説明

フルオロエラストマー

【課題】末端にヨウ素基および/または臭素基を有する含フッ素オレフィン重合体であって、例えば約60〜120℃でのポンプ輸送が可能でかつ通常の射出成形機で加工可能な、貯蔵安定性および耐熱老化性にすぐれたフルオロエラストマーを提供する。
【解決手段】末端にヨウ素基および/または臭素基を有する含フッ素オレフィン重合体に、炭素数2〜4のオレフィンを含フッ素オレフィン重合量に対し1〜5モル%の割合で付加重合させたフルオロエラストマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロエラストマーに関する。さらに詳しくは、貯蔵安定性にすぐれ、パーオキサイド架橋可能なフルオロエラストマーに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム産業においては、一般に使用するゴムの加工性、特に流動特性に関して、その加工性を向上させることが求められている。そして、ゴムの粘度が低くなればなる程格加工技術がより簡単となり、生産性が向上する。このような加工性改善要求は、フルオロエラストマーにとって非常に重要である。その理由は、高価なフルオロエラストマーの加工を、ゴム産業で一般に用いられている射出成形機で完全に行うことが不可能であるからである。
【0003】
特に、フルオロエラストマーの場合、加工性改善のために粘度を下げるために分子量を低くすると、急速に加硫物性、特に引張強さの低下がもたらされる。加うるに、今日でも数多くの架橋性組成物でそれの貯蔵安定性が問題となっており、満足される特性を有する液状のフルオロエラストマーは知られていない。
【0004】
例えば、下記特許文献1に記載されている低分子量のフルオロエラストマーであって、1〜30重量%のヨウ素含有量を有し、またRf/Ix型分子量調節剤(連鎖移動剤)を含有するものが記載されているが、この低分子量フルオロエラストマーは貯蔵安定性に欠けている。その原因は、分子量調節剤中のヨウ素原子が、フッ素原子を少なくとも1個有する炭素原子、好適にはパーフルオロカーボン残基と結合し、結果として生ずる末端基構造が-Rf-I、たとえば-CF2-I-となり、かかるヨウ素-炭素結合は非常に不安定であり、ヨウ素の脱離が熱または光の作用下で、非常に容易に起こり得ることにある。
【特許文献1】USP 4,361,678
【0005】
さらに、架橋目的で反応性基を導入すると、反応があまりにも早く起こる可能性があり、そのため結果として生ずるポリマー基が再架橋する可能性がみられる。また、そのようなポリマー類から作られた架橋成形品は、老化特性にも劣っている。
【非特許文献1】Kautsch. Gummi. Kunstst. 44巻 833〜837頁 (1991)
【0006】
一方、ヨウ素原子または臭素原子をCH2基上に少なくとも1個有する分子量調節剤は、重合速度を遅くするといった欠点を有する。したがって、このような分子量調節剤は、従来高い分子量あるいは低いヨウ素含有量を有するフルオロエラストマーの製造でのみ用いられてきたといえる。
【特許文献2】USP 5,231,154
【特許文献3】USP 4,501,869
【特許文献4】特開昭60−221409号公報
【0007】
下記特許文献5には、フッ化ビニリデンとフッ素含有および/またはフッ素非含有モノマーを、ジヨード有機化合物および開始剤の存在下で、水を存在させないでラジカル重合させ、液状フッ化ゴムを製造する方法が記載されており、フッ素非含有モノマーとして好ましくはエチレン、プロペン、イソブテン、酢酸ビニル等のビニルエステル類が用いられると述べられてはいるが、これらのフッ素非含有モノマーはフッ化ビニリデン(および他のフッ素含有モノマー)とのランダム共重合成分として用いられている。
【特許文献5】特表2001−508474号公報
【0008】
しかしながら、ここで得られる液状フッ化ゴムは、例えば約60〜120℃でのポンプ輸送可能で、かつ通常の射出成形機で加工可能な特性を有するとされてはいるが、貯蔵安定性は満足し得るものではいない。
【特許文献6】特開平10−67821号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、末端にヨウ素基および/または臭素基を有する含フッ素オレフィン重合体であって、例えば約60〜120℃でのポンプ輸送が可能でかつ通常の射出成形機で加工可能な、貯蔵安定性および耐熱老化性にすぐれたフルオロエラストマーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる本発明の目的は、末端にヨウ素基および/または臭素基を有する含フッ素オレフィン重合体に、炭素数2〜4のオレフィンを含フッ素オレフィン重合量に対し1〜5モル%の割合で付加重合させたフルオロエラストマーによって達成される。
【0011】
含フッ素オレフィン重合体末端へのヨウ素基および/または臭素基の導入は、含ヨウ素および/または臭素飽和化合物の存在下で炭素数2〜8の含フッ素オレフィンを重合させることによって行われる。また、含フッ素オレフィン重合体としては、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロペン系共重合体が好んで用いられる。
【0012】
得られるフルオロエラストマーは、好ましくは溶液粘度ηsp/c(JIS No.3粘度計使用;35℃、1重量%アセトン溶液)が0.01〜0.30dl/gの液状フルオロエラストマーである。
【発明の効果】
【0013】
一般に、液状となる反応条件で共重合された末端ヨウ素化フルオロエラストマーは、末端ヨウ素の反応性により貯蔵安定性に乏しいが、本発明に係るフルオロエラストマー、好ましくは液状フルオロエラストマーは、エチレンを付加してヨウ素とフッ素との距離を-CH2-CF2-Iから-CH2-CF2-CH2-CH2-Iへと離すことにより両者の反応性を制御し、これにより貯蔵安定性、さらには耐熱安定性をも改善させているので、貯蔵安定性が良好であるばかりではなく、加熱時に変色がなく、例えば約60〜120℃でのポンプ輸送が可能であり、かつ通常の射出成形機での加工が可能である。さらに、この液状フルオロエラストマーをパーオキサイド架橋した架橋物の加硫物性は、通常の固体状フルオロエラストマーが示す耐老化特性に非常に近い耐老化特性を示している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
末端にヨウ素基および/または臭素基が導入される含フッ素オレフィン重合体としては、炭素数2〜8の含フッ素オレフィン、例えばフッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロペン、テトラフルオロエチレン、クロルトリフルオロエチレン、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルエチルビニル)等の少なくとも一種の単独重合体または共重合体が挙げられる。含フッ素オレフィン重合体中には、本発明の目的を逸脱しない範囲内において、他の重合性単量体、例えばプロピレン等のフッ素非含有重合性単量体を共重合させることができる。
【0015】
好ましい含フッ素オレフィン重合体としては、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロペン系共重合体が挙げられ、具体的にはフッ化ビニリデン〔VdF〕-ヘキサフルオロプロペン〔HFP〕共重合体、フッ化ビニリデン〔VdF〕-ヘキサフルオロプロペン〔HFP〕-テトラフルオロエチレン〔TFE〕3元共重合体が挙げられる。前者の共重合体にあっては、VdF/HFP=70〜90/30〜10、好ましくは75〜85/25〜15のモル比を有するものが用いられ、また後者の3元共重合体にあっては、VdF/HFP/TFE=80〜40/10〜30/10〜30、好ましくは70〜50/15〜25/15〜25のモル比を有するものが用いられる。共重合組成がこれらの範囲内にあると、耐薬品性と弾性とのバランスが良好な含フッ素共重合体が得られる。
【0016】
1段目の含フッ素オレフィン重合体を得るための共重合反応は、乳化重合法、けん濁重合法、溶液重合法などの任意の重合法で行うことが可能であるが、生成する液状フルオロエラストマーの分離、乾燥などの回収処理の容易さからは溶液重合法が好ましい。
【0017】
溶液重合法の場合には、重合媒体として低い連鎖移動を示す溶媒であるクロロフルオロカーボン系不活性溶媒、ヒドロクロロフルオロカーボン系不活性溶媒、ヒドロフルオロカーボン系不活性溶媒が好んで用いられる。
【0018】
クロロフルオロカーボン系不活性溶媒としては、例えばトリクロロフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロトリフルオロエタン、ジクロロテトラフルオロエタン等が挙げられ、取扱性の点からはトリクロロトリフルオロエタンが一般に用いられる。しかるに、近年オゾン層破壊が地球規模の環境破壊問題として国際的に取り上げられ、その原因物質として特定のクロロフルオロカーボンの使用が禁止されるに至っている。
【0019】
ヒドロクロロフルオロカーボン系不活性溶媒としては、CF3CF2CHCl2-CF2ClCF2CHClF(容積比45:55)混合溶媒等が用いられ、これは旭硝子製品アサヒクリーンAK225として市販されている。また、ヒドロフルオロカーボン系不活性溶媒としては、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン等が用いられ、これはソルベイ社製品SOLKANE 365mfcとして市販されている。
【0020】
重合反応のラジカル重合開始剤としては、有機過酸化物によって代表される公知の過酸化物が用いられる。その使用割合は、重合温度や連鎖移動剤の濃度によって支配される最適値があるため、一概には決められないが、一般には反応溶媒中に溶存しているモノマー合計量に対して約0.01〜5モル%、好ましくは約0.1〜2モル%である。
【0021】
重合反応は、重合溶媒を仕込み、溶存酸素を脱気した後、重合槽に含ヨウ素および/または臭素飽和化合物、好ましくは一般式InBrmRで表される飽和化合物および重合性単量体を重合反応の開始前に一括して仕込んだ後、所定の重合温度、例えば約30〜80℃に重合槽内温度を昇温させた後、ラジカル重合開始剤を添加して、約2〜24時間程度重合反応させる溶液重合法によって行われることが好ましい。
【0022】
1段目の重合反応は、好ましくは一般式InBrmRで表される飽和化合物の存在下で行われる。ここで、Rはフルオロ炭化水素基、クロロフルオロ炭素水素基、クロロ炭化水素基または炭素水素基であり、好ましくはクロロフルオロ炭化水素基またはクロロ炭化水素基であり、n、mは0、1または2であり、かつn+mは2である。
【0023】
フルオロ炭化水素基としては、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル等の炭素数2〜10の飽和脂肪族炭化水素基の一部または全部をフッ素原子で置換した置換基が挙げられ、またクロロフルオロ炭化水素基は、上記炭化水素基の一部または全部をフッ素原子および塩素原子で置換した置換基である。また、前記一般式において、n、mが共に1の化合物は含ヨウ素臭素化合物であり、n=2、m=0の化合物は含ヨウ素化合物であり、n=0、m=2の化合物は含臭素化合物である。
【0024】
含ヨウ素臭素飽和化合物としては、例えば1-ブロモ-2-ヨードパーフルオロエタン、1-ブロモ-3-ヨードパーフルオロプロパン、1-ブロモ-4-ヨードパーフルオロブタン、2-ブロモ-3-ヨードパーフルオロブタン、1-ブロモ-1-ヨード-2-クロロパーフルオロエタン、1-ブロモ-2-ヨード-2-クロロパーフルオロエタン、1-ヨード-2-ブロモ-2-クロロパーフルオロエタン、1-ブロモ-2-ヨード-1,2,2-トリフルオロエタン、1-ヨード-2-ブロモ-1,2,2-トリフルオロエタン等が挙げられ、好ましくは1-ブロモ-2-ヨードパーフルオロエタンが挙げられる。
【0025】
含ヨウ素飽和化合物としては、例えば1,2-ジヨードパーフルオロエタン、1,3-ジヨードパーフルオロプロパン、1,4-ジヨードパーフルオロブタン、1,6-ジヨードパーフルオロヘキサン、1,8-ジヨードパーフルオロオクタン等が挙げられ、好ましくは1,4-ジヨードパーフルオロブタンが用いられる。また、含臭素飽和化合物としては、例えば1,2-ジブロモパーフルオロブタン、1,4-ジブロモパーフルオロブタン、1,6-ジブロモパーフルオロヘキサン、1,2-ジブロモ-1,1,2-トリフルオロエタン、1,2-ジブロモ-1-クロロトリフルオロエタン等が用いられる。
【0026】
これら以外の含ヨウ素および/または臭素飽和化合物としては、次のような特許文献にもその記載をみることができる。
【特許文献7】特開平10−212322号公報
【特許文献8】特開平11−181032号公報
【0027】
重合反応に際し、含ヨウ素臭素化合物を用いた場合には、有機過酸化物ラジカル発生源の作用により、容易にヨウ素および臭素がラジカル開裂され、これによって生じたラジカルの反応性が高いため、モノマーが付加成長反応し、しかる後に含ヨウ素臭素飽和化合物からヨウ素および臭素を引き抜くことによって反応を停止させ、分子端末にヨウ素および臭素が結合したフルオロエラストマーを与える。含ヨウ素飽和化合物または含臭素飽和化合物にあっても全く同様であり、分子末端にヨウ素または臭素が結合したフルオロエラストマーを与える。
【0028】
含フッ素重合体末端に導入されるヨウ素基および/または臭素基の結合量は、これらの基を付加した重合体中約0.5〜10重量%、好ましくは約1〜6重量%を占めるような割合でなければならない。これ以下の結合量では、2段目の付加重合反応の反応性が低下し、一方これ以上の結合量では、1段目の重合反応の反応性が低下するようになる。
【0029】
1段目の重合反応の終了後、重合反応槽を冷却し、系内の残ガスをパージ、脱気した後、炭素数2〜4のオレフィン、例えばエチレン、プロピレン、n-ブテン等、好ましくはエチレンを仕込み、付加重合反応に供する。オレフィンの付加重合量は、含フッ素オレフィン重合量に対して約1〜5モル%、好ましくは約2〜4モル%、さらに好ましくは2〜3モル%である。付加重合されたオレフィンのモル数がこれよりも少ないと、本発明の所期の目的を達成させることができず、一方これ以上のモル数でオレフィンを付加重合させると、ポリマーの耐熱性が悪化するようになる。
【0030】
2段目の付加重合反応は、1段目の重合反応槽にオレフィンを仕込んだ後、所定の重合温度、一般には約30〜80℃に重合反応槽を昇温させた後、ラジカル重合開始剤としての有機過酸化物を添加することにより行われる。なお、有機過酸化物重合開始剤は、1段目の重合反応時にも添加しているため、一般には多量の添加を必要とはせず、必要に応じて少量宛の添加であってもよい。重合時間は、他の重合条件にもよるが、一般には約2〜20時間程度である。
【0031】
2段目の重合反応終了後、反応混合液から減圧ニーダを用いて溶媒を完全に除去し、目的とする液状フルオロエラストマーを得ることができる。得られた液状フルオロエラストマーは、溶液粘度ηsp/c(JIS No.3粘度計使用;35℃、1重量%アセトン溶液)が約0.01〜0.3dl/g、好ましくは約0.03〜0.25dl/gの値を有しており、従来公知の加硫方法、例えばパーオキサイド架橋法、ポリアミン加硫法、ポリオール加硫法あるいは放射線、電子線等を用いる架橋法などによって加硫することができ、好ましくはパーオキサイド架橋法が用いられる。
【0032】
パーオキサイド架橋に用いられる有機過酸化物としては、例えば2,5-ジメチル-2,5-ビス(第3ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(第3ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(2,4-ジクロロベンゾイル)パーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ第3ブチルパーオキサイド、第3ブチルクミルパーオキサイド、第3ブチルパーオキシベンゼン、1,1-ビス(第3ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロキシパーオキサイド、α,α´-ビス(第3ブチルパーオキシ)-p-ジイソプロピルベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、第3ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等が用いられる。
【0033】
これらの有機過酸化物が用いられるパーオキサイド架橋法では、通常共架橋剤としての多官能性不飽和化合物、例えばトリ(メタ)アリルイソシアヌレート、トリ(メタ)アリルシアヌレート、トリアリルトリメリテート、N,N´-m-フェニレンビスマレイミド、ジアリルフタレート、トリス(ジアリルアミン)-s-トリアジン、亜リン酸トリアリル、1,2-ポリブタジエン、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート等が有機過酸化物と併用される。
【0034】
パーオキサイド架橋系に用いられるこれらの化合物は、液状フルオロエラストマー100重量部当り有機過酸化物が約0.1〜10重量部、好ましくは約0.5〜5重量部の割合で、また共架橋剤が約0.1〜10重量部、好ましくは約0.5〜5重量部の割合でそれぞれ用いられる。
【0035】
以上の各成分からなる架橋性液状フルオロエラストマー組成物中には、さらにカーボンブラック、シリカ等の無機充填剤、ZnO、CaO、Ca(OH)2、MgO等の2価金属の酸化物または水酸化物あるいは合成ハイドロタルサイト等の受酸剤、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、クラウンエーテル等の加工助剤、可塑剤、安定剤、顔料等が必要に応じて適宜配合されて用いられる。
【0036】
これらの各成分は、攪拌ミキサ、ニーダ、バンバリーミキサ等を用いて予備混合を行い、その後3本ロールを通すことによって混練され、混練して得られた組成物の架橋は約140〜220℃、約2〜60分間の加熱によって行われ、さらに必要に応じて空気中または窒素等の不活性ガス雰囲気下、約150〜250℃、約1〜50時間の二次加硫も行われる。加硫成形は、例えばプレス加硫、オーブン加硫、スチーム加硫などの任意の方法で行うことができ、より具体的には射出成形法、圧縮成形法、ブロー成形法などの各種成形法によって、Oリング、オイルシール、チューブ、シート等の各種形状に成形可能である。
【0037】
なお、本発明に係る液状フルオロエラストマーは、パーオキサイド架橋性を有する他の物質、例えばムーニー粘度ML1+4(100℃)が約10〜200ポイントを有する室温条件下で固体状のフッ素ゴム、シリコーンオイル、シリコーンゴム、フルオロシリコーンゴム、フルオロホスファゼンゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-プロピレン(-ジエン)共重合ゴム、NBR、アクリル酸エステルゴム等とブレンドして共架橋させることもできる。
【実施例】
【0038】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0039】
実施例1
(1) 容量10Lのオートクレーブ内に、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン(ソルベイ社製品SOLKANE 365mfc)5.5kgを仕込み、内部空間を窒素ガスで十分置換した後脱気して、1,4-ジヨードパーフルオロブタン180gを仕込んだ。その後、
フッ化ビニリデン〔VdF〕 1440g(55.5モル%)
ヘキサフルオロプロペン〔HFP〕 2700g(44.5モル%)
よりなる仕込み混合ガスを圧入し、内温を45℃に昇温させた。次いで、ビス(4-第3ブチルシクロヘキシル)ぺーオキシジカーボネート(日本油脂製品パーロイルTCP)15gを1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン500gに溶解させた重合開始剤溶液をオートクレーブ内に圧入し、重合反応を開始させた。このときのオートクレーブ内の圧力は、1.8MPaであった。反応開始後直ちにオートクレーブ内圧の降下がみられ、20時間後内圧が0.6MPaになった時点で、オートクレーブ内の未反応ガスをパージして反応を停止させた。
【0040】
内部空間を脱気した後、エチレン30g(上記仕込み全モノマー量に対して2.65モル%)を圧入し、内温を45℃に昇温させ、そこにビス(4-第3ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート3gを1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン200gに溶解させた重合開始剤溶液をオートクレーブ内に圧入して、2段目のエチレン付加重合を開始させた。このときのオートクレーブ内の圧力は、0.06MPaであった。反応開始6時間後内圧が-0.03MPaになった時点で、オートクレーブ内の未反応ガスをパージして反応を停止させた。
【0041】
得られた反応混合液を、減圧ニーダを用いて50℃、24時間の真空乾燥を行い、溶媒を完全に除去して、乳白色の液状フルオロエラストマーA 2600g(収率62%)を得た。19F-NMR分析で測定した共重合組成は、VdF/HFP=79.5/20.5モル%であった。また、19F-NBRの-111ppmのシグナルから算出される付加重合されたエチレン量は、VdF-HFP共重合量に対し2.5モル%であった。
化学シフト(溶媒:d-アセトン、標準C6F6):
-37.5ppmの領域に配列-CH2-CF2-Iのシグナルは全く観察されず、その代りに-111
ppmの領域に新しいシグナルが現れ、これは配列-CH2-CF2-CH2-CH2-Iに起因する
元素分析:ヨウ素含有量4.2重量%
溶液粘度ηsp/c(JIS No.3 粘度計使用;35℃、1重量%アセトン溶液):0.06dl/g
せん断速度(B8H型ブルックフィールド回転粘度計使用;ロータNo.6、100℃):3600cP
重量平均分子量Mw:6100、分散比Mw/Mn=1.48(ポリスチレン基準)
【0042】
(2) また、得られた液状フルオロエラストマーAの一部をオーブンに入れ、100℃で72時間加熱したが、乳白色の液状フルオロエラストマーA′の外観に変化はみられなかった。
【0043】
(3) これらの液状フルオロエラストマーAまたはA′を用い、次の各成分を配合して、攪拌ミキサで混合した後、3本ロールを通して含フッ素共重合体組成物を調製した。
液状フルオロエラストマーAまたはA′ 100重量部
MTカーボンブラック 30 〃
Ca(OH)2 4 〃
トリアリルイソシアヌレート(日本化成製品タイクM-60、60%品) 4.5 〃
2,5-ジメチル-2,5-ジ(第3ブチルパーオキシ)ヘキサン 1.8 〃
(日本油脂製品パーヘキサ25B-40、40%品)
【0044】
得られた混練物について、180℃、10分間のプレス加硫および200℃、4時間のオーブン加硫(二次加硫)を行い、シートおよびOリングを加硫成形した。この加硫物について、次の各項目の測定を行った。
MDR:モンサント製レオメータMDR2000を用い、180℃、10分間での測定を行い、最小
トルク値(ML)、最大トルク値(MH)および最大トルク値に到達するまでの時間(Tc
90)を測定
常態物性:JIS K-6253、JIS K-6251準拠
耐熱老化性:JIS K-6257準拠;200℃、70時間後の常態物性変化(率)を測定
圧縮永久歪:JIS K-6262準拠;線径3.5mmのOリングについて、175℃および200℃、22
時間、25%圧縮
【0045】
実施例2
実施例1において、1,4-ジヨードパーフルオロブタンの代りに1-ブロモ-2-ヨードパーフルオロエタン150gを用い、乳白色の液状フルオロエラストマーB 2740g(収率66%)を得た。19F-NMR分析で測定した共重合組成は、VdF/HFP=80.4/19.6モル%で、VdF-HFP共重合量に対しエチレンが2.6モル%であった。また、ヨウ素含有量は2.3重量%、溶液粘度ηsp/c(35℃)は0.07dl/g、せん断速度(100℃)は4100cP、Mwは7300、Mw/Mnは1.64であった。
【0046】
また、得られた液状フルオロエラストマーBの一部をオーブンに入れ、100℃で72時間加熱したが、乳白色の液状フルオロエラストマーB′の外観に変化はみられなかった。さらに、これらの液状フルオロエラストマーBまたはB′を用い、実施例1と同様に、混練および加硫を行った。
【0047】
実施例3
実施例1において、1段目の仕込み混合ガスとして、
フッ化ビニリデン〔VdF〕 1300g(50モル%)
ヘキサフルオロプロペン〔HFP〕 2400g(40モル%)
テトラフルオロエチレン〔TFE〕 400g(10モル%)
を用い、2段目のエチレン付加反応を行って、乳白色の液状フルオロエラストマーC 2700g(収率66%)を得た。19F-NMR分析で測定した共重合組成は、VdF/HFP/TFE=62/18/20モル%で、VdF-HFP-TFE共重合量に対しエチレンが2.4モル%であった。また、ヨウ素含有量は4.1重量%、溶液粘度ηsp/c(35℃)は0.07dl/g、せん断速度(100℃)は4200cP、Mwは7400、Mw/Mnは1.55であった。
化学シフト(溶媒:d-アセトン、標準C6F6):
-37.5ppmの領域に配列-CH2-CF2-Iのシグナルおよび-59ppm領域に配列-CF2-CF2-CF2
-CF2-Iのシグナルは、全く観察されなかった
【0048】
また、得られた液状フルオロエラストマーCの一部をオーブンに入れ、100℃で72時間加熱したが、乳白色の液状フルオロエラストマーC′の外観に変化はみられなかった。さらに、これらの液状フルオロエラストマーCまたはC′を用い、実施例1と同様に、混練および加硫を行った。
【0049】
比較例1
実施例1において、1段目の共重合反応終了後、2段目のエチレン付加反応を行わずに、回収処理を行って、淡黄色の液状フルオロエラストマーD 2590g(収率62%)を得た。19F-NMR分析で測定した共重合組成は、VdF/HFP=80.0/20.0モル%であった。また、ヨウ素含有量は4.0重量%、溶液粘度ηsp/c(35℃)は0.06dl/g、せん断速度(100℃)は3800cP、Mwは6250、Mw/Mnは1.51であった。
化学シフト(溶媒:d-アセトン、標準C6F6):
-37.5ppm領域にシグナルを確認したが、これは配列-CH2-CF2-I基に起因する。
【0050】
また、得られた淡黄色液状フルオロエラストマーDの一部をオーブンに入れ、100℃で72時間加熱したところ、茶褐色に変色した(液状フルオロエラストマーD′)。さらに、これらの液状フルオロエラストマーDまたはD′を用い、実施例1と同様に、混練および加硫を行った。
【0051】
比較例2
実施例2において、1段目の共重合反応終了後、2段目のエチレン付加反応を行わずに、回収処理を行って、淡黄色の液状フルオロエラストマーE 2770g(収率67%)を得た。19F-NMR分析で測定した共重合組成は、VdF/HFP=79.8/20.2モル%であった。また、ヨウ素含有量は1.9重量%、溶液粘度ηsp/c(35℃)は0.07dl/g、せん断速度(100℃)は4100cP、Mwは7400、Mw/Mnは1.60であった。
【0052】
また、得られた淡黄色液状フルオロエラストマーEの一部をオーブンに入れ、100℃で72時間加熱したところ、茶褐色に変色した(液状フルオロエラストマーE′)。さらに、これらの液状フルオロエラストマーEまたはE′を用い、実施例1と同様に、混練および加硫を行った。
【0053】
比較例3
実施例3において、1段目の共重合反応終了後、2段目のエチレン付加反応を行わずに、回収処理を行って、淡黄色の液状フルオロエラストマーF 2690g(収率65%)を得た。19F-NMR分析で測定した共重合組成は、VdF/HFP/TFE=62/17/21モル%であった。また、ヨウ素含有量は3.9重量%、溶液粘度ηsp/c(35℃)は0.07dl/g、せん断速度(100℃)は4300cP、Mwは7600、Mw/Mnは1.60であった。
化学シフト(溶媒:d-アセトン、標準C6F6):
-37.5ppm領域にシグナルを確認したが、これは配列-CH2-CF2-I基に起因する。また
、-59ppmの領域には、配列-CF2-CF2-CF2-CF2-Iのシグナルが検出された。
【0054】
また、得られた淡黄色液状フルオロエラストマーFの一部をオーブンに入れ、100℃で72時間加熱したところ、茶褐色に変色した(液状フルオロエラストマーF′)。さらに、これらの液状フルオロエラストマーFまたはF′を用い、実施例1と同様に、混練および加硫を行った。
【0055】
以上の各実施例および比較例で得られた液状フルオロエラストマーA〜Fについての加硫物測定項目の結果は、次の表1に示される。
表1
測定項目 実施例1 実施例2 実施例3 比較例1 比較例2 比較例3
加硫特性〔MDR〕
ML (dN・m) 0.14 0.13 0.13 0.15 0.13 0.14
MH (dN・m) 11.1 9.4 12.5 12.0 9.6 12.4
Tc90 (分) 5.2 6.5 4.4 5.4 5.9 4.8
常態物性
硬度 (JIS-A) 63 60 64 65 59 66
100%モジュラス (MPa) 3.9 3.3 4.6 4.3 3.1 4.9
引張強さ (MPa) 9.8 8.9 11.0 11.0 9.2 12.2
伸び (%) 200 220 190 210 230 200
耐熱老化性
硬さ変化 (ポイント) +2 +2 +2 +2 +2 +1
100%モジュラス変化(MPa) +14 +15 +19 +16 +18 +18
引張強度変化率 (%) +18 +22 +20 +20 +15 +25
伸び変化率 (%) -20 -20 -25 -18 -15 -20
圧縮永久歪
175℃、22時間 (%) 20 24 21 19 23 20
200℃、22時間 (%) 24 29 25 25 28 24
【0056】
また、以上の各実施例および比較例で得られた、100℃で72時間オーブン加熱された液状フルオロエラストマーA′〜F′についての加硫物測定項目の結果は、次の表2に示される。
表2
測定項目 実施例1 実施例2 実施例3 比較例1 比較例2 比較例3
加硫特性〔MDR〕
ML (dN・m) 0.14 0.13 0.13 0.15 0.14 0.15
MH (dN・m) 11.3 9.5 12.2 9.8 7.0 10.1
Tc90 (分) 5.0 6.6 4.6 6.6 7.0 6.2
常態物性
硬度 (JIS-A) 63 60 64 58 55 59
100%モジュラス (MPa) 3.7 3.5 4.8 2.6 2.4 2.8
引張強さ (MPa) 10.0 9.2 11.4 7.0 6.4 7.4
伸び (%) 200 210 210 130 140 120
耐熱老化性
硬さ変化 (ポイント) +1 +2 +2 +4 +5 +3
100%モジュラス変化(MPa) +13 +10 +17 − +35 −
引張強度変化率 (%) +15 +16 +18 +35 +34 +41
伸び変化率 (%) -25 -15 -20 -60 -51 -57
圧縮永久歪
175℃、22時間 (%) 20 24 19 27 30 26
200℃、22時間 (%) 25 28 26 33 38 32
【0057】
表1〜2に示された結果から、本発明に係る液状フルオロエラストマーを用いた場合には、液状フルオロエラストマーの加熱時変色がなく、貯蔵安定性が良好であり、また苛酷な貯蔵条件においても、常態物性、耐熱老化性、耐圧縮永久歪特性などの物理的特性に殆ど変化がみられないことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端にヨウ素基および/または臭素基を有する含フッ素オレフィン重合体に、炭素数2〜4のオレフィンを含フッ素オレフィン重合量に対し1〜5モル%の割合で付加重合させたフルオロエラストマー。
【請求項2】
含フッ素オレフィン重合体末端へのヨウ素基および/または臭素基の導入が、含ヨウ素および/または臭素飽和化合物の存在下で炭素数2〜8の含フッ素オレフィンを重合させることによって行われた請求項1記載のフルオロエラストマー。
【請求項3】
含フッ素オレフィンがフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロペン系共重合体である請求項1または2記載のフルオロエラストマー。
【請求項4】
付加重合させた炭素数2〜4のオレフィンがエチレンである請求項1または2記載のフルオロエラストマー。
【請求項5】
溶液粘度ηsp/c(JIS No.3粘度計使用;35℃、1重量%アセトン溶液)が0.01〜0.30dl/gである液状重合体を形成させる請求項1、2、3または4記載のフルオロエラストマー。
【請求項6】
パーオキサイド架橋可能な請求項5記載のフルオロエラストマー。

【公開番号】特開2010−106102(P2010−106102A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277865(P2008−277865)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(502145313)ユニマテック株式会社 (169)
【Fターム(参考)】