説明

フロアカーペット

【課題】フロアカーペットと、フロアパネルもしくはタイヤ空洞共鳴との間で発生する連成による共振をより有効に抑制する。
【解決手段】車体フロア4の上に敷くフロアカーペットであって、表皮層1の下側に、上側から、面密度が大きい質量層2と弾性体からなる弾性層3とが積層されて一体に成形され、上記弾性層3の下面が車体フロアに接するように配置されるフロアカーペットである。上記質量層2と弾性層3の組合せからなる積層部X、Yを、2組以上用意して、その各組を上記表皮層1の下側に沿って分散配置すると共に、各積層部X、Yの質量層2の質量および弾性層3の弾性の少なくとも一方を相互に異ならせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体フロアに敷くフロアカーペットに関する。
【背景技術】
【0002】
車体フロアに敷くフロアカーペットとしては、例えば特許文献1に記載のカーペットがある。このフロアカーペットは、裏面(下面)を構成するクッション層(弾性層)の外側表面に感圧接着剤が塗布されているものである。そして、フロアパネルに接着することで、フロアカーペットとフロアパネルとのとの間で発生する共振を防止し、もって防音効果を改良するものである。
【特許文献1】特開平4−368286号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、発明者らが調査した結果、上記従来例のようにフロアカーペットを車体パネルに接着しても、フロアカーペット自身が持つ固有振動数による振動は防止できず、そのため、タイヤ空洞共鳴との共振を防止できないおそれがあることが分かった。
すなわち、上述のように、フロアパネルとクッション層とを接着しても、クッション層は弾性を持つために変位が自在であることから、クッション層をバネ、カーペット本体をマスとした振動系が残る。そのため、その振動系とフロアパネルとの共振が発生するおそれがある。
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、フロアカーペットとフロアパネルもしくはタイヤ空洞共鳴との間で発生する連成による共振をより有効に抑制することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明は、車体フロアの上に敷くフロアカーペットであって、表皮層の下側に、上側から、面密度が大きい質量層と弾性体からなる弾性層とが積層されて一体に成形され、上記弾性層の下面が車体フロアに接するように配置されるフロアカーペットにおいて、
上記質量層と弾性層の組合せを、2組以上用意して、その各組を上記表皮層の下側に沿って分散配置すると共に、上記各組の質量層の質量および弾性層の弾性の少なくとも一方を相互に異ならせることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、フロアカーペットと、フロアパネルもしくはタイヤ空洞共鳴との間で発生する連成による共振をより有効に抑制する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態のフロアカーペットの断面図である。
本実施形態のフロアカーペットは、図1に示すように、上側から表皮層1、面密度が大きい質量層2、および弾性を持った弾性層3の3層が積層され一体に成形され、弾性層3の下面が車体フロア4に接するように配置されて使用される。
表皮層1の下側に位置する質量層2及び弾性層3からなる積層部は、図1に示すように、左右両側部分の積層部(以下、第1積層部Xと呼ぶ。)と中央部分の積層部(以下、第2積層部Yと呼ぶ。)で異なる。すなわち、表皮層1の下側に沿って、図1中左右方向に交互に第1積層部Xと第2積層部Yとが分散配置されている。
【0007】
第1積層部Xと第2積層部Yとの関係は、全体の厚さは等しいが、相対的に、第1積層部Xの質量層2の厚さt1を第2積層部Yの質量層2の厚さt2よりも厚くし、第1積層部Xの弾性層3の厚さを第2積層部Yの弾性層3の厚さよりも薄くすることで、第1積層部Xの固有振動数と第2積層部Yの固有振動数とを異ならせている。この結果、2種類の固有振動周波数(=固有振動数)を平面上に分散して有する構造となり、一方の積層部の固有振動数が車体フロア4の固有振動数もしくはタイヤ空洞共鳴周波数Tと一致した場合でも、他方の積層部の固有振動数は車体フロア4の固有振動数もしくはタイヤ空洞共鳴周波数Tと一致しないことで、エネルギーが分散されて、車体フロア4もしくはタイヤ空洞共鳴周波数Tとの共振時の振動レベルを小さく抑えることができる。
【0008】
また、2つの積層部X、Yの固有振動数の平均の周波数が、タイヤ空洞共鳴で問題となる周波数域(タイヤ共鳴周波数T)と一致するように、各積層部X、Yの質量層2の質量をそれぞれ設定する。これによって、フロアカーペットの固有振動数とタイヤ空洞共鳴周波数Tとの連成を効率よく避けることができる。
【0009】
また、一方の積層部の固有振動数f1が、タイヤ空洞共鳴周波数Tの1/(√2)以下となるように設定すると共に、他方の積層部の固有振動数f2が、タイヤ空洞共鳴周波数Tの(√2)以上となるように設定する。タイヤ空洞共鳴周波数域は、その振動周波数の1/(√2)以下と(√2)以上の周波数領域では、その振幅が減衰する防振領域となる(図2参照)。そのタイヤ空洞共鳴周波数域の防振領域の周波数に、各積層部X、Yの固有振動数f1,f2があるように設定すると、フロアカーペットの固有振動とタイヤ空洞共鳴との連成を回避することができる。この結果、タイヤ空洞共鳴とフロアカーペットの共振を回避できて、振動レベルを低減することができる。
【0010】
このような周波数帯(1/(√2)以下と(√2)以上の周波数領域)に設定するためには、例えば次のように設定すれば良い。
すなわち、各積層部X、Yにおける、質量層2をマス、その下の弾性層3をバネとする共振を、タイヤの空洞共鳴周波数(T)と連成しない任意の周波数に変更するために、フロアの各パネル面積の1/2づつに、つまり第1積層部Xと第2積層部Yの面積が等しくなるように分散配置する。図1では、左右の第1積層部Xの幅を合わせた長さ(A1+A2)と中央の第2積層部Yの幅(B)とが等しくなるように設定する。また、第2積層部Yの質量層2の質量に対し、第1積層部Xの質量層2の質量が4倍以上となるように形成する。図1では、第1積層部Xの質量層2と第2積層部Yの質量層2とを同一の材質で構成すると共に、第1積層部Xの質量層2の厚さt1を、第2積層部Yの質量層2の厚さt2の4倍以上となるように設定することで実現している。
【0011】
従来のカーペットは質量層が均一な厚さで、かつそのマス効果による遮音性能のみに対応させていた。ただしその場合、カーペットの下の弾性層をバネ、質量層をマスとした共振がタイヤ空洞共鳴域で発生し、その領域の車体感度を悪化させ、タイヤ空洞共鳴音が問題となるケースがある。またタイヤ空洞共鳴は単純な一自由度系の振動問題である為、その周波数との共振を防止することは容易である。
【0012】
上述のように、カーペットの質量層2が均一素材の場合に、2つの積層部X、Yの厚さを図1のように異なる厚さでかつその関係が1:4以上で形成させており、またその面積比が等しくなるように配置された質量分布を持った構造である。これにより、タイヤ空洞共鳴で問題となる周波数域Tに対し、その共振が0.7T以下、1.4T以上で構成されることで、十分に共振周波数域から離れ、連成を防ぐ事ができる。
【0013】
ここで、第1積層部Xについて、固有振動数をf1,質量層2の厚さをt1,質量をM1とし、第2積層部Yについて、固有振動数をf2,質量層2の厚さをt2,質量をM2とすると、次のような式で表すことができる。なお、t1:t2=4:1,カーペットの紙面直交方向の長さをLとする。
f2=(1/2π)√(K/M2)
f1=(1/2π)√(K/M1)
また、M1=(A1+A2)×L×t2×ρ(:ρは密度)
=B×L×4×t1×ρ=4×M2である。
【0014】
したがって、f1=(1/2π)√(K/(4×M2))=(1/2)×f2となる。
このように、上記構成を採用することで、第1積層部Xの固有振動数f1は、第2積層部Yの固有振動数f2の1/2に設定できることから、その平均値をタイヤ空洞共鳴で問題となる周波数域Tとなるように設定することで、両積層部X、Yの固有振動数を、1/(√2)以下と(√2)以上に設定される。例えば、第1積層部Xの固有振動数f1を0.71×Tにすれば、第2積層部Yの固有振動数f2は、1.4Tに設定される。
【0015】
さらに、上記効果について、補足説明する。
タイヤ空洞共鳴に伴うサスペンションからの振動入力によるカーペット表皮の振動Xt、カーペット自体の振動Xc、任意の周波数ωによる振動入力をX0とし、タイヤ空洞共鳴周波数Tに対する任意の周波数比(ω/T)を横軸、振動入力X0に対する各振動の比を(X/X0)を縦軸に表したものを図3に示す。
【0016】
一般的に共振周波数域の振動倍率は、入力振幅に対しその構造物の持つ減衰率にもよるが一般的には数倍の振幅となる。仮にタイヤの空洞共鳴周波数領域(図3中横軸ω/T=1)、具体的には0.7T(=1/(√2・T)〜1.4T(=√2・T)の周波数域にカーペットの共振があると、タイヤ空洞共鳴と連成し合い、その表面のトータルの振幅レベルはその共振どうしが連成した分の振幅レベルに増大する。
【0017】
カーペット表皮でその現象が発生した場合、そのまま車室内の空気の体積変化を発生させ、その連成周波数域で音として人間の耳に聞こえる。
上記連成を防止する為には、タイヤサイズとタイヤ内空気温度で一義的に決まるタイヤ空洞共鳴周波数Tに対し、完全に連成が外れる0.7T以下もしくは1.4T以上の周波数域にカーペット共振ωcを持っていけばよい。
仮に0.7T以下の領域にカーペット共振を持っていった場合、タイヤ空洞共鳴周波数域はカーペット振動の防振領域(振動倍率が1以下)となり、トータルの振動レベルも連成していたものよりも大幅に低下する(図4参照)。
【0018】
そして、上記のように設定することで、このような効果を得ることができる。
また、上記効果はωcを下げているだけであるが、実際には遮音性能、質量条件から一義的な変更は難しい。本実施形態では、カーペット共振を均一材料で決定される一共振周波数だけでなく、タイヤ空洞共鳴周波数Tの0.7T以下、1.4T以上の2つ以上の共振周波数領域に分散させることで、元々のカーペット質量そのままで遮音性能を低下させず、カーペット自体の振動レベルも分散され、より室内空気の加振力も任意の周波数で低下させる事が可能となる。
【0019】
ここで、第2積層部Yの質量層2が薄くなって面密度が下がり、遮音度が悪化するが、通常カーペット下には樹脂製空調ダクトなどがあり、樹脂部品の上の部分で薄板部を形成することで、遮音度低下を防ぐ事が可能である。
また、所定方向に沿って質量層2に断面積差をつけることで、左右方向中央の質量層の厚さが相対的に薄くなることでカーペットを丸める事が容易となり、作業性も向上する。なお、両積層部X、Yの分散配置は上記例に拘らない。
【0020】
なお、単純に断面積差をつけられない場合は、図5のように質量分布を面密度により変更して、第1積層部Xの質量が、第2積層部Yの質量の4倍以上となるように設定することで、同様に共振を防止する事が可能となる。
ここで、上記実施形態では、質量が異なる積層部の種類が2種類の場合を例示しているが、3種類の質量が異なる積層部を分散配置しても良い。この場合でも各積層部の固有振動数を、タイヤ空洞共鳴周波数Tの0.7T以下、1.4T以上となるように設定する。
【0021】
また、上記実施形態では、各積層部の固有振動数をタイヤ共鳴周波数Tの0.7T以下、1.4T以上となるように設定する場合を例示しているが、各積層部の固有振動数を、車体パネルの固有振動数の0.7T以下、1.4T以上として、車体フロアパネルとの共振を低減もしくは抑えるようにしても良い。また、各積層部の固有振動数を、タイヤ空洞共鳴及び車体の固有振動数の両方に対して、0.7T以下、1.4T以上となるように設定しても良い。
【実施例】
【0022】
本発明を適用した場合の効果を図6に示す。
なお、図1においては、表皮層1の材質をナイロンBCF(面密度0.4kg/m2)、質量層2の材質をUBEポリエチレン(面密度4.0kg/m2)、弾性層3は空気層、t1=3.1mm、t2=1.3mm、t3=10mm、厚さt1相当のA1部とA2部を合わせた面積が2.0m2、厚さt2相当のB部の面積が1.3m2としたときに、図6の効果が得られる。
【0023】
また、図5においては、表皮層1の材質をナイロンBCF(面密度0.4kg/m2)、質量層2−1の材質をUBEポリエチレン(面密度4.0kg/m2)、質量層2−2の材質をナイロンBCF(面密度0.4kg/m2)、弾性層3は空気層、t1=2.2mm、t3=10mm、質量層2−1の面積を0.55m2、質量層2−2の面積を2.75m2としたときに、図6の効果が得られる。
【0024】
ある実験車のタイヤの空洞共鳴で発生する音のピーク周波数(200Hz、230Hz付近)については、上記実施形態の構成を適用したカーペットに組替える事により、その音のピークレベルが3〜5dB低減させることが可能となった。
タイヤ空洞共鳴周波数Tについては、タイヤサイズ、及びそのタイヤ内の空気温度により一義的に決定する為、カーペットの各積層部の固有振動数については、単に採用するタイヤサイズ、タイヤ空気温度条件により計算上決定すれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に基づく実施形態に係るフロアカーペットを示す断面図である。
【図2】タイヤ空洞共鳴周波数域とカーペットの固有振動数との関係を示す図である。
【図3】タイヤ空洞共鳴とカーペット自体の共振による表皮の振動例を示す図である。
【図4】タイヤ空洞共鳴とカーペット自体の連成を防止した例を説明する図である。
【図5】本発明に基づく実施形態に係る別のフロアカーペットを示す断面図である
【図6】本発明の効果を説明する図である。
【符号の説明】
【0026】
1 表皮層
2 質量層
3 弾性層
4 車体フロア
X 第1積層部
Y 第2積層部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体フロアの上に敷くフロアカーペットであって、表皮層の下側に、上側から、面密度が大きい質量層と弾性体からなる弾性層とが積層されて一体に成形され、上記弾性層の下面が車体フロアに接するように配置されるフロアカーペットにおいて、
上記質量層と弾性層の組合せを、2組以上用意して、その各組を上記表皮層の下側に沿って分散配置すると共に、上記各組の質量層の質量および弾性層の弾性の少なくとも一方を相互に異ならせることを特徴とするフロアカーペット。
【請求項2】
上記分散配置される質量層と弾性層の組合せは、2組であることを特徴とする請求項1に記載したフロアカーペット。
【請求項3】
質量層と弾性層の組合せからなる上記各組の固有振動数の平均値を、車体フロアの固有振動数もしくはタイヤ空洞共鳴周波数に一致させることを特徴とする請求項2に記載したフロアカーペット。
【請求項4】
一方の組の固有振動数を車体フロアの固有振動数の1/(√2)以下に設定し、他方の組の固有振動数を車体フロアの固有振動数の(√2)以上に設定することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載したフロアカーペット。
【請求項5】
一方の組の固有振動数をタイヤ空洞共鳴周波数の1/(√2)以下に設定し、他方の組の固有振動数をタイヤ空洞共鳴周波数の(√2)以上に設定することを特徴とする請求項2〜請求項4のいずれか1項に記載したフロアカーペット。
【請求項6】
2組の質量層と弾性層との組合せは、相対的に、質量層の層厚が厚く且つ弾性層の層厚が薄いものと、質量層の層厚が薄く且つ弾性層の層厚が厚いものであることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載したフロアカーペット。
【請求項7】
2組の質量層と弾性層の組合せは、所定方向に沿って交互に配置されることで分散配置されていることを特徴とする請求項2〜請求項6のいずれか1項に記載したフロアカーペット。
【請求項8】
上記各組の平面展開した際の各組の面積を等しくすると共に厚さも等しくし、且つ一方の組の質量層の厚さを、他方の組の質量層の厚さの4倍以上とすることを特徴とする請求項2〜請求項7のいずれか1項に記載のフロアカーペット。
【請求項9】
各組の弾性層は、面密度を異ならせることで相互の質量を変えることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載したフロアカーペット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−341749(P2006−341749A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−169757(P2005−169757)
【出願日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】