説明

フレキシブルフラットケーブル

【課題】 簡単な構造で、フレキシブルフラットケーブル全体の可撓性を確保しながらその効果的な補強を行う。
【解決手段】 偏平断面を有する複数本の導線を絶縁層14により被覆して一体化することにより、フレキシブルフラットケーブル10を構成する。前記導線として、比較的引張強度の低い導電材料からなる第1の導線11と、この第1の導線11の構成材料よりも引張強度の高い導電材料からなる第2の導線12とを混在させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等における配線材として用いられるフレキシブルフラットケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両に使用される配線材として、複数本の偏平な導線がその幅方向と平行な方向に並べられてこれらの導線を被覆する絶縁層により一体化されたフレキシブルフラットケーブルが普及している(特許文献1)。このフレキシブルフラットケーブルは、可撓性に優れるため、その配線形態の自由度が高く、また車両のスライドドアのように動きの多い部位への配線にも適したものとなっている。
【0003】
このような可撓性を担保するため、従来、前記フレキシブルフラットケーブルを構成する各導体については、偏平度の高い断面形状が設定されるとともに、その構成材料として、例えば軟銅のように比較的柔軟性の高い導電材料が選定されている。
【特許文献1】特開昭64−16019号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記のようにフレキシブルフラットケーブルの導体を軟銅等の軟らかい材料で構成した場合、十分な可撓性は確保される反面、高い曲率で繰返し反転屈曲されるおそれがあり、これにより当該導体の破断等が生ずるおそれがある。特に、配線時に繰返し屈曲操作される場合や、前記スライドドア等の可動部分に配索される場合には、前記繰返し反転屈曲の対策は特に重要となる。
【0005】
また、前記フレキシブルフラットケーブルには、その長手方向を軸としたねじり外力や当該ケーブルを幅方向に引裂くような外力が加えられる場合があり、このとき前記導体のうち特に両外側に配される導体には非常に大きな強度的負担が作用することになる。
【0006】
以上のような不都合を避ける手段として、前記導体を硬銅あるいは半硬銅といった比較的高強度の材料で構成することが考えられるが、その場合にはケーブル全体の可撓性が大きく低下してしまうことになる。
【0007】
また、前記特許文献1には、各導体に補強層を重ね合わせることが開示されているが、この場合、ケーブル全体の厚肉化及び構造の複雑化は避けられず、また、可撓性と強度のバランスを考慮した補強層の厚み及び材質の設定は難しい。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑み、簡単な構造で、ケーブル全体の可撓性を確保しながら効果的な補強ができる技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段として、本発明は、偏平な断面を有し、その厚み方向と直交する幅方向に平面状に配列される複数本の導線と、これらの導線を被覆して一体化する絶縁層とを備えたフレキシブルフラットケーブルにおいて、前記導線として、導電材料からなる第1の導線と、この第1の導線を構成する導電材料よりも引張強度の高い導電材料からなる第2の導線とが混在しているものである。
【0010】
この構成によれば、前記第1の導線よりも引張強度の高い第2の導線が含まれているために、ケーブル全体が大きな曲率で曲げ操作されることが抑制されるとともに、この第2の導線に加えて前記第1の導線が混在するために、ケーブル全体の可撓性も確保することができる。すなわち、このケーブルによれば、複雑な構造をとることなく、第1の導線と第2の導線の含有比率を設定するだけでケーブル全体の可撓性と強度のバランスを容易に調節することができる。
【0011】
具体的には、前記第1の導線が銅からなり、前記第2の導線が前記第1の導線を構成する銅よりも引張強度の高い銅からなるものや、前記第1の導線が銅からなり、前記第2の導線が銅合金からなるものが好適である。
【0012】
また、3本以上の導線を有するフレキシブルフラットケーブルにおいては、その少なくとも幅方向両外側に配される導線を前記第2の導線とすることにより、その長手方向を軸としたねじり外力や当該ケーブルを幅方向に引裂くような外力に強い構造としながら、当該ケーブルに前記第2の導線よりも引張強度の低い第1の導線を含むことによってケーブル全体の可撓性を確保することができる。
【0013】
また、前記第2の導線が高強度を有することを利用して、フレキシブルフラットケーブル全体を十分な強度でコネクタハウジングや回路基板等の所定部位に固定することが可能になる。例えば、前記第2の導線に貫通孔を設け、この貫通孔に固定用のボルトやコネクタハウジングから突設されたピン等を挿入することによって、フレキシブルフラットケーブルを前記コネクタハウジング等に高い強度で保持することが可能になる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、互いに引張強度の異なる材料で形成された第1の導線と第2の導線とを混合して含むことにより、簡単な構造で、ケーブル全体の可撓性を確保しながら効果的な補強を行うことができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の好ましい実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1及び図2は、第1の実施の形態に係るフレキシブルフラットケーブル10を示したものである。このフレキシブルフラットケーブル10は、3本の第1の導線11及び2本の第2の導線12と、これらの導線12を被覆する絶縁層14とで構成されている。
【0017】
前記第1の導線11は、導電性を有する第1の材料によって形成され、前記第2の導線12は、導電性を有し、しかも前記第1の材料より引張強度の高い第2の材料によって形成されている。
【0018】
ここで、前記第1の材料としては、比較的柔軟性の高いもの、例えば純銅が好ましく、特に軟銅(硬銅を適当な温度で焼鈍し処理して軟化させたもの)が好適である。これに対して第2の材料としては、高い引張強度を有しながら導電性にも優れたもの、例えば、半硬銅や硬銅、あるいは銅合金(例えばCu−Cr合金やCu−Zr合金、Cu−Ag合金等)が好適である。
【0019】
要は、第2の導線12を構成する導電材料が第1の導線11を構成する導電材料よりも引張強度の高いものであればよく、その範囲で各導線の材質は自由に設定可能である。例えば、第1の導線11を軟銅で構成した場合において、ケーブルの導電性を優先したいときには第2の導線12に硬銅や半硬銅といった純銅を用い、ケーブルの強度を優先したいときには第2の導線12に銅合金を用いるといった選定も可能である。あるいは、第1の導線11をアルミニウムまたはアルミニウム合金により構成し、第2の導線12を前記アルミニウムまたはアルミニウム合金よりも引張強度の高い銅または銅合金で構成するようにしてもよい。
【0020】
また、両導線11,12をともに純銅とする場合、その引張強度に差を与える手段としては熱処理に限られず、加工硬化を利用して引張強度に差を与えるようにしてもよい。例えば、原材料である銅を大きな力でプレスすれば比較的引張強度の高い導線が得られるため、これを第2の導線12として用い、前記原材料を小さな力で少しずつプレスすれば比較的引張強度の低い導線が得られるため、これら第1の導線11として用いるようにしてもよい。
【0021】
なお、図示のように第2の導線12を複数本含む場合において、その第2の導線12同士で必ずしも引張強度が同等でなくてもよく、各第2の導線12の引張強度が第1の導線11の引張強度を上回っていればよい。すなわち、全ての第2の導線12が同じ材質でなくてもよい。例えば、第1の導線11を軟銅により構成し、一方の第2の導線12を半硬銅、他方の第2の導線12を硬銅によりそれぞれ構成するようにしてもよい。
【0022】
図1に示すフレキシブルフラットケーブル10では、第1の導線11及び第2の導線12が互いに平行な方向に延び、それぞれ薄肉で偏平な矩形状の断面を有しており、その厚み方向と直交する幅方向に平面状に全導線11,12が配列されている。具体的には、幅方向両外側に第2の導線12が配置され、その内側に3本の第1の導線11が配列された状態で、これらの導線11,12の外側に絶縁層14が形成されることにより、全体が一体化されている。
【0023】
このフレキシブルフラットケーブル10によれば、複数本の導線の中に高強度の第2の導線12を含むことによって、ケーブル全体が大きな曲率で曲げ操作されることを抑制することができ、これにより、導線が破断等するのを有効に防ぐことができる。特に、図示のフレキシブルケーブル10のように、幅方向両外側に高強度の第2の導線12を配することによって、ケーブル長手方向を軸としたねじり外力や当該ケーブルを幅方向に引裂くような外力にも十分対抗することが可能となる。しかも、この第2の導線12に加えて軟らかい第1の導線11を混在させることにより、ケーブル全体の可撓性も確保することができる。
【0024】
すなわち、このケーブルによれば、複雑な構造をとることなく、第1の導線11と第2の導線12の含有比率を設定するだけでケーブル全体の可撓性と強度のバランスを容易に調節することができる。例えば、図1及び図2に示すフレキシブルフラットケーブル10よりも可撓性を重視したい場合には、第2の導線12を1本としてもよい。この場合、第2の実施の形態として図3に示すように、片側端にのみ第2の導線12を配するようにしてもよいし、第3の実施の形態として図4に示すように、ケーブルの対称性を考慮して中央に第2の導線12を配するようにしてもよい。
【0025】
また、本発明では必ずしも全ての導線の幅が同一でなくてもよく、導線に求められる電流容量や強度に応じて適宜幅を異ならせるようにしてもよい。例えば、第4の実施の形態として図5に示すように、両外側に第2の導線12が配置される構成でこれらの導線12の幅を第1の導線11の幅よりも大きくすれば、強度的により優れたフレキシブルフラットケーブル10を得ることが可能となる。あるいは、第5の実施の形態として図6に示すように、両外側に第1の導線11を配してこれらの導線11の幅を大きく設定するようにしてもよい。
【0026】
また、導線の総本数も特に問わず、2本以上の範囲で適宜設定すればよい。図7及び図8は、7本の導線を含むものをそれぞれ第6の実施の形態及び第7の実施の形態として示したものである。図7に示すケーブルでは、両外側及び中央に計3本の第2の導線12が配され、それ以外が第1の導線11で構成されている。また、図8に示すケーブルでは第1の導線11と第2の導線12とが交互に配列され、かつ、両外側に第2の導線12が配置された構成となっている。これらのケーブルは、いずれも対称性に優れており、特に図8に示すケーブルでは、強度分布もより均一化されたものとなる。
【0027】
また、本発明では、高強度の第2の導線12を利用して、フレキシブルフラットケーブル全体をコネクタハウジングや回路基板等の所定部位に十分な強度で固定することも可能である。例えば、前記図1に示したフレキシブルフラットケーブル10の第2の導線12及びこれを覆う絶縁層14に図9に示すような厚み方向の貫通孔16を設けるようにすれば、この貫通孔16に同図のボルト18やコネクタハウジング側に突設されたピン等を挿入することによって、フレキシブルケーブル10を十分な強度で前記コネクタハウジング等に固定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るフレキシブルフラットケーブルの斜視図である。
【図2】前記実施の形態に係るフレキシブルフラットケーブルの導線の配列を示す平面図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係るフレキシブルフラットケーブルの導線の配列を示す平面図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態に係るフレキシブルフラットケーブルの導線の配列を示す平面図である。
【図5】本発明の第4の実施の形態に係るフレキシブルフラットケーブルの導線の配列を示す平面図である。
【図6】本発明の第5の実施の形態に係るフレキシブルフラットケーブルの導線の配列を示す平面図である。
【図7】本発明の第6の実施の形態に係るフレキシブルフラットケーブルの導線の配列を示す平面図である。
【図8】本発明の第7の実施の形態に係るフレキシブルフラットケーブルの導線の配列を示す平面図である。
【図9】前記図1に示したフレキシブルフラットケーブルの第2の導体にケーブル固定用の貫通孔を設けた実施の形態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0029】
10 フレキシブルフラットケーブル
11 第1の導線
12 第2の導線
14 絶縁層
16 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏平な断面を有し、その厚み方向と直交する幅方向に平面状に配列される複数本の導線と、これらの導線を被覆して一体化する絶縁層とを備えたフレキシブルフラットケーブルにおいて、前記導線として、導電材料からなる第1の導線と、この第1の導線を構成する導電材料よりも引張強度の高い導電材料からなる第2の導線とが混在していることを特徴とするフレキシブルフラットケーブル。
【請求項2】
請求項1記載のフレキシブルフラットケーブルにおいて、前記第1の導線が銅からなり、前記第2の導線が前記第1の導線を構成する銅よりも引張強度の高い銅からなることを特徴とするフレキシブルフラットケーブル。
【請求項3】
請求項1記載のフレキシブルフラットケーブルにおいて、前記第1の導線が銅からなり、前記第2の導線が銅合金からなることを特徴とするフレキシブルフラットケーブル。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のフレキシブルフラットケーブルにおいて、3本以上の導線を有し、かつ、その少なくとも幅方向両外側に配される導線が前記第2の導線であることを特徴とするフレキシブルフラットケーブル。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のフレキシブルフラットケーブルにおいて、このフレキシブルフラットケーブルを特定部位に固定するための貫通孔が前記第2の導線に設けられていることを特徴とするフレキシブルフラットケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−179399(P2006−179399A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−373315(P2004−373315)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】