。
【図6】図6は、FokIエンドヌクレアーゼのトリプシン分解フラグメントの開裂特性分析を示している。 (A)トリプシン分解フラグメントの開裂特性を、アガロースゲル電気泳動によって分析した。10mMのトリスHCl(pH8)、50mMのNaCl、1mMのDTTおよび10mMのMgCl2の中の1μgのpTZ19Rを、当該フラグメント(夫々トリプシン消化物、ブレークスルーおよび溶出物)と共に、37℃で1時間、10μlの反応容量で消化した。レーン4〜6は、MgCl2の不存在下におけるFokI−オリゴ複合体のトリプシン消化に対応する。レーン7〜9は、MgCl2の存在下におけるFokI−オリゴ複合体のトリプシン消化に対応する。レーン1は1kbのラダー(梯子);レーン2はpTZ19R;レーン3はFokIエンドヌクレアーゼで消化されたpTZ19R;レーン4および6は、FokI−オリゴ複合体のトリプシン消化物の反応混合物;レーン5および7は、ブレークスルー容積中の25 kDaのC末端フラグメント;レーン6および9は、DEAEカラムに結合したFokIのトリプシン分解フラグメントである。ゲル底部における強いバンドは、過剰のオリゴヌクレオチドに対応する。 (B)DEAEカラムからのフラグメントのSDS(0.1%)−ポリアクリルアミド(12%)ゲル電気泳動のプロファイル。レーン3〜5は、MgCl2の不存在下におけるFokI−オリゴ複合体のトリプシン消化に対応している。レーン6〜8は、10mMのMgCl2の存在下におけるFokI−オリゴ複合体のトリプシン消化に対応している。レーン1はタンパク標準;レーン2はFokIエンドヌクレアーゼ;レーン3および6はFokI−オリゴ複合体のトリプシン消化物の反応混合物;レーン4および7はブレークスルー容積中の25kDaのC末端フラグメント;レーン5および8はDEAEカラムに結合したFokIのトリプシン分解フラグメントである。
【図7】図7は、41kDaのN末端DNAによるDNAの配列特異的結合の、ゲル移動度シフト試験を用いた分析を示している。交換反応のために、この複合体(10μl)を、10mMのトリスHCl(pH8)、50mMのNaCl、および10mMのMgCl2を含む20μl容量において、1μlの32Pで標識された特異的(または非特異的)なオリゴヌクレオチド二本鎖と共に、時間を種々に変化させて37℃でインキュベートした。32Pでラベルされた1μlの特異的プローブ[d-5'-CCTCTGGATGCTCTC-3'(配列番号10):5'-GAGAGCATCCAGAGG-3'(配列番号11)]は、12ピコモルの二本鎖および略50×103cpmを含んでいた。また、32Pで標識された1μlの特異的プローブ[d-5'-CCTCTGGATGCTCTC-3'(配列番号10):5'-GAGAGCATCCAGAGG-3'(配列番号11)]には、12ピコモルの二本鎖および略25×103cpmが含まれていた。 (A)レーン1は特異的なオリゴヌクレオチド二本鎖;レーン2は41 kDaのN末端フラグメント−オリゴ複合体;レーン3および4は、当該複合体とともに夫々30分間および120分間インキュベートされた特異的プローブである。 (B)レーン1は非特異的なオリゴヌクレオチド二本鎖;レーン2は41 kDaのN末端フラグメント−オリゴ複合体;レーン3および4は、当該複合体とともに夫々30分間および120分間インキュベートされた非特異的プローブである。
【図8】図8は、FokIエンドヌクレアーゼのトリプシン分解の種々の時点における、トリプシン分解物のSDS(0.1%)−ポリアクリルアミド(12%)ゲル電気泳動プロファイルを示している。10mMのトリスHCl(pH8)、50mMのNaCl、および10mMのMgCl2を含む最終容量200μl中の酵素(200μg)を、室温においてトリプシンで消化した。 FokIに対するトリプシンの比率は、重量比で1:50であった。一部分(28μl)を異なった時間間隔で反応混合物から取り出し、過剰のアンチペイン(antipain)で急冷した。レーン1はタンパク標準;レーン2はFokIエンドヌクレアーゼである。また、それぞれレーン3は2.5分;レーン4は5.0分;レーン5は10分;レーン6は20分;レーン7は40分;レーン8は80分;レーン9は160分のトリプシン消化である。
【図9】図9は、FokIエンドヌクレアーゼのトリプシン分解地図を示している。(A)オリゴヌクレオチド基質の不存在下におけるFokIエンドヌクレアーゼの断片形成パターン。(B)オリゴヌクレオチド基質の存在下におけるFokIエンドヌクレアーゼの断片形成パターン。
【図10】図10は、PREDICTプログラムを用いた一次配列決定(配列番号31)に基づく、FokIの推定二次構造を示している。DNA基質の存在下におけるFokIのトリプシン開裂部位が矢印で示されている。KSELEEKKSEL配列が強調されている。図中の記号は次の通りである:hはヘリックス;sはシート;黒丸はランダムコイル。
【図11】図11は、FokIの挿入変異体の構築に用いた5′および3′オリゴヌクレオチドプライマーの配列(それぞれ配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38および配列番号39)を示している。4コドン挿入物および7コドン挿入物が太字で示されている。アミノ酸配列がヌクレオチド配列の上に示されている。両挿入変異体のPCR増幅において、同一の3′プライマーが用いられた。
【図12】図12は、均一に精製された変異体酵素のSDS/PAGEプロファイルを示している。レーン1はタンパク標準;レーン2はFokI;レーン3は4コドン挿入物を含む変異体FokI;レーン4は7コドン挿入物を含む変異体FokIである。
【図13】図13は、上記変異体酵素におけるDNA配列特異性の分析を示している。DNA基質を、37℃で2時間、10mMトリスHCl pH8.0/50mM NaCl/1mM DTT/10mM MgCl2の中で消化した。 (A)1%アガロースゲル電気泳動による、pTZ19RDNA基質の開裂パターン。夫々の反応において、2μgのpTZ19RDNAを用いた。レーン1は、1キロ塩基(kb)のラダー;レーン2はpTZ19R;レーン3は、FokIで消化したpTZ19R;レーン4は、4コドン挿入物を含む変異体FokIで消化したpTZ19R;レーン5は、7コドン挿入物を含む変異体FokIで消化したpTZ19Rである。 (B)1.5%アガロースゲル電気泳動によって分析された、単一のFokI部位を含む256kbのDNA基質の開裂パターン。1μgの放射能ラベルした基質(ここの鎖に32Pラベルを施した)を、上記のようにして消化した。アガロースゲルを臭化エチジウムで染色し、UV光で可視化した。レーン2〜6は、5′−CATCC−3′鎖が32Pでラベルされた32Pラベル基質に対応する。レーン7〜11は、5′−GGATG−3′鎖が32Pでラベルされた32Pラベル基質に対応する。レーン1は、1キロ塩基(kb)のラダー;レーン2および7は、32Pでラベルした250kbのDNA基質;レーン3および8は、FokIで開裂された32Pラベル化基質;レーン4および9は、精製された実験室的野生型(laboratory wild-type)のFokI;レーン5および10は、4コドン挿入物を含む変異体FokI;レーン6および11は、7コドン挿入物を含む変異体FokIである。 (C)上記で得たアガロースゲルのオートラジオグラフ。レーン2〜11は、上記の(B)と同じである。
【図14】図14は、FokIおよび上記変異体酵素による認識部位から開裂部位までの距離の分析を示している。pTZ19RをテンプレートとしたDNA配列決定のために、非燐酸化オリゴヌクレオチドが用いられた。そのシーケンシング生成物(G,A,T,C)を7M尿素を含む6%アクリルアミドゲル上で電気泳動させ、該ゲルを乾燥させた。次いで、その生成物をX線フィルムに2時間露光させた。100bpおよび256bpのDNA基質からの開裂生成物が、AおよびBにそれぞれ示されている。Iは、5′−GGATG−3′鎖における32Pラベルを含む基質に対応している。また、IIは5′−CATCC−3′鎖における32Pでラベルを含む基質に対応している。レーン1はFokI;レーン2はFokI;レーン3は4コドン挿入を含む変異体FokI;レーン4は7コドン挿入を含む変異体FokIである。
【図15】図15は、単一のFokI部位を含む100bpのDNA基質に基づく、 FokIおよび変異体酵素の開裂部位の地図を示している。(A)は野生型FokI;(B)は4コドン挿入を含む変異体FokI;(C)は7コドン挿入を含む変異体FokI(配列番号40参照)である。開裂部位は矢印で示されている。主要な開裂部位は大きな矢印で示してある。
【図16】図16は、DNA基質に関連させた、FokIヌクレアーゼドメイン(FN)に対するUbxホメオドメインの向きを示す図を表している。尖った波形に縁取りされた(engrailed)ホメオドメイン−DNA複合体の結晶構造が、Kissinger et al. (Cell 63:579-90 (1990))によって報告されている。
【図17】図17は、Ubx−FNハイブリッド酵素の発現ベクターの構築を示している。 (A)ハイブリッド遺伝子のUbx−FNの構築に用いた5′プライマーおよび3′プライマーの配列。このUbxプライマーは、PstIおよびSpeIに隣接している(配列番号41および配列番号42を参照のこと)。Ubx−FNプライマーは、NdeIおよびBamHI部位に隣接している(配列番号43および配列番号44を参照のこと)。開始コドンおよび終止コドンは太字で示されている。 (B)プラスミドpRRS・Ubx−FNおよびpET−15b・Ubx−FNの構造。pRRSfokIRのPstI/SpeIフラグメントを、PCR修飾されたUbxホメオボックスで置換して、pRRS・Ubx−FNを作製した。Ubx−FNプライマーを用いたPCRで作製されたフラグメントをpET−15bのBamHI/NdeI部位に挿入して、pET−15b・Ubx−FNを形成した。
【図18】図18は、Ubx−FNハイブリッド酵素の精製における各工程でのSDS/PAGEプロファイルを表している。レーン1はタンパク標準;レーン2は誘発された細胞からの粗抽出物;レーン3はHis−bindTM樹脂プール;レーン4はホスホセルロースのプール;レーン5はDEAEプールである。
【図19】図19は、Ubx部位を含む線形化したpUC13・DNA基質を用いた、Ubx−FNハイブリッドタンパクの特徴付けを示している。 (A)pUC由来のDNA基質。□は、Ubx部位、即ち5′−TTAATGGTT−3′を含む30bpの挿入物である。これらの基質における30bp挿入物のタンデムリピート(tandem repeats)の数が、括弧内に示されている。Ubx部位の向きは矢印で示されている。 (B)20mM Tris.HCl (pH7.6), 75mM KCl, 1mM DTT, 50μg/ml tRNAおよび2mM MgCl2を含む緩衝溶液中において、31℃で4〜5時間、上記のDNA基質(1μg)を部分的に消化した。生成物を1%アガロースゲル電気泳動によって分析した。基質は、Ubx−FNハイブリッドタンパクに比較して大過剰(略100:1)で存在した。反応条件は、基質分子当たり一つの二本鎖開裂を生じるように最適化された。この反応は酵素濃度を増大させて進行させるか、或いは31℃で一晩消化することによって完結される(データは示していない)。新たに挿入されたpUC13のUbx部位でのハイブリッド酵素の結合と、該部位の近傍での開裂によって生じた二つのフラグメント、即ち略1.8kbおよび略0.95kbのフラグメントが矢印で示されている。
【図20】図20は、Ubx−FNによる認識部位から開裂部位までの距離の分析を示している。(G+A)マクサム−ギルバートの配列決定反応(Maxam-Gilbert sequencing reaction)に従った、単一のUbx部位を含む32PでラベルされたDNA基質のUbx−FNによる開裂生成物を、6M尿素を含む6%ポリアクリルアミドゲル上での電気泳動により分離し、乾燥し、X線フィルムに対して6時間露光させた。 (A)は、5′−TAAT−3′鎖(配列番号45を参照のこと)での32Pラベルを含む基質からの開裂生成物に対応している。レーン1は(G+A)配列決定反応;レーン2はUbx−FNである。 (B)は相補鎖、即ち5′−ATTA−3′(配列番号46を参照のこと)での32Pラベルを含む基質に対応している。レーン1は(G+A)配列決定反応であり;レーン2はUbx−FNである。 (C)は、単一のUbx部位を含むDNA基質に基づく、Ubx−FN開裂部位の地図である。認識部位は白抜き文字によって示されている。プリン残基は黒星印によって示されている(配列番号47および配列番号48を参照のこと)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNA構築物であって:
(i)IIS型エンドヌクレアーゼの開裂活性を含むIIS型エンドヌクレアーゼの触媒ドメインをコードする第一のDNAセグメントと;
(ii)前記IIS型エンドヌクレアーゼの認識ドメイン以外の配列特異的認識ドメインをコードする第二のDNAセグメントと;
(iii)ベクターとを具備し、
前記第一のDNAセグメントおよび前記第二のDNAセグメントは、単一のタンパクが産生されるように、前記ベクターに対して動作可能に連結されているDNA構築物。
【請求項2】
請求項1に記載のDNA構築物であって、前記IIS型エンドヌクレアーゼがFokI制限エンドヌクレアーゼであるDNA構築物。
【請求項3】
請求項2に記載のDNA構築物であって、前記認識ドメインが、ジンクフィンガーモチーフ;ホメオドメインモチーフ;リプレッサのDNA結合性ドメイン;POUドメインモチーフ(真核転写レギュレータ);発癌遺伝子のDNA結合性ドメイン;および>6塩基対を認識する他の天然に存在する配列特異的なDNA結合性タンパクからなる群から選択されるDNA構築物。
【請求項4】
請求項3に記載のDNA構築物であって、前記認識ドメインがUbxのホメオドメインであるDNA構築物。
【請求項1】
DNA構築物であって:
(i)IIS型エンドヌクレアーゼの開裂活性を含むIIS型エンドヌクレアーゼの触媒ドメインをコードする第一のDNAセグメントと;
(ii)前記IIS型エンドヌクレアーゼの認識ドメイン以外の配列特異的認識ドメインをコードする第二のDNAセグメントと;
(iii)ベクターとを具備し、
前記第一のDNAセグメントおよび前記第二のDNAセグメントは、単一のタンパクが産生されるように、前記ベクターに対して動作可能に連結されているDNA構築物。
【請求項2】
請求項1に記載のDNA構築物であって、前記IIS型エンドヌクレアーゼがFokI制限エンドヌクレアーゼであるDNA構築物。
【請求項3】
請求項2に記載のDNA構築物であって、前記認識ドメインが、ジンクフィンガーモチーフ;ホメオドメインモチーフ;リプレッサのDNA結合性ドメイン;POUドメインモチーフ(真核転写レギュレータ);発癌遺伝子のDNA結合性ドメイン;および>6塩基対を認識する他の天然に存在する配列特異的なDNA結合性タンパクからなる群から選択されるDNA構築物。
【請求項4】
請求項3に記載のDNA構築物であって、前記認識ドメインがUbxのホメオドメインであるDNA構築物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2006−254921(P2006−254921A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−143294(P2006−143294)
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【分割の表示】特願平7−510290の分割
【原出願日】平成6年8月23日(1994.8.23)
【出願人】(592160892)ザ・ジョーンズ・ホプキンス・ユニバーシティ (6)
【氏名又は名称原語表記】THE JOHNS HOPKINS UNIVERSITY
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【分割の表示】特願平7−510290の分割
【原出願日】平成6年8月23日(1994.8.23)
【出願人】(592160892)ザ・ジョーンズ・ホプキンス・ユニバーシティ (6)
【氏名又は名称原語表記】THE JOHNS HOPKINS UNIVERSITY
【Fターム(参考)】
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