説明

フレキシブル太陽電池モジュール及び太陽電池保護シート

【課題】保護層と接着封止層との接着性に優れ、高い効率で歩留まりよく製造することができるフレキシブル太陽電池モジュールを提供する。
【解決手段】シラン変性フッ素樹脂を含有する保護層と、シラン化合物を含有する接着封止層と、太陽電池素子とを有するフレキシブル太陽電池モジュール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護層と接着封止層との接着性に優れ、高い効率で歩留まりよく製造することができるフレキシブル太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池として、ガラスを基材とするリジットな太陽電池モジュールと、ポリイミドやポリエステル系の耐熱高分子材料やステンレス薄膜を基材とするフレキシブルな太陽電池モジュールとが知られている。近年、薄型化や軽量化による運搬、施工の容易さや、衝撃に強い点から、フレキシブルな太陽電池モジュールが注目されるようになってきている。
【0003】
このようなフレキシブルな太陽電池モジュールは、フレキシブル基材上に、光が照射されると電流を生じる機能を有するシリコン半導体や化合物半導体等からなる光電変換層等を薄膜状に積層したフレキシブル太陽電池素子の上下面を、接着封止層で封止し、最外層として保護層を備える。
【0004】
太陽電池素子を封止するための接着封止層には、エチレン−酢酸ビニル(EVA)系樹脂を用いることが主流である(例えば、特許文献1)。また、EVA系樹脂を用いる場合には、架橋工程のために、製造時間が長くなったり、酸を発生したりするといった問題があることから、シラン変性オレフィン樹脂等の非EVA系樹脂も検討されている(例えば、特許文献2)。
【0005】
フレキシブル太陽電池モジュールの保護層には、高い耐衝撃性を有し、かつ、軽いという点で、熱可塑性物質がしばしば用いられてきた。なかでも、耐候性、耐放射線性、耐薬品性に優れ、比較的不活性であり、非常に低い表面エネルギーを有するため汚染物が付着しにくいといった点から、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)等のフッ素樹脂が用いられてきた(例えば、特許文献3)。
【0006】
しかし、従来のフレキシブル太陽電池モジュールでは、接着封止層と保護層との接着性が不充分で、長時間環境中に放置したときに保護層が接着封止層から剥離してしまうことがあり、耐久性の点で問題があった。これに対して、接着封止層と保護層との間に、アクリル樹脂や、アクリル樹脂とフッ素樹脂との混合物からなる接着層を設けることにより、層間の接着性を高めることが試みられている(例えば、特許文献4)。しかしながら、このような接着層を用いると、耐候性や耐熱性が顕著に低下してしまうという問題があった。また、上記接着層を設けると、製造工程時、とりわけ量産化に優れた方法として近年注目されているロールツーロール法により太陽電池素子を連続的に封止する工程において、しわやカールが発生しやすくなるという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−297439号公報
【特許文献2】特開2004−214641号公報
【特許文献3】国際公開第2008/019229号パンフレット
【特許文献4】特表2008−531329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、保護層と接着封止層との接着性に優れ、高い効率で歩留まりよく製造することができるフレキシブル太陽電池モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、シラン変性フッ素樹脂を含有する保護層と、シラン化合物を含有する接着封止層と、太陽電池素子とを有することを特徴とするフレキシブル太陽電池モジュールである。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明者らは、シラン変性フッ素樹脂を含有する保護層と、シラン化合物を含有する接着封止層とを組み合わせることにより、層間の接着力を著しく増大できることを見出した。これは、保護層中のシラン変性フッ素樹脂と、接着封止層中のシラン化合物とが加水縮合反応することにより、保護層と接着封止層とが化学的に結合して一体化するためと考えられる。本発明によれば、従来技術のように接着層を設けることなく保護層と接着封止層との接着性を向上できることから、耐候性や耐熱性の低下もなく、また、ロールツーロール法等により太陽電池素子を連続的に封止する場合にでも、しわやカールが発生しにくい。
【0011】
本発明のフレキシブル太陽電池モジュールは、シラン変性フッ素樹脂を含有する保護層と、シラン化合物を含有する接着封止層と、太陽電池素子とを有する。
図1に、保護層1、接着封止層2及び太陽電池素子Cを有する本発明のフレキシブル太陽電池モジュールAの一例の縦断面模式図を示す。
【0012】
本発明のフレキシブル太陽電池モジュールは、シラン変性フッ素樹脂を含有する保護層を有する。上記シラン変性フッ素樹脂は、フッ素樹脂をシラン変性したものである。
上記保護層は、本発明のフレキシブル太陽電池モジュールにおいて最外層となり得る層である。上記保護層は、シラン変性フッ素樹脂からなるため、耐候性や耐汚染性等に優れる。
【0013】
上記フッ素樹脂は、鎖中に重合を開始できるビニル基と、該ビニル基に直接結合した少なくとも一つのフッ素原子と、フルオロアルキル基又はフルオロアルコキシ基とを有する化合物の中から選択される少なくとも1種のフッ素系モノマーを重合してなるものである。
【0014】
上記フッ素系モノマーは、例えば、フッ化ビニルや、フッ化ビニリデン(VDF、式CH=CF)や、トリフルオロエチレン(VF)や、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)や、1,2−ジフルオロエチレンや、テトラフルオロエチレン(TFE)や、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)や、ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)、ペルフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)等のペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)や、ペルフルオロ(1,3−ジオキソール)や、ペルフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)(PDD)や、式CF=CFOCFCF(CF)OCFCFX(ここでXは、SOF、COH、CHOH、CHOCN又はCHOPOH)で表される化合物や、式CF=CFOCFCFSOF)で表される化合物や、式F(CF)nCHOCF=CF(ここでnは1、2、3、4または5)で表される化合物や、式RCHOCF=CF(ここでRは水素又はF(CF)zで、zは1、2、3又は4)で表される化合物や、式ROCF=CH(ここでRはF(CF)z−で、zは1、2、3又は4)で表される化合物や、ペルフルオロブチルエチレン(PFBE)や、3,3,3−トリフルオロプロペンや、2−トリフルオロメチル−3,3,3−トリフルオロ−1−プロペン等が挙げられる。
【0015】
上記フッ素樹脂は、上記フッ素系モノマーの中から選択される少なくとも1種を重合してなるホモポリマー又はコポリマーである。
また、上記フッ素樹脂は、エチレン等の非フッ素系モノマーを構成成分として含んでいてもよい。
【0016】
なかでも、上記フッ素樹脂は下記の中から選択されることが好ましい。
1)フッ化ビニリデン(VDF)のホモポリマー又はコポリマー
2)トリフルオロエチレン(VF)のホモポリマー、又は、コポリマー
3)クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)及び/又はエチレン(必要に応じてVDF及び/又はVFを更に含むことができる)の残基を結合したコポリマー、特にターポリマー
【0017】
なかでも、上記フッ素樹脂は、フッ化ビニリデンのホモポリマー又はコポリマー(以下、これらを総称して「ポリフッ化ビニリデン(PVDF)」ともいう。)が好適である。
上記PVDFがコポリマーである場合、VDFと共重合するフッ素系モノマーとしては、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、トリフルオロエチレン(VF)及びテトラフルオロエチレン(TFE)が好適である。なかでもHFP及び/又はCTFEが特に好ましい。
上記PVDFがコポリマーである場合、VDFに由来する成分を50重量%以上含有することが好ましく、75重量%以上含有することがより好ましく、85重量%以上含有することが更に好ましい。
【0018】
上記PVDFは、粘度が100Pa・s〜2000Pa・sの範囲であることが好ましい。粘度が上記範囲内であると、保護層を形成する際の押出成形や射出成形に適する。
上記粘度は、300Pa・s〜1200Pa・sの範囲であることがより好ましい。
上記粘度は、細管レオメターを用いて、100s−1の剪断速度で、230℃で測定した値である。
【0019】
上記PVDFは、市販品を用いてもよい。本発明において使用可能な上記PVDFの市販品は、例えば、カイナー(Kynar、登録商標)710、720、740、760、460(アルケマ社製)や、カイナーフレックス(Kynarflex、登録商標)2802、2800、2850、3120、2500、2750(アルケマ社製)等が挙げられる。
【0020】
上記フッ素樹脂をシラン変性する方法は特に限定されず、例えば、上記フッ素樹脂と重合性官能基を有するシラン化合物とを反応させる方法や、上記フッ素系モノマーを重合してフッ素樹脂を製造する際に、モノマー成分として重合性官能基を有するシラン化合物を共重合させる方法等が挙げられる。なかでも、上記フッ素樹脂と重合性官能基を有するシラン化合物とを反応させる方法が好適である。
【0021】
上記重合性官能基を有するシラン化合物の重合性官能基としては、ビニル基が好ましい。
上記ビニル基を有するシラン化合物は、例えば、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、ビニルトリn−プロポキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルジメトキシエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、アリルトリエトキシシラン、トリフェノキシビニルシラン、ジエトキシ−2−ピペリジノエトキシビニルシラン、ジメトキシフェノキシビニルシラン、ビニルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、ジエトキシメチルビニルシラン、3−メタクリロキシプロピルジメトキシメチルシラン、エトキシジメチルビニルシラン、ジメチルイソブトキシビニルシラン、ジメチルフルフリロキシビニルシラン、ジメチルイソペンチロキシビニルシランジフェニルエトキシビニルシラン、m−スチリルトリメトキシシランが挙げられる。これら重合性官能基を有するシラン化合物は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
上記フッ素樹脂と重合性官能基を有するシラン化合物とを反応させる方法は、具体的には例えば、フッ素樹脂と重合性官能基を有するシラン化合物とを、ラジカル発生剤の存在下、反応押出機中で溶融混練する方法(反応押出法)や、フッ素樹脂と重合性官能基を有するシラン化合物とを押出機等を用いて溶融混練した後、電子線(一般にβ照射と呼ばれる)や光子線(一般にγ照射と呼ばれる)等の電離性放射線を照射する方法(電離性放射線照射法)等が挙げられる。
【0023】
上記ラジカル発生剤は、例えば、ラウロイルパーオキシド、ジプロピオニルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルヒドロパーオキシド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、p−メンタンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン−3、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシヘキサン)等の有機過酸化物や、分子状酸素や、アゾビスイソブチロニトリル、アゾイソブチルバレロニトリル等のアゾ化合物等が挙げられる。これらのラジカル発生剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
上記電離性放射線照射法における線量は、通常2〜6Mrad、好ましくは3〜5Mradである。
【0025】
上記シラン変性フッ素樹脂は、シラングラフト量の好ましい下限が0.05重量%、好ましい上限が10重量%である。上記シラングラフト量が0.05重量%未満であると、上記保護層の接着樹脂層に対する接着力が低下するおそれがある。上記シラングラフト量が10重量%を超えると、保護層の耐候性が低下するおそれがある。上記シラングラフト量のより好ましい下限は0.1重量%、より好ましい上限は5重量%である。
なお、上記シラングラフト量は、上記シラン変性フッ素樹脂を灰化分析する方法により測定することができる。
【0026】
上記保護層を形成する方法は、例えば、溶融押出し法やコーティング法等の従来公知の方法が挙げられる。なかでも、溶融押出し法は、上記フッ素樹脂と、重合性官能基を有するシラン化合物と、必要に応じて添加される添加剤とを反応押出機に供給して溶融、混練し、押出機からシート状に押出すことにより、保護層の形成とフッ素樹脂のシラン変性とを同時に行うことができることから好適である。
【0027】
上記保護層の厚さは、好ましい下限が5μm、好ましい上限が200μmである。上記保護層を溶融押出し法により形成する場合には、上記保護層の厚さのより好ましい下限は15μm、より好ましい上限は80μmであり、コーティング層により形成する場合には、上記保護層の厚さのより好ましい上限は25μmである。
【0028】
本発明のフレキシブル太陽電池モジュールは、シラン化合物を含有する接着封止層を有する。上記接着封止層は、太陽電池素子を封止するための層である。
上記接着封止層がシラン化合物を含有することにより、上記保護層との接着性が著しく向上する。
【0029】
上記シラン化合物を含有する接着封止層は、シラン化合物ではない接着性樹脂(以下、単に「接着性樹脂」ともいう。)にシラン化合物を配合したものでもよいし、接着性樹脂自体がシラン化合物(以下、「接着性シラン化合物」ともいう。)であってもよい。
上記接着性樹脂は、例えば、無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体等の熱可塑性樹脂が好適である。これらの熱可塑性樹脂を用いることにより、ロールツーロール法によるフレキシブル太陽電池モジュールの製造に好適に供することができる。なかでも、ロールツーロール法によるフレキシブル太陽電池モジュールの製造に供したときに、特にしわやカールが発生しにくい点で、無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂が好適である。
上記接着性シラン化合物は、例えば、シラン変性ポリエチレン等が挙げられる。
【0030】
上記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂は、無水マレイン酸でグラフト変性したオレフィン系樹脂、エチレンないしプロピレンとアクリル酸又はメタクリル酸との共重合体、金属架橋ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。なかでも、上記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂は、無水マレイン酸でグラフト変性したオレフィン系樹脂が好ましい。
【0031】
上記オレフィン系樹脂は、単一のモノマーからなるホモポリマーであっても、2以上の種類のモノマーからなる共重合体であってもよい。
上記ホモポリマーとしては、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等が挙げられる。
上記共重合体としては、具体的には、エチレン−αオレフィン共重合体、ポリプロピレン−αオレフィン共重合体等が挙げられる。
上記オレフィン系樹脂としては、中でも、熱融着の観点からα−オレフィンとエチレンとの共重合体である、α−オレフィン−エチレン共重合体が好ましい。
【0032】
上記α−オレフィン−エチレン共重合体は、α−オレフィンとエチレンとからなる共重合体であることが好ましい。
上記α−オレフィンは、樹脂の非晶性向上による低融点化、柔軟化のため、炭素数が3〜10であることが好ましく、炭素数が4〜8であることがより好ましい。
上記α−オレフィンとしては、具体的には、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン等が挙げられ、なかでも、上記α−オレフィンとしては、1−ブテン、1−オクテンが好ましい。
すなわち、上記α−オレフィン−エチレン共重合体としては、ブテン−エチレン共重合体、オクテン−エチレン共重合体が好ましい。
【0033】
上記オレフィン系樹脂を無水マレイン酸でグラフト変性する方法としては、公知の方法が用いられ、例えば、上記オレフィン系樹脂と無水マレイン酸とラジカル重合開始剤とを含有した組成物を、押出機に供給して溶融混練してオレフィン系樹脂に無水マレイン酸をグラフト重合させる溶融変性法や、上記オレフィン系樹脂を溶媒に溶解させて溶解液を作製し、この溶解液に無水マレイン酸及びラジカル重合開始剤を添加してオレフィン系樹脂に無水マレイン酸をグラフト重合させる溶液変性法等が挙げられる。なかでも、機上混合できる点で、上記溶融変性法が生産上好ましい。
【0034】
上記グラフト変性する方法において使用するラジカル重合開始剤としては、従来からラジカル重合に用いられているものであれば、特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、クミルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシオクトエート、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。
【0035】
上記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂は、必要に応じてブテン成分、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体、非晶質のエチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体等を5重量%以上含有していることが好ましい。
【0036】
上記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂は、無水マレイン酸の総含有量が0.005〜3重量%であることが好ましい。
上記無水マレイン酸の総含有量が0.005重量%未満であると、上記接着封止層の太陽電池素子に対する接着性が低下するおそれがある。上記無水マレイン酸の総含有量が3重量%を超えると、無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂が架橋して、上記接着封止層の接着性が低下したり、押出成形性が低下したりするおそれがある。
上記無水マレイン酸の総含有量は、下限が0.05重量%であることがより好ましく、0.1重量%であることが更に好ましく、上限が1.5重量%であることがより好ましく、1.0重量%であることが更に好ましい。
なお、上記無水マレイン酸の総含有量は、上記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂を用いて試験フィルムを作製し、上記試験フィルムの赤外吸収スペクトルを測定して、1790cm−1付近の吸収強度から算出することができる。具体的には、上記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂中における無水マレイン酸の総含有量は、例えば、FT−IR(フーリエ変換赤外分光装置 Nicolet 6700 FT−IR)を用いて、高分子分析ハンドブック(日本分析化学会編、朝倉書店発行、2008年)等に記載された既知の測定方法で測定することができる。
【0037】
上記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂は、示差走査熱量分析により測定した吸熱曲線の最大ピーク温度(Tm)が80〜125℃であることが好ましい。
上記吸熱曲線の最大ピーク温度(Tm)が80℃より低いと、上記接着封止層の耐熱性が低下するおそれがある。上記吸熱曲線の最大ピーク温度(Tm)が125℃より高いと、封止工程において、上記接着封止層の加熱時間が長くなり、フレキシブル太陽電池モジュールの生産性が低下したり、又は、太陽電池素子の封止が不充分となったりするおそれがある。
上記吸熱曲線の最大ピーク温度(Tm)は、83〜110℃であることがより好ましい。
なお、上記示差走査熱量分析により測定した吸熱曲線の最大ピーク温度(Tm)は、JIS K7121に規定されている測定方法に準拠して測定することができる。
【0038】
上記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂は、メルトフローレイト(MFR)が0.5g/10分〜29g/10分であることが好ましい。上記メルトフローレイトが0.5g/10分未満であると、接着封止層の押出成形性が低下するおそれがある。29g/10分を超えると、上記接着封止層の押出成形性が低下して、該接着封止層の厚み精度が低下するおそれがある。
上記メルトフローレイトは、2g/10分〜10g/10分であることがより好ましい。
なお、上記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂のメルトフローレイトは、ポリエチレン系樹脂のメルトフローレイトの測定方法であるASTM D1238に準拠して荷重2.16kg荷重にて測定された値をいう。
【0039】
上記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂は、30℃での粘弾性貯蔵弾性率が2×10Pa以下であることが好ましい。上記30℃での粘弾性貯蔵弾性率が2×10Paを超えると、上記接着封止層の柔軟性が低下して取扱性が低下したり、太陽電池素子を上記接着封止層によって封止して太陽電池モジュールを製造する際に、上記接着封止層を急激に加熱する必要が生じたりするおそれがある。上記30℃での粘弾性貯蔵弾性率は、低すぎると、上記接着封止層が室温にて接着性を発現して上記接着封止層の取扱性が低下することがあるため、下限は1×10Paであることが好ましい。また、上限は1.5×10Paがより好ましい。
【0040】
また、上記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂は、100℃での粘弾性貯蔵弾性率が5×10Pa以下であることが好ましい。上記100℃での粘弾性貯蔵弾性率が5×10Paを超えると、上記接着封止層の太陽電池素子に対する接着性が低下するおそれがある。
上記100℃での粘弾性貯蔵弾性率は、低すぎると、上記接着封止層によって太陽電池素子を封止して太陽電池モジュールを製造する際に、上記接着封止層が押圧力によって大きく流動して、上記接着封止層の厚みの不均一化が大きくなるおそれがあるため、下限は1×10Paであることが好ましい。また、上限は4×10Paがより好ましい。
なお、上記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂の粘弾性貯蔵弾性率は、JIS K6394に準拠した動的性質試験方法によって測定された値をいう。
【0041】
上記シラン化合物を含有する接着封止層が上記接着性樹脂にシラン化合物を配合したものである場合、これに用いるシラン化合物は、従来公知のシランカップリング剤等を用いることができる。
なかでも、エポキシシラン化合物を用いた場合には、上記保護層との接着性が向上するとともに、太陽電池素子に対する接着性も向上することから特に好適である。
【0042】
上記エポキシシラン化合物は、エポキシ基を有する化合物であり、脂肪族エポキシ基、脂環式エポキシ基等のエポキシ基を分子中に少なくとも1個有していればよい。上記エポキシシラン化合物は、下記一般式(I)で示されるエポキシシラン化合物であることが好ましい。
【0043】
【化1】

【0044】
一般式(I)中、Rは、3−グリシドキシプロピル基(下記式(II)で示される基)又は2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基(下記式(III)で示される基)を示し、Rは、炭素数が1〜3であるアルキル基を示し、Rは、炭素数が1〜3であるアルキル基を示し、且つ、nは0又は1である。
【0045】
【化2】

【0046】
【化3】

【0047】
上記Rは、炭素数が1〜3であるアルキル基であれば特に限定されず、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基が挙げられ、メチル基及びエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
上記Rは、炭素数が1〜3であるアルキル基であれば特に限定されず、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基が挙げられ、メチル基が好ましい。
上記nは、0であることが好ましい。
【0048】
上記一般式(I)で示されるシラン化合物としては、例えば、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリプロポキシシラン等が挙げられる。なかでも、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、及び、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランが好適である。
【0049】
上記シラン化合物を含有する接着封止層が上記接着性樹脂にシラン化合物を配合したものである場合、上記接着封止層中の上記シラン化合物の含有量は、上記接着性樹脂100重量部に対して好ましい下限が0.05重量部、好ましい上限が5重量部である。上記シラン化合物の含有量が上述の範囲外であると、接着封止層と保護層との接着性が充分に向上しないおそれがある。上記シラン化合物の含有量のより好ましい下限は0.1重量部、より好ましい上限は1.5重量部である。
なお、上記シラン化合物を含有する接着封止層が接着性シラン化合物を含有する場合には、別にシラン化合物を配合する必要はないが、配合してもかまわない。
【0050】
上記接着封止層は、その物性を損なわない範囲内において、他の添加剤を更に含有していてもよい。上記他の添加剤としては、例えば、UV安定剤、可塑剤、充填剤、着色剤、顔料、抗酸化剤、帯電防止剤、界面活性剤、調色液、屈折率マッチング用添加剤及び分散助剤等が挙げられる。
【0051】
上記接着封止層の厚みの好ましい下限は80μm、好ましい上限は700μmである。上記接着封止層の厚みが80μm未満であると、フレキシブル太陽電池モジュールの絶縁性を保持できないおそれがあり、700μmを超えると、フレキシブル太陽電池モジュールの難燃性に悪影響を及ぼしたり、フレキシブル太陽電池モジュールの重量が重くなったりするおそれがある。上記接着封止層の厚みのより好ましい下限は150μm、より好ましい上限は400μmである。
【0052】
上記接着封止層を形成する方法としては、例えば、上記接着性樹脂と、上記シラン化合物と、必要に応じて添加される添加剤とを所定の重量割合にて押出機に供給して溶融、混練し、押出機からシート状に押出して接着封止層を形成する方法等が挙げられる。
【0053】
上記保護層と接着封止層とは、これらを組み合わせて太陽電池保護シートとすることができる。シラン変性フッ素樹脂を含有する保護層と、接着性樹脂とシラン化合物とを含有する接着封止層とが積層されている太陽電池保護シートもまた、本発明の1つである。
【0054】
図2に、保護層1と接着封止層2とからなる太陽電池保護シートBの一例の縦断面模式図を示す。
上記太陽電池保護シートは、上記保護層と接着封止層とを積層一体化することにより製造することができる。上記積層一体化する方法としては、特に限定されず、例えば、予め形成した上記接着封止層の一面に、押出ラミネートにより上記保護層を形成する方法や、上記接着封止層と上記保護層とを共押出により形成する方法等が挙げられる。
なかでも、本発明の太陽電池保護シートは、上記保護層と上記接着封止層との間の特に良好な結合を形成し得る点で、共押出により形成されることが好ましい。
上記共押出の工程における、押出設定温度は、上記シラン変性フッ素樹脂及び上記接着性樹脂の融点より30℃以上、かつ、分解温度より30℃未満であることが好ましい。
【0055】
本発明の太陽電池保護シートは、表面にエンボス形状を有していることが好ましい。特にフレキシブル太陽電池モジュールに適用した際に受光面側となる表面(保護層面)に、エンボス形状を有していることが好ましい。
上記エンボス形状を有することにより、太陽光の反射ロスを低減したり、ギラツキを防止したり、外観を向上させたりすることができる。
上記エンボス形状は、規則的な凹凸形状であっても、ランダムな凹凸形状であってもよい。
上記エンボス形状は、太陽電池素子に貼り合せる前にエンボス賦型しても、フレキシブル太陽電池素子に貼り合せた後でエンボス賦型しても、又は、太陽電池素子と貼り合せる工程で同時に賦型してもよい。
なかでも、太陽電池素子に貼り合せる前にエンボス賦型して形成するのが、エンボスの転写ムラが無く、均一なエンボス形状が得られるので好ましい。
特に、上述の接着封止層と保護層とを、共押出工程により同時に製膜加工し、冷却ロールにエンボスロールを用いて、溶融樹脂を冷却する際に同時にエンボス賦型したものは、太陽電池素子に貼り合わせる工程でエンボス形状が変形することなく、均一なエンボス形状が保てるので、より好ましい。
【0056】
本発明のフレキシブル太陽電池モジュールは、太陽電池素子を有する。
上記太陽電池素子は、一般に、受光することで電子が発生する光電変換層、発生した電子を取り出す電極層、及び、フレキシブル基材から構成される。
図3に、フレキシブル基材4上に光電変換層3が配置された太陽電池素子Cの一例の縦断面模式図を示す。なお、電極層は、種々の配置が可能なためここでは省略する。
【0057】
上記フレキシブル基材としては、可撓性があり、フレキシブル太陽電池素子に使用することができるものであれば、特に限定されず、例えば、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン等の耐熱性樹脂からなる基材を挙げることができる。
上記フレキシブル基材の厚みの好ましい下限は10μm、好ましい上限は80μmである。
【0058】
上記光電変換層としては、例えば、単結晶シリコン、単結晶ゲルマニウム、多結晶シリコン、微結晶シリコン等の結晶系半導体、アモルファスシリコン等のアモルファス系半導体、GaAs、InP、AlGaAs、Cds、CdTe、CuS、CuInSe、CuInS等の化合物半導体、フタロシアニン、ポリアセチレン等の有機半導体等から形成されたものを挙げることができる。
上記光電変換層は、単層又は複層であってもよい。
上記光電変換層の厚みの好ましい下限は0.5μm、好ましい上限は10μmである。
【0059】
上記電極層は、電極材料からなる層である。
上記電極層は、必要に応じて、上記光電変換層上にあってもよいし、上記光電変換層とフレキシブル基材との間にあってもよいし、上記フレキシブル基材面上にあってもよい。
また、上記太陽電池素子は、上記電極層を複数有していてもよい。
受光面側(表面)の電極層は、透明である必要があるため、上記電極材料としては、金属酸化物等の一般的な透明電極材料であることが好ましい。上記透明電極材料としては、特に限定されないが、ITO又はZnO等が好適に使用される。
透明電極を使用しない場合は、バス電極やそれに付属するフィンガー電極を銀などの金属でパターニングされたものでもよい。
背面側(裏面)の電極層は、透明である必要はないため、一般的な電極材料によって構成されて構わないが、上記電極材料としては、銀が好適に用いられる。
【0060】
上記太陽電池素子を製造する方法としては特に限定されず、例えば、上記フレキシブル基材上に上記光電変換層や電極層を配置する等の公知の方法により製造することができる。
上記太陽電池素子は、ロール状に巻回された長尺状であってもよいし、矩形状のシート状であってもよい。
【0061】
本発明のフレキシブル太陽電池モジュールは、図1に示すように、太陽電池素子Cの光電変換層3側面に、接着封止層2及び保護層1を有するものであるが、更に、上記太陽電池素子のフレキシブル基材側面にも、上記接着封止層及び上記保護層を有していてもよい。上記太陽電池素子のフレキシブル基材側面に、上記接着封止層及び上記保護層を有することにより、太陽電池素子がより良好に封止され、長期間にわたって安定的に発電し得る太陽電池モジュールとすることができる。
【0062】
上記太陽電池素子の光電変換層側面及びフレキシブル基材側面に、上記接着封止層及び上記保護層を有する場合の、本発明のフレキシブル太陽電池モジュールの一例の縦断面模式図を図4に示す。
図4は、順に、保護層1、接着封止層2、光電変換層3、フレキシブル基材4、接着封止層2及び保護層1からなる本発明のフレキシブル太陽電池モジュールFの縦断面模式図を示す。
【0063】
本発明のフレキシブル太陽電池モジュールを製造する方法としては、上記太陽電池素子の少なくとも受光面上に、上記接着封止層と保護層とからなる上記太陽電池保護シートを、一対の熱ロールを用いて狭窄し、熱圧着する方法が挙げられる。
上記太陽電池素子の受光面とは、光を受けることができる面であって、上記太陽電池素子の光電変換層が配置された面をいう。
上記フレキシブル太陽電池モジュールを製造する方法では、上記太陽電池素子の光電変換層が配置された面と、上記太陽電池保護シートの接着封止層側面とが対向した状態で、上記太陽電池素子と上記太陽電池保護シートを積層し、これらを一対の熱ロールを用いて狭窄し、熱圧着する方法が好ましい。
【0064】
上記一対の熱ロールを用いて狭窄する際の、上記熱ロールの温度の好ましい下限は70℃、好ましい上限は160℃である。上記熱ロールの温度が70℃未満であると、接着不良を起こすおそれがある。上記熱ロールの温度が160℃を超えると、熱圧着時にしわを発生しやすくなる。上記熱ロールの温度のより好ましい下限は80℃、より好ましい上限は110℃である。
【0065】
上記熱ロールの回転速度の好ましい下限は0.1m/分、好ましい上限は10m/分である。上記熱ロールの回転速度が0.1m/分未満であると、熱圧着後しわが発生しやすくなるおそれがある。上記熱ロールの回転速度が10m/分を超えると、接着不良が起こるおそれがある。上記熱ロールの回転速度のより好ましい下限は0.3m/分、より好ましい上限は5m/分である。
【0066】
本発明のフレキシブル太陽電池モジュールを製造する方法の一例について、図5を用いて、具体的に説明する。
図5に示すように、まず、上記保護層と上記接着封止層からなり、ロール状に巻回された長尺状の太陽電池保護シートBと、太陽電池素子Cとを用意する。そして、太陽電池保護シートB及び太陽電池素子Cのロールを巻き出し、太陽電池素子Cの光電変換層の受光面と、太陽電池保護シートBの接着封止層面とを対向させた状態に配置し、両者を積層させて積層シートDとする。
次いで、積層シートDを、所定の温度に加熱された一対のロールE、E間に供給し、積層シートDをその厚み方向に押圧しながら加熱して熱圧着し、太陽電池素子C及び太陽電池保護シートBを接着一体化する。これにより、光電変換層が接着封止層によって封止され、フレキシブル太陽電池モジュールAを得ることができる。
【0067】
また、上記フレキシブル基材側面を封止する方法としては、例えば、上述と同様にして、上記太陽電池のフレキシブル基材側面に、本発明の太陽電池保護シートを、接着封止層がフレキシブル基材と対向するように配置し、これらを一対の熱ロールを用いて狭窄することにより熱圧着する方法が挙げられる。
上記太陽電池のフレキシブル基材側面に太陽電池保護シートを熱圧着する工程は、上述した太陽電池素子の受光面上に、上記太陽電池保護シートを熱圧着する工程の前に行ってもよいし、同時に行ってもよく、又は、後に行ってもよい。
【0068】
本発明の太陽電池保護シートを使用して、例えば、太陽電池素子の光電変換層側面とフレキシブル基材側面とを同時に封止して、本発明のフレキシブル太陽電池モジュールを製造する方法の一例について、図6を用いて説明する。
具体的には、ロール状に巻回されている長尺状の太陽電池素子Cを用意する一方、ロール状に巻回されている長尺状の太陽電池保護シートを二つ用意する。そして、図6に示すように、長尺状の太陽電池保護シートB、Bをそれぞれ巻き出すと共に、長尺状の太陽電池素子Cを巻き出し、二つの太陽電池保護シートの接着封止層が互いに対向した状態にして、太陽電池保護シートB、B同士を太陽電池素子Cを介して重ね合わせ、積層シートDとする。そして、積層シートDを所定の温度に加熱された一対のロールE、E間に供給して、積層シートDをその厚み方向に押圧しながら加熱することによって、太陽電池保護シートB、B同士を接着一体化させて、太陽電池保護シートB、Bによって太陽電池素子Cを封止してフレキシブル太陽電池モジュールFを連続的に製造する。
上記フレキシブル太陽電池モジュールの製造において、上記太陽電池保護シートB、B同士を太陽電池素子Cを介して重ね合わせて積層シートDを形成すると同時に、積層シートDをその厚み方向に押圧しながら加熱してもよい。
【0069】
また、太陽電池素子Cとして矩形状のシート状のものを用いた場合の、本発明のフレキシブル太陽電池モジュールの製造要領の一例を図7に示す。
具体的には、ロール状に巻回されている長尺状の太陽電池素子Cの代わりに、所定の大きさの矩形状のシート状の太陽電池素子Cを用意する。そして、図7に示すように、ロール状に巻回されている長尺状の太陽電池保護シートB、Bをそれぞれ巻き出し、それぞれの接着封止層を対向させた状態にした太陽電池保護シートB、B間に、太陽電池素子Cを所定時間間隔毎に供給し、太陽電池保護シートB、B同士を太陽電池素子Cを介して重ね合わせ、積層シートDとする。そして、積層シートDを所定の温度に加熱された一対のロールE、E間に供給して、積層シートDをその厚み方向に押圧しながら加熱することによって、太陽電池保護シートB、B同士を接着一体化させて、太陽電池保護シートB、Bによって太陽電池素子Cを封止してフレキシブル太陽電池モジュールFを連続的に製造する。
上記フレキシブル太陽電池モジュールの製造において、積層シートDの形成と同時に、積層シートDをその厚み方向に押圧しながら加熱してもよい。
本発明のフレキシブル太陽電池モジュールは、このようなロールツーロール法を適用して好適に製造することができる。
【0070】
本発明のフレキシブル太陽電池モジュールを製造する方法としてはまた、例えば、所望形状に切断した本発明の太陽電池保護シートと太陽電池素子とを用意し、該太陽電池保護シートの接着封止層と、該太陽電池素子の光電変換層側面、若しくは、両面とを対向させた状態で、上記太陽電池保護シートと上記太陽電池素子とを積層し、得られた積層体を、静止状態で、減圧下で、その厚み方向に押圧力を加えながら加熱して、上記太陽電池素子を上記太陽電池保護シートで封止する方法であってもよい。
上記積層体を、減圧下で、その厚み方向に押圧力を加えながら加熱する工程は、真空ラミネーター等の従来公知の装置を用いて行うことができる。
【0071】
本発明のフレキシブル太陽電池モジュールは、シラン変性フッ素樹脂を含有する保護層と、接着性樹脂とシラン化合物とを含有する接着封止層とを有することにより、透明性や耐候性を低下させることなく、上記保護層と接着封止層との接着性に優れ、かつ、高い効率で製造することができる。
【発明の効果】
【0072】
本発明によれば、保護層と接着封止層との接着性に優れ、高い効率で歩留まりよく製造することができるフレキシブル太陽電池モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明のフレキシブル太陽電池モジュールの一例を示した縦断面模式図である。
【図2】太陽電池保護シートの一例を示した縦断面模式図である。
【図3】太陽電池素子の一例を示した縦断面模式図である。
【図4】本発明のフレキシブル太陽電池モジュールの一例を示した縦断面模式図である。
【図5】本発明のフレキシブル太陽電池モジュールの製造要領の一例を示した模式図である。
【図6】本発明のフレキシブル太陽電池モジュールの製造要領の一例を示した模式図である。
【図7】本発明のフレキシブル太陽電池モジュールの製造要領の一例を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0074】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0075】
(実施例1〜12)
(1)シラン変性フッ素樹脂の調製
(1−1)反応押出法によるシラン変性フッ素樹脂の調製(実施例1〜6、9〜12)
実施例1においては、フッ素樹脂としてポリフッ化ビニリデン(PVDF、アルケマ社製、カイナー720)100重量部に対して、重合性官能基を有するシラン化合物としてビニルトリメトキシシラン3重量部と、ラジカル発生剤としてジクミルパーオキサイド0.1重量部とを加えて混合物を得た。次いで、得られた混合物を、二軸スクリュー押出機を用いて、200℃、180回転/分、押出量12kg/時の条件で3分間溶融混練した。
得られた塊状の混練物を空冷した後、切断してシラン変性フッ素樹脂のペレットを得た。
得られたシラン変性フッ素樹脂について、灰化分析方法によりグラフト量を測定したところ、1.9%であった。
【0076】
ビニルトリメトキシシランの配合量等を表1に示したようにした以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜6、9〜12のシラン変性フッ素樹脂を調製した。なお、実施例10においては、フッ素樹脂としてポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレとの共重合体(PVDF−HFP共重合体)を用いた。
【0077】
(1−2)電離性放射線照射法によるシラン変性フッ素樹脂の調製(実施例7、8)
実施例7においては、フッ素樹脂としてポリフッ化ビニリデン(PVDF、アルケマ社製、カイナー720)100重量部に対して、重合性官能基を有するシラン化合物としてビニルトリメトキシシラン1重量部を加えて混合物を得た。得られた混合物を、二軸スクリュー押出機を用いて、200℃、150回転/分、押出量12kg/時の条件で3分間溶融混練した。混練された生成物をアルミニウムの袋に入れ、密封した。次に、袋に3Mradの放射線を照射した。最後に、シランがグラフトしたPVDF(シラン変性PVDF)を140℃で減圧下に一晩放置して残留ビニルトリメトキシシランと照射中に遊離したフッ化水素酸とを除去した。
得られたシラン変性フッ素樹脂について、灰化分析方法によりグラフト量を測定した。
【0078】
【表1】

【0079】
(2)太陽電池保護シートの製造
表2、3に示した、所定のオレフィン系樹脂を無水マレイン酸にてグラフト変性してなる変性オレフィン系樹脂100重量部に対して、シラン化合物として3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン又は2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン0.05〜5重量部を加えた接着封止層用組成物を第一押出機に供給して250℃にて溶融混練した。
一方で、上記の方法で調製したシラン変性フッ素樹脂を第二押出機に供給して、表2、3に記載の押出設定温度にて溶融混練した。
そして、上記第一押出機と上記第二押出機とを共に接続させている合流ダイに、上記接着封止層用組成物及び上記保護層用組成物を供給して合流させ、合流ダイに接続させているTダイからシート状に押出して、変性オレフィン系樹脂とシラン化合物とを含有する厚みが0.3mmの接着封止層と、シラン変性フッ素樹脂からなる厚みが0.03mmの保護層とを積層一体化した、長尺状の一定幅を有する太陽電池保護シートを得た。
なお、使用した変性オレフィン系樹脂のメルトフローレイト(MFR)、示差走査熱量分析により測定した吸熱曲線の最大ピーク温度(Tm)を表2、3に示した。また、変性オレフィン系樹脂中における無水マレイン酸の総含有量を表2、3に示した。
【0080】
(3)フレキシブル太陽電池モジュールの製造
得られた太陽電池保護シートを用いて、以下の要領でフレキシブル太陽電池モジュールを作製した。
【0081】
(3−1)真空ラミネート法によるフレキシブル太陽電池モジュールの製造
先ず、可撓性を有するポリイミドフィルムからなるフレキシブル基材上に、薄膜状のアモルファスシリコンからなる光電変換層が形成された太陽電池素子と、上記で得られた太陽電池保護シートとを、所定の形状に切断したものを用意した。
次に、太陽電池封止シートの接着封止層と、太陽電池素子の光電変換層側面とを対向させた状態で、太陽電池封止シートと太陽電池素子とを積層した。得られた積層体を、真空ラミネーターを用いて、1000Pa以下の減圧雰囲気下、表2及び3に記載の条件にて厚み方向に押圧力を加えながら加熱して、太陽電池素子を太陽電池封止シートで封止した。
【0082】
(3−2)ロールツーロール法によるフレキシブル太陽電池モジュールの製造
先ず、可撓性を有するポリイミドフィルムからなるフレキシブル基材上に、薄膜状のアモルファスシリコンからなる光電変換層が形成されてなり、且つ、ロール状に巻回されてなる太陽電池素子と、上記で得られた太陽電池保護シートがロール状に巻回された太陽電池保護シートとを用意した。
次に、図5に示すように、太陽電池素子C及び太陽電池保護シートBを巻き出し、太陽電池素子Cの光電変換層上に太陽電池保護シートBを、その接着封止層が上記光電変換層に対向した状態となるように積層させて積層シートDとした。そして、積層シートDを表2及び3に記載の温度に加熱された一対のロールE、E間に供給して、積層シートDをその厚み方向に押圧しながら積層シートDを加熱し、太陽電池保護シートBを太陽電池素子Cに接着一体化させることにより光電変換層を封止してフレキシブル太陽電池モジュールAを連続的に製造し、図示しない巻取り軸に巻き取った。
【0083】
(比較例1〜4)
シラン変性フッ素樹脂に代えて、ポリフッ化ビニリデン(PVDF、アルケマ社製、カイナー720)を第二押出機に供給した。一方、表3に示した配合の接着封止層用組成物を第一押出機に供給した。これ以外は、実施例と同様の方法で、フレキシブル太陽電池モジュールを得た。
【0084】
(評価)
得られたフレキシブル太陽電池モジュールについて、しわの発生状況、カールの発生状況、剥離強度、層間剥離強度、及び、高温高湿耐久性を下記の要領で測定し、その結果を表2、3に示した。
【0085】
(1)しわの発生
得られたフレキシブル太陽電池モジュールのしわの発生状況を目視で判断し、以下の評点で点数付けした。4点以上が合格である。
5点:しわ発生が全く見られない。
4点:0.5mm以内のしわが1個/m発見される。
3点:0.5mm以内のしわが2〜4個/m発見される。
2点:0.5mm以内のしわが5個/m以上発見される。
1点:0.5mm以上の大きなしわが発見される。
【0086】
(2)カールの発生
500mm×500mmサイズの上記フレキシブル太陽電池モジュールを、平坦な平面上におき、端部の水平面からの浮き上がり高さを測定した。
◎:20mm未満
○:20mm以上25mm未満
△:25mm以上35mm未満
×:35mm以上
【0087】
(3)剥離強度
得られたフレキシブル太陽電池モジュールにおいて、太陽電池素子から太陽電池保護シートを剥離した際の剥離強度をJIS K6854に準拠して測定した。
【0088】
(4)層間剥離強度
得られたフレキシブル太陽電池モジュールにおいて、保護層と接着封止層とを剥離した際の剥離強度をJIS K6854に準拠して測定した。
【0089】
(5)高温高湿耐久性
得られたフレキシブル太陽電池モジュールを、JIC C8991に記載された85℃、相対湿度85%の環境下にて放置し、太陽電池保護シートの太陽電池素子からの剥離を、上記放置を開始してから500時間毎に観察し、剥離が確認された時間を測定した。
太陽電池モジュールの認証条件を定めたJIC C8991では、発電効率で1000時間以上の耐久性を求めており、1000時間未満で剥離が確認された物は接着性が不足していると判断する。
【0090】
【表2】

【0091】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明によれば、保護層と接着封止層との接着性に優れ、高い効率で歩留まりよく製造することができるフレキシブル太陽電池モジュールを提供することができる。
【符号の説明】
【0093】
A、F フレキシブル太陽電池モジュール
B 太陽電池保護シート
C 太陽電池素子
D 積層シート
E ロール
1 保護層
2 接着封止層
3 光電変換層
4 フレキシブル基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シラン変性フッ素樹脂を含有する保護層と、シラン化合物を含有する接着封止層と、太陽電池素子とを有することを特徴とするフレキシブル太陽電池モジュール。
【請求項2】
シラン変性フッ素樹脂は、フッ素樹脂と重合性官能基を有するシラン化合物とを、ラジカル発生剤の存在下、反応押出機中で溶融混練する方法により製造したものであることを特徴とする請求項1記載のフレキシブル太陽電池モジュール。
【請求項3】
シラン変性フッ素樹脂は、フッ素樹脂と重合性官能基を有するシラン化合物とを溶融混練した後、電離性放射線を照射する方法により製造したものであることを特徴とする請求項1記載のフレキシブル太陽電池モジュール。
【請求項4】
重合性官能基を有するシラン化合物の重合性官能基は、ビニル基であることを特徴とする請求項2又は3記載のフレキシブル太陽電池モジュール。
【請求項5】
接着封止層は、無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂とシラン化合物とを含有することを特徴とする請求項1、2、3又は4記載のフレキシブル太陽電池モジュール。
【請求項6】
接着封止層は、シラン変性オレフィン樹脂を含有することを特徴とする請求項1、2、3又は4記載のフレキシブル太陽電池モジュール。
【請求項7】
無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂は、オレフィン系樹脂が無水マレイン酸でグラフト変性された樹脂であり、かつ、無水マレイン酸の総含有量が0.005〜3重量%であることを特徴とする請求項5記載のフレキシブル太陽電池モジュール。
【請求項8】
シラン化合物は、下記一般式(I)で表されるエポキシシラン化合物であることを特徴とする請求項5記載のフレキシブル太陽電池モジュール。
【化1】

式(I)中、Rは、3−グリシドキシプロピル基又は2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基を示し、Rは、炭素数が1〜3であるアルキル基を示し、Rは、炭素数が1〜3であるアルキル基を示し、nは0又は1である。
【請求項9】
シラン変性フッ素樹脂を含有する保護層と、シラン化合物を含有する接着封止層とが積層されていることを特徴とする太陽電池保護シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−58634(P2013−58634A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196414(P2011−196414)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】