説明

フレキシブルフラットケーブル

【課題】ケーブルを束ねておいても巻きぐせが付きにくく、束ねた状態から広げた際に、直ぐに広がることができ、配索作業性の優れた押出法によるフレキシブルフラットケーブルを提供する。
【解決手段】押出成形により形成された絶縁性樹脂からなるテープ状絶縁体12の内部に平行に配列した複数の平角導体11が埋設されていり、フレキシブルフラットケーブル1を三重に巻いて直径50mmの円環状に形成して試験片10とし、この試験片10を円環が押し潰されるように外部から荷重W〔N〕を加えてδ〔mm〕の変形を生じさせた場合の比(W/δ)を反発力係数K〔N/mm〕とした場合、反発力係数Kが0.04〜0.75〔N/mm〕となるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルフラットケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルフラットケーブル(以下、FFCということもある)は、可撓性を有するテープ状絶縁体の内部に、断面が平角型の線状導体が 埋設されたものである。FFCは、薄く、可撓性に優れており、例えば自動車のルーフ、ドア、フロア、インパネなどの各種配線材として用いられている。
【0003】
従来、FFCは片面に熱接着層を有する2枚の絶縁フィルムの接着層の間に導体を挟み、加熱ローラの間を通して絶縁フィルム同士を熱接着する熱ラミネート法により製造されていた。上記FFCの絶縁フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム等のポリエステルフィルムが使用されていた。
【0004】
しかしながら上記熱ラミネート法によるFFCの製造方法は、接着層を加熱溶融させる必要があり、接着に時間がかかる為、FFCの生産性が低くコストが掛かるという問題があった。そこで、押出機を用いて絶縁体の樹脂を線状導体の周囲に押出被覆する押出法によりFFCを製造することで、FFCの製造コストを低減することが公知である(例えば特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特許第3700861号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、これまで量産されている押出法によるFFCは、絶縁体の材料として、ポリウレタンエラストマーや、ポリ塩化ビニル系樹脂等の軟質樹脂が用いられていた。これらの絶縁体を用いた押出法によるFFCは、熱ラミネート法によるFFCと比較して、巻きぐせが付き易いという問題があった。例えば自動車のボディーにFFCを配索する場合、巻きぐせが付くと下記の様な問題がある。FFCは所定の長さごとに束ねた状態で、ゴムでしばってFFCハーネスとして梱包しておく。そして、FFCハーネスを縛っていたゴムを取外して、ハーネスを広げてボディーに配索する。熱ラミネート法によるFFCは、巻きぐせが付きにくいので、ゴムを外したとたんにボディー全体に自然に広がる。しかし押出しFFCの場合、梱包時の巻きぐせがついていると、ゴムを外したときに自然に広がらない。FFCが直ぐに広がらないと、手でハーネスを伸ばして広げる必要があり、配索作業性が低下してしまう。
【0007】
本発明の解決しようとする課題は、上記問題点を解決しようとするものであり、ケーブルを束ねておいても巻きぐせが付きにくく、束ねた状態から広げた際に、直ぐに広がることができ、配索作業性の優れたFFCを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のフレキシブルフラットケーブルは押出成形により形成された絶縁性樹脂からなるテープ状絶縁体の内部に平行に配列した複数の平角導体が埋設されているフレキシブルフラットケーブルにおいて、フレキシブルフラットケーブルを三重に巻いて直径50mmの円環状に形成し、円環が押し潰されるように外部から荷重W〔N〕を加えてδ〔mm〕の変形を生じさせた場合の比(W/δ)を反発力係数K〔N/mm〕とした場合、反発力係数Kが0.04〜0.75〔N/mm〕であることを要旨とする。
【0009】
上記フレキシブルフラットケーブルは、厚さ0.15〜0.6mm、幅3〜50mmに形成することができる。また上記平角導体は、厚さ0.1〜0.2mm、幅1〜3mmに形成することができる。
【0010】
上記フレキシブルフラットケーブルにおいて、平角導体が、タフピッチ軟銅であることや、絶縁性樹脂が、変性ポリフェニレンエーテルからなることが好ましい。
【0011】
本発明におけるフレキシブルフラットケーブルの反発力係数Kの測定方法は以下の通りである。図1(a)は、反発力係数の測定に使用するフレキシブルフラットケーブルの試験片を示す説明図であり、同図(b)は(a)のB−B断面図である。図1(a)、(b)に示すように、フレキシブルフラットケーブル1を3重に巻いて直径50mmの円環状に形成して試験片10とする。試験片10は、フレキシブルフラットケーブル1の端部を重ねたところがほどけないように、巻き始めと巻き終わりの部分が10mm重なるように接着しろとして、その重なり部分を粘着テープ2を巻き回して固定する。
【0012】
図2(a)、(b)は、反発力係数Kの測定方法を示す説明図であり、(a)は試験片の環状体の変形前の状態を示し、(b)は試験片を変形させている状態を示す。試験は引張り試験機20を押し込み荷重測定モードにして、図2(a)に示すようにロードセル21とジグ22との間に試験片10を配置し、下のジグに両面テープ23を用いて固定する。次に図2(b)に示すように、上側のロードセル21を試験片10の環を押し潰すように下方に40mmまで変位させる。このときの押込み速度は50mm/分とする。試験片10は、ロードセル21によって押されると、高さ10mmの扁平形状になる。このときロードセル21では、潰される試験片10の環が、ばね弾性によって元に戻ろうとする反発力が荷重として測定される。各変位〔mm〕とロードセルに21に加わる荷重〔N〕を測定すると、変位と荷重の関係を示すグラフが得られる。
【0013】
図3は、上記測定方法により得られる押込み変位と荷重との関係を示すグラフである。図3に示すように上記測定方法により、押込み変位−荷重曲線Sからなるグラフが得られる。この曲線Sの傾きを反発力係数K(N/mm)とする。すなわちこのグラフの傾きは、ロードセルにより測定される荷重をW(N)として、50φの円環を高さ10mmまで押し潰す押込み変位を変形量δ(mm)とした場合の比W/δを表すものである。
【発明の効果】
【0014】
上記本発明に係る反発力係数Kは、フレキシブルフラットケーブルが備えている、ばね弾性を示すものと言える。反発力係数Kは、巻きぐせの付き難さや配索性の指標となる。すなわち本発明のフレキシブルフラットケーブルは、三重に巻いて直径50mmの円環状に形成し、円環が押し潰されるように外部から荷重W〔N〕を加えて変形量がδ〔mm〕となるように変形を生じさせた場合の反発力係数Kが0.04〜0.75〔N/mm〕であるように構成したことにより、従来の押出法によるフレキシブルフラットケーブルと比較して、ケーブルを束ねておいても巻きぐせが付きにくく、束ねた状態から広げた際に、直ぐに広がることができ、配索作業性が優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。図4は、本発明フレキシブルフラットケーブルの一例を示す、幅方向の縦断面図である。図4に示すように、フレキシブルフラットケーブル1(以下、FFCということもある)は、押出成形により形成された絶縁性樹脂からなるテープ状絶縁体12の内部に、平行に配列した複数の平角導体11a、11b、11cからなる導体11が埋設されている。導体11の周囲は絶縁体12と接している。図4に示すFFC1は、3本の導体11a、11b、11cが所定間隔で平行に配置されているものである。導体11と絶縁体12の接触面は、密着した状態にあるが、両者が接着している状態であっても良いし、また両者が単に密着しているだけで接着していない状態であっても良い。
【0016】
図4に示すFFC1は、断面が長方形に形成され、表面及び裏面に凹凸がなく平らな面として形成されている。またFFC1の角は、特に面取りしない状態に形成されている。尚、FFC1において表面側及び裏面側の区別はないが、便宜上、図4の上側を表面側とし下側を裏面側とする。
【0017】
図5は本発明FFCの他の例を示す、幅方向の縦断面図である。図5に示すように、FFC1は、角の部分Rを面取りした形状としても良い。またFFC1は、同図に示すように、表面及び裏面の導体11どうしの間の部分に、長手方向に延びる断面がV字形の凹溝Gを設けても良い。
【0018】
上記したように、本発明FFC1は、FFCを三重に巻いて直径50mmの円環状に形成し、円環が押し潰されるように外部から荷重W〔N〕を加えて変形量がδ〔mm〕となるように変形を生じさせた場合の反発力係数Kが、0.04〜0.75〔N/mm〕となるように形成されている。FFC1の反発力係数Kが上記範囲を外れて、0.04〔N/mm〕未満になると、反発力が小さくなりすぎて十分な配索性が得られない。また反発力係数Kが0.75〔N/mm〕を超えると、巻ぐせが付きにくくなるものの、反発力が大きくなりすぎて、配索性が低下してしまう。反発力係数Kは、0.05〜0.15〔N/mm〕とすることが、確実に巻ぐせを防止することができ、良好な配索性が確実に得られることから、更に好ましい。
【0019】
FFC1において反発力係数Kを上記範囲とするには、FFC1における導体11の寸法(幅、厚さ)、材質、絶縁体12の材質、及び絶縁体12の構造等を適宜組み合わせることで、所望の反発力係数Kを有するFFC1を構成することができる。絶縁体12の構造とは、例えば絶縁体12の表面の凹凸形状の有無や、導体11の配置等が挙げられる。例えば図4及び図5に示すように、FFC1において、角の部分Rの面取りの有無や、表裏面の凹溝Gの有無等によって、FFC1の反発力係数Kを変化させることができる。
【0020】
FFC1の好ましい寸法は、幅3〜50mmであり、厚さ0.15〜0.6mmである。FFC1の寸法が上記範囲であれば、上記特定の範囲の反発力係数Kを有するFFC1が容易に得られる。また、上記寸法範囲のFFC1は、一般的な自動車ボディーの配索用に最適に使用できる。
【0021】
FFC1の平角導体11は、図4及び図5に示すように、FFC1の幅方向の断面形状において、その厚さが幅よりも小さい長方形に形成されている、平角導体11は、扁平な断面形状を有するものが好ましい。またFFC1の絶縁体12の内部における配置としては、絶縁体12の内部の厚さ方向において同じ深さに埋設されている。平角導体11は、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、錫めっきを施した銅等の導電性を有する導線が用いられる。タフピッチ軟銅は、導電率、コスト、屈曲性が良好なことから平角導体として好ましい材料の一つである。また平角導体11は、扁平な断面形状を有するものが好ましく用いられる。平角導体11の好ましい寸法は、例えば、厚さ0.1〜0.2mm、幅1〜3mmである。
【0022】
FFC1の絶縁体12は、押出法により形成されたものである。押出法では、複数の線状導体11a〜11cに対し、押出機を用いて絶縁体12の樹脂を押出被覆することで得られる。押出法は、熱ラミネート法によるFFC製造方法と比較してFFCの生産性が高く、FFCを低コストで製造することができる。押出法は、公知のFFCの製造方法を用いることができる。
【0023】
絶縁体12の材料としては、押出し成形による絶縁体12の形成が可能であり、FFC1とした場合に上記の反発力係数Kの範囲となるように形成可能な絶縁性樹脂が用いられる。絶縁性樹脂として好ましい材料は、変性ポリフェニレンエーテル、水添スチレン系熱可塑性エラストマー、変性水添スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリプロピレン、ポリエーテルイミド等が好ましく用いられる。これらは1種単独或いは2種以上の混合物が挙げられる。上記樹脂は、難燃化と絶縁性のバランスが取りやすいことから好ましい。特に絶縁体12は、変性ポリフェニレンエーテルが、難燃化と絶縁性のバランスが取りやすいことに加え、コストが安く、反発力係数を望ましい範囲にしやすい点から更に好ましく用いられる。
【0024】
絶縁体12には、上記樹脂に、難燃剤、成形助剤、無機フィラー、紫外線吸収剤、安定剤等の添加剤を添加しても良い。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施例、比較例を示す。
実施例1
厚さ0.1mm、幅1.5mmのタフピッチ軟銅をピッチ2.5mmで3芯を並列に配置した状態で、絶縁性樹脂として変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE)80部(以下、全て質量部)及び水添スチレン系熱可塑性エラストマー20部から成る配合組成物(表1参照)を用い、厚さが200μmになるように押し出して、FFCを製造した。得られたFFCの反発力係数K、くせつき性、及び配索追従性について試験を行い、総合評価をした。その結果を表2に示す。
【0026】
絶縁体の配合組成
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
くせつき性、及び配索追従性の試験方法は、以下の通りである。
【0029】
[くせつき性]
図6(a)、(b)はくせつき性の測定方法の説明図である。図6(a)に示すように、FFC1を一回巻き回し環を作り、端部をクリップ24で固定する。この状態で23℃で168時間放置する。次いで、同図(b)に示すように、端部のクリップ24を外して開放した状態で、FFC1の端部間の距離Xを測定する。この端部間の距離Xが大きい方が、FFCにくせが付きにくいということであり、くせつき性が良好であると言える。くせつき性の評価は、この端部間の距離Xが40mm以上ある場合を○とし、40mm未満の場合を×とした。
【0030】
[配索追従性]
図7(a)〜(c)は、配索追従性の測定方法の説明図である。図7(a)に示すように、FFC1を180°曲げる。そして同図(b)に示すように、折り曲げ部分を荷重5kgfの重り24で押える。同図(c)は折り曲げ部分の拡大図である。同図(c)に示すように、重り24で押えた状態で、FFC1の折り曲げ部分のFFC間の距離Yを測定する。この折り曲げたFFC1間の距離Yの大きさが小さい方が、FFC10は配索する際に折り曲げや自動車ボディへの追従性が良好であり、配索性が優れていると言える。配索性の評価は、この折り曲げたFFC1間の距離Yが3.0mm以下である場合を○とし、3.0mmを超える場合を×とした。
【0031】
実施例2〜4、比較例1〜3
絶縁性樹脂として表1に示す配合組成のものを用い、導体のサイズ、ピッチ、絶縁体の厚さ、芯数を表2に示すものとした以外は、実施例1と同様にしてFFCを製造した。得られたFFCの反発力係数K、くせつき性、及び配索追従性について試験を行い、総合評価をした。その結果を表2に示す。
【0032】
参考例1
参考のために、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートに厚さ40μmのホットメルト接着剤を塗布したフィルムの間に表2に示す導体を挟んで熱ラミネートを行ってFFCを製造した。得られたFFCの反発力係数K、くせつき性、及び配索追従性について試験を行った。その結果を表2に示す。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】(a)は、反発力係数の測定に使用するフレキシブルフラットケーブルの試験片を示す説明図であり、(b)は(a)のB−B断面図である。
【図2】反発力係数Kの測定方法を示す説明図であり、(a)は試験片の環状体の変形前の状態を示し、(b)は試験片を変形させている状態を示す。
【図3】図2の測定方法により得られる押込み変位と荷重との関係を示すグラフである。
【図4】本発明フレキシブルフラットケーブルの一例を示す、幅方向の縦断面図である。
【図5】本発明フレキシブルフラットケーブルの他の例を示す、幅方向の縦断面図である。
【図6】(a)、(b)は、くせつき性の測定方法の説明図である。
【図7】(a)〜(c)は、配索追従性の測定方法の説明図である。
【符号の説明】
【0034】
1 フレキシブルフラットケーブル(FFC)
10 FFCの試験片
11 平角導体
12 絶縁体
20 引張り試験機
21 ロードセル
22 ジグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出成形により形成された絶縁性樹脂からなるテープ状絶縁体の内部に平行に配列した複数の平角導体が埋設されているフレキシブルフラットケーブルにおいて、フレキシブルフラットケーブルを三重に巻いて直径50mmの円環状に形成し、円環が押し潰されるように外部から荷重W〔N〕を加えてδ〔mm〕の変形を生じさせた場合の比(W/δ)を反発力係数K〔N/mm〕とした場合、反発力係数Kが0.04〜0.75〔N/mm〕であることを特徴とするフレキシブルフラットケーブル。
【請求項2】
フレキシブルフラットケーブルが、厚さ0.15〜0.6mm、幅3〜50mmであることを特徴とする請求項1記載のフレキシブルフラットケーブル。
【請求項3】
平角導体が、厚さ0.1〜0.2mm、幅1〜3mmであることを特徴とする請求項1又は2記載のフレキシブルフラットケーブル。
【請求項4】
平角導体が、タフピッチ軟銅であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載のフレキシブルフラットケーブル。
【請求項5】
絶縁性樹脂が、変性ポリフェニレンエーテルであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載のフレキシブルフラットケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−277177(P2008−277177A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−120546(P2007−120546)
【出願日】平成19年5月1日(2007.5.1)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】