説明

フラン誘導体及びその製造法

【課題】 2,5−ヒドロキシメチルフルフラールを効率的に製造することが困難であった。
【解決手段】 ヒドロキシメチルフルフラールを特定量の金属触媒存在下に酸化反応することにより、高純度の2,5−フランジカルボン酸を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,5−フランジカルボン酸及びその製造する方法に関する。より詳しくは、5-ヒドロキシメチルフルフラールから2,5−フランジカルボン酸を効率的に製造する方法及びその方法により製造された高純度の2,5−フランジカルボン酸に関する。
【背景技術】
【0002】
キシロース、セルロース、グルコース等の植物由来原料から発酵法、化学合成法により香料、食品、医薬、樹脂原料等の有用な各種工業原料が製造されている。特に今後石油枯渇問題、石油価格高騰等の問題から植物由来原料から製造される工業原料の価値が益々高まると予想される。例えばセルロース等から誘導されるフラン誘導体からジオール、ヒドロキシカルボン酸、ジカルボン酸を工業的に製造することが可能になるとそれを原料として植物由来の樹脂を製造できる。(参考文献1)
また、2,5−フランジカルボン酸は5−ヒドロキシメチルフルフラール(特許文献1)、ムチン酸(参考文献1)、糖酸(参考文献2)等から製造されることが知られている。
【特許文献1】USP3,326,944
【非特許文献1】Osaka Daigaku Kogaku Hokoku, 8, 475-480(1958)
【非特許文献2】Am.Chem.J.,25,445(1901)
【非特許文献3】J.Org.Chem.,21,141(1956)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明者らの検討によれば、特許文献1に記載のように、5−ヒドロキシメチルフルフラールから金属触媒を用いて酸化反応により製造する方法を用いて反応を行ったが、反応速度が遅だけではなく、金属触媒の原料に対する使用量が非常に多いため効率が悪く工業的な製造方法として採用することができなかった。またムチン酸等からの製造方法は強酸を使用したり収率が悪いため反応機の材質等の制約や後処理工程の負荷が高い等の問題が明らかとなった。
【0004】
そこで、本発明は、製造効率に優れた2,5−フランジカルボン酸、及び色調が良好な2,5−フランジカルボン酸の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、反応温度を適温に制御することによって、短時間で高収率な2,5−フランジカルボン酸の製造方法を開発し、その製造方法によって得られた2,5−フランジカルボン酸は色調などが優れ、更には得られた2,5−フランジカルボン酸が高純度であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち本発明の第一の要旨は、5−ヒドロキシメチルフルフラールを金属触媒存在下で酸化反応することにより2,5−フランジカルボン酸を製造する反応において、用いる金属触媒の金属の使用量が5-ヒドロキシメチルフルフラールに対して質量比で0.02pp
m以上20,000ppm以下であることを特徴とする2,5−フランジカルボン酸の製造方法に存する。
【0007】
本発明の第2の要旨は、5―ヒドロキシメチルフルフラールの酸化反応において反応器に20%以上の酸素を含む気体を吹き込むことを特徴とする2,5−フランジカルボン酸
の製造方法に存する。
本発明の第3の要旨は、5−ヒドロキシメチルフルフラールを原料に用いて2,5−フランジカルボン酸を製造する反応において、反応液の温度が30℃以上の工程を含むことを特徴とする2,5−フランジカルボン酸の製造方法に存する。
【0008】
本発明の第4の要旨は、5−ヒドロキシメチルフルフラールの含有量が1モル%以下であることを特徴とする2,5−フランジカルボン酸に存する。
本発明の第5の要旨は、400nmの波長の光線透過率が95%以上であることを特徴とする2,5−フランジカルボン酸に存する。
本発明の第6の要旨は、2,5−フランジカルボン酸を製造する反応において用いた金属触媒の金属の含有量が質量比で0.001ppm以上100ppm以下であることを特徴とする2,5−フランジカルボン酸に存する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、5−ヒドロキシメチルフルフラールを原料に用い高収率、短時間で少量の触媒を添加することによって効率的に高純度の2,5−フランジカルボン酸を製造することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明につき詳細に説明する。
<5−ヒドロキシメチルフルフラール>
本発明で用いる5−ヒドロキシメチルフルフラールは、下記一般式(1)で表される化合物を示す。
【0011】
【化1】

この5−ヒドロキシメチルフルフラールを得る方法としては、従来技術を用いて製造でき、例えば、とうもろこしの芯、サトウキビの絞りかす、植物油粕、植物の茎等植物廃棄物や古紙からセルロースを抽出し、このセルロースから化学変性する方法、D−フルクトースの脱水反応により製造する方法等が挙げられる。
【0012】
2,5−フランジカルボン酸の製造に原料に用いる5−ヒドロキシメチルフルフラールの純度は、通常90〜100%、好ましくは95〜100%、より好ましくは、98〜100、更に好ましくは99〜99.99%である。この純度が低すぎると、2,5−フランジカルボン酸の収率が悪く最終原料に不純物が混入し、その後のポリマー化の際に分子量が上がらなくなったり、着色の原因となり好ましくない。また、高すぎると精製にコストがかかりすぎたり、貯蔵のハンドリングや貯蔵のコストがかかるというデメリットがある。
<2,5−フランジカルボン酸の製造方法>
以下に、2,5−フランジカルボン酸を製造する条件を示す。
(1)金属触媒
2,5−フランジカルボン酸を製造するにおいて、金属触媒存在下で酸化反応を行うことが好ましい。
【0013】
本発明に用いられる金属触媒としては、酸化能を有する金属或いは金属化合物であれば限定されないが、例えば白金、パラジウム、ニッケル、鉄、ルテニウム、コバルト等のVI
II族金属及びその化合物、銅、銀等のIb族金属及びその化合物、亜鉛等のIIb族金属及びその化合物、インジウム等のIIIa族金属及びその化合物、錫、鉛等のIVa族金属及び
その化合物、マンガン、レニウム等のVIIb族金属及びその化合物、クロム、モリブデン
などのVIb族金属及びその化合物、ニオブ、タンタル等のVb族金属及びその化合物、ジルコニウム等のIVb族金属及びその化合物、スカンジウムなどのIIIb族金属及びその化
合物、マグネシウム、カルシウム等のIIa族金属及びその化合物、セシウム等のIa族金属及びその化合物などが挙げられる。特にVIb族、VIIb族、VIII族、Ib族、IIb族の
金属及びその化合物が好ましく、更にVIIb族、VIII族、Ib族の金属及びその化合物が
より好ましく、特にその中でも白金、パラジウム、レニウム、マグネシウム、銅、銀、亜鉛、マンガン及びその化合物が好ましく、白金、パラジウム、レニウム、銅、銀、マグネシウム、マンガン及びその化合物などが最も好適に用いられる。化合物としてはこれら金属の酸化物、アルコキシ化合物、アルキル化合物、有機酸塩等が挙げられるが、好ましくは金属元素及び金属の酸化物である。また、これら金属触媒は各種担体に担持した状態で好ましく用いられる。担体としては、活性炭、シリカ、アルミナ、珪藻土、層状ケイ酸塩等の天然鉱物等が挙げられる。この中でも活性炭、シリカが触媒の調整しやすさ及び活性の点で好ましい。これらの触媒は単独でも2以上を同時に用いても、後から追加して用いても良い。
【0014】
この中でも白金/活性炭、白金/シリカ、白金/アルミナ、パラジウム/活性炭、パラジウム/シリカ、パラジウム/アルミナ、レニウム/活性炭、レニウム/シリカ、レニウム/アルミナが好ましく、白金/炭素、パラジウム/炭素、パラジウム/シリカ、レニウム/炭素、レニウム/シリカがより好ましく、白金/炭素、パラジウム/炭素、レニウム/炭素が反応活性が高く、使用後の金属の回収が容易であるという点で特に好ましい。
【0015】
本発明の酸化触媒の金属の使用量は原料に対して質量比で0.002ppm以上20000ppm以下であることが好ましい。酸化触媒の金属の使用量の下限は原料に対して0.02ppmであることがさらに好ましく、0.2ppmであることがより好ましく、2ppmであることが最も好ましい。酸化触媒の金属の使用量の上限は原料に対して15000ppmであることがさらに好ましく、10000ppmであることがより好ましく、7500ppmであることが最も好ましい。金属の使用量が0.002ppmより少ないと反応時間がかかり過ぎて非効率的であり、20000ppmより多いと触媒にかかるコストが高くなり非経済的であり後処理の負荷が大きくなり、さらには生成物が着色しやすくなる等の点で不利である。
【0016】
(2)酸素を反応器内に流通させる方法
5−ヒドロキシメチルフルフラールの酸化反応において、金属触媒存在下で反応を行う際に、反応器内に気体を流通させながら反応を行う。好ましくは、その気体中に酸素が含有されているのが好ましい。
その酸素源は酸素含有有機化合物、無機酸化物、酸素含有気体など特に限定されないが、空気或いは酸素含有量の多いガスが好ましく用いられる。特にガスを用いる場合の酸素含有量は20体積%以上が好ましく、50体積%以上がより好ましく、更に純酸素(99%以上)を用いることが最も好ましい。酸素は気相に導入しても、反応液に吹き込んでも良いが反応層に吹き込む方がより好ましい。
【0017】
流通させる時間は、流通させる気体が反応器内にはじめに導入された時間を開始点とし、通常10分〜30時間、好ましくは30分〜20時間、より好ましくは、1時間〜10時間、更に好ましくは1時間〜5時間である。この時間が短すぎると、反応が激しすぎて反応温度の制御が困難であり、また、長すぎると製造コストが高くなり好ましくない。
酸素を含む気体を反応器に流通させる速度としては、通常1ml/分〜100L/分、好ましくは10ml/分〜10L/分、より好ましくは、100ml/分〜5L/分、更
に好ましくは500ml/分〜1L/分である。この時間が遅すぎると、反応速度が遅くなり生産効率が悪く製造コストが高くなり好ましくない。また、速すぎると酸素の消費効率が悪く酸素使用量が増え、コストが高くなり好ましくない。
【0018】
また、流通方法としては、反応器の液層に吹き込む方法、また反応器の競う部分に吹き込む方法等が挙げられ、好ましくは、反応器の液層に吹き込む方法である。
流通させる気体は、連続的でも間欠的でもよく、好ましくは、連続的に流通させる方法である。間欠の際は、酸素が不足しないように間欠の間隔をあまり長くなりすぎないように調整することが好ましい。
また酸素を含む気体は、反応容器内に加圧になる様に供給して酸化反応を行っても良い。
【0019】
(3)反応温度
5−ヒドロキシメチルフルフラールの酸化反応をする際の反応温度は、室温以上100度以下が好ましいが、反応温度の下限は30℃がより好ましく、さらに40℃が好ましく、60℃が最も好ましい。上限は90℃がより好ましく、80℃が更に好ましく、70℃が最も好ましい。反応温度が低いと反応時間が長時間必要となり反応温度が高すぎると反応が激しすぎて制御困難になったり、着色の原因となり好ましくない。
外温は、通常20℃〜100℃、好ましくは30℃〜90℃、より好ましくは、40℃〜80℃、更に好ましくは50℃〜70℃である。この温度が高すぎると、反応が暴走したり、反応容器内の反応系の水の蒸発が早く制御が困難になる傾向があり、また、低すぎると反応速度が遅くなる傾向がある。
また、上記に記載の金属存在下で反応させる方法や気体を流通させる方法を組み合わせて用いてもよい。好ましくは、上記記載の反応温度の調整と金属存在下の方法を組み合わせる方法で、より好ましくは、反応温度の調整と金属存在下で反応させる方法と気体を流通させる方法を全て組み合わせる方法である。
【0020】
(4)その他の反応条件
本製造方法における反応時間は、流通させる気体が反応系内にはじめに導入された時間を開始点、流通を止めた時間を終了点とし、通常10分〜30時間、好ましくは30分〜20時間、より好ましくは、1時間〜10時間、更に好ましくは1時間〜5時間である。この時間が短すぎると、反応が激しすぎて反応温度の制御が困難であり、また、長すぎると製造コストが高くなり好ましくない。
【0021】
反応に用いられる溶媒は、原料の5−ヒドロキシメチルフルフラールを溶解する溶媒であれば特に限定されないが、水が最も好ましい。また水に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリを溶解させて反応液として用いると精製したカルボン酸が析出しないためより好ましい。
溶媒は、原料の5−ヒドロキシメチルフルフラールに対して、通常1倍〜100倍、好ましくは2倍〜50倍、より好ましくは、3倍〜30倍、更に好ましくは4倍〜20倍
、最も好ましくは5倍〜8階である。この量が多すぎると、反応容器が多きくなりすぎ、生産効率が低下して好ましくない。また、少なすぎると、反応速度が低下して反応時間が長くなる傾向があり好ましくない。
【0022】
水に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリを溶解させる場合、水に対して、通常1〜50重量%、好ましくは3〜40重量%、より好ましくは、5〜30重量%、更に好ましくは10〜20重量%である。この量が多すぎると、反応温度が上昇し好ましくない。少なすぎると、反応液中の水の量が増え、単位反応液あたりの収量が低下し製造効率が落ちて好ましくない。
【0023】
<後処理>
上記の反応条件で得られた2,5−フランジカルボンは、冷却した後、精製してもよい。
冷却温度としては、通常0℃〜50℃、好ましくは10〜40℃、より好ましくは、20℃〜30℃である。この温度が高すぎると、生成した2,5-フランジカルボン酸の水への溶解度が高くなり収率が低下する傾向があり、また、低すぎると冷却時間が長くかかり過ぎて製造時間が長くなり製造コストが高くなる傾向がある。
冷却時間は、加熱を停止し冷却を開始した時点を開始点、冷却を停止した時点を終了点とし、通常1分〜5時間、好ましくは10分〜3時間、より好ましくは、20分〜2時間、更に好ましくは30分〜1時間である。この時間が短すぎると、冷却装置が大掛かりとなり設備投資額が大きくなり好ましくない。また冷却時間が長すぎると製造コストが高くなり好ましくない。
【0024】
冷却後、精製しても良いが、精製方法としては、再結晶、晶析、蒸留、昇華、カラム分離などが挙げられ、再結晶、昇華、蒸留が好ましく用いられる。
再結晶する際には、通常生成物をある程度の溶解度で溶解できる溶媒に溶かすことが好ましく、通常、水、アルコール、エステル、ケトン、炭化水素、芳香族有機溶媒等が用いられ、アルコール、ケトンが溶解性の点で好ましい。
【0025】
また本発明の酸化反応に用いられる反応液は、原料及び生成物の溶解性の点でアルカリ性の水溶液が好ましく、アルカリの種類としては、後処理で除去しやすい点でアルカリ性無機塩が通常用いられる。アルカリ性無機塩としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カルシウムなどが挙げられ、入手しやすさから水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましく、価格の点で水酸化ナトリウムがより好ましい。
【0026】
反応溶液は、原料と触媒及び酸素との接触効率を上げるために攪拌することが好ましい。攪拌はマグネチックスターラー、メカニカルスターラー、攪拌翼を供えた攪拌モーター等通常の反応に用いられる攪拌装置であれば用いることが可能である。スケールが大きくなった場合には動力の点で攪拌翼を備えた攪拌モーターが使用される。攪拌は反応を行う前から開始し、反応中は連続的に攪拌を行い、反応終了後の反応液を冷却している間は攪拌を行うことが好ましい。
【0027】
反応を終了させ触媒を濾過後、均一な反応液中には原料の未反応物が不純物として少量含まれ、大部分は生成したジカルボン酸がアルカリ塩として溶媒(水)に溶解している。この均一溶液をアルカリ性から中性または酸性にすることにより、生成したジカルボン酸アルカリ塩がカルボン酸となり、水溶液から析出する。析出した固体を濾過することにより比較的高純度のジカルボン酸を得ることができる。反応終了後の反応液をアルカリ性から中性または酸性にするためには、通常酸性物質を反応液に添加する。酸性物質としては除去しやすさから無機の酸を用いることが好ましい。無機の酸としては塩酸、硝酸、塩酸当が用いられその中でも塩酸が除去しやすさと安価であることから好ましく用いられる。
【0028】
酸性物質により反応液を酸性にした場合に析出した生成物を反応液から分離後、生成物に残存している溶媒が酸性であると生成物が不安定になったり、着色やその後のエステル化反応や、ポリマー化反応に悪影響を及ぼす可能性があり好ましくない。そのため生成物を反応液から分離後、付着水が酸性である場合には、付着水を純水等で十分に置換し付着水のPHが通常4以上7以下、好ましくは5以上7以下、より好ましくは6以上7以下、最も好ましくは7にする。
【0029】
<2,5−フランジカルボン酸>
上記の製造方法で得られた2,5−フランジカルボン酸の純度は、通常95〜100重量%、好ましくは98〜100重量%、より好ましくは99〜99.999重量%である。
この純度が低すぎると、その後のエステル化反応の反応速度が低下したり、ポリマー化の際に分子量が上がらなくなったり、着色の原因となり好ましくない。また、高すぎると精製のコストが高くなり、製造のコストアップにつながり好ましくない。
得られた2,5−フランジカルボン酸の1mmol/L溶液中での400nmの波長の光線透過率が、通常70〜100%、好ましくは80〜100%、より好ましくは、90〜100%、更に好ましくは95〜100%である。この透過率が低すぎると、最終製品の着色の原因となったり、後の工程でエステル化反応やポリマー化の反応を行う際の反応阻害となる可能性があり好ましくない。
【0030】
なお、400nmの波長の光線透過率は、UV可視分析装置によりアセトニトリル溶液中で濃度1mmol/Lに調整したサンプルを光路長10mmの石英セル中で400nmの波長の光線透過率を測定することにより測定でき、その方法を採用した数値である。
金属触媒の金属元素の含有量は、2,5−フランジカルボン酸に対して、通常0.001ppm〜500ppm、好ましくは0.01ppm〜100ppm、より好ましくは、0.1ppm〜10ppm、更に好ましくは0.1ppm〜5ppmである。この含有量が低すぎると、精製に時間及び製造コストがかかり効率が悪く、また、高すぎると着色の原因やポリマー化を行う場合には十分な分子量のポリマーが得られないことがある。
【0031】
<2,5−フランジカルボン酸誘導体>
本発明の2,5−フランジカルボン酸誘導体の例としてはアルキルエステル、炭酸エステル、酸無水物、酸塩化物等のカルボン酸誘導体が挙げられる。その中でもアルキルエステルが製造の容易さ及びその後の応用の容易さから好ましい。アルキルエステルのアルキルとしてはメチル、エチル、n―プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル基等が挙げられるが、メチル、エチルが好ましくエチルが最も好ましい。
【0032】
アルキルエステルの製造方法は、公知のエステル化反応を用いることができる。例えばカルボン酸を、エステル反応を行うアルコール中で触媒等の存在化でエステル化する方法、カルボン酸を酸塩化物に変換してからアルコールと反応させる方法、酸無水物とアルコールのエステル交換を用いる方法等が挙げられるが、本発明のエステルは2,5−フランジカルボン酸を過剰のアルコール中で酸触媒によりエステル化反応させる方法により好適に製造することができる。
アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、n−ペンチルアルコール、n−ヘキシルアルコールが挙げられメタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコールが好ましく、メタノール、エタノール、がエステル化反応後に過剰のアルコールを留去しやすいというの点でより好ましい。
【0033】
アルコールの量は、カルボン酸1モルに対して、通常2モル〜1000モル、好ましくは3モル〜100モル、より好ましくは、5モル〜30モルである。量が多すぎると、反応容器が大きくなりすぎまた過剰のアルコール除去工程の負荷がかかり効率が悪くなる傾向があり、少なすぎると反応が遅い又は目的のエステル化合物の収率が悪くなる傾向がある。
【0034】
また、アルキルエステルを製造するための触媒は、有機酸、有機脱水促進剤、無機酸、金属触媒等通常のエステル化触媒が用いられるが、その中でも有機酸、無機酸等の酸触媒
が反応性が高く取り扱いが容易であるため好ましい。酸触媒としてはp−トルエンスルホン酸、塩酸、硫酸、リン酸、五酸化リン、ポリリン酸等が挙げられるが、p−トルエンスルホン酸、塩酸、硫酸が好ましく、p−トルエンスルホン酸が反応性及び取り扱いの容易さの点でより好ましい。
【0035】
反応時間は、通常10分〜48時間、好ましくは30分〜24時間、より好ましくは、1時間〜24時間である。時間が長すぎると、開環反応等の副反応が起こり好ましくない、短すぎると反応の添加率が低下し製品の純度が低下する又は精製に負荷がかかる傾向がある。
反応温度は、通常10〜250℃、好ましくは30℃〜150℃、より好ましくは、40℃〜100℃である。高すぎると、副反応や着色の原因となる傾向があり、低すぎると反応時間が長くなりすぎる傾向がある。
【0036】
得られたアルキルエステルの精製は通常用いられている有機化合物の精製方法を用いることができる。例えば再結晶、晶析、蒸留、昇華、カラム分離などが挙げられ、再結晶、昇華、蒸留が好ましく用いられる。
上記の方法で得られた2,5−フランジカルボン酸誘導体の純度は、通常90〜100重量%、好ましくは95〜100重量%、より好ましくは98〜100重量%、更に好ましくは99〜100重量%である。
【0037】
また、目的化合物のアセトニトリル溶液(濃度1mmol/L)での400nmの波長における
透過率は、通常80〜100%、好ましくは85〜100%、より好ましくは90〜100%、更に好ましくは95〜100%である。
得られたフランジカルボン酸又はフランジカルボン酸誘導体中の不純物として、触媒残渣、原料、溶媒、反応中間物、反応副生物があるが、これら不純物の合計は通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下、より好ましくは3重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下である。これら不純物が多いとポリマー化での収率が低下したり、高分子量のポリマーが得られなかったり、ポリマーの色調が低下するなどして好ましくない。また用途によっては不純物が製品の安全性、安定性等に悪影響を及ぼし使用することができない。
【0038】
<用途>
本発明の2,5−フランジカルボン酸又はその誘導体は、ポリエステル、ポリアミド等の樹脂原料や、各種工業薬品原料、各種化成品原料、食品原料、香料原料、化粧品原料、医薬品原料等に利用される。
【実施例】
【0039】
以下に本発明の実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例によって限定されるものではない。
実施例1
蒸留水500g の中に、水酸化ナトリウム50g を加え溶解させた。この溶液を2L
のフラスコに加え、外温を15℃ にした。そして酸素ガスを845ml/minに調節しながらフラスコの水槽に吹き込み、20分撹拌した。それから酸化銀、酸化銅を26g(17.55g)、5%Pt/Cを25g及び水25gを加え10分撹拌させた。冷却後、蒸留水250gに溶解させた東京化成工業(株)製5−ヒドロキシメチルフルフラール100gの水溶液を3.5時間かけて滴下ロートを用いて滴下させた。そして水酸化ナトリウム50gを30分かけて加えた後、内温を60℃に調整し2時間撹拌した。反応後、この溶液を加圧濾過した後、濃塩酸で酸性化し、水で洗浄してPH4〜7になるまで洗った。そして、80℃で減圧乾燥させ無色の2,5−フランジカルボン酸を得た。H−NMRから100%酸化反応が進行していることを確認した。
【0040】
実施例2〜4
実施例1の反応温度及び仕込み量を表1に示すように変えて酸化反応を行った。結果も表1に示す。
比較例1〜3
実施例1の反応温度及び仕込み量を表1に示すように変えて酸化反応を行った。結果も表1に示す。
【0041】
実施例5
ナスフラスコに2,5−フランジカルボン酸 193.55g、パラトルエンスルホン
酸・1水和物 59.57g、メタノール 744.81gを加え、75℃で20時間還流
した。反応後、この溶液を室温に冷却した。そして蒸留水2448g加え撹拌し、濾過した。さらに得られた結晶を蒸留水でPH7になるまで洗い、乾燥した後、メタノールで再結晶させ、減圧乾燥させ無色の結晶を得た。この結晶の純度はH−NMRから2,5−フランジカルボン酸ジメチルが100%であることが判明した。
【0042】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
5−ヒドロキシメチルフルフラールを金属触媒存在下で酸化反応することにより2,5−フランジカルボン酸を製造する反応において、金属触媒の金属元素の使用量が5-ヒド
ロキシメチルフルフラールに対して質量比で0.02ppm以上20,000ppm以下であることを特徴とする2,5−フランジカルボン酸の製造方法。
【請求項2】
更に、反応器内に気体を流通させながら反応を行う際に、流通させる気体が20体積%以上の酸素を含むことを特徴とする請求項1に記載の2,5−フランジカルボン酸の製造方法。
【請求項3】
5−ヒドロキシメチルフルフラールを原料に用いて2,5−フランジカルボン酸を製造する反応において、反応を30℃以上で行うことを特徴とする2,5−フランジカルボン酸の製造方法。
【請求項4】
5−ヒドロキシメチルフルフラールの含有量が2,5−フランジカルボン酸に対して1モル%以下であることを特徴とする2,5−フランジカルボン酸。
【請求項5】
400nmの波長の光線透過率が95%以上であることを特徴とする2,5−フランジカルボン酸。
【請求項6】
金属触媒の金属元素の含有量が2,5−フランジカルボン酸に対して質量比で0.001ppm以上100ppm以下であることを特徴とする2,5−フランジカルボン酸。
【請求項7】
請求項1から3のいずれかに1項に記載の2,5−フランジカルボン酸から得られたことを特徴とする2,5−フランジカルボン酸誘導体。

【公開番号】特開2008−88134(P2008−88134A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−273483(P2006−273483)
【出願日】平成18年10月4日(2006.10.4)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】