説明

フレーク状氷の製造装置

【課題】 フレーク状氷内に磁性流体の有害成分が含ませず、磁性流体への付与する磁力を制御することによって連続的かつ効率的にフレーク状氷を生成し、小型で持ち運びも可能にするフレーク状氷の製造装置を提供すること。
【解決手段】 水溶液を貯留する貯留槽2と、この貯留槽2の内壁21,22において前記水溶液に接してフレーク状氷Fを生成する氷生成面31を備え、この氷生成面31の裏側に空隙32を隔てて磁性流体層33を備えている冷却部3と、前記磁性流体層33を冷却する冷却手段4と、この冷却手段4によって冷却された前記磁性流体層33に磁力を付与または停止することにより前記氷生成面31の裏側に前記磁性流体層33を接触させる磁力制御手段5とを有し、磁力制御によって前記磁性流体層33を氷生成面31の裏面に接触または離間させてフレーク状氷Fを連続的に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生鮮食品の冷却や潜熱蓄熱システム等で使用されるリキッドアイスの素となるフレーク状氷の製造装置に関し、特に、磁性流体を冷熱伝達媒体として利用することにより冷熱供給タイミングを制御し、フレーク状氷の生成と剥離のタイミングを制御可能とするフレーク状氷の製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、リキッドアイスの連続的製造方法やフレーク状氷の製造装置がいくつか提案されている。例えば、特開2000−140824号公報や特開平9−42811号公報には、冷却ドラム内に薄片氷を生成し、この薄片氷を螺旋状の掻取刃や回転ブレード等を用いて削り取る構造の製氷機が記載されている(特許文献1,特許文献2)。また、特開平10−170111号公報には、熱伝導率が低く、接触面が滑らかな冷却層を用いて不凍剤を含んだ水溶液によって接触面に発生した氷結晶を浮力によって自然に冷却層から離脱させる製氷装置が記載されている(特許文献3)。
【0003】
一方、本発明者は、実験室レベルではあるが、氷生成面上に磁性流体を敷設し、この磁性流体に接触する水を直接冷却することでフレーク状氷を生成し、磁性流体を振動させることで生成したフレーク状氷を剥離させる技術を提案している。
【0004】
【特許文献1】特開2000−140824号公報
【特許文献2】特開平9−42811号公報
【特許文献3】特開平10−170111号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載された発明においては、ドラム内に製造された薄片氷を剥ぎ取るための動力や螺旋状の掻取刃、回転ブレードを回転させる動力が必要である。また、製氷効率を高めるために大型円形ドラムを使用しているが、製氷のための供給冷熱損失が大きくなってしまうという問題を有している。
【0006】
また、特許文献3に記載された発明においては、冷却接触面に氷結晶を上方向へ三次元的に成長させて浮力を大きくし、この浮力を利用して冷却接触面から自然に剥離させる仕組みである。このため、冷却部の近傍に不凍剤からなる過冷却層を形成する必要がある。また、氷と冷却接触面との摩擦を小さくして離脱しやすくするために、熱伝導率の小さな氷生成面を使用し、氷結晶が冷却接触面の横方向ではなく、上方向へ成長させるようになっている。いわば敢えて熱伝導率を悪くしてロスを設けていることになる。したがって、冷熱供給熱流束を大きくすることができず、非効率的であるし、氷の生成速度も遅い。もちろん浮力に任せる自然剥離であるから、フレーク状氷の大きさや生成速度などを能動的に制御することはできない。
【0007】
一方、磁性流体を用いた製氷方法は、磁性流体に氷を直接接触させて生成するためフレーク状氷内に磁性流体成分の有害物質が含まれてしまう。したがって、生鮮食品に使用することはできないし、蓄熱システムに使用する場合にも環境対策が必要となり、実用的ではない。また、磁性流体がフレーク状氷の製造に奪われて減少してしまうため逐次補充しなければならず手間がかかる。
【0008】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、フレーク状氷内に磁性流体の有害成分が含まれないようにしつつ、冷熱供給タイミングを磁性流体への磁力付与により制御することによって連続的かつ効率的にフレーク状氷を生成するとともに、小型で持ち運びも可能にできるフレーク状氷の製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るフレーク状氷の製造装置の特徴は、所定の水溶液を貯留する貯留槽と、この貯留槽の内壁において前記水溶液に接してフレーク状氷を生成する氷生成面を備えているとともに、この氷生成面の裏側に空隙を隔てて磁性流体層を備えている冷却部と、前記磁性流体層を冷却する冷却手段と、この冷却手段によって冷却された前記磁性流体層に磁力を付与または停止することにより前記氷生成面の裏側に前記磁性流体層を接触させる磁力制御手段とを有する点にある。
【0010】
また、本発明において、前記氷生成面は、熱伝導率が大きく、かつ、滑らかな面に形成することが好ましく、これにより氷の生成と剥離を制御しやすく効率的に製造することができる。
【0011】
さらに、本発明において、前記磁力制御手段による磁力の付与と停止との切り換え制御によって、前記氷生成面の裏面に対する前記磁性流体層の接触状態と離間状態とを切り換え、前記氷生成面に生成されるフレーク状氷の生成と剥離とを選択的に行うことができる。
【0012】
また、本発明において、前記冷却部を前記貯留槽の底壁部に設けて前記氷生成面の下方に前記磁性流体層を配置し、この磁性流体層の下方から前記磁力制御手段によって磁力による斥力を付与することにより、前記磁性流体層を隆起させて前記氷生成面の裏側に接触させてその氷生成面にフレーク状氷を生成するとともに、前記磁力の付与を停止することによって前記磁性流体層を前記氷生成面の裏面から離間させてその氷生成面からフレーク状氷を剥離させるようにしてもよい。
【0013】
さらに、本発明において、前記冷却部を前記貯留槽の側壁部に設けて前記氷生成面の外側に前記磁性流体層を配置し、前記磁力制御手段による磁力の付与を停止することにより前記磁性流体層を前記氷生成面の裏面に接触させてその氷生成面にフレーク状氷を生成するとともに、前記磁力制御手段によって側方から磁力による引力を付与することにより、前記磁性流体層を前記氷生成面の裏面から離間させてその氷生成面からフレーク状氷を剥離させるようにしてもよい。
【0014】
また、本発明において、前記磁力制御手段は、前記磁性流体層に対する磁力の付与と停止とを所定の周期をもって繰り返すことによって前記氷生成面におけるフレーク状氷を連続的に生成するようにすれば、リキッドアイスを供給し続けることができて実用性がより高められる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、以下のような効果を奏することができる。
1.冷熱供給タイミングを磁性流体への磁力付与により制御できるため、連続的なフレーク状氷の生成が可能となる。
2.フレーク状氷の原料である水溶液に磁性流体が直接接触しないのでフレーク状氷内に磁性流体の有害成分が含まれることがなく、実用的である。
3.従来、氷生成面に熱伝導率の小さな材料を使用することで冷熱供給熱流束の大きさを制限し、厚い氷層が生成される前に浮力によって受動的(自然的に)にフレーク状氷を剥離させる仕組みが取られていたが、本発明では冷熱供給タイミングを能動的に制御するため、冷熱供給熱流束を大きくすることができ、フレーク状氷を迅速にかつ連続的に生成し、効率的に製造できる。
4.小型化および省電力化が実現されるため、携帯して長時間の運搬が可能となり、生鮮食品の保冷技術はもちろんのこと、移植用臓器の運搬等のような医療分野への応用も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係るフレーク状氷の製造装置1Aの第1実施形態について図面を用いて説明する。図1は、第1実施形態のフレーク状氷の製造装置1Aを示す全体模式図である。
【0017】
図1に示すように、第1実施形態のフレーク状氷の製造装置1Aは、フレーク状氷Fの原料となる水溶液を貯留する貯留槽2と、この貯留槽2の底壁部21から水溶液を冷却するための冷却部3と、この冷却部3内に形成された磁性流体層33を冷却する冷却手段4と、磁性流体層33に磁力を付与または停止する磁力制御手段5とを有している。
【0018】
貯留槽2は、断熱性の高い材料により形成されており、その内部には、所定の水溶液が貯留されている。貯留する水溶液は、水道水や塩水等のように、冷却されてフレーク状氷Fを生成するものであればよいが、氷結温度が低いほど省電力化が図れる。
【0019】
冷却部3は、貯留槽2の底壁部21の中央部に設けられている。もちろん必要に応じて底壁部21全面を冷却部3に形成してもよいし、底壁部21を区分けして複数の冷却部3を配置してもよい。冷却部3は、水溶液に接してフレーク状氷Fを生成する氷生成面31と、この氷生成面31の下方に空隙32を隔てて配置される磁性流体層33とから構成されている。前記空隙32は空気層であるが、アルゴン等の他の特別な気体層であってもよいし、条件次第では磁性流体よりも比重の小さい液体層であってもよい。また、氷生成面31は、フレーク状氷Fの生成と剥離を迅速かつ効率的に行うために、熱伝導率が大きく、かつ、水溶液との接触面が滑らかな薄板によって形成されていることが好ましく、本第1実施形態では、ステンレス製の薄板を用いている。また、図1に示すように、磁性流体層33は、氷生成面31と同種同形状のステンレス製の底板34により保持されており、氷生成面31との間に空隙32を形成する。空隙32の厚さや磁性流体層33の量などは、フレーク状氷Fを効果的に生成し、剥離させる条件、冷却対象などに合わせて任意に決定される。
【0020】
また、磁性流体層33は、磁性微粒子を所定の溶媒に分散させた磁性流体により構成されており、磁性体としての性質と液体の性質とを兼ね備えている。したがって、磁性流体に磁力が付与されていない場合、重力に従ってその水面は略水平な状態を保持する一方、磁力による斥力や引力が付与されると、その磁力によって形態が変化する。本第1実施形態では、磁性流体層33が下方からの斥力により中心部が隆起し底板34の裏面に接触するようになっている。なお、磁性流体としては、イソパラフィン系マグネタイトやアルキルナフタリン系マグネタイト等を使用することができる。
【0021】
冷却手段4は、磁性流体層33を冷却するために前記冷却部3の底板34と接触するように供給される冷却ブライン41と、この冷却ブライン41を流入するためのブライン流入漕42と、冷却ブライン41を冷却するための冷却機43と、この冷却機43とブライン流入漕42との間で冷却ブライン41を循環させる循環ポンプ44とから構成されている。冷却ブライン41は、不凍液により構成されており、冷却機43によって水溶液の氷結温度よりも低温に冷却されている。ブライン流入漕42は、貯留槽2の下方に設けられており、循環ポンプ44により流動される冷却ブライン41が循環パイプ45を介して流入するようになっている。なお、本第1実施形態では、冷却ブライン41としてエチレングリコールを使用している。
【0022】
磁力制御手段5は、底板34の下方に設けられており、通電されたときだけ磁力を発生する電磁石51と、この電磁石51に通電するための電磁石電源52とから構成されている。そして、本第1実施形態において、磁力制御手段5は、磁性流体層33に対して斥力を付与する磁力を発生させるようになっている。したがって、電磁石電源52をオンにして電磁石51に通電すると磁力が発生するため、この磁力による斥力によって磁性流体層33が隆起して氷生成面31の裏面に接触する。つまり、電磁石電源52のオン/オフを切り換え制御することで、氷生成面31の裏面に対する磁性流体層33の接触状態と離間状態とを切り換えられるようになっている。
【0023】
つぎに、本第1実施形態におけるフレーク状氷の製造装置1Aによる作用を説明する。
【0024】
まず、本第1実施形態のフレーク状氷の製造装置1Aによって、フレーク状氷Fを製造する場合、貯留槽2に所定の水溶液を貯留しておく。サンマなどの鮮魚をリキッドアイスによって保冷する場合などは海水に近い塩水を水溶液として貯留することになる。そして、冷却機43により充分に冷却された冷却ブライン41を循環ポンプ44によってブライン流入漕42へと流入させる。これにより、冷却ブライン41が底板34を介して磁性流体層33を冷却するため、この磁性流体層33は水溶液の氷結温度よりも低い温度にまで冷却される。
【0025】
図示しない温度センサにより、磁性流体層33が適当な温度にまで冷却されたことを確認した後、電磁石電源52をオンにして通電する。これにより、電磁石51は磁力を発生し、底板34を挟んで上方に保持された磁性流体層33に磁力による斥力を付与する。このため、図2(a)に示すように、磁性流体層33は、磁力による斥力を受けて隆起し氷生成面31の裏面に接触する。そして、氷生成面31は、裏面に接触した磁性流体層33から冷熱が供給されるため、その氷生成面31に接触している水溶液を氷結させる。このとき、氷生成面31として熱伝導率が大きい薄板を使用しているため、氷生成面31に沿って氷結晶が成長し、迅速にフレーク状氷Fが生成される。
【0026】
その後、図2(b)に示すように、所望の形状よりもやや大きめのフレーク状氷Fが形成されたところで、電磁石電源52をオフにして通電を停止する。これにより、電磁石51への通電が遮断されて磁力が消滅するため、図2(c)に示すように、磁性流体層33は重力により下方へ移動して氷生成面31の裏面から離間する。磁性流体層33が離間すると、氷生成面31は水溶液や空隙32の空気層から熱を吸収し、フレーク状氷Fとの接触面を融解する。これにより氷生成面31に対するフレーク状氷Fの固着力が弱まって、この固着力に浮力が勝ったとき、フレーク状氷Fは前記氷生成面31から剥離し、水溶液の浮力によって水面へと浮上する。このとき、氷生成面31は、熱伝導率が大きい薄板により形成されているため融解熱を周囲から素早く効率的に吸収することができる。また、氷生成面31は滑らかな面に形成されており、引っ掛かる部分が少ないため氷結による固着力が弱く、接触面がわずかに融解するだけでもフレーク状氷Fが剥離しやすくなる。
【0027】
以上のように、磁力制御手段5によって磁力の発生と停止とを能動的に切り換えることにより、磁性流体層33が氷生成面31の裏面に接触する状態と離間する状態とに切り換わるため、氷生成面31に生成されるフレーク状氷Fの生成と剥離のタイミングを選択的に制御できるようになっている。したがって、フレーク状氷Fが所望の大きさに成長するまでの間、磁力を発生させ続けるとともに、フレーク状氷Fが氷生成面31から剥離するまでの間、磁力を停止させるという一連の処理を1周期とし、この周期をもって、磁力制御手段5による磁力の発生と停止とを繰り返すことにより、所望の大きさのフレーク状氷Fを連続的に生成し続けることができる。
【0028】
また、フレーク状氷Fは、磁性流体層33に直接接触することがないため、前記フレーク状氷Fの内部に磁性流体の有害成分が含まれることもなく、人体に摂取されるような生鮮食品の保冷等に使用しても安全である。
【0029】
さらに、熱伝導率の高い氷生成面31を使用するため、従来に比べて格段に大きな冷熱供給熱流束を供給することができ、フレーク状氷Fを迅速に生成させられるし、逆に水溶液や空隙32からの熱を吸収しやすいため、冷熱供給を遮断すると短時間でフレーク状氷Fの接着面を融解する。このため、フレーク状氷Fを迅速かつ連続的に供給することができる。
【0030】
また、上記のように単位時間あたりのフレーク状氷Fの供給量が大きく、効率的な熱供給が可能であるため、従来のものと比較して消費電力量を抑制できるメリットもある。
【0031】
つぎに、本発明に係るフレーク状氷の製造装置1Bの第2実施形態について図面を用いて説明する。図3は、第2実施形態のフレーク状氷の製造装置1Bを示す全体模式図である。なお、本第2実施形態の構成のうち、上述した第1実施形態の構成と同一若しくは相当する構成については同一の符号を付して再度の説明を省略する。
【0032】
本第2実施形態の特徴は、図3に示すように、冷却手段4として、熱電冷却素子46と、この熱電冷却素子46に通電を行う熱電素子電源47を使用している点にある。熱電冷却素子46は、電流を流すことにより一方の面が吸熱を行う冷却面として作用するとともに、他方の面が放熱を行う加熱面として作用するものである。したがって、前記冷却面が底板34と接触するように熱電冷却素子46を設け、熱電素子電源47によって通電することにより、磁性流体層33を冷却するようになっている。なお、本第2実施形態では、熱電冷却素子46として、ペルチェ素子を使用している。また、熱電素子電源47は、電磁石電源52と兼用するようにしてもよい。
【0033】
本第2実施形態のフレーク状氷の製造装置1Bにより、フレーク状氷Fを製造する場合、熱電素子電源47から熱電冷却素子46へと電流を流し、磁性流体層33が水溶液の氷点よりも低くなるまで充分に冷却する。そして、第1実施形態と同様に、磁力制御手段5によって磁力の発生と停止とを能動的に切り換えることにより、磁性流体層33が氷生成面31の裏面に接触する状態と離間する状態とを切り換え、氷生成面31に生成されるフレーク状氷Fの生成と剥離とを選択的に制御する。
【0034】
以上のような本第2実施形態によれば、冷却機43や循環ポンプ44等のような携行しにくい機器を使用することなく、磁性流体層33を冷却することができるため、これらの駆動用電力が不要となって省電力化できるとともに、装置全体をより小型化することができる。したがって、生鮮食品を運送する場合の保冷に適用できる他、臓器等を輸送する際の運搬装置として実用化することができる。この場合、臓器輸送に使用されるクーラーバックに比べて、長時間に渡って安定的に保冷することができることから、より長距離の輸送にも適している。
【0035】
つぎに、本発明に係るフレーク状氷の製造装置1Cの第3実施形態について図面を用いて説明する。図4は、第3実施形態のフレーク状氷の製造装置1Cを示す全体模式図である。なお、本第3実施形態の構成のうち、上述した第1実施形態および第2実施形態の構成と同一若しくは相当する構成については同一の符号を付して再度の説明を省略する。
【0036】
本第3実施形態の特徴は、図4に示すように、冷却部3を貯留槽2の側壁部22に設けている点にある。そして、冷却部3の配置位置に合わせて、冷却手段4および磁力制御手段5も側壁部22の外側に配置されている。本第3実施形態において、磁力制御手段5は、磁性流体層33との間に引力が生じるような磁力を発生させるようになっている。したがって、磁性流体層33に磁力が付与されていない場合は、図4に示すように、重力によって氷生成面31と底板34の双方に接触した状態を保持する一方、磁力による引力が付与されると、磁性流体が底板34側に引き付けられるため、氷生成面31との間に空隙32による空気層が形成されるようになっている。
【0037】
本第3実施形態のフレーク状氷の製造装置1Cにより、フレーク状氷Fを製造する場合、冷却手段4によって磁性流体層33を水溶液の氷点よりも低くなるまで充分に冷却する。そして、フレーク状氷Fを生成する場合、磁力制御手段5を制御して磁力の発生を停止する。これにより、図5(a)に示すように、磁性流体層33が重力によって冷却部3の下方に移動して溜まり、その横面が氷生成面31の裏面に接触するため、氷生成面31が冷却されて表面で水溶液が氷結する。一方、生成したフレーク状氷Fを剥離する場合、磁力制御手段5を制御して磁力による引力を付与すると、図5(b)に示すように、磁性流体層33が引力により底板(側板)34に引き付けられて氷生成面31の裏面から離間する。これにより、氷生成面31が水溶液や空隙32から熱を吸収し、フレーク状氷Fの固着部分を融解する。そして、フレーク状氷Fの固着力よりも浮力が勝ると、前記フレーク状氷Fは氷生成面31から離脱し、浮力によって水面に供給される。
【0038】
以上のような本第3実施形態によれば、前述した実施形態1および実施形態2の効果に加えて、側壁部22にも冷却部3を配置することができる。この場合、条件にもよるが、側壁部22に生成されたフレーク状氷Fの方が浮力によって固着状態から剥離しやすいことが考えられる。また、磁性流体層33を引き付けるための磁力がどの程度必要かにもよるが、フレーク状氷Fの生成時間に比べて剥離時間が相当に短ければ、冷却部3を側壁部22に設ける方がトータル的な消費電力量を低減できる場合もある。
【実施例】
【0039】
つぎに、上記第1実施形態のフレーク状氷の製造装置1Aを使って実際にフレーク状氷Fを生成し、磁性流体温度の違いに対するフレーク状氷Fの大きさおよびその生成時間、剥離時間を測定する実験を行った。
【0040】
実験条件は、水溶液として2重量%の塩化ナトリウム水溶液を使用し、磁性流体層33にはイソパラフィン系マグネタイトを使用した。磁性流体層33は、冷却ブライン41によって−8℃、−10℃、および−15℃に冷却したものを使用し、これに磁力を付与して氷生成面3の裏面に30秒接触させた後、磁力の付与を停止して氷生成面3の裏面から離間させた。これら一連の処理においてフレーク状氷Fの直径を測定するとともに、離脱点の時間を測定した。なお、フレーク状氷Fは円形状に成長するものではないため、その直径はある程度、疑似的な円形として測定している。
【0041】
図6は、本実施例の結果を示すものであり、磁性流体層33の各温度において経過時間に対するフレーク状氷Fの直径の関係を示すグラフである。図6に示すように、磁性流体層33が−8℃の場合、フレーク状氷Fが氷結し始めてから30秒後には、直径が約23mmにまで成長していた。その後、磁力の付与を停止すると、約8秒後にフレーク状氷Fが氷生成面31から離脱した。離脱時の直径は約21mmであった。つぎに、磁性流体層33が−10℃の場合、フレーク状氷Fが氷結し始めてから30秒後に直径が約27mmにまで成長していた。その後、磁力の付与を停止すると、約9秒後にフレーク状氷Fが氷生成面31から離脱した。離脱時の直径は約25mmに減少していた。また、磁性流体層33が−15℃の場合、フレーク状氷Fが氷結し始めてから30秒後に直径が約33mmにまで成長していた。その後、磁力の付与を停止すると、約14秒後にフレーク状氷Fが氷生成面31から離脱した。離脱時の直径は約31mmに減少していた。離脱時に直径が減少するのはフレーク状氷Fがわずかに融解してから浮上していることと、浮上中にもわずかに水溶液から熱を吸収していることによるものと考えられる。
【0042】
以上の結果より、フレーク状氷Fの直径は時間経過に対して直線的に成長することがわかる。この場合、磁性流体層33が低温であるほど、フレーク状氷Fの成長速度が早まりことがわかる。また、生成されたフレーク状氷Fが大きいほど剥離するまでの時間がかかる。このようにフレーク状氷Fの大きさおよび離脱に要する時間は、磁性流体層33の温度と冷却時間に比例するため、任意に必要なフレーク状氷Fを連続的に生成し、供給することが可能となる。つまり、供給したいフレーク状氷Fの大きさが決まれば、それに合わせて磁性流体層33の温度と冷却時間が決定するため、これに必要な冷却温度と磁力の付与および停止の制御周期を設定すれば、所望のフレーク状氷Fを連続的かつ継続的に供給することができる。
【0043】
なお、本発明に係るフレーク状氷の製造装置は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0044】
例えば、上述した実施形態では、フレーク状氷Fの生成と剥離のタイミング制御を電磁石51への通電制御により行っていたが、これに限るものではなく、機械的に磁石を磁性流体層33に対して近接と離間とを繰り返す構成にしてもよい。例えば、正逆回転制御可能なピニオンと噛合するラックの先端に磁石を固定し、ピニオンを回転させることで磁石を磁性流層33に対して往復運動させるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係るフレーク状氷の製造装置の第1実施形態を示す図である。
【図2】第1実施形態のフレーク状氷の製造装置において、(a)フレーク状氷を生成する場合、(b)フレーク状氷が所望の大きさに成長した場合、および(c)フレーク状氷を剥離する場合の状態を示す図である。
【図3】本発明に係るフレーク状氷の製造装置の第2実施形態を示す図である。
【図4】本発明に係るフレーク状氷の製造装置の第3実施形態を示す図である。
【図5】第3実施形態のフレーク状氷の製造装置において、(a)フレーク状氷を生成する場合(b)フレーク状氷を剥離する場合の状態を示す図である。
【図6】本実施例において、磁性流体層の冷却温度を変化させた場合における経過時間に対するフレーク状氷の直径の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0046】
1A,1B,1C フレーク状氷の製造装置
2 貯留槽
3 冷却部
4 冷却手段
5 磁力制御手段
21 底壁部
22 側壁部
31 氷生成面
32 空隙(空気層)
33 磁性流体層
34 底板(側板)
41 冷却ブライン
42 ブライン流入漕
43 冷却機
44 循環ポンプ
45 循環パイプ
46 熱電冷却素子
47 熱電素子電源
51 電磁石
52 電磁石電源
F フレーク状氷

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の水溶液を貯留する貯留槽と、
この貯留槽の内壁において前記水溶液に接してフレーク状氷を生成する氷生成面を備えているとともに、この氷生成面の裏側に空隙を隔てて磁性流体層を備えている冷却部と、
前記磁性流体層を冷却する冷却手段と、
この冷却手段によって冷却された前記磁性流体層に磁力を付与または停止することにより前記氷生成面の裏側に前記磁性流体層を接触させる磁力制御手段と
を有することを特徴とするフレーク状氷の製造装置。
【請求項2】
請求項1において、前記氷生成面は、熱伝導率が大きく、かつ、滑らかな面であることを特徴とするフレーク状氷の製造装置。
【請求項3】
請求項1において、前記磁力制御手段による磁力の付与と停止との切り換え制御によって、前記氷生成面の裏面に対する前記磁性流体層の接触状態と離間状態とを切り換え、前記氷生成面に生成されるフレーク状氷の生成と剥離とを選択的に行うことを特徴とするフレーク状氷の製造装置。
【請求項4】
請求項1において、前記冷却部を前記貯留槽の底壁部に設けて前記氷生成面の下方に前記磁性流体層を配置し、この磁性流体層の下方から前記磁力制御手段によって磁力による斥力を付与することにより、前記磁性流体層を隆起させて前記氷生成面の裏側に接触させてその氷生成面にフレーク状氷を生成するとともに、前記磁力の付与を停止することによって前記磁性流体層を前記氷生成面の裏面から離間させてその氷生成面からフレーク状氷を剥離させることを特徴とするフレーク状氷の製造装置。
【請求項5】
請求項1において、前記冷却部を前記貯留槽の側壁部に設けて前記氷生成面の外側に前記磁性流体層を配置し、前記磁力制御手段による磁力の付与を停止することにより前記磁性流体層を前記氷生成面の裏面に接触させてその氷生成面にフレーク状氷を生成するとともに、前記磁力制御手段によって側方から磁力による引力を付与することにより、前記磁性流体層を前記氷生成面の裏面から離間させてその氷生成面からフレーク状氷を剥離させることを特徴とするフレーク状氷の製造装置。
【請求項6】
請求項1において、前記磁力制御手段は、前記磁性流体層に対する磁力の付与と停止とを所定の周期をもって繰り返すことによって前記氷生成面におけるフレーク状氷を連続的に生成することを特徴とするフレーク状氷の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−177635(P2006−177635A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−373257(P2004−373257)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)