説明

フリーライム中の固溶成分定量方法

【課題】 鉄鋼スラグなどに含有されているフリーライム中に固溶するFeOやMnOなどの固溶成分を定量分析する。
【解決手段】 粉砕したスラグをエチレングリコールに浸漬させてスラグ中のフリーライムをエチレングリコールに溶解させ、残留物を濾過して除去した後、得られたエチレングリコール溶出液を発光分光分析法、質量分析法、吸光分析法のうちの何れか1つの分析法を用いて定量分析し、エチレングリコール溶出液に溶解したフリーライム中の固溶成分元素を定量する。定量化された固溶成分元素の質量を酸化物としての質量に換算し、酸化物として換算した値から前記固溶成分元素の酸化物としての固溶量を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼スラグなどに含有されているフリーライム中の固溶成分を定量分析する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼精錬過程で生ずる鉄鋼スラグ、とりわけ製鋼スラグは結晶質で硬い性質を有することから、冷却後破砕して所定の粒度に調製したものは、路盤材として好適である。しかしながら、製鋼スラグには、精錬時に使用する生石灰の一部が残留したフリーライム(「遊離石灰」、「遊離CaO」とも呼ばれる)が含まれている。このフリーライムは水と反応すると水和膨張する性質を有するため、水和反応に伴ってスラグが崩壊・細化し、路盤材の規格以下の粒度まで粉化が進行してしまうことが発生する。そのため、製鋼スラグを路盤材として利用する際の品質管理として、製鋼スラグ中のフリーライムの定量分析が実施されている。
【0003】
このように、従来、製鋼スラグ中のフリーライム量はスラグの水和膨張による崩壊・細化の程度(粉化率)と相関があり、フリーライムの定量はスラグ評価法として利用されてきた。しかし、近年の鉄鋼精錬技術の進歩に伴って、製鋼スラグが多様化し、スラグ中のフリーライム量がほとんど等しいにも拘わらず、スラグの粉化率に差があり、粉化が進行することで所定の路盤材規格を外れるものが発生するようになってきた。また、製鋼スラグは鉄鋼精錬中には溶融状態であるが、精錬後に溶鋼と分別された後、冷却過程で固化する際に、スラグ中のフリーライムの一部は不純物としてFeOやMnOを固溶することが知られている。FeOやMnOを固溶したフリーライムは水和反応速度が遅くなり、崩壊・細化しにくくなることが報告されている(非特許文献1を参照)。従って、フリーライム中の固溶成分量を把握することは、スラグの粉化機構解明のために非常に重要と考えられている。
【0004】
しかしながら、鉄鋼スラグ中のフリーライム分析法では、スラグ中のフリーライム量を求めることはできても、定量されたフリーライム中にどれだけの固溶成分が存在したかを評価することはできなかった。因みに、特許文献1などで現在フリーライム測定法として通用されているエチレングリコール溶出法は、スラグ中に存在するあらゆる化学種のうちで、酸化カルシウムだけがエチレングリコール中に選択的に溶解することを利用した技術であり、スラグを一定粒度まで粉砕した後、加温したエチレングリコール中に浸漬させ、フリーライムが溶解したエチレングリコールを、中和滴定やEDTA滴定或いは導電率測定などによってフリーライムの質量を求める方法である。
【特許文献1】特開平2−176560号公報
【非特許文献1】遠藤、田上等、神戸製鋼技報、43、2、(1993)、p.5
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述したように、近年の鉄鋼精錬技術の進歩に伴って、製鋼スラグが多様化し、スラグ中のフリーライム量が同等であっても粉化率に差が生じ、路盤材規格を外れるものが発生していた。この問題を解明・解決するために、フリーライム中に固溶しているFeOやMnOを定量することが必要とされるようになったが、従来のフリーライム分析法ではスラグ中のフリーライム量を求めることができても、定量されたフリーライム中にどれだけの固溶成分が存在したかを評価することができなかった。つまり、従来、フリーライム中に固溶するFeOやMnOを定量する方法は提案されていなかった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、鉄鋼スラグなどに含有されているフリーライム中に固溶するFeOやMnOなどの固溶成分を定量分析する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記課題を解決すべく、鋭意研究・検討を実施した。その結果、FeOやMnOを固溶したフリーライムは、不純物を含有しないフリーライムと同様に、エチレングリコールに溶解することを確認した。その際に、フリーライムに固溶しているFeOやMnOもエチレングリコールに溶解することを確認した。また、このエチレングリコール中のFeやMnなどは、発光分光分析法、質量分析法、吸光分析法などの適宜の分析方法で定量分析が可能であり、その分析値からフリーライムに固溶しているFeOやMnOなどの固溶成分量を求めることができるとの知見を得た。
【0008】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、第1の発明に係るフリーライム中の固溶成分定量方法は、粉砕したスラグをエチレングリコールに浸漬させてスラグ中のフリーライムをエチレングリコールに溶出させ、残留物を濾過して除去した後、該濾過がされたエチレングリコール溶出液を発光分光分析法、質量分析法、吸光分析法のうちの何れか1つの分析法を用いて定量分析することを特徴とするものである。
【0009】
第2の発明に係るフリーライム中の固溶成分定量方法は、第1の発明に記載の固溶成分定量方法により定量化された固溶成分元素の質量を酸化物としての質量に換算し、酸化物として換算した値から前記固溶成分元素の酸化物としての固溶量を求めることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、スラグ中のフリーライム中に固溶されるFeOやMnOなどの固溶成分を定量分析することが可能となった。フリーライムはFeOやMnOなどを固溶していると、水和反応速度が遅くなり、膨張によるスラグの崩壊・細化が進行しにくくなることから、スラグ中のフリーライム中に存在するFeO及びMnOの固溶量を定量化可能となったことで、今後、本発明は、スラグ粉化機構解明の研究或いはスラグの評価方法などにおいて有効活用されることが期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0012】
本発明に係るフリーライム中の固溶成分定量方法は、製鋼スラグなどのフリーライムを含有するスラグを粉砕し、粉砕したスラグをエチレングリコールに浸漬させてスラグ中のフリーライムをエチレングリコールに溶解させ、残留物を濾過して除去した後、得られたエチレングリコール溶出液を発光分光分析法、質量分析法、吸光分析法などの適宜の定量分析法を用いて定量分析し、エチレングリコール溶出液に溶解したフリーライム中の固溶成分元素を定量する。
【0013】
定量分析対象のスラグとしては、指頭に感じない程度の細かさまで、めのう乳鉢で粉砕したものを使用する。具体的には、200メッシュ(74μm)の篩を通過したものが好ましい。また、使用するエチレングリコールは、JIS試薬の最上級品位のものを用いることが好ましい。エチレングリコールは、吸湿性が強いため、開栓後長時間経過したものの使用には注意が必要であり、必要に応じて、180〜190℃で1時間程度加熱し、水分を除去したものを使用するなどの措置を講じることが好ましい。
【0014】
スラグをエチレングリコールに浸漬させ、スラグ中のフリーライムをエチレングリコールに溶解させる。スラグ中フリーライムのエチレングリコールへの溶出は、「遊離酸化カルシウムの定量方法」(セメント協会標準試験方法:JCAS I−01−1997)に準じて実施し、スラグ中のフリーライムをエチレングリコールに溶解させる。この「遊離酸化カルシウムの定量方法」には、当然ながらフリーライムの定量方法が記載されており、従って、この方法に準じてフリーライムの定量を実施してもよいが、Fe、Mnなどの固溶成分元素を、以下に示す方法を用いて定量する際に、Fe、Mnなどと同時にフリーライム分のCaを定量してもよい。
【0015】
スラグの残留物を濾過して分離し、フリーライム及びフリーライム中の固溶成分を溶解したエチレングリコール溶出液を得る。得られたエチレングリコール溶出液を、ICP発光分光分析装置、ICP質量分析装置、原子吸光分析装置などに導入し、Fe、Mnを測定する。尚、測定元素に限りはなく、必要に応じて、Ca、Mgなどの必要な元素を併せて測定することができる。つまり、フリーライム分のCaをFe、Mnなどと同時に定量してもよい。
【0016】
ここで、ICP発光分光分析法とは、高周波誘導結合プラズマ(inductively coupled plasma=ICP)を光源とする発光分光分析法である。石英ガラス管製のトーチの外側に誘導コイルを巻き、これに周波数20〜50MHz、出力1〜2kWの高周波電力を加え、前記トーチに流したArガス中に発生するフレーム状の放電をICPといい、このICPに、分析用の水溶液を気化させてArガスを搬送ガスとして導入する。ICPに導入された水溶液中の元素はおよそ6000Kに加熱されて発光する。この発光の強度から元素を定量分析する方法である。
【0017】
ICP質量分析法とは、高周波誘導結合プラズマ(inductively coupled plasma=ICP)のArガスプラズマを試料中の構成元素のイオン化源として用い、生成したイオン種をオンラインで質量分析して元素組成を決定する分析法である。また、原子吸光分析法とは、遊離基底状態の原子が同種の元素から放射された特定波長の光(主として共鳴線)を吸収する現象を利用して、つまり吸光の程度を利用して元素組成を決定する分析法である。
【0018】
エチレングリコール溶出液は粘度が高いことから、得られたエチレングリコール溶出液をそのままの状態で前記分析装置に導入するとチャンバー内での噴霧率が小さく、分析する上で好ましくない。従って、噴霧率を上げるために、エチレングリコール溶出液を水で希釈することが好ましい。具体的には、エチレングリコール溶出液が1〜5容量%となるように水で希釈することが好ましい。但し、使用する分析装置に応じて最適の希釈率は異なるので、それぞれ使用する分析装置に応じて希釈率を最適化する必要がある。尚、エチレングリコール溶出液が1〜5容量%となる希釈率の水溶液を分析する場合には、上記の各分析装置における測定方法は特に限定する必要はなく、常法によって実施することができる。
【0019】
分析により求められた全ての元素の定量値は、フリーライム中に酸化物として置換型で固溶していた元素と考えることができる。得られた定量値は金属元素の定量値であるので、これを酸化物形態の質量に換算することで、フリーライム中の固溶量を求めることができる。例えば、得られたFe及びMnの定量値からFeO及びMnOに換算した値をそれぞれCFeO 、CMnO とすると、フリーライム量をCCaOとすると、フリーライム中のFeOの固溶量(SFeO )は下記の(1)式により求められ、また、MnOの固溶量(SMnO)は下記の(2)式により求めることができる。FeO、MnO以外の酸化物(Xnm )が固溶している場合には、その元素(X)の定量値から求められた酸化物質量(CXnOm)を(1)式及び(2)式の分母に加えればよい。
【0020】
【数1】

【0021】
本発明によれば、このようにしてスラグ中のフリーライムに固溶するFeOやMnOなどの固溶成分を定量化することが可能となる。
【実施例1】
【0022】
以下、実施例により、エチレングリコール溶出液中の元素を定量してフリーライム中のFeO及びMnOの固溶量を求める方法を説明するが、本発明はこれらの説明の範囲に限定されるものではない。
【0023】
分析試料として、粉化率が既知の4種類の製鋼スラグ(A〜D)を用いた。スラグAの粉化率は6.9質量%、スラグBの粉化率は7.8質量%、スラグCの粉化率は5.8質量%、スラグDの粉化率は11.8質量%である。つまり、スラグCとスラグDとでは、粉化率に約2倍の差があるということである。
【0024】
全ての製鋼スラグは、めのう乳鉢で予め200メッシュ以下に粉砕した。この製鋼スラグを、前述した「遊離酸化カルシウムの定量方法」に準じてエチレングリコール中に浸漬させ、フリーライムをエチレングリコールに溶解し、残存するスラグを濾別して、エチレングリコール溶出液を得た。
【0025】
エチレングリコール溶出液の元素分析にはICP発光分光分析法を用いた。エチレングリコール溶出液をICP発光分光分析装置に導入するために、エチレングリコール溶出液を蒸留水により希釈(容量希釈率;エチレングリコール溶出液:蒸留水=1:99)し、エチレングリコール溶出液が1容量%の水溶液とした。ICP発光分光分析装置の測定元素は、Ca、Fe、Mnの3種類とし、適宜、内標準としてY(イットリウム)などの測定を実施した。ICP発光分光分析装置の測定条件は、通常の水溶液を分析する際の測定条件と同一の条件とした。
【0026】
得られたCa、Fe、Mnの定量値をCaO、FeO、MnOの酸化物として換算し、製鋼スラグ中のフリーライム量、及び、フリーライム中のFeO、MnOの固溶量を求めた。得られた結果を表1に示す。表1には、各製鋼スラグの粉化率も併せて示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1からも明らかなように、各製鋼スラグでフリーライムの含有量には優位差が認められないが、フリーライム中のFeO及びMnOの固溶量は大きく異なっていることが分かった。即ち、粉化率の低いスラグCでは、フリーライム中のFeO及びMnOの固溶量が相対的に多く、逆に、粉化率の高いスラグDでは、フリーライム中のFeO及びMnOの固溶量が相対的に少ないことが分かった。
【0029】
スラグの粉化率とフリーライム中のFeO及びMnOの固溶量との関係を図1に示す。図1に示すように、フリーライム中のFeO及びMnOの固溶量とスラグの粉化率とには逆相関があることが分かった。即ち、フリーライム中のFeO及びMnOの固溶量が多いほど、粉化率が小さいことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
フリーライム中の固溶成分はフリーライムの水和反応を遅らせ、スラグの粉化を抑制すると考えられていることから、本発明によってフリーライム中に存在するFeOやMnOなどの固溶量を求めることが可能となったことで、今後、本発明は、スラグの評価などにおいて有効活用されることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】製鋼スラグにおいて、スラグの粉化率とフリーライム中のFeO及びMnOの固溶量との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉砕したスラグをエチレングリコールに浸漬させてスラグ中のフリーライムをエチレングリコールに溶出させ、残留物を濾過して除去した後、該濾過がされたエチレングリコール溶出液を発光分光分析法、質量分析法、吸光分析法のうちの何れか1つの分析法を用いて定量分析することを特徴とする、フリーライム中の固溶成分定量方法。
【請求項2】
請求項1に記載の固溶成分定量方法により定量化された固溶成分元素の質量を酸化物としての質量に換算し、酸化物として換算した値から前記固溶成分元素の酸化物としての固溶量を求めることを特徴とする、フリーライム中の固溶成分定量方法。

【図1】
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